説明

空気入りタイヤ

【課題】操縦安定性と乗心地を高い次元で両立させることができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】正規リムに装着し、正規内圧を充填し、正規荷重の80%の荷重を負荷した状態で、上下方向に加振したときに、サイドウォールの外周部のうち、タイヤ上端を0°としてタイヤ中心回り140°に位置する部位の前後方向の移動量が、前記部位の上下方向の移動量よりも大きいことを特徴とする。また、トレッドリングの剛性を調整することにより、タイヤ周長の伸び率を制限して、前記前後方向の移動量が、上下方向の移動量よりも大きくされている。さらに、前後方向の移動量が、4mm以上であり、タイヤ内圧を100kPaから300kPaに昇圧したときのタイヤ周長の伸び率が0.24%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操縦安定性と乗心地を高い次元で両立させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの開発において、操縦安定性と乗心地は、克服すべき重要な課題であるが、両者は背反性能であるため、その両立は困難なものである。
【0003】
例えば、乗心地の改善のためには、一般に、空気入りタイヤを柔らかくする手法が採用されているが、タイヤを柔らかくすると、直進安定性を含め操縦安定性が低下する。
【0004】
そこで、タイヤの素材や構造に改良を加えて、操縦安定性と乗心地を両立させる方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−149677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、より高いタイヤ性能が求められており、操縦安定性と乗心地についても、高い次元での両立が要求されている。
【0007】
そこで、本発明は、前記従来技術以上に操縦安定性と乗心地を高い次元で両立させることができる空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、操縦安定性と乗心地を高い次元で両立させる方法について検討するにあたり、従来のようにタイヤの素材や構造に着目するのではなく、タイヤの動き自体に着目し、タイヤの動きを精度高く、詳細に観察した。その結果、タイヤ加振時におけるタイヤのサイドウォールの特定部位の前後方向の移動量と、上下方向の移動量の関係が、操縦安定性と乗心地を両立させる重要な指標になることが分かり、本発明を完成させるに至った。以下各発明について説明する。
【0009】
請求項1に係る発明は、
正規リムに装着し、正規内圧を充填し、正規荷重の80%の荷重を負荷した状態で、上下方向に加振したときに、
サイドウォールの外周部のうち、タイヤ上端を0°としてタイヤ中心回り140°に位置する部位の前後方向の移動量が、前記部位の上下方向の移動量よりも大きいことを特徴とする空気入りタイヤである。
【0010】
請求項2に係る発明は、
トレッドリングの剛性を調整することにより、タイヤ周長の伸び率を制限して、前記前後方向の移動量が、前記上下方向の移動量よりも大きくされていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤである。
【0011】
請求項3に係る発明は、
前後方向の移動量が、4mm以上であり、タイヤ内圧を100kPaから300kPaに昇圧したときのタイヤ周長の伸び率が、0.24%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤである。
【0012】
請求項4に係る発明は、
トレッドリングを構成する補強コードのタイヤ周長方向に対する角度が、25°以下であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、操縦安定性と乗心地を高い次元で両立させることができる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】加振中のサイドウォールの移動量を測定する測定方法を説明する図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】加振中のサイドウォールの移動量の測定結果の一例を示す図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤを加振したときのサイドウォールの移動量のイメージを示す図である。
【図4】ベルトの構造の一例を説明する図であって、(a)は平面図、(b)は横断面図である。
【図5】本発明の実施例および比較例のサイドウォールのx方向とy方向の移動量の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例および比較例のサイドウォールのx方向の移動量と周長の伸び率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
1.各タイヤについての試験内容
本発明者は、前記したタイヤの動きについて、以下の条件で試験を行い、タイヤの動きを精度高く、詳細に観察した。
(1)タイヤの準備
国産FR車用の標準サイズの空気入りタイヤ(225/50R17)を、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した。
【0017】
ここで、「正規リム」とは、タイヤの規格においてタイヤ毎に定められているリムであり、例えば、JATMAであれば「標準リム」であり、TRAであれば「Design Rim」であり、ETRTOであれば「Measuring Rim」を意味する。
【0018】
また、「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定められている空気圧であり、JATMAであれば「最高空気圧」であり、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値であり、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。乗用車用のタイヤの場合、230kPaとする。
【0019】
(2)マーキング
次に、タイヤの変形を定量化するために、見たい場所をマークした。具体的には、サイドウォール表面において、タイヤ周方向の基準線とタイヤ半径方向の基準線を定め、両基準線の交点にマークを付けた。タイヤ周方向の基準線は、外周部、ビードエイペックス先端部と内周部の位置に設け、タイヤ半径方向の基準線は、タイヤ上端を0°としてタイヤ中心回り140°、150°、160°、170°、180°の位置に設けた。
【0020】
(3)試験方法
次に、空気圧を230kPaとし、JATMA対応荷重の80%である5.1kNの荷重を負荷した状態で、加振機によりタイヤを上下方向に加振した。加振の条件は周波数1Hz、振幅±10mmとした。
【0021】
この条件の下で、加振した時、荷重が2kN〜8kNの範囲で振れてタイヤが変形し、これに伴いマークの位置も変化する。この変化を、図1に示す方法で撮影した写真から、変化の両端のマークの移動量を読み取って定量化した。すなわち、荷重が掛かったときのそれぞれのマークの位置を、図1に示すカメラ7で捉え、タイヤ前後方向を直交座標系のX軸方向とし、タイヤ上下方向をY軸方向とし、得られたデータをPC(パーソナルコンピュータ)を用いて表計算ソフトで解析処理を行うことにより、荷重が前記2kNと8kNの間で振れたときのマークの移動量を求めた。
【0022】
図1は、加振中のサイドウォールの動きを精度高く測定する測定方法を説明する図である。図1において、1はタイヤであり、2はサイドウォールであり、3はトレッドであり、4は接地中心であり、5はタイヤの中心であり、6は加振機であり、7はカメラである。なお、3のトレッドについては、タイヤの正面から見た状態を示している。
【0023】
カメラにはカシオ社製、EXILIM EX−FH120を通常の三脚で固定して用いた。また、動画フレームレート30fpsで撮影した。カメラ7のレンズには、読み取り精度が高い広角ズーム100mmを用いた。
【0024】
2.試験結果
図2は、サイドウォールの歪を測定する測定結果を示す図であり、PC上の動画から、マークの変化の両端を重ね書きした。図2中、丸付数字のマーク1〜9は、140°、160°、180°の位置におけるマークの位置を示す。なお、図2において、8は、サイドウォール2の外周部の基準線を示している。各角度における2kNの荷重が掛かったときの測定結果を●と実線で示し、8kNの荷重が掛かったときの測定結果を○と破線で示す。
【0025】
3.複数のタイヤについての試験結果と操縦安定性、乗心地の関係
多くのタイヤについて、上記の試験方法に基づいて試験を行った。その結果、操縦安定性と乗心地の良いタイヤは、いずれもマーク1の位置におけるX方向の移動量がy方向の移動量より大きいことが分った。
【0026】
これは、操縦安定性と乗心地がよいタイヤの場合、路面からの入力が横に逃げて車軸に伝わらず、マーク1の位置において、その影響がマークの移動量の変化に最も表れているためと考えられる。図3は、前記の点を概念的に示す図である。
【0027】
4.たが効果
次に、マーク1のx方向、y方向の移動量とタイヤ周長の変化を調べた結果、y方向の移動量よりもx方向の移動量の方が大きいタイヤは、タイヤ周長の変化が少ない「たが効果」の強いタイヤであることが分った。
【0028】
「たが効果」は、トレッドとカーカスとの間に位置するベルトの剛性を高めることにより高めることができる。具体的な方法としては、ベルトのコードとベルトの長手方向のなす角度、即ちベルト角度を小さくする方法、ベルト素材を太くする方法、ベルトのトッピングに硬度が高いトッピングゴムを用いる方法(例えば、基準となるタイヤに対して、トッピングゴムの硬度を10%上げる)などがある。
【0029】
前記の方法の中でもベルト角度を小さくする方法は、素材を変更する必要がないため効率的であり、実験により所定角度以下であれば本発明の条件を十分に満足させられることが分った。なお、ベルト角度は図4においてθで示されている。図4は、複数のベルトプライ12が斜めに配置された状態のベルト11を示す平面図(a)および、横断面図(b)である。
【0030】
5.操縦安定性と乗心地の両立
以上のことより、操縦安定性と乗心地を安定させるためには、以下のようにタイヤを製造すればよいことが分かる。
【0031】
(1)上記の試験方法に基づいて、タイヤ上端を0°(接地中心を180°)としてタイヤ中心回り140°に位置するサイドウォールの外周部におけるx方向の移動量がy方向の移動量より大きくなるように製造する。
【0032】
(2)前記(1)の条件を満足するように、トレッドリングの剛性を調整して、タイヤ周長の伸び率を制限する。
【0033】
(3)さらに前記(2)の条件を満足するように、ベルト角度を小さくする。
【実施例】
【0034】
本実施例においては、ベルト角度(Brk角度)を変えて、「たが効果」を異ならせることにより、操縦安定性と乗心地を高い次元で両立させるための指標となるマーク1の動きを観察した。
【0035】
実施例1〜6は、x方向(前後方向)の移動量がy方向(上下方向)の移動量よりも大きいタイヤであり、各実施例は、x方向とy方向の移動量の比率が異なる。比較例は、x方向の移動量とy方向の移動量とを同じにしたタイヤである。
【0036】
(1)タイヤの準備
前記実施の形態において用いたタイヤ(225/50R17)のベルト角度を種々変えて、各実施例、比較例のタイヤを準備した。
【0037】
(2)試験方法
実施例1〜6および比較例のタイヤについて、前記実施の形態と同じ要領で加振を行って、マーク1のx方向およびy方向の移動量を測定した。さらに、たが効果との関係を調べるため、周長の伸び率を求めた。具体的には、タイヤの空気圧を100kPaから300kPaに昇圧した時の(周長の伸び量)/(周長)により求めた。
【0038】
(3)性能評価
次に各実施例、比較例のタイヤについて実車評価により乗心地および操縦安定性を評価した。具体的には、国内FR車(国産3500ccFR車)にタイヤを装着して空気圧を230kPaに設定し、2名が乗車してテストコースおよび一般道路を走行したときのフィーリングにより評価した。乗心地は硬さ、フラット感について、操縦安定性は直進性、旋回性について評価し、それぞれGood(○)、Fair(Normal)(△)、Bad(×)の3段階で評価した。
【0039】
(4)試験結果
各実施例、比較例の試験結果を表1に示す。また、図5に各実施例、比較例のx方向とy方向の移動量の関係を示し、図6にx方向の移動量と周長の伸び率の関係を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(5)考察
上記試験の結果から以下のことが明確になった。
【0042】
イ.表1、図5より、x方向の移動量がy方向の移動量より大きい実施例1〜6では、乗心地と操縦安定性が両立できていることが分かる。また移動量の差が大きいほど両性能が向上していることが分かる。
【0043】
ロ.表1、図6より、ベルトの周長の伸び率が小さいほど、x方向への移動量が大きいことが分かる。また、周長の伸び率が小さいほど、x方向とy方向の移動量の差が大きいことが分かる。
【0044】
そして、周長の伸び率が、0.24%以下であれば、十分に満足できる性能のタイヤが確実に得られることが分かる。なお、内圧変化時の周長の変化が少ないということは、トレッドリング剛性が高く、「たが効果」が高くなることを意味している。
【0045】
ハ.トレッドリング剛性はBrk角に依存し、Brk角が小さいほど、トレッドリング剛性が高くなる。即ち、基準となるタイヤ(比較例)に対して、Brk角度を小さく設定することにより、優れた性能のタイヤを得ることができる。具体的には、表1よりBrk角は25°以下であれば、十分に満足できる性能のタイヤが確実に得られることが分かる。なお、22°の場合、操縦安定性が低下しているが、これは「たが効果」が大きすぎることで横剛性が相対的に下がるためと考えられる。
【0046】
なお、これらの傾向は、前記サイズ以外の245/45R18でも同様の結果となった。
【0047】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は以上の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以上の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 タイヤ
2 サイドウォール
3 トレッド
4 設置中心
5 タイヤの中心
6 加振装置
7 カメラ
8 サイドウォール外周部
11 ベルト
12 ベルトプライ
θ ベルト角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正規リムに装着し、正規内圧を充填し、正規荷重の80%の荷重を負荷した状態で、上下方向に加振したときに、
サイドウォールの外周部のうち、タイヤ上端を0°としてタイヤ中心回り140°に位置する部位の前後方向の移動量が、前記部位の上下方向の移動量よりも大きいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッドリングの剛性を調整することにより、タイヤ周長の伸び率を制限して、前記前後方向の移動量が、前記上下方向の移動量よりも大きくされていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前後方向の移動量が、4mm以上であり、タイヤ内圧を100kPaから300kPaに昇圧したときのタイヤ周長の伸び率が、0.24%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
トレッドリングを構成する補強コードのタイヤ周長方向に対する角度が、25°以下であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218613(P2012−218613A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87553(P2011−87553)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)