説明

等張液

【課題】 海水海洋深層水が、胎児をはぐくむ羊水と似た成分ミネラルバランスを持つと言われていることに注目し、これを生理食塩液の代わりに活用し得ないものかと研究し、生理食塩液と同等の浸透圧を有する等張液を発明するに至ったものである。
【解決手段】 海水Aと海洋深層水Bと自然塩Cとの少なくとも一方に希釈水Dを加え、浸透圧を200〜400mOsm、特に生理食塩液と同等に調整したものであり、自然塩Cが、海水Aより得た海水塩c1と、海洋深層水Bより得た深層水塩c2と、海以外から採取した岩塩類c3との少なくとも1種類で、希釈水Dが、海水Aより分離した海水系淡水d1と、海洋深層水Bより分離した深層水系淡水d2と、海以外から採取した陸系淡水d3と、人工的に製造した蒸留水d4との少なくとも1種類であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理食塩液(生理食塩水とも称する)と同等の浸透圧を有する等張液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生理食塩液は、化学的に製造された合成塩(人工塩とも称する)を主とし、塩化ナトウリウムを0.85〜0.95w/v%を含む水溶性の注射剤であり、主に細胞外液欠乏、ナトリウム欠乏、クロル欠乏時の補給に20〜1000ミリリットルを、皮下・静脈内注射又は点滴静注により用いられている。また、大量出血等に伴う体液喪失時の補給、各種注射薬の溶解や希釈にも広く利用されている。更に、皮膚・創傷面・粘膜の洗浄、湿布及び含嗽、噴霧吸収剤として気管支粘膜洗浄に用いる。その他、医療用器具の洗浄にも用いられている。
生理食塩液は、0.8〜0.9%の塩分で、血液の浸透圧は280〜300mOsm/Lで、pHは7.2〜7.4である。
【0003】
一方、水は低張水と等張水と高張水とに分類することができる。その内、等張水は、摘出した器官や組織をしばらく生かしておくための媒液として、体液成分(特に血清)と等張になるように作成されている。そのため、等張水に動物細胞を入れた時、細胞膜を介して見かけ上の水の移動がなく、細胞の堆積にも変化が見られないものである。その結果、ある程度は細胞をその中で生かしておける。
【0004】
近年、日本の各地で海洋深層水が採取され、様々な分野での産業応用が進んでいる。例えば、海洋深層水を使用した特許として、清涼飲料(特許文献1)、味噌や清酒(特許文献2)、豆腐の製造方法(特許文献3)、皮膚化粧料(特許文献4)、冷菓(特許文献5)、入浴剤(特許文献6)等が知られている。
【特許文献1】特公平07−34728号
【特許文献2】特許第2837386号
【特許文献3】特許第2995621号
【特許文献4】特許第3055882号
【特許文献5】特許第3067946号
【特許文献6】特許第3130262号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生理食塩液は、塩化ナトウリウムを含有するものであるから、体液と比較した場合、塩化ナトウリウムを除くミネラル成分の一部が不足したり、一部のミネラル成分量が不足するものであった。そのため、生理食塩液のみを補給し続けた場合、ミネラル欠乏による症状も生じることもあった。
動物性の臓器や細胞を合成塩から成る生理食塩液によって保存することも試みられているが、保存期間が短いと言う問題点があった。
そこでこの発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、海水(海洋深層水)が、胎児をはぐくむ羊水と似た成分ミネラルバランスを持つと言われていることに注目し、これを生理食塩液の代わりに活用し得ないものかと研究し、生理食塩液と同等の浸透圧を有する等張液を発明するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の等張液は、請求項1として、海水と自然塩と海洋深層水との少なくとも一方を、希釈水にて浸透圧200〜400mOsmに調整してあることを特徴とする。
請求項2は、請求項1の等張液において、自然塩が、海水より得た海水塩と、海洋深層水より得た深層水塩と、海以外から採取した岩塩類との少なくとも1種類であることを特徴とする。
請求項3は、請求項1,2の等張液において、希釈水が、海水より分離した海水系淡水と、海洋深層水より分離した深層水系淡水と、海以外から採取した陸系淡水と、人工的に製造した蒸留水との少なくとも1種類であり、浸透圧を生理食塩液と同等に調整してあることを特徴とする。
請求項4は、請求項1,2,3の等張液において、海洋深層水が日本海固有冷水であることを特徴とする。
【0007】
ここで海水とは、海岸線より少なくとも10Km以上離れた遠洋で、陸上の影響を受けない清潔な海水を言い、海水系淡水とは、清潔な海水より塩分を脱塩した物を言う。
ここで海洋深層水とは、海面下200メートル以上の深海から取水した日本海固有冷水であり、無機栄養塩類に富み、有機物や細菌類が少なく清浄性があるものを言い、日本海固有冷水とは、富山湾の沖合いの深度約320mより採取される深層水であって、深層水の3大要素である「低温性」と「清浄性」と「富栄養性」とを全て満足させ、特に「低温性」にあっては年間を通じて2℃以下の低温で水温変化がほとんどなく、現在日本で採取されている他地域の深層水温度の8〜10℃に比較して、とても低いことが挙げられる。このことは、他所の深層水より微生物数が少なく「清浄性」も高いことが想定できます。また、年間を通じて温度が一定であることによって、品質が安定し、管理運営や工業化も容易にする。
【0008】
ここで等張液とは、体液と同じ浸透圧の液を言い、細胞内への電解質イオンの流入を制限し、細胞内への水の移動を起こさない。即ち、生理食塩液(0.9%食塩液)とか5%ブドウ糖液に相当するものである。
ここで浸透圧を200〜400mOsmに調整するとは、血液の浸透圧が約280mOsmである故にある。
ここで自然塩とは、自然界より得られる塩の総てを言い、岩塩類とは、塩湖から得る塩も含まれる。海水塩とは、海水より分離したものを言い、深層水塩とは、海洋深層水より分離したものを言う。
ここで希釈水とは、海水及び海洋深層水を浸透圧まで薄めるものを言い、希釈水の陸系淡水とは、鉱泉水、ミネラルウォーター等を言い、海水系淡水と深層水系淡水とは、海水又は海洋深層水から塩分を取除いていたもので、脱塩水とも称される。この脱塩水を得る工程(脱塩時)で、他のミネラル成分も同時に除去されるも、ミネラル成分の総てが取除かれることはなく、これらの淡水中に一部残るものであり、このことは、図3によっても明らかである。また、陸系淡水と比較すると、陸系淡水にないミネラル成分を多様に含有している。
ここで分離とは、逆浸透膜処理と電気透析処理、及び本願の出願人が先に発明した多段式電気透析処理による分離を言う。
【発明の効果】
【0009】
本発明の等張液は上記のとおりであるから、次に記載する効果を得ることができる。
請求項1の等張液は、自然界に存在する海水と海洋深層水及び自然塩を用いるので、人工塩から成る生理食塩液より無機栄養塩類に富む。しかも200〜400mOsmの浸透圧に調希釈整したものであるから、人工塩から成る生理食塩液より動物性臓器や組織細胞の保存に適する。また、化粧品類(特に皮膚用)の活性材としも応用し得る。
請求項2の等張液は、自然塩として海洋深層水より得た深層水塩を用いることで、海水塩や岩塩類より、有機物や細菌類が少なく清浄性を得ることができる。自然塩として岩塩類や海水塩を用いることも可能であるが、その際、不純物が混入しないようにする必要がある。
【0010】
請求項3の等張液は、希釈水として海水より分離した海水系淡水を用いることで、等張液の総てを海水から製造し得るので、海水の持つ機能を最大限に活用し得る。更に、海洋深層水より分離した深層水系淡水を用いると、等張液の総てを海洋深層水から製造し得るので、海洋深層水の持つ組織恒常性の維持機能を最大限に活用し得る。しかも浸透圧を生理食塩液と同等に調整してあるから、生理食塩液の代替品として広く活用し得る。
また、陸系淡水と蒸留水は、海水系淡水及び深層水系淡水よりミネラル成分とミネラル成分量は劣るも、例えば水産物(魚介類)の鮮度保持液とし、生鮮野菜の鮮度保存液や食品添加液として有益である。
請求項4は、請求項1,2,3の特徴に加えて、海洋深層水が日本海固有冷水であるから、年間を通して安定した品質を保てる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による等張液の最良形態を図1−1に基づき詳細に説明すれば、海洋深層水Bを希釈水Dで浸透圧200〜400mOsmに希釈調整したものであって、具体的には海洋深層水Bとして日本海固有冷水を、希釈水Dとして深層水系淡水d2を用い、深層水系淡水d2は本願の出願人が独自に開発した多段式電気透析手段にて日本海固有冷水Bより分離した深層水系淡水b1であり、この日本海固有冷水Bと深層水系淡水b1とを生理食塩液と同等の浸透圧に混合調整したものである。
深層水系淡水b1の代わりに、海水Aより分離した海水系淡水a1と海洋以外から採取した陸系淡水d3と人工的に製造した蒸留水d4との少なくとも一方を用いて希釈調整することも可能である。
【実施例1】
【0012】
本発明による等張液の第一実施形態を最良形態と相違する点について説明すれば、図1−2の如く海岸線より少なくとも10Km以上離れた遠洋で採取した海水Aを希釈水Dで浸透圧200〜400mOsmに希釈調整したものであって、希釈水Dとして海水系淡水d1を用い、この海水系淡水d1は海水Aを多段式電気透析手段にて分離した海水系淡水a1である。
海水系淡水a1の代わりに、海洋深層水Bより分離した深層水系淡水b1と、海洋以外から採取した陸系淡水d3と、人工的に製造した蒸留水d4との少なくとも一方を用いて希釈調整することも可能である。
【実施例2】
【0013】
本発明による等張液の第二実施形態を最良形態及び第一実施形態と相違する点について説明すれば、図1−3の如く自然塩Cを希釈水Dで浸透圧200〜400mOsmに希釈調整したものであって、自然塩Cとして海水塩c1と深層水塩c2と岩塩類c3との少なくとも一方を用いるものであって、海水塩c1は海水Aより得た海水塩a5であり、深層水塩c2は海洋深層水Bより得た深層水塩b5である。
希釈水Dとして、海水系淡水a1と深層水系淡水b1と陸系淡水d1と蒸留水d2との少なくとも1種類を用い、浸透圧を200〜400mOsmに調整する。
【0014】
海洋深層水Bの分離に用いる多段式電気透析手段は、図2−1の如くイオン交換膜11を備えている一次電気透析装置1によって海洋深層水Bを深層水系淡水b1と深層水系濃縮水b2とに分離し、一次電気透析装置1と異なるイオン交換膜12を備えている二次電気透析装置2にて、深層水系濃縮水b2を深層水系ミネラル濃縮水b3と深層水系濃塩水b4とに分離する。
同じ多段式電気透析手段にて海水Aを分離した場合、一次電気透析装置1によって海水系淡水a1と海水系濃縮水a2とに分離し、二次電気透析装置2によって海水系濃縮水a2を海水系ミネラル濃縮水a3と海水系濃塩水a4とに分離する。
多段式電気透析手段にて分離された濃塩水a4,b4は、脱水分離手段等を用いて海水塩a5と深層水塩b5に加工される。
【0015】
実験例
海洋深層水B=富山県沖で採取した日本海固有冷水。
深層水系淡水b1=日本海固有冷水Bを多段式電気透析手段にて分離・精製したもの。
本発明等張液E=海洋深層水Bと深層水系淡水b1とを浸透圧200〜400mOsmに混合調製したもの。
生理食塩液=市販の大塚製薬(株)製品。
上記の海洋深層水B、深層水系淡水b1、本発明等張液E、生理食塩液の浸透圧を自動浸透圧測定装置(OM−6030、京都第一科学(株))にて測定した。その浸透圧を表1に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
本発明等張液Eを試料とし、生理食塩液を対照として各種の試験を、富山大学医学部において実施した。その結果は以下の通りである。
(1)生体試料
ペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与(50mg/kg)により麻酔後、頚椎脱臼法により安楽死させたマウス(ICR系,44週齢,オス)から摘出した肝臓、両側腎臓、脾臓、心臓、両側肺を生体試料として用いた。
【0018】
(2)標本の作製
摘出した生体試料は、、組織の細胞変性を生じさせないため、摘出後2分間以内に、本発明等張液E及び生理食塩液の各100mlに浸漬した。浸漬後の各組織は4℃にて5日、10日、15日間保存した。保存終了後の各臓器は20%緩衝ホルマリンにて24時間固定して、臓器ごとにパラフィンブロックとした後、組織微細配列標本を作製した。組織微細配列標本から約5μmの切片を薄切した。
【0019】
(3)形態観察
へマトキシリン・エオシン(HE)染色
各等張液の持つ細胞・組織恒常性の維持能及び組織浸透能を知るため、HE染色後、形態観察を行い、各標本の経時的な細胞変性の程度について比較・検討した。
【0020】
(3a)特殊染色
臓器ごとに以下に示した染色液による特殊染色を行い、詳細な形態観察を行い、各標本の細胞・組織恒常性の維持能及び組織浸透能について比較・検討した。
肝臓、腎臓:過ヨウ素シッフ反応(PAS)染色
心臓:リンタングステン酸ヘマトキシリン(PTAH)染色
腎臓:過ヨウ酸メセナミン銀(PAM)染色
肺:エラスチカワンギーソン(EVG)染色
【0021】
(3b)免疫染色
臓器ごとに以下に示した各種の酵素や膜蛋白、細胞構成成分に対する抗体を用いて免疫染色を行い、各標本の酵素流出や細胞変性の程度を比較・検討した。
「一次抗体」
肝臓、肺、腎臓:CD10(毛細胆管、刷子縁のマーカー)
肝臓、肺:アルファーアクチン(SMA),平滑筋マーカー)
肝臓:F4/80(抗原)(マウス汎マクロファージマーカー)
肝臓:マウスチオレドキシン‐1(抗酸化ストレス因子)
肝臓:マウスチオレドキシン‐2(抗酸化ストレス因子)
肝臓:アルブミン(肝細胞内主要貯留物質)
肝臓:プレアルブミン(肝細胞内貯留物質)
肝臓、肺、腎臓:Cytokeratin Wide (上皮細胞骨格マーカー)
肝臓、肺、腎臓:ウィレブレンド候因子(第八因子,血管内皮マーカー)
肺:甲状腺転移因子(肺胞上皮マーカー)
「二次抗体、キット」
Envision+ −PO (ネズミ/ウサギ用)
シンプルステイン MAX−PO(G) (ヤギ用,ニチレイ)
マウス組織専用ブロックキット (ニチレイ,マウスモノクローナル抗体使用時)
【0022】
(4)観察結果
(4a)HE染色による観察
HE染色による肝臓組織の顕微鏡写真を図4−1〜図4−3に、腎臓組織の顕微鏡写真を図5−1〜図5−3に示した。
その形態観察結果を表2に示した。
【0023】
【表2】

肝臓組織及び腎臓組織において、等張液の違いによる著明な差異がみられたが、肺組織、心臓組織及び脾臓組織には著明な差異はみられなかった。
【0024】
(4b)特殊染色による観察
PAS染色による肝臓組織の顕微鏡写真を図5に示した。
PAS染色による肝臓組織において、等張液の違いによる著明な差異がみられたが、PAS染色による腎臓組織、PTAH染色による心臓組織、PAM染色による腎臓組織、EVG染色による肺組織においては顕著な差異はみられなかった。特殊染色による観察結果は表3に示した。
【0025】
【表3】

【0026】
(4c)免疫染色による観察
抗マウスチオレドキシン−2/肝臓の顕微鏡写真を図7−1に、Cytokeratin/肝臓の顕微鏡写真を図7−2に、第八因子/肝臓の顕微鏡写真を図7−3に、SMA/肝臓の顕微鏡写真を図7−4に、CD10/肝臓の顕微鏡写真を図7−5に示した。
これらにおいて、等張液の違いによる著明な差異がみられたが、その他の染色液、臓器においては顕著な差異はみられなかった。
【0027】
【表4】

【0028】
生理食塩液或は本発明等張液Eに浸漬した各臓器(肝臓・腎臓・脾・心臓・肺)における経時的な形態変化については、臓器間で大差をみる結果であった。これは、組織・細胞内に含まれる酵素等の性質により、臓器により自己融解速度が異なったものと考えられた。今回の浸漬日数は5日、10日、15日の条件で検討したが、脾臓及び腎臓ではさらに短時間(数時間〜5日程度)、肺及び心臓ではさらに長時間の浸漬条件設定が必要と考えられた。
【0029】
今回、等張液の違いによる変性の差がもっとも顕著であった臓器は肝臓であり、本発明等張液Eの組織恒常性維持能が示される結果となった。細胞中のマクロファージなど炎症細胞の表層マーカーやある種の酵素などは、何れの等張液においても早期に消失したが、本発明等張液Eでは核・細胞質の形態がかなり長期間維持されていた。免疫染色でも形態が保持されている部位では細胞内酵素や細胞骨格蛋白の残存が確認され、毛細胆管などの微細構造も保たれていた。以上の結果より、本発明等張液Eには組織形態とともに機能的な恒常性を長期間維持する作用が認められ、これには海洋深層水Bに含まれるミネラル成分以外の成分の関与が考えられた。海洋深層水Bからミネラル成分を除去した深層水系淡水b1が組織培養などに与える影響について、詳細な検討が望まれる。
【0030】
今回の検討では、摘出した臓器を直ちに生理食塩液或は本発明等張液Eに浸漬したが、肝臓、腎臓において、皮膜下や血管周囲で比較的変性の程度が軽い傾向が見られたことから、臓器摘出前或は摘出直後に血管からの灌流注入を施行すれば、より効果的な組織恒常性維持能が発揮されることが推測される。
本発明等張液Eは今後、移植医療等を含めた種々の医療分野への応用の可能性も期待される素材であると考えられるため、さらに細かな条件を設定して臓器保存の至適条件を探るとともに、細胞変性の過程についてエステラーゼを用いたCFDA−DAPIによる蛍光抗体二重染色法等を応用しての追跡が、今後の課題である。
【0031】
今回検討した本発明等張液Eには、マウス摘出臓器に対する組織恒常性維持能が示され、とりわけ肝臓組織において顕著であった。本発明等張液Eは今後、移植医療等を含めた種々の医療分野への応用の可能性も期待される素材であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明による等張液は、実施形態に限定されるものではなく、例えば海水Aと海洋深層水Bと希釈水Dとの組み合わせも可能である。更に、海水Aと自然塩Cと希釈水Dとの組み合わせ、海洋深層水Bと自然塩Cと希釈水Dとの組み合わせも考えられる。何れにしても浸透圧を200〜400mOsmに、望ましくは生理食塩液と同等の浸透圧に調整することが重要である。
【0033】
実施形態では、海水Aと海洋深層水Bの分離手段として、本願の出願人が独自に開発した多段式電気透析手段を用いたが、一般的な電気透析手段を用いても、近似した海水系淡水a1と深層水系淡水b1等を得ることができる。
また、図2−2の如く逆浸透膜13を備えた逆浸透膜装置3にて海水Aや海洋深層水Bを分離し、海水系淡水a11と深層水系淡水b11とを得ることも可能である。この海水系淡水a11と深層水系淡水b11との少なくとも一方を希釈水Dとすることも可能であるし、逆浸透膜装置3にて分離した濃塩水a14,b14から海水塩a15と深層水塩b15を採取し、海水塩a15と深層水塩b15との少なくとも一方を用いることも可能である。
【0034】
実施形態では、主原料として海水Aと海洋深層水Bと岩塩類c3を用いたが、海水Aの代わりに、多段式電気透析手段にて海水Aより分離した海水系濃縮水a2と海水系ミネラル濃縮水a3と海水系濃塩水a4の少なくとも一方を用いることも可能であるし、海洋深層水Bより分離した深層水系濃縮水b2と深層水系ミネラル濃縮水b3と深層水系濃塩水b4の少なくとも一方を用いることも可能である。また、逆浸透膜装置3にて分離した濃塩水a14,b14も使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1−1】本発明による等張液の最良形態を示すブロック線図である。
【図1−2】本発明等張液の第一実施形態を示すブロック図である。
【図1−3】本発明等張液の第二実施形態を示すブロック図である。
【図2−1】多段式電気透析手段による海水及び海洋深層水の分離状態を示すブロック線図である。
【図2−2】逆浸透膜手段による海水及び海洋深層水の分離状態を示すブロック線図である。
【図3】海洋深層水とその分離水の成分、及び成分量図。
【図4−1】HE染色による肝臓の5日後の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液によるものである。
【図4−2】同、10日後の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液によるものである。
【図4−3】同、15日後の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液によるものである。
【図5−1】HE染色による賢臓の5日後の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液によるものである。
【図5−2】同、10日後の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液によるものである。
【図5−3】同、15日後の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液によるものである。
【図6】PAS染色による肝臓組織の顕微鏡写真で、(イ)は生理食塩液、(ロ)は本発明による等張液を用いた時の写真である。
【図7−1】免疫染色による顕微鏡写真で、抗マウスチオレドキシンー2/肝臓の10日目における生理食塩液(イ)と本発明による等張液(ロ)による写真ある。
【図7−2】同、Cytokeratin/肝臓の10日目における生理食塩液(イ)と本発明による等張液(ロ)による写真ある。
【図7−3】同、第八因子/肝臓の10日目における生理食塩液(イ)と本発明による等張液(ロ)による写真ある。
【図7−4】同、SMA/肝臓の15日目における生理食塩液(イ)と本発明による等張液(ロ)による写真ある。
【図7−5】同、CD10/肝臓の15日目における生理食塩液(イ)と本発明による等張液(ロ)による写真ある。
【符号の説明】
【0036】
1 一次電気透析装置
2 二次電気透析装置
3 逆浸透膜装置
11,12 イオン交換膜、13 逆浸透膜
A 海水
B 海洋深層水(日本海固有冷水)
a2,b2 濃縮水、a3,b3 ミネラル濃縮水、a4,b4 濃塩水
C 自然塩
c1(a5,1a5) 海水塩、c2(b5,b15) 深層水塩、c3 岩塩類
D 希釈水、d1(a1,a11) 海水系淡水
d2(b1,b11) 深層水系淡水、d3 陸系淡水、d4 蒸留水
E 本発明等張液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水(A)と海洋深層水(B)と自然塩(C)との少なくとも一方を、希釈水(D)にて浸透圧200〜400mOsmに調整してあることを特徴とする等張液。
【請求項2】
自然塩(C)が、海水(A)より得た海水塩(c1)と、海洋深層水(B)より得た深層水塩(c2)と、海洋以外から採取した岩塩類(c3)との少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の等張液。
【請求項3】
希釈水(D)が、海水(A)より分離した海水系淡水(d1)と、海洋深層水(B)より分離した深層水系淡水(d2)と、海洋以外から採取した陸系淡水(d3)と、人工的に製造した蒸留水(d4)との少なくとも1種類であり、浸透圧を生理食塩液と同等に調整してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の等張液。
【請求項4】
海洋深層水(B)が日本海固有冷水であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の等張液。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【公開番号】特開2008−303182(P2008−303182A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152498(P2007−152498)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 出願人が新聞・雑誌に発表したことを証明する書面 1.発行者 読売新聞北陸支社 発行者住所 富山県高岡市下関町4−5 紙名 新聞 発行日 平成19年1月16日 記載頁 第31頁富山13版 記事名 「深層水移植溶臓器保存液に」〜富山大と五洲薬品研究〜「生理食塩水より有効」 2・発行者 株式会社自然科学社 発行者住所 東京都千代田区飯田橋2−1−4 書名 「医学と薬学」第57巻第5号 発行日 平成19年5月25日 記載頁 615〜620 論文名 海洋深層水成分の病理組織診断への応用
【出願人】(592008756)五洲薬品株式会社 (19)
【Fターム(参考)】