説明

筆記具

【課題】筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン体を周状に配列して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具おいて、筆記時の筆圧によりペン体が後退することで抑揚感があり、筆跡幅が変化可能で、かつ各ペン体の筆圧によりの後退量を調整できるようにする。
【解決手段】複数の剛体のペン体6を、先端を先窄み状となるように集合してペン先2とし、インキ流通路11と該インキ流通路11に連通し外方に開口したスリット12を有したペン体保持部材8の収容溝9に、筆記時の筆圧により後方へ移動可能に、かつコイルばね18により前方方向へ弾発して設ける。調整回動体26と該調整回動体26が回動することにより前後動可能なストローク調整体29を設ける。ストローク調整体29とペン体6が当接することで、ペン体6の筆圧による後退量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のペン先片を周状に配列し、各ペン先片の先端を全体形状が先窄み状となるように集合したペン先を有した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、どの方向からも筆記面に筆記できる無方向性のペン先として、複数のペン体を周状に配列して、集合した各ペン体の先端部の全体形状が略円錐形状となるように集合してなるペン先は知られており、ペン体が、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない剛体に形成されたものも、特開2003−165293号公報により知られている。
【0003】
ところで万年筆においては、筆記時の筆圧により、ペンの先端に形成された切割溝により先端が開き、紙面等の筆記面へインキを流出するための前記切割溝で構成されたインキ流出路の幅が広くなるので、筆跡幅に変化をもたらすことができるが、従来の剛体の複数のペン体で構成された無方向性のペン先にあっては、ペン先の先端へのインキ流出は各ペン体間で形成される隙間に依存しており、筆記時の筆圧によりペン体が軸径方向に撓んだりしないので、前記隙間量に変化がおこらず、筆跡幅に変化をもたらすことができないという問題があった。また、従来の剛体のペン体で構成されたペン先を備えた筆記具においては、筆記時の筆圧により各ペン体が後退することがないので、抑揚感がないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−165293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事実に鑑みてなされたもので、どの方向からも筆記できるように、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン体を周状に配列して、集合した各ペン体の先端部の全体形状が先窄み状となるようにしたペン先を備えた筆記具において、筆記時の筆圧によりペン体が後退し、万年筆のペン先のように筆跡幅が変化可能で、かつ各ペン体が筆圧により後退することで抑揚感があり、その後退量を調整できる筆記具を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.外周面上に後方に向かうにしたがってより軸心から離間する複数の収容溝を周状に複数有し、少なくとも後端を開口し前後に延びたインキを先端に流通するためのインキ流通路と、先端部にインキ流通路に連通したスリットを有したペン体保持部材に、該ペン体保持部材の収容溝に遊嵌可能な挿着部を有した先端部が筆圧により軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン体を、挿着部を収容溝に遊嵌してペン体保持部材に対して前後動可能に配し、集合した各ペン体の先端部の全体形状が先窄み状となるようにしてペン先を形成するとともに、ペン体の先端部の内壁面とペン体保持部材のスリットを設けた外壁面との間に毛管作用によりインキが滞留するインキ滞留部を設け、軸体内に、該軸体に体してペン体保持部材が前後動することなくペン体の先端が軸体の先端より突出して挿着し、ペン体とペン体保持部材との間にばねを張架し、軸体の後方に、インキを収容する軸筒を連接するとともに、軸体と軸筒の間に、外周面を外方に露出した調整回動体を軸体に対して回動可能に配し、調整回動体の内側に、各ペン体に当接可能な突起体を有したストローク調整体を、調整回動体を回動することにより調整回動体に対し前後動可能にねじ嵌合して設け、ペン体の筆圧による軸体およびペン体保持部材に対しての後退量を、調整回動体を回動してストローク調整体を前後動してペン体と突起体が当接するまでの移動距離としたことを特徴とする筆記具。
2.前記ペン体に、先端に開口した切割部を設けたことを特徴とする、前記1項に記載の筆記具。」
である。
【0007】
前記ペン体保持部材に設けるインキ流通路は、単なる貫通孔でも良いし、貫通孔に繊維状のインキ誘導芯等を挿入した構成としても良く、軸筒内に収容したインキをペン体保持部材の先端部に確実に流通できればどのような構造でも良い。また、ペン体保持部材の先端部に形成するスリットの数は特に限定されず、インキ滞留部に充分に供給できれば1つでも良いし、例えばペン体の数だけまたはそれ以上の複数設けても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明は前記したような構造なので、どの方向からも筆記できるように、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン体を周状に配列して、集合した各ペン体の先端部の全体形状が先窄み状となるようにしたペン先を備えた筆記具であっても、ペン体が筆記時の筆圧により後方に移動するので、各ペン体間の離間距離が広くなって筆跡幅に変化をもたらすことができ、調整回動体を回動してストローク調整体を前後動することによりペン体の後退量を調整することができるので、同じ筆圧でも筆跡幅に変化をもたらすことができ、かつペン体の後退による抑揚感を感ずることができる。
【0009】
請求項2に係る発明とすることで、ペン体が後退して各ペン体の先端が互いに離間することで各ペン体間の隙間量が広くなり、毛細管としての機能が低下して各ペン体の先端へのインキ供給量が少なくなっても、ペン体の後退による幅が変化しない切割溝によりインキが供給できるので、ペン先の先端に充分にインキを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の筆記具の実施例を示す、筆記具の斜視図である。
【図2】第1の実施例における筆記具の内部構造の概略を示す、要部を断面した図である。
【図3】図2における筆記具の要部の拡大断面図である。
【図4】第1の実施例におけるペン体の拡大斜視図である。
【図5】第1の実施例におけるペン体保持部材の拡大斜視図である。
【図6】ペン体保持部材にペン体を配した状態を示す拡大斜視図である。
【図7】第1の実施例におけるペン芯保持部材の拡大斜視図である。
【図8】第1の実施例におけるストローク調整体の拡大斜視図である。
【図9】図3において、調整回動体を回動してストローク調整体を前進させて、所望する距離だけペン体を後退させた状態を示した図である。
【図10】第2の実施例の筆記具の内部構造の概略を示す、要部を断面した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
どの方向からも筆記できるように、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン体を周状に配列して、集合した各ペン体の先端部の全体形状が先窄み状となるようにしたペン先を備えた筆記具おいて、ペン体を筆記時の筆圧により後方へ移動可能に配するとともにばねにより前方方向に弾発し、調整回動体およびストローク調整体を、調整回動体を回動することでストローク調整体が前後動するように配し、ストローク調整体によりペン体の後退量を調整できるようにする。
【実施例1】
【0012】
本発明の筆記具の第1の実施例を、図1〜図9を用いて説明する。本実施例の筆記具1は、図1に示すように、ペン先2を備えたペン先部3と、調整部4と、インキを収容した軸部5とで構成されている。前記ペン先2は、前方に向かって軸径方向と周方向において先窄み状の先端部6aを有し、該先端部6aに軸心方向に延び先端に開口した切割部7を設けた、筆圧により先端部6aが軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン体6を(図4を参照)、周状かつ先端が先窄み状となるように配して形成してある。
【0013】
各ペン体6を周状に配するためのペン体保持部材8は、図5に示すように、小径な前方突設部8aと、該前方突設部8aより大径で、後方(図3において右側方向)に向かうにしたがい漸次大径となるテーパー状の本体部8bと、該本体部8bより小径な小軸部8cと、本体部8bより大径な後端鍔部8dとで構成されている。本体部8bの外周面には、該本体部8bのテーパーに沿って6つの収容溝9を設けてある。また、ペン体保持部材8には、後端鍔部8dの後端から前方突設部8aの先端に貫通した貫通孔10を形成し、内部に繊維束からなるインキ誘導芯を挿入してインキを流出するためのインキ流通路11を設けてある。前記前方突設部8aは、先端部8aaをさらに小径にし、一方をインキ流通路11に連通し他方を外方に開口した、収容溝9と同数のスリット12を設けてある。
【0014】
前記ペン体6は、図4に示すように、本体部6bの前方に先窄み状の先端部6aを、後方に前記収容溝6に遊嵌する挿着部6cを有した形状としてあり、該挿着部6cは収容溝9のテーパーにならい、後端が後方に向かうにしたがって軸心Hより離間するように形成してある。挿着部6cの後端には、内側に突出した突出部13を設けてある。また、先端部6aは、後方に向かうにしたがって肉厚が漸次厚くなり、各ペン体6をペン体保持部材8に挿着した際に、各ペン体6の先端部6aの内壁面がペン体保持部材4の中心軸線上で互いに当接するように形成してある。
【0015】
本実施例においては6つのペン体6をペン体保持部材8に、挿着部6cをペン体保持部材8の収容溝9に遊嵌し、挿着部6cの突出部13を小軸部8cに対向して挿着し、ペン先2の形状が略円錐形となるように設けてある。各ペン体6は、ペン体保持部材8に対して、突出部13がペン体保持部材8の本体部8bと後端鍔部8dに当接する間を前後動可能としてある。
【0016】
各ペン体6の先端部6aの後端には切欠部14を設けてあり、該切欠部14で構成された挿入孔15(図3を参照)を形成してある。該挿入孔15の内径は、ペン体保持部材8の前方突設部8aの先端部8aaの外径より若干大径となるように形成してあり、先端部8aaのスリット12の周りの外壁面と前記切欠部14を構成する内壁面との間の隙間は、毛管作用によりインキが溜るインキ滞留部16としてある。
【0017】
ペン体6の本体部6bの内壁面に形成した段部17の後端面とペン体保持部材8の本体部8bの前端面との間にコイルばね18を張架してある。
【0018】
前記ペン体6およびペン体保持部材8を装着するペン先部3を構成する軸体19は、図3に示すように、内部に、ペン体保持部材8に挿着した各ペン体6が後退(図3において右側方向)可能に、ペン体6の本体部6bおよび挿着部6cで形成されるテーパー状の外形にならったテーパー状内壁面部19aと、ペン体保持部材8の後端鍔部8dが当接可能な段部19bを設けてある。各ペン体6およびコイルばね18をペン体保持部材8に装着した状態で軸体19内に挿入し、各ペン体6の先端部6aを軸体19より突出し、本体部6bおよび挿着部6cをテーパー状内壁面部19aに位置し、ペン体保持部材8の後端鍔部8dを段部19bに当接させて軸体19に挿着してある。
【0019】
櫛溝20と前後端に開口して連通したインキ流出溝(図示せず)を有したペン芯21を、図7に示すように、外径をペン体保持部材8の後端鍔部8dと略同径とした外方に突出した先端頭部22aを有したペン芯保持部材22内に挿着し、ペン芯21の先端をペン体保持部材8の後端鍔部8dに当接してペン芯21のインキ流出溝とペン体保持部材8に設けたインキ流通路11を連通させ、先端頭部22aの外側面に形成した雄ねじ部23を前記軸体19の内壁面に形成した雌ねじ部24にねじ嵌合して、軸体19に連接して設けてある。
【0020】
軸体19の後方にリング状で内周面に雌ねじ部25を有した調整回動体26を、軸体19に対して回動可能に外側面が外方に露出するように配し、図8に示すような、等間隔にペン体6側に向かって突出した4つの突起体27と、前記調整回動体26の雌ねじ部25にねじ嵌合する雄ねじ部28を有したストローク調整体29を、前記雄ねじ部28を調整回動体26の雌ねじ部25にねじ嵌合して配して、調整部4としてある。なお本実施例では、突起体27の数は4つでペン体6の数は6つであるが、各ペン体6が後退することで4つの突起体27のいずれかの先端に当接可能に、突起体27の形状を形成してあるが、突起体27の数を、ペン体6の数に対応した数を設けても良い。
【0021】
前記突起体27の先端は、ペン体保持部材8の後端鍔部8dの突起体27に対向した位置に設けた突起体27の幅と略同等の幅を有した前後に貫通した貫通凹部30と、ペン芯保持部材22の先端頭部22aの突起体27に対向した位置には、該突起体27の幅と略同等の幅を有した貫通凹部31を設けてあり、突起体27の先端を、貫通凹部31を通してペン体保持部材8の後端鍔部8dの前方の小軸部8c上に位置させてある。
【0022】
調整回動体26の後方には、インキを直に収容可能なインキ収容室32aを有した軸筒32が、該軸筒32に形成した雌ねじ部33をペン芯保持部材22の外周面に形成した雄ねじ部34にねじ嵌合して着脱自在に連接して軸部5としてある。前記調整回動体26は、軸体19と軸筒32とにより挟持される。図示していないが、なお軸筒32内に収容したインキが、軸筒32の雌ねじ部33とペン芯保持部材22の雄ねじ部34とのねじ嵌合部より漏れ出さないように、例えばパッキンを設ける等の手段を講じる必要があることはいうまでもない。
【0023】
調整回動体26は、軸体19と軸筒32とで挟持されており、前後動することがないので、調整回動体26を回動するとストローク調整体29は、突起体27がペン体保持部材8の貫通凹部30とペン芯保持部材22の貫通凹部31を構成する各々の横壁に当接して回動せずに前後動する。
【0024】
本実施例の筆記具1は、軸筒32内に収容したインキがペン芯21を介してペン体保持部材8に形成したインキ流通路11に流出し、該インキ流通路11を通ってペン体保持部材8の前方突設部8aの先端部8aaに流出し、スリット12を介してインキ滞留部16にインキが溜り、各ペン体6の切割部7や隣り合うペン体6とで形成される隙間35を通ってペン先2の先端にインキを充分に供給する。また、筆記時における筆圧により、図9に示すようにペン体6は後方へ移動し、ペン体6はコイルばね18により前方方向(図9において左側方向)に弾発されており、筆圧に応じてペン体の後退量が変化するので万年筆のペン先のような筆記時における抑揚感を感ずることができる。また、調整回動体26を回動してストローク調整体29を前後動することで、筆圧によるペン体6の後退量を調整できるので、同じ筆圧でもペン体6の後退量に変化をもたらすことができる。
【実施例2】
【0025】
次に、第2の実施例の筆記具を、図10を用いて説明する。なお同じ部材同じ箇所を示す場合は同じ符号を付してある。本実施例の筆記具51は、ペン芯保持部材22が、インキカートリッジ52に備えられたインキ流出防止用のための開口部を閉塞した蓋(図示せず)をずらして開口部を開口するための後方(図10において右側方向)に突出した突出部53を有した構造である点、ペン芯保持部材22にインキカートリッジ52を挿着する挿着部54をしてあり、インキカートリッジ52を挿着可能とした構造である点、軸筒32がインキカートリッジ52を収容可能な収容室55を有した構造である点以外は、第1の実施例と同様のペン体6、ペン体保持部材8、コイルばね18、軸体19、調整回動体26、ストローク調整体29を形成し、第1の実施例と同様にして組み立てたものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、複数のペン先片を環状に配列し、各ペン先片の先端を全体形状が先窄み状となるように集合したペン先を有した筆記具において、筆記時の筆圧により後方へペン体が移動可能とし、筆圧によるペン体の後退量に変化をもたらしたい場合に適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1、51 筆記具
2 ペン先
3 ペン先部
5 軸部
6 ペン体
6a 先端部
6b 本体部
6c 挿着部
7 切割部
8 ペン体保持部材
8a 前方突設部
8aa 先端部
8b 本体部
8c 小軸部
8d 後端鍔部
9 収容溝
11 インキ流通路
12 スリット
16 インキ滞留部
18 コイルばね
19 軸体
26 調整回動体
27 突起体
29 ストローク調整体
32 軸筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面上に後方に向かうにしたがってより軸心から離間する複数の収容溝を周状に複数有し、少なくとも後端を開口し前後に延びたインキを先端に流通するためのインキ流通路と、先端部にインキ流通路に連通したスリットを有したペン体保持部材に、該ペン体保持部材の収容溝に遊嵌可能な挿着部を有した先端部が筆圧により軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン体を、挿着部を収容溝に遊嵌してペン体保持部材に対して前後動可能に配し、集合した各ペン体の先端部の全体形状が先窄み状となるようにしてペン先を形成するとともに、ペン体の先端部の内壁面とペン体保持部材のスリットを設けた外壁面との間に毛管作用によりインキが滞留するインキ滞留部を設け、軸体内に、該軸体に体してペン体保持部材が前後動することなくペン体の先端が軸体の先端より突出して挿着し、ペン体とペン体保持部材との間にばねを張架し、軸体の後方に、インキを収容する軸筒を連接するとともに、軸体と軸筒の間に、外周面を外方に露出した調整回動体を軸体に対して回動可能に配し、調整回動体の内側に、各ペン体に当接可能な突起体を有したストローク調整体を、調整回動体を回動することにより調整回動体に対し前後動可能にねじ嵌合して設け、ペン体の筆圧による軸体およびペン体保持部材に対しての後退量を、調整回動体を回動してストローク調整体を前後動してペン体と突起体が当接するまでの移動距離としたことを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記ペン体に、先端に開口した切割部を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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