説明

穿刺装置

【課題】穿刺位置を容易に確認することができる穿刺装置を得る。
【解決手段】縫合糸導入用針1と、縫合糸導入用針1より所定距離離隔して、ほぼ平行に設けられたループ導入用針2と、縫合糸導入用針1とループ導入用針2とを軸方向に摺動可能に支持する先端側支持部4と、腹壁を凹ませる円筒突起6と、を備え、円筒突起6は、先端側支持部4における縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の挿通位置の間に設けられ、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2を最も基端側に移動させた状態において縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の針先よりも先端側に突出するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃や膀胱等の内臓壁と腹壁とを縫合するための複数の穿刺針を患者の体に穿刺する際に使用される穿刺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG;Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)により胃瘻を造設する場合などには、患者の腹壁と内臓壁とを貫通する貫通孔を形成する必要がある。そして、この貫通孔の形成を容易に行うため、動きやすい内臓壁を腹壁に固定すべく縫合する技術が提案されている。
【0003】
従来、内臓壁と腹壁との縫合に使用される医療用器具として、「縫合糸挿入用穿刺針と、該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して、ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と、該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入されたスタイレットと、前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり、前記スタイレットは、先端に弾性材料により形成され、前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており、さらに、該環状部材は、前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき、前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が、該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる医療用器具」というものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平06−24533号公報(第3頁、第4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような医療用器具を使用する際には、胃壁と腹壁とを固定可能な位置に針を穿刺しなければならないが、胃壁と腹壁とは離れているため、体表側から腹壁に穿刺した針が胃壁に刺さらないこともある。このため、術者は、針を穿刺する前に穿刺部位を確認する手技を行うのが一般的である。具体的には、胃内に内視鏡を挿入した状態で体表側を指で圧迫し、指での圧迫により胃壁が凹んだ位置を内視鏡画像で確認して(指サイン)、穿刺部位を確認する。
そして、指サインで穿刺部位を確認した位置・方向で、特許文献1に記載のような医療用器具をセットして針を穿刺する。
【0006】
しかしながら、指サインで穿刺部位を確認した後に、いったん指サインを外して医療器具をセットすると、確認した穿刺部位と実際の穿刺部位とにずれが生じ、目的の位置に穿刺できないおそれがあった。また、一方の手で指サインをした状態を保持したまま、医療用器具による穿刺を行うとすると、作業性が悪く、術者の指を誤穿刺してしまうおそれもある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、穿刺位置を容易に確認することができる穿刺装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る穿刺装置は、縫合糸導入用針と、前記縫合糸導入用針より所定距離離隔して、ほぼ平行に設けられたループ導入用針と、前記縫合糸導入用針と前記ループ導入用針とを軸方向に摺動可能に支持する先端側支持部と、腹壁を凹ませる押圧部と、を備え、前記押圧部は、前記先端側支持部における前記縫合糸導入用針及び前記ループ導入用針の挿通位置の間に設けられ、前記縫合糸導入用針及び前記ループ導入用針を最も基端側に移動させた状態において前記縫合糸導入用針及び前記ループ導入用針の針先よりも先端側に突出するように設けられているものである。
【0009】
本発明に係る穿刺装置の押圧部は、前記先端側支持部に対して着脱可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る穿刺装置によれば、縫合糸導入用針とループ導入用針とを穿刺する前に、先端側支持部に設けた押圧部で体表側を押圧することで、術者の指により行う指サインと同等の機能を実現できる。このため、穿刺部位を容易に確認できる。また、術者は、押圧部により体表側を押圧して穿刺部位を確認した後は、その状態を保持したまま縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とを穿刺できるので、作業性がよい。また、術者の指により指サインを行わなくてよいので、術者の指を誤穿刺することもない。
【0011】
本発明に係る穿刺装置によれば、押圧部を先端側支持部に対して着脱可能に設けたので、押圧による穿刺部位の確認が不要な場合には押圧部を取り外しておくことができる。このため、押圧部が術者の操作の妨げとならず、作業性を損なうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に係る縫合具の外観図である。
【図2】実施の形態1に係る縫合具の穿刺針を突出させた状態の外観図である。
【図3】実施の形態1に係る縫合具の円筒突起を取り外した状態を説明する要部拡大図である。
【図4】実施の形態1に係る縫合具の円筒突起を説明する図である。
【図5】実施の形態1に係る縫合糸取出ループを説明する図である。
【図6】実施の形態1に係る縫合具の使用状態を説明する図である。
【図7】実施の形態2に係る縫合具の円筒突起を説明する図である。
【図8】実施の形態2に係る縫合具の円筒突起を取り外した状態を説明する要部拡大図である。
【図9】実施の形態2に係る縫合具の円筒突起の着脱構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
本実施の形態1では、本発明の穿刺装置を、胃壁と腹壁とを縫合糸(臓器固定具)により固定する際に用いられる縫合具に適用した場合を例に説明する。
【0014】
[縫合具]
図1は、実施の形態1に係る縫合具100の外観図である。図2は、実施の形態1に係る縫合具の穿刺針を突出させた状態の外観図である。
図1に示すように、縫合具100は、縫合糸導入用針1と、ループ導入用針2と、基端側支持部3と、先端側支持部4と、ガイド棒5a、5b(以下、ガイド棒5と総称する場合がある)とを備える。
【0015】
縫合糸導入用針1は、内腔を有し、その内腔に縫合糸11(図6参照)を軸方向に移動可能に収容する針である。縫合糸導入用針1は、例えばステンレス等の金属で形成されている。縫合糸導入用針1は、皮膚への穿刺用の刃面を先端に有している。この刃面は、縫合糸導入用針1の軸心と斜めに交差する面として形成されている。特に限定するものではないが、縫合糸導入用針1は、その先端開口がループ導入用針2の方向に向かうようにして、基端側支持部3に取り付けられるのが好ましい。
【0016】
なお、縫合糸導入用針1は、皮膚への穿刺と縫合糸11の挿入ができればよく、形状を特に限定するものではない。例えば、縫合糸導入用針1としては、外径が21〜17G(好ましくは20〜18G)程度、長さが50mm〜120mm(好ましくは70〜90mm)程度のものを利用するとよい。
【0017】
ループ導入用針2は、内腔を有し、その内腔に縫合糸取出ループ12(図5にて後述する)を軸方向に移動可能に収容する針である。ループ導入用針2は、例えばステンレス等の金属で形成されている。ループ導入用針2は、皮膚への穿刺用の刃面を先端に有している。この刃面は、ループ導入用針2の軸心と斜めに交差する面として形成されている。ループ導入用針2は、その先端開口が縫合糸導入用針1の方向に向かうようにして、基端側支持部3に取り付けられるのが好ましい。
【0018】
基端側支持部3は、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の基端を固定支持するとともに、ガイド棒5を軸方向に摺動可能に支持する機能を有している。基端側支持部3は、略直方体の外郭を有しており、ガイド棒5が摺動可能に挿入されるガイド棒貫通穴31a、31bが形成され、また、左右一対の操作板32a、32bが設けられている。操作板32a、32bは、それぞれ、基端側支持部3から左右側方に向かって延びる平板状の部材であり、その平面形状(図示せず)は、術者が指で押圧することができるような大きさ及び形を有している。なお、本実施の形態では、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の基端が基端側支持部3に固定支持されるものとして説明するが、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2は基端側支持部3に支持される構成であればよく、例えば脱着可能であってもよい。
【0019】
また、基端側支持部3には、縫合糸導入用針1の内腔と連通する連通孔33aと、ループ導入用針2の内腔と連通する連通孔33bが設けられている。連通孔33a、33bは、それぞれ、基端側支持部3の上面に開口部を有しており、この開口部を介して、縫合糸11又は縫合糸取出ループ12が連通孔33a、33bに挿入される。さらに、連通孔33a、33bを介して、縫合糸11、縫合糸取出ループ12が縫合糸導入用針1、ループ導入用針2に挿入される。なお、連通孔33a、33b内に、縫合糸導入用針1、ループ導入用針2の基端部を挿入する構成としてもよい。
【0020】
先端側支持部4は、ガイド棒5a、5bの先端を固定支持するとともに、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2を軸方向に摺動可能に支持する機能を有している。先端側支持部4は、ほぼ平板形状を有し、縫合糸導入用針1が摺動可能に挿入される針貫通穴41aと、ループ導入用針2が摺動可能に挿入される針貫通穴41bとが形成されている。なお、針貫通穴41a、41bの内径は、必ずしも針貫通穴41a、41bの内周面が縫合糸導入用針1、ループ導入用針2の外周面と接するような寸法関係で構成されていなくてもよく、術者の操作に支障がない程度に縫合糸導入用針1、ループ導入用針2の揺動を抑制できる寸法関係で構成されていればよい。また、先端側支持部4は、縫合糸導入用針1、ループ導入用針2による穿刺方向をガイドするよう縫合糸導入用針1、ループ導入用針2を支持可能な構成であればよく、必ずしも両針が摺動可能に挿入される針貫通穴41a、41bを設ける必要はない。例えば、針貫通穴41a、41bに代えて、縫合糸導入用針1、ループ導入用針2の穿刺方向に沿った溝を先端側支持部4の側面に設けてもよい。また、本実施の形態では、ガイド棒5a、5bの先端が先端側支持部4に固定支持されるものとして説明するが、ガイド棒5a、5bは基端側支持部3に支持される構成であればよく、例えば脱着可能であってもよい。
【0021】
縫合糸導入用針1とループ導入用針2は、基端側が基端側支持部3に固定されるとともに、先端側が先端側支持部4に摺動可能に支持される。縫合糸導入用針1とループ導入用針2は、基端側支持部3と先端側支持部4とにより、所定距離離隔してほぼ平行に保持される。また、先端側と基端側とが基端側支持部3と先端側支持部4とに保持されることにより、縫合糸導入用針1とループ導入用針2のたわみが抑制される。
【0022】
ガイド棒5aの基端側には、把持部51が設けられている。把持部51は、術者がガイド棒5aを把持しやすくするために設けられた部材であり、本実施の形態1では、2本の指で摘むことができる平板状の部材として設けられている。なお、この把持部51の形状は特に限定するものではなく、また、把持部51を設けない構成とすることもできる。
【0023】
図2に示すように、術者が、ガイド棒5aの把持部51を一方の手で把持した状態で操作板32を押し下げると、基端側支持部3に固定された縫合糸導入用針1とループ導入用針2が、軸方向先端側に移動して、先端側支持部4から突出する。
また、図1に示すように、操作板32を最も基端側まで引き寄せると、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の針先は、先端側支持部4内に収納され、先端側支持部4から突出しない状態となる。
【0024】
先端側支持部4には、円筒突起6が設けられている。円筒突起6は、患者の腹壁及び内臓壁を体表側から押圧したときに腹壁及び内臓壁を凹ませるための押圧部である。円筒突起6は、先端側支持部4に対し、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の突出する方向と同じ方向に突出するように設けられている。
図1に示すように、操作板32を最も基端側まで引き寄せて縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の針先を先端側支持部4内に収納した状態では、円筒突起6の先端は縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の針先よりも先端側に突出した状態となる。
また、図2に示すように、縫合糸導入用針1とループ導入用針2の針先を先端側支持部4から所定距離だけ突出させると、縫合糸導入用針1とループ導入用針2の針先は円筒突起6の先端部よりも先端側に位置することができる。
【0025】
図3は、実施の形態1に係る縫合具の円筒突起を取り外した状態を説明する要部拡大図である。また、図4は、実施の形態1に係る縫合具の円筒突起を説明する図である。なお、図4(A)は円筒突起の正面図、図4(B)は円筒突起の平面図、図4(C)は円筒突起の斜視図である。
【0026】
図3に示すように、先端側支持部4は、円筒突起6を着脱可能に取り付けるための突起取付部42を有している。本実施の形態1では、突起取付部42は、2本の軸部43a、43bと、軸部43a、43bの先端において拡径するつば状の拡径部44a、44bとを備える。また、軸部43a、43bと拡径部44a、44bの内部には、針貫通穴41a、41bが形成されている。
【0027】
図4に示すように、円筒突起6は、突起部61と、一対の嵌合部62a、62bと、つかみ部63とを備える。
突起部61は、先端が半球状に形成された有底円筒部材である。突起部61の大きさ及び形状は特に限定するものではないが、突起部61により患者の腹部等の体表を押圧したときに、患者に痛みを与えにくく、かつ、内臓内に挿入された内視鏡で突起部61の押圧による内臓壁の凹みを確認できる程度の硬さを有するものとする。突起部61は、硬質または半硬質のプラスチックにより構成するのが好ましく、例えば、ポリプロピレン、ABS、ポリウレタン等により構成することができる。また、突起部61の先端部を、肌当たりを良くするための軟らかい部材で構成してもよい。
【0028】
嵌合部62a、62bは、平面視ではリング状の部材の一部を開放した略C字形状を有する部材である。嵌合部62a、62bは、弾性力を有する合成樹脂等で構成されており、嵌合部62a、62bの開放部が径方向に弾性変形することで、軸部43a、43bに対して着脱可能である。
【0029】
つかみ部63は、円筒突起6を突起取付部42に対して取り付けあるいは取り外しするときに使用される操作部であり、術者が指でつかむことが可能な大きさ及び形状に構成されている。本実施の形態1では、つかみ部63は、嵌合部62a、62bの着脱方向と同じ方向に延びる棒状に形成されている。
【0030】
円筒突起6を突起取付部42に対して取り付ける際には、術者が、つかみ部63をつかみ、嵌合部62a、62bの開放部を軸部43a、43bに押し当てる。そうすると、嵌合部62a、62bが弾性変形してその開放部が広がり、軸部43a、43bが嵌合部62a、62bに嵌合される。軸部43a、43bの先端に設けられた拡径部44a、44bにより、嵌合部62a、62bの落下を防ぐことができる。
円筒突起6を突起取付部42から取り外す際には、術者が、つかみ部63をつかみ、手前側に引っ張る。そうすると、嵌合部62a、62bが弾性変形してその開放部が広がり、軸部43a、43bが嵌合部62a、62bから抜ける。
このように、つかみ部63をつかんで押し当てあるいは引っ張ることで、突起取付部42に対して円筒突起6を容易に着脱できる。
【0031】
次に、縫合糸取出ループ12について説明する。図5は、実施の形態1に係る縫合糸取出ループを説明する図である。
縫合糸取出ループ12は、ループ導入用針2の内腔に軸方向に移動可能に挿入されて使用される。縫合糸取出ループ12は、ループ導入用針2の内腔内を移動可能な細径の軸部121と、軸部121の先端に設けられた環状のループ122と、軸部121の基端側に設けられた操作部123とを備える。ループ122の平面視の形状は、略円形の環状である。ループ122は、可撓性を有する材料により構成されており、ループ導入用針2の内部に挿入された状態では、ほぼ直線状に変形してループ導入用針2の内腔に収容されるが、ループ導入用針2の先端から送り出された状態(外力が加わっていない状態)では環状に復元する。
【0032】
使用状態において、後述する図6(C)に示すように、ループ122の内部には縫合糸11が挿入される。このため、ループ導入用針2の先端から送り出されたループ122の内部に、縫合糸導入用針1の先端から送り出された縫合糸11がより確実に挿入されるよう、ループ122の延びる方向と大きさとが設定されている。例えば、縫合糸導入用針1の延長線上にループ122の中心が位置するような大きさでループ122を形成すると、縫合糸導入用針1から送り出された縫合糸11がより確実にループ122内に挿入される。また、例えば、体外側にいる術者がループ122が延びる方向を把握できるよう、軸部121に対してループ122が延びる方向と一致するような印を、操作部123に設けてもよい。また、ループ122がループ導入用針2の先端から確実に突出していることを体表側にいる術者が把握できるよう、後述する図6(C)の状態において操作部123が基端側支持部3にカチッとはまるような構成(例えば、基端側支持部3に突起を設けるとともに操作部123にこの突起がはまる溝を設ける)を備えていてもよい。
【0033】
ループ122は、変形可能な部材で構成されていればよく、例えばステンレス鋼線(バネ用高張力ステンレス鋼)、ピアノ線(ニッケルメッキあるいはクロムメッキが施されたピアノ線)、または超弾性合金線(チタンとニッケルの合金、銅と亜鉛の合金(あるいは、それにベリリウム、ケイ素、スズ、アルミニウム、ガリウム等を含めた合金)、ニッケルとアルミニウムの合金等)等で構成することができる。
【0034】
軸部121は、金属(例えばステンレス)や合成樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、PTFE,ETFE等のフッ素樹脂)等を用いて構成することができる。この軸部121は、スタイレット等を利用して構成することができる。なお、ループ122を比較的剛性がある材料で構成する場合には、軸部121とループ122とを同じ材質で構成してもよい。この場合、軸部121とループ122とを、一体に構成してもよく、別体で構成してもよい。
【0035】
次に、縫合糸11について説明する。なお、縫合糸11は、縫合具100を構成するものではないが、臓器固定具として機能するものであるので簡単に説明しておく。縫合糸11は、生体内に挿通させたときに生体組織に沿って撓ることができる程度の柔軟性と、臓器を吊り上げ可能な程度の引っ張り強度とを有する材料(例えば、ナイロン糸等)で構成されている。また、縫合糸11は、患者に取り付けあるいは取り外す際に切断される。このため、縫合糸11は、ハサミ等の医療現場に備えられている道具で切断可能な材料及び径寸法で構成するのが好ましい。また、縫合糸11は、その先端が縫合糸導入用針1の針先まで挿入されるとともに、基端側は縫合糸導入用針1の基端から所定長さだけ飛び出した状態となるよう、縫合糸導入用針1に収容されて使用される。
【0036】
[縫合具の使用状態]
次に、実施の形態1に係る縫合具100の使用状態を説明する。図6は、実施の形態1に係る縫合具の使用状態を説明する図であり、図6(A)〜(E)は順に、縫合糸11による縫合手順を示している。ここでは、縫合具100を用いて、患者の腹壁102と胃壁101とを縫合する場合を例に説明する。
【0037】
まず、術者は、患者の口または鼻から胃内に内視鏡を挿入する。次に、術者は、内臓内に十分に気体(例えば二酸化炭素)を供給して内臓を膨張させる。これにより、胃壁101が腹壁102に密着する。次に、縫合糸導入用針1及びループ導入用針2で穿刺しようとする箇所を含め、皮膚103を消毒する。それから、内視鏡から放たれる光により内臓の位置を確認し、この部位に局所麻酔を行う。
【0038】
ここで、穿刺前の縫合具100の状態について説明する。
縫合具100は、縫合糸取出ループ12のループ122がループ導入用針2の内部に収納され、縫合糸11が縫合糸導入用針1の内部に収納された状態である。このとき、縫合糸11は、縫合糸導入用針1の先端から突出しないように縫合糸導入用針1の内部に収納されている。また、先端側支持部4から縫合糸導入用針1及びループ導入用針2の先端が突出しないよう、縫合具100は、基端側支持部3が引き上げられて先端側支持部4と離された状態(図1に示す状態)である。また、円筒突起6は、先端側支持部4の突起取付部42に取り付けられた状態であるものとする。
【0039】
まず、図6(A)に示すように、術者は、円筒突起6の突起部61を患者の皮膚103に押し当て、把持部51を持って縫合具100を適度な力で患者側に押す。このようにすると、把持部51に加えられた力が、ガイド棒5a及びガイド棒5aに固定された先端側支持部4に伝わり、さらに、先端側支持部4に取り付けられた円筒突起6に伝わる。これにより、円筒突起6の突起部61が、腹壁102と胃壁101とを押して凹ませ、胃内に挿入された内視鏡では突起部61に押されたことによる膨らみが確認できる。このようにすることで、術者は、縫合糸導入用針1とループ導入用針2の穿刺部位を確認することができる。
【0040】
図6(B)に示すように、穿刺部位を確認した術者は、突起部61を患者の皮膚103に押し当てて穿刺部位を確認した状態のまま、基端側支持部3を押し下げる。このようにすると、基端側支持部3に取り付けられた縫合糸導入用針1とループ導入用針2が押し下げられ、患者の腹壁102、胃壁101に刺さる。術者は、胃壁101の内部に縫合糸導入用針1とループ導入用針2の先端が突出するまで、基端側支持部3を押し下げる。
【0041】
図6(C)に示すように、胃壁101内に縫合糸導入用針1とループ導入用針2の先端が突出したことを内視鏡で確認した術者は、縫合糸取出ループ12を先端側に向かって押し、ループ導入用針2の先端から縫合糸取出ループ12のループ122を送り出す。ループ導入用針2の先端から送り出されたループ122は、環状に復元する。
次に、術者は、縫合糸11を先端側に向かって送り、縫合糸導入用針1の先端から縫合糸11を突出させる。縫合糸11を先端側に向かって送ることにより、既に胃内に送り出されているループ122の環状部内部に、縫合糸11が挿入される。
【0042】
図6(D)に示すように、ループ122内に縫合糸11が挿入されたことを確認した術者は、縫合糸取出ループ12の操作部123をつかんで手前側に引っ張る。このようにすると、ループ導入用針2の先端から突出していた環状のループ122が、ループ導入用針2の中に引き戻され始め、ループ122内に挿入されている縫合糸11はループ122に係合されてループ導入用針2側に引き寄せられる。
【0043】
図6(E)に示すように、術者がさらに縫合糸取出ループ12を手前側に引き寄せる。このようにすると、縫合糸取出ループ12のループ122とともに縫合糸11の先端部分が、ループ導入用針2の内部に入り込む。
【0044】
図6(E)に示す状態となったところで、術者は、患者の体から縫合糸導入用針1とループ導入用針2とを引き抜く。そうすると、腹壁102及び胃壁101を貫通した縫合糸11の両端が、体表側に露出した状態となる(図示せず)。術者は、露出した縫合糸11の両端を結びつけることで、縫合処理が終了する。
【0045】
以上のように、本実施の形態1の縫合具100によれば、円筒突起6を設けたので、内臓内に挿入した内視鏡により穿刺部位を特定することができ、また、穿刺部位を確認可能な状態のままで縫合糸導入用針1とループ導入用針2とを穿刺することができる。このため、狙った部位をより確実に穿刺することができるので、内臓壁固定の成功率を向上させることができる。
【0046】
また、円筒突起6は、2本の穿刺針(縫合糸導入用針1とループ導入用針2)の間に設けた。このため、双方の針の穿刺部位が、1つの円筒突起6により確認できる。
【0047】
また、本実施の形態1の縫合具100では、円筒突起6を着脱可能に設けたので、円筒突起6による穿刺部位の確認が不要な場合には、円筒突起6を取り外すことができる。このため、不要な場合には円筒突起6が手技の妨げとならず、作業性を損なうこともない。また、嵌合部62a、62bと軸部43a、43bとの嵌合構造及びつかみ部63により、術者は、つかみ部63をつかんで押し込みあるいは引っ張るという簡単な手技で円筒突起6を着脱できる。円筒突起6による押圧方向に対し、つかみ部63を用いた着脱方向は直交する方向であって、両者は一致しない。このため、縫合具100を用いて円筒突起6で患者の腹部を押圧している際、誤って円筒突起6が外れるのを抑制することができる。
【0048】
なお、本実施の形態1における軸部43a、43b及び拡径部44a、44bと同等の構成を円筒突起6に設け、嵌合部62a、62bに相当する構成を先端側支持部4に設ける構成としてもよい。
また、図4では、突起部61を中空に構成した例を図示したが、突起部61を中身の詰まった中実に構成してもよい。
【0049】
また、本実施の形態1では、ガイド棒5aにのみ把持部51を設ける例を示したが、ガイド棒5bにも同様の把持部51を設けてもよい。
また、本実施の形態1では、2本のガイド棒5a、5bを設ける例を示したが、1本のガイド棒5aを、縫合糸導入用針1とループ導入用針2との間に設ける構成とすることもできる。
【0050】
実施の形態2.
本実施の形態2では、円筒突起の着脱構造の他の例を説明する。なお、本実施の形態2では、実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
図7は、実施の形態2に係る縫合具の円筒突起を説明する図であり、図7(A)は円筒突起の正面図、図7(B)は円筒突起の平面図である。
図7に示すように、本実施の形態2の円筒突起7は、突起部71と、縁部72と、係合部73とを備える。
突起部71は、先端が半球状に形成された有底円筒部材である。突起部61の大きさ及び形状は特に限定するものではないが、突起部61により患者の腹部等の体表を押圧したときに、患者に痛みを与えにくく、かつ、内臓内に挿入された内視鏡で突起部61の押圧による内臓壁の凹みを確認できるようなものとする。また、突起部61の先端部を、肌当たりを良くするための軟らかい部材で構成してもよい。
【0052】
縁部72は、突起部71の上端部から径方向外側に向かって張り出すつば状の部分である。この縁部72の外周には、径方向外側に向かって張り出す複数(本実施の形態2では3つ)の係合部73が設けられている。
【0053】
図8は、実施の形態2に係る縫合具の円筒突起を取り外した状態を説明する要部拡大図であり、図8(A)は基端側支持部の近傍の正面図、図8(B)は基端側支持部の平面図である。
図8に示すように、先端側支持部4は、円筒突起7を着脱可能に取り付けるための突起取付部46を有している。本実施の形態2では、突起取付部46は、先端側支持部4に形成された挿入穴47と、挿入穴47の開口縁に設けられた複数(本実施の形態2では3つ)の係止爪48とを備えている。挿入穴47は、突起部71を挿入可能な径を有している。係止爪48は、挿入穴47の縁部分との間で、円筒突起7の縁部72及び係合部73を係止する。
【0054】
図9は、実施の形態2に係る縫合具の円筒突起と、円筒突起の着脱構造を説明する図である。図9(A)に示すように、円筒突起7は、先端側支持部4の上側から挿入穴47に対して挿抜可能である。円筒突起7を取り付ける際には、円筒突起7の突起部71を挿入穴47に挿入し、円筒突起7と先端側支持部4とを円筒突起7の周方向に相対的に回転させ、係合部73を係止爪48に係止させる。このようにすると、図9(B)に示すように、円筒突起7が先端側支持部4に取り付けられる。図9(C)は、円筒突起7を先端側支持部4に取り付けた状態の上面図であり、説明のため係止爪48を網掛け表示している。図9(C)に示すように、上面から見ると係止爪48が上側から係合部73を係止しており、円筒突起7の上下方向の移動を規制している。
【0055】
実施の形態1で説明した円筒突起6と同様に、円筒突起7は、患者の腹壁を押圧する際に使用される。円筒突起7で腹壁を押圧すると、腹壁から円筒突起7に対して上向きの力が加えられるが、円筒突起7の係合部73は係止爪48に係止されているため、円筒突起7が外れることはない。
【0056】
円筒突起7を取り外す際には、円筒突起7と基端側支持部とを円筒突起7の周方向に相対的に回転させ、係止爪48による係合部73の係止を解除する。そして、図9(A)に示すように円筒突起7を上方に抜き出すことで、円筒突起7を先端側支持部4から取り外すことができる。
【0057】
以上のように、円筒突起の着脱構造として実施の形態2で示したものを採用しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
なお、本実施の形態2で示した係止爪48及び係合部73の数は3つに限らないが、係合の強度を高める観点では複数であることが望ましい。
【0058】
また、上記説明では胃壁を腹壁に固定する場合を例に説明したが、膀胱など他の臓器を腹壁に固定する際に用いられる縫合具としても、本発明の穿刺装置を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 縫合糸導入用針、2 ループ導入用針、3 基端側支持部、4 先端側支持部、5 ガイド棒、5a、5b ガイド棒、6 円筒突起、7 円筒突起、11 縫合糸、12 縫合糸取出ループ、31a、31b ガイド棒貫通穴、32 操作板、32a、32b 操作板、33a、33b 連通孔、41a、41b 針貫通穴、42 突起取付部、43a、43b 軸部、44a、44b 拡径部、46 突起取付部、47 挿入穴、48 係止爪、51 把持部、61 突起部、62a、62b 嵌合部、63 つかみ部、71 突起部、72 縁部、73 係合部、100 縫合具、101 胃壁、102 腹壁、103 皮膚、121 軸部、122 ループ、123 操作部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫合糸導入用針と、
前記縫合糸導入用針より所定距離離隔して、ほぼ平行に設けられたループ導入用針と、
前記縫合糸導入用針と前記ループ導入用針とを軸方向に摺動可能に支持する先端側支持部と、
腹壁を凹ませる押圧部と、を備え、
前記押圧部は、
前記先端側支持部における前記縫合糸導入用針及び前記ループ導入用針の挿通位置の間に設けられ、前記縫合糸導入用針及び前記ループ導入用針を最も基端側に移動させた状態において前記縫合糸導入用針及び前記ループ導入用針の針先よりも先端側に突出するように設けられている
ことを特徴とする穿刺装置。
【請求項2】
前記押圧部は、前記先端側支持部に対して着脱可能である
ことを特徴とする請求項1記載の穿刺装置。
【請求項3】
前記縫合糸導入用針と前記ループ導入用針の基端側を保持する基端側支持部を備え、
前記縫合糸導入用針及びループ導入用針と同じ方向に延び、先端側が前記先端側支持部に保持されるとともに、基端側が前記基端側支持部に軸方向に摺動可能に挿通されるガイド棒を備えた
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の穿刺装置。
【請求項4】
前記先端側支持部と前記押圧部のいずれか一方に軸部材を設け、他方に前記軸部材を着脱可能に嵌合させる嵌合部材を設けることにより、前記押圧部を前記先端側支持部に対して着脱可能とした
ことを特徴とする請求項2又は請求項2に従属する請求項3記載の穿刺装置。
【請求項5】
前記押圧部の基端側外周につば状の係合部を設けるとともに、前記係合部を係止させる係止爪を前記先端側支持部に設け、前記押圧部と前記先端側支持部とを前記押圧部の周方向に相対的に回転させることによって、前記押圧部を前記先端側支持部に対して着脱可能とした
ことを特徴とする請求項2又は請求項2に従属する請求項3記載の穿刺装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−231837(P2012−231837A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100883(P2011−100883)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】