説明

空洞計測装置及びレーザプローブ装置

【課題】極めて容易な計測作業で迅速且つ正確に空洞の体積及び形状を把握できる、空洞計測装置と、これに使用するレーザプローブ装置を提供する。
【解決手段】空洞をレーザプローブユニットとレーザ測距装置を用いて計測する際、レーザプローブユニットの初期位置決めを重力に基づいて行う、レーザプローブ装置を作成した。このレーザプローブ装置を用いることで、測定誤差が生じ難く、精度の高い空洞計測を実施することができる。更に、複数の計測データファイルで合成されるべき空洞を、直方体の集まりで近似して格子点データを求めることで、空洞の正確な体積と三次元画像を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞計測装置及びレーザプローブ装置に適用して好適な技術に関する。
より詳細には、地中の空洞の形状と体積を迅速に把握するための空洞計測装置と、これに使用するレーザプローブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路やトンネル等の、地表に設けられる交通施設には、時に様々な要因によって空洞が生じることがある。道路であれば道路の地下に、またトンネルであればトンネルの内壁に、空洞が生じることがある。この空洞は、係る施設の安全性を脅かす多くの要因の一つであり、陥没や崩落等の事故が発生する前に除去しなければならない。
【0003】
先ず、超音波等を利用する計測装置を用いて交通施設を探査し、空洞の存在を検出する。空洞が放置できない程大きいと判断できる場合は、当該空洞を除去する作業に移行する。
空洞を除去するには、空洞の体積を計測した後、空洞を繊維補強コンクリート等で埋める。周知のようにコンクリートは保存が効かないので、空洞を埋めるコンクリートの量は過不足が生じないように予め正確に把握できなければならない。このため、空洞の体積を正確に把握するための計測装置が必要不可欠である。
【0004】
上述の理由により、敷設済みの道路やトンネルを破壊することなく空洞を迅速且つ正確に把握するための空洞計測装置が存在する。この先行技術を非特許文献1に示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「レーザー式体積測定システム」株式会社丸東製作所[2011年1月10日検索]、インターネット<URL:http://www.maruto-group.co.jp/products/cement_concrete/SH-1009.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に示される空洞計測装置は、レーザ測距計を用いて、空洞の形状を把握する。
一方、空洞には様々な形状のものがあるから、空洞の形状及び体積を正確に把握するためには、一つの空洞に対して複数の箇所からレーザプローブを挿入して、形状を把握する必要がある。しかし、複数の計測箇所から空洞の全貌を把握する技術は未だ確立されていない。
【0007】
本発明はかかる課題を解決し、極めて容易な計測作業で迅速且つ正確に空洞の体積及び形状を把握できる空洞計測装置と、これに使用するレーザプローブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の空洞計測装置は、空洞に挿入され、空洞の内壁との距離を計測する空洞測距装置と、測距装置から得られる空洞内壁の距離から空洞内壁の座標データを算出する座標演算部と、座標データを格納する計測データファイルと、計測データファイルにて定義される空洞を直方体の集まりで近似演算して、空洞に含まれる格子点データを作成する体積算出部と、格子点データに基づいて空洞の立体画像を作成する立体画像構成部とを具備する。
【0009】
複数の計測データファイルで合成されるべき空洞を、直方体の集まりで近似して格子点データを求めることで、空洞の正確な体積と三次元画像を容易に得ることができる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明のレーザプローブ装置は、脚部と、脚部に回転可能に支持される基準円盤と、基準円盤の半径方向に設けられる水準器と、基準円盤の半径方向且つ水準器の直角方向に設けられる傾斜計と、空洞に挿入され、空洞の内壁との距離を計測するためのレーザ光を発するレーザプローブユニットと、基準円盤に支持され、レーザプローブユニットを基準円盤の傾斜計と平行な直径方向に支持するプローブ支持体と、レーザプローブユニットを基準円盤と平行な平面上に回転駆動する円周駆動モータと、レーザプローブユニットを基準円盤と垂直な平面上に駆動する仰俯角モータとを具備する。
【0011】
空洞をレーザ光を用いて計測する際、レーザプローブユニットの初期位置決めを重力に基づいて行う。このため、測定誤差が生じ難く、精度の高い空洞計測を実施することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、極めて容易な計測作業で迅速且つ正確に空洞の体積及び形状を把握できる、空洞計測装置と、これに使用するレーザプローブ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の例である、空洞計測装置のブロック図である。
【図2】レーザプローブ装置の外観斜視図である。
【図3】レーザプローブ装置の上面図及び一部断面図である。
【図4】基準円盤と水準器と傾斜計の角度位置関係を説明する概略図である。
【図5】基準円盤とプローブパイプ及びレーザプローブユニットの角度位置関係を説明する概略図である。
【図6】演算装置の体積算出部と立体画像構成部の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】体積算出部による直方体判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】体積算出部による直方体分割処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】格子点データが計測データファイルで定義される空洞の内側にあるか否かを判定する方法を説明する概略図である。
【図10】本実施形態の演算装置が行う、直方体の分割処理の概念を説明する、第一の状態の概略図である。
【図11】本実施形態の演算装置が行う、直方体の分割処理の概念を説明する、第二の状態の概略図である。
【図12】本実施形態の演算装置が行う、直方体の分割処理の概念を説明する、第三の状態の概略図である。
【図13】本実施形態の演算装置が行う、直方体の分割処理の概念を説明する、第四の状態の概略図である。
【図14】第一計測点にレーザプローブ装置を配置して得た第一の計測データファイルに基づく空洞を示す斜視図である。
【図15】第二計測点にレーザプローブ装置を配置して得た第二の計測データファイルに基づく空洞を示す斜視図である。
【図16】体積算出部によって作成された格子点データに基づいて、立体画像構成部が形成した空洞を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[全体構成]
図1は、本発明の実施形態の例である、空洞計測装置のブロック図である。
空洞計測装置101は、レーザプローブ装置102と、レーザ測距装置103と、演算装置104よりなる。
レーザプローブ装置102は、空洞内部にレーザプローブユニット105を挿入し、レーザプローブユニット105を所定の位置及び角度に固定する。また、レーザプローブ装置102はレーザプローブユニット105の角度や位置に関する情報を出力する。更に、レーザプローブ装置102には周知のGPS(Global Positioning System)受信機(図示せず)を備え、レーザプローブ装置102の緯度・経度・方位の情報も出力する。
レーザ測距装置103は、レーザプローブ装置102のレーザプローブユニット105に接続され、レーザプローブユニット105を駆動する。そして、レーザプローブユニット105からレーザ光線を発し、反射光から距離情報を算出して、演算装置104へ出力する。
なお、レーザプローブ装置102が出力する情報の詳細については図2、図3、図4及び図5にて後述する。
【0015】
レーザプローブ装置102とレーザ測距装置103は、空洞内部にレーザプローブユニット105を挿入して、レーザプローブユニット105と空洞の内壁との距離を計測する。したがって、レーザプローブ装置102とレーザ測距装置103を総称して、空洞測距装置ともいえる。
【0016】
レーザプローブ装置102から出力されるレーザプローブ装置102自体の傾斜角情報、緯度・経度・方位情報、レーザプローブユニット105の挿入高さ(後述)、平面角(後述)及び仰俯角(後述)情報、及びレーザ測距装置103から出力される距離情報は、演算装置104の座標演算部106に入力される。
演算装置104は、所定のOSと空洞計測のためのアプリケーションプログラムが稼働する周知のパソコンである。
【0017】
座標演算部106は、レーザプローブ装置102及びレーザ測距装置103から入力される情報に基づいて、空洞の内壁の座標情報を出力する。
座標演算部106が出力する空洞内壁の座標情報は、不揮発性ストレージ107に送られ、不揮発性ストレージ107内の計測データファイル108に記録される。
計測データファイル108の作成が終了すると、ユーザによる操作部109の対話操作によって、計測データファイル108の処理が行われる。操作部109は周知のキーボード及びマウス等のポインティングデバイスである。
【0018】
ユーザは、不揮発性ストレージ107内に複数存在する計測データファイル108のうち、処理対象とする計測データファイル108を選択し、所定の操作を通じて処理の指令を行う。すると、制御部110を通じて体積算出部111が計測データファイル108を読み込み、計測データファイル108に係る空洞の体積を算出する。その際、図示しないRAMに、空洞の体積の算出根拠となる格子点データ112を作成する。
次に、格子点データ112の作成が完了すると、立体画像構成部113が格子点データ112に基づいて立体画像を作成する。そして、この作成された立体画像が、体積算出部111が算出した空洞の体積と共に、ディスプレイである表示部114に表示される。
制御部110は操作部109の操作を受けて、座標演算部106、不揮発性ストレージ107、体積算出部111及び立体画像構成部113を制御する。また、レーザプローブ装置102に対して駆動指令情報を出力する。
【0019】
[レーザプローブ装置102]
図2はレーザプローブ装置102の外観斜視図である。
図3(a)及び(b)はレーザプローブ装置102の上面図及び一部断面図である。
レーザプローブ装置102は、基準円盤201と、基準円盤201を回転可能に支持しつつ固定する脚部ともいえる三脚202と、基準円盤201の中心を垂直に貫通するプローブパイプ203と、プローブパイプ203の先端に設けられているレーザプローブユニット105を備える。プローブパイプ203は、レーザプローブユニット105を空洞へ挿入するための棒であり、プローブ支持体ともいえる。
【0020】
基準円盤201には、水準器204が半径方向に取り付けられている。更に、水準器204と90°の角度で、傾斜計205が半径方向に取り付けられている。また、水準器204と反対方向の半径上に方位計206が取り付けられている。方位計206は水平を維持するために、基準円盤201に開けられた方位計収納開口部201aの中に取り付けられている。また、基準円盤201の中心に近い位置には、図示しないGPS受信機のためのGPSアンテナ207が取り付けられている。
【0021】
方位計206も方位情報を出力するセンサであり、GPS受信機が出力する方位情報と併せて、より正確な方位情報を得ることができる。また、本発明の時点ではGPSの誤差は最大で数十メートル発生する可能性があるので、複数の計測地点を設ける際には計測地点同士の相対的な位置情報を測量等で得て、緯度・経度情報を補完する必要がある。但し、将来GPSの精度が向上すればこの限りではない。
【0022】
基準円盤201は、ステッピングモータである水平維持モータ301によって回転駆動される。水平維持モータ301は、水準器204が水平を検出するまで基準円盤201を回転駆動し、水準器204が水平を検出すると停止する。
【0023】
図4(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)は、基準円盤201と水準器204と傾斜計205の角度位置関係を説明する概略図である。なお、説明の都合上、プローブパイプ203及びレーザプローブユニット105は図4(b)を除いて図示を省略している。
図4(a)は、水平面と基準円盤201の位置関係を示す概略図である。
図4(b)は、水平面と基準円盤201の位置関係を、図4(a)の視点P402から見た図である。
図4(c)は、水平面と基準円盤201の位置関係を、図4(a)の視点P403から見た図である。
【0024】
図4(b)に示すように、水平面401上に基準円盤201が所定の角度θを有して交わっているとする。この時、水準器204は水平面401と交わっていないので、水準器204は水平を検出できていない。そして、この状態では傾斜計205は水平面401と基準円盤201との角度θを正しく検出できない。
【0025】
図4(d)も、水平面401と基準円盤201の位置関係を示す概略図であり、図4(a)の状態から、図4(c)の矢印R404に示す方向に基準円盤201を回転駆動させた状態の図である。
図4(e)は、水平面401と基準円盤201の位置関係を、図4(d)の視点P405から見た図である。
この時、水準器204は水平面401と交わっているので、水準器204は水平を検出できている。そして、傾斜計205が基準円盤201の傾斜角を正しく検出できる位置にある。
【0026】
図4(d)及び(e)に示す状態は、基準円盤201と垂直な平面が水平面401に対しても垂直である状態であり、この垂直な平面は傾斜計205が存在する半径方向の線分を含む。この時に、水平面401に対する傾斜計205の傾きは、水平面401と基準円盤201との角度θに一致する。
【0027】
図5は、基準円盤201とプローブパイプ203及びレーザプローブユニット105の角度位置関係を説明する概略図である。図4(d)及び(e)の状態で、図示を省略していたプローブパイプ203及びレーザプローブユニット105を明記した図である。
【0028】
基準円盤201は、ステッピングモータである水平維持モータ301によって回転駆動される。水平維持モータ301は、水準器204が水平を検出するまで基準円盤201を回転駆動し、水準器204が水平を検出すると停止する。この状態で、レーザプローブユニット105は、基準円盤201と垂直な平面上の、傾斜計205と反対方向に位置し、この垂直な平面は傾斜計205が存在する半径方向の線分を含む。この状態が、レーザプローブユニット105の基準角度位置になる。そして、この時の基準円盤201の傾斜角を、傾斜計205で検出する。
【0029】
基準円盤201はその表面に水準器204を備えており、レーザプローブユニット105の基準角度位置を定めると共に、傾斜計205がレーザプローブユニット105の傾斜角も正しく検出するための位置決めの役目を担う。
【0030】
再び図3に戻って説明を続ける。
プローブパイプ203は、基準円盤201を垂直方向に貫通している。プローブパイプ203自体は基準円盤201に対して相対的に回転駆動しないように設けられている。プローブパイプ203の一片にはラック203aが刻まれ、このラック203aにピニオン302を介してステッピングモータである挿抜モータ303が嵌合される。そして、この挿抜モータ303によって、プローブパイプ203は基準円盤201の垂直方向に直線駆動される。挿抜モータ303はステッピングモータであり、駆動パルスの数だけプローブパイプ203は直線駆動される。
この駆動パルスの数を計数することで、プローブパイプ203の先端に設けられているレーザプローブユニット105の、基準円盤201に対する垂直方向の移動量を求めることができる。本明細書において、この移動量のことを「挿入高さ」と呼ぶ。
【0031】
プローブパイプ203の先端には、図示しないインデックス機構と、ステッピングモータである円周駆動モータ304によって基準円盤201の平面と平行に回転駆動されるレーザプローブユニット105が設けられている。更にこのレーザプローブユニット105は、ステッピングモータである仰俯角モータ305によって基準円盤201の平面と垂直に回転駆動される。
【0032】
インデックス機構は、一例としてはストッパとマイクロスイッチで構成され、レーザプローブユニット105がストッパによって固定されている時に基準角度位置にあり、その際にマイクロスイッチがオフ状態になる。円周駆動モータ304はレーザプローブユニット105を一周分回転駆動させ、レーザプローブユニット105は、円周駆動モータ304に与えられる駆動パルスの数だけ角度が変位する。
したがって、この駆動パルスの数を計数することで、プローブパイプ203の先端に設けられているレーザプローブユニット105の、基準円盤201に平行な平面における回転角を求めることができる。本明細書において、この角度を「平面角」と呼ぶ。
【0033】
仰俯角モータ305はレーザプローブユニット105を、軸を中心に上下方向に回転駆動する。仰俯角モータ305もステッピングモータであるので、駆動パルスの数だけ角度が変位する。
この駆動パルスの数を計数することで、プローブパイプ203の先端に設けられているレーザプローブユニット105の、基準円盤201に垂直な平面における回転角を求めることができる。本明細書において、この角度を「仰俯角」と呼ぶ。
【0034】
上述した機構を通じて、レーザプローブ装置102は、以下の情報を出力する。
・GPS受信機から緯度、経度、方位
・傾斜計205から基準円盤201の傾斜角
・挿抜モータ303に与えるステッピングパルスから求められる挿入高さ
・円周駆動モータ304に与えるステッピングパルスから求められる平面角
・仰俯角モータ305に与えるステッピングパルスから求められる仰俯角
・レーザプローブユニット105を発光駆動するレーザ測距計から、レーザプローブユニット105から空洞内壁までの距離
【0035】
[演算装置104]
次に図1に基づいて、演算装置104の構成及びその動作の詳細について説明する。
図1に示すように、演算装置104は、空洞内壁の座標データを算出してファイルに記録する座標演算部106と、格子点データ112を作成して、体積を算出する体積算出部111と、格子点データ112に基づいて立体画像を作成する立体画像構成部113から構成され、三つの演算処理を行う。この格子点データ112は、パソコンという限られた計算機リソース(CPUの演算能力、RAM及び不揮発性ストレージ107の記憶容量等)で体積を迅速に且つ効率良く算出すると共に、立体画像構成部113が立体画像を作成するために利用される。
【0036】
図6は、演算装置104の体積算出部111と立体画像構成部113の処理の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(S601)、体積算出部111は、最初に共分散行列と固有ベクトルを用いて、初期直方体データを作成する。初期直方体データは、計測データファイル108によって構成される空洞、すなわち立体を丸ごと覆う直方体形状の立体を示すデータである。そして、この初期直方体データは直方体配列変数に第一レコードとして追記される。この時、分割不可フラグは論理の「偽」に設定される(S602)。
【0037】
次に、体積算出部111は直方体配列変数の全レコードの分割不可フラグを見て、分割不可フラグが「偽」のレコードが存在するか否かを確認する(S603)。
論理が「偽」の分割不可フラグのレコードが存在すれば(S603のYES)、体積算出部111はサブルーチン「直方体判定処理」を実行し(S604)、論理が「偽」の分割不可フラグのレコードが存在しなければ(S603のNO)、体積算出処理を行う(S605)。その後、立体画像構成部113がポリゴン描画処理を行って(S605)、一連の処理を終了する(S606)。
【0038】
ステップS602で追記される初期直方体データは、格子点データ112の基になるデータである。すなわち、初期直方体データで規定される直方体の縦、横及び高さを、所定の定数で分割した点が格子点データ112となる。
本実施形態の演算装置104の場合、定数は100を設定している。この定数は、市場に流通する一般的なパソコンの平均的な演算能力を鑑みて、迅速に計算処理を遂行することができる値として、発明者が設定した。したがって、演算装置104の演算能力、すなわちパソコンが有するCPUの演算能力と、演算装置104の用途次第で、この定数を適切に増減させることも可能であり、またそのようにすることが好ましい。
定数が100の場合、演算装置104は100×100×100=100万個の格子点データ112を作成することとなる。
【0039】
一方、直方体配列変数は「直方体座標データ」というフィールドと、「分割不可フラグ」というフィールドを持つテーブルである。このうち、直方体座標データフィールドは、直方体を規定する座標データを格納する。直方体は全ての辺の角度が90°なので、八つの頂点のうちの一つと、縦、横及び高さが定まれば一意に定まる。そして、この直方体座標データに含まれる格子点データ112の数を計数することは極めて容易である。
本実施形態の演算装置104は、空洞を多数の直方体で分割して近似し、その直方体に含まれる格子点データ112の数を数え上げることで、体積を算出している。
【0040】
立体画像構成部113が行うポリゴン描画処理は、周知の三角形ポリゴンを用いる立体画像形成処理である。格子点データ112は空洞を表す点の集合なので、格子点データ112のうち、最も外側に位置する格子点同士を線で結び、三角形ポリゴンで描画することで、空洞の立体画像を形成できる。ポリゴン描画処理は、例えばOpenGL(登録商標)等の、既存の3Dグラフィクスライブラリが利用可能である。なお、ポリゴン描画処理を高速且つ効率良く実行するため、立体画像構成部113は周知のMarching Cubes法によって三角形ポリゴンを算出した後、三角形ポリゴンの頂点数を間引くためにこれも公知のHalf−Edge Collapse法を用いている。
【0041】
図7は、体積算出部111による直方体判定処理の流れを示すフローチャートである。図6のステップS604の詳細を示したものである。
処理を開始すると(S701)、現在処理対象となっている直方体配列変数のレコードにある直方体座標データを読み込み、当該直方体の表面上に存在する格子点が、全て計測データの外側にあるか否かを確認する(S702)。
【0042】
もし、直方体の表面上に存在する格子点が、全て計測データの外側にあれば(S702のYES)、次に直方体の中に計測データの中心点が存在するか否か、確認する(S703)。ここで計測データの中心点とは、レーザプローブユニット105の座標を指す。
計測データの中心点が存在すれば(S703のYES)、直方体領域を分割するサブルーチン「直方体分割処理」を実行して(S704)、処理を終了する(S705)。
【0043】
計測データの中心点が存在しなければ(S703のNO)、その直方体は計測データと交わらない、つまり当該直方体は、計測データによって定まる空洞の外側に存在する、無関係の直方体であると判断できるので、現在処理対象としている直方体配列変数のレコードを破棄して(S706)、処理を終了する(S705)。
【0044】
もし、直方体の表面上に存在する格子点の一部でも計測データの内側にあれば(S702のNO)、次に直方体表面の格子点データ112の全てが計測データに含まれるか否かを確認する(S707)。
直方体表面の格子点データ112の全てが計測データに含まれていれば(S707のYES)、直方体を構成する全ての格子点データ112が計測データによって定まる空洞の内側に存在すると判断できるので、現在処理対象としている直方体配列変数の分割不可フラグを論理の「真」に設定して(S708)、処理を終了する(S705)。
【0045】
直方体表面の格子点データ112の一部でも計測データに含まれていなければ(S707のNO)、次に当該直方体は分割処理が不可能か否かを検証する(S709)。もし、これ以上の分割が不可能な状態であると判断できれば(S709のYES)、現在処理対象としている直方体配列変数の分割不可フラグを論理の「真」に設定して(S708)、処理を終了する(S705)。もし、まだ分割が可能な状態であると判断できれば(S709のNO)、これも直方体領域を分割するサブルーチン「直方体分割処理」を実行して(S704)、処理を終了する(S705)。
【0046】
図8は、体積算出部111による直方体分割処理の流れを示すフローチャートである。図7のステップS704の詳細を示したものである。
処理を開始すると(S801)、現在処理対象としている直方体は長すぎるか否か、確認する(S802)。本実施形態の演算装置104の場合、直方体を構成する辺のうち、最も短い辺が最も長い辺の2倍以上の長さの場合に、長すぎると判断している。
【0047】
体積算出部111は、ステップS802において処理対象の直方体が長すぎると判断したら(S802のYES)、直方体をその長い辺で二分割する(S803)。
長すぎないと判断したら(S802のNO)、直方体を縦横高さで八分割する(S804)。
何れの分割処理の後でも、元々処理対象としていた直方体配列変数のレコードは削除して、分割して新たに作成した直方体データのレコードを直方体配列変数に追記して(S805)、処理を終了する(S806)。なお、上述の説明から明らかなように、ステップS805で新たに追記するレコードの分割不可フラグは、論理の「偽」である。
【0048】
図6のステップS603の条件分岐の結果がNOである場合、直方体配列変数には計測データファイル108によって構成される空洞の内部に属する格子点データ112を有する直方体座標データのみのレコードが記憶されている。ステップS605の体積算出処理は、直方体配列変数を一レコードずつ読み込み、直方体座標データから直方体の八つの頂点の座標を算出する。
そして、それら八つの頂点が計測データに含まれていれば、当該直方体に属する格子点データ112の数を全て数え上げる。
それら八つの頂点のうちの一つでも計測データに含まれていなければ、当該直方体に属する格子点データ112のうち、どれが計測データに含まれているのかを一つずつ確認し、計測データに含まれている格子点データ112のみを数え上げる。
【0049】
こうして数え上げた格子点データ112の数が、空洞の体積に相当するので、格子点データ112の数に格子点データ112同士の距離を乗算することで、空洞の体積を求めることができる。
【0050】
図9は、格子点データが計測データファイルで定義される空洞の内側にあるか否かを判定する方法を説明する概略図である。
先ず、計測データファイルに記録されている全ての計測点座標データを、レーザプローブユニット105の位置を原点Oとして、この原点Oと原点Oに交わる任意の基準線からの極座標に変換する。図9では、原点Oに交わる基準線L901を基準として、第一計測点P902と第二計測点P903が存在する。
次に、判定対象となる格子点データも、同様に極座標に変換する。図9では格子点P904がこれに該当する。
【0051】
極座標は、原点Oからの距離と、角度で表される。
次に、格子点データの角度に最も近く、且つ片方の角度は格子点データの角度以下であり、もう片方の角度は格子点データの角度より大きい二つの計測点データを抽出する。図9において、第一計測点P902の極座標が(θ,r)、第二計測点P903の極座標が(θn+1,rn+1)、格子点P904の極座標が(θ,r)であるとき、各々の角度は以下の関係になる。
【0052】
θ≦θ<θn+1 (1)
【0053】
つまり、原点Oと格子点P904を結ぶ線分を包含する、二つの計測点と原点Oで構成する最小の三角形を構成する。そして、この三角形の辺P903〜P902と、原点Oと格子点P904を結ぶ線分が交わる点の、原点Oからの距離を、以下の式(2)にて計算する。図9では、交点P905がこれに該当する。
【0054】
【数1】

【0055】
そして、上記(2)式で算出した原点Oからの交点の距離r(θ)と、格子点の距離とを比較する。格子点の距離が交点の距離以下であれば、格子点は計測データが構成する図形(空洞)に含まれ、格子点の距離が交点の距離より長ければ、格子点は計測データが構成する図形(空洞)に含まれない。
【0056】
上述の計算方法は二次元空間における説明であるが、三次元空間であっても同様である。三次元空間の場合は、測定中心点である原点Oからの相対球座標に変換し、対応する角度における半径を前述の(2)式で求めて、比較する。
【0057】
図10、図11、図12及び図13は、本実施形態の演算装置104が行う、直方体の分割処理の概念を説明する概略図である。説明の簡略化のため、平面の図形で説明する。
今、図10のような図形1001が計測データによって与えられたとする。体積算出部111は図6のステップS602で、この図形1001を丸ごと覆う、長方形の枠を作成する。この長方形1002が、前述の初期直方体データに相当する。
【0058】
次に、図10で作成した長方形1002の縦と横の辺について着目する。全ての縦と横の辺は、図形1001の外部に属しているのかを確認する(図7のステップS702)。図10の時点では与えられた図形1001の外部に位置している(S702のYES)。そこで、次に図形1001の中心座標が長方形1002の中にあるか否かを確認する(S703)。図10の時点では図形1001の中心座標は長方形1002の中にあるので(S703のYES)、長方形1002を縦と横に分割する(S704→図8のステップS804)。こうして、図10の長方形1002は、図11のように長方形1101、1102、1103及び1104に分割される。
【0059】
図11の長方形1101、1102、1103及び1104は、更に図12のように分割される。
長方形1101は、長方形1201、1202、1205及び1206に分割される。
長方形1102は、長方形1203、1204、1207及び1208に分割される。
長方形1103は、長方形1209、1210、1213及び1214に分割される。
長方形1104は、長方形1211、1212、1215及び1216に分割される。
【0060】
ここで、図12の中心部分にある四つの長方形1206、1207、1210及び1211は、その縦と横の辺の全てが図形の内部に属している(S702のNO→S707のYES)ので、これ以上分割する意味がなくなる。そこで、これ以上の分割処理を行わないために、分割不可フラグを論理の真に設定する(S708)。
分割不可フラグが論理の真に設定されていない残りの長方形については、引き続き分割できるか否かを検証する処理が行われる。
【0061】
図12で分割された長方形は、更に図13のように分割される。
長方形1201は、長方形1301、1302、1309及び1310に分割される。
長方形1202は、長方形1303、1304、1311及び1312に分割される。
長方形1203は、長方形1305、1306、1313及び1314に分割される。
長方形1204は、長方形1307、1308、1315及び1316に分割される。
長方形1205は、長方形1317、1318、1321及び1322に分割される。
長方形1208は、長方形1319、1320、1323及び1324に分割される。
長方形1209は、長方形1325、1326、1329及び1330に分割される。
長方形1212は、長方形1327、1328、1331及び1332に分割される。
長方形1213は、長方形1333、1334、1341及び1342に分割される。
長方形1214は、長方形1335、1336、1343及び1344に分割される。
長方形1215は、長方形1337、1338、1345及び1346に分割される。
長方形1216は、長方形1339、1340、1347及び1348に分割される。
【0062】
ここで、図12と同様に、図13の長方形1314、1318、1323及び1327は、その縦と横の辺の全てが図形の内部に属している(S702のNO→S707のYES)ので、これ以上分割する意味がなくなる。そこで、これ以上の分割処理を行わないために、分割不可フラグを論理の真に設定する(S708)。
更に、図13の外周にある長方形1301、1302、1303、1304、1308、1316、1325、1329、1333、1340、1341、1342、1345、1346、1347及び1348は、その縦と横の辺の全てが図形の外部に属している(S702のYES)と共に、図形1001の中心点は存在しない(S703のNO)。つまり、当該長方形に属する格子点データ112は、図形1001に属しないので、これ以上分割する意味がない。このため、格子点データ112を計測する対象から外さなければならない。そこで、当該処理対象の長方形のデータを破棄する(S706)。
【0063】
残る長方形1305、1306、1307、1309、1310、1311、1312、1313、1315、1317、1319、1320、1321、1322、1324、1326、1328、1330、1331、1332、1334、1335、1336、l337、1338、1339、1343、1344は、縦と横の辺の全てが図形の外部に属しておらず、且つ縦と横の辺の全てが図形の内部に属していないので、図13の状態から、更に分割処理の対象となる。
【0064】
図14、図15及び図16は、本実施形態の演算装置104によって実現する、複数の計測データファイル108によって構成される空洞の概念を説明する概略図である。
図14は、第一計測点P1402にレーザプローブ装置102を配置して得た第一の計測データファイルに基づく空洞を示す斜視図である。
今、空洞に対して第一計測点P1402にレーザプローブ装置102を配置し、第一の計測データファイルを得たとする。第一の計測データファイルに基づいて空洞を描画すると、図14のような空洞1401が形成される。図14において、実際の空洞はレーザプローブユニット105の視点から見て死角の位置に、更に深くえぐれた箇所である死角領域1403が存在するが、第一の計測データファイルには記録されない。
【0065】
図15は、第二計測点P1502にレーザプローブ装置102を配置して得た第二の計測データファイルに基づく空洞を示す斜視図である。
図14と同様に、空洞に対して第二計測点P1502にレーザプローブ装置102を配置し、第二の計測データファイルを得たとする。第二の計測データファイルに基づいて空洞を描画すると、図15のような空洞1501が形成される。図15において、実際の空洞はレーザプローブユニット105の視点から見て死角の位置に、更に深くえぐれた箇所である死角領域1503が存在するが、第二の計測データファイルには記録されない。
【0066】
図16は、体積算出部111によって作成された格子点データ112に基づいて、立体画像構成部113が形成した空洞を示す斜視図である。
体積算出部111は、計測データファイル108が構成する空洞に属する格子点データ112を作成する。この時、複数の計測データファイル108が与えられれば、そのいずれかの計測データファイル108が構成する空洞に属する格子点データ112を算出する。この時、立体図形を重ねることによる重複を除去する処理は全く発生しないので、極めて容易に合成立体図形である空洞の本来の姿を再構成することができる。
【0067】
本実施形態は、以下のような応用例が考えられる。
(1)レーザプローブ装置102に備えられているステッピングモータは、DCモータ等に置換することができる。その際、移動量を把握するためのタコジェネレータ等のセンサが必要になる。
【0068】
(2)計測データファイル108から格子点データ112を構成する際、計測位置や角度の測定誤差に対応して計測データファイル108の計測位置や角度に微調整を施し、測定誤差を吸収することもできる。その際、測定データに基づく立体画像をマウスでドラッグアンドドロップすることで、元の測定データにオフセットを付与した状態で、再計算を行うこととなる。
【0069】
本実施形態においては、空洞計測装置を開示した。
空洞をレーザプローブユニットとレーザ測距装置を用いて計測する際、レーザプローブユニットの初期位置決めを重力に基づいて行う、レーザプローブ装置を作成した。このレーザプローブ装置を用いることで、測定誤差が生じ難く、精度の高い空洞計測を実施することができる。
更に、複数の計測データファイルで合成されるべき空洞を、直方体の集まりで近似して格子点データを求めることで、空洞の正確な体積と三次元画像を容易に得ることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0071】
101…空洞計測装置、102…レーザプローブ装置、103…レーザ測距装置、104…演算装置、105…レーザプローブユニット、106…座標演算部、107…不揮発性ストレージ、108…計測データファイル、109…操作部、110…制御部、111…体積算出部、112…格子点データ、113…立体画像構成部、114…表示部、201…基準円盤、201a…方位計収納開口部、202…三脚、203…プローブパイプ、203a…ラック、204…水準器、205…傾斜計、206…方位計、207…GPSアンテナ、301…水平維持モータ、302…ピニオン、303…挿抜モータ、304…円周駆動モータ、305…仰俯角モータ、401…水平面、1001…図形、1002、1101、1102、1103、1104、1201、1202、1203、1204、1205、1206、1208、1209、1211、1212、1213、1214、1215、1216、1301、1302、1303、1304、1305、1306、1307、1308、1309、1310、1311、1312、1313、1314、1315、1316、1317、1318、1319、1320、1321、1322、1323、1324、1325、1326、1327、1328、1329、1330、1331、1332、1333、1334、1335、1336、1337、1338、1339、1340、1341、1342、1343、1344、1345、1346、1347、1348…長方形、1401、1501、1601…空洞、1403、1503…死角領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞に挿入され、前記空洞の内壁との距離を計測する空洞測距装置と、
前記空洞測距装置から得られる前記空洞の内壁との距離から前記空洞内壁の座標データを算出する座標演算部と、
前記座標データを格納する計測データファイルと、
前記計測データファイルにて定義される前記空洞を直方体の集まりで近似演算して、前記空洞に含まれる格子点データを作成する体積算出部と、
前記格子点データに基づいて前記空洞の立体画像を作成する立体画像構成部と
を具備する空洞計測装置。
【請求項2】
前記体積算出部は、複数の前記計測データファイルによって定義される複数の立体を包含する初期直方体データを算出し、前記初期直方体データを所定の定数で等分することで前記格子点データを構成し、前記複数の立体のいずれかに含まれる前記格子点データを数え上げることで体積を算出する、請求項1記載の空洞計測装置。
【請求項3】
前記体積算出部は、任意の前記格子点データと、前記計測データファイルから得られる、前記格子点データに角度が近接する二点の計測点とを、各々を極座標変換した後、前記格子点データが原点と前記二点の計測点とで形成される三角形に含まれるか否かを判定することで、前記格子点データが前記計測データファイルによって定義される前記空洞に含まれるか否かを判定する、請求項2記載の空洞計測装置。
【請求項4】
脚部と、
前記脚部に回転可能に支持される基準円盤と、
前記基準円盤の半径方向に設けられる水準器と、
前記基準円盤の半径方向且つ前記水準器の直角方向に設けられる傾斜計と、
空洞に挿入され、前記空洞の内壁との距離を計測するためのレーザ光を発するレーザプローブユニットと、
前記基準円盤に支持され、前記レーザプローブユニットを前記基準円盤の前記傾斜計と平行な直径方向に支持するプローブ支持体と、
前記レーザプローブユニットを前記基準円盤と平行な平面上に回転駆動する円周駆動モータと、
前記レーザプローブユニットを前記基準円盤と垂直な平面上に駆動する仰俯角モータと
を具備するレーザプローブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−150060(P2012−150060A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10188(P2011−10188)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(511018505)株式会社オレンジソフトテクノロジー (1)