説明

空気入りランフラットタイヤ

【課題】通常走行時の乗心地性とランフラット耐久性を高度に両立することを可能にした空気入りランフラットタイヤを提供する。
【解決手段】サイドウォール部2に断面三日月状の内側補強ゴム層10を配置した空気入りランフラットタイヤにおいて、内側補強ゴム層10のゴム組成物の60℃における動的弾性率が、E'10A<E'10B<E'10C、E'10A≧4.0MPa、tanδが、T10A<T10B<T10C、T10A≦0.06の関係を満たし、外側ゴム層20のゴム組成物の60℃における動的弾性率がE'20B<E'20A≦E'20C、E'20C/E'20B≧1.6の関係を満たし、更に、動的弾性率の比が0.6≦E'20A/E'10A≦1.0、0.6≦E'20C/E'10C≦1.0の関係を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りランフラットタイヤに関し、更に詳しくは、通常走行時の乗心地性とランフラット耐久性とを高度に両立することを可能にした空気入りランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部の内面に断面三日月状の補強ゴム層を挿入し、この補強ゴム層の剛性に基づいてランフラット走行を可能にしたサイド補強型の空気入りランフラットタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなサイド補強型の空気入りランフラットタイヤは、ホイールに装着された中子等の支持体に頼らずにタイヤ構造に基づいてランフラット走行を達成するという利点があるものの、サイドウォール部の剛性が一般のタイヤに比べて高いため通常走行時の乗心地が悪くなるという欠点がある。
【0003】
そのため、近年では、ランフラット耐久性を阻害しない範囲内で補強ゴム層を極力小型化したり、剛性を低減することで、補強ゴム層を有さないタイヤ程度の乗心地性を維持したまま少なくとも最低限度のランフラット耐久性を確保するようにした所謂ソフトランフラットタイヤが採用されるようになってきた。しかしながら、このように補強ゴム層を小型化したり、その剛性を低減したランフラットタイヤでは、ランフラット耐久性が著しく低下する場合もあり、依然としてランフラット耐久性と通常走行時の乗心地性との両立は改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−023823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、通常走行時の乗心地性とランフラット耐久性を高度に両立することを可能にした空気入りランフラットタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りランフラットタイヤは、左右一対のビード部間にカーカス層を装架し、トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を配置すると共に、サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に断面三日月状の内側補強ゴム層を配置した空気入りランフラットタイヤにおいて、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側に位置する外側ゴム層及び前記内側補強ゴム層をそれぞれタイヤ径方向に積層する外径側領域、中間領域、及び内径側領域に分割すると共に、内側補強ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A 、内側補強ゴム層の中間領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10B 、及び内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C がE’10A <E’10B <E’10C 、且つE’10A ≧4.0MPaの関係を満たし、内側補強ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10A 、内側補強ゴム層の中間領域に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10B 、及び内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10C がT10A <T10B <T10C 、且つT10A ≦0.06の関係を満たし、外側ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20A 、外側ゴム層の中間領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20B 、及び外側ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C がE’20B <E’20A ≦E’20C 、且つE’20C /E’20B ≧1.6の関係を満たし、更に、内側補強ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A と外側ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20A との比E’20A /E’10A 及び内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C と外側ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C との比E’20C /E’10C が0.6≦E’20A /E’10A ≦1.0且つ0.6≦E’20C /E’10C ≦1.0の関係を満たすようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、上述のように、外側ゴム層と内側補強ゴム層とをそれぞれ径方向に積層した異なる3種類のゴム組成物から構成し、これらゴム組成物の60℃における動的弾性率E'及びtanδの大小関係を規定することで、通常走行時の乗心地性とランフラット耐久性を向上している。即ち、内側補強ゴム層については、ビード側の内径側領域では同一の外力が作用したときに変形量が大きい引張変形を生じるので、60℃における動的弾性率E’が高いゴム組成物を配置して引張変形を抑制し、また、トレッド側の外径側領域では圧縮変形が生じるものの同一の外力が作用したときの変形量が小さいので、tanδの低いゴム組成物を配置することで、圧縮変形自体ではなく繰り返し変形による発熱を抑制することが出来る。一方、外側ゴム層については、外に露出していることによる放熱が見込めるため積極的に発熱を抑制する必要が無いため、トレッド側の外径側領域の引張変形とビード側の内径側領域の60℃における動的弾性率E’を相対的に高くすることで、これら領域の圧縮変形をそれぞれ抑制することが出来る。その結果、各部位の変形に対して適切な物性のゴム組成物を配置することが出来、通常走行時の乗心地性を向上すると共に、ランフラット耐久性を向上することが出来る。
【0008】
本発明においては、内側補強ゴム層の内径側領域の体積V10C と内側補強ゴム層の外径側領域の体積V10A 及び内側補強ゴム層の中間領域の体積V10B の和との比V10C /(V10A +V10B )が0.8≦V10C /(V10A +V10B )≦1.2の関係を満たし、外側ゴム層の外径側領域の体積V20A と外側ゴム層の中間領域の体積V20B との比V20A /V20B が0.8≦V20A /V20B ≦1.2の関係を満たし、且つ外側ゴム層の内径側領域の体積V20C と外側ゴム層の中間領域の体積V20B との比V20C /V20B が0.8≦V20C /V20B ≦1.2の関係を満たすことが好ましい。これにより、内側補強ゴム層については、内径側領域の体積を大きく設定することで、ランフラット耐久性への寄与の大きいビード廻り剛性を高めてランフラット耐久性を向上することが出来る。また、外側ゴム層については、60℃における動的弾性率が高いゴムで変形の生じる部位を確実に覆うことが出来る。その結果、ランフラット耐久性及び通常走行時の乗心地性をより高度に両立することが出来る。
【0009】
本発明においては、カーカス層のタイヤ幅方向外側かつ外側ゴム層のタイヤ幅方向内側において、外側ゴム層の内径側領域及び中間領域に亘って配置される外側補強ゴム層を設けることが好ましい。これにより、内側補強ゴム層、外側ゴム層、及びビードフィラーの体積を減少しても、ビード廻りを補強してランフラット耐久性を維持することが出来る。特に、このような外側補強ゴム層は縦バネへの感度が大きくない為、ランフラット耐久性を犠牲にすることなく、通常走行時の乗心地性を向上することが出来る。
【0010】
このとき、前記外側補強ゴム層を構成するゴム組成物の60℃におけるtanδの値T30が0.01〜0.06であり、60℃における動的弾性率E’30が前記内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C の0.8倍〜1.2倍であることが好ましい。このような範囲に設定することで、ランフラット耐久性を更に向上することが出来る。
【0011】
尚、本発明でいう60℃におけるtanδとは、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を使用し、温度60℃、周波数20Hz、静歪10%、動歪±2%の条件した値である。また、本発明でいう60℃における動的弾性率E’とは、JIS K6394に準拠して、上記と同じ粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所製)を使用し、温度60℃、周波数20Hz、静歪10%、動歪±2%の条件で測定した値である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りランフラットタイヤを示す子午線半断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態からなる空気入りランフラットタイヤを示す子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態からなる空気入りランフラットタイヤを示す。図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間には2層のカーカス層4が装架され、これらカーカス層4の端部がビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返されている。ビードコア5の外周側にはゴムからなる断面三角形状のビードフィラー6が配置されている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には、2層のベルト層7がタイヤ全周に亘って配置されている。これらベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8は、タイヤ周方向に配置する補強コードを含み、その補強コードをタイヤ周方向に連続的に巻回したものである。
【0015】
この空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向内側には、ゴムからなる断面三日月形状の内側補強ゴム層10が配設されている。この内側補強ゴム層10はサイドウォール部の他のゴムよりも硬く設定されている。このように断面三日月形状の内側補強ゴム層10を配設することで、内側補強ゴム層10の剛性に基づいてランフラット走行時の荷重が支持される。本発明は、このようなサイド補強タイプの空気入りランフラットタイヤに適用されるが、その具体的な構造は上記基本構造に限定されるものではない。
【0016】
本発明においては、この内側補強ゴム層10がタイヤ径方向に3分割されており、外径側領域10A、中間領域10B,内径側領域10Cから構成されている。そして、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A 、内側補強ゴム層10の中間領域10Bに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10B 、及び内側補強ゴム層10の内径側領域10Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C がE’10A <E’10B <E’10C 、且つE’10A ≧4.0MPaの関係を満たすようになっている。
【0017】
また、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10A 、内側補強ゴム層10の中間領域10Bに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10B 、及び内側補強ゴム層10の内径側領域10Cに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10C がT10A <T10B <T10C 、且つT10A ≦0.06の関係を満たすようになっている。
【0018】
このように内側補強ゴム層10について、各領域10A,10B,10Cを構成するゴム組成物の60℃における動的弾性率E’及びtanδを規定することで、各領域10A,10B,10Cの変形特性に応じてゴム組成物の物性を設定出来るので、ランフラット耐久性と通常走行時の乗心地性を向上することが出来る。即ち、内側補強ゴム層10の内径側領域10Cは、同一の外力が作用したときに変形量が大きい引張変形を生じるので、この引張変形を抑制するように60℃における動的弾性率E’が高いゴム組成物を配置している。また、内側補強ゴム層10の外径側領域10Cについては、圧縮変形が生じるものの同一の外力が作用したときの変形量が小さいため、圧縮変形自体ではなく、繰り返し変形による発熱を抑制するためにtanδの低いゴム組成物を配置している。
【0019】
ここで、各領域10A,10B,10Cのゴム組成物の動的弾性率E’10A ,E’10B ,E’10C の大小関係が逆転すると、上述の各領域の変形を充分に抑制することが出来なくなり、tanδの値T10A ,T10B ,T10C の大小関係が逆転すると、上述の各領域の発熱を充分に抑制することが出来なくなるので、ランフラット耐久性及び通常走行時の乗心地性を両立することが出来ない。また、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A がE’10A <4.0MPaであると、当該領域に生じる引張変形を充分に抑制することが出来ず、ランフラット耐久性を確保することが出来ない。同様に、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aに含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10A がT10A >0.06であると、当該領域に生じる繰り返し変形による発熱を充分に抑制することが出来ず、ランフラット耐久性を確保することが出来ない。
【0020】
好ましくは、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A と内側補強ゴム層10の内径側領域10Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C との比E’10C /E’10A がE’10C /E’10A ≧1.5の関係を満たすことが好ましい。 このとき、比E’10C /E’10A がE’10C /E’10A <1.5であると動的弾性率E’に勾配を持たせることによる効果が不充分になる。
【0021】
一方、外側ゴム層20についても、内側補強ゴム層10と同様にタイヤ径方向に3分割されており、外径側領域20A、中間領域20B,内径側領域20Cから構成されている。そして、外側ゴム層20の外径側領域20Aに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20A 、外側ゴム層20の中間領域20Bに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20B 、及び外側ゴム層20の内径側領域20Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C がE’20B <E’20A ≦E’20C 、且つE’20C /E’20B ≧1.6の関係を満たすようになっている。
【0022】
このように外側ゴム層20について、各領域20A,20B,20Cを構成するゴム組成物の60℃における動的弾性率E’を規定することで、各領域20A,20B,20Cの変形特性に応じてゴム組成物の物性を設定出来るので、ランフラット耐久性と通常走行時の乗心地性を向上することが出来る。即ち、外側ゴム層20については、外気に触れていることによる放熱が見込めるため積極的に発熱を抑制する必要が無く、外径側領域20Aの引張変形及び内径側領域20Cの圧縮変形をそれぞれ抑制するように、これら領域の60℃における動的弾性率E’を相対的に高くしている。その結果、各部位の変形に対して適切な物性のゴム組成物を配置することが出来、通常走行時の乗心地性を向上すると共に、ランフラット耐久性を向上することが出来る。
【0023】
ここで、各領域20A,20B,20Cのゴム組成物の動的弾性率E’20A ,E’20B ,E’20C の大小関係が逆転すると、上述の各領域の変形を充分に抑制することが出来なくなるので、ランフラット耐久性及び通常走行時の乗心地性を両立することが出来ない。また、外側ゴム層20の内径側領域20Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C と中間領域20Bに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C との比E’20C /E’20B が、E’20C /E’20B <1.6の関係であると60℃における動的弾性率の差が小さ過ぎるため、当該領域に生じる変形を充分に抑制することが出来ず、ランフラット耐久性を確保することが出来ない。
【0024】
更に、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A と外側ゴム層20の外径側領域20Aに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20A との比E’20A /E’10A 及び内側補強ゴム層10の内径側領域10Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C と外側ゴム層20の内径側領域20Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C との比E’20C /E’10C が0.6≦E’20A /E’10A ≦1.0且つ0.6≦E’20C /E’10C ≦1.0の関係を満たしている。
【0025】
このように径方向同一領域の内側補強ゴム層10と外側ゴム層20との60℃における動的弾性率の関係を規定することで、最低限の補強でランフラット耐久性を向上することが出来る。即ち、比E’20A /E’10A 及び比E’20C /E’10C がそれぞれ0.6より小さいと、内側補強ゴム層10の60℃における動的弾性率に対して外側ゴム層20の60℃における動的弾性率が小さくなり過ぎて外側ゴム層20を起点とする故障が発生し易くなりランフラット耐久性が低下する。逆に、比E’20A /E’10A 及び比E’20C /E’10C がそれぞれ1.0より大きいと、内側補強ゴム層10の60℃における動的弾性率に対して外側ゴム層20の60℃における動的弾性率が大きくなり過ぎて過剰な補強になる。
【0026】
ところで、内側補強ゴム層10と外側ゴム層20とは、それぞれタイヤ径方向に積層する3つの領域に分割されているが、上述の関係を満たす範囲内であれば、各領域を更に細かく分割して、それら領域間で60℃における動的弾性率及びtanδが互いに異なるようにしても構わない。しかしながら、生産性やコスト面から最小限の材料で上述の効果を得ることを考えると、上述のように、内側補強ゴム層10と外側ゴム層20とを、それぞれタイヤ径方向に積層する3つの領域に分割することが好ましい。
【0027】
本発明においては、内側ゴム層10の各領域10A,10B,10C及び外側ゴム層20の各領域20A,20B,20Cの体積を下記のように規定することが好ましい。即ち、内側補強ゴム層10の内径側領域10Cの体積V10C と内側補強ゴム層10の外径側領域10Aの体積V10A 及び内側補強ゴム層10の中間領域10Bの体積V10B の和との比V10C /(V10A +V10B )が0.8≦V10C /(V10A +V10B )≦1.2の関係を満たすことが好ましい。また、外側ゴム層20の外径側領域20Aの体積V20A と外側ゴム層20の中間領域20Bの体積V20B との比V20A /V20B が0.8≦V20A /V20B ≦1.2の関係を満たし、且つ外側ゴム層20の内径側領域20Cの体積V20C と外側ゴム層20の中間領域20Bの体積V20B との比V20C /V20B が0.8≦V20C /V20B ≦1.2の関係を満たすことが好ましい。
【0028】
このように体積比を規定することで、内側補強ゴム層10については、内径側領域10Cの体積を大きく設定することで、ランフラット耐久性への寄与の大きいビード廻り剛性を高めてランフラット耐久性を向上することが出来る。また、外側ゴム層20については、変形が生じる外径側領域20A及び内径側領域20Cを60℃における動的弾性率が高いゴムで確実に覆うことが出来るようになるため、ランフラット耐久性及び通常走行時の乗心地性をより高度に両立することが出来る。
【0029】
このとき、内側補強ゴム層10における体積比V10C /(V10A +V10B )が0.8より小さいと、ランフラット耐久性への寄与が大きいビード廻り剛性を充分に向上することが出来ず、ランフラット耐久性が低下する。内側補強ゴム層10における体積比V10C /(V10A +V10B )が1.2より大きいと、通常走行時の乗心地性が低下する。外側ゴム層20における体積比V20A /V20B が0.8より小さいと、引張変形が大きい外径側領域を60℃における動的弾性率が高いゴム組成物で充分に覆うことが出来なくなるためランフラット耐久性が低下する。外側ゴム層20における体積比V20A /V20B が1.2より大きいと、60℃における動的弾性率が高いゴム組成物が配される領域が大きくなり過ぎて通常走行時の乗心地性が低下する。外側ゴム層20における体積比V20C /V20B が0.8より小さいと、リムフランジを60℃における動的弾性率が高いゴム組成物で充分に覆うことが出来なくなるためランフラット耐久性が低下する。外側ゴム層20における体積比V20C /V20B が1.2より大きいと、60℃における動的弾性率が高いゴム組成物が配される領域が大きくなり過ぎて通常走行時の乗心地性が低下する。
【0030】
更に好ましくは、内側補強ゴム層10の外径側領域10Aの体積V10A と内側補強ゴム層10の中間領域10Bの体積V10B との比V10A /V10B が0.8≦V10A /V10B ≦1.2の関係を満たしていると良い。内側補強ゴム層10における体積比V10A /V10B が0.8より小さいと、60℃におけるtanδが小さいゴム組成物を配置する内側補強ゴム層10の外径側領域10Aが小さくなり過ぎるため発熱を充分に抑制することが出来ずランフラット耐久性が低下する。内側補強ゴム層10における体積比V10A /V10B が1.2より大きいと、60℃におけるtanδが小さいゴム組成物を配置する内側補強ゴム層10の外径側領域10Aが広くなり過ぎて、他の領域が減少するのでランフラット耐久性と通常走行時の乗心地性を両立することが出来ない。
【0031】
本発明では、上述の構成の空気入りランフラットタイヤに対して、更に、図2に示すように、カーカス層4のタイヤ幅方向外側かつ外側ゴム層20のタイヤ幅方向内側において、外側ゴム層20の内径側領域20C及び中間領域20Bに亘って配置される外側補強ゴム層30を設けることが好ましい。
【0032】
このように外側補強ゴム層30を設けることで、内側補強ゴム層10、外側ゴム層20、ビードフィラー6の体積を削減することが出来る。即ち、外側補強ゴム層30は、縦バネへの感度が大きくない為、内側補強ゴム層10、外側ゴム層20、ビードフィラー6の代わりに外側補強ゴム層30でビード廻りを補強することで、ランフラット耐久性を低下させることなく通常走行時の乗心地性を更に向上することが出来る。
【0033】
この外側補強ゴム層30を構成するゴム組成物としては、60℃におけるtanδの値T30が0.01〜0.06であると共に、60℃における動的弾性率E’30が内側補強ゴム層10の内径側領域10Cに含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C の0.8倍〜1.2倍であることが好ましい。
【0034】
外側補強ゴム層30の物性を上記のように設定することで、一定以上の弾性率を確保しながら発熱を抑え、補強ゴム層付近での破壊を効果的に抑制し、ランフラット耐久性を更に向上することが出来る。そのため、ランフラット耐久性を高度に維持したまま、内側補強ゴム層10、外側ゴム層20、ビードフィラー6などランフラット耐久性に寄与する他のタイヤ構成部材の体積を減少して通常走行時の乗心地性を向上することが出来る。
【0035】
このとき、tanδの値T30が0.01より小さいと、空気入りランフラットタイヤの生産性が悪化する。tanδの値T30が0.06より大きいと、充分に発熱を抑制することが出来ず、ランフラット耐久性が低下する。動的弾性率E’30が動的弾性率E’10C の0.8倍より小さいと、動的弾性率が不充分になり補強ゴム層30が補強層として機能せずランフラット耐久性が低下する。動的弾性率E’30が動的弾性率E’10C の1.2倍より大きいと、サイドウォール部2の縦剛性が高くなるため通常走行時の乗心地性が低下する。
【実施例】
【0036】
タイヤサイズ245/45R17の空気入りランフラットタイヤにおいて、内側補強ゴム層について、層数、外径側領域の60℃におけるtanδの値T10A 及び動的弾性率E’10A 、中間領域の60℃におけるtanδの値T10A 及び動的弾性率E’10A 、内径側領域の60℃におけるtanδの値T10C 及び動的弾性率E’10C を表1のように設定し、外側ゴム層について、層数、外径側領域の60℃における動的弾性率E’20A 、中間領域の60℃における動的弾性率E’20B 、内径側領域の60℃における動的弾性率E’20C を表1のように設定し、外側補強ゴム層について、有無、60℃におけるtanδの値T30及び動的弾性率E’30を表1のように設定し、体積比V10C /(V10A +V10B )、V20A /V20B 、V20C /V20B を表1のように設定した従来例1、比較例1、及び実施例1〜6の8種類の試験タイヤを製作した。
【0037】
これら8種類の試験タイヤについて、下記の評価方法によりランフラット耐久性及び通常走行時の乗心地性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0038】
ランフラット耐久性
試験タイヤをリムサイズ17×8.0Jのメジャーリムに組み付けて車両に装着し、空気圧を230kPaとして、4輪のうち駆動輪右側(1本)のバルブコアを除去して、アスファルト路面からなるテストコースを平均速度80km/hにて走行させ、ドライバーがタイヤの故障による振動を感じるまで走行を続け、その平均走行距離を測定した。この測定を3名のテストドライバーにより行い、その結果を平均してランフラット耐久性の評価とした。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどランフラット耐久性が優れていることを意味する。
【0039】
通常走行時の乗心地性
試験タイヤをリムサイズ17×8.0Jのメジャーリムに組付けて車両に装着し、全タイヤの空気圧を230kPaとし、テストコースにおいて、通常走行時の乗心地についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど通常走行時の乗心地性が優れていることを意味する。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から判るように、実施例1〜6はいずれも内側補強ゴム層が単層、且つ外側ゴム層が2層である従来例1、内側補強ゴム層及び外側ゴム層がそれぞれ3層であるものの60℃における動的弾性率E’及びtanδの大小関係が逆転している比較例1に対して、ランフラット耐久性及び通常走行時の乗心地性を向上した。
【符号の説明】
【0042】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
10 内側補強ゴム層
10A 外径側領域
10B 中間領域
10C 内径側領域
20 外側ゴム層
20A 外径側領域
20B 中間領域
20C 内径側領域
30 外側補強ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のビード部間にカーカス層を装架し、トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を配置すると共に、サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に断面三日月状の内側補強ゴム層を配置した空気入りランフラットタイヤにおいて、
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側に位置する外側ゴム層及び前記内側補強ゴム層をそれぞれタイヤ径方向に積層する外径側領域、中間領域、及び内径側領域に分割すると共に、内側補強ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A 、内側補強ゴム層の中間領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10B 、及び内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C がE'10A <E'10B <E'10C 、且つE'10A ≧4.0MPaの関係を満たし、内側補強ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10A 、内側補強ゴム層の中間領域に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10B 、及び内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃におけるtanδの値T10C がT10A <T10B <T10C 、且つT10A ≦0.06の関係を満たし、外側ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20A 、外側ゴム層の中間領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20B 、及び外側ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C がE'20B <E'20A ≦E'20C 、且つE'20C /E'20B ≧1.6の関係を満たし、更に、内側補強ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10A と外側ゴム層の外径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20A との比E'20A /E'10A 及び内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C と外側ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’20C との比E'20C /E'10C が0.6≦E'20A /E'10A ≦1.0且つ0.6≦E'20C /E'10C ≦1.0の関係を満たすようにしたことを特徴とする空気入りランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記内側補強ゴム層の内径側領域の体積V10C と前記内側補強ゴム層の外径側領域の体積V10A 及び前記内側補強ゴム層の中間領域の体積V10B の和との比V10C /(V10A +V10B )が0.8≦V10C /(V10A +V10B )≦1.2の関係を満たし、前記外側ゴム層の外径側領域の体積V20A と前記外側ゴム層の中間領域の体積V20B との比V20A /V20B が0.8≦V20A /V20B ≦1.2の関係を満たし、且つ前記外側ゴム層の内径側領域の体積V20C と前記外側ゴム層の中間領域の体積V20B との比V20C /V20B が0.8≦V20C /V20B ≦1.2の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の空気入りランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記カーカス層のタイヤ幅方向外側かつ前記外側ゴム層のタイヤ幅方向内側において、前記外側ゴム層の内径側領域及び中間領域に亘って配置される外側補強ゴム層を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記外側補強ゴム層を構成するゴム組成物の60℃におけるtanδの値T30が0.01〜0.06であり、60℃における動的弾性率E’30が前記内側補強ゴム層の内径側領域に含まれるゴム組成物の60℃における動的弾性率E’10C の0.8倍〜1.2倍であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りランフラットタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71672(P2013−71672A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213252(P2011−213252)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)