説明

空気清浄機設置用薬剤担持体

【課題】常温揮散性薬剤を含有する薬剤揮担持体であって、空気清浄機の風量によらず、安定して一定の有効成分を揮散させえる空気清浄機設置用薬剤担持体の提供。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を4〜20質量%含有させた樹脂担体に、常温揮散性薬剤組成物を0.5〜15質量%混錬させ、網状もしくはネット状に形成されたものである空気清浄機設置用薬剤担持体。常温揮散性薬剤組成物が、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、及びテラレスリンから選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温揮散性薬剤を樹脂担体に担持させてなる空気清浄機設置用薬剤担持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、揮散性薬剤を揮散するための揮散方法が種々知られている。これらの例としては、(1)有効成分を溶剤等に溶解した薬液を吸液芯に吸液させ、この芯を加熱して有効成分を蒸散させる方法や、(2)薬剤を含浸させた担体にファンからの風を当てたり、もしくは該薬剤含浸担体をファンとともに回転させその遠心力を利用して薬剤を揮散させる方法、更には、(3)薬剤を含浸させた紙や樹脂等から自然下に有効成分を揮散させる方法等が開示されている。
【0003】
ところで、空気清浄機に薬剤担持体を取付け、空気清浄機の送風もしくは吸風を利用して薬剤を放散させるシステムは、上記(2)の方法に該当し、臭気のマスキングやシックハウス原因物質を除去する目的で種々実用化されている。しかしながら、従来の薬剤担持体は、繊維フィルター等に薬剤を含浸させたものが一般的で、殺虫や害虫忌避の分野に適用すると、有効成分が速やかに揮散してしまったり、空気清浄機の風量によって有効成分の揮散量が大幅に変化するなどの問題があった。殺虫成分や害虫忌避成分が過大に室内に放散されると人体への安全性に懸念を生じるため、この分野への展開にあたっては、空気清浄機の風量によらず、安定して一定の有効成分を揮散させるシステムの開発が求められていた。
【0004】
特許文献1によれば、ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を含有させた樹脂担体にメトフルトリンやプロフルトリンを混錬させた害虫防除剤と、気流発生手段を備えた害虫防除器が記載されている。しかしながら、その技術思想は風量が約0.1m3/分の小型のファン式蚊取器への適用に留まり、空気清浄機への応用は全く意図されていない。すなわち、数段階の風量切替え機構を有する空気清浄機に適合する薬剤担持体の条件については何ら検討がなされておらず、未だ、満足のいく空気清浄機設置用薬剤担持体が提案されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2006−230399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、常温揮散性薬剤を含有する薬剤担持体であって、空気清浄機の風量によらず、安定して一定の有効成分を揮散させえる空気清浄機設置用薬剤担持体を提供する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、次のような構成を採用する。
(1)ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を4〜20質量%含有させた樹脂担体に、常温揮散性薬剤組成物を0.5〜15質量%混錬させ、網状もしくはネット状に形成されたものである空気清浄機設置用薬剤担持体。
(2)前記樹脂担体が、ポリエチレン系樹脂にメタクリル酸メチル単量体単位を含有させたものである(1)記載の空気清浄機設置用薬剤担持体。
(3)前記常温揮散性薬剤組成物が、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、及びテラレスリンから選ばれた1種又は2種以上である(1)又は(2)記載の空気清浄機設置用薬剤担持体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体は、空気清浄機の風量によらず、安定して一定の有効成分を揮散させるので優れた効果が期待でき、しかも室内で安全に使用できるためその実用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、常温揮散性の殺虫、防虫成分、忌避成分、抗菌成分、防黴成分、消臭成分、芳香成分等が用いられる。殺虫成分としては、ピレスロイド系殺虫成分であるメトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、フラメトリン、テフルトリン、アレスリン、プラレトリン等があげられるが、殺虫効力、安全性や物性、経済性等を考慮すると、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、及びテラレスリンから選ばれた1種又は2種以上が好ましい。なかんずく、メトフルトリンとプロフルトリンが好適で、これらは単独で用いてもよく、また、使用初期における防除効力発現を改善するために、(a)メトフルトリンと(b)プロフルトリンとを、(a):(b)の質量比として5:1〜1:1の割合で混合して用いてもよい。なお、ピレスロイド系殺虫成分の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることはもちろんである。
【0009】
本発明で用いられる他の常温揮散性薬剤としては、ディート、ジメチルフタレート、p−メンタン−3,8−ジオール等の忌避成分、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等の抗菌成分、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール等の防黴成分、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α−ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分などがあげられるがこれらに限定されない。
【0010】
本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体に担持される薬剤量は、常温揮散性薬剤の種類、使用期間、用途等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、常温揮散性薬剤がピレスロイド系殺虫成分の場合、使用期間を10日〜120日間に設定した時、薬剤量は通常30mg〜600mg程度が適当である。
【0011】
本発明では、常温揮散性薬剤の安定性を高めるため、酸化防止剤等の安定剤を添加してもよい。このような酸化防止剤としては、BHT、BHA、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−メチレンビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,5−ジーt−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
また、パラアミノ安息香酸類、桂皮酸類、サリチル酸類、ベンゾフェノン類及びベンゾトリアゾール類などの紫外線吸収剤を用いることにより、保管時、あるいは使用時の耐光性を一段と向上させることができ、更に、着色剤、帯電防止剤などを適宜配合してもよい。色彩を付加したり、タイムインジケーターを装着して使用終了時点を視認できるようにすれば、商品価値を高めることができるので好ましい形態である。
【0012】
本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体は、ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を含有させた樹脂担体に、常温揮散性薬剤組成物を混錬させて、網状もしくはネット状に形成したことに特徴を有する。
かかる樹脂担体としては、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂のようなポリオレフィン系樹脂に、カルボン酸エステル等の単量体単位を含有させたものがあげられる。ここでカルボン酸エステル等の単量体は常温揮散性薬剤のブリードをコントロールするのに効果的で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル等を例示できる。
ポリオレフィン系樹脂に対するこれらのカルボン酸エステル単量体含有比率は、一般に、カルボン酸エステル単量体含有比率が高くなるほど常温揮散性薬剤のブリード速度を遅らせる傾向があるが、使用する常温揮散性薬剤の種類や薬剤量、あるいは使用目的等に応じて、4〜20質量%の範囲で適宜調整すればよい。なお、前記樹脂担体は、あらかじめカルボン酸エステル単量体を多く含有するポリオレフィン系共重合体とオレフィンの単独重合体を混合してその含有比率を調整したポリマーブレンドを用いることもできるし、更には必要に応じて、スチレン系熱エラストマー等の他の高分子化合物を含有させてもよい。
【0013】
本発明では、樹脂担体に対する常温揮散性薬剤の担持量を0.5〜15質量%に設定する。担持量が0.5質量%未満の場合、防除効力の持続性に不足を生じる場合があり、一方、担持量が15質量%を超えると、製造面で支障が生じる可能性があるので好ましくない。
【0014】
本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体の形状は、表面積を増し通気性を良くするために、網状、ネット状に形成される。網やネットを構成するフィラメントの直径は、通常0.4mm〜2.0mm程度で、樹脂担体の組成が同じであれば、直径が大きくなるほど常温揮散性薬剤の揮散が低減する傾向があり、薬剤揮散体の持続期間を長く設定することができる。また、網やネットは、角形、ひし形、六角形等の任意の孔(1mm2〜70mm2程度)を有することができ、その開孔率は、該開孔部の合計で好ましくは40〜85%、より好ましくは50〜75%である。開孔率は、表面積と通気性に関連して薬剤の揮散性に影響するので、前記フィラメントの直径とともに、薬剤揮散体の仕様を決定するうえで重要なファクターである。
【0015】
特許文献1の明細書ならびに実施例によれば、風量が約0.1m3/分の小型のファン式蚊取器への適用の場合、ポリオレフィン系樹脂がカルボン酸エステル単量体単位を害虫防除剤全量に対して1〜10重量%含有されてなることを規定している。一方、空気清浄機の風量は、弱、中、強の3段階切替え仕様として、約0.5m3/分〜約5m3/分の範囲にわたっているのが標準的である。本発明者らは、このような強くて広い風力範囲に対し、安定して一定の揮散量を与える樹脂担体は、ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を4〜20質量%含有させてはじめて可能となることを知見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体は、空気清浄機に取付けるための部材を備えた薬剤容器に収納もしくは保持されてもよい。かかる薬剤容器は、表面及び裏面が通気性を有する扁平袋状のプラスチックフィルムもしくはシートであってよく、また薬剤担持体を保持するための格子状プラスチックケースのような形態であっても構わない。ここで用いるプラスチック部材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等種々のプラスチック材料が使用可能であるが、強度やその他の物性を考慮して、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好適である。
【0017】
本発明の薬剤担持体は、通常、薬剤非透過性フィルム袋に収容されて市販され、使用時に開袋して用いられるのが一般的である。薬剤非透過性フィルム袋の材質としては、ポリエステル(PET、PBTなど)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリルニトリルなどがあげられ、その肉厚は可撓性を損なわない範囲で決定される。なお、ヒートシール性を付与するために、内面をポリエチレンやポリプロピレンフィルム等でラミネートしてもよいことはもちろんである。
【0018】
本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体は、リビングや和室、ペットのいる部屋、玄関などの室内に置かれた空気清浄機に装着され、その設計仕様に応じて約10〜120日間にわたり、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ブユ、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類等に対して優れた殺虫効果及び忌避効果を奏するとともに、屋外から屋内へのこれら害虫の侵入を効果的に防ぐこともでき、極めて実用的である。
【0019】
次に、具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
エチレン−メタクリル酸メチル共重合体[共重合体中のメタクリル酸メチルの割合:8重量%]95重量部及びメトフルトリン5重量部を溶融混練し、得られたペレット状混練物をネット成形用ダイスを介して押出すことにより、一辺が約5mmの略六角形のネット(網を形成するフィラメントの直径:約1.2mm、開孔率:63%)で、縦16cm、横15cmの60日用の空気清浄機設置用薬剤担持体(重量5g、有効成分の総量:250mg)を得た。
【0021】
得られた空気清浄機設置用薬剤担持体の左右上端にフックを固定し、これを用いて該薬剤担持体を空気清浄機(アイリスオーヤマ製、機種:FU−G450CX)のフィルターとファン正面部の間に取り付けた。なお、風量は、静音:0.5m3/分、標準:2.0m3/分、急速:4.5m3/分であった。
この空気清浄機をリビングルームに置いて約60日間使用したところ、メトフルトリン揮散量は、風量をどのレベルに切り替えても、初期の約0.3mg/hから終期の約0.1mg/hまで漸減傾向にて安定していた。従って、メトフルトリンが過大に室内に放散されることがなく人やペットに安心して使用できた。また、使用期間中、蚊や他の害虫に対して優れた防除効果を示すとともに、該害虫がベランダの出入り口から室内へ侵入するのも防止でき、空気清浄機に付与される簡便な害虫防除手段として極めて実用的であった。
【実施例2】
【0022】
実施例1に準じ、表1に示す各種の空気清浄機設置用薬剤担持体を調製し、空気清浄機に取り付けた。密閉した25m3の部屋(室温:25℃)で空気清浄機を作動させ、所定期間後、有効成分の揮散量を測定するとともに、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、時間の経過に伴う仰転数を数え、KT50値を求めた結果を併せて表1に示す。
【0023】
【表1】



【0024】
試験の結果、本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体は、空気清浄機の風量に拘わらず、60日間にわたり、安定してほぼ一定のメトフルトリン揮散量を示し、防除効果のみならず安全性の点でも本発明の趣旨に合致した。
これに対し、比較例1のように、樹脂担体として、ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を4質量%以下の範囲で含有させたものを用いた場合は、初期の揮散量が過大で、その後急激に減少し、効力の持続性に乏しかった。また、空気清浄機の風量に依存して揮散量が上下し、空気清浄機設置用の薬剤担持体として適当とは言えなかった。更に、樹脂ネットにメトフルトリンを塗布させた薬剤担持体(比較例2)については、揮散量の経時的推移、風量依存性とも、比較例1よりも一層不適であることが認められた。従って、本発明の空気清浄機設置用薬剤担持体の有用性は明らかである。
【実施例3】
【0025】
実施例2に準じ、表2に示すように、常温揮散性薬剤として殺虫成分以外の有効成分を含有する空気清浄機設置用薬剤担持体を調製し、空気清浄機に取り付けた。密閉した25m3の部屋(室温:25℃)で空気清浄機を作動させ、所定期間後、有効成分の揮散量を測定したところ、実施例2と同様に、揮散量の経時的推移は満足のいくものであった。結果を併せて表2に示す。
【0026】
【表2】


【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、空気清浄機だけでなく、同様の家庭用機器にも適用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂にカルボン酸エステル単量体単位を4〜20質量%含有させた樹脂担体に、常温揮散性薬剤組成物を0.5〜15質量%混錬させ、網状もしくはネット状に形成されたものであることを特徴とする空気清浄機設置用薬剤担持体。
【請求項2】
前記樹脂担体が、ポリエチレン系樹脂にメタクリル酸メチル単量体単位を含有させたものであることを特徴とする請求項1記載の空気清浄機設置用薬剤担持体。
【請求項3】
前記常温揮散性薬剤組成物が、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、及びテラレスリンから選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の空気清浄機設置用薬剤担持体。

【公開番号】特開2010−90047(P2010−90047A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260228(P2008−260228)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】