説明

立体的回路基板の製造方法

【課題】円柱形状または円筒形状の筐体表面にフィルム状回路基板が貼り付けられた立体的回路基板において、回路基板の端部間に生ずる間隙を、配線を傷つけることなく、フラットな形状に樹脂を埋設した立体的回路基板を提供する。
【解決手段】絶縁性フィルムの片面に配線が形成されたフィルム状回路基板12を、配線15側が内側となるように、接着剤層11を介して、筺体の表面全周に貼り付け、貼付け後に、フィルム状回路基板の端部間に生じた間隙1に、樹脂を充填し、スキージ30により余分な樹脂を除去し、充填物20の表面を平滑化し、充填物の高さを、フィルム状回路基板の最表面に存在する絶縁性フィルムの端部と同じ高さとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的回路基板、特に、ローラなどの円柱形状または円筒形状の筐体の表面の全周にわたって回路基板が形成されている立体的回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの電子機器の小型化、多機能化、および低コスト化に伴い、その筐体の内面や外面に、回路基板をコンパクトに実装することが要求されている。このため、回路基板として平面的なものではなく立体的なものが必要とされる場合がある。また、複写機の分野でも、現像用ローラなどの金属製または樹脂製の円柱形状または円筒形状の筺体の表面の全周にわたって回路基板を形成して、立体的回路基板を製造することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような筺体の表面全周に回路基板を形成する手段として、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの絶縁性フィルムの表面に電極配線を設けたフィルム状回路基板を筺体の外周に貼り付ける方法がある。このようなフィルム状回路基板は、多量に、かつ、安価に製造することができるため、フィルム状回路基板を筺体に貼り付ける方法は、筺体に電極配線を直接形成する方法よりも容易と考えられる。
【0004】
ところで、特許文献2には、フィルムを円柱形状または円筒形状である缶体にロータリカッタ方式で貼り付ける方法が記載されている。この方法では、自立保持不能な柔軟性のあるフィルムを、高い精度で所定の長さに切断し、得られたフィルムを缶体に供給して、ラミネートを行うことにより、缶体へのフィルムの貼り付けを可能としている。
【0005】
このロータリカッタ方式による貼付け方法は、缶体やボトルなどの飲料容器の表面にラベルを貼ることを目的として開発されたものである。そのため、ラベルを貼る位置精度などを厳密に管理する必要がなく、また、飲料容器の表面全周にラベルを貼り付ける場合は、フィルムに重なりやフィルム端部に間隙が生じても問題となることはない。
【0006】
これに対して電子機器用のフィルム状回路基板を円柱形状または円筒形状の筺体の表面全周に貼り付ける場合に、フィルム状回路基板に重なりや大きな間隙があると、回路を構成する配線に短絡や導通不良が発生したり、トナーがこの間隙に入り込むなどしたりして、回路の電気的特性に影響を及ぼすため大きな問題となる。よって、フィルム状回路基板を、重なることなく、かつ、回路基板の端部間の間隙が許容される程度に小さくなるように、貼り付けることが要求される。
【0007】
しかしながら、このような要求に応じるべく、フィルム状回路基板を精度よく切断し、貼付け時に重なりや大きな間隙が生じないように貼り付けた場合でも、フィルム状回路基板の切断によるバラツキは存在し、かつ、筺体自体にも仕上がり径のバラツキが存在するため、フィルム状回路基板の重なりや端部間における許容範囲を超えた間隙の発生を阻止できていないのが現状である。
【0008】
また、かかる間隙については、貼り付けた回路基板の表面保護用に樹脂を塗布して間隙を埋設できれば、短絡や導通不良の防止に有効であるが、現状では、表面保護用の樹脂を塗布したとしても間隙の段差を完全に埋めきれずに、フィルム状回路基板の端部が露出してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−59568
【特許文献2】特開平10−236446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、配線(15)が最表面となるフィルム状回路基板(12)を、重なりを避けて、該フィルム状回路基板(12)の端部間に間隙を設けるようにして、筺体(10)の全周に設けた場合において、当該間隙に対して、表面保護用の樹脂とは別に、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂などの所定の樹脂を、スプレー塗布などにより間隙から盛り上がるように埋設した後、フィルム状回路基板の保護フィルムを剥離し、さらに当該樹脂からなる埋設物(20)がフィルム状回路基板(12)と同じ高さとなるように、スキージなどにより埋設した樹脂の表面を削ることを提案している(図4参照)。
【0011】
しかしながら、図4(a)に示すように、間隙近傍にもフィルム状回路基板(12)上に形成された配線(15)が存在する場合には、図4(b)に示すように、樹脂(20)の表面を削る際に配線(15)に傷がつき、断線などの問題が生じる可能性がある。
【0012】
そこで、本発明は、ローラなどの円柱形状または円筒形状の筐体表面に、特に全周にわたって、所定の大きさのフィルム状回路基板が貼り付けられた立体的回路基板において、回路基板の端部間に生ずる間隙により電気的特性について影響を受けることがないように、貼り付けに伴うフィルム状回路基板の端部間の間隙を埋設する際に、配線を傷つけることなくフラットな形状に樹脂を埋設して、立体的回路基板の配線を保護すると共に、その絶縁性を確保しうる、立体的回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る立体的回路基板の製造方法は、絶縁性フィルムの片面に配線が形成されているフィルム状回路基板を、該配線が形成された面側が内側となるように、接着剤層を介して、円筒形状または円柱形状の筺体の表面全周に貼り付け、該フィルム状回路基板の貼付け後に、該フィルム状回路基板の端部間に生じた間隙に、樹脂を充填することを特徴とする。
【0014】
前記樹脂を、前記フィルム状回路基板の最表面に存在する絶縁性フィルムの端部と同じ高さとすることが好ましい。
【0015】
この場合、前記絶縁性フィルムの表面上に盛り上がるまで充填し、該絶縁性フィルムの端部に沿って盛り上がった前記樹脂を除去して、前記樹脂の高さを前記絶縁性フィルムの端部と同じ高さに揃えることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記接着剤層を、前記フィルム状回路基板の前記配線が形成された面側、もしくは、前記筺体の表面に形成することができる。
【0017】
前記樹脂の充填を複数回のスプレー塗布により行うことが好ましい。
【0018】
上記の本発明に係る製造方法により、円筒形状または円柱形状の筺体と、絶縁性フィルムの片面に配線が形成され、該配線が形成された面側が内側となるように、接着剤層を介して貼り付けられたフィルム状回路基板と、該フィルム状回路基板の端部間に生じた間隙に、該絶縁性フィルムの端部と同じ高さに樹脂が充填されている、立体的回路基板が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、円柱形状または円筒形状の筺体の表面全周にフィルム状回路基板が形成された立体的回路基板において、フィルム状回路基板を構成する絶縁性フィルムを最表面側とすることにより、表面保護用の樹脂を形成することなく、外部から配線の保護を可能とすると共に、その絶縁性が確保され、かつ、接着剤層により、筺体と配線の間の絶縁性が確保された立体的回路基板を得ることができる。
【0020】
また、フィルム状回路基板を筺体の表面全周に貼り付けた場合に生ずる、該フィルム状回路基板の端部間の間隙を樹脂により充填した場合に、不要な樹脂をスキージなどにより除去する必要が生じた場合に、配線が絶縁性フィルムの内側に配されているので、該配線を傷つけることがない。
【0021】
このように、本発明により、表面保護層を新たに設けることなく、配線の絶縁性が確保され、かつ、配線に欠陥のない立体的回路基板であって、フィルム状回路基板の端部間の間隙による段差のない、立体的回路基板を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る立体的回路基板の製造方法の一態様を工程ごとに示す概略断面図である。
【図2】本発明の一態様に係る立体的回路基板を示す概略断面図である。
【図3】本発明の他の態様に係る立体的回路基板を示す概略断面図である。
【図4】(a)従来の立体的回路基板に対して、フィルム状回路基板間に生じた間隙に樹脂を充填した状態と、(b)不要な樹脂を除去した状態とを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、絶縁性フィルムの片面に配線が形成されているフィルム状回路基板を、該配線が形成された面側が内側となるように、接着剤層を介して、円筒形状または円柱形状の筺体の表面全周に貼り付け、該フィルム状回路基板の貼付け後に、該フィルム状回路基板の端部間に生じた間隙に、樹脂を充填することを特徴とする。
【0024】
従来の立体的回路基板の製造においては、立体的回路基板は、絶縁性フィルムの表面に銅層による配線が形成され、裏面側に接着剤層を有し、表面側に保護フィルムがラミネートされている保護フィルム付きフィルム状回路基板を、筺体の大きさに合わせて所定の大きさに切断し、筺体に貼り付け、もしくは、絶縁性フィルムの表面に銅層による配線が形成され、さらに表面側に保護フィルムがラミネートされている保護フィルム付きフィルム状回路基板を、所定の大きさに切断し、表面に接着剤層が形成されている筺体に貼り付け、その後、保護フィルムを剥離して、筺体上にフィルム状回路基板を形成することにより得ている。
【0025】
これに対して、本発明では、絶縁性フィルムの片面側に配線が形成されたフィルム状回路基板の配線が形成されている面側に、セパレータが付いた接着フィルムを貼り合わせて得たフィルム状回路基板を、筺体の大きさに合わせて所定の大きさに切断し、セパレータの剥離後、筺体の表面全周にわたり、接着剤層を介して貼り付ける。
【0026】
もしくは、絶縁性フィルムの片面側に配線が形成されたフィルム状回路基板を、筺体の大きさに合わせて所定の大きさに切断し、表面全周にわたり予め接着剤層が形成されている筺体に、配線側を内側にして、接着剤層を介して貼り付ける。
【0027】
なお、前者の場合、フィルム状回路基板の端部間に形成される間隙の底部は、筺体の表面であり、後者の場合、該間隙の底部は、接着剤層の表面となる。
【0028】
そして、該フィルム状回路基板の貼付け後に、該フィルム状回路基板の端部間に生ずる間隙に、樹脂を充填することにより、該間隙を埋設する。
【0029】
いずれの態様においても、フィルム状回路基板を、配線側を内側にして、かつ、接着剤層を介して、筺体に貼り付けることで、フィルム状回路基板を筺体に貼り付けた状態で、最表面に絶縁性フィルムが存在するため、配線が絶縁性フィルムと接着剤層により保護されると同時に、外部と配線間、および、筺体と配線間における絶縁性が確保される。
【0030】
以下、前者の態様に基づいて、図面に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0031】
図1(a)に、本発明の一態様に係る立体回路基板に用いられるフィルム状回路基板(12)の製造工程を示す。
【0032】
フィルム状回路基板(12)に用いられる絶縁性フィルムとしては、従来と同様、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが用いられる。絶縁性フィルムの片面側に、配線(15)を形成することにより、フィルム状回路基板(12)が得られる。セパレータ(17)と接着剤層(11)からなる接着フィルムを、接着剤層(11)で配線(15)を覆うように、フィルム状回路基板(12)に貼り合わせることにより、接着フィルム付きフィルム状回路基板が得られる。
【0033】
図2(b)に、接着フィルム付きフィルム状回路基板(12)の切断工程を示す。
【0034】
フィルム状回路基板(12)は、金型などを用いて、フィルム状回路基板(12)に重なりがないように、かつ、貼付け時の絶縁性フィルムの伸びなどを考慮しつつ、筺体(10)の大きさに合わせて精度良く所定の大きさに切断される。切断後、セパレータ(17)は除去される。
【0035】
図3(c)に、筺体(10)の表面全周に対して、接着剤層(11)を介してフィルム状回路基板(12)を貼り付けた後の状態を示す。フィルム状回路基板(12)の端部間には、間隙(1)が形成される。
【0036】
間隙(1)の幅は、例えば、直径16mmのアルミパイプを筺体(10)として用いた場合、0.05〜0.1mm程度となる。間隙(1)の深さは、接着剤層(11)とフィルム状回路基板(12)の厚さの合計に対応したものとなり、電子機器用途の場合、0.03〜0.1mm程度となる。
【0037】
なお、接着剤層付きの筺体にフィルム状回路基板を貼り付ける態様では、間隙の深さは、0.025〜0.075mm程度となる。
【0038】
この状態では、立体的回路基板の最表面は、絶縁フィルムとなっており、本発明においては、回路基板の表面保護用の樹脂層を設ける必要はない。
【0039】
本発明では、かかる間隙(1)を埋設するために、樹脂を充填する。樹脂としては、間隙を埋設可能であれば、表面保護用の樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを適用できる。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、N−グリシジル型エポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂などの一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をあげることができる。また、このようなエポキシ系樹脂のほか、フェノール系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂なども用いることができる。
【0041】
紫外線硬化性樹脂としては、アクリレート系紫外線硬化性樹脂またはアクリル系紫外線硬化性樹脂をあげることができる。
【0042】
樹脂に、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。例えば、熱硬化性樹脂を用いる場合、ジシアンジアミド、イミダゾール系、トリアジン系などの重合開始剤を添加してもよい。また、紫外線硬化性樹脂を用いる場合、重合開始剤として、安息香酸系または第三級アミン系などの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
本発明では、樹脂の充填手段としては、これらの樹脂を間隙(1)内に充填可能であれば、任意の充填手段を採り得る。ただし、間隙(1)の幅がきわめて狭小であることから、間隙(1)内に樹脂を確実に間隙(1)の奥まで充填させるためには、樹脂を複数回のスプレー塗布により充填することが好ましい。スプレー塗布には、公知のスプレーガンを用いることができる。
【0044】
スプレー塗布を用いる場合、樹脂を狭い間隙(1)の奥まで充填させるために、例えば水のような粘度(約0.001Pa・s)では奥まで入っても硬化する前に流出してしまう。また、半導体封止樹脂のような粘度(5〜15Pa・s)では圧入しなければ奥まで入り難い。このため、奥まで充填が容易であって硬化するまでに流出しない程度の低粘度のものを使用する必要があり、粘度0.01〜1Pa・sの低粘度の樹脂を選択して用いることが好ましい。
【0045】
用いる樹脂がかかる粘度の範囲内にない場合、前記重合開始剤のほか、希釈剤を添加して、粘度を上記範囲内とする必要がある。
【0046】
希釈剤としては、公知の光重合性モノマーおよび/または有機溶剤が使用できる。ただし、希釈剤を用いた場合、硬化時に、希釈剤用の溶剤が気化することにより樹脂の表面に凹みが発生したり、充填時に気泡が発生したりする場合がある。よって、希釈剤を必要としない、粘度0.01〜1Pa・sの低粘度の樹脂を選択して用いることが好ましい。
【0047】
樹脂には、さらに必要に応じて、硫酸バリウム、酸化珪素、タルク、クレー、炭酸カルシウムなどの充填剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン、カーボンブラックなどの着色用顔料、および、消泡剤、密着性付与剤またはレベリング剤などの各種添加剤類、あるいはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、ターシャリブチルカテコール、フェノチアジンなどの重合禁止剤類を添加してもよい。
【0048】
本発明において、スプレー塗布を行う場合、スプレー塗布する回数は、間隙(1)の深さと幅により変化させるが、基本的に複数回に分けて塗布することが好ましい。一回ごとの塗布により、希釈剤に起因して塗布ごとに発生する気泡を除去することができる。よって、一度に厚塗りするより複数回に分けて塗布する方が、後工程での気泡の発生などを防止できる。
【0049】
本発明では、スプレー塗布などの充填手段により、樹脂を立体的回路基板の最表面に存在する絶縁性フィルムの端部と同じ高さとなるまで充填して、充填物(20)とする。なお、樹脂は、硬化に際して、硬化収縮するため、その収縮量を考慮して、絶縁性フィルムの端部よりも若干高くなるまで充填し、その後、硬化により、充填物(20)の高さを絶縁性フィルムの端部と同じ高さとしてもよい。
【0050】
しかしながら、本発明では、図1(d)に示すとおり、間隙(1)への充填物(20)の充填を確実にするため、樹脂をフィルム状回路基板(12)の絶縁性フィルムの上まで盛り上がる程度まで塗布する。また、いずれの場合でも、間隙(1)内に残存する充填物(20)の表面に、凹凸が生ずる場合がある。
【0051】
かかる場合には、図1(e)に示すように、樹脂の硬化前に、スキージ(30)やウエスなどにより擦って、表面を平滑化させておくことが好ましい。
【0052】
本発明では、かかる場合においても、スキージ(30)が配線(15)部分に接触することはなく、絶縁性フィルムの端部に沿ってスキージを動かすのみで、埋設物(20)とフィルム状回路基板(12)の絶縁性フィルムの端部を同じ高さとすることができる。よって、製造工程において、配線(15)が傷つけられることが防止され、工程を簡略化して、配線(15)に欠陥のない立体的回路基板が提供されうる。
【0053】
本発明では、その後、間隙(1)に埋設されている充填物(20)を硬化させることにより、図1(f)に示すように、立体的回路基板を完成させる。
【0054】
なお、現像用ローラを含む電子機器用途の場合において、電気的特性への影響を排除するためには、フィルム状回路基板(12)の段差は、0.01mm以内とする必要がある。本発明のいずれの態様においても、平滑化の有無により、フィルム状回路基板(12)の表面に対する凹凸は生ずるものの、かかる段差を上記数値範囲内とすることが可能である。
【0055】
また、硬化工程における硬化条件については、それぞれの樹脂に対して推奨される条件を適用することが好まし。ただし、希釈剤が添加されている場合には、かかる希釈剤の量などを考慮して、当該条件は選定される。
【0056】
本発明に係る製造方法により、図2または図3に示すように、接着剤層(11)をフィルム状回路基板(12)に設けた場合、筺体(10)に設けた場合のいずれの態様においても、円筒形状または円柱形状の筺体(10)と、絶縁性フィルムの片面に配線(15)が形成され、配線(15)が形成された面側が内側となるように、接着剤層(11)を介して貼り付けられたフィルム状回路基板(12)と、フィルム状回路基板(12)の端部間に生じた間隙(1)に、絶縁性フィルムの端部と同じ高さに樹脂(20)が充填されている、立体的回路基板が得られる。かかる立体的回路基板においては、フィルム状回路基板(12)の端部間に生じた間隙(1)が充填物(20)で埋設され、フィルム状回路基板(12)の端部に段差がなく、かつ、フィルム状回路基板(12)の端部が実質的に露出することがない。
【0057】
かつ、当該構造により、表面保護層を形成することなく、立体的回路基板における、配線(15)の保護と配線との間の絶縁性が確保される。
【実施例1】
【0058】
フィルム状回路基板(12)として、厚さ35μmのPETフィルム(東洋紡株式会社製、A4100)の片面に厚さ10μmの銅層による配線(15)が形成されているものを使用した。フィルム状回路基板(12)の配線側に、厚さ35μmのセパレータ付き接着剤フィルム(11;DIC株式会社、両面接着テープ#8616)を貼り合わせた。この材料を金型により、50mm×250mmの大きさに切断した。なお、金型は、フィルム状回路基板(12)を筺体(10)に貼り付けた場合に、フィルム状回路基板(12)の端部が重ならず、少しの間隙が生じるように調整した。
【0059】
筺体(10)として、直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを用いた。先に切断して得た材料のセパレータを剥離して、フィルム状回路基板(12)を、接着剤層(11)を介して、筐体(10)の表面全面に貼り付けて、複数の立体的回路基板材料を得た。
【0060】
かかる立体的回路基板材料におけるフィルム状回路基板(12)の端部により生じる間隙(1)の大きさを測定したところ、深さが平均で0.08mm、幅が平均で0.10mm程度であった。
【0061】
次に、間隙(1)を埋設するために、エポキシ系の熱硬化性樹脂(昭和高分子株式会社製、品名:リポキシ)を用い、樹脂100質量部に対して30質量部のシンナーを希釈剤として添加混合し、撹拌して均一化して、常温時の粘度が0.1Pa・sである充填材料を得た。
【0062】
かかる充填材料を、立体的回路基板材料の間隙(1)に、スプレーガンを用いて、吹き付けた。吹き付けた充填材料の表面が乾燥した後に再度吹き付ける操作を行い、最終的に5回の吹き付けを行って、充填物(20)により間隙(1)を埋めた。
【0063】
その後、常温で15分保持して脱気を行い、充填物(20)が盛り上がった状態で、立体的回路基板の絶縁性フィルムの端部に沿って、ゴム製のスキージ(30)を移動させて、絶縁性フィルムの表面を擦り、余分な充填物を除去した。これにより、配線(15)部分に触れることなく、充填物(20)と絶縁性フィルムの端部とを同じ高さに揃えることができた。
【0064】
その後、温度140℃で30分間保持して、間隙(1)に充填された充填物(20)を硬化させた。
【0065】
硬化後、焦点深度計により、間隙(1)内の充填物(20)の表面と絶縁性フィルムの表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物(20)の方がフィルム状回路基板(12)の表面より平均で10μm低くなっていた。
【実施例2】
【0066】
フィルム状回路基板(12)として、厚さ38μmのポリイミドフィルムの片面に厚さ8μmの銅層による配線が形成されているものを使用した。かかるフィルム状回路基板を金型により、50mm×250mmの大きさに切断した。
【0067】
直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを筺体(10)として用い、セパレータ付き接着剤フィルム(ニッカン工業株式会社製、SAFW)を加熱し、100℃の温度で筐体(10)の表面全面に貼り付けした。その後、セパレータを剥がして、先に所定形状に切断して得たフィルム状回路基板(12)を貼り付けて、立体的回路基板材料を得た。
【0068】
かかる立体的回路基板材料におけるフィルム状回路基板(12)の端部により生じる間隙(1)の大きさは、深さが平均で0.04mm、幅が平均で0.1mmであった。
【0069】
その後は、粘度10dPa・sの充填材料を用いて、4回吹付けのスプレー塗布により、充填材料の間隙(1)内への充填を行ったほかは、実施例1と同様にして、立体的回路基板を得た。
【0070】
硬化後、実施例1と同様に、間隙内の充填物表面とフィルム状回路基板の表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物の方がフィルム状回路基板の表面より平均で7μm低くなっていた。
【実施例3】
【0071】
フィルム状回路基板として、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムの片面に厚さ1μmの銅層による配線が形成されているものを使用した。かかるフィルム状回路基板を金型により、50mm×250mmの大きさに切断した。
【0072】
直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを筺体(10)として用い、セパレータ付き接着剤フィルム(ニッカン工業株式会社製、SAFW)を加熱し、100℃の温度で筐体(10)の表面全面に貼り付けした。その後、セパレータを剥がして、先に所定形状に切断して得たフィルム状回路基板(12)を貼り付けて、立体的回路基板材料を得た。
【0073】
かかる立体的回路基板材料におけるフィルム状回路基板(12)の端部により生じる間隙(1)の大きさは、深さが平均で0.013mm、幅が平均で0.1mmであった。
【0074】
その後は、粘度10dPa・sの充填材料を用いて、3回吹付けのスプレー塗布により、充填材料の間隙(1)内への充填を行ったほかは、実施例1と同様にして、立体的回路基板を得た。
【0075】
硬化後、実施例1と同様に、間隙内の充填物表面とフィルム状回路基板の表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物の方がフィルム状回路基板の表面より平均で2μm低くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、現像用ローラなど筺体の表面に回路基板が形成された立体的回路基板の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0077】
1 間隙
10 筺体
11 接着剤層
12 フィルム状回路基板
15 配線
17 セパレータ
20 埋設物(樹脂)
30 スキージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムの片面に配線が形成されているフィルム状回路基板を、該配線が形成された面側が内側となるように、接着剤層を介して、円筒形状または円柱形状の筺体の表面全周に貼り付け、該フィルム状回路基板の貼付け後に、該フィルム状回路基板の端部間に生じた間隙に、樹脂を充填することを特徴とする、立体的回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂を、前記フィルム状回路基板の最表面に存在する絶縁性フィルムの端部と同じ高さとする、請求項1に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂を、前記絶縁性フィルムの表面上に盛り上がるまで充填し、該絶縁性フィルムの端部に沿って盛り上がった前記樹脂を除去して、前記樹脂の高さを前記絶縁性フィルムの端部と同じ高さに揃える、請求項1に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤層を、前記フィルム状回路基板の前記配線が形成された面側に形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤層を、前記筺体の表面に形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂の充填を複数回のスプレー塗布により行う、請求項1〜5のいずれかに記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの製造方法により得られ、円筒形状または円柱形状の筺体と、絶縁性フィルムの片面に配線が形成され、該配線が形成された面側が内側となるように、接着剤層を介して貼り付けられたフィルム状回路基板と、該フィルム状回路基板の端部間に生じた間隙に、該絶縁性フィルムの端部と同じ高さに樹脂が充填されている、立体的回路基板。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−9449(P2011−9449A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151271(P2009−151271)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】