説明

空調設備における蒸発温度制御方法

【課題】 空調設備、特に車両空調設備を、潜在冷熱貯蔵器によって特に経済的に駆動することのできる方法を提供する。
【解決手段】 蒸発器(1)によって冷却可能な潜在冷熱貯蔵器(3)を有する空調設備(特に車両空調設備)において蒸発温度を制御する方法である。蒸発器(1)内の冷媒の蒸発温度が、必要に応じて、最低温度(Tmin)と潜在媒体の相転移温度の下にある最高温度(Tmax)の間で調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調設備、特に車両空調設備の蒸発温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両空調設備における蒸発器温度を制御する方法は、たとえば特許文献1から知られている。蒸発器温度は、不必要なエネルギ消費を回避するために、快適性の視点も安全の視点も考慮した温度に調節される。その場合に空気湿度も、必要な冷却能力も考慮される。
【0003】
自動車空調設備のための、他の、外部露点に依存する蒸発器温度制御が、たとえば特許文献2から知られている。その場合に蒸発器温度は、空気温度と露点温度の間の差に依存する。
【0004】
しかし、上述した方法は、冷熱貯蔵器が設けられておらず、従ってそれぞれの空調設備は車両停止状態において、かつそれに伴って空調設備のコンプレッサの停止状態においては、利用できない、という欠点を有している。
【0005】
冷熱貯蔵器を有する車両空調設備は、たとえば特許文献3から知られている。その場合に冷媒蒸発器、たとえばフラット管蒸発器は、冷熱貯蔵媒体を充填された幾つかの貯蔵器を有している。冷熱貯蔵媒体として、デカノールとテトラデカンが知られている。冷熱貯蔵媒体は、蒸発器が駆動される場合に、冷熱貯蔵媒体の溶融温度の下の温度に冷却される。このようにして、潜在貯蔵器が与えられ、その潜在貯蔵器は車両および冷却循環の一時的な停止状態において、冷房の一時的な維持を可能にする。
【特許文献1】ドイツ特許公報DE19920093C1
【特許文献2】ドイツ特許公報DE19728578C2
【特許文献3】ドイツ公開公報DE10156944A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、空調設備、特に車両空調設備を、潜在冷熱貯蔵器によって特に経済的に駆動することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有する方法(すなわち蒸発器によって冷却可能な潜在冷熱貯蔵器を有する、空調設備、特に車両空調設備において蒸発温度を制御する方法であって、その場合に蒸発器内の冷媒の蒸発温度が必要に応じて、最低温度と潜在媒体の相転移温度の下にある最高温度の間で調節される、前記方法)によって解決される。
【発明の実施の形態】
【0008】
潜在冷熱貯蔵器を有する空調設備において、蒸発温度制御の可能性が設けられている。その場合に空調設備の冷媒の蒸発温度は、需要に応じて最低温度と、潜在媒体の相転移温度の下にある最高温度との間で変化される。その場合に最低温度は、好ましくは、蒸発器の凍結が排除されるように、選択されている。潜在冷熱貯蔵器内に含まれる潜在媒体の融点は、好ましくは0℃よりも幾分上である。潜在媒体として特に適しているのは、デカノール(融点7℃)とテトラデカン(融点6℃)および、これらの物質の少なくとも1つを含む、混合物質である。蒸発器の最高温度は、好ましくは、潜在媒体の融点の少し下の温度に調節されている。従って蒸発温度は、常に、潜在媒体の完全な利用可能性が保証されていると共に、蒸発器凍結も回避される領域内にある。
【0009】
本方法は、特に、いわゆるアイドル−ストップ駆動モードを使用する車両の空調設備に適している。その場合に車両エンジンは短時間の車両停止状態において、たとえば信号機で止まった場合に、自動的にオフにされる。従って空調設備のコンプレッサも停止される。潜在媒体の融点は、一方では、できるだけ広い範囲において、ETC(Evaporator Temperatur Control)とも称される蒸発器温度制御によって蒸発器を駆動することができるだけの十分な高さを有するべきである。他方で、潜在媒体の融点は、冷却循環の停止状態において時間的に制限されてまだ十分な冷却作用を可能にするのに、十分に低くあるべきである。これらの競合する条件を、上述した冷熱貯蔵媒体デカノールとテトラデカンは特に高い程度において考慮している。
【0010】
本発明の利点は、特に、潜在媒体の融点によって上方を制限された、制御される蒸発温度により自動車空調設備の蒸発器を駆動することによって、空調設備の特に経済的な駆動も、冷却循環が停止している場合に一時的に冷却駆動を維持することも可能になることにある。
【実施例】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
【0012】
互いに相当する部分ないしパラメータは、すべての図において等しい参照符号を有している。
【0013】
図1aと図1bは、本発明に基づく方法を実施するのに適した、貯蔵器蒸発器として形成された蒸発器1を、斜視図と一部は分解斜視図で示している。この種の貯蔵器蒸発器の原則的な構造は、DE10156944A1から知られている。蒸発器1は、詳しく図示されていない車両空調設備の一部として、幾つかのフラット管2、冷熱貯蔵器3および波形フィン4を有しており、これらは、冷却すべき空気が波形フィン4を通って蒸発器1を貫流することができるように、上述した順序で互いに接している。その場合にフラット管2は、蒸発する冷媒、たとえばR134aによって貫流される。それぞれフラット管2に結合されている冷熱貯蔵器3は、潜在冷熱貯蔵器として形成されており、熱貯蔵媒体としての潜在媒体、たとえばデカノールまたはテトラデカンを充填されている。上述した潜在媒体は、凍結する場合に体積増大が行われない、という利点を有している。図1aと図1bに示す実施例において設けられているフラットな潜熱貯蔵器3の代わりに、たとえば蒸発器1の管2の間に配置されている、特に挟持されているカプセルの形式の、潜在媒体を充填された他の任意の冷熱貯蔵器を設けることもできる。
【0014】
貯蔵器蒸発器1内の蒸発温度は、潜在媒体が常に凍結しており、従って、冷却循環の一時的な停止状態において、特にアイドルストップ駆動において、その溶融エンタルピーが利用可能であるように、制御される。同時に、蒸発温度は、蒸発器凍結を防止するために、下方へ向かって0℃をわずかに上回る値に制限されている。蒸発温度制御と空調設備の出力適合のために、たとえばDE19920093C1で提案されている、それ自体知られた方法で、作業体積を変化させることのできるコンプレッサが使用される。
【0015】
図2aと図2bは、蒸発器1を貫流する空気を冷却し、かつ少なくとも部分的に再加熱するための種々の方法を示している。その場合に蒸発器を矢印で示す流れ方向5に貫流する空気は、車両室内の3つの換気室R1、R2、R3の温度調節のために設けられている。図2aに示す実施例においては、蒸発器1を貫流する全部の空気が発熱体6aへ案内され、その発熱体の発熱出力は、弁7によって調節可能である。弁7は、発熱体6aを通る液体流、特に水流を制御する。この液体側または水側の制御によって、車両室内へ流入する空気の温度が、車両空調に適した目標値に調節される。
【0016】
図2bに示す実施例においては、蒸発器1の後段に発熱体6bが接続されており、その発熱出力は制御できない。空気流出温度の制御は、この場合においては、混合フラップ8を用いて行われ、その混合フラップは蒸発器1と発熱体6bの間に配置されて、蒸発器1を貫流する空気の任意の部分流を加熱することができる。空調設備は、この場合においては、空気側で制御される。
【0017】
図3は、自動車空調設備内で温度制御する種々の方法をグラフで示している。さらに、車両のシルエットが象徴的に示されている。このシルエットの下方において、車両内へ流入する空気の温度プロフィールが示されている。その場合に空気温度Tは、第1の従来の駆動方法V1、第2の従来の駆動方法V2および本発明に基づく駆動方法V3について、流れ区間sに依存する。すべての方法V1、V2、V3において、周囲温度は24℃、車両の室内温度は20℃、そして空調設備からの空気流出温度は12℃である。外部空間から車両の室内へ案内される空気は、図2aと図2bに概略的に示すように、まず蒸発器1を貫流し、次に発熱体6を貫流する。
【0018】
第1の従来の方法V1においては、蒸発温度は制御できない。蒸発器1は、常に最大の出力で駆動される。その場合に蒸発器1を貫流する空気は、約0℃に冷却される。次に、空気は発熱体6内で再び12℃に加熱される。この第1の方法は、不必要に高いエネルギ消費をもたらす。
【0019】
第2の従来の方法V2、いわゆるETC方法においては、蒸発温度は約0℃と約12℃の間で制御可能である。図示の例においては、空気は蒸発器1内で12℃にしか冷却されない。蒸発器1の後段に接続されている発熱体1は、この場合には機能しない。この第2の方法V2は、比較的低いエネルギ消費を特徴としている。しかし、第2の方法V2によっては、すべての条件の元で潜在媒体、たとえばデカノールまたはテトラデカンを凍結させることはできない。従って第2の方法は、アイドル−ストップ駆動モードを有する車両には適していない。
【0020】
第3の、本発明に基づく方法によれば、蒸発温度を制御することのできる温度領域は、約0℃に固定された最低温度Tminと6℃に調節された最高温度Tmaxの間のインターバルに制限されている。図示の実施例においては、蒸発器1はそれを貫流する空気を6℃に冷却するので、潜在冷熱貯蔵器3内の潜在媒体はまだ凍結する。蒸発器1内に統合されている潜在冷熱貯蔵器3の代わりに、蒸発器1と発熱体6の間に配置されて、蒸発器1内で冷却された空気流によって「チャージされる」、すなわち冷却される、冷熱貯蔵器も利用できる。6℃に冷却された空気は、次に発熱体6内で再び12℃に加熱される。このようにして空調設備の経済的な駆動が与えられ、その場合に潜在冷熱貯蔵器3は冷却コンプレッサが作動している場合に永続的にチャージされ続ける。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1a】本発明に基づく方法を実施するのに適した車両空調設備の蒸発器を示している。
【図1b】本発明に基づく方法を実施するのに適した車両空調設備の蒸発器を示している。
【図2a】車両空調設備内で空気を冷却して再び加熱する装置を概略的に示す横断面図である。
【図2b】車両空調設備内で空気を冷却して再び加熱する装置を概略的に示す横断面図である。
【図3】車両空調設備において蒸発器温度制御する種々の方法を示すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1 蒸発器
2 フラット管
3 潜在冷熱貯蔵器
4 波形フィン
5 流れ方向
6、6a、6b 発熱体
7 弁
8 混合フラップ
R1からR3 換気室
s 流れ区間
T 温度
Tmin 最低温度
Tmax 最高温度
V1からV3 方法


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器(1)によって冷却可能な潜在冷熱貯蔵器(3)を有する、空調設備、特に車両空調設備において蒸発温度を制御する方法であって、蒸発器(1)内の冷媒の蒸発温度が、必要に応じて、最低温度(Tmin)と潜在媒体の相転移温度の下にある最高温度(Tmax)の間で調節される方法。
【請求項2】
潜在冷熱貯蔵器(3)が、潜在媒体としてデカノールを有していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
潜在冷熱貯蔵器(3)が、潜在媒体としてテトラデカンを有していることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法によって駆動するための車両空調設備。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−502903(P2006−502903A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544016(P2004−544016)
【出願日】平成15年9月1日(2003.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009676
【国際公開番号】WO2004/035335
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(594042033)ベール ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー (222)