説明

窒化ホウ素ナノ繊維及びその製造方法

【課題】廉価かつ大量に利用可能な原料から既存のプロセスを直接利用することで質的、量的に産業上利用可能な高機能、新機能材料を製造し、その応用の展開を目的とした新規窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ホウ素源としての酸化ホウ素とホウ素の混合物を無触媒下、または金属粒子若しくは金属酸化物から選ばれる1種類以上の触媒の存在下で、1000℃以上の温度で加熱反応させ生じるガス状ホウ素化合物を、更にガス状窒素化合物と1000℃以上で反応させることによる窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法に関するものである。本発明の製造方法によって得られる窒化ホウ素ナノ繊維は、絶縁性及び/又は高熱伝導性フィラー、ガス吸着剤、触媒担体、マイクロエレクトロニクス部品およびフォトルミネッセンス、エレクトロルミネッセンス等の光学デバイス等として有用である。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、高熱伝導率、絶縁性、化学的不活性等の特性を有する物質であり、その結晶構造には、主として六方晶系と立方晶系の二つの形態がある。また、窒化ホウ素のナノ構造物に関しては、BH化合物を用いた化学的気相成長法により、中空構造を有する窒化ホウ素ナノチューブが製造できることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
このような窒化ホウ素は様々な機能材料としての応用が期待されており、六方晶系や立方晶系そして新規なナノチューブ構造体の開発は種々の長周期の層状構造体を具現化し、その特有の物理的特性により高機能、新機能性素材の実現に大きく貢献するものと予想される。更にこのような窒化ホウ素の新しい構造体として、ナノチューブに限らずこれまで知られていない繊維状の会合体を任意に創造することができれば、目的とする高機能性、新機能性の材料とその応用の展開を可能ならしめると考えられ、これまでに知られていない長周期構造を有する新規な窒化ホウ素ナノ構造体を如何に設計、調製できるかが具体的な課題となっている。
【0004】
従来、窒化ホウ素繊維構造体を形成する方法として、例えば特許文献1ではコバルト微粒子を分散したチタン製基板を用いてCVD法により形成したカーボンナノチューブを酸化ホウ素と窒素気流中で加熱置換させることによる窒化ホウ素ナノ繊維を製造する技術が開示されている。また特許文献2では水蒸気を含んだ窒素ガス中でBH化合物をグラファイト粉末と共に加熱することによる窒化ホウ素ナノワイヤーの製造方法が開示されている。これらの方法は種々の形態、サイズの窒化ホウ素繊維会合体を作る方法として利用可能であるが、何れの方法も前駆体を出発物質に用いる以上、製造上副生する炭素や酸素などの異種元素から形成される不純物を完全に除去することは困難であり高純度化の観点からは問題がある。また前駆体構造として高価なカーボンナノチューブや特殊なBH化合物などを調製したり、窒化ホウ素をナノ繊維化したりする必要があり、高コストおよび大量生産が困難という課題があった。そこで、廉価かつ工業的に調達が容易な出発原料から直接窒化ホウ素ナノ繊維を大量に製造する方法の確立が求められていた。
【0005】
【非特許文献1】R.Ma、他、「アドバンスト・マテリアルズ(Adv.Mater.)」、2002年、14巻、p.366
【特許文献1】特開2004−190183号公報
【特許文献2】特開2005−75656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、廉価かつ大量に利用可能な原料から既存のプロセスを直接利用することで質的、量的に産業上利用可能な高機能、新機能材料を製造し、その応用の展開を目的とした新規窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ホウ素源として酸化ホウ素とホウ素の混合物を用い、正確に加熱温度を設定できるCVD反応装置等を利用することにより、効率よくナノサイズの直構造を有する新規窒化ホウ素ナノ繊維を製造できることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
【0008】
1.ホウ素源としての酸化ホウ素とホウ素の混合物を無触媒下、または金属粒子若しくは金属酸化物から選ばれる1種類以上の触媒の存在下で、1000℃以上の温度で加熱反応させ生じるガス状ホウ素化合物を、更にガス状窒素化合物と1000℃以上で反応させることによる窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法。
2.ホウ素源を1000℃以上の温度で加熱反応させ、生じたガス状のホウ素化合物を供給する部分(供給部)と、該ホウ素化合物とガス状窒素化合物とを加熱反応させる部分(反応部)と、該ガス状窒素化合物が該供給部には流入しない構造とを具備した反応装置にて、1000℃以上の温度の該ガス状ホウ素化合物を、1000℃以上の温度に加熱されている反応部に供給して該ガス状窒素化合物と反応させることを特徴とする上記1項に記載の窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法。
3.上記1項または2項の製造方法によって製造された、直径が50〜500nmで、長さが1〜10μmである窒化ホウ素ナノ繊維。
4.平均直径10〜50nmの連続空洞からなる中空構造を内包することを特徴とする上記3項に記載の窒化ホウ素ナノ繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、廉価かつ大量に入手調製可能な出発原料を用いた、絶縁性及び/又は高熱伝導性フィラー、ガス吸着剤、触媒担体、マイクロエレクトロニクス部品およびフォトルミネッセンス、エレクトロルミネッセンス等の光学デバイス等として有用な新規な窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、ホウ素源としてホウ素単体および酸化ホウ素を併せて用い、無触媒または触媒存在下に、これらを1000℃以上の温度で加熱反応させ生じるガス状ホウ素化合物を、更に窒素源であるガス状窒素化合物と1000℃以上で反応させるものである。本発明者らは、ホウ素源としてホウ素と酸化ホウ素を併用することにより、活性な(BO)中間体(以下、ホウ素中間体のように称することがある)が効率よく形成されながらガス状窒素化合物の窒素と反応、繊維状に成長することで窒化ホウ素ナノ繊維が得られることを見出した。
【0011】
本発明の製造方法に用いることができる反応装置としては、カーボンナノチューブの製造に用いられる化学的気相成長法(以下CVD法と略することがある)によるもの、アーク放電法によるもの、レーザー蒸発によるものなどが挙げられるが、特にCVD法による装置が好ましい。
【0012】
なお、公知のとおりホウ酸は300℃程度の高温で酸化ホウ素に転化するので、本発明の製造方法においては、ホウ素源としてホウ酸とホウ素の混合物を用いて、反応部で加熱昇温中に酸化ホウ素とホウ素の混合物に転化した後にガス状ホウ素中間体を生成させて、更にガス状窒素化合物と反応させることにより窒化ホウ素ナノ繊維を得ることもできる。
【0013】
本発明においては無触媒下に目的物を得ることが可能であるが、更に反応を効率化するために適当な触媒を用いることができる。用いられる触媒としては、金属粒子あるいは金属酸化物、例えばコバルト、酸化カルシウム、酸化マグネシウムあるいは酸化鉄等が挙げられる。これらの中でも、経済性、触媒の後処理工程における除去の容易性および触媒活性の面から特に酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が好ましい。
【0014】
本発明の製造方法で窒素源として用いられるガス状窒素化合物としては、安価で、爆発性等の危険性が極力低く、窒素以外の元素の含有量が少なく、かつ反応部への供給が容易なよう室温で気体のものが好ましい。そのような化合物としてはアンモニア、またはモノメチルアミンのようなメチルアミン類が挙げられ、特にアンモニアが好適である。
【0015】
また、本発明においては、ホウ素源を加熱反応させガス状ホウ素中間体を生成させてこれを供給する部分(供給部)と、更に該ホウ素中間体とガス状窒素化合物とを加熱反応させる部分(反応部)と、該ガス状窒素化合物が該供給部には流入しない構造とを具備した反応装置にて、所望の反応温度まで、該供給部にて加熱された該ガス状ホウ素中間体を、該反応温度まで加熱されている反応部に供給することにより、反応温度の変動を抑制しながら該ガス状窒素化合物と反応させることが好ましい。こうすることで、反応部の温度が上昇する過程で生じる不純物、あるいは反応導入時初期の反応部温度の不安定化による副反応を避け、効率よく均質な窒化ホウ素ナノ繊維の生成を実現することができる。
【0016】
本発明における、供給部と、反応部と、ガス状窒素化合物が該供給部には流入しない構造とを具備した反応装置とは、供給部と反応部とが完全に区切られて反応時のみ弁を開くなどして反応物であるガス状ホウ素化合物とガス状窒素化合物とを接触させるものでもよいが、例えば入れ子式の構造を有する装置の内側に設けた供給部からガス状ホウ素中間体を供給し、外側からガス状窒素化合物を導入するようにしても同様の効果が得られる。これは、該ホウ素中間体は反応活性が高く、該ガス状窒素化合物と接触すると直ちに反応して化学気相堆積が起こるからである。
【0017】
本発明における反応装置の反応部の温度は1000℃以上である。反応部の温度が1000℃よりも低い場合には、非晶質の窒化ホウ素が生成してしまい、また反応部の温度が1000℃よりもはるかに高い場合には、窒化ホウ素ナノ繊維ではなく棒状あるいは粒子状窒化ホウ素が生成してしまうため好ましくない。反応部の温度としては好ましくは1000℃〜1500℃、より好ましくは1000℃〜1200℃である。
【0018】
本発明における反応装置の供給部の温度は、上記の反応部と同様に1000℃以上であり、1000℃〜1500℃であるのが好ましく、1000℃〜1200℃であるとより好ましい。供給部の温度は反応部の温度と同一であると特に好ましいが、前記のより好ましい、または好ましい温度の範囲であれば目的とする窒化ホウ素ナノ繊維を得ることができる。
【0019】
反応部中での加熱時間は、反応物であるガス状ホウ素化合物とガス状窒素化合物の消費時間とすることができ、これは様々な製造条件に応じて調節することができる。特に反応効率と生産性の面からは0.5〜2時間程度の加熱時間にて製造することが好ましく示される。加熱反応後に反応部を室温に冷却することにより、白色粉末の堆積物として窒化ホウ素ナノ繊維を得ることができる。
【0020】
以上述べた本発明の方法により、窒化ホウ素ナノ繊維を安価な原料から簡便に製造することができる。
上記製造方法によって得られる本発明の窒化ホウ素ナノ繊維は、長さが1〜10μm程度のもので、直径が50〜500nm程度、より好ましくは150〜500nm程度のものである。一本の繊維においてその直径は繊維全体にわたり均質で一定の場合もあるが、繊維の片末端からもう一方の末端にかけて連続して直径が変化する形態や、不連続に直径が変化する形態をとることもある。
【0021】
更に本発明の窒化ホウ素ナノ繊維においては、各々の窒化ホウ素ナノ繊維は単独のファイバーとして存在するのみならず数本ずつが束となったヤーンや、複数のファイバー同士が末端で結合し、放射状あるいは分岐した形態をとることもある。
【0022】
また、本発明の窒化ホウ素ナノ繊維は平均直径10〜50nm程度の連続空洞からなる中空構造を内包することを特徴とする。この連続構造からなる中空構造は通常該繊維一本中に単一で存在するが、複数の独立孔及び/または連続孔として存在することもある。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0024】
[実施例1]
酸化ホウ素粉末100mg及びホウ素粉末100mgを混合し、直径2cmの磁製槽の上にのせ供給槽とした。この供給槽を、片末端を閉鎖した直径2.5cm、長さ5cmのセラミックチューブからなる加熱槽内に静置した。全体をCVD装置の1リットルの石英管内に設置し、石英管は給排気用の配管を施したシリコン製コックにより密栓をした。ポンプにより内部を排気し、流量25ml/分でのアルゴン気流下、供給槽を室温から1300℃まで120分間で昇温した。供給槽内が1300℃に到達したことを確認した後、石英管内にアンモニアガスを流量500ml/分で導入し始めた。アンモニアガスはセラミック製の加熱槽内に流入し、ここでホウ素化合物との気相反応が開始した。この状態で60分保持して反応を完了し、アンモニアガスの供給を終了後に加熱を止め、120分かけて冷却した。CVD装置内が室温に戻ったことを確認した後,石英管を開けた。セラミックチューブ管の内壁に堆積した白色粉末5mgを収集した(なお、供給槽には白色粉末は堆積していなかった)。得られた粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、直径200nm程度のナノ繊維であることを確認した(TEM写真を図1に示す)。またEDX(エネルギー分散型X線分光法)スペクトル測定より得られた特性ピーク解析の結果、この粉末組成が窒素とホウ素から構成されることが確認された。これらの解析結果より、白色粉末が目的とする窒化ホウ素ナノ繊維であることが明らかとなった。
【0025】
[実施例2]
酸化ホウ素粉末100mg及びホウ素粉末100mgを混合し、これに酸化カルシウム10mgを加えて後に直径2cmの磁製皿の上に載せ、これを、片末端を閉鎖した直径2.5cm、長さ5cmのセラミックチューブ内に静置した。セラミックチューブをCVD装置の1リットルの石英管内に設置し、石英管は給排気用の配管を施したシリコン製コックにより密栓をした。ポンプにより内部を排気し、流量25ml/分でのアルゴン気流下、CVD装置内を室温から1300℃まで120分間で昇温した。CVD装置内が1300℃に到達したことを確認した後、チューブ内にアンモニアガスを流量500ml/分で導入し始めた。この状態で60分保持して反応を完了し、アンモニアガスの供給を終了後に加熱を止め、120分かけて冷却した。CVD装置内が室温に戻ったことを確認した後,石英管を開けた。セラミックチューブ管の内壁に堆積した白色粉末25mgを収集した。透過型電子顕微鏡(TEM)観察およびEDXスペクトル測定より得られた特性ピーク解析の結果、この白色粉末が窒素とホウ素から構成される、実施例1と同様の窒化ホウ素ナノ繊維であることが確認された。
【0026】
[比較例1]
酸化ホウ素粉末200mgのみを用いた以外は実施例1と同様の操作を行うことで、セラミックチューブ管の内壁に堆積した白色粉末20mgを収集した。得られた粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、無定形の粒子であり、またEDXスペクトル測定より得られた特性ピーク解析の結果、この粉末組成が酸素とホウ素から構成されることが確認された。これらの解析結果より、白色粉末が酸化ホウ素そのものであり、目的とする窒化ホウ素ナノ繊維はないことが明らかとなった。
【0027】
[比較例2]
酸化ホウ素粉末200mgおよび酸化カルシウム10mgのみを用いた以外は実施例2と同様の操作を行うことで、セラミックチューブ管の内壁に堆積した白色粉末30mgを収集した。得られた粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、無定形の粒子であり、またEDXスペクトル測定より得られた特性ピーク解析の結果、この粉末組成が窒素とホウ素から構成されることが確認された。これらの解析結果より、白色粉末は窒化ホウ素ではあるが、目的とするナノ繊維はないことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1で得られた窒化ホウ素ナノ繊維のTEM観察写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素源としての酸化ホウ素とホウ素の混合物を無触媒下、または金属粒子若しくは金属酸化物から選ばれる1種類以上の触媒の存在下で、1000℃以上の温度で加熱反応させ生じるガス状ホウ素化合物を、更にガス状窒素化合物と1000℃以上で反応させることによる窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法。
【請求項2】
ホウ素源を1000℃以上の温度で加熱反応させ、生じたガス状のホウ素化合物を供給する部分(供給部)と、該ホウ素化合物とガス状窒素化合物とを加熱反応させる部分(反応部)と、該ガス状窒素化合物が該供給部には流入しない構造とを具備した反応装置にて、1000℃以上の温度の該ガス状ホウ素化合物を、1000℃以上の温度に加熱されている反応部に供給して該ガス状窒素化合物と反応させることを特徴とする請求項1に記載の窒化ホウ素ナノ繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法によって製造された、直径が50〜500nmで、長さが1〜10μmである窒化ホウ素ナノ繊維。
【請求項4】
平均直径10〜50nmの連続空洞からなる中空構造を内包する請求項3に記載の窒化ホウ素ナノ繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155176(P2009−155176A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336861(P2007−336861)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】