等速ジョイント
【課題】入力軸と出力軸とが偏心した際の摩擦損失を減少させると共に、トルク伝達面の面圧を抑制することにある。
【解決手段】周方向に沿って等角度離間する複数の第1案内溝32a〜32fが形成された入力軸側部材12と、周方向に沿って等角度離間し前記第1案内溝32a〜32fと交差する複数の第2案内溝38a〜38fが形成された出力軸側部材14と、前記入力軸側部材12と前記出力軸側部材1との間に介装され、複数の保持窓18が形成されたリテーナ16と、前記リテーナ16の保持窓18に沿って変位可能に保持され、前記第1案内溝32a〜32fと前記第2案内溝38a〜38fとの間で摺動可能に配設されてトルクを伝達する円柱体からなるローラ20とを備える。
【解決手段】周方向に沿って等角度離間する複数の第1案内溝32a〜32fが形成された入力軸側部材12と、周方向に沿って等角度離間し前記第1案内溝32a〜32fと交差する複数の第2案内溝38a〜38fが形成された出力軸側部材14と、前記入力軸側部材12と前記出力軸側部材1との間に介装され、複数の保持窓18が形成されたリテーナ16と、前記リテーナ16の保持窓18に沿って変位可能に保持され、前記第1案内溝32a〜32fと前記第2案内溝38a〜38fとの間で摺動可能に配設されてトルクを伝達する円柱体からなるローラ20とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の駆動力伝達部において、一方の伝達軸と他方の伝達軸とを連結させる等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、電動自動車等の駆動力伝達部では、一方の伝達軸と他方の伝達軸とを連結し回転力を各車軸へと伝達する等速ジョイントが用いられている。
【0003】
この種の等速ジョイントに関連する先行技術として、例えば、特許文献1には、中空形状のモータの非回転側ケースを緩衝機構を介してナックルに結合し、前記モータの回転側ケースとホイールとをフレキシブルカップリングにより結合して構成されたインホイールモータシステムが開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示されたインホイールモータシステムにおけるフレキシブルカップリング1は、図15に示されるように、中空円盤状の第1〜第3プレート2a〜2cと、中央の中空円盤状の第2プレート2bの表裏に、作動方向が互いに直交するように配置された直動ガイド3A、3Bとを有する。
【0005】
具体的には、ホイール側に位置する第1プレート2aのホイールとは反対側の面に、180度の間隔で取り付けられた一対のガイド部材4a、4aと、中間の第2プレート2bの前記第1プレート2aと対向する面に取り付けられ、前記一対のガイド部材4a、4aにそれぞれ係合する一対のガイドレール4b、4bとからなる直動ガイド3Aによって中空円盤状の第1プレート2aと第2プレート2bとを結合する。
【0006】
さらに、前記第2プレート2bの裏面側で、前記一対のガイドレール4b、4bを90度回転させた方向に180度の間隔で取り付けられた他の一対のガイドレール5b、5bと、モータ側の第3プレート2cの前記第2プレート2bと対向する面側に取り付けられ、前記他の一対のガイドレール5b、5bに係合する一対のガイド部材5a、5aからなる直動ガイド3Bによって中空円盤状の第2プレート2bと第3プレート2cとを結合している。
【0007】
このように第1〜第3プレート2a、2b、2cを直動ガイド3A、3Bによって結合することにより、モータ軸とホイール軸がどの方向にも偏心可能に結合されるので、回転側ケースからホイールへのトルクを効率よく伝達させることができるとしている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−90696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に開示されたフレキシブルカップリングによってモータの回転駆動力をホイール側に向かって伝達する構造では、第1プレートと第2プレートとの間及び第2プレートと第3プレートとの間でモータ軸とホイール軸とが偏心(軸ずれ)する場合、一対のガイド部材と一対のガイドレールとの相対的な摺動運動(滑り動作)によってトルクの伝達が遂行されるため、スライド抵抗によって発生する摩擦損失が大きくなると共に、トルク伝達面の面圧が増大するという問題がある。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、入力軸と出力軸とが偏心した際の摩擦損失を減少させると共に、トルク伝達面の面圧を抑制することが可能な等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、周方向に沿って等角度離間し直径に対して交差する長軸を有する複数の第1案内溝が側面に形成された入力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と対向する側面に、周方向に沿って等角度離間し前記第1案内溝の長軸と所定の交差角度で交差する長軸を有する複数の第2案内溝が形成された出力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と前記第2案内溝が形成された出力軸側部材の側面との間に介装され、複数の保持窓が形成されたリテーナと、
前記リテーナの保持窓に沿って変位可能に保持され、前記第1案内溝と前記第2案内溝との間で摺動可能に配設されてトルクを伝達する円柱体からなるローラと、
を備え、
前記第1案内溝、第2案内溝及び保持窓は、前記ローラの個数に対応して形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、入力軸と出力軸との軸心がそれぞれ偏位して不一致の場合、リテーナの保持窓によって円柱体からなる各ローラが保持された状態を維持しながら、前記各ローラの軸方向に沿った円形状の端面が相互に交差する第1案内溝及び/又は第2案内溝に沿って摺動することにより、前記軸心の偏位(軸ずれ)が許容される。
【0013】
従って、本発明では、第1案内溝と第2案内溝との間でローラの軸方向に沿った端面が滑り接触した状態で、回転駆動力が入力軸側部材から出力軸側部材へと伝達される。この場合、第1案内溝及び第2案内溝に対するローラの摺動面積が従来技術と比較して小さく設定されるため、摩擦抵抗が低減し摩擦損失を減少させることができる。この結果、本発明では、従来技術と比較してトルク伝達面の面圧が抑制され、ローラに対する負荷を減少させることにより、円滑に回転トルクを伝達することができる。
【0014】
この場合、前記ローラは、少なくと3個以上設けられるとよい。さらに、前記入力軸側部材の回転中心と、前記出力軸側部材の回転中心と、前記リテーナの回転中心とがそれぞれ一致したとき、前記第1案内溝の長軸と前記第2案内溝の長軸との交点と直径とを結ぶことによって、前記第1案内溝の傾斜角度θ1と前記第2案内溝の傾斜角度θ2とが得られ、相互に交差する第1案内溝の傾斜角度と第2案内溝の傾斜角度とは、それぞれ同一に設定されると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0016】
すなわち、入力軸と出力軸とが偏心した際の摩擦損失を減少させると共に、トルク伝達面の面圧を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る等速ジョイントについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0018】
図1において参照符号10は、本発明の実施の形態に係る等速ジョイントを示し、この等速ジョイント10は、図示しない入力側の第1軸の一端部に連結される入力軸側部材12と、図示しない出力側の第2軸の一端部に連結される出力軸側部材14と、前記入力軸側部材12と前記出力軸側部材14との間に介装される薄肉円板状のリテーナ16と、前記リテーナ16の複数の保持窓18に沿ってそれぞれ変位自在に保持される複数(本実施の形態では6個)のローラ20とから基本的に構成される。
【0019】
なお、この場合、入力軸側部材12と出力軸側部材14とは相対的なものであり、図示しない入力側の第1軸に出力軸側部材14を連結し、一方、図示しない出力側の第2軸に入力軸側部材12を連結して構成してもよい。あるいは、リテーナ16を間にして入力軸側部材12、12同士によって構成し、また前記リテーナ16を間にして出力軸側部材14、14同士によって構成することも可能である。
【0020】
図1及び図2に示されるように、入力軸側部材12は、図示しない入力側の第1軸に一体的に連結される軸部22と、前記軸部22の端部に連続して半径外方向に拡径する円板部24とから構成される。なお、前記軸部22を軸線方向に沿って所定長だけ伸長させることにより、図示しない第1軸と共通に形成してもよい。
【0021】
前記軸部22と反対側の円板部24の円形状の平坦な側面(図示しない第1軸に対して直交する面)24aの中心部には、前記軸部22と同軸からなり該軸部22よりも小径の突起部26が膨出形成され、前記突起部26の外周面の一部には雄ねじ28が刻設される。なお、前記突起部26の外径は、該突起部26が貫通する出力軸側部材14の孔部30の内径の半分以下に設定される(図7参照)。
【0022】
また、前記円板部24の側面24aには、図3に示されるように、外周縁部まで連続する長溝からなり、軸心である点O1を中心として反時計回り方向に中心に向かって所定角度傾斜して配置された複数(ローラ20の個数に対応して6個)の第1案内溝32a〜32fが形成される。
【0023】
すなわち、各第1案内溝32a(32b〜32f)は、円形状の側面24aにおいて、その中心O1と外周縁部との間の突起部26の近傍部位を一端部とし、他端部が外周縁部まで連続する略楕円形状の長溝によって形成され、前記6個の第1案内溝32a〜32fは、軸心の回りにそれぞれ60度の間隔をおいて配置される。この場合、複数の第1案内溝32a〜32fは、図1及び図2に示されるように、それぞれ、平坦面からなる底壁33に対して相互に対向する側壁35a、35bが略直交する断面矩形状に形成される。
【0024】
前記第1案内溝32a〜32fの傾斜角度θ1は、後述するように、円板部24の直径Dと略楕円形状からなる前記第1案内溝32a〜32fの長軸L1との交差角度によって設定される(図6参照)。この場合、前記傾斜角度θ1は、0<θ1<90度の範囲に設定されるとよく、より一層好適には前記傾斜角度θ1は、35<θ1<45度の範囲に設定されるとよい。
【0025】
図1及び図2に示されるように、出力軸側部材14は、中心部に前記入力軸側部材12の突起部26が貫通する孔部30を有し、外周側に軸方向(入力軸側部材12と反対方向)に沿って所定長だけ突出する環状フランジ34によって凹部36が形成された有底円筒体によって構成される。
【0026】
入力軸側部材12の側面24aと対向する出力軸側部材14の円形状の平坦な側面(図示しない第2軸に対して直交する面)34aには、図4に示されるように、外周縁部まで連続する長溝からなり、回転中心である点O2を中心として、前記第1案内溝32a〜32fとは反対の時計回り方向に中心に向かって所定角度傾斜して配置された複数(ローラ20の個数に対応して6個)の第2案内溝38a〜38fが形成される。
【0027】
各第2案内溝38a(38b〜38f)は、円形状の側面34aにおいて、その中心O2と外周縁部との間の中間を一端部とし、他端部が外周縁部まで連続する略楕円形状の長溝によって形成され、6個の第2案内溝38a〜38fは、軸心の回りにそれぞれ60度の間隔をおいて配置される。この場合、複数の第2案内溝38a〜38fは、それぞれ、図1及び図2に示されるように、それぞれ、平坦面からなる底壁39に対して相互に対向する側壁41a、41bが略直交する断面矩形状に形成される。
【0028】
前記第2案内溝38a〜38fの傾斜角度θ2は、後述するように、有底円筒体の直径(外径)Dと略楕円形状からなる前記第2案内溝38a〜38fの長軸L2との交差角度によって設定される(図6参照)。この場合、前記傾斜角度θ2は、0<θ2<90度の範囲に設定されるとよく、より一層好適には前記傾斜角度θ2は、35<θ2<45度の範囲に設定されるとよい。
【0029】
入力軸側部材12に形成された第1案内溝32a〜32fと出力軸側部材14に形成された第2案内溝38a〜38fとは、直径(D)を対称軸として線対称に配置され、直径(D)を基準としてその長軸(L1、L2)が相互に反対方向に同一角度(θ1=θ2)だけ傾斜するように設けられるとよい(図3と図4とを比較対照)。
【0030】
この場合、前記第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fとは、それぞれ、前記リテーナ16の保持窓18を間にして相互に対向し、且つ、その長軸(L1、L2)が交差するように設けられればよく、前記第1案内溝32a〜32fの長軸(L1)と前記第2案内溝38a〜38fの長軸(L2)とが相互に直交する必要はない。換言すると、入力軸側部材12とその相手方である出力軸側部材14との間で相互に対応する位置の各案内溝を直交させて設けることに限定されるものではなく、各案内溝の長軸(L1、L2)が交差するように設けられればよい。
【0031】
また、本実施の形態では、第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fの半径外方向の終端が、それぞれ、入力軸側部材12及び出力軸側部材14の外周縁部と接触するように形成されているが、これに限定されるものではなく、前記第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fの半径外方向の終端が前記入力軸側部材12及び/又は出力軸側部材14の外周縁部との間にクリアランスを介して所定距離だけ離間するように設けてもよい。但し、この場合、入力軸側部材12及び出力軸側部材14の外径が拡径される。
【0032】
図2に示されるように、前記出力軸側部材14を貫通し該出力軸側部材14の凹部36内において所定長だけ突出する入力軸側部材12の突起部26には、雄ねじ28に螺合されるナット40を介して若干厚肉のワッシャ42が装着される。前記ワッシャ42と出力軸側部材14との間には、円形のプレート44の孔部に転動自在に保持された複数のボールベアリング46が介装される。なお、複数のボールベアリング46は、出力軸側部材14の回転を円滑にするために設けられるものであり、省略することが可能である。
【0033】
図5に示されるように、入力軸側部材12と出力軸側部材14との間にはリングプレート状のリテーナ16が設けられ、前記リテーナ16には、ローラ20の個数に対応した楕円形状の6個の保持窓18が形成される。この6個の保持窓18は、軸心の回りにそれぞれ60度の間隔をおいて配置されると共に、各保持窓18の長軸と短軸との交点を結ぶ仮想円が同一円周上となるように配置される。
【0034】
また、楕円形状に形成された前記保持窓18の長軸は、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fの長軸とそれぞれ交差するように設定される。
【0035】
ここで、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fの交差角度θ、傾斜角度θ1、θ2の関係について説明する。図6は、入力軸側部材12の回転中心O1と、出力軸側部材14の回転中心O2と、リテーナ16の回転中心O3とがそれぞれ点Oにおいて一致した状態を示したものである。このように入力軸側部材12の回転中心O1と、出力軸側部材14の回転中心O2と、リテーナ16の回転中心O3とが点Oにおいてそれぞれ一致したとき、入力軸側部材12の第1案内溝32a(32b〜32f)の長軸L1と出力軸側部材14の第2案内溝38a(38b〜38f)の長軸L2とが交差角度θをなして交差する。その際、第1案内溝32a(32b〜32f)の長軸L1と第2案内溝38a(38b〜38f)の長軸L2の交点と直径Dとを結ぶことによって、前記交差角度θが二等分された第1案内溝32a(32b〜32f)の傾斜角度θ1と第2案内溝38a(38b〜38f)の傾斜角度θ2とが得られる(θ=θ1+θ2)。
【0036】
この場合、前記交差角度θは、0<θ<180であるとよく、より一層好適には70<θ<90度に設定されるとよい。また、第1案内溝32a(32b〜32f)の傾斜角度θ1と前記第2案内溝38a(38b〜38f)の傾斜角度θ2とは同一であるとよく(θ1=θ2)、前記傾斜角度θ1を、0<θ1<90度の範囲に設定し、より一層好適には前記傾斜角度θ1が、35<θ1<45度の範囲に設定されるとよい。さらに、前記傾斜角度θ2を、0<θ2<90度の範囲に設定し、より一層好適には前記傾斜角度θ2が、35<θ2<45度の範囲に設定されるとよい。
【0037】
なお、前記第1案内溝32a〜32fの長軸L1と前記第2案内溝38a〜38fの長軸L2との交差角度θを大きく設定し過ぎると、リテーナ16の保持窓18の長軸方向の寸法が大きくなり、前記リテーナ16の外径寸法の増大に伴って入力軸側部材12及び出力軸側部材14の外径寸法も大きくなって等速ジョイント10全体の外径寸法が増大する。
【0038】
図1に示されるように、複数(本実施の形態では、6個)のローラ20は、それぞれ、円柱体からなり、前記円筒体の軸方向に沿った端面20a、20bは、円形状に形成され、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに対する摺動面として機能するものである。前記端面20a、20bと側周壁との境界である稜線部位は、面取りされて断面R状に形成される(図2参照)。なお、前記ローラ20の形状は、円柱体に限定されるものではなく、円筒状に形成されてもよい。
【0039】
前記複数のローラ20は、前記リテーナ16の保持窓18に沿って変位自在に保持されると共に、相互に対向する入力軸側部材12の第1案内溝32a〜32f及び出力軸側部材14の第2案内溝38a〜38fとローラ20の軸方向に沿った円形状の端面20a、20bとがそれぞれ接触して摺動可能に配設される。なお、前記複数のローラ20は、例えば、金属製材料によって形成され、回転トルク伝達機能を営むものである。
【0040】
すなわち、このローラ20は、図示しない第1軸及び入力軸側部材12からの回転トルクを出力軸側部材14を介して図示しない第2軸に伝達すると共に、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに沿って摺動することにより、入力軸側部材12と出力軸側部材14との間の径方向(軸方向と直交する方向)の相対的変位(図示しない第1軸の軸芯と第2軸の軸芯との軸ずれ)を可能とするものである。
【0041】
また、前記ローラ20の個数は、6個に限定されるものではなく、図11の変形例に係る等速ジョイント10aに示されるように、最小限、3個のローラ20があればよい。なお、前記等速ジョイント10aでは、3個のローラ20の個数に対応して第1案内溝32a〜32c、第2案内溝38a〜38c及びリテーナ16の保持窓18の個数も前記ローラ20の個数に対応して形成される。
【0042】
本実施の形態に係る等速ジョイント10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作並びに作用効果について説明する。
【0043】
図示しない第1軸が回転すると、その回転トルクは入力軸側部材12から各ローラ20を介して出力軸側部材14に伝達され、図示しない第2軸が前記第1軸と等速性を保持しながら所定方向に回転する。
【0044】
図6は、第1軸の軸心と第2軸の軸心がそれぞれ一致し、前記第1軸の軸心と第2軸の軸心との偏位量が零の状態を示している。すなわち、図6において、入力軸側部材12の回転中心O1と、出力軸側部材14の回転中心O2と、リテーナ16の回転中心O3とがそれぞれ点Oにおいて一致した状態にある。
【0045】
一方、図7は、第1軸の軸心と第2軸の軸心とが水平方向に沿って相互に反対方向に偏位した状態を示したものであり、入力軸側部材(第1軸)12の回転中心O1と出力軸側部材(第2軸)14の回転中心O2との水平方向に沿った離間距離Rが第1軸及び第2軸の偏位量(軸ずれ量)となる。なお、図6及び図7は、図1の矢印Z方向からリテーナ16及び出力軸側部材14を正面からみたものであり、入力軸側部材12の第1案内溝32a〜32fが二点鎖線によって仮想線として描出されている。
【0046】
第1軸と第2軸との軸心がそれぞれ偏位して不一致の場合には、リテーナ16の保持窓18によって複数のローラ20が保持された状態を維持しながら、前記複数のローラ20が相互に交差する第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに沿って摺動することにより、前記軸心の偏位(軸ずれ)が許容される。
【0047】
従って、本実施の形態では、第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fとの間でローラ20が滑り接触しながら回転駆動力が入力軸側部材12から出力軸側部材14へと伝達されるが、前記ローラ20を用いることにより前記第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに対する摺動面積を小さく設定することができるため、摩擦抵抗が低減し摩擦損失を減少させることができる。
【0048】
換言すると、従来技術ではフレキシブルカップリング(直動ガイド)を構成するガイド部材とガイドレールとの滑り接触によってスライド抵抗が大きいのに対し、本実施の形態ではローラ20の端面20a、20bによる摺動摩擦のみであるため従来技術と比較して摩擦抵抗を減少させることができる。この結果、本実施の形態では、従来技術と比較してトルク伝達面の面圧が抑制され、ローラ20に対する負荷を減少させることにより、円滑に回転トルクを伝達する等速ジョイント10を得ることができる。
【0049】
ここで、図示しない第1軸と第2軸とが軸ずれした状態において、入力軸側部材12、出力軸側部材14及びリテーナ16が一体的に矢印A方向に回転した場合のローラ20と第1案内溝32a、第2案内溝38a及び保持窓18との位置関係について、図8及び図9に基づいて詳細に説明する。
【0050】
図8及び図9は、他の5つのローラ20を省略して、1つのローラ20に係合する単一の保持窓18と、前記1つのローラ20が摺動する単一の第1案内溝32a及び第2案内溝38aとの位置関係に着目して、便宜上、示したものである。すなわち、入力軸側部材12及び出力軸側部材14が矢印A方向に1回転する状態を(1)〜(12)の順序に分割し、奇数番目の状態のみを図8にその全体として環状的(並列的)に配置し、偶数番目の状態のみを図9にその全体して環状的(並列的)に配置したものである。
【0051】
なお、図8及び図9において、入力軸側部材12及び第1案内溝32aをそれぞれ二点鎖線で示し、出力軸側部材14及び第2案内溝38aをそれぞれ破線で示し、リテーナ16、ローラ20及び保持窓18をそれぞれ実線で示している。
【0052】
この場合、入力軸側部材12は、偏位した回転中心O1を中心として自転し、出力軸側部材14は、偏位した回転中心O2を中心として自転し、リテーナ16は、偏位した回転中心O3を中心としてそれぞれ自転するものとする。前記回転中心O1と前記回転中心O2と前記回転中心O3とを結ぶことにより、三角形が形成される。
【0053】
なお、以下の説明では、略楕円形状に形成された第1案内溝32a及び第2案内溝38aのそれぞれ回転中心O1、O2に近接する内側を「長軸方向に沿った一端部」とし、前記とは反対方向の外周縁部側を「長軸方向に沿った他端部」としている。また、リテーナ16に形成された保持窓18の楕円形状では、回転方向側の端部を「長軸方向に沿った一端部」とし、前記回転方向と反対側の端部を「長軸方向に沿った他端部」としている。
【0054】
先ず、図8の(1)の状態では、ローラ20がリテーナ16の楕円形状の保持窓18の中央部に位置し、この図8の(1)の状態から所定角度回転すると図9の(2)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部側(外周縁部と反対側)に沿って僅かに摺動すると共に、楕円形状の保持窓18の中央部から長軸方向の一端部に向かって僅かに変位する。
【0055】
前記図9の(2)の状態から所定角度回転すると図8の(3)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部に向かってさらに摺動すると共に、楕円形状の保持窓18の長軸側の一端部に到達する。
【0056】
前記図8の(3)の状態から所定角度回転すると図9の(4)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状の保持窓18の長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った一端部に向かって僅かに摺動すると共に、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部に向かってさらに摺動する。
【0057】
前記図9の(4)の状態から所定角度回転すると図8の(5)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状の保持窓18の長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った一端部に向かってさらに摺動すると共に、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部に到達する。
【0058】
前記図8の(5)の状態から所定角度回転すると図9の(6)の状態となり、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った一端部に向かって僅かに摺動すると共に、保持窓18の長軸方向の一端部から反対方向(一端部から離間する方向)に向かって僅かに変位する。
【0059】
前記図9の(6)の状態から所定角度回転すると図8の(7)の状態となり、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向の一端部まで摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の中央部まで変位する。
【0060】
前記図8の(7)の状態から所定角度回転すると図9の(8)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第2案内溝38aに沿って外周縁部側に向かって僅かに摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の中央部から長軸方向の他端部に向かって変位する。
【0061】
前記図9の(8)の状態から所定角度回転すると図8の(9)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第2案内溝38aに沿って外周縁部側に向かってさらに摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の長軸方向の他端部に到達する。
【0062】
前記図8の(9)の状態から所定角度回転すると図9の(10)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状に形成された保持窓18の長軸方向の他端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向の一端部から離間して反対側の方向に僅かに摺動すると共に、第2案内溝38aに沿って外周縁部側に向かってさらに摺動する。
【0063】
前記図9の(10)の状態から所定角度回転すると図8の(11)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状に形成された保持窓18の長軸方向の他端部に保持されたまま、第1案内溝32aの一端部からさらに離間する外周縁部側に向かって僅かに摺動すると共に、第2案内溝38aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に到達する。
【0064】
前記図8の(11)の状態から所定角度回転すると図9の(12)の状態となり、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部である外周縁部側に向かって僅かに摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の他端部から離間する方向に僅かに変位する。
【0065】
前記図9の(12)の状態から所定角度回転すると初めの図8の(1)の状態に復帰し、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に到達すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の中央部の位置まで変位する。以下、(1)〜(12)の状態が無限循環する。
【0066】
従って、図8及び図9の(1)〜(12)の状態に示されるように、リテーナ16の楕円形状の保持窓18に保持されたローラ20と、前記ローラ20の端面20a、20bが摺動する第1案内溝32a及び第2案内溝38aとの共働作用に基づき第1軸と第2軸の軸ずれが許容された状態で入力軸側部材12及び出力軸側部材14が一体的に回転して回転トルクが入力側から出力側へと円滑に伝達される。
【0067】
このように、入力軸側部材12に連結された図示しない第1軸と出力軸側部材14に連結された第2軸との等速性を保持しつつ、第1軸及び第2軸の軸心のずれが好適に許容される。
【0068】
次に、本実施の形態に係る等速ジョイント10の等速性について、図10に基づいて説明する。
【0069】
図10において、ローラ20の中心点O4とリテーナ16の回転中心O3とを結んだ距離をaとし、前記ローラ20の中心点O4と入力軸側部材12の回転中心O1とを結んだ距離をCinとし、前記ローラ20の中心点O4と出力軸側部材14の回転中心O2とを結んだ距離をCoutとする。なお、前記ローラ20の中心点O4とは、円柱体からなるローラ20の重心を示す。
【0070】
また、ローラ20の中心点O4における入力軸側部材12の直線速度(接線速度ベクトル)をVinとし、ローラ20の中心点O4における出力軸側部材14の直線速度(接線速度ベクトル)をVoutとし、ローラ20の中心点O4におけるリテーナ16の直線速度(接線速度ベクトル)をVretとする。
【0071】
さらに、入力軸側部材12の角速度をω1(入力軸角速度)とし、出力軸側部材14の角速度をω2(出力軸角速度)とする。
【0072】
この場合、入力軸側部材12の角速度ω1を半径(Cin)と直線速度(Vin)とに分離すると、
ω1=Vin/Cin ・・・・・・・・・(1)
と表される。
【0073】
次に、ローラ20の中心点O4でのそれぞれの直線速度比(接線速度比)から、以下の式が導き出される。
Vin/Vret=Cin/a・・・・・・・・・・(2)
Vout/Vret=Cout/a・・・・・・・・(3)
そこで、前記(2)、(3)式より
Vin/Vout=Cin/Cout が成立する。この式を変形すると、
Vin=(Cin/Cout)・Vout・・・・・(4)
となる。上記(4)式を上記(1)式に代入すると、
ω1=(1/Cin)・(Cin/Cout)・Vout
=Vout/Cout
=ω2
となり、入力軸角速度ω1と出力側角速度ω2との関係がω1=ω2となり、入力軸と出力軸との等速性が確保される。
【0074】
ところで、特許文献1に開示された比較例に係るフレキシブルカップリングでは、図13及び図14に示されるように、入力軸側プレートの軸心(回転中心)Eと出力軸側プレートの軸心Fとが偏位し、4つの直動ガイドの交点(ガイド部材とガイドレールとの交点G1〜G4)を結ぶ円Hの中心Kとすると、前記中心Kの軌跡が円Lとなる。前記円Lは、軸心Eと軸心Fとを直径とする円となる。
【0075】
この比較例に係るフレキシブルカップリングでは、入力軸側プレートの軸心Eと出力軸側プレートの軸心Fとが偏位した状態(軸ずれした状態)で角度αだけ矢印方向に回転した場合、前記4つの直動ガイドの交点を結ぶ円Hの中心K及び前記中心Kの軌跡である円Lは、入力軸側プレート及び出力軸側プレートの回転方向と逆方向に2αの角速度で回転(公転)することにより、等速性が確保される構造となっている。
【0076】
従って、比較例では、軸心E及び軸心Fを回転中心として入力軸側プレート及び出力軸側プレートが1回転(360度)したとき、前記直動ガイドの交点に配置されたものは2回転(720度)するため、前記直動ガイドの交点に配置されたものから振動が発生するという問題がある。
【0077】
これに対して、本実施の形態では、比較例のような振動の発生が阻止されるため、回転トルクを円滑に伝達することができる利点がある。
【0078】
次に、本発明の他の実施の形態に係る等速ジョイント100を図12に示す。
【0079】
この他の実施の形態に係る等速ジョイント100では、断面L字状に屈曲する環状のカシメ部102を入力軸側部材12aに形成し、前記カシメ部102によって入力軸側部材12aを出力軸側部材14aと連結している点で前記実施の形態と相違している。
【0080】
なお、出力軸側部材14aには、前記カシメ部102と係合する部位に環状溝が形成され、前記環状溝内に転動自在に収納された複数のボールベアリング104が設けられる。
【0081】
その他の構成並びに作用効果は、前記実施の形態と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの要部分解斜視図である。
【図2】図1に示す等速ジョイントの軸方向に沿った縦断面図である。
【図3】図1に示す等速ジョイントを構成する入力軸側部材の矢印Z方向からみた側面図である。
【図4】図1に示す等速ジョイントを構成する出力軸側部材の矢印Z方向からみた側面図である。
【図5】図1に示す等速ジョイントを構成するリテーナ及びローラの矢印Z方向からみた側面図である。
【図6】図1に示す等速ジョイントにおいて、入力側の第1軸の軸心と出力側の第2軸の軸心とが一致した状態を示す側面図である。
【図7】図5に示す状態から第1軸の軸心と第2軸の軸心とが水平方向に沿って離間距離Rだけ偏位した状態を示す側面図である。
【図8】保持窓に保持されたローラと、第1案内溝及び第2案内溝との相対的関係を便宜的に示す動作説明図である。
【図9】保持窓に保持されたローラと、第1案内溝及び第2案内溝との相対的関係を便宜的に示す動作説明図である。
【図10】図1に示す等速ジョイントの等速性の説明に供される図である。
【図11】図1に示す等速ジョイントの変形例を示す要部分解斜視図である。
【図12】本発明の他の実施の形態に係る等速ジョイントの軸方向に沿った縦断面図である。
【図13】比較例に係るフレキシブルカップリングの動作に供される図である。
【図14】図13の部分拡大図である。
【図15】従来技術に係るフレキシブルカップリングの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
10、10a、100…等速ジョイント 12、12a…入力軸側部材
14、14a…出力軸側部材 16…リテーナ
18…保持窓 20…ローラ
20a、20b…端面 22…軸部
24…円板部 30…孔部
32a〜32f…第1案内溝 34…環状フランジ
36…凹部 38a〜38f…第2案内溝
40…ナット 42…ワッシャ
44…プレート 46、104…ボールベアリング
102…カシメ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の駆動力伝達部において、一方の伝達軸と他方の伝達軸とを連結させる等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、電動自動車等の駆動力伝達部では、一方の伝達軸と他方の伝達軸とを連結し回転力を各車軸へと伝達する等速ジョイントが用いられている。
【0003】
この種の等速ジョイントに関連する先行技術として、例えば、特許文献1には、中空形状のモータの非回転側ケースを緩衝機構を介してナックルに結合し、前記モータの回転側ケースとホイールとをフレキシブルカップリングにより結合して構成されたインホイールモータシステムが開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示されたインホイールモータシステムにおけるフレキシブルカップリング1は、図15に示されるように、中空円盤状の第1〜第3プレート2a〜2cと、中央の中空円盤状の第2プレート2bの表裏に、作動方向が互いに直交するように配置された直動ガイド3A、3Bとを有する。
【0005】
具体的には、ホイール側に位置する第1プレート2aのホイールとは反対側の面に、180度の間隔で取り付けられた一対のガイド部材4a、4aと、中間の第2プレート2bの前記第1プレート2aと対向する面に取り付けられ、前記一対のガイド部材4a、4aにそれぞれ係合する一対のガイドレール4b、4bとからなる直動ガイド3Aによって中空円盤状の第1プレート2aと第2プレート2bとを結合する。
【0006】
さらに、前記第2プレート2bの裏面側で、前記一対のガイドレール4b、4bを90度回転させた方向に180度の間隔で取り付けられた他の一対のガイドレール5b、5bと、モータ側の第3プレート2cの前記第2プレート2bと対向する面側に取り付けられ、前記他の一対のガイドレール5b、5bに係合する一対のガイド部材5a、5aからなる直動ガイド3Bによって中空円盤状の第2プレート2bと第3プレート2cとを結合している。
【0007】
このように第1〜第3プレート2a、2b、2cを直動ガイド3A、3Bによって結合することにより、モータ軸とホイール軸がどの方向にも偏心可能に結合されるので、回転側ケースからホイールへのトルクを効率よく伝達させることができるとしている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−90696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に開示されたフレキシブルカップリングによってモータの回転駆動力をホイール側に向かって伝達する構造では、第1プレートと第2プレートとの間及び第2プレートと第3プレートとの間でモータ軸とホイール軸とが偏心(軸ずれ)する場合、一対のガイド部材と一対のガイドレールとの相対的な摺動運動(滑り動作)によってトルクの伝達が遂行されるため、スライド抵抗によって発生する摩擦損失が大きくなると共に、トルク伝達面の面圧が増大するという問題がある。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、入力軸と出力軸とが偏心した際の摩擦損失を減少させると共に、トルク伝達面の面圧を抑制することが可能な等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、周方向に沿って等角度離間し直径に対して交差する長軸を有する複数の第1案内溝が側面に形成された入力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と対向する側面に、周方向に沿って等角度離間し前記第1案内溝の長軸と所定の交差角度で交差する長軸を有する複数の第2案内溝が形成された出力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と前記第2案内溝が形成された出力軸側部材の側面との間に介装され、複数の保持窓が形成されたリテーナと、
前記リテーナの保持窓に沿って変位可能に保持され、前記第1案内溝と前記第2案内溝との間で摺動可能に配設されてトルクを伝達する円柱体からなるローラと、
を備え、
前記第1案内溝、第2案内溝及び保持窓は、前記ローラの個数に対応して形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、入力軸と出力軸との軸心がそれぞれ偏位して不一致の場合、リテーナの保持窓によって円柱体からなる各ローラが保持された状態を維持しながら、前記各ローラの軸方向に沿った円形状の端面が相互に交差する第1案内溝及び/又は第2案内溝に沿って摺動することにより、前記軸心の偏位(軸ずれ)が許容される。
【0013】
従って、本発明では、第1案内溝と第2案内溝との間でローラの軸方向に沿った端面が滑り接触した状態で、回転駆動力が入力軸側部材から出力軸側部材へと伝達される。この場合、第1案内溝及び第2案内溝に対するローラの摺動面積が従来技術と比較して小さく設定されるため、摩擦抵抗が低減し摩擦損失を減少させることができる。この結果、本発明では、従来技術と比較してトルク伝達面の面圧が抑制され、ローラに対する負荷を減少させることにより、円滑に回転トルクを伝達することができる。
【0014】
この場合、前記ローラは、少なくと3個以上設けられるとよい。さらに、前記入力軸側部材の回転中心と、前記出力軸側部材の回転中心と、前記リテーナの回転中心とがそれぞれ一致したとき、前記第1案内溝の長軸と前記第2案内溝の長軸との交点と直径とを結ぶことによって、前記第1案内溝の傾斜角度θ1と前記第2案内溝の傾斜角度θ2とが得られ、相互に交差する第1案内溝の傾斜角度と第2案内溝の傾斜角度とは、それぞれ同一に設定されると好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0016】
すなわち、入力軸と出力軸とが偏心した際の摩擦損失を減少させると共に、トルク伝達面の面圧を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る等速ジョイントについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0018】
図1において参照符号10は、本発明の実施の形態に係る等速ジョイントを示し、この等速ジョイント10は、図示しない入力側の第1軸の一端部に連結される入力軸側部材12と、図示しない出力側の第2軸の一端部に連結される出力軸側部材14と、前記入力軸側部材12と前記出力軸側部材14との間に介装される薄肉円板状のリテーナ16と、前記リテーナ16の複数の保持窓18に沿ってそれぞれ変位自在に保持される複数(本実施の形態では6個)のローラ20とから基本的に構成される。
【0019】
なお、この場合、入力軸側部材12と出力軸側部材14とは相対的なものであり、図示しない入力側の第1軸に出力軸側部材14を連結し、一方、図示しない出力側の第2軸に入力軸側部材12を連結して構成してもよい。あるいは、リテーナ16を間にして入力軸側部材12、12同士によって構成し、また前記リテーナ16を間にして出力軸側部材14、14同士によって構成することも可能である。
【0020】
図1及び図2に示されるように、入力軸側部材12は、図示しない入力側の第1軸に一体的に連結される軸部22と、前記軸部22の端部に連続して半径外方向に拡径する円板部24とから構成される。なお、前記軸部22を軸線方向に沿って所定長だけ伸長させることにより、図示しない第1軸と共通に形成してもよい。
【0021】
前記軸部22と反対側の円板部24の円形状の平坦な側面(図示しない第1軸に対して直交する面)24aの中心部には、前記軸部22と同軸からなり該軸部22よりも小径の突起部26が膨出形成され、前記突起部26の外周面の一部には雄ねじ28が刻設される。なお、前記突起部26の外径は、該突起部26が貫通する出力軸側部材14の孔部30の内径の半分以下に設定される(図7参照)。
【0022】
また、前記円板部24の側面24aには、図3に示されるように、外周縁部まで連続する長溝からなり、軸心である点O1を中心として反時計回り方向に中心に向かって所定角度傾斜して配置された複数(ローラ20の個数に対応して6個)の第1案内溝32a〜32fが形成される。
【0023】
すなわち、各第1案内溝32a(32b〜32f)は、円形状の側面24aにおいて、その中心O1と外周縁部との間の突起部26の近傍部位を一端部とし、他端部が外周縁部まで連続する略楕円形状の長溝によって形成され、前記6個の第1案内溝32a〜32fは、軸心の回りにそれぞれ60度の間隔をおいて配置される。この場合、複数の第1案内溝32a〜32fは、図1及び図2に示されるように、それぞれ、平坦面からなる底壁33に対して相互に対向する側壁35a、35bが略直交する断面矩形状に形成される。
【0024】
前記第1案内溝32a〜32fの傾斜角度θ1は、後述するように、円板部24の直径Dと略楕円形状からなる前記第1案内溝32a〜32fの長軸L1との交差角度によって設定される(図6参照)。この場合、前記傾斜角度θ1は、0<θ1<90度の範囲に設定されるとよく、より一層好適には前記傾斜角度θ1は、35<θ1<45度の範囲に設定されるとよい。
【0025】
図1及び図2に示されるように、出力軸側部材14は、中心部に前記入力軸側部材12の突起部26が貫通する孔部30を有し、外周側に軸方向(入力軸側部材12と反対方向)に沿って所定長だけ突出する環状フランジ34によって凹部36が形成された有底円筒体によって構成される。
【0026】
入力軸側部材12の側面24aと対向する出力軸側部材14の円形状の平坦な側面(図示しない第2軸に対して直交する面)34aには、図4に示されるように、外周縁部まで連続する長溝からなり、回転中心である点O2を中心として、前記第1案内溝32a〜32fとは反対の時計回り方向に中心に向かって所定角度傾斜して配置された複数(ローラ20の個数に対応して6個)の第2案内溝38a〜38fが形成される。
【0027】
各第2案内溝38a(38b〜38f)は、円形状の側面34aにおいて、その中心O2と外周縁部との間の中間を一端部とし、他端部が外周縁部まで連続する略楕円形状の長溝によって形成され、6個の第2案内溝38a〜38fは、軸心の回りにそれぞれ60度の間隔をおいて配置される。この場合、複数の第2案内溝38a〜38fは、それぞれ、図1及び図2に示されるように、それぞれ、平坦面からなる底壁39に対して相互に対向する側壁41a、41bが略直交する断面矩形状に形成される。
【0028】
前記第2案内溝38a〜38fの傾斜角度θ2は、後述するように、有底円筒体の直径(外径)Dと略楕円形状からなる前記第2案内溝38a〜38fの長軸L2との交差角度によって設定される(図6参照)。この場合、前記傾斜角度θ2は、0<θ2<90度の範囲に設定されるとよく、より一層好適には前記傾斜角度θ2は、35<θ2<45度の範囲に設定されるとよい。
【0029】
入力軸側部材12に形成された第1案内溝32a〜32fと出力軸側部材14に形成された第2案内溝38a〜38fとは、直径(D)を対称軸として線対称に配置され、直径(D)を基準としてその長軸(L1、L2)が相互に反対方向に同一角度(θ1=θ2)だけ傾斜するように設けられるとよい(図3と図4とを比較対照)。
【0030】
この場合、前記第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fとは、それぞれ、前記リテーナ16の保持窓18を間にして相互に対向し、且つ、その長軸(L1、L2)が交差するように設けられればよく、前記第1案内溝32a〜32fの長軸(L1)と前記第2案内溝38a〜38fの長軸(L2)とが相互に直交する必要はない。換言すると、入力軸側部材12とその相手方である出力軸側部材14との間で相互に対応する位置の各案内溝を直交させて設けることに限定されるものではなく、各案内溝の長軸(L1、L2)が交差するように設けられればよい。
【0031】
また、本実施の形態では、第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fの半径外方向の終端が、それぞれ、入力軸側部材12及び出力軸側部材14の外周縁部と接触するように形成されているが、これに限定されるものではなく、前記第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fの半径外方向の終端が前記入力軸側部材12及び/又は出力軸側部材14の外周縁部との間にクリアランスを介して所定距離だけ離間するように設けてもよい。但し、この場合、入力軸側部材12及び出力軸側部材14の外径が拡径される。
【0032】
図2に示されるように、前記出力軸側部材14を貫通し該出力軸側部材14の凹部36内において所定長だけ突出する入力軸側部材12の突起部26には、雄ねじ28に螺合されるナット40を介して若干厚肉のワッシャ42が装着される。前記ワッシャ42と出力軸側部材14との間には、円形のプレート44の孔部に転動自在に保持された複数のボールベアリング46が介装される。なお、複数のボールベアリング46は、出力軸側部材14の回転を円滑にするために設けられるものであり、省略することが可能である。
【0033】
図5に示されるように、入力軸側部材12と出力軸側部材14との間にはリングプレート状のリテーナ16が設けられ、前記リテーナ16には、ローラ20の個数に対応した楕円形状の6個の保持窓18が形成される。この6個の保持窓18は、軸心の回りにそれぞれ60度の間隔をおいて配置されると共に、各保持窓18の長軸と短軸との交点を結ぶ仮想円が同一円周上となるように配置される。
【0034】
また、楕円形状に形成された前記保持窓18の長軸は、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fの長軸とそれぞれ交差するように設定される。
【0035】
ここで、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fの交差角度θ、傾斜角度θ1、θ2の関係について説明する。図6は、入力軸側部材12の回転中心O1と、出力軸側部材14の回転中心O2と、リテーナ16の回転中心O3とがそれぞれ点Oにおいて一致した状態を示したものである。このように入力軸側部材12の回転中心O1と、出力軸側部材14の回転中心O2と、リテーナ16の回転中心O3とが点Oにおいてそれぞれ一致したとき、入力軸側部材12の第1案内溝32a(32b〜32f)の長軸L1と出力軸側部材14の第2案内溝38a(38b〜38f)の長軸L2とが交差角度θをなして交差する。その際、第1案内溝32a(32b〜32f)の長軸L1と第2案内溝38a(38b〜38f)の長軸L2の交点と直径Dとを結ぶことによって、前記交差角度θが二等分された第1案内溝32a(32b〜32f)の傾斜角度θ1と第2案内溝38a(38b〜38f)の傾斜角度θ2とが得られる(θ=θ1+θ2)。
【0036】
この場合、前記交差角度θは、0<θ<180であるとよく、より一層好適には70<θ<90度に設定されるとよい。また、第1案内溝32a(32b〜32f)の傾斜角度θ1と前記第2案内溝38a(38b〜38f)の傾斜角度θ2とは同一であるとよく(θ1=θ2)、前記傾斜角度θ1を、0<θ1<90度の範囲に設定し、より一層好適には前記傾斜角度θ1が、35<θ1<45度の範囲に設定されるとよい。さらに、前記傾斜角度θ2を、0<θ2<90度の範囲に設定し、より一層好適には前記傾斜角度θ2が、35<θ2<45度の範囲に設定されるとよい。
【0037】
なお、前記第1案内溝32a〜32fの長軸L1と前記第2案内溝38a〜38fの長軸L2との交差角度θを大きく設定し過ぎると、リテーナ16の保持窓18の長軸方向の寸法が大きくなり、前記リテーナ16の外径寸法の増大に伴って入力軸側部材12及び出力軸側部材14の外径寸法も大きくなって等速ジョイント10全体の外径寸法が増大する。
【0038】
図1に示されるように、複数(本実施の形態では、6個)のローラ20は、それぞれ、円柱体からなり、前記円筒体の軸方向に沿った端面20a、20bは、円形状に形成され、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに対する摺動面として機能するものである。前記端面20a、20bと側周壁との境界である稜線部位は、面取りされて断面R状に形成される(図2参照)。なお、前記ローラ20の形状は、円柱体に限定されるものではなく、円筒状に形成されてもよい。
【0039】
前記複数のローラ20は、前記リテーナ16の保持窓18に沿って変位自在に保持されると共に、相互に対向する入力軸側部材12の第1案内溝32a〜32f及び出力軸側部材14の第2案内溝38a〜38fとローラ20の軸方向に沿った円形状の端面20a、20bとがそれぞれ接触して摺動可能に配設される。なお、前記複数のローラ20は、例えば、金属製材料によって形成され、回転トルク伝達機能を営むものである。
【0040】
すなわち、このローラ20は、図示しない第1軸及び入力軸側部材12からの回転トルクを出力軸側部材14を介して図示しない第2軸に伝達すると共に、第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに沿って摺動することにより、入力軸側部材12と出力軸側部材14との間の径方向(軸方向と直交する方向)の相対的変位(図示しない第1軸の軸芯と第2軸の軸芯との軸ずれ)を可能とするものである。
【0041】
また、前記ローラ20の個数は、6個に限定されるものではなく、図11の変形例に係る等速ジョイント10aに示されるように、最小限、3個のローラ20があればよい。なお、前記等速ジョイント10aでは、3個のローラ20の個数に対応して第1案内溝32a〜32c、第2案内溝38a〜38c及びリテーナ16の保持窓18の個数も前記ローラ20の個数に対応して形成される。
【0042】
本実施の形態に係る等速ジョイント10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作並びに作用効果について説明する。
【0043】
図示しない第1軸が回転すると、その回転トルクは入力軸側部材12から各ローラ20を介して出力軸側部材14に伝達され、図示しない第2軸が前記第1軸と等速性を保持しながら所定方向に回転する。
【0044】
図6は、第1軸の軸心と第2軸の軸心がそれぞれ一致し、前記第1軸の軸心と第2軸の軸心との偏位量が零の状態を示している。すなわち、図6において、入力軸側部材12の回転中心O1と、出力軸側部材14の回転中心O2と、リテーナ16の回転中心O3とがそれぞれ点Oにおいて一致した状態にある。
【0045】
一方、図7は、第1軸の軸心と第2軸の軸心とが水平方向に沿って相互に反対方向に偏位した状態を示したものであり、入力軸側部材(第1軸)12の回転中心O1と出力軸側部材(第2軸)14の回転中心O2との水平方向に沿った離間距離Rが第1軸及び第2軸の偏位量(軸ずれ量)となる。なお、図6及び図7は、図1の矢印Z方向からリテーナ16及び出力軸側部材14を正面からみたものであり、入力軸側部材12の第1案内溝32a〜32fが二点鎖線によって仮想線として描出されている。
【0046】
第1軸と第2軸との軸心がそれぞれ偏位して不一致の場合には、リテーナ16の保持窓18によって複数のローラ20が保持された状態を維持しながら、前記複数のローラ20が相互に交差する第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに沿って摺動することにより、前記軸心の偏位(軸ずれ)が許容される。
【0047】
従って、本実施の形態では、第1案内溝32a〜32fと第2案内溝38a〜38fとの間でローラ20が滑り接触しながら回転駆動力が入力軸側部材12から出力軸側部材14へと伝達されるが、前記ローラ20を用いることにより前記第1案内溝32a〜32f及び第2案内溝38a〜38fに対する摺動面積を小さく設定することができるため、摩擦抵抗が低減し摩擦損失を減少させることができる。
【0048】
換言すると、従来技術ではフレキシブルカップリング(直動ガイド)を構成するガイド部材とガイドレールとの滑り接触によってスライド抵抗が大きいのに対し、本実施の形態ではローラ20の端面20a、20bによる摺動摩擦のみであるため従来技術と比較して摩擦抵抗を減少させることができる。この結果、本実施の形態では、従来技術と比較してトルク伝達面の面圧が抑制され、ローラ20に対する負荷を減少させることにより、円滑に回転トルクを伝達する等速ジョイント10を得ることができる。
【0049】
ここで、図示しない第1軸と第2軸とが軸ずれした状態において、入力軸側部材12、出力軸側部材14及びリテーナ16が一体的に矢印A方向に回転した場合のローラ20と第1案内溝32a、第2案内溝38a及び保持窓18との位置関係について、図8及び図9に基づいて詳細に説明する。
【0050】
図8及び図9は、他の5つのローラ20を省略して、1つのローラ20に係合する単一の保持窓18と、前記1つのローラ20が摺動する単一の第1案内溝32a及び第2案内溝38aとの位置関係に着目して、便宜上、示したものである。すなわち、入力軸側部材12及び出力軸側部材14が矢印A方向に1回転する状態を(1)〜(12)の順序に分割し、奇数番目の状態のみを図8にその全体として環状的(並列的)に配置し、偶数番目の状態のみを図9にその全体して環状的(並列的)に配置したものである。
【0051】
なお、図8及び図9において、入力軸側部材12及び第1案内溝32aをそれぞれ二点鎖線で示し、出力軸側部材14及び第2案内溝38aをそれぞれ破線で示し、リテーナ16、ローラ20及び保持窓18をそれぞれ実線で示している。
【0052】
この場合、入力軸側部材12は、偏位した回転中心O1を中心として自転し、出力軸側部材14は、偏位した回転中心O2を中心として自転し、リテーナ16は、偏位した回転中心O3を中心としてそれぞれ自転するものとする。前記回転中心O1と前記回転中心O2と前記回転中心O3とを結ぶことにより、三角形が形成される。
【0053】
なお、以下の説明では、略楕円形状に形成された第1案内溝32a及び第2案内溝38aのそれぞれ回転中心O1、O2に近接する内側を「長軸方向に沿った一端部」とし、前記とは反対方向の外周縁部側を「長軸方向に沿った他端部」としている。また、リテーナ16に形成された保持窓18の楕円形状では、回転方向側の端部を「長軸方向に沿った一端部」とし、前記回転方向と反対側の端部を「長軸方向に沿った他端部」としている。
【0054】
先ず、図8の(1)の状態では、ローラ20がリテーナ16の楕円形状の保持窓18の中央部に位置し、この図8の(1)の状態から所定角度回転すると図9の(2)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部側(外周縁部と反対側)に沿って僅かに摺動すると共に、楕円形状の保持窓18の中央部から長軸方向の一端部に向かって僅かに変位する。
【0055】
前記図9の(2)の状態から所定角度回転すると図8の(3)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部に向かってさらに摺動すると共に、楕円形状の保持窓18の長軸側の一端部に到達する。
【0056】
前記図8の(3)の状態から所定角度回転すると図9の(4)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状の保持窓18の長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った一端部に向かって僅かに摺動すると共に、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部に向かってさらに摺動する。
【0057】
前記図9の(4)の状態から所定角度回転すると図8の(5)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状の保持窓18の長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った一端部に向かってさらに摺動すると共に、第2案内溝38aの長軸方向に沿った一端部に到達する。
【0058】
前記図8の(5)の状態から所定角度回転すると図9の(6)の状態となり、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った一端部に向かって僅かに摺動すると共に、保持窓18の長軸方向の一端部から反対方向(一端部から離間する方向)に向かって僅かに変位する。
【0059】
前記図9の(6)の状態から所定角度回転すると図8の(7)の状態となり、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向の一端部まで摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の中央部まで変位する。
【0060】
前記図8の(7)の状態から所定角度回転すると図9の(8)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第2案内溝38aに沿って外周縁部側に向かって僅かに摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の中央部から長軸方向の他端部に向かって変位する。
【0061】
前記図9の(8)の状態から所定角度回転すると図8の(9)の状態となり、前記ローラ20は、第1案内溝32aの長軸方向の一端部に保持されたまま、第2案内溝38aに沿って外周縁部側に向かってさらに摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の長軸方向の他端部に到達する。
【0062】
前記図8の(9)の状態から所定角度回転すると図9の(10)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状に形成された保持窓18の長軸方向の他端部に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向の一端部から離間して反対側の方向に僅かに摺動すると共に、第2案内溝38aに沿って外周縁部側に向かってさらに摺動する。
【0063】
前記図9の(10)の状態から所定角度回転すると図8の(11)の状態となり、前記ローラ20は、楕円形状に形成された保持窓18の長軸方向の他端部に保持されたまま、第1案内溝32aの一端部からさらに離間する外周縁部側に向かって僅かに摺動すると共に、第2案内溝38aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に到達する。
【0064】
前記図8の(11)の状態から所定角度回転すると図9の(12)の状態となり、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部である外周縁部側に向かって僅かに摺動すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の他端部から離間する方向に僅かに変位する。
【0065】
前記図9の(12)の状態から所定角度回転すると初めの図8の(1)の状態に復帰し、前記ローラ20は、第2案内溝38aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に保持されたまま、第1案内溝32aの長軸方向に沿った他端部(外周縁部側)に到達すると共に、楕円形状に形成された保持窓18の中央部の位置まで変位する。以下、(1)〜(12)の状態が無限循環する。
【0066】
従って、図8及び図9の(1)〜(12)の状態に示されるように、リテーナ16の楕円形状の保持窓18に保持されたローラ20と、前記ローラ20の端面20a、20bが摺動する第1案内溝32a及び第2案内溝38aとの共働作用に基づき第1軸と第2軸の軸ずれが許容された状態で入力軸側部材12及び出力軸側部材14が一体的に回転して回転トルクが入力側から出力側へと円滑に伝達される。
【0067】
このように、入力軸側部材12に連結された図示しない第1軸と出力軸側部材14に連結された第2軸との等速性を保持しつつ、第1軸及び第2軸の軸心のずれが好適に許容される。
【0068】
次に、本実施の形態に係る等速ジョイント10の等速性について、図10に基づいて説明する。
【0069】
図10において、ローラ20の中心点O4とリテーナ16の回転中心O3とを結んだ距離をaとし、前記ローラ20の中心点O4と入力軸側部材12の回転中心O1とを結んだ距離をCinとし、前記ローラ20の中心点O4と出力軸側部材14の回転中心O2とを結んだ距離をCoutとする。なお、前記ローラ20の中心点O4とは、円柱体からなるローラ20の重心を示す。
【0070】
また、ローラ20の中心点O4における入力軸側部材12の直線速度(接線速度ベクトル)をVinとし、ローラ20の中心点O4における出力軸側部材14の直線速度(接線速度ベクトル)をVoutとし、ローラ20の中心点O4におけるリテーナ16の直線速度(接線速度ベクトル)をVretとする。
【0071】
さらに、入力軸側部材12の角速度をω1(入力軸角速度)とし、出力軸側部材14の角速度をω2(出力軸角速度)とする。
【0072】
この場合、入力軸側部材12の角速度ω1を半径(Cin)と直線速度(Vin)とに分離すると、
ω1=Vin/Cin ・・・・・・・・・(1)
と表される。
【0073】
次に、ローラ20の中心点O4でのそれぞれの直線速度比(接線速度比)から、以下の式が導き出される。
Vin/Vret=Cin/a・・・・・・・・・・(2)
Vout/Vret=Cout/a・・・・・・・・(3)
そこで、前記(2)、(3)式より
Vin/Vout=Cin/Cout が成立する。この式を変形すると、
Vin=(Cin/Cout)・Vout・・・・・(4)
となる。上記(4)式を上記(1)式に代入すると、
ω1=(1/Cin)・(Cin/Cout)・Vout
=Vout/Cout
=ω2
となり、入力軸角速度ω1と出力側角速度ω2との関係がω1=ω2となり、入力軸と出力軸との等速性が確保される。
【0074】
ところで、特許文献1に開示された比較例に係るフレキシブルカップリングでは、図13及び図14に示されるように、入力軸側プレートの軸心(回転中心)Eと出力軸側プレートの軸心Fとが偏位し、4つの直動ガイドの交点(ガイド部材とガイドレールとの交点G1〜G4)を結ぶ円Hの中心Kとすると、前記中心Kの軌跡が円Lとなる。前記円Lは、軸心Eと軸心Fとを直径とする円となる。
【0075】
この比較例に係るフレキシブルカップリングでは、入力軸側プレートの軸心Eと出力軸側プレートの軸心Fとが偏位した状態(軸ずれした状態)で角度αだけ矢印方向に回転した場合、前記4つの直動ガイドの交点を結ぶ円Hの中心K及び前記中心Kの軌跡である円Lは、入力軸側プレート及び出力軸側プレートの回転方向と逆方向に2αの角速度で回転(公転)することにより、等速性が確保される構造となっている。
【0076】
従って、比較例では、軸心E及び軸心Fを回転中心として入力軸側プレート及び出力軸側プレートが1回転(360度)したとき、前記直動ガイドの交点に配置されたものは2回転(720度)するため、前記直動ガイドの交点に配置されたものから振動が発生するという問題がある。
【0077】
これに対して、本実施の形態では、比較例のような振動の発生が阻止されるため、回転トルクを円滑に伝達することができる利点がある。
【0078】
次に、本発明の他の実施の形態に係る等速ジョイント100を図12に示す。
【0079】
この他の実施の形態に係る等速ジョイント100では、断面L字状に屈曲する環状のカシメ部102を入力軸側部材12aに形成し、前記カシメ部102によって入力軸側部材12aを出力軸側部材14aと連結している点で前記実施の形態と相違している。
【0080】
なお、出力軸側部材14aには、前記カシメ部102と係合する部位に環状溝が形成され、前記環状溝内に転動自在に収納された複数のボールベアリング104が設けられる。
【0081】
その他の構成並びに作用効果は、前記実施の形態と同一であるため、その詳細な説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの要部分解斜視図である。
【図2】図1に示す等速ジョイントの軸方向に沿った縦断面図である。
【図3】図1に示す等速ジョイントを構成する入力軸側部材の矢印Z方向からみた側面図である。
【図4】図1に示す等速ジョイントを構成する出力軸側部材の矢印Z方向からみた側面図である。
【図5】図1に示す等速ジョイントを構成するリテーナ及びローラの矢印Z方向からみた側面図である。
【図6】図1に示す等速ジョイントにおいて、入力側の第1軸の軸心と出力側の第2軸の軸心とが一致した状態を示す側面図である。
【図7】図5に示す状態から第1軸の軸心と第2軸の軸心とが水平方向に沿って離間距離Rだけ偏位した状態を示す側面図である。
【図8】保持窓に保持されたローラと、第1案内溝及び第2案内溝との相対的関係を便宜的に示す動作説明図である。
【図9】保持窓に保持されたローラと、第1案内溝及び第2案内溝との相対的関係を便宜的に示す動作説明図である。
【図10】図1に示す等速ジョイントの等速性の説明に供される図である。
【図11】図1に示す等速ジョイントの変形例を示す要部分解斜視図である。
【図12】本発明の他の実施の形態に係る等速ジョイントの軸方向に沿った縦断面図である。
【図13】比較例に係るフレキシブルカップリングの動作に供される図である。
【図14】図13の部分拡大図である。
【図15】従来技術に係るフレキシブルカップリングの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
10、10a、100…等速ジョイント 12、12a…入力軸側部材
14、14a…出力軸側部材 16…リテーナ
18…保持窓 20…ローラ
20a、20b…端面 22…軸部
24…円板部 30…孔部
32a〜32f…第1案内溝 34…環状フランジ
36…凹部 38a〜38f…第2案内溝
40…ナット 42…ワッシャ
44…プレート 46、104…ボールベアリング
102…カシメ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って等角度離間し直径に対して交差する長軸を有する複数の第1案内溝が側面に形成された入力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と対向する側面に、周方向に沿って等角度離間し前記第1案内溝の長軸と所定の交差角度で交差する長軸を有する複数の第2案内溝が形成された出力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と前記第2案内溝が形成された出力軸側部材の側面との間に介装され、複数の保持窓が形成されたリテーナと、
前記リテーナの保持窓に沿って変位可能に保持され、前記第1案内溝と前記第2案内溝との間で摺動可能に配設されてトルクを伝達する円柱体からなるローラと、
を備え、
前記第1案内溝、第2案内溝及び保持窓は、前記ローラの個数に対応して形成されることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1記載の等速ジョイントにおいて、
前記ローラは、少なくと3個以上設けられることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項3】
請求項1記載の等速ジョイントにおいて、
前記入力軸側部材の回転中心と、前記出力軸側部材の回転中心と、前記リテーナの回転中心とがそれぞれ一致したとき、前記第1案内溝の長軸と前記第2案内溝の長軸との交点と直径とを結ぶことによって、前記所定の交差角度が二等分された前記第1案内溝の傾斜角度θ1と前記第2案内溝の傾斜角度θ2とが得られることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項1】
周方向に沿って等角度離間し直径に対して交差する長軸を有する複数の第1案内溝が側面に形成された入力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と対向する側面に、周方向に沿って等角度離間し前記第1案内溝の長軸と所定の交差角度で交差する長軸を有する複数の第2案内溝が形成された出力軸側部材と、
前記第1案内溝が形成された入力軸側部材の側面と前記第2案内溝が形成された出力軸側部材の側面との間に介装され、複数の保持窓が形成されたリテーナと、
前記リテーナの保持窓に沿って変位可能に保持され、前記第1案内溝と前記第2案内溝との間で摺動可能に配設されてトルクを伝達する円柱体からなるローラと、
を備え、
前記第1案内溝、第2案内溝及び保持窓は、前記ローラの個数に対応して形成されることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
請求項1記載の等速ジョイントにおいて、
前記ローラは、少なくと3個以上設けられることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項3】
請求項1記載の等速ジョイントにおいて、
前記入力軸側部材の回転中心と、前記出力軸側部材の回転中心と、前記リテーナの回転中心とがそれぞれ一致したとき、前記第1案内溝の長軸と前記第2案内溝の長軸との交点と直径とを結ぶことによって、前記所定の交差角度が二等分された前記第1案内溝の傾斜角度θ1と前記第2案内溝の傾斜角度θ2とが得られることを特徴とする等速ジョイント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−207803(P2006−207803A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359516(P2005−359516)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
[ Back to top ]