説明

空胞形成毒素欠損H.pyloriおよび関連する方法

【課題】大量の空胞形成毒素を発現することができる核酸の提供。
【解決手段】Helicobacter pylori空胞形成毒素をコードする単離された核酸であって、特定な配列で規定されるヌクレオチドからなる核酸。或いは、H.pyloriのvacAコード領域のための調節配列を含む単離された核酸や、これらの核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸とすることもできる。以上の核酸は、特定の配列を有するタンパク質をコードし、診断試薬やワクチンに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の通知
本研究は、部分的に国立衛生研究所のthe Medical Research Service of the Department of Veterans AffairsからのR29DK45293-02および国立ガン研究所からのR01 CA58834の援助を受けた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、機能性空胞形成毒素を発現しないH. pyloriの遺伝子操作変異株、このHelicobacter pylori空胞形成毒素をコードする単離された核酸、空胞形成毒素をコードする核酸と選択的にハイブリダイズする核酸ならびにH.pylori感染に対して免疫および処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
Helicobacterpyloriは、ヒト慢性表在性胃炎の主な病因性因子であり、そしてこの生物による感染は、消化性潰瘍疾患およびおそらく胃ガンの病因における重要な病因性因子である(1〜3)。基本的には、H.pylori感染者は全て組織学的胃炎に発展するが(4)、H. pylori感染者の大半は無症候にとどまり(4)、その他の感染者は消化性潰瘍または胃腺ガンのような重篤な感染合併症に発展する(2、3)。個々のH.pylori単離体は高レベルの遺伝子型多様性を示すが(5、6)、この生物の表現型特徴はほとんど全て保存される。現在、株間で異なることが知られている唯一の表現型特徴は、空胞形成細胞毒素の産生(7、8)およびcagAによりコードされる128kDaの細胞毒素関連タンパク質の存在(8)である。消化性潰瘍疾患を有する患者は、胃炎のみを有する患者よりも空胞形成細胞毒素産生株に頻繁に感染されている(11、12)。同様に、128kDaの細胞毒素関連CagAタンパク質への血清学的応答は、H. pylori感染者における消化性潰瘍の存在と関係がある(8、14)。従って、これらの2つの関連する表現型は、H.pylori感染の臨床的結果に影響し得る重要な毒性決定因子である。
【0004】
空胞形成細胞毒素は、インビトロで約50%のH. pylori株により産生され(7、8)、そして種々の細胞型に対して活性である(7)。本発明者らは、空胞形成細胞毒素をH.pylori 60190から精製し、そしてこれが変性および還元条件下で87 kDaタンパク質として移動することを示した(米国特許出願第07/841,644号)。このタンパク質をコードする遺伝子を単離または配列決定することは、このタンパク質が精製されるまで、不可能であった。従って、診断試薬としての使用、またはワクチンにおける使用のために、大量の空胞形成毒素を発現することは不可能であった。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下を提供する。
項目1.Helicobacter pylori空胞形成毒素をコードする単離された核酸であって、配列表の配列番号1で規定されるヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964からなる、核酸。
項目2.上記核酸を発現するために適切なベクター内にある、項目1に記載の核酸。
項目3.上記核酸を発現するために適切な宿主中にある、項目2に記載の核酸。
項目4.Helicobacter pyloriの単離された核酸であって、配列表の配列番号1で規定されるヌクレオチド配列からなる、核酸。
項目5.上記核酸を発現するために適切なベクター中にある、項目4に記載の核酸。
項目6.上記核酸を発現するために適切な宿主中にある、項目5に記載の核酸。
項目7.項目1に記載の核酸によりコードされる、精製されたタンパク質。
項目8.薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の項目7に記載のタンパク質を含む組成物。
項目9.H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、その被験体に項目8に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
項目10.ストリンジェント条件下で項目4に記載の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸であって、そしてその核酸がハイブリダイズする配列のセグメントと少なくとも70%の相補性を有する、核酸。
項目11.上記核酸を発現するために適切なベクター中にある、項目10に記載の核酸。
項目12.上記核酸を発現するために適切な宿主中にある、項目11に記載の核酸。
項目13.項目12に記載の核酸によりコードされる、精製された抗原性タンパク質。
項目14.薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の項目13に記載のタンパク質を含む組成物。
項目15.H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、その被験体に項目14に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
項目16.Helicobacter pylori由来の単離された核酸であって、配列表の配列番号3で規定されるヌクレオチド配列を含む、核酸。
項目17.上記核酸を発現するために適切なベクター中にある、項目16に記載の核酸。
項目18.上記核酸を発現するために適切な宿主中にある、項目17に記載の核酸。
項目19.項目16に記載の核酸によりコードされる、精製された抗原性タンパク質。
項目20.薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の項目19に記載のタンパク質を含む組成物。
項目21.H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、その被験体に項目20に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
項目22.ストリンジェント条件下で項目16に記載の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸であって、そしてその核酸がハイブリダイズする配列のセグメントと少なくとも70%の相補性を有する、核酸。
項目23.薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の、機能性空胞形成毒素を発現しない単離された天然に存在するH.pylori株を含む組成物。
項目24.H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、その被験体に項目23に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
項目25.非H.pylori核酸を含み、そして機能性空胞形成毒素を発現しない遺伝子的に改変されたH.pylori変異株。
項目26.薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の、項目25に記載の遺伝子的に改変されたH.pylori株を含む組成物。
項目27.H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、その被験体に項目26に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
項目28.H.pylori感染を処置する方法であって、被験体に、免疫原性量の項目25に記載の遺伝子的に改変されたH.pylori変異株を投与する工程を包含する、方法。
項目29.配列番号1のアミノ酸をコードする単離された核酸。
項目30.ストリンジェント条件下で、項目29に記載の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸であって、そしてその核酸がハイブリダイズするセグメントと、またはそのセグメントに相補的な核酸と少なくとも95%の相補性を有する、核酸。
項目31.上記核酸を発現するために適切なベクター中にある、項目30に記載の核酸。
項目32.上記核酸を発現するために適切な宿主中にある、項目31に記載の核酸。
【0006】
本発明は、Helicobacterpylori空胞形成毒素をコードする単離された核酸を提供し、この核酸は、配列表において配列番号1として規定されるヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964からなる。この核酸は、本発明によって提供されるH.pyloriのvacAコード領域の2本鎖配列の一例である。Helicobacter pyloriから単離された、配列表において配列番号3として規定されるヌクレオチド配列を含む核酸が提供される。この核酸は、機能性空胞形成毒素を産生しない天然に存在するH.pylori株(tox株)のvacA(空胞形成毒素)遺伝子の2本鎖配列であり得る。
【0007】
本発明の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸が提供される。この選択的にハイブリダイズする核酸は、例えば、これがハイブリダイズする核酸を有する生物の存在を検出するためのプローブまたはプライマーとして使用され得る。このような核酸は、ポリペプチドをコードし得、そしてこれにより、ベクターおよび宿主に置かれて、この毒素、抗原的に類似の毒素、抗原性フラグメントまたは毒素機能を示すフラグメントを産生し得る。
【0008】
本発明はまた、H.pyloriの遺伝子的に改変した変異株を提供し、この変異株は機能性空胞形成毒素を発現しない。
【0009】
本発明は、本発明の核酸によってコードされる精製タンパク質を提供する。本発明のタンパク質の1例は、配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964によりコードされる、H. pyloriの空胞形成毒素(配列番号2)である。
【0010】
本発明は、免疫原性量の本発明のタンパク質、遺伝子的に改変した株または天然に存在するtox株を、薬学的に受容可能なキャリア中に含む組成物を提供する。この組成物に使用されるタンパク質は、本発明の空胞形成毒素タンパク質であり得る。H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法が提供され、この方法は本発明の免疫原性組成物を被験体に投与する工程を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明の詳細な説明
核酸
本発明は、Helicobacterpylori空胞形成毒素をコードする単離された核酸を提供し、この核酸は、配列表において配列番号1として規定されるヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964からなる。この核酸は、本発明によって提供されるH.pyloriのvacAコード領域の2本鎖配列の一例である。「単離された」核酸は他のH. pylori遺伝子から分離される核酸である。
【0012】
Helicobacterpyloriの単離された核酸もまた提供され、この核酸は配列表において配列番号1として規定されるヌクレオチド配列からなる。従って、この配列は、H. pyloriのvacAコード領域のための調節配列を含む。配列表において配列番号1として規定されるヌクレオチド配列のヌクレオチド91〜95からなるShine-Dalgarno配列が特に提供される。本発明はまた、配列番号1で規定されるタンパク質をコードする任意の核酸を提供する。
【0013】
配列表において配列番号3として規定されるヌクレオチド配列を含む、Helicobacter pyloriから単離された核酸が提供される。この核酸は、機能性空胞形成毒素を産生しない、天然に存在するH.pylori株(tox株)のvacA(空胞形成毒素)遺伝子の2本鎖配列であり得る。配列番号3の核酸は、本発明により提供されるtox株の空胞形成毒素遺伝子の2本鎖の部分配列である。この核酸は、オープンリーディングフレームの一部を含む。残りの配列は、本明細書中で提供されるクローニングおよび配列決定方法を用いて容易に決定され得る。
【0014】
本発明の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸が提供される。この選択的にハイブリダイズする核酸は、例えば、これがハイブリダイズする核酸を有する生物の存在を検出するためのプローブまたはプライマーとして使用され得る。このような核酸は、ポリペプチドをコードし得、そしてこれにより、ベクターおよび宿主に置かれて、この毒素、機能的に類似の毒素、抗原性フラグメントまたは毒素機能を示すフラグメントを産生し得る。
【0015】
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションプロトコールに使用される洗浄条件を意味する。一般に、この洗浄条件は、できる限りストリンジェントであるべきである(すなわち、温度および塩濃度の組み合わせは、ハイブリダイズされる配列の変性温度が研究中のハイブリッドの計算されるTの約5〜20℃下であるように選択されるべきである)。温度および塩の条件は、フィルターに固定された参考DNAの試料を目的のプローブまたは配列にハイブリダイズさせ、続いて異なるストリンジェンシーの条件下で洗浄する予備実験において経験的に決定され得る。例えば、ストリンジェントな条件は、6×SSCにおいて68℃で18時間のハイブリダイゼーション、続いて65℃で0.1×または0.5×SSCを用いる複数の洗浄により例示される。
【0016】
ストリンジェントな条件下で、配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964からなる核酸、または配列番号1のタンパク質をコードする核酸と選択的にハイブリダイズし、そしてこれがハイブリダイズする配列のセグメントに対して少なくとも70%の配列相補性を有する単離された核酸が提供される。従って、この核酸は、機能性空胞形成毒素をコードする遺伝子を有する生物の存在を検出するためのプローブまたはプライマーとして使用され得る。
【0017】
ストリンジェントな条件下で、配列番号1のヌクレオチド配列からなる核酸、または配列番号1のタンパク質をコードする核酸と選択的にハイブリダイズし、そしてこれがハイブリダイズする配列のセグメントに対して少なくとも70%の配列相補性を有する単離された核酸が提供される。この選択的にハイブリダイズする核酸は、1つまたはそれ以上の空胞形成毒素コード配列の上流に位置する調節配列を含む。
【0018】
ストリンジェントな条件下で、配列番号3の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸もまた提供される。配列番号3の核酸はオープンリーディングフレームの一部であるため、選択的にハイブリダイズする核酸はポリペプチドをコードし得る。
【0019】
本発明の選択的にハイブリダイズする核酸は、これがハイブリダイズする配列のセグメントに対して少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%および99%の相補性を有し得る。この核酸は少なくとも20、50、100、150、200、300、500、750、1000、2000、3000または4000ヌクレオチドの長さを有し得る。従って、この核酸は、毒素の代替のコード配列であり得、あるいは機能性空胞形成毒素をコードする遺伝子を有する株またはtox株の存在を検出するためのプローブまたはプライマーとして使用され得る。プライマーとして使用される場合、本発明は、異なる領域と選択的にハイブリダイズして所望の領域を増幅させる少なくとも2つの核酸を含む組成物を提供する。プローブまたはプライマーの長さに応じて、プローブまたはプライマーは70%相補性塩基と完全な相補性の間の範囲であり得、そしてストリンジェントな条件下でなおハイブリダイズし得る。例えば、機能性空胞形成毒素産生H.pylori株の存在を診断する目的のために、ハイブリダイズする核酸(プローブまたはプライマー)とそれがハイブリダイズする配列(試料由来のH.pyloriDNA)との間の相補性の程度は、少なくとも本発明の天然に存在するtox株または遺伝子的に改変した株とのハイブリダイゼーションを排除するのに充分であるべきである。従って、機能性毒素コード配列と選択的にハイブリダイズする核酸は、ストリンジェントな条件下でtox株の核酸とは選択的にハイブリダイズせず、反対の場合にも同じである。あるいは、プローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件下でtoxおよびtoxvacA遺伝子の両方とハイブリダイズするように選択され得る。本発明は、ストリンジェントな条件下で選択的にハイブリダイズする核酸と非選択的にハイブリダイズする核酸とを区別するために必要とされる相補性の程度が各々の核酸について明確に決定され得るように、これらのH.pyloriの核酸の例を提供する。選択的にハイブリダイズする核酸が関連のないタンパク質または他の種由来のタンパク質をコードする核酸とはハイブリダイズしないこともまた明らかであるはずである。
【0020】
当業者は、全遺伝子およびより短いヌクレオチドフラグメントを合成するための日常的な実験を用いて本発明の核酸を容易に獲得し得る。例えば、配列表に示されているような核酸を得るための技術が、本明細書中で特に提供される。さらに、顕著な改変なしで利用され得る別の方法が、当該分野において提供される。Ferrettiら(Proc. Natl. Acad. Sci. 82:599-603(1986))およびWosnickら(Gene76:153-160(1989))は配列が公知の遺伝子を合成するための日常的な方法を示している。より詳細には、Ferrettiらは、合成オリゴヌクレオチドからの1057塩基対の合成ウシロドプシン遺伝子の合成を教示している。この合成遺伝子は、公知の配列に対し忠実であり(第603頁、第1文)、このことは、この遺伝子合成方法の信頼性を示す。さらに、Wosnickらは、効率的な、1工程のアニーリング/結合プロトコールを用いてトウモロコシグルタチオントランスフェラーゼ(GST)遺伝子の合成を教示している。この技術はまた、100%の忠実度を有する完全合成遺伝子を産生した。このことは、このプロトコールの日常性を示す。
【0021】
タンパク質
本発明は、本発明の核酸によりコードされる精製タンパク質を提供する。本発明のタンパク質の1例は、配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964によりコードされる、H. pyloriの空胞形成毒素(配列番号2)である。
【0022】
ストリンジェントな条件下で、配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964からなる核酸と選択的にハイブリダイズし、そしてこれがハイブリダイズする配列のセグメントに対して少なくとも70%の配列相補性を有する核酸によりコードされる精製抗原性タンパク質が提供される。
【0023】
配列表における配列番号3として規定されるヌクレオチド配列を含む核酸によりコードされる抗原性タンパク質もまた提供される。このタンパク質は、E. coli発現系または本明細書中に記載されている他の適切な系において発現され得る。
【0024】
本発明の選択的にハイブリダイズする核酸によりコードされる抗原性タンパク質は、2本鎖の参考核酸のナンセンス鎖とハイブリダイズする核酸によりコードされる。本明細書中で使用される「タンパク質」は、ポリペプチドおよびペプチドを含む。従って、選択的にハイブリダイズする核酸によってコードされるタンパク質は、関連のないまたは無関係なタンパク質またはフラグメントではない。
【0025】
本発明のタンパク質の抗原性フラグメントは、化学的または機械的な分断により全抗原から単離され得る。このように得られた精製フラグメントは、本明細書中で教示される方法により、それらの抗原性および特異性を決定するために試験され得る。抗原性フラグメントは、代表的に、タンパク質のアミノ酸配列由来の少なくとも約8の連続的アミノ酸であり、そしてH. pyloriの機能性または非機能性空胞形成毒素に独特であるべきである。
【0026】
本発明のタンパク質の抗原性フラグメントは、このタンパク質の抗原性フラグメントを産生し得る発現系において、このフラグメントをコードする選択的にハイブリダイズする核酸をクローニングすることによって得られる組換えタンパク質であり得る。抗原性タンパク質をコードする核酸は、この核酸を宿主中に置き、そしてその産物を発現することにより決定され得る。続いて、この産物は、インタクトな天然タンパク質に対して惹起されたポリクローナルまたはモノクローナル抗体に対し、あるいは感染された被験者の血中に存在する(特異的にH. pyloriと反応する)抗体に対してスクリーニングされ得る。
【0027】
抗原性タンパク質のアミノ酸配列が一旦提供されると、標準的なペプチド合成技術を用いてこの抗体の毒性または免疫反応性領域に対応するように、および誘導された配列中の特定のアミノ酸残基の含有、欠失または修飾によりこれらフラグメントを修飾するように選択されるペプチドフラグメントを合成することもまた可能である。従って、このタンパク質由来の極めて大量のペプチドの合成または精製が可能である。
【0028】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列は、ある追加の特性(例えば可溶性)を与えるように設計された配列に結合した抗原性タンパク質の免疫反応性部分を含有し得る。これらの抗原性タンパク質およびフラグメントは、1つまたはそれ以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されて、ある追加の特性を提供する(例えば、ジスルフィド結合可能なアミノ酸を除去/付加する、その生物学的寿命を増加させる、酵素活性を改変する、または免疫原性を改善する)アミノ酸配列を含有し得る。いずれの場合でも、ポリペプチドは、関連の生物学的に活性な性質(例えば、免疫反応性、免疫原性、毒性など)を有しなければならない。
【0029】
変異体生物
本発明はまた、機能性空胞形成毒素を発現しないH. pyloriの遺伝子操作された変異株を提供する。この変異体株は、例えば、天然のH. pyloriに見出されない核酸の存在により、天然に存在するtoxH. pylori株と区別され得る。1つの例では、変異体H. pylori株は本明細書の実施例に記載の空胞形成毒素のコード配列に挿入変異を作製することにより得られる。本発明は毒素をコードする核酸を提供するので、毒素のコード配列を変異させる他の方法が、本明細書中に意図されるように、他の変異株を得るために使用され得る。本発明の変異体H.pylori株の例は、84-183:v1および60190:v1と名付けられる。
【0030】
追加の変異体は、例えば、空胞形成毒素のコード配列中の置換変異により、あるいは空胞形成毒素遺伝子の一部の欠失により、この遺伝子を非機能性にするか、またはこの生物を非感染性、非毒性、低毒性または統計学的に有意な程度に弱毒化にするような低い量で産生されるようにすることにより、調製され得る。さらに、毒素をコードする核酸のヌクレオチド配列を提供することにより、本発明は、所望の効果を有する特異的な点変異の作製を可能にする。欠失、挿入または置換変異は、調節領域またはコード領域のいずれかまたは両方において作製されて、転写を防止し得、または転写された産物を非機能性にし得る。例えば、配列番号1に示されているShine Dalgarno配列は、毒素タンパク質の翻訳を防止する、または統計学的に有意な程度に低減するように破壊され得る。
【0031】
欠失または挿入変異体の構築へのこのようなアプローチの1つは、Donnenberg法による(DonnenbergおよびKaper Infect. Immun. 4310-4317,1991)。毒素遺伝子中の欠失は、制限フラグメントを欠失させてクローンを再結合させることにより作製され得る。この変異体は、自殺ベクターpILL570にクローン化される。BacillussubtilisのsacB遺伝子もまた自殺ベクターにクローン化されて、条件的致死表現型を提供する。この構築物は、エレクトロポレーションによりH. pyloriに形質転換され、形質転換体はスペクチノマイシン耐性により選択される。自殺ベクターおよび毒素遺伝子の変異型を含む部分二倍体株をスクロースに曝して、第2の組換えを受けてベクターの消失を生じた生物について直接に選択する。変異を作製するこれらおよび他の周知の方法は、本明細書中で提供される核酸に適用されて、他の所望の変異を獲得し得る。
【0032】
ワクチン
本発明は、薬学的に受容可能なキャリア中に、免疫原性量の本発明のタンパク質を含む組成物を提供する。この組成物に使用されるタンパク質は、本発明の空胞形成毒素タンパク質であり得る。H. pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法が提供され、この方法は本発明の免疫原性組成物を被験体に投与する工程を包含する。
【0033】
本発明の選択的にハイブリダイズする核酸によってコードされる免疫原性量の抗原性タンパク質を薬学的に受容可能なキャリア中に含む組成物が提供される。これらのタンパク質をコードする核酸は、本質的には、配列表に示されている非コード鎖またはアンチセンス鎖とハイブリダイズする核酸である。H. pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法もまた提供され、この方法はこの組成物を被験体に投与する工程を包含する。
【0034】
配列表における配列番号3として規定されるヌクレオチド配列を含む核酸によりコードされる免疫原性量の抗原性タンパク質を含む組成物は、薬学的に受容可能なキャリア中にあり得る。H. pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法は、この組成物を被験体に投与する工程を包含する。
【0035】
本発明の抗原性タンパク質、天然に存在するtoxまたは遺伝子的に改変した変異体H. pyroliは、免疫原性量の抗原、toxまたは変異体および薬学的に受容可能なキャリアを含むワクチンの構築に使用され得る。このワクチンは、全抗原、インタクトなH.pylori(tox株の場合)、E. coliまたは他の株上の抗原、あるいはこの抗原に特異的なエピトープ(フラグメント)であり得る。このワクチンはまた、他の抗原に対する抗体と潜在的に交差反応性であり得る。H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法もまた提供され、この方法は、遺伝子的に改変したH. pylori、タンパク質またはtox株の免疫原性量を被験体に投与する工程を包含する。
【0036】
免疫原性の測定
本発明の精製タンパク質およびポリペプチドフラグメントは、それらの免疫原性および特異性を測定するために試験され得る。簡単に述べれば、種々の濃度の推定の免疫原フラグメントを調製しそして動物に投与し、そして各濃度に対する動物の免疫学的応答(例えば、抗体の産生または細胞媒介性免疫)を測定する。投与される抗原量は、被験体(例えば、ヒトまたはモルモット)、被験体の状態、被験体のサイズなどに依存する。その後、そのように抗原を接種された動物は、細菌に曝され得、特異的免疫原性タンパク質またはフラグメントの潜在的なワクチン効果を試験される。推定の免疫原性フラグメントの特異性は、接種動物由来の血清、他の体液またはリンパ球を、他の近縁の細菌との交差反応性について試験することにより確かめられ得る。
【0037】
一旦上記のように免疫原性が確立されると、抗原の免疫原性量は、標準手順を用いて測定され得る。簡単に述べれば、種々の濃度の推定の特異的免疫反応性エピトープが調製され、動物に投与され、そして各濃度に対する動物の免疫学的応答(例えば、抗体の産生)の程度が測定される。次いで、免疫化用量は、動物に細菌を投与し、そして種々の量の免疫原の防御効果を観察することにより立証し得る。H.pylori感染に対して動物を免疫化する方法の他の例は、CzinnおよびNedrud(Infection and Immunity 59(7):2359-2363、1991)、およびThomasら(Acta Gastro-Enterologica Belgica、Suppl. 58:54、1993)に記載されている。
【0038】
本発明のワクチン中の薬学的に受容可能なキャリアは、生理食塩水または他の適切なキャリア(Arnon, R.(編) Synthetic Vaccines I:83-92、CRC Press, Inc., Boca Raton、Florida、1987)を含み得る。アジュバントもまた、ワクチンのキャリアの一部であり得、その場合にはそれは用いられる抗原、投与様式、および被験体を基礎として標準の基準により選択され得る(Arnon, R.(編)、1987)。投与方法は、特定の用いられるワクチンおよびそれが投与される被験体に依存して、経口または舌下、または注射による様式であり得る。
【0039】
上記から、ワクチンが予防療法または治療療法として使用される得ることが認識され得る。例えば、被験体に免疫原性量の遺伝子的に改変された本発明のH.pyloriを投与する工程を包含する、H.pylori感染の処置方法が提供される。従って、本発明は、ワクチンを被験体に投与することにより、H.pylori感染および関連疾病を防止または処置する方法を提供する。
【0040】
ベクターおよび宿主
本発明の核酸は、核酸の発現に適するベクター中に存在し得る。ベクター中の核酸は、核酸の発現に適切な宿主中に存在し得る。
【0041】
抗原の発現に有用な当業者に公知の多くのE.coli発現ベクターが存在する。使用に適した他の微生物宿主は、Bacillus subtilisのような桿菌、およびSalmonella、Serratiaおよび種々のPseudomonas種のような他の腸内細菌科を含む。これらの原核生物宿主では、宿主細胞に適合性の発現制御配列(例えば、複製起点)を代表的には含む発現ベクターも作製し得る。さらに、ラクトースプロモーター系、トリプトファン(Trp)プロモーター系、β-ラクタマーゼプロモーター系、またはλファージ由来のプロモーター系のような任意の数の種々の周知のプロモーターが存在する。プロモーターは、必要に応じてオペレーター配列を有して代表的には発現を制御し、そして例えば、転写および翻訳を開始および終結するためにリボソーム結合部位配列を有する。必要であれば、抗原の5'でかつフレームが合ったMetコドンの挿入により、アミノ末端メチオニンを提供し得る。また、抗原のカルボキシ末端伸長は、標準のオリゴヌクレオチド変異誘発手順を用いて除去され得る。
【0042】
さらに、酵母発現が使用され得る。酵母発現系にはいくつかの利点がある。第1に、酵母分泌系で産生されるタンパク質は、正確なジスルフィド対合を示す証拠が存在する。第2に、酵母分泌系により翻訳後のグリコシル化が効率的に行われる。Saccharomyces cerevisiaeプレプロα因子リーダー領域(MFα-1遺伝子によりコードされる)が、酵母からタンパク質を分泌させるために日常的に用いられる(Brakeら、1984)。このプレプロα因子のリーダー領域は、シグナルペプチドおよびKEX2遺伝子によりコードされる酵母プロテアーゼに対する認識配列を含むプロセグメントを含む:この酵素は、Lys-Argジペプチド切断-シグナル配列のカルボキシル側で前駆体タンパク質を切断する。抗原コード配列は、プレプロα因子リーダー領域にフレームを合わせて融合され得る。次いでこの構築物は、アルコールデビドロゲナーゼIプロモーターまたは解糖系プロモーターのような強力な転写プロモーターの制御下に置かれる。抗原コード配列には翻訳終止コドンが続き、その後には転写終結シグナルが続く。あるいは、抗原コード配列は、Sj26またはβ-ガラクトシダーゼのようなアフィニティークロマトグラフィーによる融合タンパク質の精製を容易にするために用いられる第2のタンパク質コード配列に融合され得る。融合タンパク質の成分を分離するためのプロテアーゼ切断部位の挿入は、酵母における発現のために用いられる構築物に適用可能である。
【0043】
哺乳動物細胞は、タンパク質の発現を、折り畳みおよびシステイン対合、複合糖質構造の付加、および活性タンパク質の分泌などの重要な翻訳後改変に好適な環境に置く。哺乳動物細胞における抗原の発現に有用なベクターは、強力なウイルスプロモーターおよびポリアデニル化シグナルの間への抗原コード配列の挿入により特徴付けられる。ベクターは、選択マーカーとして使用するためのゲンタマイシンまたはメトトレキセート耐性のいずれかを付与する遺伝子を含み得る。抗原および免疫反応性フラグメントのコード配列は、メトトレキセート耐性コードベクターを用いてチャイニーズハムスター卵巣細胞株中に導入され得る。形質転換された細胞中のベクターDNAの存在は、サザン分析により確認され得、そして抗原コード配列に対応するRNAの産生は、ノーザン分析により確認され得る。インタクトなヒトタンパク質を分泌し得る多数の他の適切な宿主細胞株が当該技術分野で開発されており、そしてこれはCHO細胞株、HeLa細胞、ミエローマ細胞株、Jurkat細胞などを含む。これらの細胞に対する発現ベクターは、複製起点、プロモーター、エンハンサー、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列のような必要情報プロセッシング部位などの発現制御配列を含み得る。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルスなど由来のプロモーターである。目的のDNAセグメントを含むベクターは、細胞宿主の型に依存して変化する周知の方法により宿主細胞中に移入され得る。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションが一般に原核生物細胞に対して利用され、その一方その他の細胞宿主には、リン酸カルシウム処理またはエレクトロポーレーションが用いられ得る。
【0044】
哺乳動物細胞における抗原の発現のための代替のベクターは、ヒトγ-インターフェロン、組織プラスミノーゲン活性化因子、第VIII凝血因子、B型肝炎ウイルス表面抗原、プロテアーゼネクシン1、および好酸球主要塩基性タンパク質の発現のために開発されたベクターに類似のベクターが使用され得る。さらに、ベクターは、(COS7のような)哺乳動物細胞中の、挿入されたDNAの発現に利用可能なCMVプロモーター配列およびポリアデニル化シグナルを含み得る。
【0045】
改変体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、コードされるポリペプチド産物が産生されるように、コード配列の転写(発現配列)および翻訳を促進する配列を含み得る。そのようなポリヌクレオチドの構築は、当該技術分野で周知である。例えば、そのようなポリヌクレオチドは、プロモーター、転写終結部位(真核生物発現宿主におけるポリアデニル化部位)、リボソーム結合部位、および、必要に応じて、真核生物発現宿主で使用するためのエンハンサー、および、必要に応じて、ベクターの複製に必要な配列を含み得る。
【0046】
DNA配列は、この配列が発現制御配列に作動可能に連結され、即ち、発現制御配列の機能を確実にするために位置された後、宿主中で発現され得る。これらの発現ベクターは、代表的には、エピソームとしてまたは宿主染色体DNAの組み込み部分としてのいずれかで宿主生物中で複製可能である。一般には、発現ベクターは、選択マーカー、例えば、テトラサイクリン耐性またはヒグロマイシン耐性を含み得、所望のDNA配列で形質転換されたこれら細胞の検出および/または選択を可能にする(例えば、米国特許第4,704,362号を参照のこと)。
【0047】
核酸検出(診断)方法
空胞形成毒素、H.pyloriが発現する機能性毒素、天然に存在するtox H.pyloriまたは本発明の遺伝子的に改変された変異体の存在は、この毒素、毒素フラグメント、toxまたは変異した毒素遺伝子に特異的な核酸の存在を検出することにより測定され得る。野生型、tox-、および変異した遺伝子に対するこれら配列の特異性は、Genetics Computer Group(Madison, WI)のコンピュータープログラムWord SearchまたはFASTAを用いて(これらは問題の遺伝子に対する類似性について目録に載っているヌクレオチド配列をサーチする)、コンピュータ化されたデータベースである、GenBankの目録に載っている既知の配列とコンピューター比較を行うことにより決定され得る。
【0048】
H.pylori株または目的のタンパク質に特異的な核酸は、本発明の選択的にハイブリダイズする核酸を用いて検出され得る。より詳細には、ポリメラーゼ連鎖反応またはリガーゼ連鎖反応のような核酸増幅技術が利用される。あるいは、核酸は、直接ハイブリダイゼーションを利用してまたは制限フラグメント長多型を利用することにより検出される。例えば、本発明は、機能性空胞形成毒素を発現するまたは発現しないH.pyroliの存在を検出する方法を提供し、これは本発明の毒素関連核酸に特異的な核酸とのみハイブリダイズするPCRプライマーを利用する工程を包含する。増幅の存在は、抗原をコードする核酸の存在を示す。さらに、制限エンドヌクレアーゼ切断部位と関連するヌクレオチド配列の存在を確かめることが、検出のために用いられ得る。別の実施態様では、DNA試料の制限フラグメントは、例えば、サンガーのddNTpシークエンシングまたは7-デアザ-2'-デオキシグアノシン 5'-トリホスフェートおよびTaqポリメラーゼを用いて直接配列決定され、そして既知の独特の配列に比較され得、H.pylori株を検出する。さらなる実施態様では、本発明は、本発明の選択的にハイブリダイズする核酸を用いた選択的増幅方法を提供する。なお別の実施態様では、相応する配列が、独特の配列を、検出されるべき配列と必須の配列同一性の程度を有する選択的にハイブリダイズする核酸を含むプローブと直接にハイブリダイズすることにより検出され得る。さらに、ヌクレオチド配列は、上記の方法によりハイブリダイゼーションに先立って増幅され得る。
【0049】
プローブは、例えば、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、ビオチン-アビジン標識などを用いて、次の例えばサザンブロットハイブリダイゼーション手順などの可視化のために適切に標識され得る。標識されたプローブは、例えば、ニトロセルロースシートに結合された試料DNAと、完全に相補的な配列または70%、80%、90%または95%の相補性を有する配列がハイブリダイズするようなストリンジェンシー条件下で反応される。標識されたDNAプローブにハイブリダイズするDNA配列を保有する領域が、再アニーリング反応の結果としてそれら自身標識されるようになる。次いで、そのような標識を示すフィルターの領域は、例えば、オートラジオグラフィーにより可視化され得る。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、与えられた鎖長について、通常、Ti(プローブとその標的配列との間で形成されるハイブリッドの不可逆的融解温度)の5℃から20℃低い温度である。50〜200マーについては、推奨されるハイブリダイゼーション温度は、0.1×〜0.5×SSCの洗浄塩濃度で約68℃である(9)。しかし、洗浄温度は、調査下の配列およびハイブリダイゼーションの目的に独特であり、そして本明細書でさらに記載されるように、各改変体について最適化される。
【0050】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、顕著な効率で特定のDNA配列を増幅する技術である。変性、プライマーアニーリングおよびポリメラーゼ(例えば熱安定性酵素Tagポリメラーゼ)を用いて実施される伸長の繰り返しサイクルは、所望のDNA配列の濃度の指数的増加をもたらす。ヌクレオチド配列の知見が与えられれば、目的のDNAに隣接する配列に相補的である合成オリゴヌクレオチドが調製され得る。各オリコヌクレオチドは、2本鎖の一方に相補的である。DNAは、高温(例えば95℃)で変性され得、次いでモル大過剰のオリゴヌクレオチドの存在下で再アニールされる。3'末端が互いの方に向いて配向したオリゴヌクレオチドが、標的配列の反対の鎖にハイブリダイズし、そして4種のデオキシリボヌクレオチド三リン酸の存在下で核酸テンプレートに沿って酵素的伸長をプライムする。次いで、最終産物を、再び、別のサイクルのために変性する。この3工程サイクルが数回繰り返された後、百万倍以上のDNAセグメントの増幅が達成され得る。次いで、得られるDNAは、遺伝的改変を位置付けるために直接配列決定され得る。次いで、得られるDNAを、全ての遺伝子多様性の位置を決定するために、直接配列決定し得る。あるいは、改変されたDNAにのみ結合するオリゴヌクレオチドを調製することが可能であり得、その結果、PCRは、変異が存在する場合のDNA増幅のみを生じる。RNAポリメラーゼを利用して高コピー数を達成する3SRのようなその他の技術もまた、適切な場合用いられ得る。
【0051】
なお別の方法では、PCRは、得られた産物の次の分析を伴う制限エンドヌクレアーゼ消化を伴い得る。誘導された変異または天然に存在する可変配列により、特定の制限エンドヌクレアーゼ部位の獲得または損失を生じ得る。制限エンドヌクレアーゼ認識部位の獲得または損失は、制限フラグメント長多型(RFLP)分析を用いるか、または目的の配列にまたがるPCR産物中の多型性制限エンドヌクレアーゼ部位の存在または非存在の検出により変異の検出を容易にする。
【0052】
RFLP分析のためには、DNAは、例えば、毒素または被験体から単離された機能性毒素を発現するH.pyloriを含むと疑われる被験体の、血液、胃標本、唾液、歯こう、または、その他の体液から、および毒素非発現H.pyloriに感染した被験体から得られ、制限エンドヌクレアーゼで消化され、そして次いでアガロース電気泳動によるサイズを基礎に分離される。次いで、エンドヌレアーゼ消化産物を、標識プローブを用いるハイブリダイゼーションにより、サザンブロット技術を用いて検出し得る。次いで、サザンブロットから得られるパターンが比較され得る。このようなアプローチを用いて、ネイティブtox、遺伝子的に改変された毒素または機能性毒素DNAが、検出されるバンドの数を測定しそしてこの数を異なる株由来のDNAに対して比較することにより検出され得る。
【0053】
一本鎖構造分析(SSCA)は、配列変化を検出する比較的迅速な方法を提供し、これは少なくともいくつかの例では適切であり得る。
【0054】
一般的に、PCRおよびLCR用のプライマーは、通常約20bpの長さであり、そして好ましい範囲は15〜25bpである。両方のプライマーが同じ長さでほぼ同じヌクレオチド組成であるときにより良い増幅が得られる。鎖の変性は通常94℃で起こり、そしてプライマーからの伸長は通常72℃である。アニーリング温度は調査中の配列に従って変化する。反応時間の例は:20分の変性;アニーリング、伸長および変性に対して2分、1分、1分の35サイクル;および5分の最終伸長工程である。
【0055】
以下の実施例は本発明を例示するが、本発明を限定することを意図しない。記載されるプロトコールは、用いられ得るプロトコールの代表であり、当業者に公知のその他の手順も代わって使用され得る。
【実施例】
【0056】
細菌株および増殖条件
H.pylori 60190(ATCC 49503)(これから当初空胞形成細胞毒素が精製された(15))を用いて空胞形成細胞毒素の遺伝子をクローン化した。H.pylori 84-183(ATCC 53726)および87-199は、空胞形成細胞毒素を産生することが先に示された良く特徴付けられた株であり(8、9、16)、そしてTx30a、86-313、および87-203株は、検出可能なインビトロでの細胞毒素活性を産生しない野生型株である(7-9、16)。26株のヒト由来のさらなる臨床H.pylori単離株(先に記載されている(9))もまた、細胞毒素遺伝子の保存を評価するために使用した。H.pylori単離株は、5%ヒツジ血液を含むトリプチケースソイ寒天平板上で、CampyPak-Plus(BBL、Cockeysville、MD)により生成される微好気性雰囲気下、37℃で48時間培養した。
【0057】
空胞形成細胞毒素の部分アミノ酸配列の決定
H.pylori 60190由来の87 kDa空胞形成細胞毒素を、先に記載(15)のように、ブロス培養上清から精製し、7%アクリルアミドゲル上で電気泳動し、そしてProBlott膜(Applied Biosystems、Foster City、CA)上にエレクトロブロットした(15)。次いで、87kDaタンパク質をArg-Cプロテアーゼで消化し、フラグメントをクロマトグラフィーにより分離し、そして3つのフラグメントのアミノ酸配列を、Fernandezら(17)に記載のように、Microsequencing Laboratory of Rockefeller University、New York、NYで決定した。
【0058】
遺伝子技術およびヌクレオチド配列分析
染色体DNAを単離するために、H.pylori細胞をGES(60%グアニジウムチオシアネート−0.1 M EDTA−0.5%Sarkosyl)中で溶解し、そしてDNAをクロロホルム抽出およびイソプロパノール沈殿により精製した(18)。H.pylori 60190染色体DNAに、音波処理による剪断またはAluIでの部分消化のいずれかを行った;次いで、先に記載(9)のように、λZapII(Stratagene、La Jolla、CA)を用いてゲノムライブラリーを構築した。ライブラリーを、ランダムヘキサマー(United States Biochemical、Cleveland、Ohio)を用いたプライマー伸長により放射性標識したプローブを用いて、プラークハイブリダイゼーションによりスクリーニングした(19)。精製した反応性クローンから、クローン化されたDNA挿入片を含むpBluescriptを、R408ヘルパーファージとの同時感染により切り出し、そしてE.coli XL1-Blue中にサブクローン化した。ブラスミド精製の後、制限酵素切断マップを生成し、そしてジデオキシ鎖停止法(20)を用いて両鎖についてヌクレオチド配列を決定した。60190株由来のvacAの最終ヌクレオチド配列を、PCRフラグメントよりむしろクローン化ゲノムDNAから完全に決定した。推定のプロモーターおよびShine-Dalgarno配列を、コンセンサス配列(21)との比較により同定した。相同タンパク質についてのデータベースサーチを、FastAおよびFastDBプログラム、およびNational Center for Biotechnology InformationのBLASTネットワークサービスを用いて実施した。
【0059】
H.pylori 60190の空胞形成細胞毒素遺伝子のクローニング
縮重オリゴヌクレオチドプライマー[(5' TTYTTYACNACNGTNATHAT 3')(配列番号17)および(5' TTRTTDATYTCNARRAARTTRTC 3')(配列番号18)]を、精製87kDaタンパク質のN末端および実験的に決定されたペプチド配列(アミノ酸残基35-41および198-205、それぞれ、配列番号1および2)の逆翻訳を基に構築し、H.pylori 60190 DNAから0.5 kbバンドをPCR増幅するために用いた。このPCR産物を1%アガロースゲルから切り出し、Qiaexゲル抽出キット(Qiagen、Chatsworth、CA)を用いて精製し、そしてpT7 Blue T-ベクターキット(Novagen、Madison、WI)を用いて、E.coli Nova Blue細胞中にサブクローン化しpCTB1を生成した。pCTB1のヌクレオチド配列は、配列番号1の塩基203〜714に対応した。
【0060】
pCTB1を用いたλZapIIライブラリーのスクリーニングにより2つの異なる反応性クローン(pCTB2およびpCTB3)を得た。細胞毒素のN末端をコードする配列を、pCTB2中で同定し、そして2つの実験的に決定したペプチド配列をコードする配列をpCTB3中で同定した。次いで、0.4kb産物(pCTB4)を、pCTB3の下流部分から選択されたプライマー(5' AAGGCTGGTGTGGATAC 3')(配列番号5)、および実験的に決定されたペプチド配列(アミノ酸残基617〜625、配列番号2)の逆翻訳により合成された縮重プライマー(5' CKNGTDATYTCNACRTTYTT 3')(配列番号6)を用いて、H.pylori 60190 DNAからPCR増幅した。pCTB4をプローブとして用いたH.pylori 60190ゲノムライブラリーのスクリーニングにより、pCTB5を精製した。pCTB5の下流0.2kb XbaIフラグメントを用いたライブラリーのスクリニーングにより、クローンpCTB6およびpCTB7を単離した。クローンの各々を制限エンドヌクレアーゼを用いて消化し、そして各クローンの相当する部分のヌクレオチド配列を決定した。制限部位は:EcoRI、HindIII、XbaI、BglIIである。
【0061】
複数クローンの配列の編集は、101位のATGコドン(配列番号1)で開始し、そして3964位のTAAコドン(配列番号1)で終結する3864bpのORFを示した。mRNA中のステムループ構造を形成し得る(△G=-13.2 kcal)逆反復配列は、ヌクレオチド3975〜3999に伸長していた。このORFは、1287アミノ酸残基のタンパク質をコードしていた。そして推定されるポリペプチドの計算分子量は、138,955ダルトンであった。87kDa細胞毒素の実験的に決定されたN末端アミノ酸配列をコードする配列の前には、中央の疎水性領域およびAla-AlaシグナルペプチダーゼI切断部位により特徴付けられる33アミノ酸のリーダー配列が先行していた。潜在的なリボソーム結合部位(AGGAA)は、オープンリーディングフレームの5bp上流で終了していた。第2のORFはvacAと同じ方向で進行し、pCTB2中にvacAの上流に同定された。この567bp以上のORFの終止コドンは、逆反復配列を伴っていなかった。従って、vacA ORFは、成熟87kDa細胞毒素よりかなり大きなポリペプチドをコードしていた。これらの知見に一致して、抗-87kDa血清を用いたH.pylori全細胞のウェスタンブロッティングは、培養上清には存在していなかった弱い免疫反応性の120〜150 kDaバンドを示した。
【0062】
空胞形成細胞毒素遺伝子産物の分析
vacAの翻訳されたアミノ酸配列およびヌクレオチド配列、ならびに上流配列を、PIRおよびSwiss-Protデータベース中の配列と比較した。最も強い相同性が、vacAの上流に位置する567bp以上のORFと、E.coli由来のシステイン-tRNAシンセターゼ(cysS)との間に存在した(2つの50アミノ酸領域中40%および44%同一性)(26、27)。vacA遺伝子産物と有意な相同性を有するタンパク質は存在しなかった。しかし、関連のC末端モチーフおよび類似のC末端プロセッシングを有するいくつかのタンパク質が同定された。これらは、Haemophilus influenzae(28)およびNeisseria gonorrhoeae(29)由来のIgAプロテアーゼ、Serratia marcescensセリンプロテアーゼ(30〜32)、Rickettsia rickettsiiの120kDa表面露出タンパク質(OmpB)(33、34)、Rickettsia prowazekiiの120kDa表面層タンパク質(35)、および腸病原性E.coli(EPEC)のAIDA-Iアドヘシン(adhesin)(36)を含む。これら遺伝子の各々は、サイズ30〜60kDaのペプチドのC末端切断を受ける大きなタンパク質をコードする(28-36)。C末端1位のフェニルアラニンで開始する、交互する疎水性アミノ酸モチーフがこれらタンパク質の各々に存在する。このC末端セグメントは、一般に、グラム陰性外膜タンパク質に見出される(37)。これらのタンパク質は、低システイン含量(タンパク質あたり2〜4のシステイン)によりすべて特徴付けられ、これは膜輸送の間のジスルフィド結合形成を最小にする必要性に多分関係する(38、39)。しかし、翻訳されたVacAタンパク質中および3つの関連プロテアーゼ中では、2つのシステイン残基が、わずか7〜11アミノ酸離れて存在する。S.marcescensプロテアーゼでは、対のシステイン残基のセリンによる置換は減少した酵素分泌を伴う(31)。対応するシステイン残基はまた、H.pylori vacA遺伝子産物の分泌において所定の役割を演じ得る。
【0063】
vacA ORFのヌクレオチド配列の分析は、vacAが以下の3つの領域を有する139kDaプロ毒素をコードすることを示唆する:33アミノ酸リーダー配列、成熟細胞毒素ドメイン(約87kDa)、および切断されるC末端ドメイン(約48kDa)。N末端における著しく疎水性である領域の例外はあるが、成熟87kDaタンパク質(アミノ酸34〜約842)は、優勢に親水性であり、そして68%の伸長配列(Robsonコンフォメーション)を含む。実験的に決定された等電点6.1(15)とは対照的に、VacA 87kDaドメインの推定される等電点は9.1であり;この不一致は、タンパク質の翻訳後修飾に帰せられ得る。切断されたC末端ドメインは優勢に親水性であり、50%の伸長配列および推定される等電点8.8を有する。実験的に決定された87kDa細胞毒素のアミノ酸含量に一致して(15)、87kDaドメインおよびC末端ドメインは両方ともアスパラギンが豊富である(12%)。
【0064】
vacA陰性変異体H.pylori株の構築
vacA遺伝子が単一コピーまたは多コピーのいずれで存在するかを決定するために、H.pylori 60190由来のゲノムDNAを調製し、そしてpCTB1またはpCTB4中の挿入片をプローブとして用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。両方のプローブが約7kbの単一のBglIIフラグメントにハイブリダイズした(データは示さず)。pCTB4挿入片は、単一の1.7kb HindIIIフラグメントにハイブリダイズし、そしてマッピング研究から推定されるように、pCTB1挿入片は2つのHindIIIフラグメントにハイブリダイズした。5つのさらなる酵素(SacI、EcoRV、EcoRI、BamHI、およびKpnI)により消化したDNAについては、プローブは12kb以上の単一フラグメントとハイブリダイズした。これらの結果は、60190株では単一コピーのvacAのみが存在していること示唆し、そしてpCTB1をvacAプローブとして用いたBukanovおよびBergの物理的-遺伝的マッピング研究(40)と一致する。
【0065】
vacA遺伝子を破壊し、この遺伝子が空胞形成細胞毒素をコードするという仮説を試験した。最初の1236bpのvacA ORFおよび393bpの上流配列をコードする1.6kbフラグメントを、H.pylori 60190 DNAからPCR増幅し、そしてpT7Blue中にサブクローン化しpCTB8を作製した。このプラスミドをEcoRIで部分消化し、そしてCampylobacter coli カナマイシン(km)耐性遺伝子(22、23)と連結した。プラスミドpILL600をCampylobacter coli カナマイシン(km)耐性遺伝子(22、23)の供給源として用いた。より詳細には、pCTB8を、プライマー[(5' GTGAAAGCGAAAAACAAG 3')(配列番号11)および(5' AAGAGAAGCTTTAAACCCTCC 3')(配列番号12)]を用いて、H.pylori 60190 DNAからPCR増幅した。pILL600由来のkmカセット(22、23)をpCTB8の唯一のEcoRI部位中に連結してpCTB8:kmを生成した。
【0066】
次いで、本発明者らは、H.pylori中で複製し得ないpCTB8:kmを、H.pylori中に、エレクトロポーレーションにより導入しようとした。H.pylori 84-183細胞を、pCTB8:kmを用いてエレクロトポーレートし、そしてカナマイシン耐性形質転換体をFerreroら(24)に記載のように選択した。自然な形質転換を、H.pylori変異体84-183:v1から単離されたDNAを、増殖の指数期中の60190株に添加することによりなし遂げた。細胞を30分後に回収し、そして血液寒天平板上37℃で一晩インキュベートした。これらの細胞を、カナマイシン(40μg/ml)を含む血液寒天平板上に再プレートし、そしてカナマイシン耐性形質転換体を増殖の2〜3日に後に選択した。
【0067】
500ngのpCTB8:km DNAを用いた109cfuの84-183株のエレクトロポーレーションは、200〜300のカナマシン耐性形質転換体を生成した。
【0068】
サザンおよびコロニーブロットハイブリダイゼーション
対立遺伝子交換によりvacAが形質転換された株で破壊されたか否かを決定するために、野生型84-183株およびカナマイシン耐性H.pylori変異株84-183:v1から単離されたDNAをHindIIIで消化し、そしてサザンハイブリダイゼーションを、カナマイシン遺伝子またはpCTB8のいずれかをプローブとして用いて実施した。H.pylori染色体DNAの制限エンドヌクレアーゼ消化の後、標準化した量のフラグメントを、0.04M トリス酢酸-2mM EDTA緩衝液(pH8.2)中0.7%アガロースゲル上で電気泳動した。ナイロン膜への転移、放射性標識したプローブを用いたハイブリダイゼーション、および洗浄は先に記載(9)のように行った。H.pylori株のコロニーブロットハイブリダイゼーションは先に記載(9)のように行い;ハイブリダイゼーションは6×SSC中68℃で18時間であり、次いで65℃で0.5×SSCで洗浄した。
【0069】
カナマイシン耐性形質転換体84-183:v1由来のDNAはkmプローブにハイブリダイズし、その一方野生型株由来のDNAはハイブリダイズしなかった。このことはkm遺伝子が複製しないプラスミドからレスキューされたことを示した。野生型株および変異株の両方由来のDNAはpCTB8とハイブリダイズしたが、84-183:v1は新たな1.8kbのハイブリダイズするフラグメントを含みかつ0.6kbフラグメントを失った。これらのデータは、vacA遺伝子がkmカセットの挿入により破壊され、しかもベクター配列が二重組換え事象により失なわれたことを示した。
【0070】
次いで、自然の形質転換を用いて、H.pylori 60190のvacA変異体を生成した。84-183:v1株由来の染色体DNA(1μg)を、60190株の107の細胞とインキュベートし、そして約300のカナマイシン耐性形質転換体を得た。変異体60190:v1由来の染色体DNAのサザンハイブリダイゼーションは、vacA内に期待されたkm挿入を示し、対立遺伝子置換を生じた。
【0071】
vacA陰性Helicobacter pylori変異体の特徴付け
vacA遺伝子の破壊が87kDaタンパク質の産生を廃止するか否かを決定するために、野生型株84-183および60190由来の培養上清および2つの同質遺伝子型変異体84-183:v1および60190:v1を、抗-87kDa血清(15)を用いてイムノブロットした。期待されたように、両方の野生型株由来の上清は、免疫反応性の87kDaバンドを含んでいた。その一方、このバンドは、変異株の上清には存在しなかった。2つの野生型株および2つの同質遺伝子型変異株由来の濃縮培養上清を、組織培養アッセイでの空胞形成細胞毒素活性について試験した。
【0072】
空胞形成細胞毒素活性の評価
H.pylori野生型株および変異体を5%ウシ胎児血清を含むBrucellaブロス中で培養し、そして濃縮した培養上清を限外濾過により調製した(8、16)。HeLa細胞を、10%ウシ胎児血清および10mM塩化アンモニウムを含むEagleの改変最少必須培地中(8、16)で培養した。タンパク質濃度により標準化したH.pylori上清の連続希釈液を、HeLa細胞と18時間インキュベートし、次いで細胞空胞形成を、先に記載(16、25)のように、ニュートラルレッド取り込みアッセイにより定量化した。天然に存在するtox-株Tx30a由来の上清をコントロールとして試験した。
【0073】
期待されたように、参照tox+野生型60190株由来の上清は、tox+野生型84-183株由来の上清より有意に高い細胞毒素活性を含んでいたが、2つの遺伝子的に改変された変異株由来の培養上清では細胞毒素活性は検出可能でなかった。従って、vacA遺伝子の挿入変異は、87kDaタンパク質および空胞形成細胞毒素産生の両方の不在をもたらした。
【0074】
空胞形成細胞毒素遺伝子の保存
インビトロで細胞毒素活性を発現するH.pylori株(tox+)および細胞毒素活性を発現しない野生型株(tox-)中にvacA配列が存在するかどうかを調査するために、15のtox+株および17のtox-株を、コロニーハイブリダイゼーションによりpCTB1をプローブとして用いて調べた。H.pylori株の各々は強くハイブリダイズしたが、その一方E.coli XL1Blueとのハイブリダイゼーションはなかった。
【0075】
次いで、vacA遺伝子の潜在的な制限フラグメント多型を調べるために、3つのtox+H.pylori株(84-183、60190、または87-199)および3つのtox- H.pylori株(87-203、86-313、またはTx30a)由来のHindIII消化ゲノムDNAを調製した。サザンハイブリダイゼーションを、3つの異なるvacAプローブ(pCTB1、pCTB4中の挿入片、またはpCTB5の0.7 XbaIフラグメント)を用いて実施した。tox+ H.pylori株由来の染色体DNAをHindIIIで消化し、そして制限フラグメントを0.7%ゲル上で分離した。次いで、DNAをナイロン膜に移し、そして高ストリンジェンシー条件下で標識したvacAプローブを用いてハイブリダイズした。ハイブリダイズしたプローブを、各々の新たなプローブとブロットする前に、70℃で30分間、0.1M 水酸化ナトリウムを用いて膜から剥がした。6株の各々由来のDNAフラグメントは、pCTB1プローブとハイブリダイズし、そして顕著な制限フラグメント長多型が存在した。pCTB4は、6株のうち5株で1.7kbフラグメントと、そして1株由来の0.7kbフラグメントとハイブリダイズした。pCTB4の3つのtox+株へのハイブリダイゼーションは、3つのtox-株へのハイブリダイゼーションよりかなり強かった。第3のプローブ(pCTB5の0.7kb XbaIフラグメント)は、6つの株のすべて由来のフラグメントに、等しい強さでハイブリダイズした。これらのデータは、vacA配列がtox+およびtox- H.pylori株の両方に存在することを示したが、vacA遺伝子の中央領域中に株間で配列多様性が存在することを示唆した。
【0076】
tox+およびtox-株由来のvacAフラグメントのPCR増幅
tox+およびtox- H.pylori株の両方に存在するvacA配列をさらに調査するために、遺伝子の3つの異なる領域からのフラグメントのPCR増幅を行った。3つのtox+ H.pylori株(84-183、60190、87-199)および3つのtox- H.pylori株(87-203、86-313、およびTx30a)由来のDNAを、vacA遺伝子フラグメント増幅のテンプレートとして用いた。PCR反応は30サイクル行った。条件は3つの増幅について同じである(温度94℃、50℃、および72℃)。
【0077】
細胞毒素のN末端をコードするvacAの領域から選択された、プライマー#1および#2(5' ATGGAAATACAACAAACACA 3')(配列番号13)および(5' CTCCAGAACCCACACGATT 3')(配列番号14)は、試験したH.pylori株の各々から0.6kbフラグメントを増幅した。同様に、vacAの下流部分から選択されたプライマー#5および#6(5' TACAAACCTTATTGATTGATAGCC 3')(配列番号15)および(5' AAGCTTGATTGATCACTCC 3')(配列番号16)はまた、試験した株の各々から0.6kbフラグメントを増幅した。しかし、vacA ORFの中間から選択されたプライマー#3および#4[(5' GATTTGTGAATTTAAAGGTGG 3')(配列番号7)および(5' GTCTATATCATTATTAAACATC 3')(配列番号8)]は、ストリンジェント条件下(50℃)で、H.pylori 60190、84-183、および86-313のみから0.6kbフラグメントを増幅した。低ストリンジェンシーアニーリング条件下(39℃)では、ブライマー#3および#4は、試験したH.pylori株の4つから期待された0.6kbフラグメントを増幅したが、87-203またはTx30aからは増幅しなかった。これらの結果は、vacA ORFの中央領域での顕著な配列可変性の存在をまた示唆したサザンハイブリダイゼーション研究と一致した。
【0078】
tox- H.pylori 87-203由来のvacA遺伝子の配列分析
vacA遺伝子における潜在的な配列多様性をさらに調査するために、tox-株からの、推定の可変性領域を含んだvacA遺伝子のフラグメントのPCR増幅を試みた。1.5kbフラグメントを、bp1012〜1029および2533〜2549(配列番号1)に対応する、プライマー[(5' TAGTAACAAGACTCATAT 3')](配列番号9)および(5' CGTTAGCCGTTTTACTG 3')(配列番号10)を用いて、tox-株87-203から増幅した。
【0079】
両方の鎖でのサブクローン化PCR産物の配列決定は、1541bp以上のORF(配列番号3)の存在を示した。このORFのヌクレオチド配列を、tox+60190株由来のvacAと並べ、そして70.7%の配列同一性が存在した。2つの推定アミノ酸配列間の比較は、64.8%の同一性および78.2%のアミノ酸相同性が存在したことを示した。従って、配列分析、サザンハイブリダイゼーション、およびPCR分析はすべて、tox+およびtox- H.pylori株のvacA配列間に有意な差異が存在することを示した。
【0080】
本明細書に示されたデータは、tox+およびtox-両方の単離株を含む試験されたすべてのH.pylori株で空胞形成細胞毒素の遺伝子配列が存在することを示す。
【0081】
本出願を通じて、種々の刊行物が、括弧内の番号により参照される。これらの刊行物の開示は、それらの全体が、本発明が関係する技術分野の状態をより十分に記載するために、本出願中に参考として援用される。これら刊行物の完全な引用は以下の通りである:
参考文献
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
【表7】

【0089】
【表8】

【0090】
【表9】

【0091】
【表10】

【0092】
【表11】

【0093】
【表12】

【0094】
【表13】

【0095】
【表14】

【0096】
【表15】

【0097】
【表16】

【0098】
【表17】

【0099】
【表18】

【0100】
【表19】

【0101】
【表20】

【0102】
【表21】

【0103】
【表22】

【0104】
【表23】

【0105】
【表24】

【0106】
【表25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Helicobacter pylori空胞形成毒素をコードする単離された核酸であって、配列表の配列番号1で規定されるヌクレオチド配列のヌクレオチド101〜3964からなる、核酸。
【請求項2】
前記核酸を発現するために適切なベクター内にある、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記核酸を発現するために適切な宿主中にある、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
Helicobacter pyloriの単離された核酸であって、配列表の配列番号1で規定されるヌクレオチド配列からなる、核酸。
【請求項5】
前記核酸を発現するために適切なベクター中にある、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
前記核酸を発現するために適切な宿主中にある、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
請求項1に記載の核酸によりコードされる、精製されたタンパク質。
【請求項8】
薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の請求項7に記載のタンパク質を含む組成物。
【請求項9】
H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、該被験体に請求項8に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項10】
ストリンジェント条件下で請求項4に記載の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸であって、そして該核酸がハイブリダイズする配列のセグメントと少なくとも70%の相補性を有する、核酸。
【請求項11】
前記核酸を発現するために適切なベクター中にある、請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
前記核酸を発現するために適切な宿主中にある、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸によりコードされる、精製された抗原性タンパク質。
【請求項14】
薬学的に受容可能なキャリア中にある、免疫原性量の請求項13に記載のタンパク質を含む組成物。
【請求項15】
H.pyloriによる感染に対して被験体を免疫する方法であって、該被験体に請求項14に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項16】
配列番号1のアミノ酸をコードする単離された核酸。
【請求項17】
ストリンジェント条件下で、請求項16に記載の核酸と選択的にハイブリダイズする単離された核酸であって、そして該核酸がハイブリダイズするセグメントと、または該セグメントに相補的な核酸と少なくとも95%の相補性を有する、核酸。
【請求項18】
前記核酸を発現するために適切なベクター中にある、請求項17に記載の核酸。
【請求項19】
前記核酸を発現するために適切な宿主中にある、請求項18に記載の核酸。

【公開番号】特開2006−166919(P2006−166919A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376713(P2005−376713)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【分割の表示】特願平7−522437の分割
【原出願日】平成7年2月23日(1995.2.23)
【出願人】(503236795)ヴァンダービルト ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】