説明

穿刺採血具及び穿刺採血具の製造方法

【課題】 毛細管の血液を簡単に、しかも確実に採取することができる穿刺採血具及び該穿刺採血具の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る穿刺採血具は、内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺部を有する金属製の採血具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査を行うために血液を採取する場合、通常、採血針を用いて静脈又は動脈から血液が採取される。
そして、静脈や動脈からの血液の採取が難しい場合や、乳児などのように採血針を用いた採血の難しい場合には、毛細管から血液が採取される。また、この他に、近年、慢性疾患患者の自己モニタリングや健康人の自己の健康管理を目的とした臨床検査ために毛細管血液を使用した臨床検査が普及しつつある。
毛細管の血液は、通常、穿刺具とキャピラリ管等のような採血具とを使用して採血される。
穿刺具は血液を採取する際に皮膚に傷を付けて血液を取り出すために使用される金属製の針であり、金属材料を研磨処理して製造されている。
穿刺具により皮膚に傷を付けて出血させ、出血した部分にキャピラリ管等の採血具を接触させることにより、毛細管現象で血液が採血具に採取される。
しかし、このように穿刺具を用いて出血させた後に、採血具を用いて出血部位から血液を採取する従来の方法は、出血させた後に穿刺具を採血具に持ち替えて採血をしなければならないので採血ミスや感染等の問題が発生する。
特に、この採血を、慢性疾患患者の自己モニタリングや健康人の自己の健康管理のために患者自身が行う場合、採血に慣れていないため出血時に慌ててしまい、採血すべき血液が皮膚から流れて採血具による採血が出来なくなったり、また、衣服等を汚してしまう可能性がある。また、出血後は血液の汚染を防ぐために出来るだけ早く採血具により採血することが望ましいが、採血に慣れていない患者に出血後に素早く穿刺具を採血具に持ち替えて採血を行うことを望むのは酷である。
上記した問題点を解決するために、穿刺針と採血具とを一体的に構成した採血器が既に提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3313209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した従来の採血器は、構造が非常に複雑であり、製造に時間がかかり、また、製造コストの高いため製品価格が高くなるという問題がある。特に、慢性疾患患者の自己モニタリングや健康人の自己の健康管理のために患者自身が採血を行う場合、製品価格の高さは重大な問題である。
また、構造が複雑であると、故障が起こりやすいという問題がある。患者自身が使用することを考えると、故障時に直ぐに修理ができないため、故障が起こりやすい複雑な構造は望ましくない。
発明者等は、上記した従来の様々な問題点に鑑みて、穿刺具と採血具とを用いた毛細管の血液の採取について鋭意研究を重ね、簡単な構造で、安価に製造することができる穿刺具と採血具とを一体化した穿刺採血具を発明するに至った。
本発明は、毛細管の血液を簡単に、しかも確実に採取することができる穿刺採血具及び該穿刺採血具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために本発明に係る穿刺採血具は、内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に設けたことを特徴とする。
管状本体の材料は金属製であれば、いずれであってもよく、例えばステンレス鋼を含む鉄鋼材料、アルミニウム、銅、チタンのような非鉄金属の構造材料、ニッケル、コバルト、モリブデンのような耐熱材料、鉛、錫のような低融点金属材料、金、銀、白金のような貴金属材料およびこれらの合金であり得る。
また、管状本体の全長は、採血すべき血液の量に応じて任意に決めることができる。
さらに、管状本体の厚みは、要求される強度と材料自体の強度とを勘案して適宜選択することができる。
前記穿刺部の管状本体の開口端面からの長さは、好ましくは、2mm以下である。
また、前記穿刺部の先端角度は20°以下であることが望ましい。
また、本発明に係る穿刺採血具の製造方法は、少なくとも、一方の面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下の金属製薄板材料から、穿刺部を含む管状本体の展開図に相当する形状の金属製の薄板基板を打ち抜き成形し、前記薄板基板を、絞り加工により管状形状に巻き込むことにより、内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に備えている穿刺採血具を製造することを特徴とする。
好ましくは、一枚の金属製薄板材料から、複数毎の薄板基板が同時に打ち抜き成形され得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る穿刺採血具は、内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に設けているので、穿刺具と採血具とを持ち替える必要なく採血を行うことができる。この穿刺採血具は、穿刺具として好適な材料である金属で形成されているので、従来の穿刺具と同様に簡単に出血させることができ、かつ、採血具として好適な内表面の表面粗さと内径とを有しているので、出血後に効率よく血液を採取することができる。
また、穿刺部の管状本体の開口端面からの長さを2mm以下にすることにより、指先等に刺した穿刺部を抜くと同時に出血した血液が管状本体に接触して採血を開始することができる。これにより、出血部位に再度、穿刺採血具を近づけて採血するという作業が必要なく、また、出血と同時に採血を行うので血液が汚染される危険も少ない。
さらに、前記穿刺部に、管状本体の内面と面一の面を設け、この面に穿刺部の先端から管状本体の開口面にかけて、連続的に深くなる案内溝を設けることにより、穿刺部を指先等に刺したままの状態で、前記案内溝を通って血液を管状本体に導入することが可能になる。
また、本発明に係る穿刺採血具の製造方法は、少なくとも、一方の面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下の金属製薄板材料から、穿刺部を含む管状本体の展開図に相当する形状の金属製の薄板基板を打ち抜き成形し、前記薄板基板を、絞り加工により管状形状に巻き込むことにより、内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に備えている穿刺採血具を製造するので、採血針の製造等に用いられてきた引き抜き加工のように内表面の表面粗さの最大高低差が大きくなるという問題がなく、穿刺具に好適な金属材料を使いながら、採血具として好適な表面粗さを得ることが可能になる。
また、金属製薄板材料から、穿刺部を含む管状本体の展開図に相当する形状の金属製の薄板基板を打ち抜き成形したものを絞り加工で仕上げるので、製造が容易であり、簡単に大量生産をすることができる。例えば、一枚の金属製薄板材料から、複数毎の薄板基板が同時に打ち抜き成形することにより、同時に多数の薄板基板を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面に示した一実施例を参照して本発明に係る穿刺採血具及び穿刺採血具の製造方法の実施の形態について説明していく。
【0008】
図1(a)及び(b)は、本発明に係る穿刺採血具の一実施例の概略側面図及び概略正面図を示している。
この穿刺採血具1は、外径が1.3mm、内径が1.0mmの金属製の管状本体2から成る。
この管状本体2の内表面の表面粗さの最大高低差は3μm以下、好ましくは、2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。ここで、表面粗さの最大高低差(Rf)とは、JISB−0601−1994により、Ry (最大高さ)とも呼ばれ、基準長さについての、平均線に対する最大山頂から最低谷底までの高さをいう。
前記管状本体2の一方の開口端2aには、開口端面より前方に突出する穿刺部3が一体的に設けられている。
この穿刺部3は、先端角度が20°以下になるように切削又は研磨加工によりテーパ−状に加工されている。穿刺部3の管状本体の開口端面からの長さTは2mmである。
【0009】
次に、上記した穿刺採血具1の製造方法について図2(a)〜(c)を参照して説明する。
始めに適当な金属製薄板材料から、穿刺部3を含む管状本体2の展開図に相当する形状の金属製の薄板基板2’をプレス加工等で打ち抜く。図2(a)に薄板基板2’の概略上面図を示す。
次に、薄板基板2’を凸型4及び凹型5でプレスして、薄板基板2’をU字状に変形させる(図2(b)参照)。
最後に、U字状に変形した薄板基板2’を、さらに凹型5及び凹型6でプレスして薄板基板2’を管状にし、最後に、合せ面を溶接等により接合して穿刺部3を備えた管状本体2が完成する(図2(c)参照)。
穿刺部3の切削又は研磨加工は、薄板基板2’の状態で行ってもよく、管状本体2の状態で行ってもよい。
【0010】
次に、上記したように構成された穿刺採血具1の作用について図3を参照しながら説明する。
使用者は、一方の手で穿刺採血具1を持ち(図3(a))、他方の手の指先7に穿刺採血具1の穿刺部3を突き刺す(図3(b))。
次に、穿刺部3を抜き始める、それに伴って、穿刺部3を突き刺した部分から血液が出血する。そして、穿刺部3を完全に抜いた状態にすると、出血した血液が管状本体2の開口2aに接触し、そのまま毛細管現象で管状本体2に吸い上げられる(図3(c))。
上記した実施例では、穿刺部3の長さを2mmにしているため、穿刺部3を完全に抜いた状態において、指先7と管状本体2の開口2aとの間の距離は2mmになる。このように、穿刺部3を完全に抜いた状態において、指先7と管状本体2の開口2aとの間の距離を短くすることができるため、穿刺部3を完全に抜いた直後に、血液を管状本体2に吸い上げることができる。
【0011】
次に、本発明に係る穿刺採血具の第二実施例について説明する。
図4(a)〜(c)は、本発明に係る穿刺採血具の第二実施例の概略側面図、概略正面図、穿刺部3の概略断面図を示している。
第1実施例と同じ構成部材及び第1実施例と類似の構成部材には、第1実施例と同じ符号を付す。
この穿刺採血具1は、金属製の管状本体2から成る。
そして、この管状本体2の一方の開口端2aには、開口端面より前方に突出する穿刺部3が一体的に設けられている。
この穿刺部3は、先端角度が20°以下になるように切削又は研磨加工によりテーパ−状に加工されている。穿刺部3の管状本体の開口端面からの長さTは2mmである。
前記穿刺部3には、図4(c)に示すように、先端から管状本体の開口面にかけて、連続的に深くなる案内溝3aが設けられている。
このように穿刺部3に案内溝3aを設けることにより、指先に穿刺部3を刺したままの状態で案内溝3aを介して管状本体2に血液を吸い上げることが可能になる。
【0012】
次に、本発明に係る穿刺採血具の第三実施例について説明する。
図5(a)及び(b)は、本発明に係る穿刺採血具の第三実施例の概略側面図、概略正面図を示している。
第1実施例と同じ構成部材及び第1実施例と類似の構成部材には、第1実施例と同じ符号を付す。
この穿刺採血具1は、金属製の管状本体2から成る。
そして、この管状本体2の一方の開口端2aには、開口端面より前方に突出する穿刺部3が一体的に設けられている。
前記穿刺部3は、管状本体2の開口2aの内側に位置するように設けられている。
上記した穿刺採血具1は、図6に示すように、薄板基板2’を形成した後、又は形成する時に、穿刺部3に相当する部分をプレス加工等により内側に凹ませることで製造することができる。
【0013】
次に、本発明に係る穿刺採血具の第四実施例について説明する。
図7は、本発明に係る穿刺採血具の第四実施例の概略側面図を示している。
この穿刺採血具1は、金属製の管状本体2から成る。
この管状本体2は、一端に向けて先細になるようテーパ−状に構成されており、先細にされた端部が、斜めに切断されている。そして、これにより、開口2aより前方に突出する部分が、穿刺部3として作用する。
【0014】
上記した実施例では、全て直管の管状本体を例に挙げて説明しているが、管状本体の形状は本実施例に限定されることなく、効率的に毛細管現象で血液を吸上げることができる形状であれば任意の形状でよい。
上記した実施例で挙げた寸法は、単なる一例であり、特許請求の範囲に限定した範囲内であれば如何なる寸法でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)及び(b)は、本発明に係る穿刺採血具の一実施例の概略側面図及び概略正面図である。
【図2】(a)は薄板基板2’の概略上面図を、(b)及び(c)は製造工程を示す図である。
【図3】(a)及び(b)は、図1に示した穿刺採血具の作用を示す図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明に係る穿刺採血具の第二実施例の概略側面図及び概略正面図であり、(c)は穿刺部3の概略断面図である。
【図5】(a)及び(b)は、本発明に係る穿刺採血具の第三実施例の概略側面図及び概略正面図である。
【図6】第三実施例の穿刺採血具を製造するための薄板基板2’を示す図である。
【図7】本発明に係る穿刺採血具の第四実施例の概略側面図である。
【符号の説明】
【0016】
1 穿刺採血具
2 管状本体
2a 開口
2’ 薄板基板
3 穿刺部
3a 案内溝
4 凸型
5 凹型
6 凹型
7 指先
T 穿刺部の長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、
前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に設けた
ことを特徴とする穿刺採血具。
【請求項2】
前記穿刺部の管状本体の開口端面からの長さが、2mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の穿刺採血具。
【請求項3】
前記穿刺部の先端角度が20°以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の穿刺採血具。
【請求項4】
前記穿刺部が、管状本体の内面と面一の面を有する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の穿刺採血具。
【請求項5】
前記穿刺部が管状本体の内面と面一の面を有し、この面に穿刺部の先端から管状本体の開口面にかけて、連続的に深くなる案内溝を設けた
ことを特徴とする請求項4に記載の穿刺採血具。
【請求項6】
管状本体の一方の端部を構成する側壁の一部が、該端部の開口端面より前方に鋭角に突出するように構成し、この鋭角に突出した側壁が穿刺部を構成する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の穿刺採血具。
【請求項7】
前記管状本体が、一方の端部に向けて先細になるようテーパー状に構成されている
ことを特徴とする請求項6に記載の穿刺採血具。
【請求項8】
穿刺部を含む管状本体の展開図に相当する形状の金属製の薄板基板を、絞り加工により管状形状に巻き込むことにより製造される
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の穿刺採血具。
【請求項9】
前記薄板基板が、金属製薄板材料からプレス加工で打ち抜き成形される
ことを特徴とする請求項8に記載の穿刺採血具。
【請求項10】
少なくとも、一方の面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下の金属製薄板材料から、穿刺部を含む管状本体の展開図に相当する形状の金属製の薄板基板を打ち抜き成形し、
前記薄板基板を、絞り加工により管状形状に巻き込むことにより、
内表面の表面粗さの最大高低差(Rf)が3μm以下で、内径が2.0mm以下であり、かつ、両端が開口している金属製の管状本体から成り、前記管状本体の一端に、開口端面より前方に突出する少なくとも一つの鋭角な穿刺部を一体的に備えている穿刺採血具を製造する
ことを特徴とする穿刺採血具の製造方法。
【請求項11】
一枚の金属製薄板材料から、複数毎の薄板基板が同時に打ち抜き成形される
ことを特徴とする請求項10に記載の穿刺採血具の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−122302(P2006−122302A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313686(P2004−313686)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(591086854)株式会社テクノメデイカ (50)
【Fターム(参考)】