説明

空気入りタイヤ

【課題】タイヤに成型したときに、ブチルゴムゲージのバラツキを低減できる手法、つまり未加硫ゴム特性をコントロールすることで、ブチルゴムゲージの均一性を改善し、耐空気透過性(空気保持性)が良好であるゴム組成物およびそれからなるインナーライナーを有するタイヤを提供する。
【解決手段】ブチルゴムを含む空気入りタイヤ用ゴム組成物の未加硫ゴムの130℃で測定されるムーニー粘度が45以上である空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤであるとともに、仕上がったタイヤのショルダー部のブチルゴムゲージの平均値および標準偏差が、
(ブチルゴムゲージの標準偏差)/(ブチルゴムゲージの平均値)≦0.060
を満たす空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインナーライナーに用いるゴム組成物には耐空気透過性の改善が図られている。
【0003】
従来、タイヤのインナーライナー製造に使用されるゴム組成物(インナーライナー用ゴム組成物)には、空気を透過しにくいブチルゴムや塩素化ブチルゴムなどのブチル系ゴムが用いられている。
【0004】
しかし、耐空気透過性を改善させる目的でブチルゴムゲージを厚くすることが考えられるが、使用するハロゲン化ブチルゴムは高価であるため、大量に用いるとタイヤの生産コストが増大してしまうし、タイヤの軽量化が図れない。また、ブチルゴムゲージを厚くしても仕上がりのゴムゲージのバラツキが大きいと、ゴムゲージが最も薄い部分から空気が抜けてしまう可能性も生じる。
【0005】
特許文献1には、タイヤ製造工程において粘度を低下させることなく、インナーライナーのゴムゲージを薄く保持することでタイヤを軽量化することを目的として、ゴム成分としてハロゲン化ブチルゴムを特定量用い、酸化亜鉛を分割して混練りすることにより得られたインナーライナーに用いることができるゴム組成物が開示されている。しかし、ゴム組成物のムーニー粘度をコントロールし、最もゲージが必要とされる部位に所定のゲージを保持する点については、改善の余地がある。
【0006】
特許文献2には、タイヤ用ゴム組成物製造時における加工性を向上させ、得られたタイヤ用ゴム組成物をインナーライナーに用いることで耐空気透過性および耐亀裂成長性能を維持したタイヤを提供することを目的として、天然ゴムおよび/またはその変性物からなるゴム成分に、シリカ、炭酸カルシウムおよびカーボンブラックを特定量配合したインナーライナーに用いることができるゴム組成物が開示されている。しかし、ムーニー粘度が高すぎて、通常のタイヤに使用できない点については改善の余地がある。
【0007】
特許文献3には、タイヤの転がり抵抗性能を向上させ、加工性を向上させることを目的として、天然ゴムからなるゴム成分、BET比表面積(窒素吸着比表面積)の低いシリカおよびカーボンブラックを含有したインナーライナーに用いることができるゴム組成物が開示されている。しかし、同じくムーニー粘度が高すぎて、通常のタイヤに使用できない点については、改善の余地がある。
【0008】
【特許文献1】特開2005−264114号公報
【特許文献2】特開2006−89526号公報
【特許文献3】特開2006−249147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、タイヤに成型したときに、ブチルゴムゲージのバラツキを低減できる手法、つまり未加硫ゴム特性をコントロールすることで、ブチルゴムゲージの均一性を改善し、耐空気透過性(空気保持性)が良好であるゴム組成物およびそれからなるインナーライナーを有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ブチル系ゴムを含む空気入りタイヤ用ゴム組成物の未加硫ゴムの130℃で測定されるムーニー粘度が45以上である空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤであるとともに、仕上がったタイヤのショルダー部のブチルゴムゲージの平均値および標準偏差が、
(ブチルゴムゲージの標準偏差)/(ブチルゴムゲージの平均値)≦0.060
を満たす空気入りタイヤに関する。
【0011】
空気入りタイヤ用ゴム組成物のゴム成分は、ハロゲン化ブチルゴムの含有量が80重量%以上であり天然ゴムの含有量が20重量%以下であることが好ましい。
【0012】
空気入りタイヤ用ゴム組成物のゴム成分は、ハロゲン化ブチルゴムの含有量が60重量%以上、再生ブチルゴムの含有量が20重量%以下、および天然ゴムの含有量が20重量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブチル系ゴムを含む空気入りタイヤ用ゴム組成物の未加硫ゴムの130℃で測定されるムーニー粘度が45以上であるゴム組成物を用いて、タイヤに成型したときに、ブチルゴムゲージのバラツキを低減できる手法、つまり未加硫ゴム特性をコントロールすることで、ブチルゴムゲージの均一性を改善し、耐空気透過性(空気保持性)が良好であるゴム組成物およびそれからなるインナーライナーを有するタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物は、ブチル系ゴムを含む空気入りタイヤ用ゴム組成物の未加硫ゴムの130℃で測定されるムーニー粘度が45以上であるゴム組成物からなる。
【0015】
本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物に用いるゴム成分としては、ブチル系ゴムを用いることができる。
【0016】
ブチル系ゴムとしては、たとえば、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)などがあげられ、これらのブチル系ゴムはとくに制限はなく、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
また、本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物に用いるゴム成分として、ジエン系ゴムを配合してもよい。
【0018】
ジエン系ゴムとしては、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などがあげられ、これらのジエン系ゴムはとくに制限はなく、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
なかでも、インスレーションとの粘着、共架橋の理由から、ブチル系ゴムとしてはX−IIRを、ジエン系ゴムとしてはNRを用いることが好ましい。
【0020】
耐空気透過性を向上させることができるという理由から、ゴム成分中におけるハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)の含有量は、70〜100重量%が好ましく、75〜100重量%がより好ましく、80〜100重量%がさらに好ましい。また、ブチル系ゴムとNRを併用する場合、タイヤの他の部材(例えばインスレーション等)を構成するゴム成分との接着性を高めるため、ゴム成分中における天然ゴム(NR)の含有量は、30〜0重量%が好ましく、25〜0重量%がより好ましく、20〜0重量%がさらに好ましい。
【0021】
天然ゴム(NR)としては、TSR、RSS♯3などタイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0022】
ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)としては、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、フッ素化ブチルゴム(F−IIR)、ヨウ素化ブチルゴム(I−IIR)などがあげられ、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)が好ましい。
【0023】
塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)としては、エクソン化学(株)製のクロロブチルゴム1068、エクソン化学(株)製のクロロブチルゴム1066、ランクセス(株)製のクロロブチル1240などがあげられる。
【0024】
本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物に用いるゴム成分として、ハロゲン化ブチルゴムおよび天然ゴムに加えて、再生ブチルゴムを用いることができる。
【0025】
本発明で使用する再生ブチルゴムとは、タイヤのチューブやタイヤ製造時に使用するブラダー等のブチルゴムを多く含むゴム製品を原料としこれを粉砕したもの、またはこの粉砕物を、加熱・加圧したものをいい、ゴム成分の架橋結合を切断(脱硫処理)し再加硫可能としたものを含む。一般的に、再生ブチルは50重量%以上のブチルゴムを含む。
【0026】
再生ブチルゴムとしては、たとえば、村岡ゴム(株)製のチューブ再生ゴム、USS東洋(株)製のブラダー再生ゴムなどがあげられる。村岡ゴム(株)製のチューブ再生ゴムは、チューブ用ブチルゴムを加圧条件下で加熱処理して製造された再生ゴムである。USS東洋(株)製のブラダー再生ゴムとは、押し出し機粉砕によって得られるものである。これらの再生ブチルゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明では、資源の再利用の観点から、ゴム成分としてブチル系ゴムおよびNRに加えて再生ブチルゴムを併用することが好ましい。
【0028】
ブチル系ゴムおよびNRに加えて再生ブチルゴムを併用する場合、再生ブチルゴムはハロゲン化されていないブチルゴム(レギュラーブチルゴム)の含有率が高いため、ブチル系ゴムとして、レギュラーブチルゴムと比べて耐空気透過性が高く加硫速度が速いハロゲン化ブチルゴムを用いることが好ましい。ゴム成分中におけるハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)の含有量は、60〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましく、80〜100重量%がさらに好ましい。また、ブチル系ゴムおよびNRに加えて再生ブチルゴムを併用する場合、タイヤの他の部材(例えばインスレーション等)を構成するゴム成分との接着性を高めることができるという理由から、ゴム成分中における天然ゴム(NR)の含有量は、20〜0重量%が好ましく、15〜0重量%がより好ましく、10〜0重量%がさらに好ましい。また、ブチル系ゴムおよびNRに加えて再生ブチルゴムを併用する場合、耐空気透過性および加硫速度を維持するため、ゴム成分中における再生ブチルゴムの含有量は、20〜0重量%が好ましく、15〜0重量%がより好ましく、10〜0重量%がさらに好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物には、前記ゴム成分以外に、従来タイヤ工業で配合される配合剤、たとえば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの補強用充填剤、オイル、粘着付与樹脂(粘着付与レジン)、均質化剤、各種老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0030】
補強用充填剤としてはカーボンブラックまたは炭酸カルシウムを用いることが好ましく、これらの補強用充填剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
カーボンブラックとしては、とくに制限はなく、従来からタイヤ工業で使用されるものを使用することができ、たとえば新日鉄化学(株)製のニテロン55Uなどがある。
【0032】
カーボンブラックの含有量は、ゴム組成物の強度を上げることができるという理由から、ゴム成分100重量部に対して、50〜80重量部が好ましく、60〜70重量部がより好ましい。
【0033】
炭酸カルシウムとしては、とくに制限はなく、従来からタイヤ工業で使用されるものを使用することができ、たとえば常陸大理石(株)製のHTO−12などがある。
【0034】
炭酸カルシウムの含有量は、ゴム組成物の単価を下げることができるという理由から、ゴム成分100重量部に対して、10〜30重量部が好ましく、15〜25重量部がより好ましい。
【0035】
プロセスオイルとしては、具体的にパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどを用いることができ、たとえば出光興産(株)製のダイアナプロセスPA32、株式会社ジャパンエナジー(JOMO)製のプロセス200などがある。これらのプロセスオイルは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
プロセスオイルの含有量は、ゴムの加工性を向上させることができるという理由から、ゴム成分100重量部に対して、5〜30重量部が好ましく、10〜15重量部がより好ましい。
【0037】
本発明では、均質化剤(例えば市販の混合樹脂)を用いることができる。
【0038】
混合樹脂とは、2種以上の樹脂の混合物のことをいう。混合樹脂に使用する樹脂としては、たとえば、フェノール性粘着樹脂、クロマン樹脂、イエデン樹脂、クロマンイエデン樹脂などの芳香族炭化水素系樹脂、C5、C8、C9などの脂肪族炭化水素系樹脂などがあげられ、これらのなかから2種以上を選択して混合したものを使用することができる。なかでも、芳香族炭化水素系樹脂と脂肪族炭化水素系樹脂との組み合わせが好ましく、高分子芳香族炭化水素樹脂と脂肪族炭化水素樹脂との組み合わせがより好ましい。
【0039】
混合樹脂としては、具体的には、ストラクトール社製のストラクトール40MS、ラインケミー社(Rhein Chemie Corp.)のレノジン145A、フローポリマー社(Flow Polymers Inc.)のプロミックス400などがあげられる。
【0040】
混合樹脂の配合量は、ゴムの均質性を向上させ、耐空気透過性を向上させることができるという理由から、ゴム成分100重量部に対して、3〜8重量部が好ましく、4〜6重量部がより好ましい。
【0041】
本発明では、加硫前のゴム成分の粘着性を向上させるため、粘着性樹脂としてフェノール性樹脂を用いることができる。フェノール性粘着樹脂としては、具体的には、スケネクタディ製のSP1068レジンがあげられる。
【0042】
フェノール性粘着樹脂の配合量は、ゴムの粘着性を向上させることができるという理由から、ゴム成分100重量部に対して、1.0〜4.0重量部が好ましく、1.5〜2.5重量部がより好ましい。
【0043】
図1は、本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤにおいて、仕上がったタイヤのショルダー部のブチルゴムゲージを説明する概略部分断面図である。
【0044】
図1では、本発明の空気入りタイヤにおいて、トレッド1、第1ベルト2、第2ベルト3、カーカス4、インナーライナー5、サイドウォール6、クリンチエイペックス7、ビードエイペックス8、ビードコア9の各部材を模式的に示しており、本願で測定するタイヤのショルダー部AのブチルゴムゲージBを示した図である。
【0045】
また、図2は、本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤにおいて、本発明でいうブチルゴムゲージの平均値を計算するときの、タイヤのショルダー部のブチルゲージをタイヤ周上8ヵ所のデータを採取することを説明する概略一部切欠斜視図である。
【0046】
図2では、本発明の空気入りタイヤにおいて、トレッド11、第1ベルト12、第2ベルト13、カーカス14、インナーライナー15の各部材を模式的に示しており、本願で測定するタイヤのショルダー部AのブチルゴムゲージBと、測定箇所(a〜h点)を示した図である。
【0047】
本発明の空気入りタイヤを構成するインナーライナーはブチル系ゴムを配合する空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるので、図1および2に示すように、本発明では空気入りタイヤにおけるインナーライナーの厚さをブチルゴムゲージという。
【0048】
また、本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤにおいて、ブチルゴムゲージ(mm)の平均値を[a]、ブチルゴムゲージの標準偏差(mm)を[b]とすると、仕上がったタイヤのショルダー部のブチルゴムゲージの平均値[a]および標準偏差[b]が、
[b]/[a]≦0.060
を満たすことが必要であり、
[b]/[a]≦0.045
を満たすことがより好ましい。
【0049】
ブチルゴムゲージ(mm)の平均値[a]およびブチルゴムゲージの標準偏差(mm)[b]について、以下(1)〜(4)に詳細に説明する。
【0050】
(1)ブチルゴムゲージ(mm)
本発明でいうブチルゴムゲージとは、空気入りタイヤにおけるインナーライナーの厚さを意味し、通常は、0.25〜1.50mmである。
【0051】
(2)ブチルゴムゲージ(mm)の平均値[a]
本発明でいうブチルゴムゲージ(mm)の平均値[a]とは、タイヤのショルダー部のゲージをタイヤ周上8ヵ所のデータを採取し、その総和をサンプル数(N数)で割った値を意味する。
【0052】
平均値[a]を測定するタイヤの箇所は、タイヤのショルダー部である。
【0053】
(3)ブチルゴムゲージ(mm)の標準偏差[b]
本発明でいうブチルゴムゲージ(mm)の標準偏差[b]とは、個々の測定値を平均値から差し引き、その絶対値を総和し、(測定個数−1)で除した値を意味する。
【0054】
(4)[b]/[a]
本発明でいう(ブチルゴムゲージ(mm)の標準偏差/ブチルゴムゲージ(mm)の平均値)、つまり[b]/[a]とは、ブチルゴムゲージの変動係数であり、ブチルゴムゲージの厚みのバラツキ状況を意味する。
【0055】
空気入りタイヤにおいては、内圧保持性を維持させなければならないという理由から、インナーライナーにおいてブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させることが好ましい。空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、ブチルゴムゲージの仕上がりにバラツキが多いと、薄い部分から空気が抜けて早期に内圧が低下する傾向がある。
【0056】
本発明でいう空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキが低減されているとは、
[b]/[a]
の値が小さいことを意味し、本発明では、[b]/[a]の値が0.060以下であることを、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキが低減しているという。[b]/[a]は、タイヤのインナーライナーのブチルゴムゲージのバラツキを低減させなければならないという理由から、0.060以下であることが必要であり、0.050以下がより好ましい。
【0057】
なお、本発明でいう[b]/[a]の値は、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを示しているので、[b]/[a]の値は0(つまり、バラツキがないことを示す)であってもよい。
【0058】
そして、本発明でいう空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させるためには、(1)未加硫ゴムのムーニー粘度(ML1+4、130℃)を特定の値にコントロールすることが必要である。また、以下に説明する(2)ハロゲン化ブチルゴム、(3)混合樹脂または(4)未加硫ゴムの特性をコントロールすることによっても、本発明でいう空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させることが可能である。
【0059】
(1)未加硫ゴムのムーニー粘度
未加硫ゴムのムーニー粘度(ML1+4、130℃)を高めにコントロールすることで、加硫工程時のゴム流れを抑制し、プレス内圧付加時にあっても、タイヤのショルダー部にゴムが残り、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させることができる。
【0060】
本発明でいう空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、ブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させるためには、タイヤのショルダー部のゴム残りゲージを残すという理由から、(1)未加硫ゴムのムーニー粘度(ML1+4、130℃)が45〜55であることが必要であり、45〜50であることが好ましい。
【0061】
空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、タイヤのショルダー部が最もゴムが残りにくく、またタイヤのショルダー部が最も薄くなりやすい。そして、空気入りタイヤのインナーライナーは、最も薄い箇所から選択的に空気が抜けやすい。つまり、空気入りタイヤのインナーライナーにおいて、タイヤのショルダー部のゴム残りゲージを残すことで、局部的に薄いところを作らないことが重要である。
【0062】
(2)ハロゲン化ブチルゴム
ハロゲン化ブチルゴムについては、高粘度のHT−1068(クロロブチルゴム1068)の方が低粘度のHT−1066(クロロブチルゴム1066)よりも、配合ゴムの粘度を高く保てるのでブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させることができる。
【0063】
(3)混合樹脂
混合樹脂は、オイルと置換することによって、配合物の粘度を高くすることによってもブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させることが可能である。
【0064】
(4)未加硫ゴムの特性をコントロール
配合物のスコーチを早めることによってもブチルゴムゲージの仕上がりのバラツキを低減させることが可能である。
【0065】
本発明は、空気入りタイヤのブチルゴムゲージを上げるとタイヤの耐空気透過性(空気保持性)は改善されるが、空気入りタイヤの重量が重くなるという二律背反の関係をバランスよく改善したものである。そして、本発明は、空気入りタイヤのブチルゴムゲージのバラツキを抑える(ブチルゴムゲージを均一にする)ことで、空気入りタイヤにおけるインナーライナーにおいて、局部的に薄い箇所を無くし、タイヤの重量が重くならないように改善したものである。
【0066】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどでゴム成分などの前記配合剤を混練りし、その後加硫することにより、本発明のゴム組成物を製造することができる。
【0067】
本発明のゴム組成物は、空気(内圧)保持性を高めることができるという理由から、タイヤ部材のなかでもインナーライナーとして使用することが好ましい。
【0068】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のゴム組成物を未加硫の状態で、たとえばインナーライナーの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0069】
実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0070】
実施例において使用した各種薬品を以下に記載する。
天然ゴム(NR):TSR
ハロゲン化ブチルゴムA(X−IIR−A):エクソン化学(株)製のクロロブチルゴム1068(125℃におけるムーニー粘度ML(1+8):50±5)
ハロゲン化ブチルゴムB(X−IIR−B):エクソン化学(株)製のクロロブチルゴム1066(125℃におけるムーニー粘度ML(1+8):38±4)
チューブ再生ブチルゴム:村岡ゴム工業(株)製のブチルチューブ由来の再生ゴム(ブチルゴム、加圧条件下で加熱処理されたもの)
ブラダー再生ブチルゴム:USS東洋(株)製のブラダー由来の再生ゴム(押出機により粉砕されたもの)
カーボンブラック:新日鉄化学(株)製のニテロン55U
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスPA32
フェノール性粘着樹脂:スケネクタディ製のSP1068レジン
混合樹脂:シルアンドザイラリー社製のストラクトール40MS(粘着付与樹脂としてフェノール性粘着樹脂を含まない。)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛3号
粉末硫黄:細井化学工業(株)製のHK200−5(5%オイル処理)
加硫促進剤MBTS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーMBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)
【0071】
実施例1および比較例1〜3
(未加硫ゴムの作製)
表1に記載する硫黄および加硫促進剤以外の前記各種薬品を(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーにて150℃で3分間混練りした後、さらに硫黄および加硫促進剤を配合して、オープンロールにて90℃で2分間混練りし、未加硫ゴム(配合物A〜D)を得た。得られた未加硫ゴムを、以下の測定に用いた。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例2および3
(未加硫ゴムの作製)
表2に記載する硫黄および加硫促進剤以外の前記各種薬品を(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーにて150℃で3分間混練りした後、さらに硫黄および加硫促進剤を配合して、オープンロールにて90℃で2分間混練りし、未加硫ゴム(配合物EおよびF)を得た。得られた未加硫ゴムを、以下の測定に用いた。
【0074】
【表2】

【0075】
<ムーニー粘度指数>
JIS K6300に準じて、130℃における未加硫ゴムのムーニー粘度(ML1+4)を測定した。ムーニー粘度の値が小さいほど粘度が低く、ムーニー粘度の値が大きいほど粘度が高いことを示す。
【0076】
(空気入りタイヤの製造)
前記未加硫ゴム(配合物A〜F)をインナーライナーの形状に成形し、それを他のタイヤ部材と貼りあわせて150℃で30分の条件にて加硫することにより空気入りタイヤ(タイヤサイズ215/45R17)を製造した。
【0077】
未加硫ゴム(配合物A〜F)のそれぞれについて、タイヤを6本製造した。
【0078】
<仕上がりタイヤのブチルゴムゲージ>
配合物Aを用いて製造したタイヤ6本についてタイヤを解体し、タイヤのショルダー部のブチルゴムゲージをタイヤ1本につき周上8ヵ所、合計48ヵ所を万能投影機にて測定した。配合物B〜Fについても同様に測定した。
【0079】
「タイヤのショルダー部のブチルゲージをタイヤ1本につき周上8ヵ所」とは、タイヤのショルダー部を周上に均等に選んで測定した8ヵ所(図2でいう測定箇所(a〜h点)である)であり、各仕様各6本分において8ヵ所を決めた。
【0080】
なお、表3および表4中の[a]:ブチルゴムゲージの平均値(mm)とは測定した48ヵ所のゴムゲージの平均値である。配合物B〜Dについても同様にして測定した。
【0081】
測定結果を表3および表4に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
また、ムーニー粘度とブチルゴムゲージ(mm)の標準偏差[b]/ブチルゴムゲージ(mm)の平均値[a]との関係を表した結果を図3に示す。
【0085】
<耐空気透過性試験>
前記未加硫ゴム(配合物A〜F)を用いて製造したタイヤ6本について、インナーライナーの形状に成形し、それを他のタイヤ部材と貼りあわせて得られた空気入りタイヤを用いて、耐空気透過性試験を行った。
【0086】
215/45R17サイズのタイヤを作製し、リム組みしたのち、内圧を2.5Mpaに設定した。内圧封じ込めの条件で3ヵ月放置し、タイヤの内圧の低下を、タイヤ内圧低下率(%/月)として測定した。タイヤ内圧低下率(%/月)が小さいほど耐空気透過性に優れており、内圧保持性能が良好であることを示す。
【0087】
測定結果を表5および表6に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
実施例1〜3では、耐空気透過試験において、タイヤ間のバラツキが小さく、最低でも2.5以上となっている。
【0091】
比較例1では、同じく最低で2.5であるが、平均が2.7であり、その分タイヤ重量が重い。
【0092】
比較例2では、同じく最低が2.6で良好だが、平均がさらに厚くタイヤ重量が重い。
【0093】
比較例3では、同じく最低が2.7で良好だが、比較例2と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤにおいて、仕上がったタイヤのショルダー部のブチルゴムゲージを説明する概略部分断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤでおいて、本発明でいうブチルゴムゲージの平均値を計算する、タイヤのショルダー部のブチルゲージをタイヤ周上8ヵ所のデータを採取することを説明する概略一部切欠斜視図である。
【図3】ムーニー粘度とブチルゴムゲージ(mm)の標準偏差[b]/ブチルゴムゲージ(mm)の平均値[a]との関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1、11 トレッド
2、12 第1ベルト
3、13 第2ベルト
4、14 カーカス
5、15 インナーライナー
6 サイドウォール
7 クリンチエイペックス
8 ビードエイペックス
9 ビードコア
A タイヤのショルダー部
B ブチルゴムゲージ
a〜h タイヤ周上のショルダー部のブチルゲージ8ヵ所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル系ゴムを含む空気入りタイヤ用ゴム組成物の未加硫ゴムの130℃で測定されるムーニー粘度が45以上である空気入りタイヤ用ゴム組成物からなるインナーライナーを有する空気入りタイヤであるとともに、
仕上がったタイヤのショルダー部のブチルゴムゲージの平均値および標準偏差が、
(ブチルゴムゲージの標準偏差)/(ブチルゴムゲージの平均値)≦0.060
を満たす空気入りタイヤ。
【請求項2】
請求項1において、空気入りタイヤ用ゴム組成物のゴム成分中における、ハロゲン化ブチルゴムの含有量が70重量%以上であり天然ゴムの含有量が30重量%以下である空気入りタイヤ。
【請求項3】
請求項1において、空気入りタイヤ用ゴム組成物のゴム成分中における、ハロゲン化ブチルゴムの含有量が60重量%以上、再生ブチルゴムの含有量が20重量%以下、および天然ゴムの含有量が20重量%以下である空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−132368(P2009−132368A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201993(P2008−201993)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】