説明

等反発ばね機構

【課題】起立補助椅子において、一定の力で着座を押し上げることにより、座るあるいは立つ動作に必要な力を軽減する。
【解決手段】本発明の等反発ばね機構は、一次ばね4の片端は上下に可動する上部フレーム2に接続され、他方の片端が固定されている下部フレーム3に接続されている。一方、二次ばね5の片端は固定支柱8に回転できる状態で固定され、二次ばね5の他方の片端は一方向に可動する主可動体6に回転できる状態で接続されている。主リンク9の片端は主可動体6と回転できる状態で接続され、主リンク9の他方の片端は上部フレーム2における一次ばね4との接続点に回転できる状態で接続されている。荷重による上部フレーム2の変位に対し、上部フレームに一定の反発力を与える構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は起立補助用椅子、車椅子、和式椅子、洋式椅子、自動車の椅子、あるいは高齢者を風呂に入れるためなどのリフト、車等の段差がある場所へ荷揚げするリフト、重量物の運搬時に用いるリフトなどに設置し、これらの動作を補助する等反発ばね機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここでは、着座あるいは起立動作を補助する補助椅子を取り上げ説明する。下肢が弱い人が、楽に椅子に座るあるいは椅子から立ち上がることができるように、椅子の着座を昇降させる補助椅子がすでに提案されている。着座を昇降させる手段として、ばね、電動歯車、エアーバックなどを使用する方法がある。
【0003】
ばねを利用する方法では、椅子の着座を伸縮の巾が広いばねで支え、ばねの反力で立ち上がる動作を補助する方式が知られている。人が椅子に座っている状態では、着座を支えるばねが圧縮されているため大きな反力が働いている。人が立ち上がる過程では、圧縮されたばねが元に戻ることになるため、ばねの反力が人の臀部を支えることになる。
【0004】
電動歯車方式は電動歯車で椅子の着座を上下する方法であり、着座あるいは起立動作に対して、十分な補助力を得ることができる。また、電動歯車を動かすためには、電力が必要であり、充電器を搭載するか外部電源を利用することになる。
【0005】
エアーバッグ方式は着座の下にエアーバッグを取り付け、これをエアーポンプで膨らませることで、人が椅子から立つ動作を助ける方法である。エアー量を調整することで、必要に応じた補助力を得ることができる。この装置はエアーバッグの外、エアーポンプおよびエアーポンプを動かすための電力等が必要になる。また、低位置から高位置へ重い荷物を移動するためには、電動歯車や油圧を利用した比較的大掛かりな装置が用いられている。
【特許文献1】特開昭60−40049
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
足の筋肉が弱い人にとって、通常の椅子を利用する場合、足を屈伸することになり、筋力を必要とするため辛い思いをしている。時として他の人の力を借りる必要がある。人が立っている状態から椅子に座る動作、あるいは椅子に座っている状態から立つ動作を、楽に行うためには、特に体の臀部を一定の外力で支えることが望ましい。
【0007】
椅子の着座のばねを補強し、その反力で立ち上がりを補助する方式は、立ち上がる動作の過程で、圧縮されたばねが元に戻り、ばねの反力が急激に減少する。そのため、立ち上がるまでに必要で十分な反力を与えることができない問題がある。
【0008】
また、柔軟なばねを用いると、椅子に座った時に、ばねと接続した着座が振動し体が上下あるいは左右に揺れる動きが発生する。この振動は、座る人の体を不安定にし、特に足の弱い人にとっては強い不安を感じさせることになる。そこで、人が椅子に座るあるいは立ち上がる動作をする時は、臀部を十分な反力で支え、しかも不安定な振動を起こさない着座の構造を採用する必要がある。
【0009】
椅子の着座を上下させ立ち上がりを容易にする電動歯車方式は、装置の重量が重く、適用できる椅子が限られる。また、歯車機構、モータ、制御装置等が必要なため高価である。さらに、電動歯車を動かすためには、電力が必要であり、電源の確保等が問題になる。エアーバッグ方式は着座の体制が不安定になりがちで、またエアーポンプを動かすための動力が必要であり、空気の供給、排出に際し音が発生するなどの問題がある。
【0010】
椅子の補助機構は、人が椅子から立ち上がる時に、臀部を安定した一定の力で持ち上げることが望ましい。又座る時にも、一定の力で着座が沈み込み、不安感を与える振動等を最小にし、楽に着座できることが必要である。また、補助機構を取り付けた椅子は持ち運びが容易で、違和感の無い構成が必要なため、容易に着座の下に取り付けられ、小型で、軽く、安全で、しかも安価でなければならない。また、電気等の他の動力源を用いない機構が望ましい。
【0011】
さらに、重い荷物を低位置から高位置へ移動するための装置は、電動歯車や油圧が利用されているが、設備が比較的大きく、そのため設備が重くなり、高価でもある。また、外部から電力等の動力源を供給しなければならないなどの問題があり、簡便で、経済的な装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一次ばね、二次ばね、上下に平行に位置する上部フレームおよび下部フレーム、主可動体、主リンクから構成され、一次ばねは片端が上下に可動する上部フレームに接続され、他方の片端が固定された下部フレームに接続され、二次ばねの片端は固定支柱に回転できる状態で固定され、二次ばねの他方の片端は一方向に可動する主可動体に回転できる状態で接続され、主リンクの片端は主可動体と回転できる状態で接続され、主リンクの他方の片端は上部フレームの一次ばねとの接続点に回転できる状態で接続されており、荷重による上部フレームの変位に対し、上部フレームに一定の反発力を与えることを特徴とする等反発ばね機構である。
【0013】
本発明は、二次ばねの片端は、下部フレームに設置した固定支柱に回転できる状態で固定され、二次ばねの他方の片端は一方向に可動する主可動体に回転できる状態で接続され、主リンクの片端は回転できる状態で主可動体に接続され、圧縮された二次ばねの反発力を主リンクに伝達させ、主リンクの他方の片端に一方向の負のばね特性を形成させることを特徴とする等反発ばね機構である。
【0014】
本発明は、設定反発力、一次ばねの最大高さおよび最小高さ、固定支柱高さ、底辺長さ、回転余裕長さ、荷重作用位置、一次ばねおよび二次ばねのばね定数を最適化することで、荷重点に変位に対しほぼ等しい反発力を発生させることを特徴とする等反発ばね機構である。
【0015】
本発明は、主可動体は下部フレームに設置され、一方向に可動する補助可動体は上部フレームに設置され、主リンクの片端は主可動体と回転できる状態で接続され、主リンクの他方の片端は上部フレームに回転できる状態で接続され、補助リンクの片端は補助可動体に回転できる状態で接続され、他方の片端は下部フレームに回転できる状態で接続され、主リンクと補助リンクの交点は両リンクが回転できる状態で固定され、上部フレームが下部フレームに対し、平行に移動できる構成を備えていることを特徴とする等反発ばね機構である。
【0016】
本発明の、一次ばねおよび二次ばねはつるまきばね、ねじりコイルばね、板ばね、たけのこばね、トーションバー、空気ばね等からなることを特徴とする等反発ばね機構である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に基づく等反発ばね機構を起立補助椅子に適用した場合、次のような効果がある。
足の弱い人が通常の椅子に座る場合、あるいは椅子から立ち上がる場合には、足に負担がかかるため、補助的に外部から力を借りる必要がある。特に椅子から立ち上がる場合には大きな力を必要になる。
【0018】
本発明の等反発ばね機構を椅子の着座の下部に設置すると、等反発ばね機構により、椅子の着座を通して人の臀部を一定の力で押し上げ、人が立ち上がる動作を補助する。そのため、椅子に座る動作、あるいは立ち上がる動作が楽にできる。また、本機構は見かけ上、ばね定数がほぼ零であり、座ったときに振動を感じない。着座が振動すると、体が不安定になり不安を感じさせることになるが、これらの問題もなく、安心して座ることができる。
【0019】
椅子から容易に立ち上がるためには、それぞれの人に適した反発力あるいは反発力のパターンが必要になる。例えば、足の弱さの程度、体重などにより必要な反発力が異なるが、本発明の等反発ばね機構では、自由に反発力を選定できる特徴がある。また、立ち上がる過程において反発力のパターンを変化させることもできる。
【0020】
本発明に基づく等反発ばね機構は扁平な構造にすることができるため、椅子の着座に問題なく設置することができる。また、重量も軽く、容易に椅子を移動することができる。また、この等反発ばね機構は、機械的な機構のみから構成されており、電力等の他の動力を必要とせず、経済的にも安価である。
【0021】
さらに、等反発ばね機構は、重い荷物を低位置から高位置へ移動するための装置に、適用することができる。本発明の等反発ばね機構を、これらの装置に適用すると、荷物が常に一定の力で支えられた状態で移動させることができる。そこで、重い荷物の運搬作業を楽に一人ですることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明に基づく等反発ばね機構の原理を示す図である。図1の横軸はばねの変位であり、縦軸はその時の反発力を示している。正のばね定数をもつ正特性ばねはばねが伸びるに従って、ばねの反発力は比例的に増加する。逆に、ばね定数の絶対値が同じで、傾きが負となるような負特性ばねのメカニズムを作り、両者を並列に組み合わせた構成にすると、反発力は両者の和になる。この原理により合成反発力は変位に対し常に一定になり、等反発の特性を得ることができる。
【0023】
一方、変位励振を受ける1自由度の質量一減衰-ばね系の振動伝達特性の改善を図るためには、系のばね定数を小さくし、零に近づける方法が有効であることが一般に知られている。ここで、ばね定数とは荷重一変位曲線における直線の傾きであるが、ばね定数が零であるということは、直線の傾きが零ということである。
【0024】
図1に示すように等反発ばね機構の場合、直線の傾きが零であり、言い換えると変位に対して反発力の変動が零である。そのため、等反発ばね機構を採用すると振動は極小になる。逆に、ばね定数を零とするためには、あらゆる変位において、等しい反発力を発生させるメカニズムを、創出すればよいということになる。
【0025】
図2は本発明に基づく負のばね特性に関するメカニズムの1例である。本発明に基くこの負のばね特性は、正のばね定数をもつ通常の二次ばね5と、主可動体6、主リンク9および補助B可動体11によって構成されている。補助B可動体11の上にあるA点の上下方向の移動量を変位と定義し、変位の方向は下向きを正としている。
【0026】
初期状態、すなわち変位が無い状態において、主可動体6の上のB点で、二次ばね5の片端は、主リンク9の片端に回転運動が許される状態で接続されている。二次ばね5の他方の片端は、C点で回転のみが許される状態で接続され固定されている。
【0027】
ただし、主可動体6は、垂直方向の運動が拘束されており、水平方向のみに運動することができる。また, 補助B可動体11は、水平方向の運動が拘束されており、垂直方向のみに運動が許される構成になっている。
【0028】
図3は本発明に基づく、負のばね特性における力の釣り合いの1例である。初期状態において、二次ばね5は圧縮された状態で、B−C間に取り付けられている。図3に示すように、主可動体6の上のB点には、二次ばねの二次ばね反発力20が発生している。
【0029】
主可動体6は、水平方向のみ動くことができる。そためこの二次ばね反発力20は、主可動体6に接続している主リンク9を押し上げる力21になる。補助B可動体11は、垂直方向のみ動くことができるため、主リンク9と接続しているA点には、上向きに持ち上げる力22が発生する。
【0030】
ここで、A点を下向きに移動させると、主リンク9の長さは変化しないため、主可動体6の上のB点は左に移動する。すなわち、二次ばね5はC点を中心に回転運動をすると同時に圧縮され、二次ばね反発力20は大きくなる。二次ばねの圧縮に伴ってA点の上向きに持ち上げる力22は総じて減少することになる。
【0031】
すなわち、負のばね特性の傾向を示す。この時二次ばね5と主リンク9のなす角度が変わるため、A点での上向きに持ち上げる力22の大きさは、これらの影響を受け変化する。
【0032】
図4は本発明に基づく負のばね特性の二次ばねが垂直になった時の力の釣り合いを示す図である。A点がさらに下向きに移動すると、二次ばね5が垂直になる。この時、二次ばね5による主リンク9を押し上げる力21が零になり、補助B可動体11の上のA1点での持ち上げ力22も零となる。
【0033】
図5は本発明に基づく負のばね特性に関するメカニズムの他の1例である。図5に示す負のばね特性も、正のばね定数をもつ通常の二次ばね5と、主可動体6、主リンク9および補助B可動体11によって構成されている。補助B可動体11の上におけるA点の上下方向の移動量を変位と定義している。
【0034】
二次ばね5の片端は、主可動体6の上のB点で、主リンク9の片端に回転運動が許される状態で接続され、二次ばね5の他方の片端は、固定されているC点で回転のみが許される状態で接続されている。ただし、主可動体6は上下方向の運動が拘束され、水平方向のみに運動することができる。また, A点の運動は水平方向には拘束されており、上下方向の運動のみが許される構成になっている。
【0035】
図6は本発明に基づく、負のばね特性における力の釣り合の他の1例である。初期の状態では、二次ばね5は圧縮された状態でB−C間に垂直に取り付けられている。ここで、A点が下向きに移動すると、A1点と主可動体6上のB1点がリンク9で接続されているため、主可動体6は左に移動する。
【0036】
この時、圧縮されている二次ばね5は、C点を中心に回転運動しながらに伸びることになる。同時に二次ばねの二次ばね反発力20により、主リンク9が主リンク引っ張り力24により引っ張られる。下方に移動した補助B可動体11のA1点では、この主リンク引っ張り力24により、垂直下方へ引き下げ力24が発生する。
【0037】
同時に二次ばね5と主リンク9のなす角度も変わるため、A1点での引き下げ力24の大きさは、これらの影響を受け変化することになる。この時、圧縮された二次ばねが伸び、二次ばねの反発力が減少するが、A1点での引き下げ力24は増加することになる。すなわち、負のばね特性の傾向を示す。
【0038】
図7は本発明に基づく具体化された等反発ばね機構の基本構成図である。図7は図2で示した負のばね特性を採用している。図8は本発明に基づく、等反発ばね機構を椅子に適用した場合の構成図である。本装置は上部フレーム2および下部フレーム3、一次ばね4および二次ばね5、主可動体6および補助A可動体7、主リンク9および補助リンク10から構成されている。椅子30に等反発ばね機構1を設置する場合は、着座32の下部の等反発ばね機構収納部31内に収納し、等反発ばね機構1の上部フレーム2の上に着座32を設置することになる。
【0039】
一次ばね4は片端が上下に可動する上部フレーム2に接続され、他方の片端が固定されている下部フレーム3に接続されている。一方、二次ばね5の片端は固定支柱8に回転できる状態で固定され、二次ばね5の他方の片端は一方向に可動する主可動体6に回転できる状態で接続されている。主リンク9の片端は主可動体6と回転できる状態で接続され、主リンク9の他方の片端は上部フレーム2における一次ばね4との接続点に回転できる状態で接続されている。荷重による上部フレーム2の変位に対し、上部フレームに一定の反発力を与える構成になっている。
【0040】
着座32に人が座ると上部フレーム2が下に押し下げられる。そのため、上部フレーム2と下部フレーム3の間に取り付けられている一次ばね4は圧縮される。二次ばね5も負のばね特性で説明したように圧縮される。この時、一次ばね4が圧縮されるため、上部フレーム2を上向きに持ち上げる反発力が大きくなる。二次ばね5の圧縮力は、主可動体6および主リンク9を経由して上部フレーム2を上向きに持ち上げることになり、この反発力は逆に小さくなる。
【0041】
等反発ばね機構1は、これらの反発力の和が一定になるようになっている。すなわち、この一定の反発力で上部フレーム2を押し上げ、上部フレーム2の上に設置されている着座32を一定の力で押し上げることになる。なお、上部フレーム2には、左右に動くことができる補助A可動体7が取り付けられており、補助A可動体7は、回転ができる状態で補助リンク10の片端が取り付けられている。
【0042】
補助リンク10の他の片端は、下部フレーム3に固定されている。補助リンク10と主リンク9は交差しており、交点はそれぞれのリンクが回転できる状態で固定されている。そのため、上部フレーム2は水平を保ちながら、上下方向に移動させることができる。なお、一次ばねおよび二次ばねはつるまきばね、ねじりコイルばね、板ばね、たけのこばね、トーションバー、空気ばね等を用いることができる。
【0043】
椅子30から立ち上がる時には、等反発ばね機構1は座る時の逆の動きをすることになり、この時も、上部フレーム2に取り付けられた着座32が、一定の力で人の臀部を押し上げることになる。すなわち、足の弱い人が椅子30を利用する場合に、足を曲げて座る直前、あるいは立つ直前に最も力を必要とするが、この時、着座32が臀部を押し上げ、座るあるいは立つ動作を助けてくれることになる。また、等反発ばね機構1はばね定数がほぼ零になるため、座る時に不安定な振動を起こすことも無い。
【0044】
図9は本発明に基づく等反発ばね機構の基本構成における力の釣り合いを示す図である。上部フレーム2の任意の点ξに外荷重W(x)が作用するとき、反発力F(x)、荷重点における反発力W(x)は下記の式で示される。反発力F(x)は一次ばねの効力F(x)と二次ばねの反発力による効力F(x)の和となる。なお、効力F(x)は二次ばねの反発力が主リンク9を介して、上部フレーム2上の主リンク9と一次ばね4の接続点に働く垂直成分の効力である。ただし、上部フレーム2の重さをMg、初期の上部フレーム2が垂直下部へ移動した長さをx、一次ばね4および二次ばね5のばね定数をそれぞれkおよびkとした。
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
【数3】

【0048】
【数4】

【0049】
【数5】

なお、x=0での上部フレーム高さを最大高さhmax、x=xmaxでの上部フレーム高さを最小高さhminとした。また、x=xmaxでのb(x)を回転余裕長さλとした。理想的な等反発力特性とは、変位過程のおける反発力が一定での変動が無い特性である。しかし、理想的な特性を実際に得ることは困難であり、ある程度の変動が生じる。上記した力の釣り合いのバランス式から、反発力F(x)を求めることができる。図10は本発明に基づく、変位xの変化に対する反発力の変化を示す図である。
【0050】
そこで、等反発力特性を評価するため、反発力F(x)と設定反発力の差を求め、平均変動率δを次のように定義した。
【0051】
【数6】

ここで、平均変動率δとは、ある設定反発力Fに対して、メカニズムの変位過程における、任意の位置での実際の反発力F(x)とFとの差の絶対値を、全変位において平均しFで割った値、すなわち、実際に得られる反発力分布と、Fとのずれの度合いを表す値である。
【0052】
したがって、δが小さいほど反発力が一定に近づき、そのモデルの等反発力特性が良好であるといえる。ここで、 ΔFは設定反発力Fと、実際に得られる反発力F(x)との差、またNは全変位に対する分割数である。
【0053】
力の釣り合いのバランス式で示したように、等反発力特性を支配する因子は、等反発ばね機構を構成する因子に支配されており、これらの因子を変化させることにより反発力分布の形状が変化する。そこで、等反発ばね機構の最適な反発力分布を求める方法として、コンピュータプログラムによる計算を用いた。最適化の方法としては、任意の設計条件に対して、各パラメ-夕をそれぞれ独立に変化させ、反発力分布を計算し、変化させたパラメータの組み合わせの中で、最も平均変動率δが小さいものを選定した。
【0054】
図11は本発明に基づく、等反力ばね発機構の最適形状の1例を示す図である。図9の等反発ばね機構の構成に従って、設定反発力Fを300Nとして、各因子を変化させ最適化したものである。なお、このときの平均変動率は1.5%と低い値になっている。
【0055】
本発明による等反発ばね機構を適用して実用機を計画する場合は、製品構造により各因子が制約を受けることになる。装置設計では、これらの制約に対し各因子の自由度が要求される。また、平均変動率は5%以下であれば十分に等反発の効果を得ることができるため、この条件で、各因子の範囲を求めた。
【0056】
図12は本発明に基づく、平均変動率5%以下における各因子の範囲の1例を示す図である。この時、設定反発力F0、ストロークhmax−hmin、底辺長さb、一次ばね定数kおよび二次ばね定数kを固定し、最大高さhmax、固定支柱高さa、回転余裕長さλを変化させた結果である。最大高さhmaxの範囲は、固定支柱高さaおよび回転余裕長さλを図11に示す最適値に設定し、平均変動率5%以下になる最大値および最小値で求めている。
【0057】
平均変動率5%以下になる各因子の最大値と最小値間の範囲は十分に広い。等反発ばね機構を組み込んだ装置を計画する場合、各因子は十分な余裕を持っており、自由度のある設計をすることができる。また、補助椅子に適用する場合においても、身長、体重、体感等に個人差があるが、十分これらに対応した椅子の設計をすることができる。
【0058】
図13は本発明に基づく、最大高さを変化した場合の変位に対する反発力の変化の1例を示す図である。図14は本発明に基づく、固定支柱高さを変化した場合の変位に対する反発力の変化の1例を示す図である。図15は本発明に基づく、回転余裕長さを変化した場合の変位に対する反発力の変化の1例を示す図である。
【0059】
図13、図14、図15では、それぞれの因子が最大値、最適値、最小値を取ったときの、反発力の変化をA、B、Cであらわし示している。これらの結果からも、反発力は変位に対しほぼ一定であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は本発明に基づく、等反発ばね機構の原理を示す図である。
【図2】図2は本発明に基づく、負のばね特性に関するメカニズムの1例を説明する図である。
【図3】図3は本発明に基づく、負のばね特性における力の釣り合いの1例を説明する図である。
【図4】図4は本発明に基づく、負のばね特性の二次ばねが垂直になった時の力の釣り合いを示す図である。
【図5】図5は本発明に基づく、負のばね特性に関するメカニズムの他の1例を説明する図である。
【図6】図6は本発明に基づく、負のばね特性における力の釣り合の他の1例を説明する図である。
【図7】図7は本発明に基づく、具体化された等反発ばね機構の基本構成図である。
【図8】図8は本発明に基づく、等反発ばね機構を椅子に適用した場合の構成図である。
【図9】図9は本発明に基づく、等反発ばね機構の基本構成における力の釣り合いを示す図である。
【図10】図10は本発明に基づく、変位xの変化に対する反発力の変化を示す図である。
【図11】図11は本発明に基づく、等反発ばね機構の最適形状の1例を示す図である。
【図12】図12は本発明に基づく、平均変動率5%以下における各因子の範囲の1例を示す図である。
【図13】図13は本発明に基づく、最大高さを変化した場合の変位に対する反発力の変化の1例を示す図である。
【図14】図14は本発明に基づく、固定支柱高さを変化した場合の変位に対する反発力の変化の1例を示す図である。
【図15】図15は本発明に基づく、回転余裕長さを変化した場合の変位に対する反発力の変化の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 等反発ばね機構
2 上部フレーム
3 下部フレーム
4 一次ばね
5 二次ばね
6 主可動体
7 補助A可動体
8 固定支柱
9 主リンク
10 補助リンク
11 補助B可動体
20 二次ばね反発力
21 主リンク押上げ力
22 持ち上げ力
23 主リンク引っ張り力
24 引き下げ力
30 椅子
31 等反発ばね機構収納部
32 着座
33 背もたれ
34 脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次ばね、二次ばね、上下に平行に位置する上部フレームおよび下部フレーム、主可動体、主リンクから構成され、一次ばねの片端は上下に可動する上部フレームに接続され、他方の片端が固定された下部フレームに接続され、二次ばねの片端は固定支柱に回転できる状態で固定され、前記二次ばねの他方の片端は一方向に可動する主可動体に回転できる状態で接続され、主リンクの片端は前記主可動体と回転できる状態で接続され、前記主リンクの他方の片端は前記上部フレームの前記一次ばねとの接続点に回転できる状態で接続されており、荷重による上部フレームの変位に対し、上部フレームに一定の反発力を与えることを特徴とする等反発ばね機構。
【請求項2】
前記二次ばねの片端は、下部フレームに設置した固定支柱に回転できる状態で固定され、前記二次ばねの他方の片端は一方向に可動する主可動体に回転できる状態で接続され、主リンクの片端は回転できる状態で前記主可動体に接続され、圧縮された前記二次ばねの反発力を主リンクに伝達させ、前記主リンクの他方の片端に一方向の負のばね特性を形成させることを特徴とする請求項1に記載の等反発ばね機構。
【請求項3】
設定反発力、一次ばねの最大高さおよび最小高さ、固定支柱高さ、底辺長さ、回転余裕長さ、荷重作用位置、一次ばねおよび二次ばねのばね定数を最適化することで、荷重点に変位に対しほぼ等しい反発力を発生させることを特徴とする請求項1に記載の等反発ばね機構。
【請求項4】
前記主可動体は前記下部フレームに設置され、一方向に可動する補助可動体は前記上部フレームに設置され、前記主リンクの片端は前記主可動体と回転できる状態で接続され、前記主リンクの他方の片端は前記上部フレームに回転できる状態で接続され、補助リンクの片端は前記補助可動体に回転できる状態で接続され、他方の片端は前記下部フレームに回転できる状態で接続され、前記主リンクと前記補助リンクの交点は両リンクが回転できる状態で固定され、前記上部フレームが前記下部フレームに対し、平行に移動できる構成を備えていることを特徴とする請求項1に記載の等反発ばね機構。
【請求項5】
前記一次ばねおよび二次ばねはつるまきばね、ねじりコイルばね、板ばね、たけのこばね、トーションバー、空気ばね等からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の等反発ばね機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−55494(P2006−55494A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242303(P2004−242303)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月24日 社団法人日本機械学会中国四国学生会発行の「中国四国学生会 第34回学生員卒業研究発表講演会 講演前刷集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年6月12日 社団法人日本設計工学会中国支部主催の「社団法人日本設計工学会中国支部講演」において文書をもって発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)