説明

筆記具の軸筒の製造方法およびその方法により製造してなる筆記具の軸筒

【課題】薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材3の表面に変形を生じさせることなく、容易に第一軸筒部材2の圧入部2dを第二軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着させることができる筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造してなる筆記具の軸筒を得ることである。
【解決手段】第一軸筒部材2の圧入部2aの外側面に少なくとも捲き始めを同一円周上とする三条以上の多条螺子2cである螺子山21,22,23を形成し、第一軸筒部材2の圧入部2aを第二軸筒部材3の内面3aへ圧入する際に、螺子山の各先端部21s,22s,23sを同時に第二軸筒部材3の前端面3bに当接させた上で第一軸筒部材2の圧入部2aを第二軸筒部材3の内面3aに進入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を第二軸筒部材の前端部の内面に嵌着させてなる筆記具の軸筒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より筆記具の軸筒は、複数の軸筒部材を連結して構成したものが一般的であり、例えば、特開平1−145198号公報に開示されてあるように口金2の内周面に対し外筒3の先端を嵌合固定したものや、同じく特開平1−145198号公報で従来技術として記載があるように、口金2’と外筒3’とを螺着して接合したものも存在している。このように軸筒を複数の軸筒部材で構成する筆記具の中には、例えば、軸筒を口金部材と前部軸筒部材と後部軸筒部材と尾冠とで構成し、口金部材と前部軸筒部材を接合した前軸筒と後部軸筒部材と尾冠を接合した後軸筒とを相対的に回転させることで、口金の開口部から軸筒内に収容した筆記体の筆記先端部を出没させる構造の回転繰出式筆記具が知られており、このような構造の筆記具は低価格品から高価格品まで広く採用されている。
【0003】
前述の回転繰出式筆記具は、前部軸筒部材と後部軸筒部材とを回転操作する際に、使用者が前部軸筒部材でなく口金を把持した場合、あるいは後部軸筒部材でなく尾冠を把持した場合でも問題なく回転操作が行えるようにするためには、口金は前部軸筒部材に対し、尾冠は後部軸筒部材に対してしっかりと接合させておく必要がある。その接合方法としては、接着剤による接着や雄螺子と雌螺子とによる螺着、あるいは圧入による嵌着などの方法が採用されているが、接着剤による接着は、経時的な強度の維持が難しいことや、接着剤がはみ出ないよう且つ十分な塗布量で接着強度を得るようにするための作業に手間が掛かるなどの問題から、他の二つの方法と併用して採用されることが多い。
【0004】
ところで、高価格の筆記具では質感を向上させるため軸筒部材を金属材料で成形することが多く、軸径を細くするためや重量を重くしないなどの理由から、特に筆記体を収容する前部軸筒部材や後部軸筒部材の材料には薄肉の金属パイプが使用されている。尚、この金属パイプに0.25mm以下の肉厚のものを使用する場合には、パイプを切削して螺子山を形成することが困難であることから、部材同士を螺着で接合する方法は不向きであり、また接着には前述した問題点が存在していることから、圧入による嵌着、あるいは圧入と接着剤の併用による接合方法が採用されることが多い。
【0005】
このような従来構造の筆記具について図6〜図10を用いて簡単に説明を行うと、口金部材20は真鍮を切削加工により形成したものであり、前部軸筒部材30は肉厚が0.25mmである薄肉の真鍮性パイプにて形成したものであり、図7に詳細を示すように口金20の後方には圧入部20aを形成し、その外面には螺旋状に形成した螺子山20bを形成してあり、図9および図10に示すように、口金部材20の圧入部20aを前部軸筒部材30の内面30aに圧入して前軸筒40を形成してある。図8は、螺子山20bの拡大断面図を示しているが、螺子山20bは前方傾斜面20cと平地面20dと後方傾斜面20eとを備えた台形々状で形成してあり、その最大外径(平地面20dの外径)を前部軸筒部材30の内径より大きく形成することで嵌着力を得るようにしてある。
【0006】
しかしながら、圧入部20aの螺子山20bは一条螺子で形成してあることから、圧入部20aを前部軸筒部材30の内部に挿入させる際に、最初に螺子山20bの先端部20fの一点だけが内面30aに当接してしまうため、前部軸筒部材30の軸心に対して口金部材20の軸心が傾いた状態で圧入されてしまうことがあり、結果として口金部材20の圧入部20aが圧入された箇所が盛り上がるような変形を起こし、図9や図10で示すように、前部軸筒部材30の変形が起きた箇所と変形のない箇所との境目が筋Sとなって表面に現れ、見栄えを悪くするといった問題がある。尚、前部軸筒部材30に対して口金部材20を若干傾いて挿入しても、前部軸筒部材30を変形させないようにするために、圧入部20aと内面30aとの間に隙間が生じる寸法で圧入部20aの最外径である平地面20dの高さを設定する方法もあるが、この場合には圧入と接着剤との併用が必要となり、製造に手間が掛かってしまった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−145198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、第一軸筒部材の後端側の外面に設けた圧入部を薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の前端部の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法において、薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の表面に変形を生じさせることなく、容易に第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させることができる筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造してな筆記具の軸筒を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
「1.第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法であって、前記第一軸筒部材の圧入部の外側面に少なくとも捲き始めを同一円周上とする三条以上の多条螺子である螺子山を形成し、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面へ圧入する際に、前記螺子山の各先端部を同時に前記第二軸筒部材の前端面に当接させた上で前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に進入させることにより、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることを可能とした筆記具の軸筒製造方法。
2.前記螺子山が、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、該傾斜面の前方側に連設させた平地面と、該平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成してある1項に記載の筆記具の軸筒製造方法。
3.1項または2項に記載の軸筒の製造方法により製造してなる筆記具の軸筒。」である。
【0010】
本発明における軸筒部材とは、胴部材や鞘部材および口金部材、頭冠部材、尾冠部材など筆記具の軸部を構成する部材のことをいう。また、第二軸筒部材を形成する薄肉の金属パイプとは、肉厚がおよそ0.3mm未満のものをさし、アルミや真鍮など変形し易い材質で成形したものでは本発明の効果がより顕著に現れる。第一軸筒部材の圧入部の外側面に設ける螺子を、その捲き始めとなる先端部が第一軸筒部材の三条以上の多条螺子とするのは、第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面へ圧入する際に、軸心に対して放射状に配列された多条螺子の各先端部を同時に第二軸筒部材の前端面に当接させて第一軸筒部材の軸心と第二軸筒部材の軸心とを位置合わせをした上で、多条螺子の各先端部を内面に当接しながら第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に進入させることができるので、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることができるためである。これに対し、従来の第一軸筒部材の圧入部に一条螺子を設けたものや、多条螺子であっても二条螺子である場合には、第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面へ圧入する際に、螺子の先端部が第二軸筒部材の前端面に当接したときに傾いて当接されて、結果的に軸心が傾いた状態で圧入が完了し、第二軸筒部材における第一軸筒部材の圧入部が圧入された箇所が盛り上がるような変形を起こす虞がある。
【0011】
また、螺子山は、その断面形状において後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、傾斜面の前方側に連設させた平地面と、平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成することにより、圧入し易く、抜け難い構造となる。傾斜面の傾斜角度に限定はないが、第二軸筒部材の内面へ第一軸筒部材の圧入部を挿入させる際の挿入性を考慮すると傾斜角を緩やかに形成することが好ましいが、複数の螺子山の間隔が広くなりすぎないように、10度から60度の間で傾斜角度を設定することが好ましい。垂設面は、軸心に対して平行に形成した平地面と交わる角部が直角になるよう形成するか、あるいは垂設面が圧入突部の内側に入り込むよう角度を鋭角に形成することで、第一軸筒部材と第二軸筒部材とが離間する方向に力が掛かっても、第二軸筒部材の内面に圧入突部の垂設面が引っ掛かることで脱落が防止され、入れ易く外れ難い構造とすることができる。また、平地面の軸心方向における長さを短くすることで、圧入した際に平地面が内側に変形し易くなり、過度な圧入力を緩和して第二軸筒部材の変形を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法において、薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の表面に変形を生じさせることなく、且つ容易に第一軸筒部材の圧入部を第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させることができ、またその製造方法により製造された軸筒は、第一軸筒部材と第二軸筒部材とが外れにくい構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施例の軸筒を使用した筆記具である。
【図2】図2は、製造時において口金部材と前部軸筒部材とを接合する状態を一部断面で示した図である。
【図3】図3は、図2の部分拡大図である。
【図4】図4は、口金部材の螺子山の拡大図である。
【図5】図5は、口金部材と前部軸筒部材とを接合した状態を一部断面で示した図である。
【図6】図6は、従来の口金部材と前部軸筒部材とを接合する状態を示す図である。
【図7】図7は、図6の部分拡大図である。
【図8】図8は、口金部材の螺子山の拡大図である。
【図9】図9は、口金部材と前部軸筒部材とを接合した状態を一部断面で示した図である。
【図10】図10は、図9の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の筆記具の軸筒製造方法およびその製造方法により製造した筆記具の軸筒の実施例について説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また図中の同じ部材、同じ部品については、同じ符号としてある。
【0015】
図1は、本実施例の軸筒製造方法で製造した軸筒を備えた筆記具である。筆記具1は、口金部材2と前部軸筒部材3とからなる前軸筒4と、後部軸筒部材5と尾冠6とからなる後軸筒7とを相対的に回転可能に連接してあり、回転操作することで内部に収容した筆記体(図示せず)を口金2の先端開口から出没させることができる回転繰出式筆記具である。
【0016】
図2は、製造時において口金部材2と前部軸筒部材3とを接合する状態を一部断面で示した図であり、図3は、図2の部分拡大図である。本実施例の口金部材2は真鍮材を切削加工により形成したものであり、前部軸筒部材3は肉厚が0.2mmである薄肉の真鍮製パイプにて形成したものである。また、口金部材2における圧入部2aの外側面2bには、捲き始めの先端部21s,22s,23s(図3参照)を同一周面上に形成した3つの螺子山21,22,23からなる三条螺子2cを形成してある。本実施例では、前部軸筒部材3の内面3aにおける内径D1寸法(8.29mm)に対して、三条螺子2cの外形D2寸法(8.33mm)を大きく形成することで、口金部材2の圧入部2aが前部軸筒部材3の内面3aに圧入して嵌着できるようにしてある。図4を用いて本実施例の三条螺子3cについて詳述すると、三条螺子2cは各螺子山21,22,23の全てにおいて、平地面2dの軸心方向における長さLを0.1mmで形成し、垂設面2eの外側面2bからの高さHを0.04mmで形成し、傾斜面2fの傾斜角Rを40度で形成してあり、平地面2dを軸心に対して平行に形成し、平地面2dと垂設面2eとが交わる角部が直角になるよう形成してある。
【0017】
次に図3〜図5を用いて、本実施例の軸筒製造方法について説明を行う。図3に示すように、口金部材2の圧入部2aを前部軸筒部材3の内面3aに圧入させる際、軸心に対して放射状に配列された各螺子山21,22,23の各先端部21s,22s,23sを、同時に前部軸筒部材3の前端面3bに当接させ、口金部材2の軸心と前部軸筒部材3の軸心とを位置合わせをした上で、各先端部21s,22s,23sを内面3aに当接しながら口金部材2の圧入部2aを前部軸筒部材3の内面3aに挿入させて、口金部材2の圧入部2aを前部軸筒部材3の内面3aに、互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させ、図5に示すように薄肉である前部軸筒部材3の外観に、圧入時の変形による筋が生じることなく、前軸筒4を形成することができた。
【0018】
また、図5に示す口金部材2と前部軸筒部材3とを接合した状態においては、三条螺子2c平地面2d(図4参照)が圧入力を緩和する軸心方向へ潰れながら内面3aに嵌着され、口金部材2と前部軸筒部材3との相対的な回転を防止することができ、また平地面2gと垂設面2hとで構成する直角な角部(図4参照)が前部軸筒部材3の内面3aに引っ掛かることによって、口金部材2と前部軸筒部材3とが離間する方向に力が掛かっても脱落することを防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本願発明は、筆記具の軸筒以外にも、化粧具や塗布具等における軸筒の製造方法として使用ができ、その製造方法で製造した軸筒は化粧具や塗布具の軸筒として使用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1…筆記具、
2…口金、2a…圧入部、2b…外側面、
2c…三条螺子、
21,22,23…螺子山、21s,22s,23s…先端部、
2d…平地面、2e…垂設面、2f…傾斜面、
3…前部軸筒部材、3a…内面、3b…前端面、
4…前軸筒、5…後部軸筒部材、6…尾冠、7…後軸筒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一軸筒部材の後方側の外面に設けた圧入部を、前記第一軸筒部材の後方に配した薄肉の金属パイプからなる第二軸筒部材の内面に圧入して嵌着させる筆記具の軸筒の製造方法であって、前記第一軸筒部材の圧入部の外側面に少なくとも捲き始めを同一円周上とする三条以上の多条螺子である螺子山を形成し、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面へ圧入する際に、前記螺子山の各先端部を同時に前記第二軸筒部材の前端面に当接させた上で前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に進入させることにより、前記第一軸筒部材の圧入部を前記第二軸筒部材の内面に互いの軸心が沿った状態で圧入して嵌着させることを可能とした筆記具の軸筒製造方法。
【請求項2】
前記螺子山が、後方側から前方側に向かって拡径するよう傾斜させた傾斜面と、該傾斜面の前方側に連設させた平地面と、該平地面の前方側に連設させた外方から軸心方向へ向かう垂設面とで構成してある請求項1に記載の筆記具の軸筒製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軸筒の製造方法により製造してなる筆記具の軸筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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