説明

穿刺手技訓練装置

【課題】臨床現場に近い感覚で穿刺手技の訓練を行い得るようにする。
【解決手段】穿刺手技訓練装置1は、吸送気部2から間欠的に送出された圧縮空気の空気圧を、トランスデューサ8により模擬血液における拍動に変換することで、動脈に模し柔軟に形成された模擬血管19を脈動させる。また穿刺手技訓練装置1は、加圧バッグ15により模擬血液に圧力を加えることで模擬血液に擬似血圧を発生させる。このため穿刺手技訓練装置1では、人体の動脈の脈拍及び血圧を忠実に再現することができるため、訓練者に対し、触診において動脈の脈動を頼りに当該動脈の位置を捕える訓練を行わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穿刺手技訓練装置に関し、例えば橈骨動脈に対する穿刺手技の訓練に用いる穿刺手技訓練装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、経皮的冠動脈形成術(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)における低侵襲化を図るため、橈骨動脈に穿刺針を穿刺し心臓の冠状動脈にカテーテルを到達させる経橈骨動脈形成術(TRI:Trans-radial coronary intervention)が普及してきている。
【0003】
この穿刺手技に関しては、医師が予めその手技を習得しておく必要がある。穿刺手技を訓練するための器具としては、模擬皮膚に穿刺針を穿刺し、当該穿刺針が模擬体液に達したときに当該模擬体液が吸引される器具が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−181518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、TRIにおける動脈に対する穿刺手技の訓練のための器具は未だ提案されておらず、臨床現場に近い感覚で動脈に対する穿刺手技の訓練を行うことができなかった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、臨床現場に近い感覚で動脈に対する穿刺手技の訓練を行い得る穿刺手技訓練装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明の穿刺手技訓練装置においては、間欠的に気体の気圧を変化させる気圧変化部と、気体の気圧を模擬血液の水圧に伝達する圧力伝達部と、圧力伝達部に対し一端が接続されると共に他端が閉塞し、内部が模擬血液で満たされ水圧の変化により外形が変化する模擬血管と、模擬血管を覆う模擬皮膚とを設けるようにした。
【0008】
本発明の穿刺手技訓練装置では、人体の動脈の脈拍を忠実に再現した模擬血管を模擬皮膚により覆い、外部から直接目視することができないようにすることにより、訓練者に対し、触診において動脈の脈動を頼りに当該動脈の位置を捕える訓練を行わせることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人体の動脈の脈拍を忠実に再現した模擬血管を模擬皮膚により覆い、外部から直接目視することができないようにすることにより、訓練者に対し、触診において動脈の脈動を頼りに当該動脈の位置を捕える訓練を行わせることができる。かくして本発明は、臨床現場に近い感覚で動脈に対する穿刺手技の訓練を行い得る穿刺手技訓練装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】穿刺手技訓練装置の全体構成を示す略線図である。
【図2】模擬手首のA−A’線断面図を示す略線図である。
【図3】他の実施の形態による穿刺手技訓練装置の全体構成を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
【0012】
[1.実施の形態]
[1−1.穿刺手技訓練装置の構成]
図1に示すように穿刺手技訓練装置1は、主に、空気を送出又は吸引する吸送気部2と、当該空気の気圧を水圧として伝達するトランスデューサ8と、人体における手首を模した模擬手首20とにより構成されている。
【0013】
吸送気部2は、空気チューブ3により接続された空気ポンプ4、電磁弁5及びリーク弁6と、当該電磁弁5を制御するコントローラ7とにより構成されており、空気の気圧を変化させてトランスデューサ8に送出するようになされている。
【0014】
空気ポンプ4は、空気を吸送気可能になされている。本実施の形態において空気ポンプ4は、当該空気ポンプ4に接続された空気チューブ3に対し、およそ125mmHgの圧力で空気を送出することにより、当該空気チューブ3内部の空気を圧縮し、空気圧を高めるようになされている。因みに空気チューブ3は、例えばポリウレタンにより形成されている。
【0015】
電磁弁5は、コントローラ7により制御され、一定又は変則的な周期で間欠的に内部の弁が開閉する。これにより電磁弁6は、空気ポンプ4から送出された空気を、内部の弁が開いた状態において空気チューブ3に通過させる。
【0016】
リーク弁6は、電磁弁5を通過した空気を空気チューブ3を通してトランスデューサ8に送出すると共に、空気チューブ3内部の空気圧が予め設定された所定の圧力になった場合、空気を外部へ放出することにより、空気チューブ3内部の空気圧の上限を定めるようになされている。
【0017】
トランスデューサ8は、内部空間を有する空気室9及びドーム10と、当該空気室9及びドーム10とを隔てる隔壁11とにより構成されている。
【0018】
因みにトランスデューサ8は、人体の血圧を測定する際に使用され当該血圧を空気圧として伝達して出力する、一般的な血圧トランスデューサが用いられている。
【0019】
空気室9は、空気チューブ3と接続し空気が充填しており、当該空気が外部に漏れないよう密閉されている。
【0020】
隔壁11は、一般的なダイアフラムでなり、可撓性を有する薄肉円盤状に形成され、その周縁部が空気室9とドーム10とに挟み込まれることで固定されている。
【0021】
このため隔壁11は、吸送気部2の作動による空気室9内部の空気の吸送気により、周縁部を除く部分が空気室9又はドーム10の内部空間のいずれか一方側に変位し、略中央を頂部とするドーム状に変化するようになされている。
【0022】
ドーム10は、血液チューブ12と接続し模擬血液が充填している。因みに血液チューブ12は、例えばポリウレタンにより形成されている。また血液チューブ12は、天然ゴム、シリコン樹脂、アクリル樹脂等により形成されていても良い。
【0023】
本実施の形態においてトランスデューサ8は、吸送気部2から圧縮空気が送られることにより隔壁11の略中央部がドーム10側に変位する。これによりトランスデューサ8は、ドーム10内部の容積を減少させ模擬血液の水圧を高めるようになされている。
【0024】
またトランスデューサ8は、吸送気部2から圧縮空気が間欠的に繰り返し送出されることで模擬血液の水圧を間欠的に繰り返し高めることにより、模擬血液に拍動を生成するようになされている。因みに模擬血液は、例えば水を顔料や染料により赤く着色した液体を用いることができる。
【0025】
血液チューブ12には、模擬血液で満たされた輸液ソフトバッグ13が接続されている。当該輸液ソフトバッグ13は、ポンプ14から空気を送出されることで加圧バッグ15を介して一定の圧力で加圧される。これにより模擬血液には、所定の圧力が発生することとなる。
【0026】
また血圧チューブ12には、模擬血液の水圧を測定する圧力モニタ17が接続されている。圧力モニタ17は、血圧チューブ12内部の模擬血液の水圧を検出して表示する。
【0027】
これにより穿刺手技の訓練をする者(以下訓練者とも呼ぶ)は、圧力モニタ17を目視しながらポンプ14を用いて加圧バッグ15に加える空気圧を調整することで、人体の血管における血圧と同様の擬似血圧を模擬血液に発生させることができる。
【0028】
血液チューブ12の先端には、接続部18を介して、模擬血管19の一端が着脱自在に接続されている。模擬血管19は、人体の橈骨動脈を模した柔軟さ及び太さでなり、例えば内径が2.5mmのゴムチューブにより形成されている。また、模擬血管19の他端は模擬血液が外部に漏れないように閉塞され、模擬手首20内部に固定されている。
【0029】
このように模擬血管19は、橈骨動脈を模して柔軟に形成されているため、内部の圧力が変化すると太さが変化する。これにより模擬血管19は、血液チューブ12から伝わった拍動によって外形が変化することで脈動するため、人体の脈拍に模した擬似的な脈拍が発生することとなる。
【0030】
模擬手首20は、模擬血管19に直交する断面図を図2に示すように、台部21、蓋部22、模擬血管19及び模擬皮膚23により構成されている。
【0031】
台部21は、上面が人体の手首の形状を模して湾曲している。模擬皮膚23は、板状でなり、人体の皮膚を模してシリコン、ポリウレタン又はポリスチレン等の高分子ゲルにより形成されている。
【0032】
また模擬皮膚23は、その下面に切れ込みが入っており、当該切れ込みに模擬血管19が嵌めこまれることにより、当該模擬血管19を覆うようになされている。
【0033】
このように模擬手首20は、模擬皮膚23により模擬血管19を覆うことで、訓練者に対し当該模擬血管19を直接目視することができないようにすることにより、人体の手首を忠実に再現するようになされている。
【0034】
さらに模擬皮膚23は、台部21に載置されることにより、当該台部21の上面の湾曲面に沿って湾曲する。
【0035】
模擬血管19は、台部21における模擬皮膚23の両端側に設けられた固定部24(図1)により、台部21に固定される。また模擬皮膚23(図2)は、蓋部22により上面から台部21に固定される。
【0036】
このように穿刺手技訓練装置1では、吸送気部2から間欠的に送出された圧縮空気の空気圧を、トランスデューサ8により模擬血液における拍動に変換することで模擬血管19を脈動させることにより、模擬血管19において人体の動脈の脈拍を忠実に再現するようになされている。
【0037】
また穿刺手技訓練装置1では、加圧バッグ15により模擬血液に圧力を加えることで模擬血液に水圧を発生させることにより、模擬血管19において人体の動脈の血圧を忠実に再現するようになされている。
【0038】
[1−2.穿刺手技の訓練]
次に、穿刺手技訓練装置1を利用した穿刺手技の訓練の様子について説明する。穿刺手技訓練装置1は、ポンプ14を操作されることにより模擬血液に擬似血圧を発生させる。
【0039】
ここで、模擬血液に擬似血圧がかかると、トランスデューサ8における隔壁11は、その略中央部が空気室9側に変位する。
【0040】
そこで訓練者は、模擬血液に擬似血圧がかかった状態で空気チューブ3内部の空気圧と模擬血管19内部の水圧とが同等となるようリーク弁6を調整する。これによりトランスデューサ8の隔壁11は、空気室9側又はドーム10側のいずれにも変位していない中立状態となる。
【0041】
続いて穿刺手技訓練装置1は、吸送気部2を作動させることにより模擬血液に脈動を発生させる。
【0042】
そして訓練者は、模擬手首20における模擬皮膚23を触診しながら、当該模擬皮膚23内部において脈動する模擬血管19の位置を、触覚を頼りに捕え、穿刺針を挿入する。
【0043】
このとき模擬血液には擬似血圧が発生しているため、穿刺針が模擬血管19に到達した際、模擬血管19から模擬血液が穿刺針内を通りフラッシュバックする。これにより訓練者は、穿刺針を模擬血管19に穿刺できたことを確認することができる。
【0044】
このように穿刺手技訓練装置1においては、模擬血液に擬似血圧を発生させるようにしたため、訓練者が模擬血管19に対する穿刺に成功したか否かを、模擬血液がフラッシュバックしたか否かにより判断させることができる。
【0045】
また模擬血管19は、人体の橈骨動脈を模して柔軟に形成されているため、模擬血液の拍動により模擬血管19自身が脈動する。このため訓練者は、模擬皮膚23を触診することにより、当該模擬皮膚23の内部において脈動している模擬血管19を、触覚を頼りに捕えることができる。
【0046】
これにより穿刺手技訓練装置1は、臨床現場における動脈に対する穿刺を忠実に再現することができる。
【0047】
[1−3.動作及び効果]
以上の構成において穿刺手技訓練装置1では、吸送気部2から間欠的に送出された圧縮空気の空気圧を、トランスデューサ8により模擬血液における拍動に変換することで、模擬血管19を脈動させる。このため穿刺手技訓練装置1は、人体の動脈の脈拍を忠実に再現することができる。
【0048】
特に模擬血管19は、人体の橈骨動脈を模して柔軟に形成するようにした。このため模擬血管19は、模擬血液の拍動により人体と同様に外部から触診して脈動が感じられる程度に脈動する。
【0049】
このため訓練者は、模擬皮膚23を触診することにより、当該模擬皮膚23の内部において脈動している模擬血管19を、触覚を頼りに捕えることができる。
【0050】
また穿刺手技訓練装置1では、加圧バッグ15により模擬血液に圧力を加えることで模擬血液に擬似血圧を発生させるようにした。このため穿刺手技訓練装置1は、人体の動脈の血圧を忠実に再現することができる。
【0051】
これにより穿刺手技訓練装置1は、訓練者が模擬血管19に対する穿刺に成功した場合模擬血液をフラッシュバックさせることができるため、臨床現場における血管に対する穿刺を忠実に再現することができる。
【0052】
また穿刺手技訓練装置1は血液チューブ12の先端に接続部18を介して模擬血管19が着脱自在に接続されるようにした。
【0053】
これにより穿刺手技訓練装置1は、一度穿刺手技訓練に模擬血管19を使用した場合、当該模擬血管19のみを交換して、次の穿刺手技訓練を行わせることができる。
【0054】
以上の構成によれば、穿刺手技訓練装置1は、吸送気部2から間欠的に送出された圧縮空気の空気圧を、トランスデューサ8により模擬血液における拍動に変換することで、動脈に模し柔軟に形成された模擬血管19を脈動させる。また穿刺手技訓練装置1は、加圧バッグ15により模擬血液に圧力を加えることで模擬血液に擬似血圧を発生させるようにした。このため穿刺手技訓練装置1では、人体の動脈の脈拍及び血圧を忠実に再現することができるため、訓練者に対し、触診において動脈の脈動を頼りに当該動脈の位置を捕える訓練を行わせることができる。
【0055】
[1−4.他の実施の形態]
なお上述した実施の形態においては、血液チューブ12の先端に1本の模擬血管19を接続する場合について述べた。
【0056】
本発明はこれに限らず、図3に示す穿刺訓練装置101のように、2本の模擬血管19が接続され、当該模擬血管19それぞれに模擬手首20が配置されても良く、また3本以上の模擬血管が接続され、それらの模擬血管それぞれに模擬手首が配置されても良い。
【0057】
これにより、複数人の訓練者が同時に訓練を行うことができ、穿刺手技訓練の行う際の効率を向上させることができる。
【0058】
また、複数本の模擬血管19を接続した場合、接続部18によりどの模擬血管19に模擬血液を流すかを選択しても良い。
【0059】
また上述した実施の形態においては、トランスデューサ8として一般的な血圧トランスデューサを用い、本来の血圧トランデューサの使用方法である、血圧から空気圧への変換ではく、逆に空気圧を血圧に変換するように利用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、空気圧を水圧として伝達可能な機器であればよい。
【0060】
さらに上述した実施の形態においては、加圧バッグ15を用いて模擬血液を加圧する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、模擬血液を加圧できる機器であればよい。
【0061】
さらに上述した実施の形態においては、橈骨動脈を模して模擬血管19を成形する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば大腿動脈等を模して成形しても良い。要は血管の脈動を頼りに穿刺が行われる動脈であれば良い。
【0062】
さらに上述した実施の形態においては、空気ポンプ4から空気を送出することにより空気チューブ3内部の空気圧を高める場合について述べたが、本発明はこれに限らず、空気ポンプ4により空気を吸引することにより空気圧を低くしても良い。要は、空気チューブ3内部の空気圧を変化させることにより、トランスデューサ8を介して模擬血液を拍動させ、模擬血管19を脈動させることができれば良い。
【0063】
さらに上述した実施の形態においては、気圧変化部としての吸送気部2と、圧力伝達部としてのトランスデューサ8と、模擬血管としての模擬血管19と、模擬皮膚としての模擬皮膚23とによって穿刺手技訓練装置としての穿刺手技訓練装置1を構成する場合について述べた。
【0064】
しかしながら本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる気圧変化部と、圧力伝達部と、模擬血管と、模擬皮膚とによって穿刺手技訓練装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、触診しながら動脈に対する穿刺を行う穿刺手技を訓練する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1、101……穿刺手技訓練装置、2……吸送気部、3……空気チューブ、4……空気ポンプ、5……電磁弁、6……リーク弁、7……コントローラ、8……トランスデューサ、9……空気室、10……ドーム、11……隔壁、12……血圧チューブ、13……輸液ソフトバッグ、14……ポンプ、15……加圧バッグ、17……圧力モニタ、18……接続部、19……模擬血管、20……模擬手首、21……台部、22……蓋部、23……模擬皮膚、24……固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠的に気体の気圧を変化させる気圧変化部と、
上記気体の気圧を模擬血液の水圧に伝達する圧力伝達部と、
上記圧力伝達部に対し一端が接続されると共に他端が閉塞し、内部が上記模擬血液で満たされ上記水圧の変化により外形が変化する模擬血管と、
上記模擬血管を覆う模擬皮膚と
を有する穿刺手技訓練装置。
【請求項2】
上記模擬血管と接続され上記模擬血管内部に所定の圧力を加えることにより上記模擬血液に疑似的な血圧を発生させる血圧発生部を
さらに有する
請求項1に記載の穿刺手技訓練装置。
【請求項3】
上記模擬血管は、上記圧力伝達部に対し複数本接続される
請求項1に記載の穿刺手技訓練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−168262(P2012−168262A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27408(P2011−27408)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】