説明

競合的ハイブリダイゼーションにおける遺伝子データの補正方法及び補正装置

【課題】核酸断片の分子数の測定における定量性を向上させる。
【解決手段】核酸断片の完全一致および部分一致により結合する現象をシミュレーションする方程式に従い、核酸断片の部分結合に起因する誤差を補正するための係数を求め、試料中の核酸断片の濃度を塩基配列毎に定量する装置、方法ならびにプログラム。装置にあっては、各単鎖核酸の分子数と、該単鎖核酸を含む二重鎖核酸の離脱速度係数と、に基づき、二重鎖核酸の分子数をその組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新部21と、更新された各二重鎖核酸の分子数と、外部より与えられた核酸断片の総分子数と、に基づいて、単鎖核酸の分子数を更新する単鎖核酸分子数更新部22と、更新される前後の単鎖核酸の分子数の各差異に基づき、各単鎖核酸の分子数の推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定部23と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、競合的ハイブリダイゼーションにおける遺伝子データの補正方法及び補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸は生命体の遺伝情報を蓄積・伝達するために用いられている物質であるが、ペプチド核酸のように安定性や機能性を高めた人工核酸も作出されており、その応用分野は広がりつつある。特に、塩基配列が完全特異的(相補的)もしくは部分特異的な核酸断片対が結合して二重鎖を形成するという核酸の基本物性(以下、ハイブリダイゼーション現象と称する)の活用は、医学・生物学といったバイオテクノロジーだけでなく、情報工学でも応用され始めている。
【0003】
現在、最も盛んにハイブリダイゼーション現象を利用しているのは、バイオテクノロジーの分野である。この分野では、生物や細胞における遺伝子もしくはその活動状態を網羅的に解析する強力な測定手段として、マイクロアレイ(特許文献1参照)や定量
in situハイブリダイゼーション等の技術が利用されている。これらの技術では数個〜数百万個の核酸検出用プローブを用いて塩基配列の特異的な結合量を測定することによって、ゲノムスケールで全ての遺伝子もしくは遺伝子活動を同時に定量したり、細胞・組織内の局在と量的分布を測定したりすることができる。
【0004】
このような核酸量の高精度測定技術は、効果および安全性の高い核酸医薬や遺伝子治療の開発・臨床応用に不可欠であり、定量性の向上を目指した技術開発が進められている。
また情報工学の分野でも、演算対象となる問題を塩基配列に置き換えin vitro反応を行う事で、非常に多くの問題を同時かつ高速に解く試み(超並列計算機あるいは
DNAコンピュータ)においてハイブリダイゼーション現象の応用が見られる。このような装置の実用化に際しては、核酸量測定の一層の精度向上が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−512293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的にハイブリダイゼーション現象を応用した測定装置では、特定のプローブには、その目的とする核酸断片(ターゲット)のみが結合すると仮定して、各プローブの標識強度からターゲットの濃度を推定している。しかしながら、各プローブに対して、目的外の核酸断片が結合する現象(クロスハイブリダイゼーション)が知られており、標識強度からターゲット濃度を正確に測定することが困難であるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、核酸断片の存在量の測定における定量性を向上させることを可能とする競合的ハイブリダイゼーションにおける遺伝子データの補正方法及び補正装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<図3の単鎖核酸分子数推定装置20>
上述した課題を解決するために、本発明の単鎖核酸分子数推定装置(図3の単鎖核酸分子数装置20)は、
(構成要素1)(式(6)参照)
第1の単鎖核酸の分子数Cと、
該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数Cと、
前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijと、
に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数Mijを前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新部(図3の二重鎖核酸分子数更新部21)と、
(構成要素2)(式(7)参照)
前記二重鎖核酸分子数更新部(図3の二重鎖核酸分子数更新部21)により更新された各二重鎖核酸の分子数Mijt+1と、
自装置(図3の単鎖核酸分子装置20)の外部より与えられた核酸断片の総分子数Sと、
に基づいて、前記単鎖核酸の分子数Ct+1を前記単鎖核酸の種類i毎に更新する単鎖核酸分子数更新部(図3の単鎖核酸分子数更新部22)と、
(構成要素3)
前記単鎖核酸分子数更新部(図3の単鎖核酸分子数更新部22)により更新される前の単鎖核酸の分子数Cと、
前記単鎖核酸分子数更新部(図3の単鎖核酸分子数更新部22)により更新された後の単鎖核酸の分子数Ct+1との差異|Ct+1−C|を前記単鎖核酸の種類i毎に算出し、
前記各差異|Ct+1−C|に基づき、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定部(図3の単鎖核酸収束判定部23)と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
<図3の単鎖核酸分子数推定装置20>
また、本発明の前記単鎖核酸分子数推定装置(図3の単鎖核酸分子数推定装置20)は、
(構成要素1)(式(8)参照)
前記単鎖核酸収束判定部(図3の単鎖核酸収束判定部23)が収束していないと判定した場合、
前記単鎖核酸分子数更新部(図3の単鎖核酸分子数更新部22)により更新された各単鎖核酸の分子数Ct+1に基づき、
前記二重鎖核酸の種類毎の加速係数sijt+1を算出する加速係数算出部(図3の加速係数算出部24)と、
(構成要素2)(式(6)参照)
前記二重鎖核酸分子数更新部(図3の二重鎖核酸分子数更新部21)は、
前記単鎖核酸分子数更新部(図3の単鎖核酸分子数更新部22)により更新された第1の単鎖核酸の分子数Ct+1と、
前記第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数Ct+1と、
前記加速係数算出部(図3の加速係数算出部24)により算出された前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸の組み合わせ毎の加速係数sijt+1と、
前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijと、
に基づき、二重鎖核酸の分子数Mijt+1を前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸の組み合わせ毎に更新することを特徴とする。
【0010】
<図2の総分子数推定装置>
また、本発明の総分子数推定装置(図2の総分子数推定装置10)は、
(構成要素1)
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する離脱速度係数βijを示す情報が該二重鎖核酸の種類毎に記憶されている離脱速度係数記憶部(図2の離脱速度係数記憶部12)と、
(構成要素2)
核酸断片が単鎖状態である単鎖核酸の分子数Cと該単鎖核酸を少なくともひとつ含む二重鎖核酸の分子数(ΣMij(i=1からnまでの和)とMiiとの和)との和である核酸断片の総分子数Sを示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている総分子数記憶部(図2の総分子数記憶部11)と、
(構成要素3)(式(6)および式(7)参照)
前記離脱速度係数記憶部から前記離脱速度係数βijを示す情報を読み出し、
前記総分子数記憶部から総分子数Sを示す情報を読み出し、
前記読み出された離脱速度係数βijと前記読み出された総分子数Sとに基づいて、
溶液中に存在する単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類i毎に推定させる単鎖核酸分子数取得部(図2の単鎖核酸分子数取得部13)と、
(構成要素4)
前記推定された単鎖核酸の分子数Cと、
自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの
差異C−Cgを前記単鎖核酸の種類i毎に算出する単鎖核酸差異算出部(図2の単鎖核酸差異算出部14)と、
(構成要素5)
該単鎖核酸の種類i毎の前記差異C−Cgに基づき、前記核酸断片の総分子数Sの推定結果が収束したか否かを判定する総分子数収束判定部(図2の総分子数収束判定部15)と、
(構成要素6)(式(5)参照)
前記総分子数収束判定部が収束していないと判定した場合、
前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数βijを示す情報を読み出し、
該読み出された各離脱速度係数βijと、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異C−Cgとに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数Sを前記単鎖核酸の種類i毎に補正し、補正した総分子数Sk+1を示す情報で、前記総分子数記憶部に記憶されている総分子数Sを示す情報を更新する総分子数補正部(図2の総分子数補正部16)を備え、
前記単鎖核酸分子数取得部は、前記総分子数記憶部から前記総分子数補正部により更新された総分子数Sを示す情報を読み出し、該読み出した総分子数Sに基づき、前記単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類i毎に推定させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の総分子数推定装置(図2の総分子数推定装置10)における前記単鎖核酸分子数取得部は、前記単鎖核酸分子数推定装置に出力する前記核酸断片の総分子数の初期値Sを、外部から入力された単鎖核酸の既知の分子数Cgとすることを特徴とする。
【0012】
<図1の離脱速度係数算出装置>
また、本発明の離脱速度係数算出装置(図1の離脱速度係数算出装置1)は、
(構成要素1)
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijのそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、核酸断片の分子数Sを単鎖核酸の種類毎に推定する総分子数推定装置(図1の総分子数推定装置10)と、
(構成要素2)
前記離脱速度係数βijのそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数Sとに基づき、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に推定する単鎖核酸分子数推定装置(図1の単鎖核酸分子数推定装置20)と、
(構成要素3)
前記推定された各単鎖核酸の分子数Cに基づき、前記離脱速度係数βijを前記二重鎖核酸の種類毎に算出する制御部(図1の制御部30)と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
<図4の制御部>
また、本発明の離脱速度係数算出装置(図1の離脱速度係数算出装置)における前記制御部(図4の制御部30)は、
(構成要素1)
前記総分子数推定装置(図4の総分子数推定装置10)に、前記離脱速度係数βijと前記単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、総分子数Sを前記単鎖核酸の種類i毎に推定させ、前記単鎖核酸推定装置に、該総分子数Sに対応する単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸の種類i毎に推定させる単鎖核酸取得部(図4の単鎖核酸取得部31)と、
(構成要素2)
前記単鎖核酸の種類i毎に、
前記単鎖核酸取得部(図4の単鎖核酸取得部31)により取得された前記単鎖核酸の分子数Cと、
自装置の外部から入力された前記単鎖核酸の既知の分子数Cg
を前記単鎖核酸の種類i毎に比較し、
前記取得された単鎖核酸の分子数Cが入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgより小さい場合、該単鎖核酸の前記離脱速度係数βijを大きくし、
前記取得された単鎖核酸の分子数Cが、入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cg以上の場合、該単鎖核酸の前記離脱速度係数βijを小さくする離脱速度係数補正部(図4の離脱速度係数補正部32)と、
を備え、
前記単鎖核酸取得部(図4の単鎖核酸取得部31)は、前記離脱速度係数補正部により補正された後の離脱速度係数β’ijに基づき、前記総分子数推定装置(図4の総分子数推定装置10)に前記総分子数S’を前記単鎖核酸の種類i毎に推定させ、前記単鎖核酸推定装置に該総分子数S’に対応する単鎖核酸の分子数C’を前記単鎖核酸の種類i毎に推定させ、
前記制御部(図4の制御部30)は、
(構成要素3)
前記単鎖核酸の種類i毎に、前記補正前の単鎖核酸の分子数Cと、入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの差異を補正前の差異|C−Cg|として算出し、
前記単鎖核酸の種類i毎に、前記補正後の単鎖核酸の分子数C’と、入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの差異を補正後の差異|C’−Cg|として算出する補正前後差異算出部(図4の補正前後差異算出部34)と、
(構成要素4)
前記補正前の差異|C−Cg|と、前記補正後の差異|C’−Cg|とを前記単鎖核酸の種類i毎に比較し、前記補正前の差異|C−Cg|が前記補正後の差異|C’−Cg|より大きい場合、前記離脱速度係数補正部により補正された後の離脱速度係数β´ijを選択し、前記補正前の差異|C−Cg|が前記補正後の差異|C’−Cg|以下の場合、前記離脱速度係数補正部により補正される前の離脱速度係数βijを選択する離脱速度係数選択部(図4の離脱速度係数選択部35)と、
を更に備えることを特徴とする。
【0014】
<図4の離脱速度係数収束判定部36>
また、本発明の離脱速度係数算出装置(図1の離脱速度係数算出装置)における前記制御部(図4の制御部30)は、
前記離脱速度係数βij毎に、前記離脱速度係数補正部により補正される前の離脱速度係数βijと、前記離脱速度係数選択部(図4の離脱速度係数選択部35)により選択された離脱速度係数(βijまたはβ’ij)との差異に基づいて、前記離脱速度係数βijの推定結果が収束したか否かを判定する離脱速度係数収束判定部(図4の離脱速度係数収束判定部36)を備え、
前記単鎖核酸取得部は、前記離脱速度係数収束判定部が収束していないと判定した場合、前記離脱速度係数選択部により選択された各離脱速度係数(βijまたはβ’ij)に基づいて、前記単鎖核酸分子数推定装置から各単鎖核酸の分子数Cを取得することを特徴とする。
【0015】
前記離脱速度係数補正部は、乱数を用いて前記離脱速度係数を補正することを特徴とする。
【0016】
前記離脱速度係数の初期値βijは、新たな前記単鎖核酸の既知の分子数が得られた場合に、自装置でそれまでに得られている離脱速度係数であることを特徴とする。
【0017】
前記離脱速度係数の初期値βijは、自装置でそれまでに得られている離脱速度係数がない場合には、第1の単鎖核酸の配列と第2の単鎖核酸の配列の一致箇所の長さに依存した値であることを特徴とする。
【0018】
<単鎖核酸分子数推定方法>
また、本発明の単鎖核酸分子数推定方法は、単鎖核酸分子数推定装置(図3の単鎖核酸分子数推定装置20)が実行する単鎖核酸分子数推定方法であって、
(構成要素1)(式(6)参照)
第1の単鎖核酸の分子数Cと、
該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数Cと、
前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijと、
に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数Mijを前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新手順と、
(構成要素2)(式(7)参照)
前記二重鎖核酸分子数更新手順により更新された各二重鎖核酸の分子数Mijt+1と、
前記単鎖核酸分子数推定装置(図3の単鎖核酸分子装置20)の外部より与えられた核酸断片の総分子数Sと、
に基づいて、前記単鎖核酸の分子数Ct+1を前記単鎖核酸の種類i毎に更新する単鎖核酸分子数更新手順と、
(構成要素3)
前記単鎖核酸分子数更新手順により更新される前の単鎖核酸の分子数Cと、
前記単鎖核酸分子数更新手順により更新された後の単鎖核酸の分子数Ct+1との差異|Ct+1−C|を前記単鎖核酸の種類i毎に算出し、
前記各差異|Ct+1−C|に基づき、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定手順と、
を有することを特徴とする。
【0019】
<総分子数推定方法>
また、本発明の総分子数推定方法は、二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する離脱速度係数βijを示す情報が該二重鎖核酸の種類毎に記憶されている離脱速度係数記憶部(図2の離脱速度係数記憶部12)と、核酸断片が単鎖状態である単鎖核酸の分子数Cと該単鎖核酸を少なくともひとつ含む二重鎖核酸の分子数の和である核酸断片の総分子数Sを示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている総分子数記憶部(図2の総分子数記憶部11)と、を備える総分子数推定装置が実行する総分子数推定方法であって、
(構成要素1)(式(6)および式(7)参照)
前記離脱速度係数記憶部から前記離脱速度係数βijを示す情報を読み出し、
前記総分子数記憶部から総分子数Sを示す情報を読み出し、
前記読み出された離脱速度係数βijと前記読み出された総分子数Sとに基づいて、
溶液中に存在する単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類i毎に推定させる単鎖核酸分子数取得手順と、
(構成要素2)
前記推定された単鎖核酸の分子数Cと、
自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの
差異C−Cgを前記単鎖核酸の種類i毎に算出する単鎖核酸差異算出手順と、
(構成要素3)
該単鎖核酸の種類i毎の前記差異C−Cgに基づき、前記核酸断片の総分子数Sの推定結果が収束したか否かを判定する総分子数収束判定手順と、
(構成要素4)(式(5)参照)
前記総分子数収束判定部手順が収束していないと判定した場合、
前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数βijを示す情報を読み出し、
該読み出された各離脱速度係数βijと、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異C−Cgとに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数Sを前記単鎖核酸の種類i毎に補正し、補正した総分子数Sk+1を示す情報で、前記総分子数記憶部に記憶されている総分子数Sを示す情報を更新する総分子数補正手順と、
を有し、
前記単鎖核酸分子数取得手順は、前記総分子数記憶部から前記総分子数補正手順により更新された総分子数Sを示す情報を読み出し、該読み出した総分子数Sに基づき、前記単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類i毎に推定させることを特徴とする。
【0020】
<離脱速度係数算出方法>
本発明の離脱速度係数算出装置(図1の離脱速度係数算出装置1)が実行する離脱速度係数算出方法は、
(構成要素1)
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijのそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、核酸断片の分子数Sを単鎖核酸の種類毎に推定する前記総分子数推定方法と、
(構成要素2)
前記離脱速度係数βijのそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数Sとに基づき、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に推定する前記単鎖核酸分子数推定方法と、
(構成要素3)
前記推定された各単鎖核酸の分子数Cに基づき、前記離脱速度係数βijを前記二重鎖核酸の種類毎に算出する制御手順と、
を有することを特徴とする。
【0021】
<単鎖核酸分子数推定プログラム>
また、本発明の単鎖核酸分子数推定プログラムは、単鎖核酸分子数推定装置(図3の離脱速度係数算出装置13)であるコンピュータに、
(構成要素1)(式(6)参照)
第1の単鎖核酸の分子数Cと、
該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数Cと、
前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijと、
に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数Mijを前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新ステップと、
(構成要素2)(式(7)参照)
前記二重鎖核酸分子数更新ステップにより更新された各二重鎖核酸の分子数Mijt+1と、
前記単鎖核酸分子数推定装置(図3の単鎖核酸分子装置20)の外部より与えられた核酸断片の総分子数Sと、
に基づいて、前記単鎖核酸の分子数Ct+1を前記単鎖核酸の種類i毎に更新する単鎖核酸分子数更新ステップと、
(構成要素3)
前記単鎖核酸分子数更新ステップにより更新される前の単鎖核酸の分子数Cと、
前記単鎖核酸分子数更新ステップにより更新された後の単鎖核酸の分子数Ct+1との差異|Ct+1−C|を前記単鎖核酸の種類i毎に算出し、
前記各差異|Ct+1−C|に基づき、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定ステップと、
を実行させるための単鎖核酸分子数推定プログラムである。
【0022】
<総分子数推定プログラム>
また、本発明の総分子数推定プログラムは、二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する離脱速度係数βijを示す情報が該二重鎖核酸の種類毎に記憶されている離脱速度係数記憶部(図2の離脱速度係数記憶部12)と、核酸断片が単鎖状態である単鎖核酸の分子数Cと該単鎖核酸を少なくともひとつ含む二重鎖核酸の分子数の和である核酸断片の総分子数Sを示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている総分子数記憶部(図2の総分子数記憶部11)と、を備える総分子数推定装置としてのコンピュータに、
(構成要素1)(式(6)および式(7)参照)
前記離脱速度係数記憶部から前記離脱速度係数βijを示す情報を読み出し、
前記総分子数記憶部から総分子数Sを示す情報を読み出し、
前記読み出された離脱速度係数βijと前記読み出された総分子数Sとに基づいて、
溶液中に存在する単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類i毎に推定させる単鎖核酸分子数取得手順と、
(構成要素2)
前記推定された単鎖核酸の分子数Cと、
自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの
差異C−Cgを前記単鎖核酸の種類i毎に算出する単鎖核酸差異算出手順と、
(構成要素3)
該単鎖核酸の種類i毎の前記差異C−Cgに基づき、前記核酸断片の総分子数Sの推定結果が収束したか否かを判定する総分子数収束判定手順と、
(構成要素4)(式(5)参照)
前記総分子数収束判定部手順が収束していないと判定した場合、
前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数βijを示す情報を読み出し、
該読み出された各離脱速度係数βijと、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異C−Cgとに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数Sを前記単鎖核酸の種類i毎に補正し、補正した総分子数Sk+1を示す情報で、前記総分子数記憶部に記憶されている総分子数Sを示す情報を更新する総分子数補正手順と、
を実行させるための総分子数推定プログラムであって、
前記単鎖核酸分子数取得手順は、前記総分子数記憶部から前記総分子数補正手順により更新された総分子数Sを示す情報を読み出し、該読み出した総分子数Sに基づき、前記単鎖核酸の分子数Cを前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類i毎に推定させることを特徴とする総分子数推定プログラムである。
【0023】
<離脱速度係数算出プログラム>
また、本発明の離脱速度係数算出プログラムは、離脱速度係数算出装置(図1の離脱速度係数算出装置1)であるコンピュータに、
(構成要素1)
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijのそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、核酸断片の分子数Sを単鎖核酸の種類毎に推定する前記総分子数推定プログラムと、
(構成要素2)
前記離脱速度係数βijのそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数Sとに基づき、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に推定する前記単鎖核酸分子数推定プログラムと、
(構成要素3)
前記推定された各単鎖核酸の分子数Cに基づき、前記離脱速度係数βijを前記二重鎖核酸の種類毎に算出する制御ステップと、
を実行させるための離脱速度係数算出プログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、各単鎖核酸の分子数を精度良く推定することができる。また、推定各核酸断片の総分子数を推定することができるので、単鎖核酸の分子数と、核酸断片の総分子数とを明確に区別して推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態における離脱速度係数算出装置のブロック構成図である。
【図2】総分子数推定装置のブロック構成図である。
【図3】単鎖核酸分子数推定装置のブロック構成図である。
【図4】制御部のブロック構成図である。
【図5】離脱速度係数算出装置による離脱速度係数の推定の処理の流れを示したフローチャートである。
【図6】図5のステップS102またはステップS105における各単鎖核酸の分子数の取得の処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】図6のステップS201における総分子数推定装置による各核酸断片の総分子数の推定の処理の流れを示したフローチャートである。
【図8】図6のステップS202または図7のステップS303における単鎖核酸分子数推定装置による各単鎖核酸の分子数の推定の処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明(競合的ハイブリダイゼーションにおける遺伝子データの補正方法及び補正装置)の一実施形態である、単鎖核酸分子数推定装置、総分子数推定装置、離脱速度係数算出装置、単鎖核酸分子数推定方法、総分子数推定方法、離脱速度係数算出方法、単鎖核酸分子数推定プログラム、総分子数推定プログラムおよび離脱速度係数算出プログラムについて説明する。
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の概要について説明する。核酸断片は、主に、単鎖の状態と、相補的な塩基配列を持つ核酸鎖とが結合した二重鎖の状態で存在する。単鎖と二重鎖は物理化学的に平衡状態にあり、溶液の温度や塩濃度等とその塩基配列に基づく結合定数(離脱速度定数)に依存して、それぞれの割合が定まる。
【0028】
単鎖の結合は対になる核酸断片の塩基配列が完全に相補的な場合だけでなく、部分的な相補性であっても結合状態が生じ得るが、核酸を構成し相補性の要となる塩基は4種類しかなく、その配列パターンは核酸断片の長さが短ければ短いほど少なくなるため、部分的な相補鎖が偶然存在し、部分的な核酸断片結合が極めて発生し易くなる。従って、様々な塩基配列をもつ多数の核酸断片が同時に存在する系においては、完全特異的な核酸断片結合はむしろ少数で、部分特異的な核酸断片結合が大量に発生している。
【0029】
ある特定の核酸断片(ターゲット)の総分子数を測定する場合に、塩基配列が特異的(相補的)な核酸断片対が結合して二重鎖を形成させるなどの方法による単鎖核酸の量を計測する装置を用いると、溶液中において、完全特異的ならびに部分特異的な結合により、二重鎖核酸を形成し単鎖核酸の存在量が減少するため、既存のターゲットの総分子数を単鎖核酸の量と同一視する測定方法では、測定結果の定量性を低下させる。
【0030】
本発明では、溶液中における核酸断片の完全特異的ならびに部分特異的な結合により、二重鎖が形成されることによる影響を補正して、測定対象の核酸断片の存在量を高精度に測定することを可能とする単鎖核酸分子数推定装置、総分子数推定装置、離脱速度係数算出装置、単鎖核酸分子数推定方法、総分子数推定方法、離脱速度係数算出方法、単鎖核酸分子数推定プログラム、総分子数推定プログラムおよび離脱速度係数算出プログラムを提供する。
【0031】
<理論>
続いて、本発明の基礎となる理論について説明する。複数種類の単鎖核酸を含む溶液中では、単鎖核酸同士が結合していると考えられる。結合により増加する二重鎖核酸の量は、二つの単鎖核酸が遭遇する確率に依存し、それぞれの単鎖核酸の濃度に比例すると考えられる。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、Mijは、i(iは1からnまでの整数)番目の単鎖核酸とj(jは1からnまでの整数)番目の単鎖核酸が結合した二重鎖核酸の分子数を表し、C、Cは、それぞれi番目の単鎖核酸の分子数およびj番目の単鎖核酸の分子数を表す。ここで、Kは、結合の速度を表す定数であり、Vは溶液の体積である。単鎖核酸に解離することにより減少する二重鎖核酸の量は、核酸断片間の結合力に依存すると考えられ、減少する二重鎖核酸の量は、以下の式で表される。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、βijは、上述したようにi番目の種類の単鎖核酸とj番目の種類の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が解離する速度を示す離脱速度係数である。混合前のi番目の単鎖核酸単体の分子数をSとすると、i番目の種類の単鎖核酸の分子数Cは、以下の式により表される。
【0036】
【数3】

【0037】
ここで、右辺の第3項は、二重鎖核酸が同じ単鎖核酸の結合である場合に必要となる項である。すなわち、同じ単鎖核酸が結合して二重鎖核酸が生成されるときには、それと同時に、その単鎖核酸が2個減少するので、右辺には第3項の減算が必要となる。
混合後、十分な時間を経た後は平衡状態にあると考えられ、式(1)の右辺と式(2)の右辺が等しくなるので、以下の式が成立する。
【0038】
【数4】

【0039】
<離脱速度係数算出装置>
続いて、本発明の実施形態における離脱速度係数算出装置1について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態における離脱速度係数算出装置1のブロック構成図である。離脱速度係数算出装置1は、総分子数推定装置10と、単鎖核酸分子数推定装置20と、制御部30とを備える。
【0040】
制御部30は、離脱速度係数算出装置1の外部から入力された各単鎖核酸の既知の分子数Cg(iは単鎖核酸の種類を示すインデックスで、1からnまでの整数)を示す情報と、各離脱速度係数の初期値βijを示す情報とに基づいて、総分子数推定装置10に各単鎖核酸の既知の分子数Cgを示す情報と、各離脱速度係数βijを示す情報を出力する。制御部30は、総分子数推定装置10に上記出力した情報に基づいて、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に算出させる。
【0041】
制御部30は、単鎖核酸分子数推定装置20から各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を取得し、取得した各単鎖核酸の分子数Cを示す情報に基づいて、各離脱速度係数βijを算出し、算出した各離脱速度係数βijを示す情報を離脱速度係数算出装置1の外部へ出力する。
【0042】
総分子数推定装置10は、制御部30から入力された単鎖核酸の既知の分子数Cgを示す情報と、離脱速度係数βijを示す情報とに基づいて、核酸断片の総分子数Sを単鎖核酸の種類毎に算出する。
【0043】
総分子数推定装置10は、離脱速度係数βijを示す情報と算出された核酸断片の総分子数Sを示す情報とを単鎖核酸分子数推定装置20に出力し、単鎖核酸分子数推定装置20に上記出力した情報に基づいて、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に算出させる。
単鎖核酸分子数推定装置20は、算出した各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を制御部30に出力する。
【0044】
単鎖核酸分子数推定装置20は、総分子数推定装置10から入力された離脱速度係数βijを示す情報と核酸断片の総分子数Sを示す情報とに基づいて、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に算出する。単鎖核酸分子数推定装置20は、算出した各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を総分子数推定装置10と制御部30とへ出力する。
【0045】
以上の処理をまとめると、離脱速度係数算出装置1の総分子数推定装置10は、二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijのそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、各核酸断片の分子数Sを単鎖核酸の種類毎に推定する。単鎖核酸分子数推定装置20は、前記離脱速度係数βijのそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数Sとに基づき、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類毎に推定する。制御部30は、前記推定された各単鎖核酸の分子数Cに基づき、前記離脱速度係数βijを前記二重鎖核酸の種類毎に算出する。
【0046】
<総分子数推定装置10>
続いて、図2を用いて、総分子数推定装置10を説明する。図2は、総分子数推定装置10のブロック構成図である。総分子数推定装置10は、総分子数記憶部11と、離脱速度係数記憶部12と、単鎖核酸分子数取得部13と、単鎖核酸差異算出部14と、総分子数収束判定部15と、総分子数補正部16とを備える。
【0047】
総分子数記憶部11には、2回目以降のステップk(k≧1)では、総分子数補正部16により記憶させられることにより、補正後の各核酸断片の総分子数を示す情報Sが記憶されている。
【0048】
換言すると、総分子数記憶部11には、核酸断片が単鎖状態である単鎖核酸の分子数Cと該単鎖核酸を少なくともひとつ含む二重鎖核酸の分子数(MijとMiiとの和)との和である核酸断片の総分子数Sを示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている。
離脱速度係数記憶部12には、制御部30により記憶させられることにより、二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する離脱速度係数βijを示す情報が該二重鎖核酸の種類毎に記憶されている。
【0049】
単鎖核酸分子数取得部13は、離脱速度係数記憶部12から各離脱速度係数βijを示す情報を読み出す。
単鎖核酸分子数取得部13は、最初のステップ(k=0、kはステップ数)では、制御部30から入力された各単鎖核酸の既知の分子数Cgを示す情報を取得する。単鎖核酸分子数取得部13は、各単鎖核酸の既知の分子数Cgを、各核酸断片の総分子数を示す情報(iは単鎖核酸の種類を示すインデックスで1からnまでの整数)とする。
【0050】
単鎖核酸分子数取得部13は、2回目以降(k≧1)のステップにおいて、総分子数記憶部11から各核酸断片の総分子数Sを示す情報を各核酸断片の総分子数Sを示す情報として読み出す。
【0051】
単鎖核酸分子数取得部13は、各離脱速度係数βijを示す情報と、各核酸断片の総分子数を示す情報Sとを示す情報とを単鎖核酸分子数推定装置20に出力することにより、単鎖核酸分子数推定装置20に各単鎖核酸の分子数Cを算出させる。
また、単鎖核酸分子数取得部13は、2回目以降のステップk(k≧1)では、総分子数記憶部11から後述する総分子数補正部16により更新された各総分子数Sを示す情報を読み出し、該読み出した各総分子数Sに基づき、単鎖核酸分子数推定装置20に単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類i毎に推定させる。
【0052】
単鎖核酸分子数取得部13は、単鎖核酸分子数推定装置20により算出された各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を取得し、取得した各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を単鎖核酸差異算出部14に出力する。
【0053】
単鎖核酸差異算出部14は、制御部30から、自装置の外部から入力された各単鎖核酸の既知の分子数Cgを示す情報を受け取る。単鎖核酸差異算出部14は、単鎖核酸分子数推定装置20により推定された単鎖核酸の分子数Cと、自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの差異C−Cgを単鎖核酸の種類i毎に算出する。単鎖核酸差異算出部14は、算出した差異C−Cgを示す情報を総分子数収束判定部15に出力する。
【0054】
総分子数収束判定部15は、単鎖核酸の種類毎の上記差異C−Cgに基づき、前記核酸断片の総分子数Sの推定結果が収束したか否かを判定するSの推定結果が収束したか否かを判定する。
【0055】
具体的には、例えば、総分子数収束判定部15は、単鎖核酸の種類毎の差異C−Cgの絶対値が全て所定の閾値以下である場合、核酸断片の総分子数の推定結果が収束したと判定する。一方、総分子数収束判定部15は、単鎖核酸の種類毎の差異C−Cgの絶対値のうち1つでも所定の閾値を超える場合、核酸断片の総分子数の推定結果が収束していないと判定する。
【0056】
総分子数収束判定部15は、核酸断片の総分子数の推定結果が収束したと判定した場合、総分子数記憶部11から各核酸断片の総分子数Sを示す情報を読み出し、読み出した各核酸断片の総分子数Sを示す情報として出力する。
一方、総分子数収束判定部15は、核酸断片の総分子数の推定結果が収束していないと判定した場合、総分子数の推定結果が収束していない旨を示す情報を総分子数補正部16に出力する。
【0057】
なお、総分子数収束判定部15は、ステップ数が予め決められた所定の数に到達すれば、各核酸断片の総分子数Sの推定結果が収束したと判定してもよい。これにより、総分子数推定装置10は、全ての差異C−Cgが所定の閾値以下にならなくてもステップ数が所定の数に到達すれば収束したと判定するので、計算時間を予め決められた所定の範囲に収めることができる。
【0058】
総分子数補正部16は、総分子数収束判定部15から総分子数の推定結果が収束していない旨を示す情報を受け取った場合、すなわち、総分子数収束判定部15が収束していないと判定した場合、前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数βijを示す情報を読み出す。
総分子数補正部16は、該読み出された各離脱速度係数βijと、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異C−Cgとに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数Sを前記単鎖核酸の種類i毎に補正し、補正した総分子数Sk+1を示す情報で、総分子数記憶部11に記憶されている総分子数Sを示す情報を更新する。
【0059】
具体的には、例えば、総分子数補正部16は、以下の式に従って、k番目のステップにおける単鎖核酸の種類iの単鎖核酸を含む核酸断片の総分子数の補正量ΔSを算出し、算出した補正量ΔSで、単鎖核酸の種類iの核酸断片の総分子数Sを補正する。
【0060】
【数5】

【0061】
ここで、sは所定の値であり、Cはk番目のステップにおいて推定されたj番目の単鎖核酸の分子数、Cgはj番目の単鎖核酸の既知の分子数である。
【0062】
<単鎖核酸分子数推定装置>
続いて、単鎖核酸分子数推定装置20について、図3を用いて説明する。図3は、単鎖核酸分子数推定装置20のブロック構成図である。単鎖核酸分子数推定装置20は、二重鎖核酸分子数更新部21と、単鎖核酸分子数更新部22と、単鎖核酸収束判定部23と、加速係数算出部24と、単鎖核酸分子数記憶部25と、二重鎖核酸分子数記憶部26とを備える。
【0063】
最初のステップ(t=0、tはステップ数を表す整数)において、二重鎖核酸分子数更新部21は、単鎖核酸分子数取得部13から単鎖核酸の種類毎の総分子数の初期値Sを示す情報と各離脱速度係数を示す情報とを取得する。最初のステップ(t=0)では、溶液中には、各二重鎖核酸が存在せず、各単鎖核酸のみが存在している。すなわち、各総分子数の初期値Sは、それぞれの単鎖核酸の分子数である。従って、最初のステップ(t=0)において、二重鎖核酸分子数更新部21は、単鎖核酸の分子数の初期値CをSに設定する。また、二重鎖核酸分子数更新部21は、各二重鎖核酸の分子数の初期値Mijを0に設定する。
【0064】
2回目以降のステップでは、二重鎖核酸分子数更新部21は、各二重鎖核酸の分子数Mijを示す情報を二重鎖核酸分子数記憶部26から読み出す。また、二重鎖核酸分子数更新部21は、加速係数算出部24により算出された収束計算を加速するための加速係数sijを示す情報を取得する。
【0065】
また、二重鎖核酸分子数更新部21は、後述する単鎖核酸収束判定部23により更新された第1の種類iの単鎖核酸の分子数Cを示す情報を、t番目のステップの第1の種類iの単鎖核酸の分子数Cを示す情報として、単鎖核酸分子数記憶部25から読み出す。二重鎖核酸分子数更新部21は、後述する単鎖核酸収束判定部23により更新された第2の種類jの単鎖核酸の分子数Cを示す情報を、t番目のステップの第2の種類jの単鎖核酸の分子数Cを示す情報として、単鎖核酸分子数記憶部25から読み出す。
【0066】
二重鎖核酸分子数更新部21は、下記の式に従って、t+1番目のステップにおける各二重鎖核酸の分子数Mijt+1を算出する。
【0067】
【数6】

【0068】
ここで、sijは、収束計算を加速するための加速係数であり、sijの算出方法については、後述することとする。
二重鎖核酸分子数更新部21は、全てのiとjの組み合わせ分、式(6)に従って、各二重鎖核酸の分子数Mijt+1を算出する。
【0069】
最初のステップ(t=0)においては、上式(6)において、右辺第1項のMijが0であり、CおよびCがSであるから、二重鎖核酸分子数更新部21は、各二重鎖核酸の分子数をMij=sij×K×(S×S)/βijに従い、算出する。
【0070】
上記処理についてまとめると、二重鎖核酸分子数更新部21は、第1の単鎖核酸の分子数Cと、該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数Cと、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijと、に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数Mijを前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する。
【0071】
また、二重鎖核酸分子数更新部21は、単鎖核酸分子数更新部22により更新された第1の単鎖核酸の分子数Ct+1と、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数Ct+1と、加速係数算出部24により算出された第1の単鎖核酸と第2の単鎖核酸の組み合わせ毎の加速係数sijt+1と、第1の単鎖核酸と第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数βijと、に基づき、二重鎖核酸の分子数Mijt+1を第1の単鎖核酸と第2の単鎖核酸の組み合わせ毎に更新する。
【0072】
二重鎖核酸分子数更新部21は、更新した各二重鎖核酸の分子数Mijt+1を示す情報を単鎖核酸分子数更新部22に出力する。また、二重鎖核酸分子数更新部21は、更新した各二重鎖核酸の分子数Mijt+1を示す情報を二重鎖核酸分子数記憶部26に記憶させる。
【0073】
単鎖核酸分子数更新部22は、二重鎖核酸分子数更新部21により更新された各二重鎖核酸の分子数Mijt+1と、単鎖核酸分子装置20の外部より与えられた核酸断片の総分子数Sと、に基づいて、単鎖核酸の分子数Ct+1を単鎖核酸の種類i毎に更新する。
【0074】
具体的には、例えば、単鎖核酸分子数更新部22は、各核酸断片の総分子数Sを示す情報を単鎖核酸分子数取得部13から読み出す。単鎖核酸分子数更新部22は、式(3)に基づく以下の式に従って、単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類i毎に更新する。
【0075】
【数7】

【0076】
すなわち、単鎖核酸分子数更新部22は、単鎖核酸の種類iの核酸断片の総分子数Sから、その単鎖核酸の種類iの単鎖核酸を少なくともひとつ含む二重鎖核酸の分子数(ΣMij(i=1からnまでの和)とMiiとの和)を減算することにより、その単鎖核酸の種類iの単鎖核酸の分子数Ct+1を算出する。単鎖核酸分子数更新部22は、単鎖核酸の種類i全部について、上記算出を行うことにより各単鎖核酸の分子数Ct+1を算出する。
【0077】
単鎖核酸分子数更新部22は、更新した各単鎖核酸の分子数Ct+1を示す情報を単鎖核酸収束判定部23に出力する。
【0078】
単鎖核酸収束判定部23は、単鎖核酸分子数更新部22により更新される前の単鎖核酸の分子数Cと、単鎖核酸分子数更新部22により更新された後の単鎖核酸の分子数Ct+1との差異|Ct+1−C|を単鎖核酸の種類i毎に算出する。
単鎖核酸収束判定部23は、各差異|Ct+1−C|に基づき、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束したか否かを判定する。
【0079】
具体的には、例えば、単鎖核酸収束判定部23は、全ての差異|Ct+1−C|が所定の閾値以下の場合、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束したと判定する。そして、単鎖核酸収束判定部23は、更新された各単鎖核酸の分子数Ct+1を示す情報を単鎖核酸分子数取得部13に出力する。
【0080】
一方、差異|Ct+1−C|のうちいずれかひとつでも所定の閾値を超える場合、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束していないと判定する。そして、単鎖核酸収束判定部23は、更新した各単鎖核酸の分子数Ct+1を示す情報を加速係数算出部24に出力する。また、単鎖核酸収束判定部23は、更新した各単鎖核酸の分子数Ct+1を示す情報を各単鎖核酸の分子数Cとして単鎖核酸分子数記憶部25に記憶させる。
【0081】
なお、単鎖核酸収束判定部23は、ステップ数が予め決められた所定の数に到達すれば、各単鎖核酸の分子数Cの推定結果が収束したと判定してもよい。これにより、単鎖核酸分子数推定装置20は、全ての差異|Ct+1−C|が所定の閾値以下にならなくてもステップ数が所定の数に到達すれば収束したと判定するので、計算時間を予め決められた所定の範囲に収めることができる。
【0082】
続いて、加速係数sijについて説明する。核酸断片同士の結合力が弱いために、平衡後でも単鎖核酸の濃度が初期濃度との差が小さい場合には、各単鎖核酸の分子数Ct+1は、速やかに収束する。しかし、核酸断片同士の結合力が強いために、平衡後における単鎖核酸の濃度と初期濃度との差が大きく二重鎖核酸の割合が高い場合には、単鎖核酸の分子数の推定過程で単鎖核酸の分子数がある値を中心として振動するといった現象が発生し易くなる。その振動を抑制するために、加速係数算出部24は、各単鎖核酸の分子数が少なくなるほど、式(6)中の加速係数sijを小さくする。
【0083】
加速係数算出部24は、単鎖核酸収束判定部23が収束していないと判定した場合、単鎖核酸分子数更新部22により更新された各単鎖核酸の分子数Ct+1に基づき、二重鎖核酸の種類毎の加速係数sijt+1を算出する。
具体的には、加速係数算出部24は、単鎖核酸収束判定部23から更新された各単鎖核酸の分子数Ct+1を示す情報を受け取ると、各単鎖核酸の分子数Ct+1に基づき、各加速係数sijt+1をそれぞれ算出する。例えば、加速係数算出部24は、以下の式に従って、各加速係数sijを算出する。
【0084】
【数8】

【0085】
ここで、Sは単鎖核酸の種類iの単鎖核酸の総分子数であり、Sは単鎖核酸の種類jの単鎖核酸の総分子数である。加速係数sijは、最初のステップ(t=0)では1である。
加速係数算出部24は、式(8)に従い、種類iの単鎖核酸の分子数Cまたは種類jの単鎖核酸の分子数Cが少なくなるほど、加速係数sijを小さくする。
【0086】
これにより、加速係数sijが小さくなるほど、式(6)の右辺の第2項の数が小さくなるので、二重鎖核酸分子数更新部21による二重鎖核酸の分子数Mijの変更量が減少する。その結果、二重鎖核酸の分子数Mijの変更量が減少すると、単鎖核酸分子数更新部22による単鎖核酸の分子数の変更量も小さくなるので、単鎖核酸の分子数の推定過程で単鎖核酸の分子数がある値を中心として振動するのを抑えることができる。
【0087】
なお、加速係数算出部24は、各単鎖核酸の分子数Cと、単鎖核酸同士の結合速度を示す結合速度定数Kの関係に基づき、加速係数sijを調整してもよい。
加速係数算出部24は、算出した各加速係数sijを示す情報を二重核酸分子数更新部21に出力する。
【0088】
<制御部>
続いて、制御部30の処理について説明する。図4は、制御部30のブロック構成図である。制御部30は、単鎖核酸取得部31と、離脱速度係数補正部32と、離脱係数記憶部33と、補正前後差異算出部34と、離脱速度係数選択部35と、離脱速度係数収束判定部36とを備える。
【0089】
単鎖核酸取得部31は、総分子数推定装置10に、離脱速度係数βijと単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、核酸断片の総分子数Sを単鎖核酸の種類i毎に推定させ、単鎖核酸推定装置20に、該核酸断片の総分子数Sに対応する単鎖核酸の分子数Cを単鎖核酸の種類i毎に推定させる。
【0090】
具体的には、例えば、最初のステップ(l=0)では、単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数算出装置1の外部から各離脱速度係数の初期値βijを示す情報と、各単鎖核酸の既知の分子数Cgを取得する。そして、単鎖核酸取得部31は、各離脱速度係数の初期値βijを各離脱速度係数βijを示す情報として、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとともに総分子数推定装置10に出力する。
【0091】
単鎖核酸取得部31は、その各離脱速度係数βijと各単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、総分子数推定装置10に、各単鎖核酸の種類毎の核酸断片の総分子数Sを算出させる。
また、単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数収束判定部36が収束していないと判定した場合、離脱速度係数選択部35により選択された各離脱速度係数βijl+1に基づいて、単鎖核酸分子数推定装置20から各単鎖核酸の分子数Cを取得する。
【0092】
具体的には、例えば、離脱速度係数収束判定部36が収束していないと判定した場合、単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数選択部35により選択された各離脱速度係数
βijl+1を示す情報を、離脱速度係数収束部26から受け取ると、選択された各離脱速度係数βijl+1を示す情報を、各離脱速度係数βijを示す情報として、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとともに総分子数推定装置10に出力し、総分子数推定装置10に、各単鎖核酸の種類毎の核酸断片の総分子数Sを算出させる。
【0093】
2回目以降のステップ(l≧1)では、単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数収束判定部から入力された各離脱速度係数βijl+1を示す情報を、各離脱速度係数βijを示す情報として、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとともに総分子数推定装置10に出力する。
【0094】
単鎖核酸取得部31は、単鎖核酸分子数推定装置20に、算出された各核酸断片の総分子数Sと、各離脱速度係数βijとに基づいて、各単鎖核酸の分子数Cを算出させる。
単鎖核酸取得部31は、単鎖核酸分子数推定装置20から算出された各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を取得する。
【0095】
単鎖核酸取得部31は、単鎖核酸分子数推定装置20から取得した各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を補正前の単鎖核酸の分子数Cを示す情報として補正速度係数補正部32と補正前後差異算出部34とに出力する。また、単鎖核酸取得部31は、各離脱速度係数βijを示す情報を補正速度係数補正部32に出力する。
【0096】
また、単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数補正部32により補正された後の離脱速度係数β’ijに基づき、総分子数推定装置10に総分子数S’を単鎖核酸の種類i毎に推定させ、単鎖核酸推定装置20に該総分子数S’に対応する単鎖核酸の分子数C’を単鎖核酸の種類i毎に推定させる。
【0097】
具体的には、例えば、単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数補正部32から、離脱速度係数補正部32により補正された各離脱速度係数β´ijを取得する。単鎖核酸取得部31は、離脱速度係数補正部32により補正された各離脱速度係数β´ijを示す情報を、各離脱速度係数βijを示す情報として、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとともに総分子数推定装置10に出力する。単鎖核酸取得部31は、その各離脱速度係数βijと各単鎖核酸の既知の分子数Cgとに基づき、総分子数推定装置10に、各単鎖核酸の種類毎の核酸断片の総分子数Sを算出させる。
【0098】
単鎖核酸取得部31は、単鎖核酸分子数推定装置20に、算出された各核酸断片の総分子数Sと、各離脱速度係数βijとに基づいて、各単鎖核酸の分子数Cを算出させる。単鎖核酸取得部31は、単鎖核酸分子数推定装置20から算出された各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を取得する。
【0099】
単鎖核酸取得部31は、単鎖核酸分子数推定装置20から取得した各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を、補正後の単鎖核酸の分子数C’を示す情報として補正前後差異算出部34に出力する。
【0100】
離脱速度係数補正部32は、単鎖核酸取得部31により取得された単鎖核酸の分子数Cを示す情報を受け取る。離脱速度係数補正部32は、単鎖核酸の種類i毎に、単鎖核酸取得部31により取得された単鎖核酸の分子数Cと、自装置の外部から入力された単鎖核酸の既知の分子数Cgとを前記単鎖核酸の種類i毎に比較する。
【0101】
離脱速度係数補正部32は、取得された単鎖核酸の分子数Cが入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgより小さい場合、該単鎖核酸の前記離脱速度係数βijを大きくし、取得された単鎖核酸の分子数Cが、入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cg以上の場合、該単鎖核酸の離脱速度係数βijを小さくする。
【0102】
なお、離脱速度係数補正部32は、乱数を用いて離脱速度係数を補正してもよい。その場合、例えば、離脱速度係数補正部32は、取得された単鎖核酸の分子数Cが入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgより小さい場合、該単鎖核酸の前記離脱速度係数βijに所定の値と乱数とを加算する。一方、取得された単鎖核酸の分子数Cが、入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cg以上の場合、離脱速度係数補正部32は、該単鎖核酸の離脱速度係数βijを所定の値で減算し、乱数を加算する。
これにより、離脱速度係数補正部32は、離脱速度係数βijに更に乱数を加算することにより、離脱速度係数βijが局所的に最適な値に陥ることを防ぐことができる。
【0103】
離脱速度係数補正部32は、補正された後の離脱速度係数β’ijを示す情報を単鎖核酸取得部31に出力する。これにより、単鎖核酸取得部31は、補正された後の離脱速度係数β’ijに基づき、単鎖核酸分子数推定装置20に補正後の各単鎖核酸の分子数C’を示す情報を推定させることができる。
【0104】
また、離脱速度係数補正部32は、補正される前の離脱速度係数β’ijを示す情報と、補正された後の離脱速度係数β’ijを示す情報とを離脱速度係数記憶部33に記憶させる。
【0105】
離脱速度係数記憶部33には、離脱速度係数算出装置1の外部から入力された離脱速度係数の初期値βijを示す情報が記憶される。離脱速度係数の初期値βijは、新たな前記単鎖核酸の既知の分子数が得られた場合に、自装置でそれまでに得られている離脱速度係数である。前記離脱速度係数の初期値βijは、自装置でそれまでに得られている離脱速度係数がない場合には、第1の単鎖核酸の配列と第2の単鎖核酸の配列の一致箇所の長さに依存した値である。
【0106】
補正前後差異算出部34は、前記単鎖核酸の種類i毎に、前記補正前の単鎖核酸の分子数Cと、離脱速度係数算出装置1の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの差異を補正前の差異|C−Cg|として算出する。また、補正前後差異算出部34は、単鎖核酸の種類i毎に、補正後の単鎖核酸の分子数C’と、離脱速度係数算出装置1の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数Cgとの差異を補正後の差異|C’−Cg|として算出する。
【0107】
補正前後差異算出部34は、算出した補正前の差異|C−Cg|を示す情報と、補正後の差異|C’−Cg|を示す情報と、を離脱速度係数選択部35に出力する。
【0108】
離脱速度係数選択部35は、補正前の差異|C−Cg|と、補正後の差異|C’−Cg|とを単鎖核酸の種類i毎に比較する。補正前の差異|C−Cg|が補正後の差異|C’−Cg|より大きい場合、離脱速度係数選択部35は、単鎖核酸の種類iの単鎖核酸が二重鎖核酸から離脱する離脱速度係数βi1、…、βinとして、それぞれ離脱速度係数補正部32により補正された後の各離脱速度係数β’i1、…、β’inを単鎖核酸の種類i毎に選択する。
【0109】
一方、補正前の差異|C−Cg|が補正後の差異|C’−Cg|以下の場合、離脱速度係数選択部35は、単鎖核酸の種類iの単鎖核酸が二重鎖核酸から離脱する離脱速度係数βi1、…、βinとして、それぞれ離脱速度係数補正部32により補正される前の離脱速度係数βi1、…、βinを単鎖核酸の種類i毎に選択する。
【0110】
離脱速度係数選択部35は、補正される前の離脱速度係数βijを選択したか補正された後の離脱速度係数β´ij選択したかを示す選択情報を離脱速度係数収束判定部36に出力する。
【0111】
離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数選択部35から入力された選択情報に基づき、離脱速度係数選択部35が選択した方の離脱速度係数(βijまたはβ’ij)を示す情報を読み出す。
離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数βij毎に、離脱速度係数補正部32により補正される前の離脱速度係数βijと、離脱速度係数選択部35により選択された離脱速度係数(βijまたはβ’ij)との差異に基づいて、離脱速度係数βijの推定結果が収束したか否かを判定する。
【0112】
具体的には、例えば、離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数補正部32により補正される前の離脱速度係数βijと、離脱速度係数選択部35により選択された離脱速度係数(βijまたはβ’ij)との差異の全てが所定の閾値より小さい場合、離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数βijの推定結果が収束したと判定する。そして、離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数選択部35により選択された離脱速度係数(βijまたはβ’ij)を、離脱速度係数βijを示す情報として、離脱速度係数算出装置1の外部に出力する。
【0113】
一方、離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数補正部32により補正される前の離脱速度係数βijと、離脱速度係数選択部35により選択された離脱速度係数(βijまたはβ’ij)との差異のいずれか1つでも所定の閾値以上の場合、離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数βijの推定結果が収束していないと判定する。そして、離脱速度係数収束判定部36は、離脱速度係数選択部35により選択された離脱速度係数(βijまたはβ’ij)を、次のステップ(l+1)における離脱速度係数βijl+1を示す情報として、単鎖核酸取得部31に出力する。
【0114】
図5は、離脱速度係数算出装置1による離脱速度係数の推定の処理の流れを示したフローチャートである。まず、離脱速度係数算出装置1の制御部30は、各離脱速度係数の初期値βijを示す情報と各単鎖核酸の既知の分子数Cgを示す情報を離脱速度係数算出装置1の外部から取得する(ステップS101)。
次に、単鎖核酸取得部31は、補正前の各単鎖核酸の分子数Cを取得する(ステップS102)。次に、補正前後差異算出装置34は、各補正前の差異|C−Cg|を算出する(ステップS103)。
【0115】
次に、離脱速度係数補正部32は、離脱速度係数を補正する(ステップS104)。次に、単鎖核酸取得部31は、補正後の各単鎖核酸の分子数C’を取得する(ステップS105)。次に、補正前後差異算出装置34は、各補正後の差異|C’−Cg|を算出する(ステップS106)。
【0116】
次に、離脱速度係数選択部35は、補正後の差異が補正前の差異より小さくなったか否か判定する(ステップS107)。補正前の差異より補正後の差異が小さくなった場合(ステップS107 YES)、離脱速度係数選択部35は、単鎖核酸の種類iの単鎖核酸が二重鎖核酸から離脱する離脱速度係数βi1、…、βinとして、それぞれ補正後の離脱速度係数β’i1、…、β’inを選択し、ステップS110の処理に進む(ステップS108)。
【0117】
一方、補正後の差異が補正前の差異以上の場合(ステップS107 NO)、離脱速度係数選択部35は、単鎖核酸の種類iの単鎖核酸が二重鎖核酸から離脱する離脱速度係数βi1、…、βinとして、それぞれ補正前の離脱速度係数βi1、…、βinを選択し、ステップS110の処理に進む(ステップS109)。
【0118】
次に、離脱速度係数選択部35は、全ての単鎖核酸の種類iで補正前の差異と補正後の差異とを比較したか否か判定する(ステップS110)。全ての単鎖核酸の種類iで補正前の差異と補正後の差異とを比較していない場合(ステップS110 NO)、離脱速度係数選択部35は、iを1増やして、ステップS107の処理に戻る。
一方、全ての単鎖核酸の種類iで補正前の差異|C−Cg|と補正後の差異|C’−Cg|とを比較した場合(ステップS110 YES)、離脱速度係数収束判定部36は、補正前の差異|C−Cg|と補正後の差異|C’−Cg|との差が、全ての単鎖核酸の種類iで所定の閾値以下か否か判定する(ステップS112)。
【0119】
離脱速度係数収束判定部36は、補正前の差異|C−Cg|と補正後の差異|C’−Cg|との差が、全ての単鎖核酸の種類iで所定の閾値以下でない場合(ステップS112 NO)、離脱速度係数収束判定部36は、単鎖核酸取得部31が保持する離脱速度係数βijを選択した離脱速度係数βijl+1で更新し(ステップS113)、ステップS102の処理に戻る。
【0120】
離脱速度係数収束判定部36は、補正前の差異|C−Cg|と補正後の差異|C’−Cg|との差が、全ての単鎖核酸の種類iで所定の閾値以下である場合(ステップS112 YES)、離脱速度係数収束判定部36は、各離脱速度係数βijを外部へ出力する(ステップS114)。以上で、本フローチャートの処理を終了する。
【0121】
図6は、図5のステップS102またはステップS105における各単鎖核酸の分子数の取得の処理の流れを示したフローチャートである。まず、総分子数推定装置10は各核酸断片の総分子数Sを推定する(ステップS201)。次に、推定された各核酸断片の総分子数Sに基づいて、単鎖核酸分子数推定装置20は、各単鎖核酸の分子数Cを推定し、単鎖核酸取得部31に各単鎖核酸の分子数Cを示す情報を出力する(ステップS202)。以上で、本フローチャートの処理を終了する。
【0122】
以上により、本実施形態における離脱速度係数算出装置1は、総分子数推定装置10と、単鎖核酸分子数推定装置20とを使う構成にすることにより、各単鎖核酸の分子数Cを取得することができ、その各単鎖核酸の分子数Cを用いて、各離脱速度係数βijを推定することができるので、ゲノミクス解析を飛躍的に効率化し、かつ精密化することができる。
【0123】
また、算出した各離脱速度係数βijを総分子数推定装置10が各核酸断片の総分子数Sを推定する際に用いるこることができるので、総分子数推定装置10は、精度良く各核酸断片の総分子数Sを推定することができる。
同様に、算出した各離脱速度係数βijを単鎖核酸分子数推定装置20が各単鎖核酸の分子数Cを推定する際に用いるこることができるので、単鎖核酸分子数推定装置20は、精度良く各単鎖核酸の分子数Cを推定することができる。
【0124】
図7は、図6のステップS201における総分子数推定装置10による各核酸断片の総分子数の推定の処理の流れを示したフローチャートである。まず、単鎖核酸分子数取得部13は、離脱速度係数記憶部12から各離脱速度係数βijを読み出す(ステップS301)。次に、単鎖核酸分子数取得部13は、一例として制御部30から入力された各単鎖核酸の既知の分子数Cgを各核酸断片の総分子数Sとして取得する(ステップS302)。
【0125】
次に、単鎖核酸分子数推定装置20が、各単鎖核酸の分子数Cを推定する(ステップS303)。次に、単鎖核酸差異算出部14は、単鎖核酸分子数推定装置20により推定された各単鎖核酸の分子数Cと、各単鎖核酸の既知の分子数Cgとの差異を算出する(ステップS304)。
【0126】
総分子数収束判定部15は、算出された差異の全てが所定の閾値以下であるか否か判定する(ステップS305)。算出された差異の全てが所定の閾値以下でない場合(ステップS305 NO)、総分子数補正部16は、各核酸断片の総分子数を補正し、ステップS303の処理に戻る。
一方、算出された差異の全てが所定の閾値以下の場合(ステップS305 YES)、総分子数収束判定部15は、各核酸断片の総分子数を示す情報を外部へ出力する(ステップS307)。以上で、本フローチャートの処理を終了する。
【0127】
以上により、本実施形態における総分子数推定装置10は、単鎖核酸分子数推定装置20を使うことにより各単鎖核酸の分子数を取得し、取得した各単鎖核酸の分子数を用いて、各核酸断片の総分子数Sを推定する。このような構成を取ることにより、単鎖核酸分子数推定装置20は、単鎖核酸分子数推定装置20により推定された各単鎖核酸の分子数と、既知の単鎖核酸の分子数との差異を小さくするように各核酸断片の総分子数Sを補正することにより、各核酸断片の総分子数Sを精度良く推定することができるので、ゲノミクス解析を飛躍的に効率化し、かつ精密化することができる。
【0128】
図8は、図6のステップS202または図7のステップS303における単鎖核酸分子数推定装置20による各単鎖核酸の分子数の推定の処理の流れを示したフローチャートである。まず、二重鎖核酸分子数更新部21は、各二重鎖核酸分子数を更新する(ステップS401)。次に、単鎖核酸分子数更新部22は、各単鎖核酸分子数を更新する(ステップS402)。次に、単鎖核酸収束判定部23は、単鎖核酸分子数更新部22における各単鎖核酸の分子数の変更量の全てが所定の閾値以下か否か判定する(ステップS403)。
【0129】
各単鎖核酸の分子数の変更量が1つでも所定の閾値を超える場合(ステップS403 NO)、加速係数算出部24は、加速係数を更新し(ステップS404)、単鎖核酸分子数推定装置20は、ステップS401の処理に戻る。
一方、単鎖核酸分子数更新部22における各単鎖核酸の分子数の変更量の全てが所定の閾値以下の場合(ステップS403 YES)、単鎖核酸分子数推定装置20は、各単鎖核酸の分子数を示す情報を外部へ出力する(ステップS405)。以上で、本フローチャートの処理を終了する。
【0130】
以上により、本実施形態における単鎖核酸分子数推定装置20は、各二重鎖核酸の分子数を更新し、更新した二重鎖核酸の分子数に基づいて各単鎖核酸の分子数を更新し、その更新の際の単鎖核酸分子数の変更量に基づいて、各単鎖核酸の分子数の推定が収束したか否か判定することにより、各単鎖核酸の分子数を推定することができる。このような構成を取ることにより、各単鎖核酸の分子数の推定が収束するまで、各二重鎖核酸の分子数の更新し各単鎖核酸の分子数を更新するので、各単鎖核酸の分子数を精度良く推定することができる。これにより、ゲノミクス解析を飛躍的に効率化し、かつ精密化することができる。
【0131】
以上、本発明によれば、本実施形態で示した多溶質結合平衡式を利用して、既存の測定データを対象に、元のデータに含まれる目的外の核酸断片結合に起因して発生する誤差を除去して、各単鎖核酸の分子数および各核酸断片の分子数を高精度に得ることができる。
また、特に先行技術が対応できなかった、複雑系での飽和現象による誤差補正や、クロスハイブリダイゼーションに起因する誤差の影響が大きかった少量しか存在しない核酸断片の定量性能の著しい向上が可能となる。
【0132】
これにより先行技術では成し得なかった高精度の定量を行うことができ、医学・生物学の分野ではゲノミクス解析を飛躍的に効率化し、精密化する。さらに、効果および安全性の高い核酸医薬や遺伝子治療法の開発・臨床応用を強力に推進するほか、情報工学の分野においても次世代の超並列計算機の開発に寄与することができる。
【0133】
また、本発明の実施形態における離脱速度係数算出装置1、総分子数推定装置10または単鎖核酸分子数推定装置20の機能またはその機能の一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、その機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバーやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定期間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のコンピュータプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0134】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0135】
1 離脱速度係数算出装置
10 総分子数推定装置
11 総分子数記憶部
12 離脱速度係数記憶部
13 単鎖核酸分子数取得部
14 単鎖核酸差異算出部
15 総分子数収束判定部
16 総分子数補正部
20 単鎖核酸分子数推定装置
21 二重鎖核酸分子数更新部
22 単鎖核酸分子数更新部
23 単鎖核酸収束判定部
24 加速係数算出部
25 単鎖核酸分子数記憶部
30 制御部
31 単鎖核酸取得部
32 離脱速度係数補正部
33 離脱速度係数記憶部
34 補正前後差異算出部
35 離脱速度係数選択部
36 離脱速度係数収束判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の単鎖核酸の分子数と、該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数と、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数と、に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数を前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新部と、
前記二重鎖核酸分子数更新部により更新された各二重鎖核酸の分子数と、自装置の外部より与えられた核酸断片の総分子数と、に基づいて、前記単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸の種類毎に更新する単鎖核酸分子数更新部と、
前記単鎖核酸分子数更新部により更新される前の単鎖核酸の分子数と、
前記単鎖核酸分子数更新部により更新された後の単鎖核酸の分子数との差異を前記単鎖核酸の種類毎に算出し、前記各差異に基づき、各単鎖核酸の分子数の推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定部と、
を備えることを特徴とする単鎖核酸分子数推定装置。
【請求項2】
前記単鎖核酸収束判定部が収束していないと判定した場合、前記単鎖核酸分子数更新部により更新された各単鎖核酸の分子数に基づき、前記二重鎖核酸の種類毎の加速係数を算出する加速係数算出部と、
前記二重鎖核酸分子数更新部は、前記単鎖核酸分子数更新部により更新された第1の単鎖核酸の分子数と、前記第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数と、前記加速係数算出部により算出された前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸の組み合わせ毎の加速係数と、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数と、に基づき、二重鎖核酸の分子数を前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸の組み合わせ毎に更新することを特徴とする請求項1に記載の単鎖核酸分子数推定装置。
【請求項3】
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する離脱速度係数を示す情報が該二重鎖核酸の種類毎に記憶されている離脱速度係数記憶部と、
核酸断片が単鎖状態である単鎖核酸の分子数と該単鎖核酸を少なくともひとつ含む二重鎖核酸の分子数との和である核酸断片の総分子数を示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている総分子数記憶部と、
前記離脱速度係数記憶部から前記離脱速度係数を示す情報を読み出し、前記総分子数記憶部から総分子数を示す情報を読み出し、前記読み出された離脱速度係数と前記読み出された総分子数とに基づいて、溶液中に存在する単鎖核酸の分子数を請求項1または請求項2に記載の単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類毎に推定させる単鎖核酸分子数取得部と、
前記推定された単鎖核酸の分子数と、自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数との差異を前記単鎖核酸の種類毎に算出する単鎖核酸差異算出部と、
該単鎖核酸の種類毎の前記差異に基づき、前記核酸断片の総分子数の推定結果が収束したか否かを判定する総分子数収束判定部と、
前記総分子数収束判定部が収束していないと判定した場合、前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数を示す情報を読み出し、該読み出された各離脱速度係数と、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異とに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数を前記単鎖核酸の種類毎に補正し、該補正した総分子数を示す情報で、前記総分子数記憶部に記憶されている総分子数を示す情報を更新する総分子数補正部と、
を備え、
前記単鎖核酸分子数取得部は、前記総分子数記憶部から前記総分子数補正部により更新された総分子数を示す情報を読み出し、該読み出した総分子数に基づき、前記単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類毎に推定させることを特徴とする総分子数推定装置。
【請求項4】
前記単鎖核酸分子数取得部は、前記単鎖核酸分子数推定装置に出力する前記核酸断片の総分子数の初期値を、外部から入力された単鎖核酸の既知の分子数とすることを特徴とする請求項3に記載の総分子数推定装置。
【請求項5】
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数のそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数とに基づき、核酸断片の分子数を単鎖核酸の種類毎に推定する請求項3または請求項4に記載の総分子数推定装置と、
前記離脱速度係数のそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数とに基づき、単鎖核酸の分子数を単鎖核酸の種類毎に推定する請求項1または請求項2に記載の単鎖核酸分子数推定装置と、
前記推定された各単鎖核酸の分子数に基づき、前記離脱速度係数を前記二重鎖核酸の種類毎に算出する制御部と、
を備えることを特徴とする離脱速度係数算出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
請求項3または請求項4に記載の総分子数推定装置に、前記離脱速度係数と前記単鎖核酸の既知の分子数とに基づき、総分子数を前記単鎖核酸の種類毎に推定させ、請求項1または請求項2に記載の単鎖核酸推定装置に、該総分子数に対応する単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸の種類毎に推定させる単鎖核酸取得部と、
前記単鎖核酸の種類毎に、前記単鎖核酸取得部により取得された前記単鎖核酸の分子数と、自装置の外部から入力された前記単鎖核酸の既知の分子数とを前記単鎖核酸の種類毎に比較し、前記取得された単鎖核酸の分子数が入力された該単鎖核酸の既知の分子数より小さい場合、該単鎖核酸の前記離脱速度係数を大きくし、前記取得された単鎖核酸の分子数が、入力された該単鎖核酸の既知の分子数以上の場合、該単鎖核酸の前記離脱速度係数を小さくする離脱速度係数補正部と、
を備え、
前記単鎖核酸取得部は、前記離脱速度係数補正部により補正された後の離脱速度係数に基づき、請求項3または請求項4に記載の総分子数推定装置に前記総分子数を前記単鎖核酸の種類毎に推定させ、請求項1または請求項2に記載の単鎖核酸推定装置に該総分子数に対応する単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸の種類毎に推定させ、
前記制御部は、
前記単鎖核酸の種類毎に、前記補正前の単鎖核酸の分子数と、入力された該単鎖核酸の既知の分子数との差異を補正前の差異として算出し、前記単鎖核酸の種類毎に、前記補正後の単鎖核酸の分子数と、入力された該単鎖核酸の既知の分子数との差異を補正後の差異として算出する補正前後差異算出部と、
前記補正前の差異と、前記補正後の差異とを前記単鎖核酸の種類i毎に比較し、前記補正前の差異が前記補正後の差異より大きい場合、前記離脱速度係数補正部により補正された後の離脱速度係数を選択し、前記補正前の差異が前記補正後の差異以下の場合、前記離脱速度係数補正部により補正される前の離脱速度係数を選択する離脱速度係数選択部と、
を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の離脱速度係数算出装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記離脱速度係数毎に、前記離脱速度係数補正部により補正される前の離脱速度係数と、前記離脱速度係数選択部により選択された離脱速度係数との差異に基づいて、前記離脱速度係数の推定結果が収束したか否かを判定する離脱速度係数収束判定部を備え、
前記単鎖核酸取得部は、前記離脱速度係数収束判定部が収束していないと判定した場合、前記離脱速度係数選択部により選択された各離脱速度係数に基づいて、前記単鎖核酸分子数推定装置から各単鎖核酸の分子数を取得することを特徴とする請求項6に記載の離脱速度係数算出装置。
【請求項8】
前記離脱速度係数補正部は、乱数を用いて前記離脱速度係数を補正することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の離脱速度係数算出装置。
【請求項9】
前記離脱速度係数の初期値は、新たな前記単鎖核酸の既知の分子数が得られた場合に、自装置でそれまでに得られている離脱速度係数であることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の離脱速度係数算出装置。
【請求項10】
前記離脱速度係数の初期値は、自装置でそれまでに得られている離脱速度係数がない場合には、第1の単鎖核酸の配列と第2の単鎖核酸の配列の一致箇所の長さに依存した値であることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の離脱速度係数算出装置。
【請求項11】
単鎖核酸分子数推定装置が実行する単鎖核酸分子数推定方法であって、
第1の単鎖核酸の分子数と、該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数と、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数と、に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数を前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新手順と、
前記二重鎖核酸分子数更新手順により更新された各二重鎖核酸の分子数と、前記単鎖核酸分子推定装置の外部より与えられた核酸断片の総分子数と、に基づいて、前記単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸の種類毎に更新する単鎖核酸分子数更新手順と、
前記単鎖核酸分子数更新手順により更新される前の単鎖核酸の分子数と、
前記単鎖核酸分子数更新手順により更新された後の単鎖核酸の分子数との差異を前記単鎖核酸の種類毎に算出し、前記各差異に基づき、各単鎖核酸の分子数の推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定手順と、
を有することを特徴とする単鎖核酸分子数推定方法。
【請求項12】
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数を示す情報が前記二重鎖核酸の種類毎に記憶されている離脱速度係数記憶部と、単鎖核酸の分子数と、該単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る単鎖核酸の分子数と、前記単鎖核酸と前記の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数の和である該核酸の総分子数を示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている総分子数記憶部と、を備える総分子数推定装置が実行する総分子数推定方法であって、
前記離脱速度係数記憶部から前記離脱速度係数を示す情報を読み出し、前記総分子数記憶部から総分子数を示す情報を読み出し、前記読み出された離脱速度係数と前記読み出された総分子数とに基づいて、溶液中に存在する単鎖核酸の分子数を請求項11に記載の単鎖核酸分子数推定方法により前記単鎖核酸の種類毎に推定させる単鎖核酸分子数取得手順と、
前記推定された単鎖核酸の分子数と、自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数との差異を前記単鎖核酸の種類毎に算出する単鎖核酸差異算出手順と、
該単鎖核酸の種類毎の前記差異に基づき、前記核酸断片の総分子数の推定結果が収束したか否かを判定する総分子数収束判定手順と、
前記総分子数収束判定手順が収束していないと判定した場合、前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数を示す情報を読み出し、該読み出された各離脱速度係数と、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異とに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数を前記単鎖核酸の種類毎に補正し、該補正した総分子数を示す情報で、前記総分子数記憶部に記憶されている総分子数を示す情報を更新する総分子数補正手順と、
を有し、
前記単鎖核酸分子数取得手順は、前記総分子数記憶部から前記総分子数補正手順により更新された総分子数を示す情報を読み出し、該読み出した総分子数に基づき、前記単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類毎に推定させることを特徴とする総分子数推定方法。
【請求項13】
離脱速度係数算出装置が実行する離脱速度係数算出方法であって、
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数のそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数とに基づき、核酸断片の分子数を単鎖核酸の種類毎に推定する請求項12に記載の総分子数推定方法と、
前記離脱速度係数のそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数とに基づき、単鎖核酸の分子数を単鎖核酸の種類毎に推定する請求項11に記載の単鎖核酸分子数推定方法と、
前記推定された各単鎖核酸の分子数に基づき、前記離脱速度係数を前記二重鎖核酸の種類毎に算出する制御手順と、
を有することを特徴とする離脱速度係数算出方法。
【請求項14】
単鎖核酸分子数推定装置であるコンピュータに、
第1の単鎖核酸の分子数と、該第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の分子数と、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数と、に基づき、前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数を前記第1の単鎖核酸と前記第2の単鎖核酸との組み合わせ毎に更新する二重鎖核酸分子数更新ステップと、
前記二重鎖核酸分子数更新ステップにより更新された各二重鎖核酸の分子数と、前記単鎖核酸分子推定装置の外部より与えられた核酸断片の総分子数と、に基づいて、前記単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸の種類毎に更新する単鎖核酸分子数更新ステップと、
前記単鎖核酸分子数更新ステップにより更新される前の単鎖核酸の分子数と、
前記単鎖核酸分子数更新ステップにより更新された後の単鎖核酸の分子数との差異を前記単鎖核酸の種類毎に算出し、前記各差異に基づき、各単鎖核酸の分子数の推定結果が収束したか否かを判定する単鎖核酸収束判定ステップと、
を実行させるための単鎖核酸分子数推定プログラム。
【請求項15】
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数を示す情報が前記二重鎖核酸の種類毎に記憶されている離脱速度係数記憶部と、単鎖核酸の分子数と、該単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る単鎖核酸の分子数と、前記単鎖核酸と前記の単鎖核酸とが結合した二重鎖核酸の分子数の和である該核酸の総分子数を示す情報が単鎖核酸の種類毎に記憶されている総分子数記憶部と、を備える総分子数推定装置としてのコンピュータに、
前記離脱速度係数記憶部から前記離脱速度係数を示す情報を読み出し、前記総分子数記憶部から総分子数を示す情報を読み出し、前記読み出された離脱速度係数と前記読み出された総分子数とに基づいて、溶液中に存在する単鎖核酸の分子数を請求項14に記載の単鎖核酸分子数推定プログラムにより前記単鎖核酸の種類毎に推定させる単鎖核酸分子数取得ステップと、
前記推定された単鎖核酸の分子数と、自装置の外部から入力された該単鎖核酸の既知の分子数との差異を前記単鎖核酸の種類毎に算出する単鎖核酸差異算出ステップと、
該単鎖核酸の種類毎の前記差異に基づき、前記核酸断片の総分子数の推定結果が収束したか否かを判定する総分子数収束判定ステップと、
前記総分子数収束判定ステップが収束していないと判定した場合、前記離脱速度係数記憶部から前記各離脱速度係数を示す情報を読み出し、該読み出された各離脱速度係数と、第1の単鎖核酸と結合して二重鎖核酸を形成し得る第2の単鎖核酸の前記差異とに基づき、前記第1の単鎖核酸を少なくとも1つ有する核酸断片の総分子数を前記単鎖核酸の種類毎に補正し、該補正した総分子数を示す情報で、前記総分子数記憶部に記憶されている総分子数を示す情報を更新する総分子数補正ステップと、
を実行させるための総分子数推定プログラムであって、
前記単鎖核酸分子数取得ステップは、前記総分子数記憶部から前記総分子数補正手順により更新された総分子数を示す情報を読み出し、該読み出した総分子数に基づき、前記単鎖核酸の分子数を前記単鎖核酸分子数推定装置に前記単鎖核酸の種類毎に推定させることを特徴とする総分子数推定プログラム。
【請求項16】
離脱速度係数算出装置としてのコンピュータに、
二重鎖核酸から単鎖核酸が離脱する速度である離脱速度係数のそれぞれと、各単鎖核酸の既知の分子数とに基づき、核酸断片の分子数を単鎖核酸の種類毎に推定する請求項15に記載の総分子数推定プログラムと、
前記離脱速度係数のそれぞれと、前記推定された各核酸断片の分子数とに基づき、単鎖核酸の分子数を単鎖核酸の種類毎に推定する請求項14に記載の単鎖核酸分子数推定プログラムと、
前記推定された各単鎖核酸の分子数に基づき、前記離脱速度係数を前記二重鎖核酸の種類毎に算出する制御ステップと、
を実行させるための離脱速度係数算出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139168(P2012−139168A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294175(P2010−294175)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(597128004)国立医薬品食品衛生研究所長 (22)
【出願人】(000102728)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ (438)
【Fターム(参考)】