説明

窒素含有炭素材料及びその製造方法

【課題】本発明は、窒素原子の含有量を従来よりも更に高めた窒素含有炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アズルミン酸とホウ素化合物とを含有する組成物を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する工程を有する窒素含有炭素材料の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有炭素材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、従来、吸着材等として主に使用されていたが、導電性等の電子材料物性、高い熱伝導率、低い熱膨張率、軽さ、耐熱性等の基本的な性質を持つために幅広い用途が検討されるようになってきている。特に最近はその電子材料物性に着目されており、リチウムイオン二次電池負極、キャパシタ用電極等の電子材料分野にも使用、あるいは検討されている。
かかる炭素材料は、従来、椰子殻、石炭コークス、石炭又は石油ピッチ、フラン樹脂、フェノール樹脂等を原料とし、炭化処理して製造されている。
【0003】
近年になって、かかる炭素材料に他の元素を含有させて炭素材料の物性の幅をさらに広げて発展させようとする試みがある。こうした中で、最近、窒素含有炭素材料は、リチウムイオン二次電池負極、キャパシタ用電極などの用途(例えば特許文献1、2参照)において、電気化学的特性が向上することが報告されている。また、窒素含有材料は、吸着剤(例えば特許文献3参照)、水素吸蔵材料としての特性(例えば特許文献4、5参照)も報告され注目されている。
【0004】
窒素含有炭素材料の製法として、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂を炭化させる方法(特許文献6参照)、ポリイミドを炭化させる方法(特許文献1参照)、ポリアニリンを炭化させる方法(特許文献2参照)、ポリピロールを炭化させる方法(特許文献7参照)、フタロシアニンをフラン樹脂の前駆体に混合し炭化させる方法(特許文献8参照)、ポリアクリロニトリルを炭化させる方法(例えば特許文献9参照)等の方法が知られている。
【0005】
本発明者らは、アズルミン酸を炭化させることによって得られる、多くの窒素を含有した窒素含有炭素材料を見出している(特許文献10参照)。また、本発明者らは、得られた材料がリチウムイオン二次電池の電極、キャパシタの電極、燃料電池の電極として優れた機能を有することを見出し(特許文献11参照)、さらには水素吸蔵能力をも有することを見出している(特許文献12参照)。その上、本発明者らは、酸素含有ガス雰囲気下での加熱と不活性ガス雰囲気下での加熱とを併用して、窒素含有量を一層高めた材料(特許文献13参照)を見出している。
【特許文献1】特開2001−80914号公報
【特許文献2】特開平10−21918号公報
【特許文献3】特開2004−168587号公報
【特許文献4】特開2005−798号公報
【特許文献5】特開2003−277026号公報
【特許文献6】特開2000−1306号公報
【特許文献7】特開平8−165111号公報
【特許文献8】特開2004−362802号公報
【特許文献9】特開平8−180866号公報
【特許文献10】国際公開第2007/043311号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2008/123380号パンフレット
【特許文献12】特開2008−239419号公報
【特許文献13】国際公開第2008/117855号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、窒素原子の含有量を従来よりも更に高めた窒素含有炭素材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アズルミン酸を特定の化合物と共に含有する組成物に対して特定の加熱処理を施すことによって、驚くべきことに、従来よりも更に窒素原子の含有量が高い窒素含有炭素材料を得ることができることをを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
(1)アズルミン酸とホウ素化合物とを含有する組成物を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する工程を有する窒素含有炭素材料の製造方法。
(2)(1)に記載の製造方法により製造された窒素含有炭素材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒素原子の含有量を従来よりも更に高めた窒素含有炭素材料、及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法を説明するための工程図である。図1に示すように、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、青酸を含む原料を重合してアズルミン酸を得る工程S10と、得られたアズルミン酸とホウ素化合物とを混合して、それらを含有する組成物である混合物(以下、「AB混合物」という。)を調製する工程S12と、得られたAB混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱処理する工程S14とを有するものである。ここで、「アズルミン酸」とは、主として青酸(シアン化水素)を重合して得られる重合物の総称である。以下、各工程を詳述する。
【0012】
まず、工程S10では、主として青酸を含む原料を重合してアズルミン酸を得る。工程S10で用いる青酸としては、公知の方法で製造されたものを用いることができ、例えば下記の方法で製造される。ただし、青酸の製造方法はこれらに限定されない。具体的には、青酸は、プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール、プロパン又はイソブタンを触媒存在下にアンモニア、酸素含有ガスと反応させる気相接触反応によってアクリロニトリルやメタクリロニトリルを製造する方法において副生される。このため、工程S10で用いる青酸は非常に安価に入手することが可能である。上述の気相接触反応は従来公知の反応であるため、その反応条件も公知のものであればよい。ただし、青酸を増産するために、例えばメタノール等アンモ酸化反応によって青酸を生成するような原料を、反応器に供給してもよい。
【0013】
また、天然ガスの主成分であるメタンを触媒存在下にアンモニア、酸素含有ガスと反応させるアンドリュッソー法によって製造される青酸を用いることができる。この製造方法もメタンを用いるため、非常に安価に青酸を入手できる方法である。
もちろん、青酸の製造方法は、青化ソーダ等を用いる実験室的な製造方法であってもよいが、上記の工業的に製造される青酸を用いるのが、青酸を多量かつ安価に製造できる観点から好ましい。
【0014】
工程S10において、主として青酸を含む原料を重合して、黒色から黒褐色の青酸を主として重合物であるアズルミン酸を得る。ここで、高純度のアズルミン酸を得る観点から、主として青酸を含む原料の全体量に対して、青酸以外の重合性物質の存在比は40質量%以下であると好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。言い換えると、上記原料中の青酸の存在比は、60質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとより好ましく、95質量%以上であるとさらに好ましく、99質量%以上であると特に好ましい。
【0015】
アズルミン酸は、青酸及び場合によっては少量のそれ以外の重合性物質を種々の方法で重合させることにより製造される。
重合方法としては、例えば、液化青酸や青酸水溶液を加熱する方法、それらを長時間放置する方法、それらに塩基を添加する方法、それらに光を照射する方法、それらに高エネルギーの放射をする方法、それらの存在下で種々の放電を行う方法、シアン化カリウム水溶液の電気分解が挙げられる。その他、例えば、Angew.Chem.72巻、p379−384(1960年)及びその引用文献、あるいは、真空科学、16巻、p64−72(1969年)及びその引用文献に記載の公知の方法を例示することができる。
【0016】
液化青酸や青酸水溶液に塩基を添加してその塩基の存在下に青酸を重合させる方法において、上記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、有機塩基、アンモニア、アンモニア水などを例示することができる。有機塩基としては、例えば、一級アミンRNH、二級アミンRNH、三級アミンRN、四級アンモニウム塩Rが挙げられる。ここで、R、R、R、Rは互いに同一又は異なってもよい炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基、及びこれらが結合して得られる基を示す。R、R、R、Rはさらに置換基を有していてもよい。この有機塩基の中では、脂肪族又は環式脂肪族の第三級アミンが好ましい。そのような第三級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、N−メチルピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)が挙げられる。上記塩基は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
また、アズルミン酸は、プロピレン等のアンモ酸化工程で副生する青酸の精製工程から回収することによっても得られる。
【0017】
アズルミン酸は溶剤に不溶性又は難溶性であるため、詳細な化学構造は同定されていない。ただし、Angew.Chem.72巻、p379−384(1960年)や、真空科学、16巻、p64−72(1969年)などの文献には、下記構造式が代表的な化学構造式として推定されている。
【化1】

【0018】
実際には、上記の構造式をベースにして、重合体構造中の六員環を構成する窒素原子の一部が炭素原子に置換されていたり、逆に一部の六員環を構成する炭素原子が窒素原子に置換されていたりすると考えられる。さらに、上記六員環に代えて五員環や七員環も存在すると考えられる。また、上記構造式中のアミノ基は、文献に記載されるように、その少なくとも一部が、イミノ基、ニトリル基、水酸基、カルボニル基、カルボン酸基、ニトロ基、ニトロソ基、N−オキシド基、アルキル基、水素原子等で置換されていてもよいと考えられる。また、アズルミン酸の重合過程で生成するリニアな構造、一部が環を巻いている構造なども存在すると推定される。
【0019】
本実施形態で用いるアズルミン酸の組成は、CHN分析計を用いて測定され得る。アズルミン酸中の炭素原子のモル数に対する窒素原子のモル数の比((窒素原子のモル数)/(炭素原子のモル数))は0.2〜1.0であると好ましく、0.3〜0.9であるとより好ましく、0.4〜0.9であると特に好ましい。
【0020】
アズルミン酸は、その製造方法、組成、製造ロットが異なるものの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0021】
次に、S12工程において、アズルミン酸とホウ素化合物とを混合して、それらを含有する組成物であるAB混合物を調製する。ホウ素化合物として、例えば、ホウ酸、酸化ホウ素、及び、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素を用いることができる。ただし、ホウ素化合物はこれらに限定されない。さらに、ホウ素化合物は、ハロゲン化ホウ素と、酢酸、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、モノエチルアミン、ピペリジン、テトラヒドロフラン等との錯体であってもよい。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0022】
S12工程では、アズルミン酸とホウ素化合物とを、それらが互いに均一に分散するよう混合するのが好ましい。ホウ素化合物がホウ酸、酸化ホウ素等の固体である場合、アズルミン酸とホウ素化合物とを溶媒中で混合することが好ましい。溶媒としては水が好ましい。溶媒が水である場合のS12工程における水の温度は、0〜100℃であると好ましく、20〜80℃であるとより好ましい。ホウ素化合物がハロゲン化ホウ素やその錯体の場合、ホウ素化合物を気体又は液体の状態でアズルミン酸と混合してもよく、ジクロロメタン等の溶媒を用いてアズルミン酸と混合してもよい。
【0023】
混合時間は例えば1分間〜100時間であってもよい。混合の際に、溶媒を用いたり、あるいは液状のホウ素化合物を用いたりする場合、混合した後に、蒸発、ろ過、遠心分離等によって固液分離を行い、AB混合物を得てもよい。
【0024】
続いて、工程S14では、工程S12を経て得られたAB混合物に不活性ガス雰囲気下で加熱処理を施す。これにより、AB混合物が炭化されて、本実施形態に係る窒素含有炭素材料が得られる。この加熱処理における諸条件としては、下記の条件が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この工程S14では、例えば、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用い、AB混合物を不活性ガス雰囲気下で加熱処理する。加熱処理の温度は、600〜3000℃であると好ましく、700〜2000℃であるとより好ましく、750〜1500℃であると更に好ましく、800〜1100℃であると特に好ましい。この加熱処理の温度を上述の範囲に設定することで、窒素含有炭素材料の結晶性を高めつつ、窒素含有炭素材料の窒素含有量が多いという効果が得られる。
【0025】
上記不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素等の不活性ガスが挙げられる。また、不活性ガス雰囲気が減圧下、つまり大気圧よりも低い圧力環境であってもよい。これらの中では、不活性ガスとして窒素ガスを用いることが好ましい。不活性ガス雰囲気は不活性ガスが静止していても流通していてもよいが、流通しているのが好ましい。その不活性ガス中の酸素濃度は5体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましく、1000体積ppm以下が特に好ましい。不活性ガス雰囲気が減圧下の場合は、その圧力が1Pa〜0.05MPaであると好ましく、10Pa〜0.03MPaであるとより好ましい。
【0026】
加熱処理である炭化処理に要する時間としては10秒間〜100時間であると好ましく、5分間〜10時間であるとより好ましく、15分間〜5時間であると更に好ましく、30分間〜2時間であると特に好ましい。また、加熱処理の際の雰囲気の圧力は、不活性ガスを用いる場合、0.01〜5MPaであると好ましく、0.05〜1MPaであるとより好ましく、0.08〜0.3MPaであると更に好ましく、0.09〜0.15MPaであると特に好ましい。炭化処理に要する時間や雰囲気の圧力を上記範囲内に設定することで、所望の窒素含有炭素材料を一層容易に得ることができる。
【0027】
なお、図示していないが、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、工程S14に先だって、上述のAB混合物を酸素含有ガス雰囲気下で加熱処理する工程S13を有してもよい。酸素含有ガスとしては空気が好ましい。工程S13は有機物の一部を燃焼させる工程であるため制御が難しいところ、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法では、このS13工程を経由せずとも窒素原子の含有量が高い窒素含有炭素材料を得ることができる。ただし、このS13工程を経由することで、窒素含有量が一層高い窒素含有炭素材料を得ることができる。工程S13では、例えば、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉、マッフル炉等を用い、AB混合物を空気中で加熱処理する。加熱処理の温度は150℃〜600℃であると好ましく、180〜500℃であるとより好ましく、220〜350℃であると更に好ましい。この加熱処理の温度を150℃以上にすることで窒素含有炭素材料の窒素含有量が多く、水素含有量が少ないという効果をより有効かつ確実に奏することができる。この加熱処理の温度を600℃以下にすることで窒素含有炭素材料の回収率を高めると共に、より安定した品質の窒素含有炭素材料を得ることができる。
【0028】
こうして得られる窒素含有炭素材料は、窒素原子、炭素原子と共に、ホウ素原子をも含有する。本実施形態の製造方法によって、ホウ素原子を含有する窒素含有炭素材料が得られる理由は現在のところ詳細には解明されていない。その考えられる理由の一つとして、アズルミン酸がホウ素原子を取り込むのに有利に分子構造を有していることが挙げられる。ただし、理由はこれに限定されない。
【0029】
本実施形態によると、窒素原子の含有量を従来よりも更に高めた窒素含有炭素材料、及びその製造方法を提供することができる。これにより、電気化学的特性、吸着特性、水素吸蔵特性等、従来の炭素材料に対してその物性の幅を更に一層発展させた窒素含有炭素材料を得ることができる。また、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法によると、主として青酸を含む原料を重合してアズルミン酸を得る工程S10において、アクリロニトリル等の単量体の製造工程において副生物として製造されている青酸を用いることができる。そのため、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、ホウ素原子をも有する窒素含有炭素材料を、省資源、省エネルギーで得ることが可能となる製造方法である。さらに、この製造方法では、容易に青酸を重合することができるため、アズルミン酸及びそれから得られる窒素含有炭素材料の製造が簡便であり、大量製造も可能となる。あるいは、基礎化学原料からの直接誘導体であると共に、上記単量体の製造工程において副生物として得られ従来廃棄されており活用されていなかったアズルミン酸自体を用いるため、この観点からも省資源、省エネルギーとなる製造方法であり、大量製造が可能なものである。
【0030】
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願の特許請求の範囲に包含される。
【0032】
<分析方法>
(CHN分析)
ジェイサイエンスラボ社製のCHN分析装置である商品名「MICRO CORDER JM10」を用い、約2500μgの試料を試料台に充填してCHN分析を行った。試料炉は950℃、燃焼炉(酸化銅触媒)は850℃、還元炉(銀粒+酸化銅のゾーン、還元銅のゾーン、酸化銅のゾーンからなる)は550℃の各温度に設定された。炉内には酸素ガス、Heガスが流通し、酸素ガスは流通量は15mL/min、Heガスの流通量は150mL/minに設定された。各元素の検出器としてTCDを用いた。アンチピリン(Antipyrine)を用いてマニュアルに記載の方法でキャリブレーションを行った。なお、CHN分析に先立って、試料の脱水処理を150℃での真空乾燥により十分に行った。
【0033】
(ホウ素分析)
試料50mgに濃硫酸2cmを加えて300℃で加熱後、500℃で大気中にて加熱し灰化した。得られた灰化物を白金坩堝に入れ、そこに炭酸ナトリウムカリウム2gを加えた後、白金坩堝をバーナーで加熱しアルカリ溶融を行った。冷却後に白金坩堝の内容物を塩酸に溶解させて、純水を加えて得られた一定量の溶液を検液とした。この検液中のホウ素量をICPにて測定した。
【0034】
<製造例>
<アズルミン酸の製造>
水350gに青酸150gを溶解させた水溶液を調製し、この水溶液の攪拌を行いながら、25%アンモニア水溶液120gを10分かけてその水溶液に添加し、得られた混合水溶液を35℃に加熱した。すると、青酸の重合が始まり黒褐色の重合物が析出し始め、温度は徐々に上昇し45℃となった。重合が始まって2時間後から30質量%青酸水溶液を200g/hの速度で添加し始め、4時間かけて添加した。青酸水溶液の添加中は反応温度を50℃保つように冷却してコントロールした。青酸水溶液の添加終了後、冷却を停止したところ温度は90℃に上昇し、この温度で約1時間留まった後、温度は徐々に降下した。その後、そのままの状態で100時間反応を行った。得られた黒色沈殿物をろ過によって分離した。このときの沈殿物の収率は用いた青酸の全量に対して97%であった。分離後の沈殿物を水洗した後、乾燥器にて120℃で5時間乾燥させてアズルミン酸を得た。
【0035】
[実施例1]
まず、60℃の温水300gにホウ酸10gを添加してホウ酸水溶液を得た。得られたホウ酸水溶液に上記製造例で得られたアズルミン酸60gを添加し、それらを収容したロータリエバポレータのフラスコを60℃に制御しながら、100rpmで回転させることによって、ホウ酸とアズルミン酸とを十分に混合した。そのようにして1時間混合した後、混合液を加圧ろ過によって固液分離し、濾残(固体)側を回収した。次いで、濾残を60℃の温水と共に収容したフラスコを備えるロータリエバポレータにより、濾残を1時間洗浄した後、加圧ろ過によって濾残と温水との固液分離を行い、濾残側を回収した。この洗浄操作を3回繰り返した後、濾残を120℃で乾燥させてAB混合物を得た。
【0036】
得られたAB混合物のうち12gを採取して内径25mmの石英管に充填した。そのAB混合物を、大気圧下、300Ncc/min.の窒素ガス気流中で70分間かけて1000℃まで昇温した。さらに1000℃で1時間保持してAB混合物に加熱処理を施して、窒素含有炭素材料を得た。
【0037】
(組成分析結果)
得られた窒素含有炭素材料について上述のようにしてCHN分析を行い、材料中の炭素原子(C)、水素原子(H)、窒素原子(N)の質量比を測定し、炭素原子に対する窒素原子のモル数比(N/C)を求めた。また、上述のようにしてホウ素分析を行い、窒素含有炭素材料中のホウ素原子(B)の含有量(質量%)を測定し、炭素原子に対するホウ素原子のモル数比(B/C)を求めた。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例2]
上記製造例で得られたアズルミン酸のうち12gを採取して内径25mmの石英管に充填した。そのアズルミン酸に、大気圧下、300Ncc/min.の窒素ガスで10%に希釈した三塩化ホウ素気流を15分間接触させた。上記三塩化ホウ素気流に接触させた後のアズルミン酸を、大気圧下、300Ncc/min.の窒素ガス気流中で70分間かけて1000℃まで昇温した。さらに1000℃で1時間保持して上記三塩化ホウ素気流に接触させた後のアズルミン酸に加熱処理を施して、窒素含有炭素材料を得た。
【0039】
(組成分析結果)
得られた窒素含有炭素材料について上述のようにしてCHN分析を行い、材料中のC、H、Nの質量比を測定し、炭素原子に対する窒素原子のモル数比(N/C)を求めた。また、上述のようにしてホウ素分析を行い、窒素含有炭素材料中のホウ素原子(B)の含有量(質量%)を測定し、炭素原子に対するホウ素原子のモル数比(B/C)を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
上記製造例で得られたアズルミン酸のうち12gを採取して内径25mmの石英管に充填した。そのアズルミン酸を、大気圧下、300Ncc/min.の窒素ガス気流中で70分間かけて1000℃まで昇温した。さらに1000℃で1時間保持してアズルミン酸に加熱処理を施して、窒素含有炭素材料を得た。
【0041】
(組成分析結果)
得られた窒素含有炭素材料について上述のようにしてCHN分析を行い、材料中の炭素原子(C)、水素原子(H)、窒素原子(N)の質量比を測定し、炭素原子に対する窒素原子のモル数比(N/C)を求めた。また、上述のようにしてホウ素分析を行い、窒素含有炭素材料中のホウ素原子(B)の含有量(質量%)を測定し、炭素原子に対するホウ素原子のモル数比(B/C)を求めた。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1、2と比較例1との比較から、本発明の製造方法によって、ホウ素原子を含有する窒素含有炭素材料が得られることに加えて、窒素含有量が高くなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法により得られる窒素含有炭素材料は、ホウ素原子を含有すると共に、窒素原子の含有量が高い。かかる窒素含有炭素材料は、電極用途、例えば、リチウムイオン二次電池負極、キャパシタ用電極、燃料電池電極などの用途として有用である。
また、本発明による窒素含有炭素材料の製造方法は、窒素原子を含有する炭素材料、ホウ素原子を含有する炭素材料としては、エネルギー消費量、資源の消費量が少ない製造方法であり、この点でも有用である。すなわち、青酸は、基礎化学原料からの直接誘導体であり、単量体等の製造時の副生物であるので、窒素原子を含有する炭素材料の製造方法、かつ、ホウ素原子を含有する炭素材料の製造方法として、本発明の製造方法は省資源、省エネルギーに有効な製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態による窒素含有炭素材料の製造方法を説明するための工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズルミン酸とホウ素化合物とを含有する組成物を、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する工程を有する窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された窒素含有炭素材料。


【図1】
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【公開番号】特開2010−111518(P2010−111518A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283159(P2008−283159)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】