説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】本発明の目的は、乗り心地性能および耐久性能を高度に維持しながら操縦安定性をさらに向上させることが可能な空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【解決手段】本発明の空気入りラジアルタイヤは、ウィング部を備える空気入りラジアルタイヤであって、該ウィング部は、ゴム成分と、このゴム成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の繊維状フィラーと、を含むウィング用ゴム組成物により形成され、かつ、該ウィング部は、温度70℃、周波数10Hz、動歪±2%で測定されるタイヤ周方向の複素弾性率E*aとタイヤラジアル方向の複素弾性率E*bとの比E*a/E*bが1.5以上に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の耐久性能の向上に伴い、タイヤに対する耐久性能(特に耐摩耗寿命)の向上が要求されている。この要求に応える試みの一つとして、タイヤの溝深さを深く設計することが挙げられる。これにより、タイヤの耐摩耗寿命をある程度長くすることは可能であるが、溝が深くなることに伴いトレッドのブロックの変形歪が大きくなり易く、偏摩耗が発生し易くなる。
【0003】
この問題を解決するためには、トレッド部のゴム硬度を向上させることが考えられるが、単にトレッド部のゴム硬度を向上させただけではタイヤのグリップ力や乗り心地が悪化し、タイヤの商品価値は低下する。
【0004】
そこで、これらの点を改良するべくタイヤのトレッド部の複素弾性率を規定したり(特許文献1)、トレッドゴムやサイドウォールゴムに紙繊維を配合する(特許文献2)ことが提案されているが、昨今の自動車の性能向上に伴いさらに乗り心地性能、耐久性能、および操縦安定性を向上させることが要求されている。
【特許文献1】特開2006−213193号公報
【特許文献2】特開2006−306955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、乗り心地性能および耐久性能を高度に維持しながら操縦安定性をさらに向上させることが可能な空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ウィング部を備える空気入りラジアルタイヤであって、該ウィング部は、ゴム成分と、このゴム成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の繊維状フィラーと、を含むウィング用ゴム組成物により形成され、かつ、該ウィング部は、温度70℃、周波数10Hz、動歪±2%で測定されるタイヤ周方向の複素弾性率E*aとタイヤラジアル方向の複素弾性率E*bとの比E*a/E*bが1.5以上に設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、上記ウィング用ゴム組成物に含まれる上記ゴム成分は、天然ゴムと合成ゴムとを含み、天然ゴムに対する合成ゴムの配合比率が0質量%以上100質量%以下であるものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、上記の構成を有することにより、乗り心地性能および耐久性能を高度に維持しながら操縦安定性をさらに向上させたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<空気入りラジアルタイヤ>
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ウィング部を備えたものである。すなわち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、このようなウィング部を備える限り、従来公知のいかなる構造を有する空気入りラジアルタイヤをも含むものである。
【0010】
ここでウィング部とは、タイヤにおいて路面と接するトレッド部に対してタイヤ側面方向に隣接する部位であり、タイヤ半径方向内方に延びる側面を形成するサイドウォール部とこのトレッド部との間に位置する部位をいう。このようなウィング部を備える空気入りラジアルタイヤを図1を例示しつつ説明する。
【0011】
すなわち、このような空気入りラジアルタイヤ1は、図1に例示されるように、トレッド部2と、そのトレッド部2に対してタイヤ側面方向において隣接する一対のウィング部10と、その各ウィング部10に接してタイヤ半径方向内方に延びるサイドウォール部3と、各サイドウォール部3の内方端に位置するビード部4とを備える構造を有するのが一般的である。そして、それらのビード部4間にはカーカス6が架け渡されるとともに、このカーカス6の外側かつトレッド部2の内側にはタガ効果を有してトレッド部2を補強するベルト層7が配される。
【0012】
上記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ赤道COに対して、たとえば70〜90°の角度で配列する1枚以上のカーカスプライから形成され、このカーカスプライは、上記トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5の廻りをタイヤ軸方向の内側から外側に折返されて係止される。
【0013】
上記ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ赤道COに対して、たとえば40°以下の角度で配列した2枚以上のベルトプライからなり、各ベルトコードがプライ間で交差するよう向きを違えて重置している。
【0014】
またビード部4には、上記ビードコア5から半径方向外方に延びるビードエイペックスゴム8が配されるとともに、カーカス6の内側には、タイヤ内腔面をなすインナーライナゴム9が隣設され、カーカス6の外側は、クリンチゴム4Gおよびサイドウォールゴム3Gで保護される。
【0015】
このような本発明の空気入りラジアルタイヤは、乗用車用、トラック・バス用、重機用等、種々の用途に適用され得る。
【0016】
<ウィング部>
本発明のウィング部は、ゴム成分と、このゴム成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の繊維状フィラーと、を含むウィング用ゴム組成物により形成され、かつ、このウィング部は、温度70℃、周波数10Hz、動歪±2%で測定されるタイヤ周方向の複素弾性率E*aとタイヤラジアル方向の複素弾性率E*bとの比E*a/E*bが1.5以上に設定されている。なお、タイヤラジアル方向とは、タイヤ周方向に対して直角となる方向をいう。
【0017】
一般に自動車の操縦安定性を向上させるためにはタイヤを高剛性化することが有効であるが、単に高剛性化するのみでは乗り心地性能を低下させてしまう危険性がある。そこで本発明は、当該ウィング部においてタイヤ周方向の高剛性化を行なって操縦安定性を確保するとともに、タイヤラジアル方向においてはタイヤ周方向に比べて比較的低剛性とすることにより乗り心地性能を向上させ、かつこれらのバランスを維持しつつ耐久性能を向上させようとするものである。そして、このような諸特性の向上を単に複素弾性率の制御のみにより達成するのではなく当該部位を構成するゴム組成物の組成を選択することにより、これら両者の相乗作用によって達成したものである。これにより、路面の凹凸による振動を効果的に吸収し極めて良好な乗り心地性能を確保することができ、以って本発明の空気入りラジアルタイヤにおいては乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させるとともに耐久性能の向上をも達成したものである。
【0018】
複素弾性率の比E*a/E*bが1.5以上である場合、乗り心地性能と操縦安定性とがいずれも良好であり、かつ性能のバランスも良好となる。このE*a/E*bは、さらに1.6以上とされることが特に好ましく、また10以下、さらに9以下とされることが特に好ましい。E*a/E*bが10以下であれば、タイヤ周方向とタイヤラジアル方向とが極端に高剛性または低剛性になることがなく、乗り心地性能および操縦安定性が両立できるとともに耐摩耗性等の耐久性能の極端な低下が回避される。
【0019】
本発明においては、上記の複素弾性率E*aが10MPa以上50MPa以下であることが好ましい。E*aが10MPa以上である場合ウィング部は十分な剛性を有するために操縦安定性が良好となり、50MPa以下である場合乗り心地性能および耐久性能を損なうおそれが少ない。また本発明においては、上記の複素弾性率E*bが4MPa以上11MPa以下であることが好ましい。E*bが4MPa以上である場合、操縦安定性が良好であり、E*bが11MPa以下である場合、乗り心地性能および耐久性能を損なうおそれが少ない。
【0020】
なお、このようなウィング部におけるタイヤ周方向とタイヤラジアル方向との複素弾性率の異方性は、たとえばウィング用ゴム組成物の押出し条件の調整によりウィング用ゴム組成物中の繊維状フィラーの配向状態を制御する方法等によって任意に設定することができる。具体的には、たとえばウィング部中の繊維状フィラーをタイヤ周方向に配向させることにより、タイヤ周方向がタイヤラジアル方向に比べてより高剛性となるように異方性を制御することができる。
【0021】
<ウィング用ゴム組成物>
上記ウィング部を形成するウィング用ゴム組成物は、ゴム成分と、このゴム成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の繊維状フィラーとを含む。このようなウィング用ゴム組成物は、ゴム成分と繊維状フィラーとを含む限り他の成分を含んでいても差し支えない。
【0022】
<ゴム成分>
上記ウィング用ゴム組成物に含まれるゴム成分は、天然ゴムと合成ゴムとを各単独であるいは両者を混合して含むことができる。そして、天然ゴムと合成ゴムとの配合比率は、特に天然ゴムに対する合成ゴムの配合比率を0質量%以上100質量%以下とすることが好ましい。このような配合比率を採用することにより、操縦安定性と乗り心地性能とを両立させかつ耐久性能をも向上させるという本発明の特性の発現に極めて効果的に寄与することができる。合成ゴムの配合比率が100質量%を超える場合にはこのような特性の発現が困難となる場合がある。
【0023】
天然ゴムに対する合成ゴムの配合比率は、より好ましくはその上限が90質量%、さらに好ましくは80質量%であり、その下限が10質量%、さらに好ましくは20質量%である。
【0024】
ここで、上記天然ゴムとしては、従来天然ゴムとして知られるものであればいずれのものも含まれ、原産地等は限定されない。このような天然ゴムは、シス1,4ポリイソプレンを主体として含むが、トランス1,4ポリイソプレンを含むこともできる。したがって、上記天然ゴムには、シス1,4ポリイソプレンを主体として含む天然ゴムの他、たとえば南米産アカテツ科のゴムの一種であるバラタ等、トランス1,4イソプレンを主体として含む天然ゴムも含まれる。このような天然ゴムを1種または2種以上含むことができる。
【0025】
なお、このような天然ゴムには、上記のような天然ゴムを変性または精製した変性天然ゴムも含まれる。たとえば、エポキシ化天然ゴム(ENR)、脱蛋白天然ゴム(DPNR)等が含まれる。
【0026】
一方、上記合成ゴムとしては、たとえばスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、イソブチレンとp−メチルスチレンとの共重合体のハロゲン化物などを挙げることができる。このような合成ゴムを1種または2種以上含むことができる。
【0027】
なお、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とは、エチレン−プロピレンゴム(EPM)に第三ジエン成分を含むものである。ここで第三ジエン成分としては、たとえば炭素数5〜20の非共役ジエンが挙げられ、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンおよび1,4−オクタジエンや、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエンなどの環状ジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネンおよび2−イソプロペニル−5−ノルボルネンなどのアルケニルノルボルネン等が好ましく例示できる。特に、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等は好ましく使用され得る。
【0028】
<繊維状フィラー>
本発明のウィング用ゴム組成物に含まれる繊維状フィラーは、上記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の配合比率で含まれる。繊維状フィラーの配合比率が2質量部以上であれば、ウィング部の補強効果が十分に得られ、20質量部以下であれば、ウィング部が硬くなり過ぎることによる乗り心地性能の悪化、および引張強度の低下等による耐久性能の低下を防止できる。繊維状フィラーの配合比率はより好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは4質量部以上とされ、また15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下とされることが好適である。
【0029】
このようにウィング部に繊維状フィラーを含有させることにより、主としてウィング部のタイヤ周方向の剛性(とりわけタイヤショルダー部の耐偏摩耗性能の向上)を有効に向上させることにより上記のような諸特性の発現に寄与することができる。そして、繊維状フィラーの種類および配合量を適宜設定することにより、このようなウィング部のタイヤ周方向の剛性を簡便かつ任意に制御できる。
【0030】
ここで、本発明で用いられる繊維状フィラーとは、短繊維をいい、たとえば以下のような形状を有していることが好ましい。すなわち、平均長さLが5μm以上であり、かつ平均長さLと平均径Dの比L/Dが10以上である短繊維が好ましい。
【0031】
また、平均長さLは、さらに10〜1000μmの範囲内であることが好ましい。該平均長さLが5μm以上である場合、上記のような優れた諸特性の発現に寄与することができる。また該平均長さLが1000μm以下である場合、ゴム組成物中における繊維状フィラーの分散不良やゴム組成物の物性の不均一が良好に防止される。
【0032】
また繊維状フィラーの平均径Dは、たとえば0.05〜800μmの範囲内、さらに1〜400μmの範囲内、さらに10〜200μmの範囲内とされることが好ましい。該平均径Dが0.05μm以上である場合、上記のような優れた諸特性の発現に寄与することができ、また800μm以下である場合、ゴム組成物中における繊維状フィラーの分散不良やゴム組成物の物性の不均一が良好に防止される。
【0033】
そして、本発明においては、該平均長さLと該平均径Dとの比L/Dが10以上、さらに20〜2000の範囲内であることが好ましい。上記の比L/Dが10以上である場合、上記のような優れた諸特性の発現に寄与することができ、2000以下である場合、ゴム組成物中における繊維状フィラーの分散不良やゴム組成物の物性の不均一が良好に防止される。
【0034】
なお、本発明における繊維状フィラーの平均長さLおよび平均径Dは、たとえば走査型電子顕微鏡を用いて撮影された画像から画像解析によって測定される値より算出する方法で評価される。
【0035】
このような繊維状フィラーとしては、たとえばカーボン繊維、紙繊維、有機繊維等の繊維状フィラーを挙げることができる。ここで、カーボン繊維としては、たとえば単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、炭素繊維等を用いることができる。
【0036】
また、紙繊維としては、クラフトパルプ、セミケミカルパルプ、機械パルプ等のパルプ化法で得られるパルプ、ケナフ、バガス、竹、コットン、海藻等を由来とする非木材パルプ、使用済コピー用紙、古新聞紙、古段ボール紙等の古紙を脱墨して得られる古紙パルプ、等から得られる原料紙の1種または2種以上の混合物を用いて調製されたものを挙げることができる。たとえばクラフト紙粉砕品等の物理的強度が比較的大きい紙繊維が好ましく用いられる。クラフト紙とは、クラフトパルプ(KP)を抄紙して得られる紙の全般を指し、未晒クラフト紙および晒クラフト紙を含む。クラフトパルプは、化学パルプに分類されるものの主流であり、一般に比較的長い繊維長を有することから、クラフト紙は強度に優れる紙として包装用途等に広く使用される。クラフトパルプとしては針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプのいずれも使用できるが、針葉樹クラフトパルプは繊維長が比較的長いため好ましい。
【0037】
このようなクラフトパルプは、一般に以下のような方法で製造される。まず原料となるチップの不純物を除去するとともに、厚みや長さ等を一定範囲内に均一化する。次にチップを苛性ソーダ、硫化ソーダ等の薬品で、たとえば150〜160℃程度の高温で蒸煮し、チップ中の主にリグニンを溶出させ、パルプ化する。溶出リグニンおよび薬品をパルプと分離するための洗浄工程を経た後、該パルプをたとえば酸素およびアルカリで処理すること等により、パルプ中の残存リグニンをさらに溶出させる。最後に異物除去、洗浄を行ない、未晒クラフトパルプを得ることができる。未晒クラフトパルプはさらに漂白工程を経ることによって晒クラフトパルプとされることができる。未晒クラフトパルプを抄紙することにより未晒クラフト紙、晒クラフトパルプを抄紙することにより晒クラフト紙をそれぞれ製造することができる。
【0038】
一方、有機繊維としては、たとえばビニロン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等を挙げることができる。
【0039】
<その他の成分>
本発明のウィング用ゴム組成物は、上記の各成分以外に他の成分を含んでいても差し支えない。このような他の成分としては、たとえばカーボンブラック、白色充填剤、シランカップリング剤、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤、加硫助剤、架橋剤、架橋促進剤、老化防止剤、充填剤、ワックス、オイル、軟化剤、可塑剤、カップリング剤等、タイヤ用または一般のゴム組成物用に配合される従来公知の各種配合剤または添加剤を本発明の上記効果が示される範囲内の任意の配合量で配合することができる。
【0040】
本発明においては、上記の各種配合剤の中でも特にシランカップリング剤を配合することが好ましい。このようなシランカップリング剤は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部配合されることが好ましい。これにより、上記繊維状フィラー(特に紙繊維等の多糖に含まれる水酸基)とシランカップリング剤とが反応することにより、ゴム組成物に良好な補強効果がもたらされる。よって、本発明のウィング用ゴム組成物にシランカップリング剤を配合した場合、タイヤの耐摩耗性(すなわち耐久性能)および操縦安定性を顕著に向上させることができる。ゴム成分100質量部に対してシランカップリング剤の配合量が0.1質量部以上である場合、耐摩耗性および操縦安定性の向上効果が良好に得られる。またシランカップリング剤の配合量が5質量部以下である場合、ゴムの混練、押出工程での焼け(スコーチ)が生じる危険性が少ない。シランカップリング剤としては、反応効率、加工時の分散性等の点で特に含硫黄シランカップリング剤が好ましく用いられる。好ましい含硫黄シランカップリング剤としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示される。
【0041】
その他のシランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を使用することができる。
【0042】
本発明では、用途に応じてその他のカップリング剤、例えばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を単独またはシランカップリング剤と併用して使用することも可能である。
【0043】
<製造方法>
本発明の空気入りラジアルタイヤは、上記のウィング用ゴム組成物を用いて、従来公知の方法により極めて良好な加工性で製造される。すなわち、上記構成のウィング用ゴム組成物を混練りし、未加硫の段階でタイヤのウィング部の形状に合わせて押出し加工し、タイヤの他の部材とともに、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の空気入りタイヤを極めて加工性良く得ることができる。
【0044】
なお、上記で説明した通り、このようなウィング部におけるタイヤ周方向とタイヤラジアル方向との複素弾性率の異方性は、たとえばウィング用ゴム組成物の押出し条件の調整によりウィング用ゴム組成物中の繊維状フィラーの配向状態を制御する方法等によって任意に設定することができる。具体的には、たとえばウィング部中の繊維状フィラーをタイヤ周方向に配向させることにより、タイヤ周方向がタイヤラジアル方向に比べてより高剛性となるように異方性を制御することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1〜6および比較例1〜2>
<ウィング用ゴム組成物の作製>
表1に示す配合処方に従い、神戸製鋼所(株)製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進剤を除く配合成分を充填率が58%になるように充填し、回転数80rpmで150℃で5分間混練りした。ついで、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤を表1に示す配合量で加えた後、2軸オープンロールを用いて、90℃で5分間混練りし、実施例1〜6および比較例1〜2の混練り状態のウィング用ゴム組成物を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
表1中、実施例および比較例で使用した各種配合成分の詳細は以下のとおりである。
(1)NR:天然ゴム(タイ製の「RSS#3」)。
(2)BR:ブタジエンゴム(宇部興産社製の「BR150」)。なお、これらのNRとBRとがゴム成分である。
(3)繊維状フィラーA:カーボン繊維。東レ社製の「MLD−300」(平均長さL:130μm、L/D:18.6)。
(4)繊維状フィラーB:紙繊維(クラフト紙粉砕品)。三共精粉社製の「ミルファイブ100」(平均長さL:10μm、L/D:100)。
(5)繊維状フィラーC:有機繊維(ビニロン繊維)。クラレ社製の「クラレビニロン」を冷凍粉砕したもの(平均長さL:200μm、L/D:10)。
(6)カーボンブラック:三菱化学社製の「N220」。
(7)シランカップリング剤:デグサ社製の「Si266」。
(8)アロマオイル:プロセスオイルとして出光興産社製の「ダイアナプロセスAH40」。
(9)ワックス:大内新興化学工業社製の「サンノックN」。
(10)老化防止剤A:精工化学社製の「オゾノン6C」。
(11)老化防止剤B:大内新興化学工業社製社製の「ノクラック224」。
(12)ステアリン酸:日本油脂社製。加硫助剤として作用する。
(13)酸化亜鉛:東邦亜鉛社製の「銀嶺R」。加硫助剤として作用する。
(14)硫黄:鶴見化学社製の粉末硫黄。
(15)加硫促進剤:大内新興化学工業社製の「ノクセラーNS」(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)。
【0049】
<空気入りラジアルタイヤの作製>
上記で得られた各ウィング用ゴム組成物を用いて各ゴムシート(図2に示した断面形状を有し長さが1880mmである形状のもの)を作製後、これを他の部材とともに張り合わせ、150℃で35分間、25kgfでプレス加硫することにより、実施例1〜6および比較例1〜2の空気入りラジアルタイヤ(サイズ:195/65R15)を作製した。
【0050】
このような空気入りラジアルタイヤは、図1に示したような構造を有しており、その詳細は以下の通りである。
【0051】
<空気入りラジアルタイヤの構造>
カーカス:材料 ポリエステル(1500デニール)
構成 1500デニール/2(1670dtex/2)
エンズ 50コード/50mm
ベルト層:材料 スチールコード、
構造 1×4×0.27、エンズ 40コード/50mm
角度 22°×22°
<性能評価>
以下の性能評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0052】
<複素弾性率>
上記で得られた空気入りラジアルタイヤのウィング部から短冊状試料(幅4mm×長さ30mm×厚み1.5mm)を作製し、この試料を用いて岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターにより、温度70℃、周波数10Hz、動歪±2%の条件でタイヤ周方向の複素弾性率E*aとタイヤラジアル方向の複素弾性率E*bとを測定し、これらの比E*a/E*bを求めた。その結果を表1に示す。
【0053】
<引張り強度>
JIS−K6251に従って、上記で得られた混練り状態のウィング用ゴム組成物を160℃で30分間加圧プレスすることによりシート(縦100mm×横100mm×厚み2mm)を作製し、5号ダンベルで打ち抜くことによってサンプルとし、このサンプルを用いて引張試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0054】
<硬度>
上記で得られた混練り状態のウィング用ゴム組成物を160℃で30分間加圧プレスすることによりブロック状サンプル(縦30mm×横50mm×高さ15mm)を作製し、このサンプルを用いてJIS−K6253に従って硬度(Hs)を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
<引張り破断伸び(EB)>
JIS−K6251に従って試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0056】
<操縦安定性および乗り心地性能>
上記で得られた空気入りラジアルタイヤを車に装着し、テストコースにて40〜120km/hで走行し、操縦安定性(ハンドル応答性、剛性感、グリップ性)および乗り心地性能についてテストドライバーによるフィーリング試験を実施した。その試験の評価は10点満点法で行ない、3人のドライバーの平均値を、比較例1の空気入りラジアルタイヤを「6」とする指数により表わした。それぞれ数値が大きいほど操縦安定性および乗り心地性能が良いことを表わす。その結果を表1に示す。
【0057】
<耐久性能>
上記で得られた空気入りラジアルタイヤをタイヤ内圧230kPaで自動車(トヨタ自動車「カローラ」)に装着し、一般道/高速道を距離にして50/50の比率で8000km走行する雨天率30%以下の条件でMIX路摩耗テストを実施し、タイヤショルダー部の偏摩耗の有無を観察することにより耐久性能の評価を行なった。評価は、偏摩耗していないものを「A」、やや偏摩耗しているものを「B」、顕著に偏摩耗しているものを「C」とした(偏摩耗していないものほど耐久性能に優れていることを示す)。その結果を表1に示す。
【0058】
<評価結果>
表1より明らかなように、実施例の空気入りラジアルタイヤは比較例の空気入りラジアルタイヤに比べ、乗り心地性能および耐久性能を高度に維持しながら優れた操縦安定性を示した。したがって、本発明で規定する特定のウィング用ゴム組成物により形成され、かつ、温度70℃、周波数10Hz、動歪±2%で測定されるタイヤ周方向の複素弾性率E*aとタイヤラジアル方向の複素弾性率E*bとの比E*a/E*bが1.5以上に設定されているウィング部を備える空気入りラジアルタイヤは、乗り心地性能および耐久性能を高度に維持しながら優れた操縦安定性を示すことが確認された。
【0059】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの一例を示す概略断面図である。
【図2】ゴムシートの断面形状を示した図である。
【符号の説明】
【0062】
1 空気入りラジアルタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカス、7 ベルト層、8 ビードエイペックスゴム、9 インナーライナゴム、10 ウィング部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィング部を備える空気入りラジアルタイヤであって、
前記ウィング部は、ゴム成分と、このゴム成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下の繊維状フィラーと、を含むウィング用ゴム組成物により形成され、かつ、
前記ウィング部は、温度70℃、周波数10Hz、動歪±2%で測定されるタイヤ周方向の複素弾性率E*aとタイヤラジアル方向の複素弾性率E*bとの比E*a/E*bが1.5以上に設定されている、空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記ウィング用ゴム組成物に含まれる前記ゴム成分は、天然ゴムと合成ゴムとを含み、天然ゴムに対する合成ゴムの配合比率が0質量%以上100質量%以下である請求項1記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−137403(P2009−137403A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314840(P2007−314840)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】