説明

空気入りタイヤ

【課題】 ダンピング性能を改善した乗り心地を向上する。
【解決手段】 カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内方に配されるベルト層に、単線のスチールからなりかつ減衰比ζが0.018〜0.025のベルトコード9を用いてなる空気入りタイヤである。このようにベルトコードの減衰比ξを限定したことにより、タイヤのダンピング性能を改善でき、乗り心地が向上する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ダンピング性能を改善することにより乗り心地を向上しうる空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、世界的に車両の低燃費化に対する社会的要求が高まっており、そのために転がり抵抗を低減した低燃費タイヤの開発が盛んに行われている。転がり抵抗を低減する手段の一つとしてタイヤの軽量化が挙げられる。このタイヤの軽量化の手法として、近年ではラジアルタイヤのベルト層に使用されているベルトコードの構成を見直すことが行われている。
【0003】ラジアルタイヤのベルト層は、放射状にのびるカーカスコードをタガのように締め付けるべく、ベルトコードをタイヤ周方向に対して比較的浅い角度で配列して形成される。従来、この種のベルト層のベルトコードには、複数本のスチール素線を撚り合わせたスチールコードが採用されていたが、タイヤ重量の軽量化に伴い、ベルトコードに1本のスチール素線からなるいわゆる単線コードを用いたものが種々提案されている。
【0004】ところが、ベルトコードにこのような単線コードを用いると、本発明者らの種々の実験の結果、乗り心地が悪化するという問題があり、その乗り心地の悪化をさらに詳細に調べたところ、ダンピング性能の悪化が原因となっていることを突き止めたのである。
【0005】ここで、ダンピング性能とは、タイヤの振動の収まり易さをいい、ダンピング性能が悪化すると、振動が収まらずに長続きし、いわゆるブルブル感により乗員に不快感を与える。
【0006】本発明者らは、低燃費化の要請に応えつつタイヤのダンピング性能を向上するために鋭意研究を重ねたところ、単線コードからなるベルトコードの減衰比ζが、タイヤのダンピング性能に大きく影響していることを見出し、またこのベルトコードの減衰比ζを一定の範囲に規制することにより、単線コードをベルトコードに用いたタイヤにおいて、操縦安定性などを損なうことなくダンピング性能を向上しうることを見出し本発明を完成させたのである。
【0007】以上のように本発明は、操縦安定性を損なわず、ダンピング性能の改善により乗心地性能を向上しうる空気入りタイヤの提供を目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアの回りで折り返されるカーカスと、このカーカスの半径方向外側かつトレッド部の内方に配されるベルト層とを具えるとともに、前記ベルト層は、単線のスチールからなりかつ減衰比ζが0.018〜0.025のベルトコードを用いてなる空気入りタイヤである。
【0009】また請求項2記載の発明は、前記ベルトコードの素線径dは、0.40〜0.50mmであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0010】また請求項3記載の発明は、前記ベルトコードは、予め螺旋状に波付けされ、かつその波高さHと螺旋ピッチPとの比である波付け比(H/P)が、0.01〜0.03であることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤである。
【0011】ここで、ベルトコードの減衰比ζの測定方法は次の通りである。まず図3に示すように、ダイナミックシグナルアナライザ20(ヒューレットパッカード社製3562A)と、ダンテック(DANTEC)社製のタイプ55N21 トラッカー メインユニット21と、オシロスコープ(SS−5410 シンクロスコープ)22と、レーザドップラ速度計23とを配線接続する。
【0012】ベルトコードは、サンプルsの長さを300mm+2α(α=約10mm)とし、このサンプルsを300mm離れて配置された支持具24、24の上部V字底間に架け渡し、該支持具24、24から夫々外にはみ出した長さαの部分の端に500gの重り25、25を取付け、ベルトコードのサンプルsに張りを与える。なおベルトコードの振動の変位をレーザを使用して測定するために、サンプルsの長さ方向中央に5mm四方の反射テープ(例えば住友3M社製)26を貼り付けておく。
【0013】振動は、サンプルsの一方の端(前記支持具24に引掛かっている部分をこのサンプルsの端とする)から50mm離れた部位に長さ50mmの糸27を付け、この糸27の下端部を手で持ち20mm下方に引張って放すことにより与える。
【0014】振動の測定結果は、例えば図4に示すように、振幅は時間の経過とともに減少していく。そして、このこれから下記の式により減衰比(ζ)を求める。
【0015】減衰比(ζ)=〔1/{2π(n−1)}〕×ln(ω1/ωn)
ω1:振動入力後、100m秒時の波の高さωn:振動入力後、160m秒時の波の高さn:振動入力後、100m秒時から160m秒時までの波の個数(例えば図5ではn=7)
この式で得られる減衰比ζは、数値が大きいほど振動を収めやすいものとなる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、ビードコア2を有する一対のビード部3と、各ビード部3から半径方向外方にのびるサイドウォール部4と、このサイドウォール部4の外端間を継ぐトレッド部5とを具え、本例では乗用車用タイヤを例示している。
【0017】また空気入りタイヤ1は、トレッド部5からサイドウォール部4をへてビード部3のビードコア2の廻りでタイヤ軸方向内から外に折返されて係止されるカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部5の内方に配されるベルト層7とを具えている。
【0018】前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ赤道Cに対して60〜90度、好ましくは75〜90度の角度で配列したいわゆるラジアル又はセミラジアル構造の1枚以上のカーカスプライからなり、カーカスコードとしてポリエステル、ナイロン、レーヨン等の有機繊維コードが好ましく採用される。
【0019】前記ベルト層7は、スチールからなるベルトコード9(図2に示す)をタイヤ赤道Cに対して比較的浅い角度、例えば15〜35度の角度で配列した1枚以上、本形態では内外2枚のベルトプライ7A、7Bから形成され、各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコード9がプライ相互間で交差するように向きを違えて重置されている。
【0020】そして、本発明では前記ベルト層7は、図2R>2に示すように、単線のスチールからなりかつ減衰比ζが0.018〜0.025のベルトコード(いわゆる1×1構造)を用いることを特徴としている。このように、ベルト層7に、単線のスチールからなりかつ減衰比ζが0.018〜0.025のベルトコード9を用いることによって、操縦安定性を損なわず、ダンピング性能を改善して乗心地性能を向上することが可能となる。
【0021】なお本発明者らが従来から提案されている単線のベルトコードの減衰比ζを調べたところ、概ね減衰比ζは0.007〜0.012の範囲であった。このように、本発明のベルトコード9の減衰比ζは、従来の単線のベルトコードの減衰比ζに比べて1.5倍以上であり、非常に大きく設定されていることが判る。
【0022】そして、前記ベルトコード9の減衰比ζが、0.018よりも小さいと、乗り心地を柔らかくすることはできるが、ダンピング性能が悪く、いつまでも振動が収まらずブルブル感が残るため、トータル的な乗り心地が損なわれる他、ベルトの剛性が低くなる傾向があるため、操縦安定性が鈍くなるという欠点がある。またベルトコード9の減衰比ζが、0.025よりも大きいと、ダンピング性能が向上し、振動の収まりは良くなるとともに剛性が高まり操縦安定性も向上も期待できるが、乗り心地が非常に硬くなるため採用しがたいものとなる。
【0023】好ましくはベルトコード9の減衰比ζは、0.019〜0.025、より好ましくは0.020〜0.025の範囲とするのが良い。これにより、空気入りタイヤのダンピング性能の向上がさらに図られるとともに、操縦安定性と乗り心地とをバランス良く高めることができる。
【0024】このような減衰比ζを有するベルトコードの一例としては、例えば図2(a)、(b)に示すように、素線径dが0.40〜0.50mmのスチール素線を予め螺旋状に波付けし、かつコードの外接円の直径H0 から素線径dを減じた波高さH(つまり、スチール素線の中心間距離)と螺旋ピッチPとの比である波付け比(H/P)が、0.01〜0.03の範囲とすることによって製造しうる。
【0025】このようなベルトコード9において、波付け比(H/P)は操縦安定性、乗り心地、減衰比ζに次のような影響を与える。先ず、波付け比(H/P)を0.01〜0.03の範囲において小さい側にシフトさせていくと、タイヤのレスポンスが良くなり、剛性感を高めることができる利点がある。なおこの場合、乗り心地が多少硬めになるが、減衰比ζを大きくする傾向を伴うため、ダンピング性能が向上し、ブルブル感を与えず、全体的な乗り心地は損なわれない。特に好ましくは、前記減衰比ζが0.020〜0.025、かつ波付け比(H/P)が0.010〜0.020であるのが望ましい。
【0026】また前記波付け比(H/P)を規制するに際して、波高さHは、ベルトコードの素線径dの例えば0.2〜1.0倍の範囲で定めるのが好ましい。
【0027】また、ベルトコード9を予め螺旋状に波付けすることによって、二次元平面で波状に波付けした場合に比べ、コードの外接円が大きくなる。そのため、ベルトコード9を被覆するゴムとの複合材として見た場合、圧縮剛性が高められ、例えばタイヤの8の字旋回テストといった過酷な条件においてもコード切れ等を抑制しコードの耐久性を向上しうる点で好ましいものとなる。さらに本発明のベルトコード9は、単線のスチールからなるため、複数本の素線を撚り合わせたコードに比べて、コード周囲へのゴム付着性が向上するため、水分がコードに直接浸入するのを効果的に防止でき、錆び付き等による耐久性低下をも防止しうる。
【0028】なお2本以上のスチール素線を撚り合わせたベルトコードにおいても、減衰比ζを0.012〜0.025の範囲に設定することもできるが、この場合にはコード径が大きくなりやすいため、カレンダによるトッピングゴムのゲージが厚くなりタイヤの重量増加を招く傾向があるため不適となる。
【0029】以上詳述したが、本発明のベルトコードは、例えば螺旋状に波付けして減衰比を規制する際、そのコードの外接円が図示したように実質的に円をなすものの他、楕円状にも形成しうる。
【0030】
【実施例】タイヤサイズが175/65R14の乗用車用空気入りラジアルタイヤを表1に示す仕様にて試作し(ベルト層は、2枚からなり各タイヤともベルトコードのみ異なる実施例1〜5、従来例、比較例1〜5)、正規リムにリム組して正規内圧を充填したのち、排気量1500ccの国産乗用車の前後輪に装着して実車テスト、8の字旋回テストを行った他、ベルトコードについて圧縮剛性テストを行った。テストの内容は次の通りである。
【0031】〈実車テスト〉テストコースを走行し、ドライバーのフィーリングによって操縦安定性、乗心地、ダンピング性能をそれぞれ評価した。なお操縦安定性能では剛性感を重視し、乗り心地ではブルブル感を重視して評価するとともに、従来例を6とした10段階法(数値が大きいほど良好)で判定した。
【0032】〈8の字旋回テスト〉直径14mの円を二つ合わせた8の字のコースを300回旋回した後、タイヤを解体しベルトコードの切断箇所を数えて評価した。なお荷重は前輪各300kgf、横Gは0.7Gであった。評価は、従来例(コード切れなし)を100とする指数で表示した。数値が大きいほどコード切れが少なく良好であることを示す。
【0033】〈圧縮剛性テスト〉直径25mm、高さ25mmの円柱のゴム中にベルトコード1本を高さ方向に沿って埋め込んだサンプルを製造し、インテスコ社製の引張試験機にてサンプルを高さ方向に1mm圧縮するときに要する力を測定し、この値を圧縮剛性として評価した。圧縮剛性が大きいほど、例えば8の字旋回テストなどに有利となる
【0034】なおテスとしたスチール素線のうち、実施例、比較例はともに、3100〜3200 N/mm2 の耐力を有するSHT(Super High Tension)材を用いた、また従来例のベルトコードは、ノーマル材を用いた。またベルトコードの打ち込み本数(エンズ)は、各タイヤとも共通である。テストの結果を表1に示す。
【0035】
【表1】


【0036】テストの結果、実施例1〜4は従来例に比べ操縦安定性、乗り心地をバランス良く向上していることが確認できる。特に、減衰比が0.020〜0.025の範囲が好ましいことが判る。また波付け比(H/P)が0.010〜0.030、好ましくは0.010〜0.020の範囲が望ましいこととも判る。なお減衰比を大きくした比較例1では、ダンピング性能は良いが乗り心地が硬すぎる。
【0037】また減衰比を小さくした比較例2ないし5では、乗り心地がソフトになる反面、ブルブル感が持続するためトータル的な乗り心地が損なわれるため好ましくなかった。また、実施例/従来例のタイヤ重量比は、0.96であり軽量化が達成されていることも確認できた。
【0038】
【発明の効果】叙上の如く本発明の空気入りタイヤは、ベルト層に単線かつスチールからなるベルトコードを用いた低燃費を図りうるタイヤにおいて、減衰比ζが0.018〜0.025のベルトコードを用いることにより、タイヤのダンピング性能を改善して振動の収まり具合を最適なものとし、操縦安定性能を損なうことなく乗心地性能を向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すタイヤ右半分子午断面図である。
【図2】(a)は、ベルトコードの一例を概念的に示す平面図、(b)は、そのAないしE部の断面図である。
【図3】減衰比ζを測定する方法を説明するための線図である。
【図4】その測定結果の一例を示す線図である。
【符号の説明】
2 ビードコア
3 ビード部
4 サイドウォール部
5 トレッド部
6 カーカス
7 ベルト層
9 ベルトコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアの回りで折り返されるカーカスと、このカーカスの半径方向外側かつトレッド部の内方に配されるベルト層とを具えるとともに、前記ベルト層は、単線のスチールからなりかつ減衰比ζが0.018〜0.025のベルトコードを用いてなる空気入りタイヤ。
【請求項2】前記ベルトコードの素線径dは、0.40〜0.50mmであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】前記ベルトコードは、予め螺旋状に波付けされ、かつその波高さHと螺旋ピッチPとの比である波付け比(H/P)が、0.01〜0.03であることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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