空間光変調器を用いた分散補償器
【課題】空間光変調器を用いた分散補償器において、所望の位相シフト関数を再現すること。
【解決手段】複数波長の信号光が多重された波長多重信号光は、光ファイバを通じて、光サーキュレータ10の第1のポート11から入力されて第2のポート12から出力され、スラブ導波路を1つだけ有するアレイ導波路回折格子20へ入力される。アレイ導波路回折格子20において、波長多重信号光はそれぞれの波長毎に空間分離され、アレイ導波路回折格子20の集光レンズ30の側に取り付けられたレンズ(図示せず)によりコリメートされた後、集光レンズ30で空間位相変調器40上に集光される。異なる波長の信号光は、それぞれ空間位相変調器40上の異なる領域にスポットサイズwで集光される。スポットサイズwは、空間位相変調器40が有する位相付与素子の幅X、チャネル帯域B0等との関係で所定の不等式を満たすように制限されている。
【解決手段】複数波長の信号光が多重された波長多重信号光は、光ファイバを通じて、光サーキュレータ10の第1のポート11から入力されて第2のポート12から出力され、スラブ導波路を1つだけ有するアレイ導波路回折格子20へ入力される。アレイ導波路回折格子20において、波長多重信号光はそれぞれの波長毎に空間分離され、アレイ導波路回折格子20の集光レンズ30の側に取り付けられたレンズ(図示せず)によりコリメートされた後、集光レンズ30で空間位相変調器40上に集光される。異なる波長の信号光は、それぞれ空間位相変調器40上の異なる領域にスポットサイズwで集光される。スポットサイズwは、空間位相変調器40が有する位相付与素子の幅X、チャネル帯域B0等との関係で所定の不等式を満たすように制限されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散補償器に関し、より詳細には、波長多重された複数波長の信号光の光ファイバが有する波長分散による時間的広がりを補償するための分散補償器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信ネットワークの高度化に伴って、従来の2点地間を結んだポイント・ツー・ポイントの光通信ネットワークから、リング型またはメッシュ型の光通信ネットワークの検討がなされている。リング構成またはメッシュ構成の光通信ネットワークでは、光信号を一旦電気信号に変換することなく光のままでパス変更を行うことができる波長選択型の光スイッチが用いられ、通信需要の変化に対応して光パスの切替えを柔軟に行えるようにしている。
【0003】
このような光通信ネットワークでは、光パスの切替えに伴ってパスの長さ、すなわち光信号が伝搬する光ファイバの長さが変化し、その結果、波長分散値が大きく変化することになる。信号光パルスは光ファイバ伝搬中に波長分散値の影響でパルス幅(時間的広がり)が広がって隣り合うパルスが重なる結果、通信品質が劣化することになる。そのため、光通信システムにおいて波長分散を補償する必要があるが、システム運用中に波長分散値が変化する場合には可変波長分散補償器が必要となる。
【0004】
可変波長分散補償器にはいくつかの種類があるが、その中でも回折格子と空間位相変調器を用いたタイプは波長毎に異なる分散補償値を与えることができるため有望なものとなっている(特許文献1参照)。可変波長分散補償器は、回折格子で分波された複数波長の信号光をレンズを介して空間位相変調器上へ集光させる構成となっている。空間位相変調器は、位相付与素子がピクセル化しており、複数の位相付与素子で所望の位相シフト関数を再現し、信号光へ位相シフトを与えることで、信号光の波長分散を補償する。このとき,位相シフトによる波長分散値Dは次式で与えられる。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、λ0は信号光波長、cは真空中の光速度、xは空間位相変調器上の軸上の位置、dx/dλは回折格子が空間位相変調器上に与える線分散、ψ(x)は位相シフト関数である。このとき、位相シフト関数を
【0007】
【数2】
【0008】
のように2次関数にすることで分散補償値Dが得られる。ここで、aは所望する分散補償値Dに依存する定数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−157259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、位相付与素子がピクセル化した空間位相変調器は、位相付与素子が有限の大きさを持つため、適切な大きさで空間位相変調器上に位相シフト関数を再現する必要がある。また、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズについては、その大きさが小さすぎるとオーバーラップする位相付与素子の数が少なくなり、位相シフト関数を感じることができなくなる。反対に、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズが大きすぎても、位相シフト関数がぼやけてしまい、適切な位相シフトを信号光に与えることができなくなる。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、空間光変調器を用いた分散補償器において、所望の位相シフト関数を再現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、複数波長の信号光が周波数間隔Boで波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光素子と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、前記分光素子により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる集光レンズとを備える分散補償器であって、前記空間位相変調器に集光された前記波長毎の信号光は、それぞれ、空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、所定のps/nmの単位で表される分散補償値Dに対して、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする分散補償器。
【0013】
【数3】
【0014】
ここで、Bは、分散補償値Dが所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)は、それぞれ所望の分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の係数である。
【0015】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1から第3の係数は、それぞれ分散補償値Dにのみ依存し、前記第1及び第2の係数は、分散補償値Dに対して累乗で依存する係数であり、前記第3の係数は、分散補償値Dに対して線形に依存することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記第1から第3の係数は、所望の分散補償値Dに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする。
【0017】
【数4】
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、空間位相変調器上に所望の波長分散補償値を得る位相シフト関数を再現する際に、位相付与素子の離散化の影響による位相シフト関数の歪みを抑制し、広い帯域で所望の波長分散補償値を得られるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】位相シフト関数が周期Xでサンプリングされることを説明する概念図である。
【図2】サンプリングされた位相シフト関数が位相付与素子の幅で一定値を取ることを説明する概念図である。
【図3】空間位相変調器上に集光されるガウス分布ビームの振幅を説明する概念図である。
【図4】位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布の光ビームの空間周波数スペクトル例を示す図である。
【図5】再現される位相シフト関数の例を示す図である。
【図6】所望の分散補償値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を様々な分散保証値に対して示す図である。
【図7】様々なチャネル帯域内の位相付与素子数Nに対する、所望の分散補償値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。
【図8】本願発明の実施形態の分散補償器を示すブロック図である。
【図9】空間位相変調器上に信号光ビームが集光される様子を示す概念図である。
【図10】本願発明の実施形態の分散補償器において、分散補償値100ps/nmを設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎に示す図である。
【図11】本願発明の実施形態の分散補償器において、分散補償値400ps/nmを設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎に示す図である。
【図12】本願発明の実施形態の分散補償器において、分散補償値1200ps/nmを設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎に示す図である。
【図13】式(16)及び式(17)から得られるスポットサイズの上限と、本願発明の実施形態の分散補償器のスポットサイズ・帯域を重ねて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本発明に係る分散補償器の原理について説明し、その次に、実施例を説明する。
【0021】
(本発明に係る分散補償器の原理)
本発明に係る分散補償器は、複数波長の信号光が周波数間隔Boで波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光素子と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、当該分光素子により分波された波長毎の信号光を、当該空間位相変調器に集光させる集光レンズとを備える分散補償器であり、空間位相変調器に集光される波長毎の信号光のスポットサイズwを制限していることを主要な特徴とする。以下に、どのようにスポットサイズwの制限を行うのかについて説明する。
【0022】
空間位相変調器上の複数のピクセル化した位相付与素子で位相シフト関数を作ることで、その位相シフト関数は離散化関数となる。そのため、空間位相変調器上へ位相シフト関数を作り出す際には、位相シフト関数離散化の影響を考慮する必要がある。
【0023】
幅Xを有する位相付与素子でψ(x)を作るということは、ψ(x)が一定間隔Xでサンプリングされることになる。この様子を示したのが図1である。ここで、正規化位置変数x’=x/Xを導入し、正規化位相シフト関数ψ(x’)=x’2を定義すると、
【0024】
【数5】
と書ける。ψ(x)を周期Xでサンプリングすることは、ψ(x’)を周期1でサンプリングすることと等価である。ψ(x’)を周期1でサンプリングした関数ψs(x’)は、
【0025】
【数6】
と書ける。本式中において、nは整数、δ(x’)はデルタ関数であり、
【0026】
【数7】
となる。ここで、位相シフト関数の範囲、すなわち、分波された後の波長多重信号光の中の1つの信号光が、空間位相変調器上へ集光される範囲を|x|≦x0とし、x>0及びx<0の範囲にあるサンプル点の数をそれぞれN+及びN-とすると、
【0027】
【数8】
となる。全サンプル数Nはx=0のサンプル点も加えて、N=N++N-+1である。ψs(x’)のフーリエ変換は、
【0028】
【数9】
【0029】
ここで、ξは1/Xで正規化された空間角周波数である。式(7)式は正数k=1,・・・Nを用いて次にように書き換えられる。Nが奇数のとき、
【0030】
【数10】
【0031】
となり、Nが偶数のとき、
【0032】
【数11】
【0033】
となる。ここで、s=e-jξと定義している。ξ=0のときはs=1となるので、自然数の和から、Nが奇数のとき、
【0034】
【数12】
【0035】
となり、Nが偶数のとき、
【0036】
【数13】
【0037】
となる。
【0038】
さらに、位相付与素子の有限幅内の位相は一定であるため、サンプリングされた位相シフト関数ψ(x)の様子は、図2の実線で示すような関数形となる(同図では点線でψ(x)を示している。)。これはすなわち、ψ(x)をゼロ次ホールダでサンプリングしたことと等価である。サンプリング周期1のゼロ次ホールダのフーリエ変換H0(ξ)は、
【0039】
【数14】
【0040】
となり、その振幅は
【0041】
【数15】
【0042】
となる(ここではsinc(x)=sin(x)/xの定義を使用)。このため、位相シフト関数のスペクトルには|H0(ξ)|の効果も影響することになる。
【0043】
一方、空間位相変調器上に集光されたビームスポットのスペクトルも位相シフト関数のスペクトルに影響を与える。空間位相変調器上にスポットサイズwで集光されたガウス分布のビームの振幅(図3)は
【0044】
【数16】
【0045】
と表すことができる。g(x’)のフーリエ変換G(ξ)は、
【0046】
【数17】
【0047】
となる。
【0048】
図4は、位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布ビームのフーリエ変換、すなわち空間スペクトルの一例として、N=31、w/W=3のときの各振幅スペクトル示す。位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)|を細い実線、ゼロ次ホールダの振幅スペクトル|H0(ξ)|を点線、ガウス分布ビームの振幅スペクトルG(ξ)を一点鎖線で示している。また、太い実線は、サンプリング及びゼロ次ホールドされた位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)×H0(ξ)|を示している。空間位相変調器上に滑らかな2次関数を再現するためには、位相シフト関数の振幅スペクトルは|ξ|>πでゼロでなければならず、また、|ξ|≦πにおいても|Φ(ξ)|の形状を保つ必要がある。図4から、ガウス分布ビームはフィルタとして働き、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を減衰させる効果が期待される。ただし、ガウス分布ビームのスペクトル幅はスポットサイズwに依存して変化するため、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を十分に減衰し、且つ、|ξ|≦πの周波数成分をできるだけ減衰させないためにはスポットサイズ範囲を制限する必要がある。
【0049】
ガウス分布ビームのフィルタ効果で高周波成分を減衰した後のスペクトルを逆フーリエ変換することにより、空間位相変調器上に再現される位相シフト関数が得られる。図5の実線は一例として、N=31、w/X=3、X=10μmのときの空間位相変調器上に再現される位相シフト関数を示した図である。同図において、○点は位相シフト関数のサンプリング点を示している。再現された位相シフト関数は元の位相シフト関数に良く一致するが、帯域の端に行くにしたがってずれが生じる。このため帯域の端の方では正しい分散補償値が得られず、その結果、帯域は狭窄化することになる。例えば、図6は、周波数間隔Boで多重された波長多重信号において、各信号周波数グリッドの周波数領域(以下「チャネル帯域」と言う。)が回折格子による回折と集光レンズの集光により空間位相変調器上に再現される幅の中に含まれる位相付与素子数(以下「チャネル帯域内の位相付与素子数」とも呼ぶ。)がN=100のときの、所望の分散補償値(200、400、800ps/nm)を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。ここで、B0はチャネル帯域、Bは分散リップルが設定した分散補償値から許容リップル内(例えば、±10ps/nm以内)になる帯域であり、例えば、所望の分散補償値が400ps/nmの場合、分散補償値が390〜410ps/nmの範囲内になる帯域である。ここで、「信号周波数グリッド」とは、TTC標準JT−G694.1で使用される意味で用いている。ただし、「信号周波数グリッド」はTTC標準JT−G694.1に示されたものに完全に一致する必要はなく、グリッド間が不等周波数間隔でも構わない。
【0050】
また、図7は、チャネル帯域内の位相付与素子数N=100、200、500について、所望の分散補償値800ps/nmを与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。両図からわかるように、スポットサイズの下限はw/X=1である。w/X=1のときはガウス分布ビームが集光する範囲の位相付与素子数が3〜4であるが、これは、2次関数は最低3点が決まれば一意に決まることと良く一致している。また、所望の帯域(正規化帯域)を確保するための正規化スポットサイズの上限は、所望の帯域Bによって異なると共に、分散補償値及びチャネル帯域内の位相付与素子数に依存して変化する。図6から、正規化スポットサイズは正規化帯域に対してほぼ2次関数の依存性があり、その係数は波長分散値によって異なることがわかる。また、図7から、正規化帯域が一定の場合、正規化スポットサイズはチャネル帯域にほぼ比例して増加することがわかる。したがって、正規化スポットサイズは以下の式で表すことができる。
【0051】
【数18】
【0052】
ここで、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)は、それぞれ所望の分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の係数である。以上から、式(16)により所望の帯域を確保するのに必要なスポットサイズの上限が決まる。
【0053】
(実施例)
本実施例では、複数の分散補償値D、及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nについてw/X−B/B0曲線を求め、そのフィッティング係数から式(16)の係数m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)を求めた。具体的には、分散補償値D=100、200、400、800、1200ps/nm、及びチャネル帯域内の位相付与素子数N=20、50、100、200、500、1000についてw/X−B/B0曲線を求めた。その結果、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)はそれぞれ分散補償値Dにのみ依存する表式に簡略化することが可能であることがわかると共に、m1(D)及びm2(D)はDに対して累乗の依存性、m3(D)はDに対して線形の依存性でよく表すことが可能であった。その結果、
【0054】
【数19】
【0055】
が得られた。なお、式(16)の係数m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)の各表式中の係数は、参考にする分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nの組合せによっても若干異なり、約±5%程度の誤差がある。
【0056】
図8は、本発明の分散補償器の実施形態を示すブロック図である。複数波長の信号光が多重された波長多重信号光は、光ファイバを通じて、光サーキュレータ10の第1のポート11から入力されて第2のポート12から出力され、スラブ導波路を1つだけ有するアレイ導波路回折格子20へ入力される。アレイ導波路回折格子20において、波長多重信号光はそれぞれの波長毎に空間分離され、アレイ導波路回折格子20の集光レンズ30の側に取り付けられたレンズ(図示せず)によりコリメートされた後、集光レンズ30で空間位相変調器40上に集光される。異なる波長の信号光は、それぞれ空間位相変調器40上の異なる領域にスポットサイズwで集光される。
【0057】
図9に、空間位相変調器40上に信号光ビームが集光される様子が示している。ここで、スポットサイズwは、信号光振幅の空間プロファイルが、中心の最も振幅の大きいところから1/eになる点と中心との距離である。また、一信号波長が占有する幅2x0は、一つの信号光のチャネル帯域(信号波長間隔と等価)がアレイ導波路回折格子による回折と集光レンズの集光により空間位相変調器上に再現される幅である。空間位相変調器40は、信号光の位相をシフトさせ、且つ反射させる。反射された信号光は、光サーキュレータ10まで元の経路を辿り、光サーキュレータ10の第3のポート13から波長多重された状態で出力される。本実施例では、空間位相変調器40として1つの位相付与素子の幅が10μmで、全素子数が2000個のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)を使用している。アレイ導波路回折格子20は、20波長の信号光が波長多重された波長多重光を1波長ずつ分波するため、LCOS上へは20の信号光がほぼ等間隔に集光される。したがって、一信号波長が占有する幅2x0内の位相付与素子数は100となる。
【0058】
図10から図12に本実施例の分散補償器において、異なる分散補償値を設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎の図で示す。本実施例では、アレイ導波路回折格子20の出力端におけるビームスポット及び集光レンズ30の焦点距離の異なる(その結果、空間位相変調器40上のスポットサイズwの異なる)3つの分散補償器を作製した。信号波長は1550.12nmであり、チャネル帯域は50GHzである。帯域Bを分散補償値が設置値±10ps/nmの許容範囲内にある周波数範囲とすると、スポットサイズが異なる分散補償器ではそれぞれ帯域が異なり、設定分散補償値100ps/nmのとき、w=15μmでは45.3GHz、w=50μmでは36.4GHz、w=100μmでは25.7GHzの帯域が(図10)、設定分散補償値400ps/nmのとき、w=15μmでは44.9GHz、w=50μmでは35.1GHz、w=100μmでは22.8GHzの帯域が(図11)、設定分散補償値1200ps/nmのとき、w=15μmでは44.7GHz、w=50μmでは34.2GHz、w=100μmでは20.7GHzの帯域が(図12)、それぞれ得られた。
【0059】
図13に、式(16)及び式(17)から得られるスポットサイズの上限と、本実施例の分散補償器のスポットサイズ・帯域を重ねて示している。本実施例の分散補償器のスポットサイズ・帯域の各点は式(16)及び式(17)から得られる曲線状にあり、式(16)及び式(17)が所望帯域を確保するためのスポットサイズ上限値を与えることが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
10 光サーキュレータ
20 アレイ導波路回折格子
30 集光レンズ
40 空間位相変調器
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散補償器に関し、より詳細には、波長多重された複数波長の信号光の光ファイバが有する波長分散による時間的広がりを補償するための分散補償器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信ネットワークの高度化に伴って、従来の2点地間を結んだポイント・ツー・ポイントの光通信ネットワークから、リング型またはメッシュ型の光通信ネットワークの検討がなされている。リング構成またはメッシュ構成の光通信ネットワークでは、光信号を一旦電気信号に変換することなく光のままでパス変更を行うことができる波長選択型の光スイッチが用いられ、通信需要の変化に対応して光パスの切替えを柔軟に行えるようにしている。
【0003】
このような光通信ネットワークでは、光パスの切替えに伴ってパスの長さ、すなわち光信号が伝搬する光ファイバの長さが変化し、その結果、波長分散値が大きく変化することになる。信号光パルスは光ファイバ伝搬中に波長分散値の影響でパルス幅(時間的広がり)が広がって隣り合うパルスが重なる結果、通信品質が劣化することになる。そのため、光通信システムにおいて波長分散を補償する必要があるが、システム運用中に波長分散値が変化する場合には可変波長分散補償器が必要となる。
【0004】
可変波長分散補償器にはいくつかの種類があるが、その中でも回折格子と空間位相変調器を用いたタイプは波長毎に異なる分散補償値を与えることができるため有望なものとなっている(特許文献1参照)。可変波長分散補償器は、回折格子で分波された複数波長の信号光をレンズを介して空間位相変調器上へ集光させる構成となっている。空間位相変調器は、位相付与素子がピクセル化しており、複数の位相付与素子で所望の位相シフト関数を再現し、信号光へ位相シフトを与えることで、信号光の波長分散を補償する。このとき,位相シフトによる波長分散値Dは次式で与えられる。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、λ0は信号光波長、cは真空中の光速度、xは空間位相変調器上の軸上の位置、dx/dλは回折格子が空間位相変調器上に与える線分散、ψ(x)は位相シフト関数である。このとき、位相シフト関数を
【0007】
【数2】
【0008】
のように2次関数にすることで分散補償値Dが得られる。ここで、aは所望する分散補償値Dに依存する定数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−157259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、位相付与素子がピクセル化した空間位相変調器は、位相付与素子が有限の大きさを持つため、適切な大きさで空間位相変調器上に位相シフト関数を再現する必要がある。また、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズについては、その大きさが小さすぎるとオーバーラップする位相付与素子の数が少なくなり、位相シフト関数を感じることができなくなる。反対に、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズが大きすぎても、位相シフト関数がぼやけてしまい、適切な位相シフトを信号光に与えることができなくなる。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、空間光変調器を用いた分散補償器において、所望の位相シフト関数を再現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、複数波長の信号光が周波数間隔Boで波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光素子と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、前記分光素子により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる集光レンズとを備える分散補償器であって、前記空間位相変調器に集光された前記波長毎の信号光は、それぞれ、空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、所定のps/nmの単位で表される分散補償値Dに対して、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする分散補償器。
【0013】
【数3】
【0014】
ここで、Bは、分散補償値Dが所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)は、それぞれ所望の分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の係数である。
【0015】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1から第3の係数は、それぞれ分散補償値Dにのみ依存し、前記第1及び第2の係数は、分散補償値Dに対して累乗で依存する係数であり、前記第3の係数は、分散補償値Dに対して線形に依存することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記第1から第3の係数は、所望の分散補償値Dに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする。
【0017】
【数4】
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、空間位相変調器上に所望の波長分散補償値を得る位相シフト関数を再現する際に、位相付与素子の離散化の影響による位相シフト関数の歪みを抑制し、広い帯域で所望の波長分散補償値を得られるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】位相シフト関数が周期Xでサンプリングされることを説明する概念図である。
【図2】サンプリングされた位相シフト関数が位相付与素子の幅で一定値を取ることを説明する概念図である。
【図3】空間位相変調器上に集光されるガウス分布ビームの振幅を説明する概念図である。
【図4】位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布の光ビームの空間周波数スペクトル例を示す図である。
【図5】再現される位相シフト関数の例を示す図である。
【図6】所望の分散補償値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を様々な分散保証値に対して示す図である。
【図7】様々なチャネル帯域内の位相付与素子数Nに対する、所望の分散補償値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。
【図8】本願発明の実施形態の分散補償器を示すブロック図である。
【図9】空間位相変調器上に信号光ビームが集光される様子を示す概念図である。
【図10】本願発明の実施形態の分散補償器において、分散補償値100ps/nmを設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎に示す図である。
【図11】本願発明の実施形態の分散補償器において、分散補償値400ps/nmを設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎に示す図である。
【図12】本願発明の実施形態の分散補償器において、分散補償値1200ps/nmを設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎に示す図である。
【図13】式(16)及び式(17)から得られるスポットサイズの上限と、本願発明の実施形態の分散補償器のスポットサイズ・帯域を重ねて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本発明に係る分散補償器の原理について説明し、その次に、実施例を説明する。
【0021】
(本発明に係る分散補償器の原理)
本発明に係る分散補償器は、複数波長の信号光が周波数間隔Boで波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光素子と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、当該分光素子により分波された波長毎の信号光を、当該空間位相変調器に集光させる集光レンズとを備える分散補償器であり、空間位相変調器に集光される波長毎の信号光のスポットサイズwを制限していることを主要な特徴とする。以下に、どのようにスポットサイズwの制限を行うのかについて説明する。
【0022】
空間位相変調器上の複数のピクセル化した位相付与素子で位相シフト関数を作ることで、その位相シフト関数は離散化関数となる。そのため、空間位相変調器上へ位相シフト関数を作り出す際には、位相シフト関数離散化の影響を考慮する必要がある。
【0023】
幅Xを有する位相付与素子でψ(x)を作るということは、ψ(x)が一定間隔Xでサンプリングされることになる。この様子を示したのが図1である。ここで、正規化位置変数x’=x/Xを導入し、正規化位相シフト関数ψ(x’)=x’2を定義すると、
【0024】
【数5】
と書ける。ψ(x)を周期Xでサンプリングすることは、ψ(x’)を周期1でサンプリングすることと等価である。ψ(x’)を周期1でサンプリングした関数ψs(x’)は、
【0025】
【数6】
と書ける。本式中において、nは整数、δ(x’)はデルタ関数であり、
【0026】
【数7】
となる。ここで、位相シフト関数の範囲、すなわち、分波された後の波長多重信号光の中の1つの信号光が、空間位相変調器上へ集光される範囲を|x|≦x0とし、x>0及びx<0の範囲にあるサンプル点の数をそれぞれN+及びN-とすると、
【0027】
【数8】
となる。全サンプル数Nはx=0のサンプル点も加えて、N=N++N-+1である。ψs(x’)のフーリエ変換は、
【0028】
【数9】
【0029】
ここで、ξは1/Xで正規化された空間角周波数である。式(7)式は正数k=1,・・・Nを用いて次にように書き換えられる。Nが奇数のとき、
【0030】
【数10】
【0031】
となり、Nが偶数のとき、
【0032】
【数11】
【0033】
となる。ここで、s=e-jξと定義している。ξ=0のときはs=1となるので、自然数の和から、Nが奇数のとき、
【0034】
【数12】
【0035】
となり、Nが偶数のとき、
【0036】
【数13】
【0037】
となる。
【0038】
さらに、位相付与素子の有限幅内の位相は一定であるため、サンプリングされた位相シフト関数ψ(x)の様子は、図2の実線で示すような関数形となる(同図では点線でψ(x)を示している。)。これはすなわち、ψ(x)をゼロ次ホールダでサンプリングしたことと等価である。サンプリング周期1のゼロ次ホールダのフーリエ変換H0(ξ)は、
【0039】
【数14】
【0040】
となり、その振幅は
【0041】
【数15】
【0042】
となる(ここではsinc(x)=sin(x)/xの定義を使用)。このため、位相シフト関数のスペクトルには|H0(ξ)|の効果も影響することになる。
【0043】
一方、空間位相変調器上に集光されたビームスポットのスペクトルも位相シフト関数のスペクトルに影響を与える。空間位相変調器上にスポットサイズwで集光されたガウス分布のビームの振幅(図3)は
【0044】
【数16】
【0045】
と表すことができる。g(x’)のフーリエ変換G(ξ)は、
【0046】
【数17】
【0047】
となる。
【0048】
図4は、位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布ビームのフーリエ変換、すなわち空間スペクトルの一例として、N=31、w/W=3のときの各振幅スペクトル示す。位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)|を細い実線、ゼロ次ホールダの振幅スペクトル|H0(ξ)|を点線、ガウス分布ビームの振幅スペクトルG(ξ)を一点鎖線で示している。また、太い実線は、サンプリング及びゼロ次ホールドされた位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)×H0(ξ)|を示している。空間位相変調器上に滑らかな2次関数を再現するためには、位相シフト関数の振幅スペクトルは|ξ|>πでゼロでなければならず、また、|ξ|≦πにおいても|Φ(ξ)|の形状を保つ必要がある。図4から、ガウス分布ビームはフィルタとして働き、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を減衰させる効果が期待される。ただし、ガウス分布ビームのスペクトル幅はスポットサイズwに依存して変化するため、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を十分に減衰し、且つ、|ξ|≦πの周波数成分をできるだけ減衰させないためにはスポットサイズ範囲を制限する必要がある。
【0049】
ガウス分布ビームのフィルタ効果で高周波成分を減衰した後のスペクトルを逆フーリエ変換することにより、空間位相変調器上に再現される位相シフト関数が得られる。図5の実線は一例として、N=31、w/X=3、X=10μmのときの空間位相変調器上に再現される位相シフト関数を示した図である。同図において、○点は位相シフト関数のサンプリング点を示している。再現された位相シフト関数は元の位相シフト関数に良く一致するが、帯域の端に行くにしたがってずれが生じる。このため帯域の端の方では正しい分散補償値が得られず、その結果、帯域は狭窄化することになる。例えば、図6は、周波数間隔Boで多重された波長多重信号において、各信号周波数グリッドの周波数領域(以下「チャネル帯域」と言う。)が回折格子による回折と集光レンズの集光により空間位相変調器上に再現される幅の中に含まれる位相付与素子数(以下「チャネル帯域内の位相付与素子数」とも呼ぶ。)がN=100のときの、所望の分散補償値(200、400、800ps/nm)を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。ここで、B0はチャネル帯域、Bは分散リップルが設定した分散補償値から許容リップル内(例えば、±10ps/nm以内)になる帯域であり、例えば、所望の分散補償値が400ps/nmの場合、分散補償値が390〜410ps/nmの範囲内になる帯域である。ここで、「信号周波数グリッド」とは、TTC標準JT−G694.1で使用される意味で用いている。ただし、「信号周波数グリッド」はTTC標準JT−G694.1に示されたものに完全に一致する必要はなく、グリッド間が不等周波数間隔でも構わない。
【0050】
また、図7は、チャネル帯域内の位相付与素子数N=100、200、500について、所望の分散補償値800ps/nmを与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。両図からわかるように、スポットサイズの下限はw/X=1である。w/X=1のときはガウス分布ビームが集光する範囲の位相付与素子数が3〜4であるが、これは、2次関数は最低3点が決まれば一意に決まることと良く一致している。また、所望の帯域(正規化帯域)を確保するための正規化スポットサイズの上限は、所望の帯域Bによって異なると共に、分散補償値及びチャネル帯域内の位相付与素子数に依存して変化する。図6から、正規化スポットサイズは正規化帯域に対してほぼ2次関数の依存性があり、その係数は波長分散値によって異なることがわかる。また、図7から、正規化帯域が一定の場合、正規化スポットサイズはチャネル帯域にほぼ比例して増加することがわかる。したがって、正規化スポットサイズは以下の式で表すことができる。
【0051】
【数18】
【0052】
ここで、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)は、それぞれ所望の分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の係数である。以上から、式(16)により所望の帯域を確保するのに必要なスポットサイズの上限が決まる。
【0053】
(実施例)
本実施例では、複数の分散補償値D、及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nについてw/X−B/B0曲線を求め、そのフィッティング係数から式(16)の係数m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)を求めた。具体的には、分散補償値D=100、200、400、800、1200ps/nm、及びチャネル帯域内の位相付与素子数N=20、50、100、200、500、1000についてw/X−B/B0曲線を求めた。その結果、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)はそれぞれ分散補償値Dにのみ依存する表式に簡略化することが可能であることがわかると共に、m1(D)及びm2(D)はDに対して累乗の依存性、m3(D)はDに対して線形の依存性でよく表すことが可能であった。その結果、
【0054】
【数19】
【0055】
が得られた。なお、式(16)の係数m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)の各表式中の係数は、参考にする分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nの組合せによっても若干異なり、約±5%程度の誤差がある。
【0056】
図8は、本発明の分散補償器の実施形態を示すブロック図である。複数波長の信号光が多重された波長多重信号光は、光ファイバを通じて、光サーキュレータ10の第1のポート11から入力されて第2のポート12から出力され、スラブ導波路を1つだけ有するアレイ導波路回折格子20へ入力される。アレイ導波路回折格子20において、波長多重信号光はそれぞれの波長毎に空間分離され、アレイ導波路回折格子20の集光レンズ30の側に取り付けられたレンズ(図示せず)によりコリメートされた後、集光レンズ30で空間位相変調器40上に集光される。異なる波長の信号光は、それぞれ空間位相変調器40上の異なる領域にスポットサイズwで集光される。
【0057】
図9に、空間位相変調器40上に信号光ビームが集光される様子が示している。ここで、スポットサイズwは、信号光振幅の空間プロファイルが、中心の最も振幅の大きいところから1/eになる点と中心との距離である。また、一信号波長が占有する幅2x0は、一つの信号光のチャネル帯域(信号波長間隔と等価)がアレイ導波路回折格子による回折と集光レンズの集光により空間位相変調器上に再現される幅である。空間位相変調器40は、信号光の位相をシフトさせ、且つ反射させる。反射された信号光は、光サーキュレータ10まで元の経路を辿り、光サーキュレータ10の第3のポート13から波長多重された状態で出力される。本実施例では、空間位相変調器40として1つの位相付与素子の幅が10μmで、全素子数が2000個のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)を使用している。アレイ導波路回折格子20は、20波長の信号光が波長多重された波長多重光を1波長ずつ分波するため、LCOS上へは20の信号光がほぼ等間隔に集光される。したがって、一信号波長が占有する幅2x0内の位相付与素子数は100となる。
【0058】
図10から図12に本実施例の分散補償器において、異なる分散補償値を設定したときのチャネル帯域内の分散補償値を設定分散値毎の図で示す。本実施例では、アレイ導波路回折格子20の出力端におけるビームスポット及び集光レンズ30の焦点距離の異なる(その結果、空間位相変調器40上のスポットサイズwの異なる)3つの分散補償器を作製した。信号波長は1550.12nmであり、チャネル帯域は50GHzである。帯域Bを分散補償値が設置値±10ps/nmの許容範囲内にある周波数範囲とすると、スポットサイズが異なる分散補償器ではそれぞれ帯域が異なり、設定分散補償値100ps/nmのとき、w=15μmでは45.3GHz、w=50μmでは36.4GHz、w=100μmでは25.7GHzの帯域が(図10)、設定分散補償値400ps/nmのとき、w=15μmでは44.9GHz、w=50μmでは35.1GHz、w=100μmでは22.8GHzの帯域が(図11)、設定分散補償値1200ps/nmのとき、w=15μmでは44.7GHz、w=50μmでは34.2GHz、w=100μmでは20.7GHzの帯域が(図12)、それぞれ得られた。
【0059】
図13に、式(16)及び式(17)から得られるスポットサイズの上限と、本実施例の分散補償器のスポットサイズ・帯域を重ねて示している。本実施例の分散補償器のスポットサイズ・帯域の各点は式(16)及び式(17)から得られる曲線状にあり、式(16)及び式(17)が所望帯域を確保するためのスポットサイズ上限値を与えることが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
10 光サーキュレータ
20 アレイ導波路回折格子
30 集光レンズ
40 空間位相変調器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数波長の信号光が周波数間隔Boで波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光素子と、
光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、
前記分光素子により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる集光レンズと
を備える分散補償器であって、
前記空間位相変調器に集光された前記波長毎の信号光は、それぞれ、空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、
所定のps/nmの単位で表される分散補償値Dに対して、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする分散補償器。
【数1】
ここで、Bは、分散補償値Dが所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)は、それぞれ所望の分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の係数である。
【請求項2】
前記第1から第3の係数は、それぞれ分散補償値Dにのみ依存し、
前記第1及び第2の係数は、分散補償値Dに対して累乗で依存する係数であり、
前記第3の係数は、分散補償値Dに対して線形に依存することを特徴とする請求項1に記載の分散補償器。
【請求項3】
前記第1から第3の係数は、所望の分散補償値Dに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の分散補償器。
【数2】
【請求項1】
複数波長の信号光が周波数間隔Boで波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光素子と、
光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、
前記分光素子により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる集光レンズと
を備える分散補償器であって、
前記空間位相変調器に集光された前記波長毎の信号光は、それぞれ、空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、
所定のps/nmの単位で表される分散補償値Dに対して、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする分散補償器。
【数1】
ここで、Bは、分散補償値Dが所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(D,N)、m2(D,N)、及びm3(D,N)は、それぞれ所望の分散補償値D及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の係数である。
【請求項2】
前記第1から第3の係数は、それぞれ分散補償値Dにのみ依存し、
前記第1及び第2の係数は、分散補償値Dに対して累乗で依存する係数であり、
前記第3の係数は、分散補償値Dに対して線形に依存することを特徴とする請求項1に記載の分散補償器。
【請求項3】
前記第1から第3の係数は、所望の分散補償値Dに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の分散補償器。
【数2】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−230336(P2012−230336A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100237(P2011−100237)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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