説明

立体印刷物およびその作製方法

【課題】 高速、大量且つ安価に精細な立体印刷物(点字印刷物を含む)を作製する方法およびその立体印刷物を提供する。また一般の印刷物に簡単に効率よく点字情報その他の立体印刷部を付加する方法を提供する
【解決手段】 基材シートに印刷されたOPニス層と、該OPニス層の上にコーティングされる上刷りニス層とから成る積層体であって、該OPニス層は上刷りニス層をはじく性質を有し、該OPニス層ではじかれた上刷りニスが、OPニスの非印刷部に集まって突起部分が形成されることにより作成される立体印刷物。前記の上刷りニス層は、前記のOPニス層の非印刷部分およびその近傍に、非印刷物よりも少し大きめにスポットコーティングされ、はじかれた上刷りニスが非印刷物に集まって盛り上がり部分を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法により表面に凹凸がある印刷物を効率よく作製する方法およびその方法によって作製された印刷物に関する。この立体印刷物は点字印刷物としても好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
印刷物の表面に凹凸加工のような立体的な形状を付与するには、金属や樹脂の型板を紙やプラスチックフィルム等の基材に押し当てたり、熱で発泡する材料で印刷し、加熱して膨らませたりする等の方法が用いられている。
【0003】
点字印刷物を作製する場合も同様に、型板を押し当てて作製する方法、発泡樹脂インクで印刷し、加熱発泡させて作製する方法、膨張性インキ層を有する熱転写シートから熱転写により被記録体に膨張性インキ層を転写し、該インキに光を照射して膨張させる方法等が用いられている。
【0004】
特許文献1には、基材に紫外線硬化性樹脂をシルクスクリーン印刷し、紫外線を照射して突起部を形成する方法が記載されている。シルクスクリーンの一般的な印刷スピードは約300〜3000枚/時(平均約1000枚/時)であり、通常の平版オフセット印刷の平均10,000枚/時に比べて遅く、生産性が低いという問題がある。
【0005】
特許文献2には、加熱して発泡するインキをスクリーン印刷する方法が記載されているが、やはりスクリーン印刷に伴う前述の問題がある。
【0006】
特許文献3には、膨張性インキ層を有する熱転写シートを用いて、基材に該インキ層を熱転写した後、光照射してインキを膨張させ立体感のある盛り上げ画像を形成する方法が記載されている。熱転写方式はスピードが遅いため、少部数の印刷物を簡易に作製する用途以外には適しない。
【0007】
【特許文献1】特開平8−52929号公報
【特許文献2】特開平8−238837号公報
【特許文献3】特開平9−52447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高速、大量且つ安価に精細な立体印刷物(点字印刷物を含む)を作製する方法を提供することを課題とする。また一般の印刷物に簡単に効率よく点字情報その他の立体印刷部を付加する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の立体印刷物は、基材シートに印刷されたOPニス層と、該OPニス層の上にコーティングされる上刷りニス層とから成る積層体であって、該OPニス層は上刷りニス層をはじく性質を有し、該OPニス層ではじかれた上刷りニスが、OPニスの非印刷部に集まって突起部分が形成されることにより作製される。
【0010】
OPニスとはオーバープリントニスのことで、印刷物の表面保護や、光沢付与のために絵柄等を印刷した基材上に印刷される。紙やフィルム等の基材に直接印刷される場合もある。
【0011】
前記の基材シートは紙若しくはプラスチックに印刷インキで印刷されたものが用いられるが、印刷されていないものであっても良い。
【0012】
前記の上刷りニス層は、前記のOPニス層の非印刷部分およびその近傍に、非印刷部分よりも少し大きめに(すなわち非印刷部から少しはみ出すように)スポットコーティングすることにより、はじかれた上刷りニスが非印刷物に集まって盛り上がり部分を形成する。これによりニスの無駄を減らすこともできる。
【0013】
また前記のOPニス層はリング状に印刷しても良い。この上に上刷りニス層を基材の全面に、またはリング状の内側にスポットでコーティングすると、リング状の部分の内側にコーティングされた上刷りニスは非印刷部に集まって盛り上がり、突起部が形成される。リング状の内側(OPニスの非印刷部分)よりも少し大きめにスポットでコーティングする例を図3に示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明の立体印刷物の作製方法により、高速、大量且つ安価に精細な立体印刷物(点字印刷物を含む)を作製することができる。また一般の印刷物に簡単に効率よく点字情報その他の立体印刷部を付加することができる。
【0015】
作製された印刷物は、立体感があって意匠性に優れ、また偽造が簡単ではないので偽造防止効果がある。また大量の点字印刷物の作製や、一般印刷物への点字情報の付与を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の立体印刷物を作製するには、図1に例示されるようなインラインコータ付きオフセット印刷機を用いる。UV照射装置付きである事が好ましい。
【0017】
基材には必要に応じて絵柄や文字等が印刷される。インキとしては一般油性インキ、UVインキ、ハイブリットインキ、大豆油インキ等を用いることができる。
【0018】
OPニスは、通常は印刷機の最終インキユニットで印刷する。但し絵柄によりどのインキユニットでもニスの印刷は可能である。用いるOPニスは上刷りニスをはじき易いものであれば良い。インキメーカーからはそのような性質のある推奨のニスが提供されているのでそれを用いてよい。OPニスの印刷においては、立体的に盛り上げたい部分や点字部分が、OPニスの非印刷部(OPニスが印刷されない部分)となるようにする。
【0019】
OPニスは、油性OPニス・紫外線硬化型OPニス等を用いることができる。上刷りニスを確実にはじくためには、OPニスには滑り剤等の撥液性の高い添加剤を配合したもの等が好ましい。
【0020】
上刷りニスは、使用する下地のOPニスにはじかれる性質があれば特に制限はなく、目的に合致したものを選択できる。OPニスとそれによってはじかれる上刷りニスの組み合わせは、前記したように、その目的専用のニスが市販されているので、それを用いることができる。
【0021】
基材には必要により絵柄等が印刷され、その上にOPニスを印刷したものに、インラインコーティングユニットで上刷りニスがコーティングされる。上刷りニスはOPニスの非印刷部分より多少大きめにスポットコーティング塗工をすれば、その非印刷部分に凸状の上刷りニスの玉ができる。すなわちOPニスの非印刷部から若干はみ出して、その近傍をも被覆するようにスポットコーティングをすることが好ましい。はみ出しの程度はニスのはじかれ易さや、ニスの粘度、必要とするニスの盛り上がりの程度などを考慮して決定する。またスポットコーティングを行うことは上刷りニスの節約にもなる。
【0022】
又、印刷物全体にコータニスの保護効果や美粧化効果(高光沢の付与など)と共に、点字情報も必要な場合には、OPニスは点字を印刷する部分にのみリング状に印刷して、他の部分は非印刷部(上刷りニスを受け付ける部分)としておき、その上に上刷りニスを全面コーティングすれば、リング状の部分ではニスがその中心に集まって凸状になり、全体の保護と点字情報の付与を同時に行うことができる。
【0023】
さらに前記のOPニスをリング状に印刷する方法において、印刷物全体の保護や美粧化が不要な場合は、そのリング内の非印刷部に、前記したようにその非印刷部より多少大きめに上刷りニスをスポットコーティングすれば、OPニス及び上刷りニス共に最小限の使用量で点字等の立体印刷を行うことができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施する例を示す。
【0025】
[実施例1]
紙基材に、紫外線硬化型平版オフセット印刷インキ「ダイキュアセプターDT」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて絵柄を印刷する。
その上にOPニスとして「ダイキュアセプターDTOPニスEM」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて、直径1.00mmの円形の非印刷部を残して、全面を印刷した。
その上に上刷りニス「ダイキュアクリアーUV−1601EM」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて、前記のOPニスの非印刷部に重なるように直径2.00mmの円をスポットコーティングした。
【0026】
[実施例2]
紙基材に、油性(酸化重合乾燥型)平版オフセット印刷インキ「スペースカラーバリウスG」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて絵柄を印刷する。
その上にOPニスとして「カルトンセルフ剥離OPニス」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて、直径1.00mmの円形の非印刷部を残して、全面を印刷した。
その上に上刷りニス「ダイキュアクリアーUV−1601EM」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて、前記のOPニスの非印刷部に重なるように直径1.80mmの円をスポットコーティングした。
【0027】
[実施例3]
紙基材に、ハイブリッド型平版オフセット印刷インキ「ダイキュアハイブライト」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて絵柄を印刷する。
その上にOPニスとして「ダイキュアセプターDTOPニスEM」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社製)を用いて、直径1.00mmの円形(非印刷部)を残した全面を印刷した。
その上に上刷りニス「ダイキュアクリアーUV−1601EM」(商品名。大日本インキ化学工業株式会社キ製)を用いて、前記のOPニスの非印刷部に重なるように直径1.80mmの円をスポットコーティングした。尚、ハイブリッド型インキとは、油性インキの作業性と紫外線硬化・乾燥方式の高生産性・高光沢性を兼ね備えた表面加工システムで用いられるインキである。
【0028】
[印刷物の評価]
前記の3つの実施例において、上刷りニスの突起の頂点の高さは0.3mm以上であり、点字印刷物として十分な識別性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法は通常の印刷物を製造するのと変わらないスピードで効率よく立体印刷物や点字印刷物を製造することができ、生産性が高い。またスポットコーティングによりOPニスや上刷りニスの使用量を減らして無駄を無くすことができるので、通常の印刷に比べてのコストアップも抑制できる。ゆえに本発明を利用することにより、書籍、雑誌に限らず、食品のパッケージ等にも点字情報を効率よく安価に付与でき、社会のバリアフリー化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を実施するコータ付きオフセット印刷機の構成例を示す。矢印は印刷用紙等の流れ方向を示す。
【図2】本発明の立体印刷物が形成される過程を示す。(a)は上刷りニスがコーティングされようとするところを示し、(b)はコーティング後の状態を示す。
【図3】リング状のOPニスに上刷りニスをスポットコーティングする例を示す。(a)は上刷りニスがコーティングされようとするところを示し、(b)はコーティング後の状態を示す。
【符号の説明】
【0031】
1 印刷ユニット(本図は5色機の例を示す)
2 乾燥装置(赤外線、紫外線照射装置など)
3 コータユニット(上刷りニスをコーティングする)
4 乾燥装置(赤外線、紫外線照射装置など)
5 版胴(本図の場合は全部で5つある)
6 コータニス版胴
7 基材
8 絵柄等の印刷インキ層
9 OPニス層
10 上刷りニス



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートに印刷されたOPニス層と、
該OPニス層の上にコーティングされる上刷りニス層とから成る積層体であって、
該OPニス層は上刷りニス層をはじく性質を有し、
該OPニス層ではじかれた上刷りニスが、OPニスの非印刷部に集まることにより突起部分が形成された立体印刷物。
【請求項2】
前記の基材シートが紙若しくはプラスチックに印刷インキで印刷されたものである請求項1に記載の立体印刷物。
【請求項3】
前記の上刷りニス層は、前記のOPニス層の非印刷部およびその近傍をスポットコーティングするものである請求項1に記載の立体印刷物。
【請求項4】
前記のOPニス層がリング状に印刷されており、前記のリング状の部分の内側のOPニスの非印刷部およびその近傍に上刷りニスが塗られ、塗られた上刷りニスが集まって突起部が形成された請求項1に記載の立体印刷物。
【請求項5】
基材シートにOPニスを印刷し、
該OPニス層の上に、該OPニス層によりはじかれる性質を有する上刷りニスをコーティングし、
該OPニス層ではじかれた上刷りニスがOPニスの非印刷部に集まることにより突起部分が形成される立体印刷物の作製方法。
【請求項6】
前記のOPニスがリング状に印刷されており、
そのリング状の部分の内側のOPニスの非印刷部およびその近傍に上刷りニスをコーティングし、その上刷りニスが集まって突起部が形成される請求項5に記載の立体印刷物の作製方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−168032(P2006−168032A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361218(P2004−361218)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】