説明

空気経路の温度分布計測方法

【課題】空調機器内の空気経路の温度分布を計測可能にする温度分布計測方法を提供することを課題とする。
【解決手段】空調機器1の内部にある空気経路3の温度分布を計測する温度分布計測方法であって、空調機器1の外装2部分に設けられ、空気経路3の途中を開口する開口部12を、赤外線を透過可能な所定部材14で塞ぐ閉塞工程と、開口部12から空気経路3内を撮影する赤外線カメラ15によって得られる、所定の部材14を透過した赤外線のエネルギー分布に基づいて、空気経路3の温度分布を計測する計測工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気経路の温度分布計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建物には、冷凍機で生成された冷水やボイラで生成された蒸気を使った空調システムが導入されている。空調用の空気と冷水や蒸気との熱交換は、熱交換器を内蔵した空調機器で行われる。
【0003】
空調機器の熱交換器における熱交換は、温度差を利用して行われる。このため、熱交換器に流入する空気の温度分布にばらつきがあると、熱交換器の性能が十分に発揮されない。そこで、空調機器内の空気経路の温度分布を可視化することが望まれる。例えば、特許文献1には、光プローブで赤外線を赤外線カメラに導いて温度分布を計測する技術が開示されている。また、特許文献2には、気体が流れる前と後の画像データを比較し、気体が流れた際の微小な温度変化を基に気体の流れを可視化する技術が開示されている。また、特許文献3には、物に光を当ててその表面を均等に加熱し、物の表面を流れる流体の流れを物の表面温度の分布で計測する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−337739号公報
【特許文献2】特開平7−225156号公報
【特許文献3】特公平5−47069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
赤外線カメラを空調機器の内部に設置できない場合、開口部から内部を撮影することになる。しかし、空調機器内の空気経路が外部と連通した状態では空気の流れが変化してしまい、機器内の空気経路の温度分布を正しく計測できない。本発明は、係る問題に鑑みなされたものであり、空調機器内の空気経路の温度分布を計測可能にする温度分布計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、空調機器の外装部分に設けられた開口部を、赤外線を透過可能な材料で塞ぎ、これを透過した赤外線のエネルギー分布で空気経路の温度分布を計測する。
【0006】
詳細には、空調機器の内部にある空気経路の温度分布を計測する温度分布計測方法であって、前記空調機器の外装部分に設けられ、前記空気経路の途中を開口する開口部を、赤外線を透過可能な所定部材で塞ぐ閉塞工程と、前記開口部から前記空気経路内を撮影する赤外線カメラによって得られる、前記所定の部材を透過した赤外線のエネルギー分布に基づいて、該空気経路の温度分布を計測する計測工程と、を有する。
【0007】
上記空調機器の温度分布計測方法は、空調機器の内部にある空気経路の温度分布を計測するものである。係る温度分布計測方法は、温度分布が問題となる空気経路に適用されることでその効果を有意に発揮する。このような空気経路としては、例えば、互いに温度が異なる二種以上の空気が混ざる経路等が挙げられる。
【0008】
空気経路は、空気を案内するため、基本的に空気経路の周囲の空間から閉じられている。途中に開口部分があると空気が漏れ出し、空気を適切に案内できないためである。しかし、周囲の空間から閉じられた空気経路内の温度分布を赤外線カメラで捉える場合、空気
経路の途中で不可避的に開口することになる。そこで、上記温度分布計測方法では、空気経路内を可視状態にする開口部を、赤外線を透過し且つ空気の流れを遮ることができる所定部材で塞ぐ。これにより、空気経路の空気が開口部から漏れ出さなくなる。なお、所定部材とは、赤外線を透過可能なあらゆる部材であって開口部における空気の流通を阻止可能な部材であり、例えば、高密度ポリエチレンで形成されるフィルム等が挙げられる。高密度ポリエチレンは赤外線を透過可能であり且つ安価で機械的強度も優れるため、所定部材として好適に用いることができる。
【0009】
上記温度分布計測方法では、上記所定部材で塞がれた開口部から前記空気経路内を撮影する赤外線カメラにより、空気経路の温度分布を計測する。係る所定部材は、赤外線を透過可能であるため、所定部材を透過した赤外線を走査してエネルギーの分布を捉え、赤外線のエネルギー強度を温度に変換することで空気経路の温度分布を捉えることができる。
【0010】
なお、前記所定部材は、該所定部材を透過した前記赤外線のエネルギー分布が、該エネルギー分布に基づいて計測される前記温度分布により前記空気経路内の気流が明らかになる程度のエネルギー分布になるように、該所定部材の厚さが設定されるものであってもよい。所定部材の厚さがこのように設定されることにより、空気経路内の気流を、計測された空気経路の温度分布で捉えることが可能となる。
【0011】
また、前記空調機器は、2以上の経路からの空気が前記空気経路内で合流し、且つ合流した空気が該空気経路内の熱交換器を通過するものであってもよい。このような、二種以上の空気が交じり合う空気経路であれば、空気経路で温度分布にばらつきが生じやすいため、本発明の効果を有意に発揮することができる。
【0012】
また、前記空調機器は、前記空気経路内の前記熱交換器の上流側に空気フィルタを有し、前記赤外線カメラは、前記空気経路内の前記空気フィルタを撮影するものであってもよい。固体が保有できる熱量は、気体よりも大きいため、両者が同じ温度の場合、気体から放たれる赤外線よりも固体から放たれる赤外線の方がエネルギーが強い。よって、上記赤外線カメラで計測される赤外線のエネルギー分布は、空気経路の内壁等を構成する構造物の表面からの赤外線によるものとなる。空気経路を流れる空気の流れを正確に把握するため、ここでは、空気経路内の空気フィルタを赤外線カメラで撮影することにしている。空気フィルタを通過する空気の温度が空気フィルタの表面から放たれる赤外線のエネルギーに比例したものとなるため、空気フィルタの表面の温度分布を計測することで空気経路内をどのように空気が流れているのかをより正確に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
空調機器内の空気経路の温度分布を計測可能にする温度分布計測方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を例示的に説明する。以下に示す実施形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本実施形態では、2つの経路から流れる2種類の空気を混合する空調機器である混合チャンバ内の温度分布を計測する。図1は、本実施形態の適用対象である混合チャンバ1の構成図である。混合チャンバ1は、図1に示すように、直方体の外形を有する筐体2で外装部分が構成されている。
【0016】
筐体2は、空気が流れる内部空間である空気経路3を有しており、混合チャンバ1の外装部分を構成する。筐体2は、その長手方向の一端に外気ダクト4および還気ダクト5が
繋がれ、他端に給気ダクト6が繋がれている。外気ダクト4は、屋外に繋がっており、屋外の空気を空気経路3内に導入する。また、還気ダクト5は、図示しない空調対象の室内と繋がっており、室内の空気を空気経路3内に導入する。給気ダクト6は、空調対象の室内と繋がっており、空気経路3のうち空調用に熱交換した後の空気を室内へ供給する。すなわち、筐体2の空気経路3では、外気ダクト4および還気ダクト5から給気ダクト6へ流れる空気が通過する。なお、筐体2の空気経路3内には、外気ダクト4および還気ダクト5の側から給気ダクト6の側へ向かって、空気フィルタ7、加熱コイル8、冷却コイル10、加湿器9、及び送風機11が順に配置されている。また、筐体2には、空気経路3内の一部を視認可能にする点検口12(本発明でいう開口部に相当する)が設けられている。点検口12には扉13が設けられており、通常は閉じられている。
【0017】
空気フィルタ7は、外気ダクト4や還気ダクト5から流れる空気中の粉塵で加熱コイル8や冷却コイル10が汚れるのを防ぐために設けられるフィルタである。外気ダクト4および還気ダクト5を流れる空気は、空気フィルタ7の手前で合流する。
【0018】
加熱コイル8は、図示しないボイラからの蒸気がコイル内を流れるフィン付きのヒーティングコイルであり、上流側から流れる空気と蒸気との間で熱交換を行う。加熱コイル8には、図示しないドレントラップが設けられており、コイル内の復水がボイラの給水系統に回収される。
【0019】
加湿器9は、加熱コイル8へ供給される蒸気の一部が流れる配管や、この配管を流れる蒸気を筐体2内に噴射するノズルで構成されており、加湿器9を通過する空気を加湿する。なお、加熱コイル8や加湿器9は、外気温度の低い冬季に蒸気が通気される。
【0020】
冷却コイル10は、図示しない冷凍機からの冷水がコイル内を流れるフィン付きのクーリングコイルであり、上流側から流れる空気と蒸気との間で熱交換を行う。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係る空気経路の温度分布計測方法(以下、単に計測方法という)の処理フロー図である。本実施形態に係る計測方法は、図2に示すように、閉塞工程(S101)と計測工程(S102)とを有する。以下、図2の処理フロー図に沿って、本実施形態に係る計測方法を説明する。
【0022】
本計測方法は、まず、点検口12を赤外線透過性のフィルムで塞ぐことから始まる(S101)。すなわち、扉13を開き(図3参照)、点検口12をフィルム14(本発明でいう所定部材に相当する)で塞ぐ(図4参照)。点検口12を塞ぐフィルム14は、いわゆる低圧法または中圧法で製造された高密度ポリエチレンのフィルムであり、波長が2.5〜4.0μm程度の中赤外線や波長が8〜14μm程度の遠赤外線の波長領域で赤外線の吸収が非常に少ないという性質を有する。なお、空気経路3の気流の状態が明らかになる程度に、その空気経路3内の温度分布が明確に計測されるようにするため、フィルム14の厚さを極めて薄くしている。すなわち、フィルム14を透過する際の赤外線のエネルギーの減衰により衰える温度分布の分解能が、少なくとも外気ダクト4からの空気と還気ダクト5からの空気とを区別可能な程度の分解能になるようにする。具体的には、後述する赤外線カメラで計測される空気経路3内の温度分布の分解能が、外気ダクト4の空気と還気ダクト5の空気との温度差を判別可能な程度の分解能になるようにする。例えば、外気ダクト4の空気が28℃程度であり、還気ダクト5の空気の温度が25℃程度である場合、赤外線カメラにより計測される空気経路3内の温度分布の分解能が3℃よりも細かい温度差まで計測できるように、フィルム14の厚さを設定する。但し、空気経路3内と筐体2の周囲との間の気圧差に耐えられる程度の厚さは確保する。
【0023】
なお、高密度ポリエチレンとは、エチレンが分岐を持たずに直鎖状に結合した合成樹脂
であり、その硬い性質に由来して硬質ポリエチレン、或いは製法に由来して中低圧法ポリエチレンとも呼ばれる。高密度ポリエチレンは、石油を元としたナフサを熱分解して得られるエチレンをラジカル重合して製造される。重合には、エチレンを常圧または数気圧程度の圧力を掛けながら溶媒中に吹き込んで重合する低圧法や、エチレンを数十〜百数十気圧の環境下で重合する中圧法がある。高密度ポリエチレンは、比重が約0.95であり、引っ張り強さや衝撃強さに優れる。耐熱性に関しては、−80℃の低温環境下から+110℃程度の高温環境下までその機械的な強度を保つことが可能である。
【0024】
次に、点検口12の前に赤外線カメラ15を設置する(図5参照)。赤外線カメラ15の向きは、点検口12の内部が見える位置であって、空気経路3内に配置される空気フィルタ7の表面を映すように設置する。そして、赤外線カメラ15を動作させて空気経路3の温度分布の計測を行う(S102)。これにより、空気経路3の温度分布が判り、経路内の空気の流れの状態を把握することができる。なお、この赤外線カメラ15は、赤外線を自ら発して物体からの反射を捉えて撮影するのではなく、物体が自らの熱で放つ赤外線を受動的に捉えて撮影するものである。
【0025】
図6は、赤外線カメラ15が撮影した空気経路3内の温度分布である。赤外線カメラ15は、図6に示すように、空気フィルタ7の表面やその周辺部分の温度分布を計測している。図6の温度分布から明らかなように、空気フィルタ7の表面は、上側の温度が下側の温度よりも高い。よって、この温度分布から、空気フィルタ7の上流側で合流している外気ダクト4からの空気と還気ダクト5からの空気は、十分に混合されないまま空気フィルタ7を通過していることが判る。すなわち、2つの経路から流れるそれぞれの空気が筐体2内で合流しても十分に混じり合わず、空気経路3内の上側を還気ダクト5からの空気が流れ、空気経路3内の下側を外気ダクト4からの空気が流れていることが判る。
【0026】
本実施形態に係る計測方法で混合チャンバ1内の空気の流れが判るようになることで、次のようなことが判る。すなわち、外気ダクト4からの空気と還気ダクト5からの空気とが十分に混じり合わないまま冷却コイル10や加熱コイル8を通過していることが判るようになる。よって、冷却コイル10を流れる冷水や加熱コイル8を流れる蒸気と空気経路3を流れる空気との温度差が小さい部分が生じていることを把握することができる。本実施形態に係る計測方法によれば、混合チャンバ1のような空調機器の内部の温度分布が把握できるようになることで、熱交換器の性能が十分に発揮されていないことを捉えることが可能となり、必要な改善策等の措置を講じることが可能となる。例えば、上記混合チャンバ1の場合であれば、空気フィルタ7の上流側に多数の邪魔板を配置することにより外気ダクト4からの空気と還気ダクト5からの空気とが十分に混合されるようにする等の改善策を講じ、冷却コイル10や加熱コイル8の効率を高めることができる。
【0027】
なお、上記実施形態では、混合チャンバ1内の空気の流れを計測した温度分布で把握していたが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。本発明に係る計測方法は、例えば、冷却コイルおよび加熱コイルの何れかのみ配置されるチャンバ内の温度分布や、その他、温度が互いに異なる複数種類の空気が混合するあらゆる流路の温度分布を計測するために適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】混合チャンバの構成図。
【図2】空気経路の温度分布計測方法の処理フロー図。
【図3】点検口がフィルムで塞がれる前の混合チャンバを示す図。
【図4】点検口がフィルムで塞がれた後の混合チャンバを示す図。
【図5】赤外線カメラによる計測状態を示す図。
【図6】赤外線カメラが撮影した空気経路内の温度分布を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1・・・混合チャンバ
2・・・筐体
3・・・空気経路
12・・点検口
14・・フィルム
15・・赤外線カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機器の内部にある空気経路の温度分布を計測する温度分布計測方法であって、
前記空調機器の外装部分に設けられ、前記空気経路の途中を開口する開口部を、赤外線を透過可能な所定部材で塞ぐ閉塞工程と、
前記開口部から前記空気経路内を撮影する赤外線カメラによって得られる、前記所定の部材を透過した赤外線のエネルギー分布に基づいて、該空気経路の温度分布を計測する計測工程と、を有する、
空気経路の温度分布計測方法。
【請求項2】
前記所定部材は、該所定部材を透過した前記赤外線のエネルギー分布が、該エネルギー分布に基づいて計測される前記温度分布により前記空気経路内の気流が明らかになる程度のエネルギー分布になるように、該所定部材の厚さが設定される、
請求項1に記載の空気経路の温度分布計測方法。
【請求項3】
前記所定部材は、高密度ポリエチレンで形成されるフィルムである、
請求項1または2に記載の空気経路の温度分布計測方法。
【請求項4】
前記空調機器は、2以上の経路からの空気が前記空気経路内で合流し、且つ合流した空気が該空気経路内の熱交換器を通過する、
請求項1から3の何れか一項に記載の空気経路の温度分布計測方法。
【請求項5】
前記空調機器は、前記空気経路内の前記熱交換器の上流側に空気フィルタを有し、
前記赤外線カメラは、前記空気経路内の前記空気フィルタを撮影する、
請求項4に記載の空気経路の温度分布計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−112718(P2010−112718A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282898(P2008−282898)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】