説明

空気入りタイヤ

【課題】操縦安定性能、排水性能、及び氷路性能の低下を抑制しつつ雪路性能を向上させる。
【解決手段】一対のクラウン主溝3と、クラウン主溝3から回転方向後着側に傾斜しかつトレッド部の接地端Teを越えてのびる傾斜主溝4とを含む回転方向が指定された空気入りタイヤである。傾斜主溝4は、タイヤ周方向に対する角度θ1が、45〜85°である。クラウン主溝3と傾斜主溝4と接地端Teとで区分されたショルダーブロック6の先着側縁6sは、滑らかな曲線からなる。先着側縁6s上の第1交点7a、第2交点7b、及び第3交点7cの3つの交点を結ぶ仮想円弧Kuの曲率半径Raが、150〜250mmである。ショルダーブロック6には、先着側縁6sからのびる溝及びサイピングを有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操縦安定性能、排水性能、及び氷路性能の低下を抑制しつつ雪路性能を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、冬用の空気入りタイヤにおいても、雪路や氷路などの他、ウェット路やドライ路等も走行する機会が増加している。従って、このような冬用の空気入りタイヤでは、雪路性能や氷路性能だけでなく、排水性能や操縦安定性能を含めて、高次元でバランス良く向上させることが求められている。
【0003】
例えば、排水性能や雪路性能を高めるために、トレッド部と路面との間の水膜をスムーズに排水すること及び主溝や横溝内の雪をスムーズに排雪させることを目的として、前記各溝の溝幅を大きくすること等が提案されている。しかしながら、この手法では、接地面積が小さくなるため、パターン剛性や摩擦力が低下し、操縦安定性能や氷路性能が悪化するという問題があった。このように、操縦安定性能、排水性能、氷路性能、及び雪路性能は、夫々相反関係を有し、これら全ての性能をバランス良く向上するのは困難であった。関連する技術として次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−11618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、トレッド部に形成される傾斜主溝の角度、及び、ショルダーブロックのタイヤ回転方向先着側のブロック縁の形状を規定することを基本として、操縦安定性能、排水性能、及び氷路性能の低下を抑制しつつ雪路性能を向上させた空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、回転方向が指定された空気入りタイヤであって、トレッド部に、タイヤ赤道の両側に設けられかつタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝と、該クラウン主溝からタイヤ回転方向後着側に向かってタイヤ軸方向外側に傾斜しかつトレッド部の接地端を越えてのびる傾斜主溝と、サイピングとを具え、前記傾斜主溝は、タイヤ周方向に対する角度が、45〜85°であり、前記クラウン主溝と前記傾斜主溝と前記接地端とで区分されたショルダーブロックのタイヤ回転方向先着側のブロック縁である先着側縁は、平面視が滑らかな曲線からなり、かつ、前記先着側縁と前記クラウン主溝の溝縁とが交差する第1交点、前記先着側縁と接地端とが交差する第2交点、及び前記先着側縁上かつ前記第1交点と第2交点とのタイヤ軸方向長さの中間位置である第3交点の3つの交点を結ぶ仮想円弧の曲率半径が、150〜250mmであり、しかも、前記ショルダーブロックには、前記先着側縁からのびる溝及びサイピングを有しないことを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記クラウン主溝は、タイヤ赤道からトレッド接地幅の2.5〜20%の距離を隔てた位置に溝中心線が設けられる請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記ショルダーブロックは、前記先着側縁からタイヤ回転方向後着側に4mm以内の先着側領域には、溝及びサイピングを有しない請求項1又は2記載の空気入りタイヤ
【0009】
また請求項4記載の発明は、前記傾斜主溝の溝幅は、5〜15mmである請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0010】
また請求項5記載の発明は、前記ショルダーブロックは、タイヤ回転方向後着側のブロック縁である後着側縁からタイヤ回転方向先着側に向かってのびかつ前記ショルダーブロック内で終端する副溝が設けられる請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0011】
また請求項6記載の発明は、前記ショルダーブロックは、前記副溝の両溝縁を滑らかに前記先着側縁まで延長した仮想副溝と、前記クラウン主溝と、前記傾斜主溝とで区分される仮想内側片、及び、該仮想内側片よりもタイヤ軸方向外側に形成され、かつ前記副溝と、前記接地端と、前記傾斜主溝とで区分される仮想外側片に区分したときに、前記仮想外側片のタイヤ周方向最大長さLaと、タイヤ軸方向最大長さWaとの比La/Waは、前記仮想内側片のタイヤ周方向最大長さLbと、タイヤ軸方向最大長さWbとの比Lb/Wbの0.45〜0.75倍である請求項5に記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空気入りタイヤは、回転方向が指定され、トレッド部に、タイヤ赤道の両側に設けられかつタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝と、該クラウン主溝からタイヤ回転方向後着側に向かってタイヤ軸方向外側に傾斜しかつトレッド部の接地端を越えてのびる傾斜主溝と、サイピングとを具える。このような傾斜主溝は、タイヤの回転を利用して、クラウン主溝や傾斜主溝内の雪や水をトレッド部の接地端の外側へスムーズに排出するのに役立つ。また、サイピングは、路面との摩擦力を増加し、氷路性能を向上させる。
【0013】
前記傾斜主溝は、タイヤ周方向に対する角度が、45〜85°で形成される。このような角度で形成された傾斜主溝は、排雪効果や排水効果を旋回時や直進時においてバランス良く発揮する。
【0014】
前記クラウン主溝と前記傾斜主溝と前記接地端とで区分されたショルダーブロックのタイヤ回転方向先着側のブロック縁である先着側縁は、平面視が滑らかな曲線で形成される。このようなショルダーブロックは、剛性が高く確保されるため、操縦安定性能を維持するのに役立つ。また、先着側縁に接する傾斜主溝の排水及び排雪抵抗が小さくなるため、排水性能や雪路性能が向上する。
【0015】
前記先着側縁と前記クラウン主溝の溝縁とが交差する第1交点、前記先着側縁と接地端とが交差する第2交点、及び前記先着側縁上かつ前記第1交点と第2交点とのタイヤ軸方向長さの中間位置である第3交点の3つの交点を結ぶ仮想円弧の曲率半径が、150〜250mmで形成される。このような仮想円弧が形成される先着側縁は、ショルダーブロックの剛性をより一層高く確保するとともに、多方向の旋回角度に応じたエッジ成分を有する。従って、操縦安定性能と氷路性能とがバランス良く向上する。
【0016】
しかも、前記ショルダーブロックには、前記先着側縁からのびる溝及びサイピングを有しない。このようなショルダーブロックは、とりわけ先着側縁近傍の剛性が大きく確保されて、トラクション力が高く維持されるため、操縦安定性能や氷路性能及び雪路性能を向上するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤを示すトレッド部の展開図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】(a)は、図2のX−X部の斜視図、(b)は、(a)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)は、例えば乗用車用のスタッドレスタイヤとして好適に利用され、タイヤの回転方向Rが指定された非対称のトレッドパターンを具える。タイヤの回転方向Rは、例えばサイドウォール部(図示せず)に、文字等で表示される。
【0019】
本実施形態のタイヤのトレッド部2には、タイヤ赤道Cの両側の位置をタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝3と、各クラウン主溝3からトレッド部2の接地端Teを越えてのびる複数本の傾斜主溝4とが設けられる。これにより、トレッド部2には、一対のクラウン主溝3、3間をのびるクラウン陸部5、及びクラウン主溝3と傾斜主溝4と接地端Teとで区分されたショルダーブロック6がタイヤ周方向に隔設されたショルダーブロック列6Rが形成される。
【0020】
また、本実施形態のクラウン陸部5及びショルダーブロック6には、複数のサイピングSが設けられる。このようなサイピングSのエッジが、氷路面との摩擦力を高める他、サイピングS内に、氷路面の水が吸い上げられるため、氷路性能が向上する。
【0021】
ここで、前記「接地端」Teは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した無負荷である正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。そして、この接地端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離がトレッド接地幅TWとして定められる。また、タイヤの各部の寸法等は、特に断りがない場合、前記正規状態での値とする。
【0022】
また前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
【0023】
また、前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0024】
さらに「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" であるが、タイヤが乗用車用の場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【0025】
前記クラウン主溝3は、本実施形態ではタイヤ赤道C側の溝縁3cがタイヤ周方向に沿って直線状にのびかつ、接地端Te側の溝縁3tがタイヤ回転方向後着側に向かってタイヤ軸方向外側にのびる傾斜部を含んだジグザグ状をなす。このようなクラウン主溝3は、タイヤ赤道C側の溝縁3cによって、クラウン主溝3内の排水を回転方向後着側にスムーズに排出するとともに、クラウン陸部5の剛性を大きく維持するため、排水性能と操縦安定性能とがバランス良く向上される。また、クラウン主溝の接地端Te側の溝縁3tによって、タイヤ軸方向のエッジ効果が発揮され、雪路性能や氷路性能が向上する。
【0026】
このようなクラウン主溝3の溝幅W1(溝の長手方向と直角な溝幅で、以下、他の溝についても同様とする。)は、上述の作用を効果的に発揮させるため、好ましくはトレッド接地幅TWの1.2%以上、より好ましくは1.5%以上が望ましく、また好ましくは6.7%以下、より好ましくは6.5%以下が望ましい。同様に、クラウン主溝3の溝深さ(図示省略)については、好ましくは7.0mm以上、より好ましくは7.3mm以上が望ましく、また好ましくは8.5mm以下、より好ましくは8.2mm以下が望ましい。
【0027】
また、クラウン主溝3の溝中心線3Gは、タイヤ赤道Cからトレッド接地幅TWの2.5〜20%の距離を隔てた位置に設けられるのが望ましい。これにより、クラウン陸部5とショルダーブロック6との剛性バランスが高められ、さらに操縦安定性能が向上する。このため、前記溝中心線3Gは、より好ましくはタイヤ赤道Cからトレッド接地幅TWの5%以上の位置に設けられるのが望ましく、また好ましくは15%以下の位置に設けられるのが望ましい。
【0028】
前記傾斜主溝4は、タイヤ回転方向Rの後着側に向かってタイヤ軸方向外側に傾斜する。このような傾斜主溝4は、タイヤの回転を利用してクラウン主溝3や傾斜主溝4内の水や雪を接地端Te側にスムーズに排出できるため、排水性能や雪路性能を高め得る。
【0029】
本実施形態の傾斜主溝4は、タイヤ回転方向の後着側に向かって凸となる滑らかな円弧状として形成される。このような傾斜主溝4は、旋回走行時、より大きな接地圧が作用する接地端Te付近の横剛性を高め得るとともに、上述のクラウン主溝3や傾斜主溝4内の水や雪の排出効果を高め、操縦安定性能、排水性能及び雪路性能をバランス良く向上する。
【0030】
また、傾斜主溝4のタイヤ周方向に対する角度θ1は、45〜85°で形成される。即ち、前記角度θ1が45°未満になると、ショルダーブロック6の剛性が低下し、トラクション力が小さくなる。逆に、前記角度θ1が85°を超えると、直進走行時での排水抵抗大きくなり、とりわけ、ハイドロプレーニング現象が起こり易くなる。このため、前記角度θ1は、好ましくは50°以上が望ましく、また好ましくは80°以下が望ましい。
【0031】
本実施形態の傾斜主溝4は、クラウン主溝3からタイヤ軸方向外側に向かって傾斜主溝4の溝幅W2が漸増する。これにより、クラウン主溝3や傾斜主溝4内の水や雪をさらにスムーズに接地端Te側に排出しうる。
【0032】
上述の作用をより効果的に発揮させさるため、前記溝幅W2は、好ましくは5mm以上、より好ましくは8mm以上が望ましく、また好ましくは15mm以下、より好ましくは12mm以下の範囲であることが望ましい。また、同様の観点より、傾斜主溝4の溝深さ(図示省略)は、6〜12mmが望ましい。
【0033】
前記ショルダーブロック6は、該ショルダーブロック6のタイヤ回転方向先着側のブロック縁である先着側縁6sが、平面視が滑らかな曲線(本実施形態では1つの曲線)で形成される。このような先着側縁6sは、ショルダーブロック6の剛性を高く確保するとともに、傾斜主溝4の排水及び排雪抵抗を小さくするため、操縦安定性能、氷路性能、排水性能及び雪路性能をバランス良く向上する。
【0034】
図2に示されるように、前記先着側縁6sは、該先着側縁6sと前記クラウン主溝3の溝縁(本実施形態では、接地端Te側の溝縁3t)とが交差する第1交点7a、先着側縁6sと接地端Teとが交差する第2交点7b、及び先着側縁6s上かつ第1交点7aと第2交点7bとのタイヤ軸方向長さの中間位置である第3交点7cの3つの交点を有する。このような前記3点を結ぶ仮想円弧Kuは、先着側縁6sの形状と近似した同形状をなすため、この仮想円弧Kuの曲率半径Raを規定することにより、容易に、傾斜主溝4の作用を確認できることが実証されている。
【0035】
そして、この3つの交点7a乃至7cを結ぶ単一の仮想円弧Kuの曲率半径Raが、150〜250mmで形成される必要がある。前記曲率半径Raが150mm未満であると、タイヤ軸方向のエッジ成分が小さくなり、雪路や氷路でのトラクションが低下し、雪路性能や氷路性能が悪化する他、ショルダーブロック6の剛性が低下する。逆に、前記曲率半径Raが250mmを超えると、タイヤの回転を利用した整流効果が発揮されず、排水抵抗が悪化する。このように、前記曲率半径Raを150〜250mmの範囲に設定すると、操縦安定性能、氷路性能、排水性能及び雪路性能がさらにバランス良く向上する。このような作用をより効果的に発揮させるため、前記曲率半径Raは、好ましくは170mm以上が望ましく、また好ましくは230mm以下が望ましい。
【0036】
また、本実施形態のショルダーブロック6には、先着側縁6sからのびる溝及びサイピングが形成されていない。このようなショルダーブロック6は、とりわけ先着側縁6sを含むその近傍の剛性が大きく確保され、トラクション力が高く維持されるため、操縦安定性能や氷路性能及び雪路性能が向上する。
【0037】
上述の作用をより効果的に発揮させるため、本実施形態のショルダーブロック6は、先着側縁6sからタイヤ回転方向後着側に4mm以内、より好ましくは6mm以内の先着側領域6Eには、溝及びサイピングが形成されていないのが望ましい。
【0038】
また、本実施形態のショルダーブロック6は、タイヤ回転方向後着側のブロック縁である後着側縁6kからタイヤ回転方向先着側に向かってのびかつショルダーブロック6内で終端する副溝8が形成される。このような副溝8は、該副溝8内の水の流れを、回転方向後着側に限定する。これにより、副溝8は、水の整流効果を発揮して、ショルダーブロック6と路面との間の水膜を、タイヤの回転力を利用してさらにスムーズに接地端Te側に排水するため、排水性能がさらに向上される。
【0039】
また、副溝8の回転方向の先着側の端部8aと、該端部8aとタイヤ回転方向の先着側で隣り合う傾斜主溝4との最短距離L2が大きくなると、ショルダーブロック6と路面との間の水膜を効果的に集めることができないおそれがある。逆に、前記最短距離L2が小さくなると、前記端部8aと傾斜主溝4との間のブロック剛性が小さくなる他、早期の摩耗により、副溝8が傾斜主溝4に貫通し、上述の水の整流効果が発揮されないおそれがある。このため、前記最短距離L2は、ショルダーブロック6の接地端Te上でのタイヤ周方向長さL3の好ましくは8%以上が望ましく、また好ましくは23%以下が望ましい。
【0040】
また、副溝8は、本実施形態では、タイヤ回転方向後着側に向かってタイヤ軸方向外側に傾斜するのが望ましい。このような副溝8は、さらに効果的にショルダーブロック6と路面との間の水膜を接地端Te側に排出させる。
【0041】
本実施形態の副溝8は、タイヤ回転方向後着側に向かって溝幅W3(図1に示す)が漸増する。これにより、副溝8内の水が、より一層円滑に接地端Te側に排出される。
【0042】
このような副溝8の溝幅W3は、排水性能と操縦安定性能とをバランス良く高めるため、3.5〜7.5mmが望ましい。なお、前記溝幅W3は、副溝8の長手方向の中間位置での溝幅とする。また、同様の観点より、副溝8の前記中間位置での溝深さD3(図3(b)に示す)は、3.5〜8.5mmが望ましい。
【0043】
また、前記ショルダーブロック6は、副溝8の両溝縁8e、8eを滑らかに前記先着側縁6sまで延長した仮想副溝8vと、クラウン主溝3と、傾斜主溝4とで区分される仮想内側片10、及び、該仮想内側片10よりもタイヤ軸方向外側に形成され、かつ仮想副溝8vと、前記接地端Teと、傾斜主溝4とで区分される仮想外側片11に区分される。そして、仮想外側片11のタイヤ周方向最大長さLaと、タイヤ軸方向最大長さWaとの比La/Waは、仮想内側片10のタイヤ周方向最大長さLbと、タイヤ軸方向最大長さWbとの比Lb/Wbの0.45〜0.75倍であるのが望ましい。即ち、仮想外側片11の前記比La/Waが、仮想内側片10の前記比Lb/Wbよりも過度に大きくなると、仮想外側片11の横剛性が小さくなり、操縦安定性能が悪化し易くなる。逆に、仮想外側片11の前記比La/Waが、仮想内側片10の前記比Lb/Wbよりも過度に小さくなると、仮想内側片10の横剛性が小さくなるとともに、副溝8が、タイヤ赤道C側に配されることになり、トラクションの低下や排水及び排雪抵抗の増加が生じ易くなる。このため、前記比La/Waは、好ましくは前記比Lb/Wbの0.50倍以上が望ましく、また好ましくは0.70倍以下であるのが望ましい。
【0044】
また、図1に示されるように、前記サイピングSは、ジグザグ状にのびるジグザグサイプS1と、該ジグザグサイプS1のタイヤ軸方向外側であって前記接地端Teに最も近い位置に配されかつタイヤ軸方向に直線状にのびる直線サイプS2とを含む。
【0045】
本実施形態のジグザグサイプS1は、一端が少なくともクラウン主溝3又は副溝8に接続されるセミオープンタイプ又はオープンタイプのサイピングとして形成される。このようなジグザグサイプS1は、エッジの実長さが大きくなり、ショルダーブロック6及びクラウン陸部5の剛性を緩和してさらにエッジ効果を発揮させ、氷路性能を高めるのに役立つ。
【0046】
また、ジグザグサイプS1は、本実施形態では、図3(a)に示されるように、トレッド部2の表面で開口するサイピングの開口縁形状が、曲線状又は折れ線状(本例では折れ線状)のジグザグ部分を有するとともに、深さ方向では、前記開口縁形状を実質的に保持しつつサイピングの長さの方向に変位し、かつこの変位をブロックの一端側と他端側とに交互に繰り返される、いわゆるミウラ折状に形成されるのが望ましい。このようなミウラ折状のサイピングは、向き合うサイピング面の凹凸が互いに噛み合うことにより大きな位置ズレを防ぎ、ひいてはサイピング間のブロック片の一体性を高めてブロックの剛性を確保し、操縦安定性能を向上しうる。
【0047】
図2に示されるように、ショルダーブロック6に配されたジグザグサイプS1(以下、このようなジグザグサイプを「ショルダージグザグサイプ15」という)は、本実施形態では、前記傾斜主溝4に沿ってのびかつタイヤ周方向に複数本(本実施形態では、4本)隔設される。これにより、タイヤ軸方向に対するエッジ効果が大きく発揮されて、トラクションが高められるため、氷路性能や雪路性能がさらに向上する。
【0048】
図3(a)及び図3(b)に示されるように、本実施形態のショルダージグザグサイプ15は、その長手方向の略中央にサイプ深さを小さくするタイバー16が設けられるのが望ましい。これにより、雪や氷の目詰まりが抑制され、さらに雪路性能や氷路性能が向上される。このようなタイバー16は、雪や氷の目詰まりが生じ易いタイヤ周方向の両端のジグザグサイプ15a(図2に示す)に設けられるのが望ましい。
【0049】
上述の作用を効果的に発揮させるため、前記ジグザグサイプ15aのタイバー16が設けられる位置でのサイプ深さD4bは、ジグザグサイプ15aの最大サイプ深さD4aの好ましくは、0.25〜0.55倍が望ましく、また、タイバーの長手方向の長さW4は、ジグザグサイプ15aの長手方向の長さL4の0.1〜0.3倍が望ましい。
【0050】
前記直線サイプS2は、本実施形態では、両端がショルダーブロック6内で終端するクローズドタイプをなす。このような直線サイプS2は、旋回時に最も大きな横力が作用する接地端Te近傍のブロック剛性を大きく維持し、操縦安定性能の低下を抑制するのに役立つ。なお、直線サイプS2は、ミウラ折状のサイピングに変更されても良い。
【0051】
また、図1に示されるように、前記クラウン陸部5には、クラウン主溝間3、3を継ぐクラウン傾斜溝13が設けられる。
【0052】
本実施形態のクラウン傾斜溝13は、タイヤ軸方向に対し一方側(図1では右上がり)に傾斜してのびる第1クラウン傾斜溝13aと、該第1クラウン傾斜溝13aとはタイヤ軸方向に対し他方側(図1では左上がり)に傾斜してのびる第2クラウン傾斜溝13bとからなる。これにより、クラウン陸部5は、平面視、略三角形状のブロックが区分される。
【0053】
本実施形態の第1クラウン傾斜溝13a及び第2クラウン傾斜溝13bは、夫々、そのタイヤ回転方向先着側からタイヤ回転方向後着側へ、溝幅が漸増する。そして、第1クラウン傾斜溝13a及び第2クラウン傾斜溝13bの回転方向後着側の端部とクラウン主溝3との交差部は、前記傾斜主溝4の溝中心線4Gと交わる。これにより、クラウン陸部5と路面との間の水膜がクラウン主溝3を介して傾斜主溝4から接地端Te側へスムーズに排出されるため、排水性能が向上する。
【0054】
上述の作用を効果的に発揮しつつ、クラウン陸部5の剛性を確保して氷路性能や操縦安定性能を維持するために、クラウン傾斜溝13の溝幅W5は、好ましくは前記傾斜主溝4の溝幅W2の55%以上が望ましく、また好ましくは95%以下が望ましい。また、クラウン傾斜溝13の溝深さD5(図示省略)は、2〜8mmが望ましい。
【0055】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0056】
図1に示されるトレッド部の基本構成を有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤが表1の仕様に基づき試作され、それらの各性能について以下のテストがされた。なお、共通仕様は以下の通りである。
トレッド接地幅TW:150mm
<クラウン主溝>
溝幅W1/トレッド接地幅TW:5.0〜6.5%
溝深さ:8.5mm
<傾斜主溝>
溝幅W2:5〜15mm
溝深さ:4.5〜8.5mm
<副溝>
溝幅W3:3.5〜7.5mm
溝深さD3:7.5mm
<第1及び第2クラウン傾斜溝>
溝深さ:3.5mm
その他
<サイピング>
最大サイプ深さD4a:4.0〜8.0mm
【0057】
<雪路性能・氷路性能・操縦安定性能(乾燥路)>
各試供タイヤを、15×6JJのリム、210kPaの内圧条件下で、排気量2000ccの前輪駆動車の全輪に装着して雪路・氷路・乾燥路(アスファルト路面)のテストコースをドライバー1名乗車で走行し、ハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する走行特性がドライバーの官能評価により評価された。結果は、比較例1を100とする評点で表示している。数値が大きいほど良好である。
【0058】
<雪路性能(トラクション)>
上記テスト車両にて、雪路のテストコースを直線で50m走行したときの走行時間が測定された。結果は、比較例1の走行時間の逆数を100とする指数で表示している。数値が大きいほど良好である。
【0059】
<排水性能(ラテラル・ハイドロプレーニングテスト)>
上記テスト車両にて、半径100mのアスファルト路面に、水深10mm、長さ20mの水たまりを設けたコース上を、速度を段階的に増加させながら前記車両を進入させ、横加速度(横G)を計測し、55〜80km/hの速度における前輪の平均横Gが算出された。結果は、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど良好である。
テストの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】


【0061】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例に比べて各種性能が向上していることが確認できる。
【符号の説明】
【0062】
2 トレッド部
3 クラウン主溝
4 傾斜主溝
6 ショルダーブロック
6s 先着側縁
7a 第1交点
7b 第2交点
7c 第3交点
Ku 仮想円弧
S サイピング
Te 接地端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転方向が指定された空気入りタイヤであって、
トレッド部に、タイヤ赤道の両側に設けられかつタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝と、該クラウン主溝からタイヤ回転方向後着側に向かってタイヤ軸方向外側に傾斜しかつトレッド部の接地端を越えてのびる傾斜主溝と、サイピングとを具え、
前記傾斜主溝は、タイヤ周方向に対する角度が、45〜85°であり、
前記クラウン主溝と前記傾斜主溝と前記接地端とで区分されたショルダーブロックのタイヤ回転方向先着側のブロック縁である先着側縁は、平面視が滑らかな曲線からなり、かつ、
前記先着側縁と前記クラウン主溝の溝縁とが交差する第1交点、前記先着側縁と接地端とが交差する第2交点、及び前記先着側縁上かつ前記第1交点と第2交点とのタイヤ軸方向長さの中間位置である第3交点の3つの交点を結ぶ仮想円弧の曲率半径が、150〜250mmであり、
しかも、前記ショルダーブロックには、前記先着側縁からのびる溝及びサイピングを有しないことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記クラウン主溝は、タイヤ赤道からトレッド接地幅の2.5〜20%の距離を隔てた位置に溝中心線が設けられる請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ショルダーブロックは、前記先着側縁からタイヤ回転方向後着側に4mm以内の先着側領域には、溝及びサイピングを有しない請求項1又は2記載の空気入りタイヤ
【請求項4】
前記傾斜主溝の溝幅は、5〜15mmである請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ショルダーブロックは、タイヤ回転方向後着側のブロック縁である後着側縁からタイヤ回転方向先着側に向かってのびかつ前記ショルダーブロック内で終端する副溝が設けられる請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ショルダーブロックは、前記副溝の両溝縁を滑らかに前記先着側縁まで延長した仮想副溝と、前記クラウン主溝と、前記傾斜主溝とで区分される仮想内側片、
及び、該仮想内側片よりもタイヤ軸方向外側に形成され、かつ前記副溝と、前記接地端と、前記傾斜主溝とで区分される仮想外側片に区分したときに、
前記仮想外側片のタイヤ周方向最大長さLaと、タイヤ軸方向最大長さWaとの比La/Waは、前記仮想内側片のタイヤ周方向最大長さLbと、タイヤ軸方向最大長さWbとの比Lb/Wbの0.45〜0.75倍である請求項5に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−91479(P2013−91479A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236340(P2011−236340)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)