説明

穿刺器具

【課題】皮膚層に対して、安定かつ確実に穿刺針を穿刺することができる穿刺器具を提供すること。
【解決手段】穿刺器具1は、皮膚(真皮D)を穿刺針4により穿刺するものである。この穿刺器具1は、穿刺針4を保持するスライド部材3と、スライド部材3を移動可能に支持すると共に体表面Fに固定される平面を有する固定部8と、固定部8が回動可能に連結されると共に体表面Fに固定される平面を有する位置決め部7と、を備え、位置決め部7を体表面Fに固定した状態で、固定部8を体表面F側に回動させることにより皮膚を隆起させ、スライド部材3を移動させることで、固定部8の、位置決め部7側端部に設けられた開口窓25を介して隆起させた皮膚に穿刺針4を穿刺するよう構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺器具に関し、皮膚の表面より穿刺して所定部位(例えば真皮)に対して用いられる穿刺器具に関する。
【背景技術】
【0002】
真皮は、表皮や皮下組織と比較すると毛細血管の密度が高く、またリンパ末端が存在するため、特に直接注入された薬剤は、血管あるいはリンパ管に移行し、体液中に吸収される吸収速度が速いことが知られている。特に、真皮では、ホルモン、抗体医薬品、サイトカインなどの高分子物質を用いた薬剤を効率よく血液に吸収させることができる。また、真皮は効率の良い免疫の場であることが知られており、ワクチンの投与量を節約したり、弱いワクチンの感作を増強することができる。
【0003】
また、真皮は、成人の人間では体表面(角質層の表面)から略一定の深さに存在することが知られている。このことは、言い換えれば、真皮に薬剤を注入する場合には、これらの人間に対しては、同じ長さ(深さ)の穿刺針を用いることができることを意味している。
【0004】
一般に、真皮の幅は、体表面に対して垂直方向を基準とすると、1mm〜4mm(平均値は1mm〜2mm)程度であり、また、図11の一般的な皮膚構造の断面図に示すように、真皮Dは、角質層SCを含んだ幅0.06mm〜0.1mm程度の表皮Eと、皮下組織Sとの間に挟まれるようにして皮膚内に存在する。
【0005】
従って、表皮と皮下組織の間にする存在する真皮に、穿刺器具の先端部、例えば穿刺針の針先を正確に挿入することは難しく、誤って針先が皮下組織等に挿入されてしまうと、薬剤を効率よく吸収させることができないという問題が生じる。
【0006】
近年、例えば、前述した高分子医薬品を持続的に若しくはワンショットで真皮をターゲットとして投与することが試みられているが、このような場合、特に上述した問題が顕著になる。
【0007】
ここで、体内の真皮に薬剤を注入するために、体内に挿入される穿刺針の長さを規定した皮下注射装置が知られている(特許文献1)。また、皮膚内に存在する特定の層に薬剤を注入するために、皮膚内に挿入される穿刺針の深さ(挿入深さ)を所定の長さに規定し、体表面に対して垂直方向から穿刺針を皮膚内に挿入する薬液注入装置も知られている(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開2001−137343号公報
【特許文献2】特開2005−87519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの装置では、体表面に対して垂直方向から穿刺針が皮膚内に挿入される構成が採用されている。この場合、穿刺針を穿刺しようとすると、皮膚全体が弾性的に窪んで穿刺されず、また穿刺されても針先が真皮まで達しないことがある。
【0010】
また、真皮に対して垂直に穿刺針が挿入されると、真皮内における穿刺針の深さ(挿入深さ)が短くなり、例えば外部から何らかの衝撃等が加えられたような場合には、薬剤注入中の穿刺針が真皮から抜けてしまうという問題が生じてしまう。
【0011】
更に、これらの装置を用いた場合には、真皮において、真皮の表面(表皮と真皮の境目)に形成された穿刺針の挿入口から、穿刺針の先端にある薬剤放出口までの距離が短くなり、薬剤放出口から真皮に注入された薬剤が、挿入口から真皮の外(表皮)へ漏れてしまうという問題も生じてしまう。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題点を考慮し、穿刺針によって安定かつ確実に薬剤を投入することができる穿刺器具を提供することにある。更に、誰もが皮膚に穿刺針を穿刺することができ、一定の位置(深さ)に針先を挿入、留置できる穿刺器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的は、下記(1)〜(10)の本発明により達成される。
(1)皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺器具であって、
前記穿刺針を保持する保持手段と、
前記保持手段を移動可能に支持すると共に体表面に固定される平面を有する固定部と、
前記固定部が回動可能に連結されると共に前記体表面に固定される平面を有する位置決め部と、を備え、
前記位置決め部を前記体表面に固定した状態で、前記固定部を前記体表面側に回動させることにより前記皮膚を隆起させ、前記保持手段を移動させることで、前記固定部の、前記位置決め部側端部に設けられた貫通穴を介して前記隆起させた皮膚に前記穿刺針を穿刺するよう構成したこと
を特徴とする穿刺器具。
【0014】
(2)前記固定部の前記体表面に固定される平面は、前記位置決め部と一緒に前記体表面に固定される押圧面と、前記押圧面に連続すると共に前記固定部が前記体表面側に回動されることにより当該体表面に固定される当接面とからなること
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0015】
(3)前記固定部の前記当接面は、前記押圧面に直交していること
を特徴とする上記(2)に記載の穿刺器具。
【0016】
(4)前記貫通穴は前記押圧面を貫通すること
を特徴とする上記(2)に記載の穿刺器具。
【0017】
(5)前記位置決め部及び前記固定部の前記体表面に固定される平面は、粘着部材によって前記体表面に接着固定されること
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0018】
(6)前記保持手段は、前記皮膚を隆起させた状態において、前記体表面に固定された前記位置決め部の平面に対して略平行に移動されると共に、当該保持手段の移動する方向と前記穿刺針の軸心が一致するように前記穿刺針を保持すること
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0019】
(7)前記位置決め部に前記保持手段の移動を案内する第1のガイド手段を設けると共に、前記固定部に前記保持手段の移動を案内する第2のガイド手段を設け、前記保持手段は、前記固定部上を移動すると共に前記位置決め部上を移動するように形成したこと
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0020】
(8)前記保持手段と前記固定部とにより前記穿刺針を覆うように、前記前記保持手段を形成したこと
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0021】
(9)前記保持手段の移動をロックするロック手段を設けたこと
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0022】
(10)前記穿刺針の先端には刃面を有し、当該刃面は前記保持手段の移動方向と水平に直交する方向を向いていること
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0023】
上記した目的は、下記(11)の発明によっても達成される。
(11)皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺方法であって、
前記穿刺針を保持する保持手段と、
前記保持手段を移動可能に支持すると共に体表面に固定される平面を有する固定部と、
前記固定部が回動可能に連結されると共に前記体表面に固定される平面を有する位置決め部と、を用い、
前記位置決め部を前記体表面に固定した状態で、前記固定部を前記体表面側に回動させることにより前記皮膚を隆起させ、前記保持手段を移動させることで、前記固定部の、前記位置決め部側端部に設けられた貫通穴を介して前記隆起させた皮膚に前記穿刺針を穿刺するようにしたこと
を特徴とする穿刺方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、穿刺針を皮膚に穿刺して所定部位に確実に到達させることができる。また、皮膚の所定部位に対して、薬剤を確実に注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の穿刺器具を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0026】
図1〜図10は、本発明の実施の形態を説明するものである。即ち、図1は本発明の穿刺器具の斜視図、図2は側面図、図3は分解斜視図、図4は穿刺針を拡大して示す拡大図、図5〜図8は図1に示す穿刺器具の使用方法を説明するための説明図、図9は図1に示す穿刺器具の要部を拡大した説明図、図10は図1に示す穿刺器具に係る粘着部材の取付位置のその他の例を示す説明図である。
【0027】
図1〜図3に示すように、穿刺器具1は、ベース部材2と、ベース部材2にスライド移動可能に支持されるスライド部材3と、このスライド部材3に取り付けられた穿刺針4と、ベース部材2を体表面Fに固定させるための粘着部材の一具体例を示す粘着フィルム5等を備えて構成されている。なお、ベース部材2が固定される体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている(図5等を参照)。
【0028】
穿刺器具1のベース部材2は、位置決め部7と、固定部8と、位置決め部7に固定部8を回動可能に連結する一対のヒンジ部9,9等から構成されている。ベース部材2の位置決め部7は、略長方形の板体をなしており、短辺の一方の側面が一対のヒンジ部9,9を介して固定部8に連結されている。この位置決め部7の下面は、体表面Fに密着して位置決め部7を固定するための平面とされている。
【0029】
また、位置決め部7の長辺の両側面には、ヒンジ部9側の端部から長手方向の中間部にかけて切欠き12,12が設けられており、これにより、第1のガイド手段の一具体例を示すガイドレール13,13が形成されている。これらガイドレール13,13には、スライド部材3の後述する係合溝34a,34aがそれぞれ係合される。また、各切欠き12,12のヒンジ部9と反対側の端部には、スライド部材3のスライド動作を係止するためのストッパ突部14,14(図1等において片方のみを示す)がそれぞれ設けられている。
【0030】
ベース部材2の固定部8は、略長方形の板体からなり、短辺の長さが位置決め部7の短辺の長さと同等に設定された本体板16と、この本体板16の一辺に連続する係止片17等から構成されている。固定部8の本体板16の下面は、体表面Fに密着して固定部8を固定するための平面であり、当接面21とされている。本体板16の上面には、幅方向の略中央部に長手方向に沿って延びる第2のガイド手段の一具体例を示すスライドガイド溝22が形成されている。このスライドガイド溝22には、スライド部材3の後述する針保持部32が摺動可能に係合される。
【0031】
更に、本体板16の一方の短辺には、スライドガイド溝22の両側から上方に突出する一対の連結部23,23が設けられている。一対の連結部23,23には、先端側に向かって順次小さくなるように傾斜された傾斜面23a,23aが形成されており、先端部が一対のヒンジ部9,9を介して位置決め部7の側面の下部に連結されている。これにより、本体板16の一対の連結部23,23の間には、スライド部材3に取り付けられた穿刺針4を貫通させるための貫通穴の一具体例を示す開口窓25が形成されている。そして、本体板16の一対の連結部23,23側の側面が、皮膚を隆起させるための押圧面24とされている。
【0032】
固定部8の係止片17は、本体板16に連続して略垂直に突出する立上り部27と、この立上り部27から略垂直に展開されて本体板16に対向される鍔部28とからなっている。この係止片17の立上り部27には、スライド部材3の針保持部32が当接される。また、鍔部28の本体板16の上面と対向する面には、係止突部28aが設けられており、この係止突部28aには、針保持部32の後述する係止凹部38が係合される。
【0033】
また、ベース部材2のヒンジ部9,9は、位置決め部7や固定部8よりも剛性が低く設定されている。これにより、固定部8は、位置決め部7に対して略垂直な状態(図2等に示す状態)から、位置決め部7に対して略平行な状態(図3等に示す状態)までの略90度の角度範囲内で回動可能とされている。
【0034】
このようなベース部材2の材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を挙げることができる。しかしながら、ベース部材2の材料は、ABSに限定されるものではなく、エンジニアリングプラスチックその他の合成樹脂を適用できることは勿論のこと、合成樹脂以外のアルミニウム合金等の金属を用いることもできる。
【0035】
図2及び図3等に示すように、ベース部材2を体表面Fに接着固定させるための粘着フィルム5は、ベース部材2の位置決め部7の下面に貼り付けられている。この粘着フィルム5の幅方向の長さは、ベース部材2の幅方向の長さよりも長く設定されており、長手方向の長さは、位置決め部7の中途部からヒンジ部9,9を経て固定部8の当接面21の中途部まで対応する長さに設定されている。そして、位置決め部7に対応しない部分はスカート状に広がっている。
【0036】
なお、本発明に係る粘着フィルム5としては、上述したような形状に限定されるものではなく、幅方向の長さをベース部材2の幅方向の長さと同等に設定し、図10に示すように、位置決め部7の中途部からヒンジ部9,9を経て固定部8の当接面21の中途部に達する全面を、予めベース部材2に貼り付けてもよい。
【0037】
粘着フィルムの材質としては、伸縮しないポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン等を挙げることができるが、これに限定されるもではなく、ポリウレタンその他この種の粘着フィルムとして使用される各種の材質を用いることができるものである。また、粘着フィルム5の厚みとしては、1ミクロン〜30ミクロン程度が好ましいが、30ミクロンよりも厚い粘着フィルムであっても適用できるものである。
【0038】
穿刺針4を保持する保持手段の一具体例を示すスライド部材3は、図3等に示すように、略長方形の板体をなすスライド板31と、このスライド板31の一辺に連続する針保持部32等を備えて構成されている。スライド部材3のスライド板31には、長辺にそれぞれ連続して下方に突出する一対の側面片34,34が設けられており、これら側面片34,34の互いに対向される面には、係合溝34a,34aが形成されている。
【0039】
一対の側面片34,34の各係合溝34a,34aは、ベース部材2の各ガイドレール13,13に摺動可能に係合される。また、一対の側面片34,34には、ベース部材2の各ストッパ突部14,14に対応した位置に、図示しないストッパ凹部がそれぞれ設けられており、これらストッパ凹部に各ストッパ突部14,14が係合されることにより、スライド部材3のスライド動作が係止される。
【0040】
更に、スライド部材3のスライド板31には、一方の短辺に連続して上方に突出する操作突部36が設けられている。この操作突部36は、スライド部材3をスライド操作する際に、指を引っ掛けて操作し易くするために設けたものである。そして、スライド板31の操作突部36と反対側に、針保持部32が配置されている。
【0041】
スライド部材3の針保持部32は、略四角形の中空の筐体をなしており、スライド板31の上面と同一面を形成する上面32aと、穿刺針4が取り付けられる正面32bと、正面32bと反対側の背面32cと、スライド板31の先端側から正面32bをみて右側の側面を形成する右側面32dと、図に表れない左側面と底面とから構成されている。そして、針保持部32の底面側がベース部材2のスライドガイド溝22に摺動可能に係合されることにより、スライド部材3がベース部材2にスライド移動可能に支持されている。
【0042】
針保持部32の上面32aには、スライド板31の幅方向と平行な方向に延在された係止凹部38が設けられている。この係止凹部38に、ベース部材2の係止突部28aが係合されることにより、スライド部材3のスライド移動が係止される。即ち、針保持部32の上面32aに設けた係止凹部38と、固定部8の係止突部28aと、位置決め部7のストッパ突部14,14と、スライド板31の側面片34に設けた図示しない各ストッパ凹部により、保持手段であるスライド部材3の移動をロックするロック手段が構成されている。
【0043】
針保持部32の正面32bに取り付けられた穿刺針4は、図4に示すように、中空針をなしており、その軸心が、スライド板31を側面片34,34に沿ってスライドさせる方向と一致するように配置されている。この穿刺針4の直径及び長さは、特に限定されるものではないが、直径としては0.1mm〜3mm程度が好ましく、長さとしては2mm〜20mm程度が好ましい。また、穿刺針4の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができるものである。穿刺針4の先端には、図4に示すように、刃面4aが形成されている。刃面4aは、スライド部材(保持手段)3の移動方向と水平に直交する方向を向いている。刃面4aが前記の方向を向いていることによって、穿刺針4を皮膚に進入させる際に、穿刺針4の刃先が皮膚の深さ方向に曲がっていかず、正確な位置に留置することができる。
【0044】
更に、針保持部32の右側面32dには、チューブ39が取り付けられている。チューブ39の一端は、針保持部32の右側面32dに設けた貫通穴から内部に挿入されており、その内部において正面32bに取り付けた穿刺針4に連通されている。また、チューブ39の他端は、図示しないが、注射器や送液ポンプ等の注入器具に連通されている。
【0045】
スライド部材3の材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を挙げることができる。しかしながら、スライド部材3の材料は、ABSに限定されるものではなく、エンジニアリングプラスチックその他の合成樹脂を適用できるものである。
【0046】
このような構成を有する穿刺器具1によれば、例えば、次のようにして皮膚の一部を構成する真皮Dに穿刺針4を穿刺して薬液等の液体を注入することができる。
【0047】
皮膚を穿刺する前、即ち、使用前の穿刺器具1の状態は、図2に示すように、固定部8が位置決め部7に対して略垂直な状態とされている。この状態において、スライド部材3の針保持部32は、固定部8の係合片17に係合されている。このとき、針保持部32の背面32cが係合片17の立上り部27に当接されていると共に、針保持部32の係止凹部38が係合片17の係止突部28aに係合されているため、スライド部材3のスライド移動は係止されている。
【0048】
このような穿刺器具1の固定部8を指で把持して位置決め部7と固定部8の押圧面24とを皮膚の最外郭である体表面Fに圧着し、粘着フィルム5によって接着固定する。このとき、スライド部材3に取り付けた穿刺針4は、スライド板31と固定部8の本体板16との間に位置しているため、穿刺器具1を把持する指が穿刺針4に触れたり、誤って穿刺針4を指に刺してしまうことを防止することができ、穿刺針4を清潔な状態に保つことができる。
【0049】
次に、図6に示すように、固定部8を略90度回動させて、位置決め部7に接着された皮膚を隆起させる。即ち、固定部8を略90度回動させて押圧面24を位置決め部7に対して直交した状態にすることにより、押圧面24に接着された皮膚を押圧し、位置決め部7に接着された皮膚を隆起させる。これにより、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fに対して垂直方向に隆起される。
【0050】
これと同時に、固定部8の当接面21が、粘着フィルム5により体表面Fに接着固定される。これにより、位置決め部7に接着された皮膚と、固定部8の当接面21に接着又は密着した皮膚とに段差が形成される。そして、押圧面24の高さ及び穿刺針4の取付位置等を相対的に設定することで、位置決め部7に接着された皮膚の真皮Dの高さと穿刺針4の高さを一致させている。
【0051】
本実施の形態では、図9に示す押圧面24の高さXを略3mmに設定すると共に、押圧面24の先端から穿刺針4の軸心までの高さ方向の距離Yを略1mmに設定している。これにより、位置決め部7に接着された体表面Fから幅0.06mm〜0.1mm程度の表皮の下に位置する幅1mm〜2mm程度の真皮Dと、穿刺針4との高さを一致させることができる。しかしながら、本発明に係る押圧面24の高さX、押圧面24の先端部から穿刺針4まで距離Yとしては、上述した値に限定されるものではなく、皮膚を隆起させた際の真皮Dの高さと穿刺針4との高さが一致するように、相対的に設定することができるものである。
【0052】
続いて、図7に示すように、操作突部36に指を引っ掛けてスライド部材3を位置決め部7側に押圧する。これにより、針保持部32の係止凹部38が係合片17の係止突部28aから外れて、スライド部材3を位置決め部7側へスライドさせることができる。スライド部材3をスライドさせると、まず、スライド部材3の一対の側面片34,34に設けた各係合溝34a,34aが、位置決め部7の一対のガイドレール13,13に係合される。
【0053】
このとき、スライド部材3は、針保持部32により固定部8のスライドガイド溝22に沿ってスライドされるため、位置決め部7の一対のガイドレール13,13にスライド部材3の各係合溝34a,34aを容易に係合させることができる。かくして、スライド部材3は、固定部8のスライドガイド溝22及び位置決め部7の一対のガイドレール13,13にガイドされて位置決め部7側にスライドされる。
【0054】
その後、更にスライド部材3をスライドさせて、図8に示すように、保持部32の正面32bを係止片17の位置決め部7に当接させる。これにより、穿刺針4は、固定部8の開口窓25(図3を参照)を貫通すると共に、その開口窓25に対向する体表面Fから真皮Dに穿刺され、穿刺器具1による穿刺作業が終了する。
【0055】
このとき、穿刺針4は、開口窓25に対向する体表面Fに対して略垂直に穿刺されるため、刃先の侵入方向が皮膚の深さ方向にずれることがなく、確実に真皮Dに穿刺することができる。更に、固定部8の開口窓25に対向する体表面Fにも、粘着フィルム5が貼り付けられているため、穿刺針4を穿刺する際に皮膚全体が弾性的に窪むことを防止又は抑制することができ、穿刺針4を皮膚に容易に穿刺することができる。
【0056】
また、針保持部32の正面32bが位置決め部7に当接すると、スライド部材3の一対の側面片34,34に設けた図示しない各ストッパ凹部が、位置決め部7のストッパ突部14,14に係合される。そのため、スライド部材3の固定部8側へのスライド移動を係止することができる。更に、針保持部32の正面32bが位置決め部7に当接しているため、固定部8の跳ね上がりを防止することができる。これにより、穿刺器具1は、指を離しても、隆起させた皮膚の真皮Dに穿刺針4が穿刺された状態(図8に示す状態)を保持することができ、穿刺針4が不意に抜けてしまうことを防止することができる。
【0057】
穿刺器具1による穿刺作業が終了すると、図示しない注射器や送液ポンプ等の注入器具から薬液等の液体がチューブ39に送られ、穿刺針4を介して真皮Dに注入される。その後、穿刺器具1を取り外すには、まず、操作突部36に指を引っ掛けてスライド部材3を固定部8側に押圧する。これにより、スライド部材3の各ストッパ凹部が位置決め部7のストッパ突部14,14から外れ、スライド部材3は、固定部8側へスライド移動可能となる。
【0058】
次に、スライド部材3をスライドさせて、針保持部32の背面32cを係止片17の立上り部27に当接させる。これにより、穿刺針4が皮膚から引き抜かれる。このとき、針保持部32の係止凹部38が係合片17の係止突部28aに係合されるため、スライド部材3のスライド移動が係止される。
【0059】
その後、ベース部材2を体表面Fから剥離し、穿刺器具1の取り外しが完了する。その際、位置決め部7の粘着フィルム5が取り付けられていない部分を摘まんで持ち上げると、簡単に剥離することができる。また、穿刺針4を保持するスライド部材3は、スライド移動が係止されているため、誤刺やその誤刺による感染等を防止することができる。
【0060】
以上説明したように、本発明の穿刺器具によれば、位置決め部を体表面Fに接着固定した状態で固定部を回動させて皮膚を隆起させることにより、皮膚の真皮Dを穿刺針と同等の高さに持ち上げることができ、その穿刺針の軸心が延在される方向と真皮Dの層が延在される方向とを略平行にすることができる。
【0061】
その結果、穿刺針の針先にある薬剤放出口から、表皮E及び体表面Fまでの距離を長くすることができ、薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して表皮Eに浸透したり、体表面Fの外部へ漏れてしまったりすることを防止することができる。従って、真皮Dに確実に薬剤を注入することができる。
【0062】
なお、上記実施形態は、いずれも真皮に穿刺針を穿刺する例で説明したが、本発明の穿刺器具は、真皮の他に皮内や皮下組織、更には筋肉に穿刺する場合にも用いることができるものである。
【0063】
また、本発明の穿刺器具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その他材料、構成等において本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の穿刺器具の第1の実施の形態を示すもので、正面側から見た斜視図である。
【図2】図1に示す穿刺器具の右側面図(位置決め部の先端側を正面とする)である。
【図3】図1に示す穿刺器具の分解斜視図である。
【図4】図1に示す穿刺器具の穿刺針を拡大して示す拡大図である。
【図5】図1に示す穿刺器具の位置決め部及び押圧面を体表面に接着した状態を表す説明図である。
【図6】図1に示す穿刺器具の固定部を体表面側に回動させて当接面を体表面に接着した状態を表す説明図である。
【図7】図1に示す穿刺器具のスライド部材を位置決め部側にスライドさせた状態を表す説明図である。
【図8】図7に示す状態から、更にスライド部材をスライドさせて皮膚の真皮に穿刺針を穿刺した状態を表す説明図である。
【図9】図1に示す穿刺器具の押圧面の高さと穿刺針の取付位置の関係を表す説明図である。
【図10】図1に示す穿刺器具に係る粘着部材の取付位置のその他の例を示す説明図である。
【図11】一般的な皮膚構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1・・穿刺器具
2・・ベース部材
3・・スライド部材(保持手段)
4・・穿刺針
4a・・刃面
5・・粘着フィルム(粘着部材)
7・・位置決め部
8・・固定部
9・・ヒンジ部
12・・切欠き
13・・ガイドレール(第1のガイド手段)
14・・ストッパ突部
16・・本体板
17・・係止片
21・・当接面
22・・スライドガイド溝(第2のガイド手段)
23・・連結部
23a・・傾斜面
24・・押圧面
25・・開口窓(貫通穴)
27・・立上り部
28・・鍔部
28a・・係止突部
31・・スライド板
32・・針保持部
34・・側面片
34a・・係合溝
36・・操作突部
38・・係止凹部
39・・チューブ
F・・体表面
SC・・角質層
E・・表皮
D・・真皮
S・・皮下組織
X・・押圧面の高さ
Y・・押圧面の先端から穿刺針の軸心までの高さ方向の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺器具であって、
前記穿刺針を保持する保持手段と、
前記保持手段を移動可能に支持すると共に体表面に固定される平面を有する固定部と、
前記固定部が回動可能に連結されると共に前記体表面に固定される平面を有する位置決め部と、を備え、
前記位置決め部を前記体表面に固定した状態で、前記固定部を前記体表面側に回動させることにより前記皮膚を隆起させ、前記保持手段を移動させることで、前記固定部の、前記位置決め部側端部に設けられた貫通穴を介して前記隆起させた皮膚に前記穿刺針を穿刺するよう構成したことを特徴とする穿刺器具。
【請求項2】
前記固定部の前記体表面に固定される平面は、前記位置決め部と一緒に前記体表面に固定される押圧面と、前記押圧面に連続すると共に前記固定部が前記体表面側に回動されることにより当該体表面に固定される当接面とからなることを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。
【請求項3】
前記固定部の前記当接面は、前記押圧面に直交していることを特徴とする請求項2記載の穿刺器具。
【請求項4】
前記貫通穴は前記押圧面を貫通することを特徴とする請求項2記載の穿刺器具。
【請求項5】
前記位置決め部及び前記固定部の前記体表面に固定される平面は、粘着部材によって前記体表面に接着固定されることを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。
【請求項6】
前記保持手段は、前記皮膚を隆起させた状態において、前記体表面に固定された前記位置決め部の平面に対して略平行に移動されると共に、当該保持手段の移動する方向と前記穿刺針の軸心が一致するように前記穿刺針を保持することを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。
【請求項7】
前記位置決め部に前記保持手段の移動を案内する第1のガイド手段を設けると共に、前記固定部に前記保持手段の移動を案内する第2のガイド手段を設け、前記保持手段は、前記固定部上を移動すると共に前記位置決め部上を移動するように形成したことを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。
【請求項8】
前記保持手段と前記固定部とにより前記穿刺針を覆うように、前記前記保持手段を形成したことを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。
【請求項9】
前記保持手段の移動をロックするロック手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。
【請求項10】
前記穿刺針の先端には刃面を有し、当該刃面は前記保持手段の移動方向と水平に直交する方向を向いていることを特徴とする請求項1記載の穿刺器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−117622(P2007−117622A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316942(P2005−316942)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】