説明

空気調和システム

【課題】外気温度が極低温の状況下でもヒートポンプ式冷房装置を駆動でき、暖房を行うことができる空気調和システムを提供する。
【解決手段】ヒートポンプ式冷房装置Aと、暖房用循環装置Bとを備え、ヒートポンプ式冷房装置Aの第1循環経路1には、記膨張弁5とエバポレータ7との間に配置され、膨張弁5より第1循環経路1を通して供給された冷媒をガス冷媒と液冷媒に分離し、液冷媒を第1循環経路1よりエバポレータ7に導く気液分離器6と、気液分離器6で分離されたガス冷媒をエバポレータ7をパイパスさせて第1循環経路1に戻すガス冷媒用バイパス通路9と、気液分離器6で分離された液冷媒をエバポレータ7に供給しないように阻止できる切替弁8とを備え、暖気モードでは、ガス冷媒のみを冷凍サイクル内を循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式冷房装置を用いて暖房を行うことができる空気調和システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の空気調和システムとしては、特許文献1に開示されたものがある。この空気調和システムは、図9に示すように、第1の冷媒が循環する第1循環流路101を有するヒートポンプ式冷房装置100と、第2の冷媒が循環する第2循環流路121を有する暖房用循環装置120とを備えている。
【0003】
ヒートポンプ式冷房装置100の第1循環流路101中には、コンプレッサ102と内部熱交換部103の放熱部と室内用熱交換器104と膨脹弁105とエバポレータ(室外用熱交換器)106と気液分離器107とが設けられている。室内用熱交換器104は、空調ダクト110内に配置されている。暖房用循環装置120の第2循環流路121には、第2の冷媒を循環させるポンプ122と内部熱交換部103の受熱部とヒータコア123が設けられている。
【0004】
暖房モードにあっては、ヒートポンプ式冷房装置100のコンプレッサ102と暖房用循環装置120のポンプ122が共に駆動される。そして、第1の冷媒の熱が室内用熱交換器104で放熱され、この熱が暖房に供される。又、第1の冷媒の熱が内部熱交換部103で第2の冷媒に放熱される。これにより加熱された第2の冷媒がヒータコア123で放熱され、この熱が暖房に供される。
【0005】
このようにヒートポンプ式冷房装置100を用いた空気調和システムでは、暖房モードにあってもヒートポンプ式冷房装置100が駆動され、エバポレータ106では第1の冷媒が通過空気より吸熱する必要がある。
【特許文献1】特開2002−98430号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エバポレータ106が適切な熱交換を行うには、第1の冷媒温度とエバポレータ106を通過する通過空気温度との間にある程度の温度差が必要であるが、前記従来例では、極低温の状況下では所望の温度差を得ることができない場合がある。
【0007】
つまり、第1の冷媒がR134の場合には、図10に示すように、マイナス26.2℃における冷媒の蒸発圧力は1.01気圧でほぼ大気圧であり、マイナス20度における冷媒の蒸発圧力は1.33気圧であり、0.32気圧の減圧で第1循環流路101内が大気圧以下となる。そして、エバポレータ106とコンプレッサ102との間には気液分離器107が配置されているため、気液分離器107の通路抵抗が0.32気圧程度であればエバポレータ106が熱交換できず、暖房を行うことができない。
【0008】
そこで、本発明は、外気温度が極低温の状況下でもヒートポンプ式冷房装置を駆動でき、暖房を行うことができる空気調和システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する請求項1の発明は、第1の冷媒が循環する第1循環経路を有するヒートポンプ式冷房装置と、第2の冷媒が循環する第2循環経路を有する暖房用循環装置とを備え、ヒートポンプ式冷房装置の第1循環経路には、第1の冷媒を圧縮するコンプレッサと、第1の冷媒と第2の冷媒との間で熱交換させ、第1の冷媒の熱を放熱させるコンデンサと、第1の冷媒を膨張させる膨張手段と、膨張手段で膨張された第1の冷媒と空気との間で熱交換させて空気を冷却するエバポレータとが設けられ、暖房用循環装置は、コンデンサからの放熱を用いて暖房を行う空気調和システムであって、膨張手段とエバポレータとの間に配置され、膨張手段より第1循環経路を通して供給された冷媒をガス冷媒と液冷媒に分離し、液冷媒を第1循環経路よりエバポレータに導く気液分離器と、気液分離器で分離されたガス冷媒をエバポレータをパイパスさせて第1循環経路に戻すガス冷媒用バイパス通路と、気液分離器で分離された液冷媒をエバポレータに供給しないように阻止できる液冷媒流通阻止手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の空気調和システムであって、暖房用循環装置の第2循環経路には、第2の冷媒を循環させるポンプと、コンデンサを第2循環経路内に配置する機器収容室と、第2の冷媒と空気との間で熱交換させて空気を加熱するヒータコアと、第2の冷媒の熱を放熱させる放熱器とが設けられ、第2の冷媒は流体で、顕熱変化によって熱交換を行うものであることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1記載の空気調和システムであって、ガス冷媒用バイパス通路には、オリフィスが設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の空気調和システムであって、液冷媒流通阻止手段は、ガス冷媒用バイパス通路が第1循環流路に連通し、且つ、エバポレータに冷媒が流れないように第1循環経路を閉塞する第1切替位置と、エバポレータに冷媒が流れるように第1循環経路を開口する第2切替位置に切り替えできる切替弁であることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4記載の空気調和システムであって、切替弁は、第1切替位置でガス冷媒が通過する第1オリフィスと、第2切替位置でガス冷媒が通過する第2オリフィスをそれぞれ有し、第1オリフィスの通路抵抗を暖気モードに適するものに、第2オリフィスの通路抵抗を暖房モード/冷房モードに適するものに設定したことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の空気調和システムであって、ガス冷媒用バイパス通路は、気液分離器内の冷媒貯留室の液冷媒が通常溜まる位置を通り、その位置でオイルブリードを介して冷媒貯留室に開口されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の空気調和システムであって、エバポレータへの液冷媒の流通を阻止する暖気モードと、エバポレータへの液冷媒の流通を許容する暖房モードとの切り替えは、コンプレッサの入口側の冷媒圧力とエバポレータの吸気温度の少なくとも一方に基づいて行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、液冷媒流通阻止手段によって液冷媒をエバポレータに流さずに、ガス冷媒のみをガス冷媒用バイパス通路を用いて循環させれば(暖気モード)、エバポレータでは熱交換しないが、コンプレッサの仕事分だけの熱量を暖房として用いることができる。従って、外気温度が極低温の状況下でも暖房できる。
【0017】
また、気液分離器からの液冷媒をエバポレータに流し、液冷媒を循環させれば(暖房モード)、エバポレータで熱交換するが、気液分離器がエバポレータとコンプレッサとの間に配置された従来例の空気調和システムに比べて、エバポレータの出口側の冷媒蒸発圧力を、気液分離器の通路抵抗分とエバポレータの通路抵抗の軽減分だけ低下させることができるため、極低温の状況下でも第1の冷媒温度とエバポレータを通過する空気温度との間の温度差を従来例よりも大きく取ることができ、効率の良い熱交換が可能であり、暖房モードの暖房性能が向上する。
【0018】
暖房モードにあって、エバポレータで吸熱にあまり寄与しないガス冷媒をエバポレータに対しバイパスさせれば、エバポレータの熱交換効率が向上し、この点からも暖房モードの暖房性能が向上する。
【0019】
請求項2の発明によれば、暖房モードではヒータコアで放熱し、冷房モードでは放熱器で放熱することによって暖房と冷房を行うことができる。そして、コンデンサは水冷式であるため、空冷式に比べて熱伝達効率が高いためにコンパクト化でき、第1の冷媒の通路抵抗を減少させることができる。よって、通路抵抗が減少した分だけコンプレッサの所要動力が小さくなり、コンプレッサの駆動力を省力化できるとともにコンプレッサを小型化することができる。又、第2循環経路の冷媒が液体で相変化せずに顕熱変化するものであるため、熱伝達効率が良くより小型化が図れる。
【0020】
請求項3の発明によれば、ガス冷媒バイパス通路より仮に液冷媒が流れても再度ガス化することができ、液冷媒がコンプレッサに戻ることを防止できる。
【0021】
請求項4の発明によれば、切替弁の切替制御によって暖気モードと暖房モード/冷房モードとを切り替えできるため、切り替えが容易である。
【0022】
請求項5の発明によれば、暖気モードではガス冷媒が第1オリフィスを通り、暖房モード/冷房モードではガス冷媒が第2オリフィスを通るように切替弁が切り替え制御されるが、暖気モードと暖房モード/冷房モードとではガス冷媒の流通量が異なるが、各モードに応じた適切な流通抵抗とすることができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、ガス冷媒用バイパス通路からはガス冷媒と共にオイルも一緒に循環し、暖気モードでもオイルがコンプレッサに戻されるため、コンプレッサの信頼性を確保できる。
【0024】
請求項7の発明によれば、エバポレータが適切な熱交換を行うことができるか否かは、エバポレータの吸気温度によって決定されるため、エバポレータの吸気温度に基づいてモード切り替えを行えば、適切なモード切り替えができる。
【0025】
又、コンプレッサの入口側の冷媒圧力が大気圧以下になるか否かは、コンプレッサの入口側の冷媒圧力によって決定されるため、コンプレッサの入口側の冷媒圧力に基づいてモード切り替えを行えば、適切なモード切り替えができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
(一実施形態)
図1〜図8は本発明の空気調和システムを車両用空気調和システムに適用した実施形態を示し、図1は車両用空気調和システムの構成図、図2は気液分離器の構成図、図3(a)は暖気モードの切替位置を示す切替弁の構成図、図3(b)は暖房モード/冷房モードの切替位置を示す切替弁の構成図、図4は空調ダクト内の要部構成図、図5は制御系の概略回路ブロック図、図6は車両用空気調和システムの暖気モードの冷媒流れを示す構成図、図7は車両用空気調和システムの暖房モードの冷媒流れを示す構成図、図8はP−h線図上に本実施形態に係るヒートポンプ式冷房装置(冷凍サイクル)の状態を示した図である。
【0028】
図1に示すように、車両用空気調和システムは、ヒートポンプ式冷房装置Aと暖房用循環装置Bとを組み合わせたものである。
【0029】
ヒートポンプ式冷房装置Aは、第1の冷媒としてのR134が封入された第1循環経路1を有し、この第1循環経路1には、コンプレッサ2,コンデンサである水冷コンデンサ3、内部熱交換器4,膨張手段である膨張弁5、気液分離器6、エバポレータ7、液冷媒流通阻止手段である切替弁8がこの順で配置されている。
【0030】
コンプレッサ2は、吸入した比較的低温低圧の第1の冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒として吐出する。
【0031】
水冷コンデンサ3は、下記する第2循環経路10中の機器収容室13内に配置されており、コンプレッサ2から圧送された第1の冷媒が第2の冷媒によって冷却される。すなわち、水冷コンデンサ3において第1の冷媒と第2の冷媒との間で熱交換が行われ、第2の冷媒は第1の冷媒によって加熱される。
【0032】
内部熱交換器4は、水冷コンデンサ3から送出された第1の冷媒とエバポレータ7から送出されたより冷温の第1の冷媒との間で熱交換させ、水冷コンデンサ3から送出された第1の冷媒はさらに冷却される。
【0033】
膨張弁5は、内部熱交換器4を通過した第1の冷媒を膨張(減圧)させて低温低圧のガスとして気液分離器6へと送出する。
【0034】
気液分離器6は、膨張弁5から送出された第1の冷媒を気液分離すると共に液相状態の第1の冷媒を一時的に貯留する。気液分離器6の詳しい構成は、下記する。
【0035】
エバポレータ7は、気液分離器6から送出された第1の液冷媒とエバポレータ7を通過する空気とを熱交換させ、エバポレータ7を通過する空気は第1の冷媒によって冷却される。エバポレータ7は、下記するように空調ダクト30内に配置されている。
【0036】
切替弁8は、第1の冷媒をエバポレータ7に流すか否かを切り替える。切替弁8の詳しい構成は、下記する。
【0037】
第1循環経路1には、気液分離器6と切替弁8との間を連通するガス冷媒用バイパス通路9が設けられている。
【0038】
暖房用循環装置Bは、第2の冷媒としての水や不凍液などの液体が封入された第2循環経路10を有し、この第2循環経路10中に、ポンプ11、放熱器12、機器収容室13及びヒータコア14がこの順で配置されている。機器収容室13は、第2循環経路10よりも大きな断面積を有するスペースであり、この内部に上記した水冷コンデンサ3と共にヒータである電気ヒータ15が収納されている。
【0039】
ポンプ11は、第2の冷媒を第2循環経路10内に循環させるため、吸入した第2の冷媒を圧送する。ポンプ11で圧送された液体の冷媒は、相変化することなく液相のまま第2循環経路10内を循環し、熱交換により顕熱変化する。
【0040】
放熱器12は、第2の冷媒の熱を外気に放熱させるものであり、電動ファンや走行風によって外気が吹き付けられ、第2の冷媒と外気との間で熱交換が行われる。
【0041】
電気ヒータ15は、水冷コンデンサ3の下流側に設けられ、通電することで発熱して第2の冷媒を加熱する。
【0042】
ヒータコア14は、第2の冷媒とヒータコア14を通過する空気とを熱交換させることで、ヒータコア14を通過する空気を加熱する。ヒータコア14は、下記するように空調ダクト30内に配置されている。
【0043】
第2循環経路10には、放熱器12をバイパスする放熱器バイパス流路16が設けられ、放熱器バイパス流路16の上流側に設けられた流路切替弁17を切り換えることで、第2の冷媒の流れを放熱器12側と放熱器バイパス流路16側のいずれかに切り換えることができる。
【0044】
気液分離器6は、図2に示すように、内部に密閉された冷媒貯留室6aを有する。冷媒貯留室6aの上部には、膨張弁5からの第1循環経路1の一部を構成する冷媒導入用通路1aが開口されている。冷媒貯留室6aの下部には、エバポレータ7に接続される第1循環経路1の一部を構成する冷媒導出用通路1bが開口されている。冷媒導出用通路1bより液冷媒がエバポレータ7に送出される。冷媒貯留室6aの上部には、ガス冷媒用バイパス通路9が開口されている。ガス冷媒は、ガス冷媒用バイパス通路9を通って切替弁8に送出される。又、ガス冷媒用バイパス通路9は、冷媒貯留室6aの下部、液冷媒が通常貯留する位置を通って気液分離器6の外部に導き出されている。ガス冷媒用バイパス通路9は、液冷媒の貯留位置でオイルブリード9aを介して冷媒貯留室6aに開口されている。
【0045】
切替弁8は、図3(a),(b)に示すように、弁ハウジング20を有する。この弁ハウジング20の2つの入口ポートには、エバポレータ7からの第1循環経路1A(図3(a)、(b)では明確化のため、符号1Aを付す)とガス冷媒用バイパス通路9が接続されている。弁ハウジング20の2つの出口ポートには、コンプレッサ2側に接続される第1循環経路1B(図3(a)、(b)では明確化のため、符号1Bを付す)が共に接続されている。弁ハウジング20内には弁体21が配置されている。弁体21は、1つの液冷媒用通路22と、ガス冷媒用の第1オリフィス23及び第2オリフィス24とを有する。第1オリフィス23は第2オリフィス24より小さい開口径であり、第1オリフィス23は大きな通路抵抗に、第2オリフィス24は小さな通路抵抗に設定されている。つまり、第1オリフィス23の通路抵抗は暖気モードに適するものに、第2オリフィス24の通路抵抗は暖房モード/冷房モードに適するものに設定されている。弁体21は、制御部の切替指令によって第1切替位置(図3(a)の位置)と第2切替位置(図3(b)の位置)との間を移動する。
【0046】
図3(a)に示す第1切替位置では、第1循環経路1A,1B間が閉塞されると共にガス冷媒用バイパス通路9が第1オリフィス23を介して第1循環経路1Bに連通される。これにより、液冷媒は、エバポレータ7に流れず、ガス冷媒のみが冷凍サイクル内を循環する。
【0047】
図3(b)に示す第2切替位置では、第1循環経路1A,1B間が連通されると共にガス冷媒用バイパス通路9が第2オリフィス24を介して第1循環経路1Bに連通される。これにより、液冷媒はエバポレータ7に流れ、且つ、ガス冷媒はエバポレータ7をガス冷媒用バイパス通路9によってバイパスして冷凍サイクル内を循環する。
【0048】
次に、空調ダクト30内の構成を説明する。空調ダクト30内には、内外気ドア(図示せず)及びブロアファン31がこの順で配置されている。内外気ドアは車室内の空気(内気)を取り込む内気位置と車室外の空気(外気)を取り込む外気位置との間で移動し、ブロアファン31の送風力によって空調ダクト30内には内気と外気を取り込むことができる。
【0049】
空調ダクト30内には、前記エバポレータ7と前記ヒータコア14がこの順で配置されている。エバポレータ7の直ぐ上流位置には温度センサ32が配置されている。温度センサ32は、エバポレータ7の通過前空気温度(吸気温度)を検知して制御部40(図5に示す)に出力する。エバポレータ7とヒータコア14の間には、ミックスドア33が設けられている。ミックスドア33は、エバポレータ7からの冷却風をどの程度ヒータコア14に配風するかその割合を調整する。暖気モード、フル暖房モード等では、エバポレータ7を通過した送風が全てヒータコア14に送られる。ヒータコア14を通過し、又は、バイパスした送風は車室内の所望の吹出口から吹き出される。
【0050】
次に、車両用空気調和システムの制御系の概略を説明する。図5に示すように、制御部40には、操作部41からの入力指令(暖房運転指令、冷房運転指令など)や温度センサ32の検知出力が入力されている。制御部40は、ユーザの入力指令情報、温度センサ32の検知情報等に基づいてコンプレッサ2、ポンプ11、ドアアクチュエータ42、切替弁8、電気ヒータ15、流路切替弁17等を制御する。ドアアクチュエータ42は、内外気切替ドア(図示せず)やミックスドア33等を駆動する。
【0051】
次に、本実施形態における車両用空気調和システムの暖房運転時の動作を説明する。
【0052】
暖房運転指令があると、制御部40は、ドアアクチュエータ42を駆動してミックスドア33の位置をエバポレータ7からの冷却風を全てヒータコア14に送風する位置(図4の位置)とすると共に内外気ドア(図示せず)を内気導入位置とする。又、制御部40は、コンプレッサ2及びポンプ11を駆動すると共に流路切替弁17を放熱器バイパス流路16側に切り替える。
【0053】
制御部40は、このような制御と同時に温度センサ32の検知温度を取得する。温度センサ32の検知温度(運転開始下では基本的に外気温度と同じ温度を検知する)が所定温度(例えばマイナス20℃)以下であると、切替弁8を第1切替位置に位置させて暖気モードに入る。
【0054】
暖気モードでは、図6に示すように、ヒートポンプ式冷房装置Aの第1の冷媒は、気液分離器6で液冷媒とガス冷媒に分離されるが、液冷媒はエバポレータ7に流されずに、ガス冷媒のみがガス冷媒用バイパス通路9を通って冷凍サイクル内を循環する。従って、コンプレッサ2の仕事分だけの熱量によって第1の冷媒が加熱され、第1の冷媒の熱が水冷コンデンサ3より放熱される。暖房循環装置Bの第2冷媒は、水冷コンデンサ3からの放熱によって加熱され、この加熱された第2の冷媒はヒータコア14で空調ダクト30内の送風に放熱する。ヒータコア14で加熱された温風が車室内に吹き出される。
【0055】
従って、ヒートポンプ式冷房装置Aを利用して外気温度に係わらず車室内を暖房できる。
【0056】
なお、電気ヒータ15を用いれば、第2の冷媒は、コンプレッサ2の仕事分の熱量と電気ヒータ15の熱量によって加熱されるため、更に迅速に暖房できる。
【0057】
このように車室内が徐々に暖められると温度センサ32の検知温度も徐々に上昇する。制御部40は、温度センサ32の検知温度を常にチェックし、検知温度が所定温度(例えばマイナス20℃)を越えると、切替弁8を第2切替位置に切り替えて暖房モードに入る。
【0058】
暖房モードでは、図7に示すように、ヒートポンプ式冷房装置Aの第1の冷媒は、気液分離器6で液冷媒とガス冷媒に分離され、液冷媒がエバポレータ7に流され、ガス冷媒がガス冷媒用バイパス通路9を通って冷凍サイクル内を循環する。従って、コンプレッサ2の仕事分だけの熱量と第1の冷媒の凝縮によって第1の冷媒が加熱され、第1の冷媒の熱が水冷コンデンサ3より放熱される。暖房循環装置Bの第2冷媒は、水冷コンデンサ3からの放熱によって加熱され、この加熱された第2の冷媒はヒータコア14で空調ダクト30内の送風に放熱する。ヒータコア14で加熱された温風が車室内に吹き出される。
【0059】
この暖房モードでは、気液分離器6からの液冷媒はエバポレータ7に流され、エバポレータ7で熱交換するが、気液分離器6がエバポレータ7とコンプレッサ2との間に配置された従来例の空気調和システムに比べて、図8に示すように、エバポレータ7の出口側の冷媒蒸発圧力を、気液分離器6の通路抵抗分とエバポレータ7の通路抵抗の軽減分だけ低下させることができる。そのため、極低温(マイナス20℃程度)の状況下でも第1の冷媒温度とエバポレータ7を通過する空気温度との間の温度差を従来例よりも大きく取ることができ、効率の良い熱交換が可能であり、暖房モードの暖房性能が向上する。つまり、従来例では、図10に示すように、第1の冷媒の蒸発温度を最低でもマイナス20℃とする必要があったため、エバポレータ7の通過前空気温度(吸気温度)がマイナス20℃であれば、熱交換できず、暖房を行うことができない。これに対し、本実施形態では、図8に示すように、第1の冷媒の蒸発温度を最低マイナス26.2℃にできるため、エバポレータ7の通過前空気温度(吸気温度)がマイナス20℃であっても熱交換でき、暖房を行うことができる。
【0060】
暖房モードにあって、エバポレータ7で吸熱にあまり寄与しないガス冷媒をエバポレータ7に対しバイパスさせたため、エバポレータ7の熱交換効率が向上し、この点からも暖房モードの暖房性能が向上する。
【0061】
また、冷房運転指令があると、暖房モードと概略同じであるが、流路切替弁17が放熱器12側に切り替えられる。これによって、第1の冷媒の熱が放熱器12を介して車室外に放熱される。又、ミックスドア33は、ヒータコア14への送風量を制限する位置に位置される。そして、エバポレータ7で第1の冷媒が空調ダクト30内の送風を冷却し、この冷却風、又は、ヒータコア14を通過した温風によって温度調整された冷却風が車室内に送られる。
【0062】
この実施形態では、暖房用循環装置Bの第2循環経路10には、第2の冷媒を循環させるポンプ11と、水冷コンデンサ3を第2循環経路10内に配置する機器収容室13と、第2の冷媒と空気との間で熱交換させて空気を加熱するヒータコア14と、第2の冷媒の熱を放熱させる放熱器12とが設けられ、第2の冷媒は流体で、顕熱変化によって熱交換を行うものである。従って、暖房モードではヒータコア14で放熱し、冷房モードでは放熱器12で放熱することによって暖房と冷房を行うことができる。そして、コンデンサ3は水冷式であるため、空冷式に比べて熱伝達効率が高いためにコンパクト化でき、第1の冷媒の通路抵抗を減少させることができる。よって、通路抵抗が減少した分だけコンプレッサ2の所要動力が小さくなり、コンプレッサ2の駆動力を省力化できるとともにコンプレッサ2を小型化することができる。又、第2循環経路10の冷媒が液体で相変化せずに顕熱変化するものであるため、熱伝達効率が良くより小型化が図れる。
【0063】
この実施形態では、液冷媒流通阻止手段は、ガス冷媒用バイパス通路9を第1循環経路1に連通し、且つ、エバポレータ7に冷媒が流れないように第1循環経路1A,1B(図3(a)、(b)に示す)間を閉塞する第1切替位置と、ガス冷媒用バイパス通路9を第1循環経路1に連通し、且つ、エバポレータ7に冷媒が流れるように第1循環経路1A,1B(図3(a)、(b)に示す)間を連通する第2切替位置に切り替えできる切替弁8である。従って、切替弁8の切替制御によって暖気モードと暖房モード/冷房モードとを切り替えできるため、切り替えが容易である。
【0064】
この実施形態では、ガス冷媒用バイパス通路9、詳細には、切替弁8中に第1及び第2オリフィス23,24が設けられている。従って、ガス冷媒用バイパス通路9より仮に液冷媒が流れても再度ガス化することができ、液冷媒がコンプレッサ2に戻ることを防止できる。
【0065】
この実施形態では、切替弁8は、第1切替位置でガス冷媒が通過する第1オリフィス23と、第2切替位置でガス冷媒が通過する第2オリフィス24をそれぞれ有し、第1オリフィス23の通路抵抗を暖気モードに適するものに、第2オリフィス24の通路抵抗を暖房モード/冷房モードに適するものに設定されている。暖気モードと暖房モード/冷房モードとではガス冷媒の流量が異なるが、各モードに応じた適切な流通抵抗とすることができる。
【0066】
この実施形態では、ガス冷媒用バイパス通路9は、気液分離器6内の冷媒貯留室6aの液冷媒が通常溜まる位置を通り、その位置でガス冷媒用バイパス通路9がオイルブリード9aを介して開口されている。従って、ガス冷媒用バイパス通路9からはガス冷媒と共にオイルも一緒に循環し、暖気モードでもオイルがコンプレッサ2に戻されるため、コンプレッサ2の信頼性を確保できる。
【0067】
この実施形態では、エバポレータ7への液冷媒の流通を阻止する暖気モードと、エバポレータ7への液冷媒の流通を許容する暖房モードとの切り替えは、エバポレータ7の吸気温度に基づいて行っている。エバポレータ7が適切な熱交換を行うことができるか否かは、エバポレータ7の吸気温度によって決定されるため、エバポレータ7の吸気温度に基づいてモード切り替えを行えば、適切なモード切り替えができる。
【0068】
又、暖気モードと暖房モードの切り替え制御をコンプレッサ2の入口側の冷媒圧力に基づいて行っても良い。コンプレッサ2の入口側の冷媒圧力が大気圧以下になるか否かは、コンプレッサ2の入口側の冷媒圧力によって決定されるため、コンプレッサ2の入口側の冷媒圧力に基づいてモード切り替えを行えば、適切なモード切り替えができる。尚、暖気モードと暖房モードとの切り替えは、エバポレータ7の吸気温度とコンプレッサ2の入口側の冷媒圧力との双方に基づいて行っても良い。
【0069】
尚、この実施形態では、暖房モードでは、エバポレータ7を通過した冷却風が全て車室内に戻されるよう構成したが、エバポレータ7を通過した冷却風の全部又はその一部が車室外部に排出するよう構成しても良い。エバポレータ7を通過した冷却風の温度が外気温度よりも低い場合には、暖房性能の向上を図ることができる。
【0070】
(その他)
前記各実施形態では、ヒータとして電気ヒータ15を使用しているが、燃焼ヒータなどを用いても同様の作用・効果を得ることができる。
【0071】
前記各実施形態では、第1の冷媒としてR134を、第2の冷媒として水や不凍液などの液体をそれぞれ使用しているが、これら以外を冷媒として使用しても良いことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態を示し、車両用空気調和システムの構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、気液分離器の構成図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、(a)は暖気モードの切替位置を示す切替弁の構成図、(b)は暖房モード/冷房モードの切替位置を示す切替弁の構成図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、空調ダクト内の要部構成図である。
【図5】本発明の一実施形態を示し、制御系の概略回路ブロック図である。
【図6】本発明の一実施形態を示し、車両用空気調和システムの暖気モードの冷媒流れを示す構成図である。
【図7】本発明の一実施形態を示し、車両用空気調和システムの暖房モードの冷媒流れを示す構成図である。
【図8】P−h線図上に本実施形態に係るヒートポンプ式冷房装置(冷凍サイクル)の状態を示した図である。
【図9】従来例の空気調和システムの構成図である。
【図10】P−h線図上に従来例に係るヒートポンプ式冷房装置(冷凍サイクル)の状態を示した図である。
【符号の説明】
【0073】
A ヒートポンプ式冷房装置
B 暖房用循環装置
1,1A,1B, 第1循環経路
1a 冷媒導入用通路(第1循環経路)
1b 冷媒導出用通路(第1循環経路)
2 コンプレッサ
3 水冷コンデンサ(コンデンサ)
5 膨張弁(膨張手段)
6 気液分離器
7 エバポレータ
8 切替弁(液冷媒流通阻止手段)
9 ガス冷媒用バイパス通路
9a オイルブリード
10 第2循環経路
11 ポンプ
12放熱器
14 ヒータコア
15 電気ヒータ(ヒータ)
16 放熱器バイパス流路
17 流路切替弁
23 第1オリフィス
24 第2オリフィス
32 温度センサ(エバポレータの吸気温度検知用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の冷媒が循環する第1循環経路(1)を有するヒートポンプ式冷房装置(A)と、第2の冷媒が循環する第2循環経路(10)を有する暖房用循環装置(B)とを備え、
前記ヒートポンプ式冷房装置(A)の前記第1循環経路(1)には、第1の冷媒を圧縮するコンプレッサ(2)と、第1の冷媒と第2の冷媒との間で熱交換させ、第1の冷媒の熱を放熱させるコンデンサ(3)と、第1の冷媒を膨張させる膨張手段(5)と、前記膨張手段(5)で膨張された第1の冷媒と空気との間で熱交換させて空気を冷却するエバポレータ(7)とが設けられ、
前記暖房用循環装置(B)は、前記コンデンサ(3)からの放熱を用いて暖房を行う空気調和システムであって、
前記膨張手段(5)と前記エバポレータ(7)との間に配置され、前記膨張手段(5)より前記第1循環経路(1)を通して供給された冷媒をガス冷媒と液冷媒に分離し、液冷媒を前記第1循環経路(1)より前記エバポレータ(7)に導く気液分離器(6)と、前記気液分離器(6)で分離されたガス冷媒を前記エバポレータ(7)をパイパスさせて前記第1循環経路(1)に戻すガス冷媒用バイパス通路(9)と、前記気液分離器(6)で分離された液冷媒を前記エバポレータ(7)に供給しないように阻止できる液冷媒流通阻止手段(8)とを備えたことを特徴とする空気調和システム。
【請求項2】
請求項1記載の空気調和システムであって、
前記暖房用循環装置(B)の前記第2循環経路(10)には、第2の冷媒を循環させるポンプ(11)と、前記コンデンサ(3)を前記第2循環経路(10)内に配置する機器収容室(13)と、第2の冷媒と空気との間で熱交換させて空気を加熱するヒータコア(14)と、第2の冷媒の熱を放熱させる放熱器(12)とが設けられ、第2の冷媒は流体で、顕熱変化によって熱交換を行うものであることを特徴とする空気調和システム。
【請求項3】
請求項1記載の空気調和システムであって、
前記ガス冷媒用バイパス通路(9)には、オリフィス(23),(24)が設けられていることを特徴とする空気調和システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の空気調和システムであって、
前記液冷媒流通阻止手段(8)は、前記ガス冷媒用バイパス通路(9)が前記第1循環流路(1)に連通し、且つ、前記エバポレータ(7)に液冷媒が流れないように第1循環経路(1)を閉塞する第1切替位置と、前記エバポレータ(7)に液冷媒が流れるように前記第1循環経路(1)を開口する第2切替位置に切り替えできる切替弁(8)であることを特徴とする空気調和システム。
【請求項5】
請求項4記載の空気調和システムであって、
前記切替弁(8)は、第1切替位置でガス冷媒が通過する第1オリフィス(23)と、第2切替位置でガス冷媒が通過する第2オリフィス(24)をそれぞれ有し、前記第1オリフィス(23)の通路抵抗を暖気モードに適するものに、前記第2オリフィス(24)の通路抵抗を暖房モード/冷房モードに適するものに設定したことを特徴とする空気調和システム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の空気調和システムであって、
前記ガス冷媒用バイパス通路(9)は、前記気液分離器(6)内の冷媒貯留室(6a)の液冷媒が通常溜まる位置を通り、その位置でオイルブリード(9a)を介して冷媒貯留室(6a)に開口されていることを特徴とする空気調和システム。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の空気調和システムであって、
前記エバポレータ(7)への液冷媒の流通を阻止する暖気モードと、前記エバポレータ(7)への液冷媒の流通を許容する暖房モードとの切り替えは、前記エバポレータ(7)の吸気温度と前記コンプレッサ(2)の入口側の冷媒圧力との少なくとも一方に基づいて行うことを特徴とする空気調和システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−190579(P2009−190579A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33718(P2008−33718)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】