説明

筆記具

【課題】高級筆記具において前後軸の相対的な回転による繰り出し時にリフィールを戻すためにセットされたバネ部品がリフィールの繰り出しにより圧縮あるいはねじれによる擦れ音、ずれ音等をなくし、高級な使用感を可能とする。
【解決手段】外軸とリフィールが金属からなり、かつ、繰り出しカムによりリフィールを繰り出す構造の筆記具において、前記リフィールを没入する方向に付勢するバネ部材を前記外軸内に配置すると共に、前記バネ部品に樹脂コーティングを施した筆記具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後軸の相対的な回転によりリフィールを出し入れする構造の筆記具あるいは化粧具等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前後軸の相対的な回転によりリフィールを出し入れする筆記具は、その構造から部品点数が多くなり価格的に高くなる傾向にあり、前記リフィールを出し入れする機構は、回転(繰り出し式)カム機構を用いたものが多い。よって、筆記具においては高級品の部類に応用されている。また、筆記具における高級品は、外装やデザインおよびブランドイメージにより価格が高く設定されており、その高級品を持つことで個人の喜びを演出している。
一方、高級品は、その把持した感じや書き味などの使用感にも消費者の欲求を満足する様に作り込まなければ到底市場に受け入れられないのも周知の事実である。また、リフィールを筆記具の軸から出し入れする際に、繰り出しカムとバネ部品が必要条件であるが、繰り出しカムにおいては回転の角度、回転の抵抗、素材材質の組み合わせ等繰り出し感を良くするために検討が種々行われてきた。しかし、バネ部品に関しては検討が行われていないのが実情である。
【0003】
【特許文献1】特開2002−220001号公報
【特許文献2】特開2004−250225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの先行技術は、製品自体が大きくバネと外装の間に他の部品を挿入する隙間を設けることが出来るが、筆記具においては製品が小さく更にバネ部品と外装の隙間も小さいため、その小さな隙間に更なる部品を挿入することは、非常に困難である。
また、筆記具の軸部品が金属素材であり、かつ、内蔵するリフィールの素材も金属である場合が多く、リフィールの出し入れをするときにバネ部品と金属軸の内側、あるいは、バネ部品と金属リフィールとの擦れが発生し、その結果、シャリシャリやギリギリというようなかすかな音が発生してしまっていた。
これは使用感もこだわる高級筆記具においては、安っぽい感じを与え、到底消費者の満足を得ることが出来ないものとなってしまっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
筆記具の軸部品が金属素材でありかつ内蔵するリフィールの素材も金属である場合において、バネ部品が金属むき出しの場合バネ部品が先金に一方の端を固定されていることからリフィールが繰り出されるときにバネが縮んだり、捻られたりして変形することにより金属軸の内側や金属リフィールに擦れて振動が起こり、音が発生していることをつきとめ、バネ部品にある特性を有する樹脂コーティングを行うことにより、金属素材とバネの摩擦係数が小さくなり、さらに樹脂コーティングが柔軟性を有することから擦れやねじれによるバネの振動が抑制され、結果的に音がしなくなることを発見し、本発明に至った物である。よって、本発明は、外軸とリフィールが金属からなり、かつ、繰り出しカムによりリフィールを繰り出す構造の筆記具において、前記リフィールを没入する方向に付勢するバネ部材を前記外軸内に配置すると共に、前記バネ部品に樹脂コーティングを施したことを特徴とする筆記具を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
リフィールを戻すためのバネ部品に樹脂コーティングしたことから金属軸内面、または、金属リフィールとバネのぶつかりや擦れによる音が軽減されることにより、リフィールが音もなく出し入れされ使用感が心地よい。また、従来の塗装法でコーティングしバネに特定の樹脂皮膜を形成していることから、コストもそれほど大きくならず、また、樹脂皮膜のはく離や摩耗による品質劣化の心配がない信頼性の高い製品が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、リフィールを筆記具に収納するためのバネ部品に硬さが鉛筆引っ掻き値でb〜3Hで耐屈曲性が良好な樹脂皮膜を形成するため、金属リフィールを出し入れするときに安っぽい擦れやぶつかり音を軽減できることを最も主要な特徴とする。高級な使用感を提供するという目的を、最小のコストで実現した。
【0008】
(実施例1)
図1は、本発明装置の1実施例の断面図であって、1〜3は、図2と同様である。
【0009】
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、アクリル系熱硬化性塗料(9030武蔵クリヤー,武蔵塗料(株)製)を用いた。バネ部品にスプレーで塗布し、180℃,10分の条件で乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、3H ,耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEB7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0010】
(実施例2)
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、アミノアクリル系熱硬化性塗料(マジクロン1000黒,関西ペイント(株)製)を用いた。バネ部品にスプレーで塗布し、160℃,20分の条件で乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、2H,耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEb7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0011】
(実施例3)
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、エポキシ系熱硬化性塗料(焼き付けプラサフグレー,関西ペイント(株)製)を用いた。バネ部品にスプレーで塗布し、140℃,20分の条件で乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、H,耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEB7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0012】
(実施例4)
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、シリコーン−エポキシワニス(ES1004,信越化学工業(株)製)を用いた。バネ部品にスプレーで塗布し、150℃,60分の条件で乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、B,耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEb7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0013】
(実施例5)
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、紫外線硬化型塗料(ユービックPHクリアー,大橋化学工業(株)製)を用いた。バネ部品にスプレーで塗布し、紫外線を照射し乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、4H,耐屈曲性は、塗膜にクラックが発生しはく離してしまった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEB7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0014】
(実施例6)
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、シリコーン樹脂シール材(SE9187L黒,東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を用いた。バネ部品に塗布し、室温で乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、2B,耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEb7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0015】
(比較例1)
バネ部品をそのまま使用した。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEB7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0016】
(比較例2)
バネ部品を溶剤で脱脂し、樹脂コーティングに供した。コーティング用の樹脂は、シリコーン樹脂ポッティング材(SE1821透明,東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を用いた。バネ部品に塗布し、室温で乾燥した。ブリキ板に同条件で塗装し、塗膜物性を確認したところ、引っ掻き硬度(鉛筆法)は、3B,耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEb7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0017】
(比較例3)
バネ部品を溶剤で脱脂し、めっき処理に供した。めっきは、公知の方法で行い、ニッケル層を3ミクロン形成した。鉛筆引っ掻き硬度(鉛筆法)は、6H超(測定不能),耐屈曲性は、良好であった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEB7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0018】
(比較例4)
バネ部品を溶剤で脱脂し、溶射処理に供した。溶射は、公知の方法で行い、アルミナ層を10ミクロン形成した。鉛筆引っ掻き硬度(鉛筆法)は、6H超(測定不能),耐屈曲性は、クラックが発生しアルミナ膜がはく離してしまった。これを回転繰り出し式ボールペン(油性ボールペン(BEB7),ぺんてる(株)製)に組み込み、繰り出し時の音を評価した。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
このような樹脂皮膜でコーティングされたバネを採用したので、最低限のコストで、高級な使用感が提供できる。従って、本発明によれば樹脂皮膜をコーティングしたバネを採用すれば、筆記具の構造や外装にこだわらず、使用感も安っぽくない筆記具がえられ、消費者に高級筆記具を持つ喜びを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の筆記具
【図2】本発明の先端部拡大図
【図3】本発明のバネの断面図。
【符号の説明】
【0022】
1 先金
2 前バネ
3 前軸
4 後軸
5 繰り出しカム
6 樹脂コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外軸とリフィールが金属からなり、かつ、繰り出しカムによりリフィールを繰り出す構造の筆記具において、前記リフィールを没入する方向に付勢するバネ部材を前記外軸内に配置すると共に、前記バネ部品に樹脂コーティングを施したことを特徴とする筆記具。
【請求項2】
樹脂コーティングの硬さが引っ掻き硬度(鉛筆法)でb〜3Hであることを特徴とする第1項記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−80761(P2008−80761A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266465(P2006−266465)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】