筆記具の軸筒の製造方法およびその方法により製造してなる筆記具の軸筒
【課題】薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材3の表面に変形を生じさせることなく、容易に第一軸筒部材2の圧入部2dを第二軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着させることができる筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造してなる筆記具の軸筒を得ることである。
【解決手段】第一軸筒部材2の後端部に第二軸筒部材3の内面と遊嵌する導入部2aを設け、導入部2aの前方側に後方から前方に向かって緩やかに拡径するテーパー面2bを有した中継突部2cを設け、中継突部2cの前方側に圧入部2dを設け、圧入部2dの表面2eに、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面2fと、傾斜面2fの前方側に連設させた平地面2gと、平地面2gの前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面2hとで構成した円環状の圧入突部2iを複数形成する。
【解決手段】第一軸筒部材2の後端部に第二軸筒部材3の内面と遊嵌する導入部2aを設け、導入部2aの前方側に後方から前方に向かって緩やかに拡径するテーパー面2bを有した中継突部2cを設け、中継突部2cの前方側に圧入部2dを設け、圧入部2dの表面2eに、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面2fと、傾斜面2fの前方側に連設させた平地面2gと、平地面2gの前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面2hとで構成した円環状の圧入突部2iを複数形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を第二軸筒部材の前端部の内面に嵌着させてなる筆記具の軸筒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より筆記具の軸筒は、複数の軸筒部材を連結して構成したものが一般的であり、
例えば、特開平1−145198号公報に開示されてあるように口金2の内周面に対し外筒3の先端を嵌合固定したものや、同じく特開平1−145198号公報で従来技術として記載があるように、口金2’と外筒3’とを螺着して接合したものも存在している。このように軸筒を複数の軸筒部材で構成する筆記具の中には、例えば、軸筒を口金部材と前部軸筒部材と後部軸筒部材と尾冠とで構成し、口金部材と前部軸筒部材を接合した前軸筒と後部軸筒部材と尾冠を接合した後軸筒とを相対的に回転させることで、口金の開口部から軸筒内に収容した筆記体の筆記先端部を出没させる構造の回転繰出式筆記具が知られており、このような構造の筆記具は低価格品から高価格品まで広く採用されている。
【0003】
前述の回転繰出式筆記具は、前部軸筒部材と後部軸筒部材とを回転操作する際に、使用者が前部軸筒部材でなく口金を把持した場合、あるいは後部軸筒部材でなく尾冠を把持した場合でも問題なく回転操作が行えるようにするためには、口金は前部軸筒部材に対し、尾冠は後部軸筒部材に対してしっかりと接合させておく必要がある。その接合方法としては、接着剤による接着や雄螺子と雌螺子とによる螺着、あるいは圧入による嵌着などの方法が採用されているが、接着剤による接着は、経時的な強度の維持が難しいことや、接着剤がはみ出ないよう且つ十分な塗布量で接着強度を得るようにするための作業に手間が掛かるなどの問題から、他の二つの方法と併用して採用されることが多い。
【0004】
ところで、高価格の筆記具では質感を向上させるため軸筒部材を金属材料で成形することが多く、軸径を細くするためや重量を重くしないなどの理由から、特に筆記体を収容する前部軸筒部材や後部軸筒部材の材料には薄肉の金属パイプが使用されている。尚、この金属パイプに0.25mm以下の肉厚のものを使用する場合には、パイプを切削して螺子山を形成することが困難であることから、部材同士を螺着で接合する方法は不向きであり、また接着には前述した問題点が存在していることから、圧入による嵌着、あるいは圧入と接着剤の併用による接合方法が採用されることが多い。
【0005】
このような従来構造の筆記具について図7〜図11を用いて簡単に説明を行うと、口金部材20は真鍮を切削加工により形成したものであり、前部軸筒部材30は肉厚が0.25mmである薄肉の真鍮性パイプにて形成したものであり、図8に詳細を示すように口金20の後方には圧入部20aを形成し、その外面には螺旋状に形成した雄螺子20bを形成してあり、図10および図11に示すように、口金部材20の圧入部20aを前部軸筒部材30の内面30aに圧入して前軸筒40を形成してある。図9は、雄螺子20bの拡大断面図を示しているが、雄螺子20bは前方傾斜面20cと平地面20dと後方傾斜面20eとを備えた台形々状で形成してあり、その最大外径(平地面20dの外径)を前部軸筒部材30の内径より大きく形成することで嵌着力を得るようにしてある。
【0006】
しかしながら、圧入部20aの雄螺子20bは一条螺子で形成してあることから、圧入部20aを前部軸筒部材30の内部に挿入させる際に、最初に雄螺子20bの先端部20fの一点だけが内面30aに当接してしまうため、前部軸筒部材30の軸心に対して口金部材20の軸心が傾いた状態で圧入されてしまうことがあり、結果として口金部材20の圧入部20aが圧入された箇所が盛り上がるような変形を起こし、図10や図11で示すように、前部軸筒部材30の変形が起きた箇所と変形のない箇所との境目が筋Sとなって表面に現れ、見栄えを悪くするといった問題がある。尚、前部軸筒部材30に対して口金部材20を若干傾いて挿入しても、前部軸筒部材30を変形させないようにするために、圧入部20aと内面30aとの間に隙間が生じる寸法で圧入部20aの最外径である平地面20dの高さを設定する方法もあるが、この場合には圧入と接着剤との併用が必要となり、製造に手間が掛かってしまった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−145198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の前端部の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法において、薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の表面に変形を生じさせることなく、容易に第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させることができる筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造してな筆記具の軸筒を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
「1.第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法であって、前記第一軸筒部材の後端部に前記第二軸筒部材の内面と遊嵌する導入部を設け、該導入部の前方側に後方から前方に向かって緩やかに拡径するテーパー面を有した中継突部を設け、該中継突部の前方側に前記圧入部を設け、該圧入部の表面に、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、該傾斜面の前方側に連設させた平地面と、該平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成した円環状の圧入突部を複数形成することにより、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることを可能とした筆記具の軸筒製造方法。
2.1項に記載の軸筒の製造方法により製造してなる筆記具の軸筒。」である。
【0010】
本発明における軸筒部材とは、胴部材や鞘部材および口金部材、頭冠部材、尾冠部材など筆記具の軸部を構成する部材のことをいう。また、第二軸筒部材を形成する薄肉の金属パイプとは、肉厚がおよそ0.3mm未満のものをさし、アルミや真鍮など変形し易い材質で成形したものでは本発明の効果がより顕著に現れる。また複数形成する圧入突部の個数および前端側の圧入突部から後端側の圧入突部までの距離は、第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入させた状態で、第二軸筒部材に対して第一軸筒部材が傾斜しないように設定することが肝要である。第一軸筒部材の後端部に設ける導入部は、第二軸筒部材の内面に対して遊嵌できる外形寸法に設定すればよいが、その隙間が大きすぎると第一軸筒部材と第二軸筒部材との軸心を揃えて圧入させる効果が薄れる。
【0011】
また、中継突部の最外部の外径は圧入突部の平地面の外径と同一若しくは若干小径に形成し、中継突部のテーパー面の傾斜は、第一軸筒部材の導入部と第二軸筒部材の内面との関係でほぼ軸心が一致した状態を維持させたまま、さらに軸心を合致させるべく緩やかに傾斜させることが好ましい。また圧入突部は、その断面形状において後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、傾斜面の前方側に連設させた平地面と、平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成する。傾斜面の傾斜角度に限定はないが、第二軸筒部材の内面へ第一軸筒部材の圧入突部を挿入させる際の挿入性を考慮すると傾斜角を緩やかに形成することが好ましいが、複数の圧入突部同士の間隔が広くなりすぎないように、10度から60度の間で傾斜角度を設定することが好ましい。圧入突部の垂設面は、軸心に対して平行に形成した平地面と交わる角部が直角になるよう形成するか、あるいは垂設面が圧入突部の内側に入り込むよう角度を鋭角に形成することで、第一軸筒部材と第二軸筒部材とが離間する方向に力が掛かっても、第二軸筒部材の内面に圧入突部の垂設面が引っ掛かることで脱落が防止され、入れ易く外れ難い構造とすることができる。また、平地面の軸心方向における長さを短くすることで、圧入した際に平地面が内側に変形し易くなり、過度な圧入力を緩和して第二軸筒部材の変形を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の前端部の内面に圧入して嵌着させてなる筆記具の軸筒の製造方法において、薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の表面に変形を生じさせることなく、且つ容易に第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させることができ、またその製造方法により製造された軸筒は、第一軸筒部材と第二軸筒部材とが外れにくい構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施例の軸筒を使用した筆記具である。
【図2】図2は、製造時において口金部材と前部軸筒部材とを接合する状態を一部断面で示した図である。
【図3】図3は、図2の部分拡大図である。
【図4】図4は、口金部材の圧入突部と前部軸筒部材の内面との関係を示す拡大図である。
【図5】図5は、口金部材と前部軸筒部材とを接合した状態を一部断面で示した図である。
【図6】図6は、図5の部分拡大図である。
【図7】図7は、従来の口金部材と前部軸筒部材とを接合する状態を示す図である。
【図8】図8は、図7の部分拡大図である。
【図9】図9は、口金部材の雄螺子部を示す拡大図である。
【図10】図10は、口金部材と前部軸筒部材とを接合した状態を一部断面で示した図である。
【図11】図11は、図10の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造した筆記具の軸筒の実施例について説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また図中の同じ部材、同じ部品については、同じ符号としてある。
【0015】
図1は、本実施例の軸筒製造方法で製造した軸筒を備えた筆記具である。筆記具1は、口金部材2と前部軸筒部材3とからなる前軸筒4と、後部軸筒部材5と尾冠6とからなる後軸筒7とを相対的に回転可能に連接してあり、回転操作することで内部に収容した筆記体(図示せず)を口金2の先端開口から出没させることができる回転繰出式筆記具である。
【0016】
図2は、製造時において口金部材2と前部軸筒部材3とを接合する状態を一部断面で示した図であり、図3は、図2の要部拡大図である。本実施例の口金部材2は真鍮材を切削加工により形成したものであり、口金部材2を、肉厚が0.2mmである薄肉の真鍮製パイプにて形成した前部軸筒部材3に圧入して前軸筒を形成する。口金部材2の後端部には、前部軸筒部材3の内面3aの内径D1寸法(8.29mm)より若干小さい外径D2寸法(8.25mm)で形成した導入部2aを設け、導入部2aの前方側に後方から前方に向かって1.5度で拡径するテーパー面2bを有した中継突部2cを設け、中継突部2cの前方側に圧入部2dを設け、圧入部2dの表面2eに、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面2fと、傾斜面2fの前方側に連設させた平地面2gと、平地面2gの前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面2hとで構成した円環状の圧入突部2iを6個形成してある。
【0017】
図4は、口金部材2の圧入突部2iと前部軸筒部材3の内面3aとの関係を示す拡大図である。図に示す口金部材2の平地面2gにおける外径D3寸法は8.33mmで形成してあり、前部軸筒部材3の内面3aにおける内径D1寸法(8.29mm)より大きく形成することにより、口金部材2の圧入部2dが前部軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着できるようにしてある。また本実施例の圧入突部2iは、平地面2gの軸心方向における長さLを0.1mmで形成し、垂設面2gの表面2eからの高さHを0.04mmで形成し、傾斜面2fの傾斜角Rを40度で形成してあり、平地面2gを軸心に対して平行に形成し、平地面2gと垂設面2hとが交わる角部が直角になるよう形成してある。
【0018】
したがって本実施例では、口金部材2の圧入部2dを前部軸筒部材3の内面3aに圧入させる際に、口金部材2の導入部2aが前部軸筒部材3の内面3aと遊嵌することで、口金部材2の軸心と前部軸筒部材3の軸心とをほぼ一致させながら導入部2aが挿通し、次いで緩やかに傾斜したテーパー面2bが内面3aに当接しながら進入することで、口金部材2の軸心と前部軸筒部材3の軸心とが合致し、前部軸筒部材3の軸心に対して口金部材2の軸心が傾くことなく、また圧入突部2hの傾斜面2fによって容易に口金部材2の圧入部2dを前部軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着させ、図5および図6に示すように薄肉である前部軸筒部材3の外観に、圧入時の変形による筋が生じることなく、前軸筒4を形成することができた。また、図5や図6に示す口金部材2と前部軸筒部材3とを接合した状態においては、口金部材2の圧入突部2iの平地面2gが圧入力を緩和する軸心方向へ潰れながら嵌着され、口金部材2と前部軸筒部材3との相対的な回転を防止することができ、また圧入突部2iの平地面2gと垂設面2hとで構成する直角な角部が前部軸筒部材3の内面3aに引っ掛かることによって、口金部材2と前部軸筒部材3とが離間する方向に力が掛かっても脱落することを防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本願発明は、筆記具の軸筒以外にも、化粧具や塗布具等における軸筒の製造方法として使用ができ、その製造方法で製造した軸筒は化粧具や塗布具の軸筒として使用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1…筆記具、
2…口金、2a…導入部、2b…テーパー面、2c…中継突部、2d…圧入部、
2e…表面、2f…傾斜面、2g…平地面、2h…垂設面、2i…圧入突部、
3…前部軸筒部材、3a…内面、
4…前軸筒、5…後部軸筒部材、6…尾冠、7…後軸筒。
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を第二軸筒部材の前端部の内面に嵌着させてなる筆記具の軸筒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より筆記具の軸筒は、複数の軸筒部材を連結して構成したものが一般的であり、
例えば、特開平1−145198号公報に開示されてあるように口金2の内周面に対し外筒3の先端を嵌合固定したものや、同じく特開平1−145198号公報で従来技術として記載があるように、口金2’と外筒3’とを螺着して接合したものも存在している。このように軸筒を複数の軸筒部材で構成する筆記具の中には、例えば、軸筒を口金部材と前部軸筒部材と後部軸筒部材と尾冠とで構成し、口金部材と前部軸筒部材を接合した前軸筒と後部軸筒部材と尾冠を接合した後軸筒とを相対的に回転させることで、口金の開口部から軸筒内に収容した筆記体の筆記先端部を出没させる構造の回転繰出式筆記具が知られており、このような構造の筆記具は低価格品から高価格品まで広く採用されている。
【0003】
前述の回転繰出式筆記具は、前部軸筒部材と後部軸筒部材とを回転操作する際に、使用者が前部軸筒部材でなく口金を把持した場合、あるいは後部軸筒部材でなく尾冠を把持した場合でも問題なく回転操作が行えるようにするためには、口金は前部軸筒部材に対し、尾冠は後部軸筒部材に対してしっかりと接合させておく必要がある。その接合方法としては、接着剤による接着や雄螺子と雌螺子とによる螺着、あるいは圧入による嵌着などの方法が採用されているが、接着剤による接着は、経時的な強度の維持が難しいことや、接着剤がはみ出ないよう且つ十分な塗布量で接着強度を得るようにするための作業に手間が掛かるなどの問題から、他の二つの方法と併用して採用されることが多い。
【0004】
ところで、高価格の筆記具では質感を向上させるため軸筒部材を金属材料で成形することが多く、軸径を細くするためや重量を重くしないなどの理由から、特に筆記体を収容する前部軸筒部材や後部軸筒部材の材料には薄肉の金属パイプが使用されている。尚、この金属パイプに0.25mm以下の肉厚のものを使用する場合には、パイプを切削して螺子山を形成することが困難であることから、部材同士を螺着で接合する方法は不向きであり、また接着には前述した問題点が存在していることから、圧入による嵌着、あるいは圧入と接着剤の併用による接合方法が採用されることが多い。
【0005】
このような従来構造の筆記具について図7〜図11を用いて簡単に説明を行うと、口金部材20は真鍮を切削加工により形成したものであり、前部軸筒部材30は肉厚が0.25mmである薄肉の真鍮性パイプにて形成したものであり、図8に詳細を示すように口金20の後方には圧入部20aを形成し、その外面には螺旋状に形成した雄螺子20bを形成してあり、図10および図11に示すように、口金部材20の圧入部20aを前部軸筒部材30の内面30aに圧入して前軸筒40を形成してある。図9は、雄螺子20bの拡大断面図を示しているが、雄螺子20bは前方傾斜面20cと平地面20dと後方傾斜面20eとを備えた台形々状で形成してあり、その最大外径(平地面20dの外径)を前部軸筒部材30の内径より大きく形成することで嵌着力を得るようにしてある。
【0006】
しかしながら、圧入部20aの雄螺子20bは一条螺子で形成してあることから、圧入部20aを前部軸筒部材30の内部に挿入させる際に、最初に雄螺子20bの先端部20fの一点だけが内面30aに当接してしまうため、前部軸筒部材30の軸心に対して口金部材20の軸心が傾いた状態で圧入されてしまうことがあり、結果として口金部材20の圧入部20aが圧入された箇所が盛り上がるような変形を起こし、図10や図11で示すように、前部軸筒部材30の変形が起きた箇所と変形のない箇所との境目が筋Sとなって表面に現れ、見栄えを悪くするといった問題がある。尚、前部軸筒部材30に対して口金部材20を若干傾いて挿入しても、前部軸筒部材30を変形させないようにするために、圧入部20aと内面30aとの間に隙間が生じる寸法で圧入部20aの最外径である平地面20dの高さを設定する方法もあるが、この場合には圧入と接着剤との併用が必要となり、製造に手間が掛かってしまった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−145198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の前端部の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法において、薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の表面に変形を生じさせることなく、容易に第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させることができる筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造してな筆記具の軸筒を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
「1.第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法であって、前記第一軸筒部材の後端部に前記第二軸筒部材の内面と遊嵌する導入部を設け、該導入部の前方側に後方から前方に向かって緩やかに拡径するテーパー面を有した中継突部を設け、該中継突部の前方側に前記圧入部を設け、該圧入部の表面に、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、該傾斜面の前方側に連設させた平地面と、該平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成した円環状の圧入突部を複数形成することにより、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることを可能とした筆記具の軸筒製造方法。
2.1項に記載の軸筒の製造方法により製造してなる筆記具の軸筒。」である。
【0010】
本発明における軸筒部材とは、胴部材や鞘部材および口金部材、頭冠部材、尾冠部材など筆記具の軸部を構成する部材のことをいう。また、第二軸筒部材を形成する薄肉の金属パイプとは、肉厚がおよそ0.3mm未満のものをさし、アルミや真鍮など変形し易い材質で成形したものでは本発明の効果がより顕著に現れる。また複数形成する圧入突部の個数および前端側の圧入突部から後端側の圧入突部までの距離は、第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入させた状態で、第二軸筒部材に対して第一軸筒部材が傾斜しないように設定することが肝要である。第一軸筒部材の後端部に設ける導入部は、第二軸筒部材の内面に対して遊嵌できる外形寸法に設定すればよいが、その隙間が大きすぎると第一軸筒部材と第二軸筒部材との軸心を揃えて圧入させる効果が薄れる。
【0011】
また、中継突部の最外部の外径は圧入突部の平地面の外径と同一若しくは若干小径に形成し、中継突部のテーパー面の傾斜は、第一軸筒部材の導入部と第二軸筒部材の内面との関係でほぼ軸心が一致した状態を維持させたまま、さらに軸心を合致させるべく緩やかに傾斜させることが好ましい。また圧入突部は、その断面形状において後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、傾斜面の前方側に連設させた平地面と、平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成する。傾斜面の傾斜角度に限定はないが、第二軸筒部材の内面へ第一軸筒部材の圧入突部を挿入させる際の挿入性を考慮すると傾斜角を緩やかに形成することが好ましいが、複数の圧入突部同士の間隔が広くなりすぎないように、10度から60度の間で傾斜角度を設定することが好ましい。圧入突部の垂設面は、軸心に対して平行に形成した平地面と交わる角部が直角になるよう形成するか、あるいは垂設面が圧入突部の内側に入り込むよう角度を鋭角に形成することで、第一軸筒部材と第二軸筒部材とが離間する方向に力が掛かっても、第二軸筒部材の内面に圧入突部の垂設面が引っ掛かることで脱落が防止され、入れ易く外れ難い構造とすることができる。また、平地面の軸心方向における長さを短くすることで、圧入した際に平地面が内側に変形し易くなり、過度な圧入力を緩和して第二軸筒部材の変形を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の前端部の内面に圧入して嵌着させてなる筆記具の軸筒の製造方法において、薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の表面に変形を生じさせることなく、且つ容易に第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させることができ、またその製造方法により製造された軸筒は、第一軸筒部材と第二軸筒部材とが外れにくい構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施例の軸筒を使用した筆記具である。
【図2】図2は、製造時において口金部材と前部軸筒部材とを接合する状態を一部断面で示した図である。
【図3】図3は、図2の部分拡大図である。
【図4】図4は、口金部材の圧入突部と前部軸筒部材の内面との関係を示す拡大図である。
【図5】図5は、口金部材と前部軸筒部材とを接合した状態を一部断面で示した図である。
【図6】図6は、図5の部分拡大図である。
【図7】図7は、従来の口金部材と前部軸筒部材とを接合する状態を示す図である。
【図8】図8は、図7の部分拡大図である。
【図9】図9は、口金部材の雄螺子部を示す拡大図である。
【図10】図10は、口金部材と前部軸筒部材とを接合した状態を一部断面で示した図である。
【図11】図11は、図10の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造した筆記具の軸筒の実施例について説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また図中の同じ部材、同じ部品については、同じ符号としてある。
【0015】
図1は、本実施例の軸筒製造方法で製造した軸筒を備えた筆記具である。筆記具1は、口金部材2と前部軸筒部材3とからなる前軸筒4と、後部軸筒部材5と尾冠6とからなる後軸筒7とを相対的に回転可能に連接してあり、回転操作することで内部に収容した筆記体(図示せず)を口金2の先端開口から出没させることができる回転繰出式筆記具である。
【0016】
図2は、製造時において口金部材2と前部軸筒部材3とを接合する状態を一部断面で示した図であり、図3は、図2の要部拡大図である。本実施例の口金部材2は真鍮材を切削加工により形成したものであり、口金部材2を、肉厚が0.2mmである薄肉の真鍮製パイプにて形成した前部軸筒部材3に圧入して前軸筒を形成する。口金部材2の後端部には、前部軸筒部材3の内面3aの内径D1寸法(8.29mm)より若干小さい外径D2寸法(8.25mm)で形成した導入部2aを設け、導入部2aの前方側に後方から前方に向かって1.5度で拡径するテーパー面2bを有した中継突部2cを設け、中継突部2cの前方側に圧入部2dを設け、圧入部2dの表面2eに、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面2fと、傾斜面2fの前方側に連設させた平地面2gと、平地面2gの前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面2hとで構成した円環状の圧入突部2iを6個形成してある。
【0017】
図4は、口金部材2の圧入突部2iと前部軸筒部材3の内面3aとの関係を示す拡大図である。図に示す口金部材2の平地面2gにおける外径D3寸法は8.33mmで形成してあり、前部軸筒部材3の内面3aにおける内径D1寸法(8.29mm)より大きく形成することにより、口金部材2の圧入部2dが前部軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着できるようにしてある。また本実施例の圧入突部2iは、平地面2gの軸心方向における長さLを0.1mmで形成し、垂設面2gの表面2eからの高さHを0.04mmで形成し、傾斜面2fの傾斜角Rを40度で形成してあり、平地面2gを軸心に対して平行に形成し、平地面2gと垂設面2hとが交わる角部が直角になるよう形成してある。
【0018】
したがって本実施例では、口金部材2の圧入部2dを前部軸筒部材3の内面3aに圧入させる際に、口金部材2の導入部2aが前部軸筒部材3の内面3aと遊嵌することで、口金部材2の軸心と前部軸筒部材3の軸心とをほぼ一致させながら導入部2aが挿通し、次いで緩やかに傾斜したテーパー面2bが内面3aに当接しながら進入することで、口金部材2の軸心と前部軸筒部材3の軸心とが合致し、前部軸筒部材3の軸心に対して口金部材2の軸心が傾くことなく、また圧入突部2hの傾斜面2fによって容易に口金部材2の圧入部2dを前部軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着させ、図5および図6に示すように薄肉である前部軸筒部材3の外観に、圧入時の変形による筋が生じることなく、前軸筒4を形成することができた。また、図5や図6に示す口金部材2と前部軸筒部材3とを接合した状態においては、口金部材2の圧入突部2iの平地面2gが圧入力を緩和する軸心方向へ潰れながら嵌着され、口金部材2と前部軸筒部材3との相対的な回転を防止することができ、また圧入突部2iの平地面2gと垂設面2hとで構成する直角な角部が前部軸筒部材3の内面3aに引っ掛かることによって、口金部材2と前部軸筒部材3とが離間する方向に力が掛かっても脱落することを防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本願発明は、筆記具の軸筒以外にも、化粧具や塗布具等における軸筒の製造方法として使用ができ、その製造方法で製造した軸筒は化粧具や塗布具の軸筒として使用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1…筆記具、
2…口金、2a…導入部、2b…テーパー面、2c…中継突部、2d…圧入部、
2e…表面、2f…傾斜面、2g…平地面、2h…垂設面、2i…圧入突部、
3…前部軸筒部材、3a…内面、
4…前軸筒、5…後部軸筒部材、6…尾冠、7…後軸筒。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法であって、前記第一軸筒部材の後端部に前記第二軸筒部材の内面と遊嵌する導入部を設け、該導入部の前方側に後方から前方に向かって緩やかに拡径するテーパー面を有した中継突部を設け、該中継突部の前方側に前記圧入部を設け、該圧入部の表面に、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、該傾斜面の前方側に連設させた平地面と、該平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成した円環状の圧入突部を複数形成することにより、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることを可能とした筆記具の軸筒製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の軸筒の製造方法により製造してなる筆記具の軸筒。
【請求項1】
第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法であって、前記第一軸筒部材の後端部に前記第二軸筒部材の内面と遊嵌する導入部を設け、該導入部の前方側に後方から前方に向かって緩やかに拡径するテーパー面を有した中継突部を設け、該中継突部の前方側に前記圧入部を設け、該圧入部の表面に、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、該傾斜面の前方側に連設させた平地面と、該平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成した円環状の圧入突部を複数形成することにより、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることを可能とした筆記具の軸筒製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の軸筒の製造方法により製造してなる筆記具の軸筒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−46962(P2013−46962A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185373(P2011−185373)
【出願日】平成23年8月27日(2011.8.27)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月27日(2011.8.27)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】
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