説明

空洞含有樹脂成形体及びその製造方法、並びに、反射板

【課題】紫外領域を含む広い波長範囲において、高い反射率を示す空洞含有樹脂成形体及びその製造方法を提供すること。更に、前記空洞含有樹脂成形体を含有し、反射特性に優れた反射板を提供すること。
【解決手段】結晶性ポリマーのみからなり、内部に空洞を有し、波長280nmの光に対する反射率が、80%以上であることを特徴とする空洞含有樹脂成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域を含む広い波長範囲においても高い反射率を有する、結晶性ポリマーのみからなる空洞含有樹脂成形体及びその製造方法、並びに、反射板に関する。
【背景技術】
【0002】
空洞含有樹脂フィルム又はシートは、その断熱性、クッション性、光透過性(又は遮光性)などの特性から、例えば、電子機器の照明用部材、一般家庭照明用部材、内照看板などの部材として使用されている。
【0003】
特に、近年では、液晶テレビやコンピュータの普及とともに、液晶反射板用途において、より高い反射率を示す反射板が求められている。
前記反射板に応用可能な技術としては、ポリエステル系樹脂内部に微細な空洞を多量に含有させる技術が挙げられる(例えば、特許文献1〜3参照)。ポリエステル系樹脂に微細な空洞が含有されて空洞層が形成されると、空洞層の存在によりポリエステル系樹脂の反射率が高まるためである。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、ポリエステル系樹脂フィルムの中に無機系微粒子などを含有させておき、樹脂の延伸製膜時に無機微粒子などと樹脂界面とが剥離することにより、フィルム内に空洞を形成させる技術である。特許文献1に記載の技術によれば、無機系微粒子などの添加により、空洞が形成されて反射率を高めることができる。
【0005】
しかし、前記特許文献1に記載の技術は、微分散化のために高度な技術、装置を必要とし、また、凝集を抑制するために添加剤を加えたり、微粒子の前処理を行ったりする必要が生じるので、製造工程が複雑になり、コストが掛かるという問題があった。
また、ポリエステル系樹脂フィルムの表面近傍まで発泡層が発現すると、発泡により表面の平滑性が損なわれる問題もあった。
【0006】
特許文献2に記載の技術は、主たる成分である樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂)に、その樹脂と相溶しない(非相溶の)別の樹脂を添加して混練する事により2相構造(例えば海島構造)を形成し、樹脂の延伸製膜時に主たる成分である樹脂と、そこに添加・混練された別の樹脂との界面が剥離することによって、空洞を形成させる技術である。このとき、非相溶相のサイズを揃えることによって、ボイドの制御が容易になり、反射板の性能を向上させることができる。
【0007】
前記特許文献2に記載の技術によりフィルムを製造する場合には、一般的に、海島構造を形成して製膜延伸時にその界面を剥離させてボイドを発生させる機構が用いられる。しかし、このような機構により製造する場合には、思うように島部分が充分小さくできないなどの理由により、所望する2相構造が得られにくいために、結果として、ボイドが充分に小さくできない(制御が難しい)などの問題があった。
また、ポリエステル系樹脂フィルムの表面近傍まで発泡層が発現すると、発泡により表面の平滑性が損なわれる問題があった。
【0008】
また、特許文献1及び2に記載の技術はいずれも、主たる成分中に異種の成分を混入させ、それを核としてボイドを発現させる方法のため、ボイドの中に異種の成分が残り、それが反射率向上を阻害してしまうことがあった。また、樹脂と無機物の系、あるいは種類の異なる樹脂の系になるため、リサイクルが困難になる問題も顕在化しつつある。
【0009】
前記特許文献3に記載の技術は、樹脂フィルムを加圧下で不活性ガスと接触させて、樹脂フィルムに不活性ガスを含浸させ、大気圧下で延伸して、多孔性延伸樹脂フィルムを得る技術である。この技術は、空洞の発生源として気体を用いるので、反射率やリサイクル性などの問題を回避し易いという利点がある。
【0010】
しかし、不活性ガスを加圧下でフィルムに含浸させるためには、フィルム全体を数十気圧、あるいは100気圧を超える高圧下で処理するための大掛かりな装置が必要になり、一般的な溶融製膜・延伸装置と比較して、装置コストが大幅に増大する問題があった。また、不活性ガスを大量に扱うので、作業者の安全性を確保するための設備や対策が必要になり、これにもかなりのコストを要するという問題があった。また、均一に発泡させるには、製造工程において条件を均一化させなければならないなど、高度な制御が必要であった。
【0011】
更に、前記特許文献1〜3に記載の技術により製造される反射板は、紫外(UV)領域における反射率が低い。例えば、前記特許文献1に記載の技術により製造される反射板は、波長200〜300nmの光に対する反射率が、40%程度である。
そのため、前記特許文献1〜3に記載の技術により製造される反射板を、紫外線照射装置の照射用部材として利用する場合には、紫外線が反射板で吸収乃至透過してしまい、紫外線の照射効率が低下してしまうという問題があった。
また、前記特許文献1〜3に記載の技術により製造される反射板は、紫外線が反射板で吸収乃至透過してしまうことで、反射板そのもの又は反射板により被覆されている基材が、劣化しやすくなったり、日焼けしてしまったりする虞がある。
【0012】
したがって、紫外領域を含む広い波長範囲において、例えば反射率などの反射特性に優れた反射板、及び、前記反射板として利用可能な空洞含有樹脂成形体については、未だ満足なものが提供されていないのが、現状である。
【0013】
【特許文献1】特許第3067557号
【特許文献2】特開2005−281396号公報
【特許文献3】特開2006−8942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、紫外領域を含む広い波長範囲において、例えば反射率などの反射特性に優れた空洞含有樹脂成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、前記空洞含有樹脂成形体を含有し、反射特性に優れた反射板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、PBS(ポリブチレンサクシネート)のみからなるポリマーフィルムを高速延伸すると、空洞含有フィルムになり、前記高速延伸されたフィルム(空洞含有フィルム)は、PBS層(屈折率約1.4)と空気(空洞)層(屈折率1)からなる空洞含有(多重層(数十層))構造をとっており、紫外領域を含む広い波長範囲において高い反射率を示したという知見である。この高い反射率は、前記多重層間の構造的な光干渉(構造発色)による。
【0016】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性ポリマーのみからなり、内部に空洞を含有し、波長280nmの光に対する反射率が、80%以上であることを特徴とする空洞含有樹脂成形体である。
<2> 波長400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する反射率が、80%以上であることを特徴とする<1>に記載の空洞含有樹脂成形体である。
<3> 空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上である<1>から<2>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<4> 空洞含有樹脂成形体の、波長550nmの光に対する透過率をM550(%)として、
前記空洞含有樹脂成形体と同じ厚さで、前記空洞含有樹脂成形体を構成する結晶性ポリマーと同一の結晶性ポリマーからなり、空洞を含有しないポリマー成形体の、波長550nmの光に対する透過率をN550(%)とした際のM550/N550比が、0.2以下であり、かつ、
前記空洞含有樹脂成形体の光沢度が50以上であることを特徴とする<1>から<3>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<5> 空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均の個数をP個とし、
波長600nmの光に対する結晶性ポリマー層の屈折率をN1、波長600nmの光に対する空洞層の屈折率をN2とした際に、N1とN2との差をΔN(=N1−N2)とするとき、
ΔNとPとの積が3以上であることを特徴とする<1>から<4>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<6> 少なくとも1種類の結晶性ポリマーが、複数種類の結晶状態からなる<1>から<5>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<7> 1種類の結晶性ポリマーのみからなる<1>から<6>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<8> 結晶性ポリマーが脂肪族ポリエステル類である<1>から<7>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<9> 結晶性ポリマーのみからなるポリマー成形体を、10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、結晶性ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することにより形成された空洞を含む<1>から<8>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体である。
<10> <1>から<9>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体の製造方法であって、
結晶性ポリマーのみからなるポリマー成形体を、10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、結晶性ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸する工程を含む空洞含有樹脂成形体の製造方法である。
<11> <1>から<9>のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体を含有する反射板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、紫外領域を含む広い波長範囲において、例えば反射率などの反射特性に優れた空洞含有樹脂成形体及びその製造方法を提供することができる。更に、本発明によると、前記空洞含有樹脂成形体を含有し、紫外領域を含む広い波長範囲において、反射特性に優れた反射板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(空洞含有樹脂成形体)
本発明の空洞含有樹脂成形体は、結晶性ポリマーのみからなり、内部に空洞を含有し、波長280nmの光に対する反射率が、80%以上であることを特徴とする。
前記「成形体」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルムやシートが挙げられる。
【0019】
<反射率>
前記反射率とは、前記空洞含有樹脂成形体の表面に対し、入射角60度以下で、所定波長の光を入射したときの、反射光の光強度/入射光の光強度×100(%)の値を意味する。ただし、前記入射角は、前記空洞含有樹脂成形体の表面に対して垂直に入射する角度を0度とする。
【0020】
前記波長280nmの光に対する反射率としては、80%以上であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0021】
前記「波長280nmの光に対する反射率が、80%以上であること」は、本発明の空洞含有樹脂成形体が、紫外領域における反射率が高いことを示す指標の一つとして挙げたものである。実際には、前記空洞含有樹脂成形体は、波長280nmだけでなく、紫外領域の波長範囲において、高い反射率を有している。
前記紫外領域の波長範囲としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、240〜400nmが好ましく、240〜350nmがより好ましく、250〜350nmが更に好ましい。
前記紫外領域における反射率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、240〜400nmの波長範囲における反射率としては、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0022】
前記空洞含有樹脂成形体は、紫外領域の波長範囲において高い反射率を有しつつ、波長400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する反射率が、80%以上であることが好ましい。
前記400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する反射率としては、前記のように、80%以上であることが好ましいが、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
ここで、前記反射率は、例えば、反射率測定器・積分球により、測定することができる。
【0023】
なお、波長400〜800nmにおける前記空洞含有樹脂成形体の反射特性は、前記反射率だけでなく、透過率や光沢度などを用いて規定することができる。
【0024】
−透過率−
前記透過率とは、前記空洞含有樹脂成形体の表面に対し、入射角60度以下で、所定波長の光を入射したときの、透過光の光強度/入射光の光強度×100(%)の値を意味する。ただし、前記入射角は、前記空洞含有樹脂成形体の表面に対して垂直に入射する角度を0度とする。
【0025】
前記空洞含有樹脂成形体の、波長550nmの光に対する透過率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。
【0026】
また、前記空洞含有樹脂成形体の好適な透過率は、相対的な値として規定することもできる。即ち、空洞含有樹脂成形体の、波長550nmの光に対する透過率をM550(%)として、前記空洞含有樹脂成形体と同じ厚さで、前記空洞含有樹脂成形体を構成する結晶性ポリマーと同一の結晶性ポリマーからなり、空洞を含有しないポリマー成形体の、波長550nmの光に対する透過率をN550(%)とした際のM550/N550比が、0.2以下であることが好ましく、0.18以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。
【0027】
前記「波長550nmの光に対する透過率が、20%以下であること」、及び、前記「M550/N550比が、0.2以下であること」は、本発明の空洞含有樹脂成形体が、波長400〜800nmにおける透過率が低いことを示す指標の一つとして挙げたものである。実際には、前記空洞含有樹脂成形体は、波長550nmだけでなく、波長400〜800nmにおいて、低い透過率を有している。
前記波長400〜800nmにおける透過率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。
また、空洞含有樹脂成形体の、400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する透過率をMλ(%)として、前記空洞含有樹脂成形体と同じ厚さで、前記空洞含有樹脂成形体を構成する結晶性ポリマーと同一の結晶性ポリマーからなり、空洞を含有しないポリマー成形体の、前記選択された波長の光に対する透過率をNλ(%)とした際のMλ/Nλ比が、0.2以下であることが好ましく、0.18以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましい。
ここで、前記透過率は、分光光度計により測定することができる。
【0028】
−光沢度−
前記光沢度とは、JIS規格のZ8741に記載される定義に準ずる。
前記空洞含有樹脂成形体の光沢度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、入射角60度以下で、波長400〜800nmの光を入射して測定したときに、50以上が好ましく、60以上がより好ましく、70以上が更に好ましく、80以上が特に好ましい。
ここで、前記光沢度は、変角光沢計により測定することができる。
【0029】
以上のように、本発明の前記空洞含有樹脂成形体は、紫外領域における高い反射率を有し、更には、紫外領域における高い反射率を有しつつ、波長400〜800nmにおいても優れた反射特性を有するものである。前記空洞含有樹脂成形体の優れた反射特性は、前記空洞含有樹脂成形体内部に形成された、空洞層及び結晶性ポリマー層からなる多重層間の、構造的な光干渉(構造発色)による。言い換えると、前記空洞含有樹脂成形体に含有される空洞の態様(後記する、アスペクト比、屈折率など)を変化させることで、前記反射率、前記透過率、前記光沢度などの反射特性を調節することができる。なお、空洞の態様については、後記する。
【0030】
そして、前記空洞含有樹脂成形体の優れた反射特性のうち、紫外領域における反射特性については、前記空洞含有樹脂成形体を構成する結晶性ポリマーの種類に大きく依存することが、本発明者らによって明らかとなった。以下、前記紫外領域を含む広い波長範囲における優れた反射特性に対して好適な、結晶性ポリマーについて、詳細に説明する。
【0031】
<結晶性ポリマー>
一般に、ポリマーは、結晶性ポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられるが、結晶性ポリマーといえども100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
したがって、本発明の空洞含有樹脂成形体における前記結晶性ポリマーとしては、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0032】
前記結晶性ポリマーとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高密度ポリエチレン、ポリオレフィン類(例えば、ポリプロピレンなど)、ポリアミド類(PA)(例えば、ナイロン−6など)、ポリアセタール類(POM)、ポリエステル類(例えば、PBS、PES、PBSAなど)、フッ素樹脂、などが挙げられる。その中でも、力学強度や製造の観点から、ポリエステル類が好ましい。
【0033】
前記結晶性ポリマーは、空洞含有樹脂成形体の紫外領域における反射特性を高めるために、例えば、芳香環などの、紫外領域において吸収が高い官能基を含まないことが好ましい。したがって、前記ポリエステル類のなかでも、脂肪族ポリエステル(例えば、PBS、PES、PBSAなど)が特に好ましい。
また、これらのうちの2種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
【0034】
前記結晶性ポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、溶融製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形状が安定し、均一に製膜しやすくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、溶融製膜時の粘度が適切になって押出ししやすくなったり、製膜時の溶融膜がレベリングされて凹凸を低減できたりする点で好ましい。
ここで、前記溶融粘度は、プレートタイプのレオメーターやキャピラリーレオメーターにより測定することができる。
【0035】
前記結晶性ポリマーの極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが0.4〜1.2であると、製膜されたフィルムの強度が高くなり、効率よく延伸することができる点で好ましい。
ここで、前記IVは、ウベローデ型粘度計により測定することができる。
【0036】
前記結晶性ポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜350℃が好ましく、80〜300℃がより好ましく、80〜260℃がより好ましく、80〜200℃が更に好ましく、90〜180℃が特に好ましい。前記融点が40〜350℃であると、通常の使用で予想される温度範囲で形を保ちやすくなる点で好ましく、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な製膜ができる点で好ましい。
ここで、前記融点は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0037】
−ポリエステル樹脂−
前記ポリエステル類(以下、「ポリエステル樹脂」と称する。)は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物の総称を意味する。したがって、前記結晶性ポリマーとして好適な前記ポリエステル樹脂としては、前記例示したPBS(ポリブチレンサクシネート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)だけでなく、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0038】
前記ジカルボン酸成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられ、中でも、前記空洞含有樹脂成形体が、紫外領域を含む広い波長範囲において優れた反射特性を示す点で、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0039】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。前記脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸の中では、前記空洞含有樹脂成形体が紫外領域を含む広い波長範囲において優れた反射特性を示す点で、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸がより好ましい。
【0040】
前記ジオール成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられ、中でも、前記空洞含有樹脂成形体が紫外領域を含む広い波長範囲において優れた反射特性を有する点で、脂肪族ジオールが好ましい。
【0041】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられ、中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0042】
前記ポリエステル樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時にボイドを発現しやすいが、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・s以上であると、製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形態が維持しやすくなって、安定的に成形できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で好ましい。
【0043】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが大きいほうが延伸時にボイドを発現しやすいが、前記IVが0.4〜1.2であると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。さらに、前記IVが0.4〜1.2であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で好ましい。加えて、前記IVが0.4〜1.2であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で好ましい。
【0044】
前記ポリエステル樹脂の融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、製膜性や取り扱い性などの観点から、80〜200℃が好ましく、90〜180℃がより好ましい。
【0045】
なお、前記ポリエステル樹脂として、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ1種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、2種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、2種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0046】
前記2種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、製膜時や溶融押出し時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0047】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル系以外の樹脂を添加しても良い。
【0048】
このように、本発明の空洞含有樹脂成形体は、無機系微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を特に添加しなくても、簡便な工程でボイドを形成させることができる。更に、不活性ガスを予め樹脂の中に溶け込ませるための特殊な設備も必要としない。なお、空洞含有樹脂成形体の製造方法については、後記する。
【0049】
ここで、空洞含有樹脂成形体は、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じて前記結晶性ポリマー以外のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、耐熱安定剤、酸化防止剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤などが挙げられる。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性ポリマー以外の成分(例えば、後記する各成分など)が検出されるかどうかで判別できる。
【0050】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のヒンダードフェノール類を添加してもよい。前記ヒンダードフェノール類としては、例えば、イルガノックス1010、同スミライザーBHT、同スミライザーGA−80などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
また、前記酸化防止剤を一次酸化防止剤として利用し、更に二次酸化防止剤を組み合わせて適用することもできる。前記二次酸化防止剤としては、例えば、スミライザーTPL−R、同スミライザーTPM、同スミライザーTP−Dなどの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
【0051】
<空洞>
本発明の空洞含有樹脂成形体は、空洞を含有し、前記空洞のアスペクト比に特徴を有している。
前記空洞とは、樹脂成形体内部に存在する、真空状態のドメイン又は気相のドメインを意味する。
【0052】
前記アスペクト比とは、空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比を意味する。
前記アスペクト比としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
【0053】
図2A〜2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aは、空洞含有樹脂成形体の斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける空洞含有樹脂成形体のA−A’断面図であり、図2Cは、図2Aにおける空洞含有樹脂成形体のB−B’断面図である。
【0054】
前記空洞含有樹脂成形体の製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r(μm))」は、空洞含有樹脂成形体1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)における空洞100の平均の厚みr(図2B参照)に相当する。また、「前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L(μm))」は、前記空洞含有樹脂成形体1の表面1aに垂直で、かつ、前記第一の延伸方向に平行な断面(図2AにおけるB−B’断面)における空洞100の平均の長さL(図2C参照)に相当する。
【0055】
なお、前記第一の延伸方向とは、延伸が1軸のみの場合には、その1軸の延伸方向を示す。通常は、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸を行うため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
また、延伸が2軸以上の場合には、空洞形成を目的とした延伸方向のうち少なくとも1方向を示す。通常は、2軸以上の延伸においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われ、かつ、この縦延伸により空洞を形成することが可能であるため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
ここで、前記アスペクト比は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0056】
また、本発明の空洞含有樹脂成形体は、空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均の個数P、結晶性ポリマー層と空洞層との屈折率差ΔN、及び、前記ΔNと前記Pとの積に、特徴を有している。
前記空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均の個数Pとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、15個以上が更に好ましい。
【0057】
前記空洞含有樹脂成形体の製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の個数」は、空洞含有樹脂成形体1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)において、膜厚方向に含まれる空洞100の個数に相当する。
ここで、前記空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均の個数Pは、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0058】
前記結晶性ポリマー層と空洞層との屈折率差ΔNとは、具体的には、波長600nmの光に対する結晶性ポリマー層の屈折率をN1として、波長600nmの光に対する空洞層の屈折率をN2とした際に、N1とN2との差であるΔN(=N1−N2)の値を意味する。
ここで、結晶性ポリマー層及び空洞層の屈折率N1、N2は、アッベ屈折計などにより測定することができる。
前記前記ΔNと前記Pとの積は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上が更に好ましい。
【0059】
更に、前記空洞含有樹脂成形体は、前記空洞を含有しつつも、空洞を発現するための無機系微粒子、相溶しない樹脂、不活性ガスなどが添加されていないため、優れた表面平滑性を有している。
前記空洞含有樹脂成形体の表面平滑性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Ra=0.3μm以下が好ましく、Ra=0.25μm以下が更に好ましく、Ra=0.1μm以下が特に好ましい。
【0060】
(空洞含有樹脂成形体の製造方法)
前記空洞含有樹脂成形体の製造方法としては、少なくともポリマー成形体を延伸する延伸工程を含み、更に必要に応じて製膜工程などのその他の工程を含んでなる。
なお、前記ポリマー成形体とは、前記結晶性ポリマーのみからなり、特に空洞を含有していないものを示し、例えば、ポリマーフィルム、ポリマーシートなどが挙げられる。
【0061】
−延伸工程−
前記延伸工程では、前記ポリマー成形体が少なくとも1軸に延伸される。そして、前記延伸工程により、ポリマー成形体が延伸されるとともに、その内部に第一の延伸方向に沿って配向した空洞が形成されることで、空洞含有樹脂成形体が得られる。
【0062】
延伸により空洞が形成される理由としては、前記ポリマー成形体を構成する少なくとも1種類の結晶性ポリマーが、複数種類の結晶状態からなり、延伸時に伸張し難い結晶を含む相で、硬い結晶間の樹脂が引きちぎられるような形で剥離延伸されることにより、これが空洞形成源となって空洞が形成されるものと考えられる。
なお、このような延伸による空洞形成は、結晶性ポリマーが1種類の場合だけではなく、2種類以上の結晶性ポリマーが、ブレンド又は共重合されている場合であっても可能である。
【0063】
前記延伸の方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸が挙げられるが、いずれの延伸方法においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われることが好ましい。
【0064】
一般に、縦延伸においては、ロールの組合せやロール間の速度差により、縦延伸の段数や延伸速度を調節することができる。
前記縦延伸の段数としては、1段以上であれば特に制限はないが、より安定して高速に延伸することができる点及び製造の歩留まりや機械の制約の点から、2段以上に縦延伸することが好ましい。また、2段以上に縦延伸することは、1段目の延伸によりネッキングの発生を確認したうえで、2段目の延伸により空洞を形成させることができる点においても、有利である。
【0065】
−−延伸速度−−
前記縦延伸の延伸速度としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが更に好ましい。前記延伸速度が、10〜36,000mm/minであると、充分なネッキングを発現させやすく、かつ、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせずにコストを低減できる点で好ましい。
【0066】
より具体的には、1段延伸の場合の延伸速度としては、1,000〜36,000mm/minが好ましく、1,100〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが更に好ましい。
【0067】
2段延伸の場合には、1段目の延伸を、ネッキングを発現させることを主なる目的とした予備的な延伸とすることが好ましい。前記予備的な延伸の延伸速度としては、10〜300mm/minが好ましく、40〜220mm/minがより好ましく、70〜150mm/minが更に好ましい。
【0068】
そして、2段延伸における、前記予備的な延伸(1段目の延伸)によりネッキングを発現させた後の2段目の延伸速度は、前記予備的な延伸の延伸速度と変えることが好ましい。前記予備的延伸によりネッキングを発現させた後の、2段目の延伸速度としては、600〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜15,000mm/minが更に好ましい。
【0069】
−−延伸温度−−
延伸時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
延伸温度をT(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが好ましく、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+60)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することがより好ましく、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+50)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが更に好ましい。
【0070】
一般に、延伸温度(℃)が高いほど延伸張力も低めに抑えられて容易に延伸できるが、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)−15}℃以上、{ガラス転移温度(Tg)+70}℃以下であると、空洞含有率が高くなり、アスペクト比が10以上になりやすく、かつ、充分に空洞が発現する点で好ましい。
ここで、前記延伸温度T(℃)は、非接触式温度計により測定することができる。また、前記ガラス転移温度Tg(℃)は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0071】
なお、前記延伸工程において、空洞の発現の妨げにならない範囲で、横延伸はしてもよく、しなくてもよい。また横延伸をする場合には、横延伸工程を利用してフィルムを緩和させたり、熱処理を行ったりしてもよい。
また、延伸後の空洞含有樹脂成形体は、形状安定化などの目的で、更に熱を加えて熱収縮させたり、張力を加えたりする等の処理をしても良い。
【0072】
前記ポリマー成形体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマーがポリエステル樹脂である場合には、溶融製膜方法により好適に製造することができる。
また、前記ポリマー成形体の製造は、前記延伸工程と独立に行ってもよく、連続的に行ってもよい。
【0073】
図1は、本発明の空洞形成樹脂成形体の製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置のフロー図である。
図1に示すように、原料樹脂11は、押出機12(原料形状や、製造規模によって、二軸押出機を用いたり、単軸押出し機を用いたりする)内部で熱溶融、混練された後、Tダイ13から柔らかい板状(フィルム又はシート状)に吐出される。
次に、吐出されたフィルム又はシートFは、キャスティングロール14で冷却固化されて、製膜される。製膜されたフィルム又はシートF(「ポリマー成形体」に相当する)は、縦延伸機15に送られる。
そして、製膜されたフィルム又はシートFは、縦延伸機15内で再び加熱され、速度の異なるロール15a間で、縦に延伸される。この縦延伸により、フィルム又はシートFの内部に延伸方向に沿って空洞が形成される。そして、空洞が形成されたフィルム又はシートFは、横延伸機16の左右のクリップ16aで両端を把持されて、巻取機側(図示せず)へ送られながら横に延伸されて、空洞形成樹脂成形体1となる。なお、前記工程において、縦延伸のみを行ったフィルム又はシートFを横延伸機16に供さず、空洞形成樹脂成形体1として使用してもよい。
【0074】
<用途>
本発明の空洞含有樹脂成形体は、高い表面平滑性を備えつつ、紫外領域を含む広い波長範囲で優れた反射特性を有しているので、例えば、電子機器の照明用部材、一般家庭照明用部材、内照看板、紫外線照射装置用部材などの反射板として利用できる。
【0075】
(反射板)
本発明の反射板は、前記空洞含有樹脂成形体を含有し、必要に応じてその他の層を形成されてなる。
前記反射板は、前記空洞含有樹脂成形体を含有しているので、紫外領域を含む広い波長範囲で優れた反射特性を有する。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全ての本発明の技術的範囲に包含される。
【0077】
(第1実施例)
第1実施例は、本発明の要件を満たす(空洞含有)樹脂フィルム(実施例1〜6)と、要件を満たさない樹脂フィルム(比較例1〜2)を調製し、その特性についての評価を行った実施例である。
【0078】
<実施例1>
IV=0.67であるPBS1(ポリブチレンサクシネート100%樹脂)を溶融押出機を用いて160℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約100μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、15℃の雰囲気下で、100mm/minの速度で1軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、4,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に1軸延伸した。
【0079】
<実施例2>
実施例1において、1段目の縦延伸速度を、100mm/minに代えて、1,500mm/minで延伸したこと、2段目の延伸を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
【0080】
<実施例3>
実施例1において、1段目の縦延伸速度を、100mm/minに代えて、15,000mm/minで延伸したこと、2段目の延伸を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
【0081】
<実施例4>
IV=0.62であるPBS2(ポリブチレンサクシネート100%樹脂)を溶融押出機を用いて160℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約60μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、15℃の雰囲気下で、4,900mm/minの速度で1軸延伸した。
【0082】
<実施例5>
IV=0.71であるPBS3(ポリブチレンサクシネート100%樹脂)を溶融押出機を用いて160℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約120μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、15℃の雰囲気下で、5,800mm/minの速度で1軸延伸した。
【0083】
<実施例6>
実施例1において、延伸温度を0℃にしたこと、1段目の縦延伸速度を、100mm/minに代えて、4,200mm/minで延伸したこと、2段目の延伸を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
【0084】
<比較例1>
実施例1において、延伸温度を60℃にしたこと、1段目の縦延伸速度を、100mm/minに代えて、4,800mm/minで延伸したこと、2段目の延伸を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
なお、比較例1は、延伸の後にネッキングの発生は確認されず、空洞も発現していなかった。
【0085】
<比較例2>
実施例1において、1段目の縦延伸速度を、100mm/minに代えて、40,000mm/minで延伸したこと、2段目の延伸を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。
なお、比較例2は、延伸を始めた途端に破断した。
【0086】
本実施例で作製した実施例1〜6及び比較例1〜2の樹脂フィルムについて、表1にまとめて示す。
【0087】
【表1】

【0088】
−評価方法−
前記実施例1〜6及び比較例1〜2の樹脂フィルムについて、下記の評価を行った。
【0089】
(1)反射率の測定
反射測定器・積分球を用いて測定した。樹脂フィルムの表面に垂直の方向から60度傾けて波長240〜800nmの光を入射させ、樹脂フィルムを反射する光の強度を、樹脂フィルムを置かないブランクの値(入射光の光の強度)と比較した。
【0090】
(2)透過率の測定
日立製作所製分光光度計U−4100を用いて測定した。樹脂フィルムの表面に垂直の方向から5度傾けて波長250nmの光を入射させ、樹脂フィルムを透過する光の強度を、樹脂フィルムを置かないブランクの値と比較した。また、樹脂フィルムの表面に垂直の方向から5度傾けて波長550nmの光を入射させ、樹脂フィルムを透過する光の強度を、樹脂フィルムを置かないブランクの値と比較した。
【0091】
(3)光沢度の測定
変角光沢計VG−1001DP(商品名、日本電色工業(株)製)を用いて、波長400〜800nmを含む光を60度(°)入射、60度受光の条件で測定し、光沢度を得た。
【0092】
(4)厚さの測定
キーエンス社製、ロングレンジ接触式変位計AF030(測定部)、AF350(指示部)を用いて測定した。
【0093】
(5)表面平滑性の測定
光干渉式三次元形状解析装置NewView5022(Zygo社製)を用い、対物レンズ50倍で測定した。
【0094】
(6)アスペクト比の測定
樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2B参照)と、前記樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、前記縦延伸方向に平行な断面(図2C参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、前記各断面写真において測定枠をそれぞれ設定した。この測定枠は、その枠内に空洞が50〜100個含まれるように設定した。また、前記走査型電子顕微鏡による検鏡により、空洞が縦延伸方向に沿って配向していることを確認した。
次に、測定枠に含まれる空洞の数を計測し、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の1個ずつの厚み(r)を測定し、その平均の厚さをrとした。また、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(L)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、r及びLは、それぞれ下記の(1)式及び(2)式で表すことができる。
r=(Σr)/m ・・・(1)
L=(ΣL)/n ・・・(2)
そして、L/rを算出し、アスペクト比とした。
【0095】
(7)空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均の個数P
まず、走査型電子顕微鏡により、樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面を撮影した。また、前記走査型電子顕微鏡による検鏡により、空洞が縦延伸方向に沿って配向していることを確認した。
そして、断面写真において膜厚方向に(フィルムの底面から上面にかけて)直線を引き、前記直線に接する空洞の個数を計測した。この作業を20本の直線について行い、平均を求めた。
【0096】
(8)結晶性ポリマー層と空洞層との屈折率差ΔN
結晶性ポリマー層の屈折率N1及び空洞層の屈折率N2をアッベ屈折計により測定し、その差ΔN(=N1−N2)を算出した。前記屈折率N1、N2は、波長600nmの光について測定した。
【0097】
以上の評価結果について、表2にまとめた。また、実施例1の樹脂フィルムについて、反射率を測定した結果(反射スペクトル)を、図3に示す。
【表2】

【0098】
第1実施例の結果によれば、実施例1〜6のみが、可視光領域のみならず、UV光領域の光を有効に遮断し、しかも良好な反射特性、光沢を示すことがわかる。
【0099】
(第2実施例)
第2実施例は、第1実施例で調製した樹脂フィルム(実施例1〜6)について、反射特性を測定した実施例である。
【0100】
図4は、第2実施例で用いた反射特性の測定方法を説明するための図である。
図4に示すように、暗室において、0.75Wの白色光源31を反射鏡32にて集光し、光源から2m離れたところで直径20cmの円形に照射するように調整し、その位置に、比較例2の樹脂フィルムを垂設させてセットした。更に、比較例2に隣接する位置に、実施例1〜6の樹脂フィルムを順番に、比較例2の樹脂フィルムと同一平面にセットした。
そして、樹脂フィルムの面が白色光源31に相対するときの角度を0度(θ=0度)とし、その角度から順次、30度(θ=30度)、45度(θ=45度)、60度(θ=60度)に振り、それぞれの反射光を光源位置より目視にて確認した。
【0101】
その結果、比較例2の透明な樹脂フィルムは、0度においてのみ、その存在を視認することができたが、30度、45度、60度では、存在を確認できなかった。
一方で、実施例1〜6の樹脂フィルムにおいては、いずれの角度でも、その存在を視認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明の空洞形成樹脂成形体の製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置のフロー図である。
【図2A】図2Aは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、空洞含有樹脂成形体の斜視図である。
【図2B】図2Bは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂成形体のA−A’断面図である。
【図2C】図2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂成形体のB−B’断面図である。
【図3】図3は、実施例1の樹脂フィルムについて反射率を測定した結果(反射スペクトル)を示す図である。
【図4】図4は、第2実施例で用いた反射特性の測定方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0103】
1 空洞含有樹脂成形体
1a 表面
31 白色光源
32 反射鏡
100 空洞
L 空洞の配向方向における空洞の長さ
r 空洞の配向方向に直行する厚み方向における空洞の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリマーのみからなり、内部に空洞を含有し、波長280nmの光に対する反射率が、80%以上であることを特徴とする空洞含有樹脂成形体。
【請求項2】
波長400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する反射率が、80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項3】
空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上である請求項1から2のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項4】
空洞含有樹脂成形体の、波長550nmの光に対する透過率をM550(%)として、
前記空洞含有樹脂成形体と同じ厚さで、前記空洞含有樹脂成形体を構成する結晶性ポリマーと同一の結晶性ポリマーからなり、空洞を含有しないポリマー成形体の、波長550nmの光に対する透過率をN550(%)とした際のM550/N550比が、0.2以下であり、かつ、
前記空洞含有樹脂成形体の光沢度が50以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項5】
空洞の配向方向に直行する厚み方向における前記空洞の平均の個数をP個とし、
波長600nmの光に対する結晶性ポリマー層の屈折率をN1、波長600nmの光に対する空洞層の屈折率をN2とした際に、N1とN2との差をΔN(=N1−N2)とするとき、
ΔNとPとの積が3以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項6】
少なくとも1種類の結晶性ポリマーが、複数種類の結晶状態からなる請求項1から5のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項7】
1種類の結晶性ポリマーのみからなる請求項1から6のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項8】
結晶性ポリマーが脂肪族ポリエステル類である請求項1から7のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項9】
結晶性ポリマーのみからなるポリマー成形体を、10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、結晶性ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することにより形成された空洞を含む請求項1から8のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体の製造方法であって、
結晶性ポリマーのみからなるポリマー成形体を、10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、結晶性ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−15)(℃)≦T(℃)≦(Tg+70)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸する工程を含む空洞含有樹脂成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の空洞含有樹脂成形体を含有する反射板。

【図3】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−126959(P2009−126959A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304192(P2007−304192)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】