説明

窒化アルミニウム含有物の製造方法

【課題】低コストである窒化アルミニウム含有物の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融したアルミニウム20に窒素ガスを供給するガス供給工程と、溶融したアルミニウム20を窒素雰囲気下に位置させ、表面に自然酸化膜を有するアルミニウム粉末21を溶融したアルミニウム20に導入する粉末導入工程と、アルミニウム20を冷却して固化させる固化工程と、を備える。粉末導入工程において、アルミニウム粉末21をアルミニウム20に対して0.01〜5重量%/分の速度で導入するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム含有物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、熱伝導率が高く、熱膨張係数が低く、化学的にも安定であり、優れた性質を有する材料である。このため、近年、半導体デバイス等やエンジン部材等、様々な分野へ応用されることが期待されている。
【0003】
従来、窒化アルミニウムを製造する方法としては、非常に高い気圧(例えば100気圧)の窒素雰囲気中でアルミニウムを高温(例えば1600℃)に加熱する方法がある。この方法によれば、窒化アルミニウムの粉末を得ることができる。非特許文献1には、窒化アルミニウムの製造に関する研究が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小橋眞、斎木健蔵ら、日本軽金属学会第104回講演概要集(2003)2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した方法では、窒化アルミニウムを得るためには高温かつ高圧が必要であった。このため、窒化アルミニウムの製造コストが高くなっていた。また、高温かつ高圧のプロセスを用いる場合、反応炉が複雑になるため、窒化アルミニウムの製造コストがさらに高くなっていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストである窒化アルミニウム含有物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、溶融アルミニウムに窒素ガスを供給するガス供給工程と、
前記溶融アルミニウムを窒素雰囲気下に位置させ、前記溶融アルミニウムを攪拌しながら、表面に自然酸化膜を有するアルミニウム粉末を前記溶融アルミニウムに導入する粉末導入工程と、
前記溶融アルミニウムを冷却して固化させる固化工程と、
を備える窒化アルミニウム含有物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温かつ低圧で窒化アルミニウム含有物を製造することができるため、窒化アルミニウム含有物を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法に用いられる抵抗炉の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法に用いられる抵抗炉の構成図である。この抵抗炉は、反応チャンバー10を有している。反応チャンバー10には排気口16及びガス導入口11が設けられている。反応チャンバー10内には、容器13を加熱するための抵抗ヒータ14(例えばシリコンカーバイドヒータ)が設けられている。容器13には熱電対が取り付けられているため、熱電対のモニター線15を通じて容器13の温度を反応チャンバー10の外部でモニターすることができる。また抵抗ヒータ14と容器13の間には、容器13を均一に加熱するための均熱さや12が設けられている。ガス導入口11から導入されるガスは、均熱さや12の内側から反応チャンバー10の内部に供給される。容器13は例えばアルミナ製であり、窒素などの気体を外側から内側に浸透させることができる。
【0012】
反応チャンバー10には粉末供給管22が設けられている。粉末供給管22は、反応チャンバー10の筐体を貫通しており、アルミニウム粉末21を容器13の上方から容器13に導入する。この導入の際、アルミニウム粉末21のキャリアガスとしては窒素ガスが用いられる。
【0013】
また反応チャンバー10には攪拌手段23が設けられている。攪拌手段23は、先端に攪拌用のプロペラを有しており、容器13内の溶融物を攪拌する。
【0014】
次に、上記の抵抗炉を用いた窒化アルミニウム含有物の製造方法について説明する。まず、アルミニウム20を容器13の内部に配置し、反応チャンバー10内を窒素雰囲気に置換した上で、アルミニウム20をヒータ14で加熱して溶融する。このとき、アルミニウム20を660℃以上1100℃以下に保持するのが好ましい。次いで、溶融したアルミニウム20を窒素雰囲気下で1分以上放置する。このときの窒素雰囲気の圧力は、例えば常圧であるが、30気圧以下の加圧雰囲気であっても良い。これにより、溶融したアルミニウム20の中に窒素が溶け込む。なおこの処理において、窒素を溶融したアルミニウム20に対してバブリングしても良い。
【0015】
次いで、反応チャンバー10の中を窒素雰囲気に維持した状態で、攪拌手段23で攪拌しながら、粉末供給管22から溶融したアルミニウム20に対してアルミニウム粉末21を供給する。なお、攪拌方法は、機械的な攪拌方法に限定されるものではなく、電磁的な攪拌や比重差による攪拌などを用いることもできる。アルミニウム粉末21は、溶融したアルミニウム20の上方から供給される。このとき、アルミニウム粉末21を溶融したアルミニウム20に対して0.01〜5重量%/分の速度で導入するのが好ましい。またアルミニウム粉末21の球相当径の平均値は、0.1μm以上50μm以下であるのが好ましい。
【0016】
アルミニウム粉末21の表面には自然酸化膜が形成されている。この自然酸化膜は、αアルミナと水酸化アルミニウムの複合体である。溶融したアルミニウム20にアルミニウム粉末21が供給されると、アルミニウム粉末21を起点としてアルミニウムの窒化反応が生じる。アルミニウムの窒化反応は発熱反応であるが、この反応熱はすぐに拡散するため、アルミニウムの窒化反応は局部的に生じた後に収束する。このため、窒化アルミニウムの粒径は、たとえば0.01μm以上0.1μm以下となる。そして本実施形態ではアルミニウム粉末21を徐々にかつ継続的に添加しているため、上記したアルミニウムの窒化反応を継続的に生じさせることができる。
【0017】
なお、アルミニウム粉末21を起点としてアルミニウムの窒化反応が生じる理由は、以下の2つが考えられる。まず第1の理由としては、アルミニウム粉末21の表面の自然酸化膜が溶融したアルミニウム20に触れると、アルミニウム粉末21の自然酸化膜のうちαアルミナの少なくとも一部が還元される。このとき、ガス状の物質であるAlOが発生し、このAlOが触媒となってアルミニウムの窒化反応が進むことが考えられる。また第2の理由としては、アルミニウム粉末21の自然酸化膜の少なくとも一部が還元されると、清浄なAlが生成し、この清浄なAlが窒素と反応しやすくなるため、と考えられる。
【0018】
攪拌手段23による攪拌速度は、溶融したアルミニウム20の表面、すなわち窒素雰囲気に接している部分が1分程度で入れ替わるような速度であるのが好ましい。例えば、容器13が800g以下のアルミナ坩堝である場合には、攪拌手段23による攪拌速度を1〜10rpmにする。またアルミニウム粉末21の供給量がアルミニウム20に対して予め定められた量、例えば50重量%になると、攪拌が困難になるため、アルミニウム粉末21の供給を終了するのが好ましい。
【0019】
そして一定時間、アルミニウム20及びアルミニウム粉末21を窒素雰囲気下で660℃以上1100℃以下に保持する。これにより、アルミニウム粉末21はアルミニウム20と一体になる。このとき、溶融したアルミニウム20の攪拌を終了し、その代わりに窒素雰囲気の気圧を高めても良い。このとき窒素雰囲気は、例えば30気圧以下の予め定められた気圧まで加圧される。このようにすると、溶融したアルミニウム20に溶け込む窒素の量が増え、アルミニウムの窒化反応が継続して進行する。また、窒化アルミニウム含有物の窒化アルミニウム含有率を上げることができる。
【0020】
その後、アルミニウム20を冷却して固化させる。アルミニウム20の少なくとも一部は窒化しているため、固化物は、少なくとも窒化アルミニウムを含む窒化アルミニウム含有物になっている。窒化アルミニウム含有物に含まれる窒化アルミニウムは、例えば粒径が0.01μm以上0.1μm以下である。そして窒化アルミニウム含有物の残りの部分はアルミニウムである。窒化アルミニウム含有物における窒化アルミニウムの含有量は、反応条件を調節することにより、所望の窒化アルミニウム含有量に調整することができる。
【0021】
なお、アルミニウム粉末21の球相当径の平均値は、0.1μm以上5μm以下とし、かつ攪拌手段23による攪拌速度をさらに速くする(例えば溶融したアルミニウム20の表面、すなわち窒素雰囲気に接している部分が10秒程度で入れ替わるような速度)と、溶融したアルミニウム20に導入するアルミニウム粉末21の総量をさらに増やすことができる。
【0022】
以上、本実施形態によれば、低温かつ低圧で窒化アルミニウム含有物を製造することができる。従って、窒化アルミニウム含有物の製造コストを低くすることができる。またアルミニウム粉末21とアルミニウム20を原料として窒化アルミニウム含有物を製造するため、アルミニウムと窒素以外の不純物が窒化アルミニウム含有物に含まれることを抑制できる。
【0023】
なお、アルミニウム粉末21を全量反応初期に導入すると、アルミニウム20の窒化反応が急激に生じ、窒化アルミニウムがネットワーク状に成長してしまう。窒化アルミニウムがネットワーク状に成長すると、窒化アルミニウム含有物を加工することが難しくなる。これに対して本実施形態では、溶融したアルミニウム20を攪拌しながらアルミニウム粉末21を少しずつアルミニウム20に導入している。このため、窒化アルミニウムがネットワーク状に成長することが抑制され、その結果、窒化アルミニウム含有物の加工性を高くすることができる。
【0024】
なお、容器13内に微細な孔を複数有する石英製のチューブを挿入し、このチューブから溶融したアルミニウム20内に窒素をバブリングさせても良い。
【0025】
また、アルミニウムの窒化反応を遅くするように条件を変更し(例えばアルミニウム粉末21の供給速度をアルミニウム20に対して0.01〜0.1重量%/分として、かつアルミニウム20の温度を660℃以上750℃以下にする)、窒化アルミニウムの単結晶を溶融したアルミニウム20の液面に接触させて回転させながら徐々に引き上げると、窒化アルミニウムの単結晶を種結晶として窒化アルミニウムを結晶成長させることもできる。このとき、攪拌手段23を0.1〜1rpmの速度で回転させても良い。
【0026】
また、アルミニウム粉末21を溶融したアルミニウム20に導入する前に、アルミニウム粉末の自然酸化膜を厚くする工程を有していてもよい。この工程は、例えばアルミニウム粉末を酸素雰囲気下に置いたり、さらには加熱した状態で酸素雰囲気下に置くことにより行われる。
【0027】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0028】
10 反応チャンバー
11 ガス導入口
12 均熱さや
13 容器
14 抵抗ヒータ
15 モニター線
16 排気口
20 アルミニウム
21 アルミニウム粉末
22 粉末供給管
23 攪拌手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融アルミニウムに窒素ガスを供給するガス供給工程と、
前記溶融アルミニウムを窒素雰囲気下に位置させ、前記溶融アルミニウムを攪拌しながら、表面に自然酸化膜を有するアルミニウム粉末を前記溶融アルミニウムに導入する粉末導入工程と、
前記溶融アルミニウムを冷却して固化させる固化工程と、
を備える窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法において、
前記粉末導入工程において、前記アルミニウム粉末を前記溶融アルミニウムに対して0.01〜5重量%/分の速度で導入する窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法において、
前記粉末導入工程と前記固化工程の間に、前記溶融アルミニウムの前記窒素雰囲気の気圧を高める工程を有する窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の混合物の製造方法において、
前記粉末導入工程の前に、前記アルミニウム粉末の前記自然酸化膜を厚くする工程を有する窒化アルミニウム含有物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−20888(P2011−20888A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166866(P2009−166866)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】