説明

空気調和装置

【課題】ドレンパン内のドレン水全体にわたって均一に抗菌剤を拡散させることができ、ドレンパン内で菌の繁殖を効果的に抑制することが可能である空気調和装置を提供する。
【解決手段】空気調和装置において、熱交換器と、前記熱交換器で発生した凝縮水を受け、この凝縮水をドレン水として貯溜するドレンパンと、前記ドレンパン内の前記ドレン水を排出するドレンポンプと、前記ドレンパン内の前記ドレン水中に浮揚した状態で設けられた抗菌剤と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における空気調和装置においては、送風機と、熱交換器と、この熱交換器の下方に設けられ、熱交換器で発生した凝縮水(ドレン水)を受けるドレンパンと、ドレンパンに貯溜されたドレン水を機外に排出するためのドレンポンプ及びドレンパイプを備えたものが知られている(例えば、特許文献1−3参照)。従来においては、ドレンパンを構成する主な材料として、水漏れし難いABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等を用いることが一般的である。
【0003】
ところで、ドレンパンに貯溜されたドレン水中においては、空気中に浮遊する埃や細菌等が入り込みドレン水中で繁殖し、いわゆるヌメリやスライム等の粘性物が生成されることがある。このようなドレン水中の粘性物は、ドレンパイプに入って詰まりドレン水の排水不良を引き起こす原因となる。
【0004】
そこで、従来においては、ドレン水中の細菌類の繁殖を抑制するため、細菌類の繁殖を抑制する薬剤(抗菌剤)を、ドレンパン(の水受け部)を構成する材料に練りこんだり、ドレンパンの表面に塗布したりすることでドレン水中の細菌類の繁殖を抑制することが行われていた。
また、抗菌剤をドレン水中に浸漬した状態でドレンパン内に取り付けたものも従来において知られている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平04−057123号公報
【特許文献2】実開平04−078418号公報
【特許文献3】特開平09−053837号公報
【特許文献4】特許第4639762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来における空気調和装置においては、ドレンパンを構成する樹脂材料に抗菌性能を有する薬剤を練り込んだ場合、樹脂に対する薬剤の重量比が高いと、ドレンパンの強度が低下したり薬剤が溶出した後に水漏れしたりするおそれがあるという課題がある。逆に樹脂に対する薬剤の重量比を小さく抑えると、十分な抗菌性能を発揮できる期間(寿命)が短くなってしまうという課題がある。また、ドレンパンの材料に抗菌剤を練り込んだ場合、ドレンパンの表面に抗菌剤を塗布した場合の双方とも、塵埃等がドレンパン表面に堆積すると抗菌性能が著しく低下してしまい、必要な抗菌性能が得られなくなってしまうという課題がある。
【0007】
また、特許文献4に示されるような従来の空気調和装置においては、設置した抗菌剤の抗菌成分がドレンパン内のドレン水の全体に拡散されないため、ドレンパン内に抗菌成分が不足している部分ができてしまい、当該部分においては細菌の増殖を十分に抑制することができないという課題がある。特に、空気調和装置の空調運転(冷房運転)を停止してドレンポンプの運転停止中にはドレン水はドレンパン内で流れがなく滞留している。このため、特にドレンパンの流路が狭い場合には、抗菌成分の拡散は小さくなる。
【0008】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、ドレンパン内のドレン水全体にわたって均一に抗菌剤を拡散させることができ、ドレンパン内で菌の繁殖を効果的に抑制することが可能であって、ヌメリやスライムが原因で起こるドレンポンプ・ドレンパイプの詰まりによる排水不良を未然に防止することができる空気調和装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る空気調和装置においては、熱交換器と、前記熱交換器で発生した凝縮水を受け、この凝縮水をドレン水として貯溜するドレンパンと、前記ドレンパン内の前記ドレン水を排出するドレンポンプと、前記ドレンパン内の前記ドレン水中に浮揚した状態で設けられた抗菌剤と、を備えた構成とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る空気調和装置においては、ドレンパン内のドレン水全体にわたって均一に抗菌剤を拡散させることができ、ドレンパン内で菌の繁殖を効果的に抑制することが可能であって、ヌメリやスライムが原因で起こるドレンポンプ・ドレンパイプの詰まりによる排水不良を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る実際に設置された天井埋込型の空気調和装置(室内機)を室内から見た視点で示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る空気調和装置の横断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る空気調和装置の縦断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る空気調和装置の要部(ドレンパイプ付近)を拡大して示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る空気調和装置が備える抗菌剤の構成を模式的に示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る抗菌剤の第1の配置例を示す空気調和装置の断面図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る抗菌剤の第2の配置例を示す空気調和装置の断面図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係るドレンパン内のドレン水のドレンポンプを作動させない場合における抗菌剤濃度の経時変化を説明する図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係るドレンパン内のドレン水のドレンポンプを断続的に作動させた場合における抗菌剤濃度の経時変化を説明する図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係るドレンパン内のドレン水の水位変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を添付の図面に従い説明する。各図を通じて同符号は同一部分又は相当部分を示しており、その重複説明は適宜に簡略化又は省略する。
【0013】
実施の形態1.
図1から図7は、この発明の実施の形態1に係るもので、図1は実際に設置された天井埋込型の空気調和装置(室内機)を室内から見た視点で示す斜視図、図2は空気調和装置の横断面図、図3は空気調和装置の縦断面図、図4は空気調和装置の要部(ドレンパイプ付近)を拡大して示す断面図、図5は空気調和装置が備える抗菌剤の構成を模式的に示す図、図6は抗菌剤の第1の配置例を示す空気調和装置の断面図、図7は抗菌剤の第2の配置例を示す空気調和装置の断面図である。
【0014】
ここでは、空気調和装置として天井埋込型のものを例として取り挙げて説明する(ただし、ここで説明する天井埋込型空気調和装置はあくまでも一例であり、これに限定されるものではない)。すなわち、図1に示すように、部屋1の天井に空気調和装置2(室内機)が埋設されている。空気調和装置2は大きく分けて天井に埋め込まれた本体3と、この本体3の下面に取り付けられ天井において部屋1内に露出する化粧パネル4とから構成されている。
【0015】
化粧パネル4は略四角形状であり、その略中央部には略四角形状のグリルからなるパネル吸込口4aが設けられている。そして、化粧パネル4における略四角形状の各辺に沿った内側で、かつ、パネル吸込口4aの略四角形状の各辺の外側には、パネル吹出口4bが計4つ設けられている。各パネル吹出口4bには、吹き出し風の風向を制御するベーン5が設けられている。なお、本体3に化粧パネル4を取り付けた状態で、パネル吸込口4aは後述する本体吸込口3aに、パネル吹出口4bは同じく後述する本体吹出口3bに、それぞれ連通される。
【0016】
図2及び図3に示すように、横断面形状が略四角形状の本体3には、その略四角形状の各辺に沿って本体吹出口3bが形成されている。そして、本体3の略中央部には遠心送風機からなる送風機6が設置されている。送風機6は、吸込側が下方に向けられたターボファンからなるファン6aと、このファン6aを回転駆動するファンモータ6bとを備えている。ファンモータ6bは、本体3の天面側に取り付けられており、ファン6aの下方には、ファン6aへ空気を導入するためのベルマウス9が取り付けられている。このベルマウス9の開口部の下側が本体吸込口3aである。
【0017】
本体3内には、ファン6aを囲むように略環状(より正確には、一箇所が切り離された略C字状)に配置された熱交換器7が設置されている。熱交換器7は、図示しない室外機が備える、冷媒を圧縮する圧縮機等とともに冷凍サイクルを構成するものである。熱交換器7では、ファン6aによりパネル吸込口4a(本体吸込口3a)から吸い込まれる部屋1内の空気と冷凍サイクルにある冷媒との間で熱交換を行い冷気又は暖気が生成される。
【0018】
熱交換器7の下方には、熱交換器7における熱交換過程において空気が冷やされることにより当該空気中の水分が凝結して発生した凝縮水(ドレン水)を受けるためのドレンパン8が設置されている。
【0019】
本体吹出口3bは、これらの熱交換器7及びドレンパン8の外側に配置され、熱交換器7の2次側と部屋1内とを連通させている。前述したように、本体吹出口3bはパネル吹出口4bと連通しており、パネル吹出口4bには、熱交換器7(及び送風機6)で生成された冷風又は温風の吹き出し方向の調整するためのベーン5が取り付けられている。このベーン5の形状は、パネル吹出口4bと略同形である。これは、ベーン5が閉じた状態でパネル吹出口4bをほぼ塞ぐことができるよう、意匠性を考慮したことによるものである。なお、化粧パネル4の略中央の開口部には、略四角形状のグリルが取り付けられて、パネル吸込口4aが形成されている。このグリルは、例えば爪等により化粧パネル4に係合される。
【0020】
本体3内における横断面略四角形状の一隅には、ドレンパン8内に貯溜されたドレン水を吸い上げて本体3外へ排出するためのドレンポンプ10が設置されている。
図4は、ドレンパン8のドレンポンプ10設置箇所付近を拡大して示す断面図である。ドレンパン8には、熱交換器7で凝縮された水分がドレン水11となって貯溜されている。ドレンパン8の主材料は発泡スチロールで、ドレン水11が貯溜される内側表面にはABS樹脂からなるスキン層8aが一体的に成形されている。このスキン層8aの厚さは、約0.5mm程度である。
【0021】
なお、ドレンパン8の主材料に発泡スチロールを用いるのは、以下の理由による。すなわち、空気調和装置2の例えば冷房運転時には、ドレンパン8の上方にある熱交換器7の温度が室内空気よりも低くなる。そして、熱交換器7からの伝熱等によってドレンパン8も冷却されると、この冷却の程度によってはドレンパン8の表面において結露が発生してしまう。従って、ドレンパン8表面における結露を抑制するためにドレンパン8の断熱性を高める必要がある、という理由である。
【0022】
また、発泡スチロールの表面にABS樹脂からなるスキン層8aを一体成形するのは、以下の理由による。すなわち、発泡スチロールは、断熱性には優れているものの、水密性については十分とは言えず、そのまま用いたのではドレン水11が漏れてしまうおそれがある。そこで、ドレンパン8からドレン水11が漏れないようにするために、ドレン水11を受けるドレンパン8の内側表面にABS樹脂からなるスキン層8aを設けている。
【0023】
ドレンパン8におけるドレンポンプ10の略直下の部分(すなわち、ドレンパン8の最深部)には、ドレンポンプ10の故障時に使用するドレン排水口12aが開けられたドレンソケット12が設けられている。このドレンソケット12は、ポリフェニレンオキサイド樹脂からなるドレンパン8とは別体の部品であり、ドレンパン8にインサート成形されている。ドレンソケット12のドレン排水口12aは、ドレンポンプ10が正常であれば用いることがないため、常時はドレンプラグ13で塞がれている。
【0024】
なお、ドレンソケット12の材料としてポリフェニレンオキサイド樹脂を用いるのは、以下の理由による。仮にドレンソケット12の部分をスキン層8aと同じABS樹脂で成形した場合、ABS樹脂の耐熱性は比較的低いため、ドレン排水口12aの部分の精度が十分に得られず、ドレンプラグ13との間に隙間を生じてドレン水11が漏れてしまうおそれがある。そこで、ドレンソケット12の材質は、発泡スチロールより耐熱性が高いポリフェニレンオキサイド樹脂を用いている。ただし、将来的にドレンパン8の主材料である発泡スチロールの成形技術が改良されれば、ドレンソケット12の部分も耐熱性の低いABS樹脂等で一体に形成することも可能である。
【0025】
ドレンパン8の流路内には、抗菌剤14は配置されている。この抗菌剤14は比重が1以上の第1の抗菌剤と比重が1より小さい第2の抗菌剤の、少なくとも2種の抗菌剤が混合された上で、抗菌剤包袋14cによって1つに包袋されている。このように構成された抗菌剤14は、全体として平均すると1より小さい比重を持ち、ドレンパン8内においてドレン水11中に浮いている。
【0026】
第1の抗菌剤14aは無機系抗菌剤であり、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム及びホウ素のうちの少なくとも1つ以上を含有するケイ酸塩化合物に、抗菌性能を有する銀、銅、鉄及び亜鉛のうちの少なくとも1つ以上を主成分とする金属錯体を混合して構成されている。
【0027】
第2の抗菌剤14bは有機系抗菌剤であり、抗菌成分であるPHMG(ポリヘキサメチルグアニジンリン酸塩)を母材であるPE(ポリエチレン)に練り込んだものである。抗菌成分であるPHMGの、母材(PE)に対する重量比は、5%〜20%が適する。
【0028】
これらの第1の抗菌剤14a及び第2の抗菌剤14bのいずれとも十分に高い(例えば所定の値より高い)水溶性を有するものが用いられる。そして、これらの第1の抗菌剤14a及び第2の抗菌剤14bを、顆粒状とすることで表面積を大きくすることができ、抗菌成分の溶出速度を速くすることが可能である。なお、異なる種類の抗菌剤を混合することは、より多くの菌種に対して増殖抑制が可能となるという点でも好ましい。
【0029】
抗菌剤包袋14cは、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)やナイロン等の耐水性を有する樹脂繊維からなる。抗菌剤包袋14cは、内部に保持する第1の抗菌剤14a及び第2の抗菌剤14bの抗菌成分の抗菌剤包袋14c外部への溶出を妨げず、かつ、内部に保持する第1の抗菌剤14a及び第2の抗菌剤14b自体は脱落しない程度の開口率を有する。
【0030】
このような抗菌剤14は、ドレンパン8の貯水性能とは無関係であるから抗菌成分が溶出して抗菌剤14自体の機械的強度が低下しても構わない。従って、抗菌剤14の含有する抗菌成分の濃度を十分に高いものとすることができ、必要な抗菌性能を得ることが可能である。
【0031】
そして、以上のように構成された抗菌剤14は、ドレンパン8の流路におけるドレンポンプ10の両側に、それぞれ少なくとも1つずつ配置されている。ここで、抗菌剤14は比重が1より小さい第2の抗菌剤14bによりドレン水11の中で浮いているため、ドレンパン8の流路内を移動可能である。
【0032】
このため、ドレンポンプ10の運転状態の作動/停止に応じてドレンパン8中のドレン水11に流れが生じると、この流れに乗って抗菌剤14がドレンパン8内を移動する。この際に、抗菌剤14がドレンポンプ10に向かって移動してドレンポンプ10のポンプ吸込口10aを塞いでしまうことを防ぐため、ポンプ吸込口10aから所定の距離以内に近づかないように、抗菌剤14の移動範囲を規制する抗菌材移動範囲規制手段が設けられている。
【0033】
図6に、この抗菌材移動範囲規制手段及び抗菌剤の配置の第1の例を示す。この図6に示すように、ドレンパン8の流路におけるドレンポンプ10の両側にそれぞれ配置されている。そして、ドレンパン8の流路の幅が抗菌剤14の幅よりも小さくなるように、ドレンパン8の流路を構成する一方又は両方の壁部が、対向する壁部の方へと突出されて、抗菌材移動範囲規制手段が形成されている。この図6に示す例では、ドレンパン8の流路を構成する一方の壁部に、対向する他方の壁部の方へと突出された突出部15aが形成されている。
【0034】
また、抗菌材移動範囲規制手段の他の例として、図7に示すように、可撓性を有する紐等の条体15bの一端を抗菌剤14(の抗菌剤包袋14c)に連結し、他端を例えばドレンパン8の壁面に固定することにより、抗菌材移動範囲規制手段を構成してもよい。
【0035】
次に、以上のように構成された空気調和装置2の動作について説明する。空気調和装置2は、パネル吸込口4a及び本体吸込口3aを介して部屋1内の空気を取り込み、取り込んだ空気を熱交換器7にて冷却し、この冷却した空気を本体吹出口3b及びパネル吹出口4bから吹き出して部屋1内へと戻すものである。この際の、空気の取り込み及び吹き出しは、送風機6により生成される空気流によって起こされる。
【0036】
冷却前の空気が熱交換器7を通過して冷却されるときには、空気中に含まれていた水分の一部が凝結して熱交換器7において凝縮水が生成される。この生成された凝縮水は熱交換器7の下方に配置されているドレンパン8内に滴下してドレン水11として貯溜される。
【0037】
ドレンポンプ10の運転状態は送風機6の運転状態と基本的には連動しており、送風機6の作動時にはドレンポンプ10が作動してドレンパン8内に貯留されているドレン水11を吸い上げ、図示しないドレンパイプを通じて本体3外へと排水される。
【0038】
ここで、作動しているドレンポンプ10を停止すると、ドレンパン8のドレン水11の水位はドレンポンプ10の作動中よりも上昇する。これは、ドレンポンプ10に接続しているドレンパイプの立ち上がり部分に残留した水が、ドレンポンプ10を停止するとドレンポンプ10を逆流してドレンパン8に戻るためである。具体的な数号は空調機の設置状況にもよるが、ドレンポンプ10を停止すると、例えば、約200cc〜約1000cc程度の水がドレンパイプから逆流してドレンパン8に戻る。
【0039】
ここで、一般に、冷房が主に使用される環境においては、空気調和装置2の冷房運転が停止された後には天井部の温度は35〜40℃にまで上昇する。そして、ドレンパン8中のドレン水11の水温は周囲の温度に近づくため、20〜30℃程度にまで上がる。この20〜30℃の温度は、細菌の繁殖に適した温度である。一方で、空気調和装置2の冷房運転中に発生するドレン水11は、約10℃程度と水温が低く細菌は繁殖しにくい。
【0040】
従って、特に冷房運転が停止され、ドレンポンプ10の運転も停止されている際にドレン水11の抗菌を行うことが菌の繁殖抑制に対して有効となる。そこで、抗菌剤14の高さ方向の寸法について、ドレンポンプ10が停止してドレンパン8内のドレン水11の水位が上昇しているときには、図5に示すように抗菌剤14のほぼ全体がドレン水11に漬かり、ドレンポンプ10が運転されてドレンパン8内のドレン水11の水位が低下しているときには、抗菌剤14の上側がドレン水11から露出して抗菌剤14下側の一部のみがドレン水11に漬かるように調整されている。
【0041】
このような寸法に調整することで、細菌が繁殖しやすいドレンポンプ10の停止中には、抗菌剤14のほぼ全体がドレン水11中に漬かって抗菌成分を十分に溶出させることができ、かつ、比較的細菌が繁殖しにくいドレンポンプ10の作動中には、抗菌剤14の一部のみがドレン水11に漬かるようにすることにより、抗菌剤14の寿命を長くすることができる。
【0042】
なお、少なくとも、ドレンポンプ10が停止してドレン水11の水位が上昇した状態においてドレン水11中に浸漬した抗菌剤14の体積が、ドレンポンプ10が作動してドレン水11の水位が下降した状態においてドレン水11に浸漬した抗菌剤14の体積よりも大きくなるように、抗菌剤14が構成されていればよい。
【0043】
また、ドレンポンプ10の運転が停止される際には、前述したように、ドレンパイプ中に残留した水が逆流してくるため、ドレンパン8の流路においてドレンポンプ10から離れていく流れが発生する。そして、抗菌剤14はドレン水11に移動可能に浮いているために、この流れに乗ってドレンパン8の流路における反ドレンポンプ10側の端部にまで移動する。この流される過程で抗菌剤14から徐々に抗菌成分が溶出し、ドレンパン8の全体に均一に抗菌成分を拡散させることができる。
【0044】
また、これとは逆に、ドレンポンプ10の運転が再開されたときには、ドレンパン8内のドレン水11はドレンポンプ10に吸い上げられるため、ドレンポンプ10に向かう流れが発生する。このとき、抗菌剤14もドレンポンプに向かって移動するが、抗菌材移動範囲規制手段によって、抗菌剤14の移動範囲がドレンポンプ10から所定の距離以内に近づかないように規制されているため、抗菌剤14がドレンポンプ10の吸込口を塞いでしまうことはない。この際、抗菌剤14の移動は止まるが、抗菌剤14はドレン水11に浮いているため、ドレン水11中の埃等の異物をせき止めて排水を妨げることもない。
【0045】
なお、抗菌剤包袋14cとして、抗菌剤包袋の少なくとも下側の面で硬質な樹脂の長繊維が毛羽立っているものを用いてもよい。抗菌剤包袋の外面を毛羽立たせることにより、抗菌剤14がドレンパン8内を移動するときにこの毛羽立った長繊維がドレンパン8の底面円と摩擦接触し、ドレンパン8の底面に堆積する汚れやヌメリを剥離除去することができる。
【0046】
また、ここでは、空気調和装置2として、天井埋込型であって化粧パネル4が部屋1内に露出するものを例に挙げて説明したが、例えば、本体3全体が天井裏に設置されるものであってもよく、また、設置方式として例えば天吊型や壁掛け型等の別を問わない。
【0047】
以上のように構成された空気調和装置は、熱交換器と、熱交換器で発生した凝縮水を受け、この凝縮水をドレン水として貯溜するドレンパンと、ドレンパン内のドレン水を排出するドレンポンプと、ドレンパン内のドレン水中に浮揚した状態で設けられた抗菌剤と、を備えたものである。
【0048】
このため、ドレンパン内のドレン水全体にわたって均一に抗菌剤を拡散させることができ、ドレンパン内で菌の繁殖を効果的に抑制することが可能であって、ヌメリやスライムが原因で起こるドレンポンプ・ドレンパイプの詰まりによる排水不良を未然に防止することができる。また、抗菌剤をドレン水中に浮揚した状態で移動可能にすることで、さらに効率的にドレンパン内のドレン水全体にわたって均一に抗菌剤を拡散させることが可能となる。
【0049】
実施の形態2.
図8から図10は、この発明の実施の形態2に係るもので、図8はドレンパン内のドレン水のドレンポンプを作動させない場合における抗菌剤濃度の経時変化を説明する図、図9はドレンパン内のドレン水のドレンポンプを断続的に作動させた場合における抗菌剤濃度の経時変化を説明する図、図10はドレンパン内のドレン水の水位変化を説明する図である。
【0050】
ここで説明する実施の形態2は、前述した実施の形態1の構成において、冷房運転を停止して、ドレンポンプの運転も一度停止した後、所定の時間間隔毎にドレンポンプを断続的に作動させることで、ドレンパン内における抗菌成分のさらに迅速な拡散を促し、より短い時間でドレンパン内の平均抗菌成分が必要な濃度にまで上昇させることができるようにしたものである。
【0051】
すなわち、空気調和装置2の基本的な構成は、前述した実施の形態1と同一であって、異なるのは冷房運転停止中におけるドレンポンプ10の運転制御である。まず、図8を参照しながら、実施の形態1の構成において、冷房運転停止中においてドレンポンプ10の運転も停止させ続けた場合の、ドレンパン8内のドレン水11中の抗菌成分の溶出濃度の経時変化を説明する。
【0052】
抗菌成分の溶出速度は、抗菌剤14をドレン水11に浸漬し始めた瞬間が最も高く、抗菌剤14の周囲近傍の抗菌成分濃度が増加するにつれ溶出速度は徐々に低下していく。そして、浸漬開始後約1時間経過すると溶出濃度の増加速度は大分鈍ってくる。抗菌剤14から溶出した抗菌成分はドレンパン8内のドレン水11中を拡散していくため、ドレンパン8内における抗菌剤14配置箇所からの最遠部である抗菌剤対向部においても、抗菌成分の濃度は少しづつ増加していく。
【0053】
以上のような過程を経て、ドレンパン8内のドレン水11に溶出した抗菌成分濃度は、抗菌剤14の浸漬開始後約8時間経過すると、ドレン水11中の細菌の増殖を効果的に抑制するために必要な濃度にまで達する。このように、ドレンポンプ10の運転を停止し続けた場合、抗菌剤14の浸漬開始後約1時間も経過すると抗菌成分の溶出速度は浸漬開始時と比較してかなり低下してしまうことや、ドレンパン8全体への抗菌成分の伝搬を主に拡散作用に頼っていることから、最終的に必要な抗菌成分濃度に達するまでにやや長い時間が必要となる。
【0054】
そこで、この実施の形態2においては、冷房(空調)運転が停止された状態において、ドレンポンプ10の運転が停止されてから、所定のポンプ停止時間が経過する毎に、ドレンポンプ10を所定のポンプ運転時間だけ作動(運転)させる。この場合におけるドレンパン8内のドレン水11中の抗菌成分の溶出濃度の経時変化の例を図9に示す。このように、冷房運転停止中においてもドレンポンプ10を一定時間毎に断続的に作動させることで、ドレンパン8内のドレン水11に流れが生じて抗菌成分の伝搬について移流や攪拌効果が加わるため、抗菌成分の伝搬が促進され、ドレンパン8全体に均一な抗菌成分濃度が得られる。
【0055】
また、一定時間毎にドレンポンプ10の作動/停止を交互に繰り返すことで、ドレンパン8内において生じるドレン水11の流れに乗って、ドレン水11中に浮揚している抗菌剤14がドレンパン8内で往復移動を行うため、広範囲での抗菌剤溶出が積極的に行われる。このことも、迅速にドレンパン8全体において均一な抗菌成分濃度分布を実現することに貢献している。
【0056】
ここで、断続的なドレンポンプ10の運転におけるポンプの停止が長時間に及んでしまうと、ドレンパン8内のうち抗菌成分濃度が不足している箇所で細菌の増殖が進んでしまう。特に、ドレンポンプ10の停止時間が約3時間を超えると、この細菌の増殖により細菌数が一定値を超えてしまう。従って、細菌の増殖を一定範囲内に留めるため、少なくとも3時間に一度は、ドレンポンプ10を作動させてドレン水11の攪拌を行うことが好ましい。そこで、ここでは所定のポンプ停止時間を1時間以上であって3時間より短い時間に設定する。
【0057】
また、ドレンポンプ10の断続運転における所定のポンプ運転時間については、1時間以上とすることが好ましい。これは、少なくとも1時間ドレンポンプ10を運転することで、抗菌剤14の抗菌成分が十分溶解したドレン水11をドレンパイプ内にも行き渡らせて、ドレンパイプの抗菌も同時に行うことができるためである。
【0058】
なお、先の実施の形態1において前述したように、ドレンポンプ10の運転状態によってドレンパン8内のドレン水11の水位が変動する。この実施の形態2においてドレンポンプ10を断続的に運転させる際には、このドレン水11の水位が、常にドレンポンプ10のポンプ吸込口10aより上方にあるように、ドレンポンプ10の運転状態を制御する。ドレンポンプ10を作動させるとドレン水11の水位が低下するが、ドレン水11の水位がポンプ吸込口10aを下回る前にドレンポンプ10の運転を停止する(図10)。
【0059】
ドレン水11の水位がポンプ吸込口10aを下回っている状態でドレンポンプ10の運転を続けると、ドレンポンプ10はドレン水11とともにポンプ吸込口10a周辺の空気も一緒に吸引してしまう。すると、ドレン水11中の溶存酸素濃度は上昇する。溶存酸素は細菌の増殖を補助するものであり好ましくない。そこで、ドレンポンプ10の運転において、ドレン水11と空気とを極力混合させないようにするため、上述したようにポンプ吸込口10aより上方にドレン水11の水位が維持されるようにドレンポンプ10の運転を制御する。
【0060】
以上のように構成された空気調和装置は、実施の形態1の構成において、空調運転の停止中において、ドレンポンプについて、所定の停止時間の間の停止と所定の運転時間の間の作動とを交互に繰り返して行う断続運転を実施するものである。
このため、実施の形態1と同様の効果を奏することができるのに加えて、さらに迅速にドレンパン内全体にわたって均一に抗菌剤を拡散させることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 部屋
2 空気調和装置
3 本体
3a 本体吸込口
3b 本体吹出口
4 化粧パネル
4a パネル吸込口
4b パネル吹出口
5 ベーン
6 送風機
6a ファン
6b ファンモータ
7 熱交換器
8 ドレンパン
8a スキン層
9 ベルマウス
10 ドレンポンプ
10a ポンプ吸込口
11 ドレン水
12 ドレンソケット
12a ドレン排水口
13 ドレンプラグ
14 抗菌剤
14a 第1の抗菌剤
14b 第2の抗菌剤
14c 抗菌剤包袋
15a 突出部
15b 条体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器と、
前記熱交換器で発生した凝縮水を受け、この凝縮水をドレン水として貯溜するドレンパンと、
前記ドレンパン内の前記ドレン水を排出するドレンポンプと、
前記ドレンパン内の前記ドレン水中に浮揚した状態で設けられた抗菌剤と、を備えたことを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
前記抗菌剤は、比重が1以上の第1の抗菌剤と、比重が1より小さい第2の抗菌剤とを少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の空気調和装置。
【請求項3】
空調運転の停止中において、前記ドレンポンプについて、所定の停止時間の間の停止と所定の運転時間の間の作動とを交互に繰り返して行う断続運転を実施することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の空気調和装置。
【請求項4】
前記断続運転において前記ドレン水の水位が前記ドレンポンプの吸込口を下回らないように前記ドレンポンプの運転を制御することを特徴とする請求項3に記載の空気調和装置。
【請求項5】
前記所定の停止時間は、3時間より短い時間に設定されたことを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載の空気調和装置。
【請求項6】
前記所定の運転時間は、1時間以上に設定されたことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の空気調和装置。
【請求項7】
前記抗菌剤は、前記ドレンパン内の前記ドレン水中に移動可能に浮揚した状態で設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の空気調和装置。
【請求項8】
前記抗菌剤が前記ドレンポンプの吸込口から所定の距離以内に近づかないように、前記抗菌剤の移動範囲を規制する抗菌材移動範囲規制手段を備えたことを特徴とする請求項7に記載の空気調和装置。
【請求項9】
前記抗菌材移動範囲規制手段は、前記ドレンパンの流路の幅を前記抗菌剤の幅より狭めることにより形成されたことを特徴とする請求項8に記載の空気調和装置。
【請求項10】
前記抗菌材移動範囲規制手段は、一端が前記抗菌剤に連結され他端が前記ドレンパンに固定された条体からなることを特徴とする請求項8に記載の空気調和装置。
【請求項11】
前記抗菌剤の包袋の少なくとも下側の面の繊維を毛羽立たせたことを特徴とする請求項7から請求項10のいずれかに記載の空気調和装置。
【請求項12】
前記抗菌剤は、前記ドレンポンプが停止して前記ドレンパン内の前記ドレン水の水位が上昇した状態において前記ドレン水中に浸漬した前記抗菌剤の体積が、前記ドレンポンプが作動して前記水位が下降した状態において前記ドレン水に浸漬した前記抗菌剤の体積よりも大きくなるように構成されたことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の空気調和装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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