説明

空気入りタイヤ

【課題】耐破壊特性の向上と転がり抵抗の低減との両立を図った空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部と、サイドウォール部と、ビード部とを、コード7をコーティングゴムで被覆してなる一枚以上のカーカスプライからなるカーカスで補強してなる空気入りタイヤである。コーティングゴムを異なるtanδ値を有する2種類のゴムAおよびゴムBにより構成し、少なくともコード7とコーティングゴムのタイヤ半径方向外方面とに挟まれる領域をゴムAとし、かつ、それ以外の領域において少なくともコーティングゴムのタイヤ半径方向内方面を構成する領域をゴムBとし、ゴムAおよびゴムBの60℃におけるtanδ値を夫々tanδ値Aおよびtanδ値Bとしたとき、次式、
tanδ値A<tanδ値Bで表される関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、詳しくは耐破壊特性の向上と転がり抵抗の低減との両立を図った空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用タイヤに要求される性能は益々厳しくなってきており、タイヤの耐久性の更なる改良が望まれている。プライコード補強タイヤにおいては、プライコードと該コードを被覆するコーティングゴムとの接着性を確保することが重要であり、この接着性が低下するとカーカスやベルト等の耐久性が低下し、ひいてはタイヤの耐久性に問題が生じることが知られている。
【0003】
そのため、プライコードとコーティングゴムとの接着性を改良して、タイヤを長寿命化する必要があり、これまでに種々の接着性改良の技術が提案されている(例えば、特許文献1)。また、それとともに、コーティングゴム自体の歪みや空気透過による劣化に対する耐性も重要であり、かかる耐性を十分に有することで耐破壊特性の向上が一般に図られている。例えば、特許文献2では、特定のゴムマスターバッチからなるゴム成分と特定のフェノール樹脂とを配合したゴム組成物をコーティングゴムに用いることでゴムの入力歪みの低減を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−83766号公報
【特許文献2】特開2006−347203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タイヤ補強ゴムの耐破壊特性を高めようとした場合、タイヤの転がり抵抗が大きくなり、耐破壊特性と低転がり抵抗性との二律背反的関係を当該補強ゴムにおいて十分に満足することは困難とされていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、耐破壊特性の向上と転がり抵抗の低減との両立を図った空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者はゴムのヒステリシスロスに着目し、以下のようにして検討を行った。
先ず、従来、タイヤ補強ゴムはヒステリシスロスを有し、タイヤ荷重時にゴムが歪むと、タイヤ全体としてロスを発生して転がり抵抗となり、「タイヤ補強ゴム部材の歪み×tanδ(ヒステリシスロス)のタイヤ全体の総和=転がり抵抗」であることが知られていることから、転がり抵抗の低減にはtanδの値を低減することは有効な手段である。
また、タイヤ補強ゴムは、同時にその歪みと経時劣化による破壊に対する耐性を十分に有する必要がある。そこで、本発明者はタイヤ骨格部材であるカーカスプライのコーティングゴムに着目して鋭意検討したところ、従来のタイヤは耐久性確保のため、このコーティングゴムは耐破壊特性重視の物性を有していることから総じてtanδの値が大きく、転がり抵抗増大の一因となっていたことを突き止めた。本発明者はさらに鋭意検討した結果、カーカスプライのコーティングゴムを2種類のゴムから構成し、少なくともプライコードと接地面に挟まれる領域のゴムとその領域以外のゴムとの物性を変えることにより耐破壊特性の向上と転がり抵抗の低減との両立を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部と、該トレッド部の側部からタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部と、該サイドウォール部のタイヤ半径方向内端に連なるビード部とを、コードをコーティングゴムで被覆してなる一枚以上のカーカスプライからなるカーカスで補強してなる空気入りタイヤにおいて、
前記コーティングゴムを異なるtanδ値を有する2種類のゴムAおよびゴムBにより構成し、少なくとも前記コードと該コーティングゴムのタイヤ半径方向外方面とに挟まれる領域をゴムAとし、かつ、それ以外の領域において少なくとも該コーティングゴムのタイヤ半径方向内方面を構成する領域をゴムBとし、ゴムAおよびゴムBの60℃におけるtanδ値を夫々tanδ値Aおよびtanδ値Bとしたとき、次式、
tanδ値A<tanδ値B (1)
で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の空気入りタイヤにおいては、前記コーティングゴムをゴムAおよびゴムBの2層構造としてもよく、更にはゴムAおよびゴムBの境界を前記コードのタイヤ半径方向の直径長さの範囲内とすることができる。
【0010】
また、前記tanδ値Aと前記tanδ値Bとが次式、
tanδ値A×1.10<tanδ値B (2)
で表される関係を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空気入りタイヤにおいて耐破壊特性の向上と転がり抵抗の低減との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係るタイヤの断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るタイヤのカーカスプライの拡大断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係るタイヤのカーカスプライの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して具体的に説明する。
図1は本発明の空気入りタイヤの一例の断面図である。図示するタイヤは、トレッド部1と、トレッド部1の側部からタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ半径方向内端に連なるビード部3とからなる。
【0014】
カーカス4は、タイヤの骨格構造をなし、タイヤのトレッド部1と、サイドウォール部2と、ビード部3とを補強する。このカーカス4は、一枚以上のカーカスプライにて構成されるとともに、それぞれのビード部3に配設したそれぞれのビードコア5間にトロイダルに延びる本体部と、各ビードコア5の周りで、タイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とを有する。
【0015】
図1中のカーカス4は、コードをコーティングゴムで被覆してなる一枚のカーカスプライよりなるが、カーカスプライの枚数は複数であってもよい。ここで、本発明の一実施形態においては、図2に拡大して示すように、カーカス(カーカスプライ)4のコーティングゴムが、2種類のゴムAおよびゴムBにより構成される。ゴムAは、コード7とコーティングゴムのタイヤ半径方向外方面とに挟まれる領域に存在し、それ以外の領域はゴムBからなる。これらゴムAおよびゴムBの60℃におけるtanδ値を夫々tanδ値Aおよびtanδ値Bとしたとき、次式、
tanδ値A<tanδ値B (1)
好ましくは次式、
tanδ値A×1.10<tanδ値B (2)
で表される関係を満足する。
【0016】
カーカスプライ4のゴムBは、ゴムAに比べタイヤ内圧による劣化の影響が激しく、その一方でコード7と接地面に挟まれないため転がり抵抗への寄与が少ない。このため、ゴムBには耐破壊特性重視の特性を持たせることができる。かかる特性を得るためには、ゴムBは、少なくともコーティングゴム4のタイヤ半径方向内方面を構成するようにする。
【0017】
一方、ゴムAは、ゴムBに比べタイヤ内圧による劣化は相対的に少なく、その一方でコード7と接地面に挟まれるため転がり抵抗への寄与が極めて大きい。このため、ゴムAには低tanδ(ヒステリシスロス)を重視した特性を持たせることができる。本発明においては、かかる観点から前記(1)式を満足するようにカーカスプライ4のゴムAとゴムBとを構成したものであり、これにより耐破壊特性の向上と転がり抵抗の低減との両立を実現し得たのである。
【0018】
本発明の他の実施形態においては、図3に示すように、ゴムAがコード7とコーティングゴムのタイヤ半径方向外方面とに挟まれる領域に存在するとともに、コーティングゴムがゴムAおよびゴムBの2層構造を有する。ゴムAおよびゴムBの境界8は、例えば、コード7のタイヤ半径方向の直径長さLの範囲内に好適に設定することができる。かかる構造においても本発明の所期の効果を得ることができるとともに、製造面で有利となる。
【0019】
図1中、ベルト6は、カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配設した一枚以上のベルト層からなる。図中のベルト6は、二枚のベルト層よりなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト層の枚数はこれに限られるものではない。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
(実施例)
タイヤサイズ295/75R22.5の空気入りタイヤのカーカスプライを図2に示す構造とし、ゴムBとゴムAのtanδ値は、粘弾性測定装置(東洋精機(株)製スペクトロメーター)を用い、温度60℃、歪み2%、及び周波数52Hzの条件下で測定し、ゴムBの得られた値を100として指数表示したとき、ゴムAの値は70であった。
【0021】
(比較例)
カーカスプライのコーティングゴムをすべて実施例のゴムBと同じゴムで構成した以外は実施例と同様にして、同サイズの空気入りタイヤを試作した。
【0022】
(転がり抵抗)
実施例および比較例の供試タイヤを8.25インチのリムに装着し、内圧7.5kgf/cm、荷重2500kgfの条件でドラム上に押し付けて、速度60km/h(2009年、TRA規格)までドラムを回転させた後、ドラム駆動のスイッチを切りドラムを自由回転させ、減速の度合いにより転がり抵抗を求めて評価した。評価は、比較例のタイヤの転がり抵抗の値を100として指数表示したとき、実施例のその値は98と小さく、比較例と比べ良好な結果が得られた。
【0023】
(耐破壊特性)
実施例および比較例の供試タイヤを前記転がり抵抗の測定と同じ条件下でドラム走行をさせた後、荷重を72時間ごとに20%ずつアップする条件で走行させ、320時間走行後停止し、カーカスプライの破壊状況を目視した。その結果、実施例および比較例とも破壊箇所は認められず、良好であった。
【符号の説明】
【0024】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス(カーカスプライ)
A ゴム
B ゴム
5 ビードコア
6 ベルト
7 コード
8 境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、該トレッド部の側部からタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部と、該サイドウォール部のタイヤ半径方向内端に連なるビード部とを、コードをコーティングゴムで被覆してなる一枚以上のカーカスプライからなるカーカスで補強してなる空気入りタイヤにおいて、
前記コーティングゴムを異なるtanδ値を有する2種類のゴムAおよびゴムBにより構成し、少なくとも前記コードと該コーティングゴムのタイヤ半径方向外方面とに挟まれる領域をゴムAとし、かつ、それ以外の領域において少なくとも該コーティングゴムのタイヤ半径方向内方面を構成する領域をゴムBとし、ゴムAおよびゴムBの60℃におけるtanδ値を夫々tanδ値Aおよびtanδ値Bとしたとき、次式、
tanδ値A<tanδ値B (1)
で表される関係を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記コーティングゴムがゴムAおよびゴムBの2層構造を有する請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
ゴムAとゴムBとの境界が前記コードのタイヤ半径方向の直径長さの範囲内にある請求項2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
ゴムAとゴムBとが次式、
tanδ値A×1.10<tanδ値B (2)
で表される関係を満足する請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−180015(P2012−180015A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44334(P2011−44334)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)