説明

等速ジョイント

【課題】容易に組み付け可能である等速ジョイントを提供する。
【解決手段】第1軸111と第2軸112とを連結する等速ジョイント1であって、後側が開口し内周面に軸方向の摺動溝11が周方向で複数形成された円筒状の外輪部材10と、摺動溝11を軸方向で摺動するローラ23を有する内輪部材20と、内輪部材20に連結された軸部材30と、軸部材30を回転自在に保持する軸受41と、ブーツ大径部51が外輪部材10に固定されると共に、ブーツ小径部52が軸部材30に嵌着された環状のブーツ50と、環状のダストカバー60と、を備え、ダストカバー60は、ブーツ小径部52を外側から把持することでブーツ小径部52を軸部材30に密着させる把持部61と、軸受41の前側を遮蔽する遮蔽部64と、遮蔽部と把持部61との間に形成されると共に軸部材30に溶接で固定された被溶接部62と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、後輪駆動又は四輪駆動の四輪車(車両)において、変速装置からの動力は、車幅方向中央で前後方向に延びる推進軸(プロペラシャフト)を介して、左右の後輪の中央に設けられた終減速装置に伝達される。ここで、推進軸は、その共振点(共振する回転数)を実用回転数域よりも高く設定する必要があるため、適当な長さで分割される。
【0003】
例えば、2分割された場合、図11に示すように、推進軸200は、前側(一方側)の第1軸201と、後側(他方側)の第2軸202と、第1軸201と第2軸202とを連結する等速ジョイント300と、を備えている。第1軸201の前端部は、第1自在継手211(十字継手等)を介して、変速装置の出力軸(図示しない)に接続されており、第2軸202の後端部は、第2自在継手212を介して、終減速装置のドライブピニオン(図示しない)に接続されている。
【0004】
すなわち、図11では、軸方向に並ぶ3つの継手箇所のうちの中間の継手箇所に、自在継手として等速ジョイント300を備える構成を例示している。そして、このように中間の継手箇所に等速ジョイント300を備える形態は一般に多い。
【0005】
図12に示すように、等速ジョイント300は、トリポート型のジョイントであって、第1軸201の後端部に連結された有底円筒状の外輪部材301と、外輪部材301内を軸方向で摺動する内輪部材302と、前端部が内輪部材302に連結されると共に後端部が第2軸202の前端部に連結された軸部材303と、を備えている。そして、内輪部材302のローラ304が、外輪部材301の内周面に軸方向で形成された摺動溝を、摺動又は転動することで、外輪部材301と軸部材303とが軸方向において伸縮するようになっている。
なお、軸部材303は、軸受305を介して、車体(図示しない)の下部に回転自在に保持されており、軸受305に水、塵等が浸入することは望ましくない。
【0006】
ここで、ローラ304は、前記摺動溝の内面との間に極小隙間を形成しながら、摺動溝を摺動又は転動するので、ローラ304等の焼き付きを防止するために外輪部材301内にはグリース(潤滑油)が封入されている。そして、外輪部材301と軸部材303との隙間には、ブーツ306が設けられており、このブーツ306によって、外輪部材301内から外部への前記グリースの流出や、外部から外輪部材301内への水・ごみ等の浸入を防止している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4739913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ブーツ306は、その後端側に円筒状のブーツ小径部307を有しており、ブーツ小径部307は、ブーツバンド308で縮径されつつ軸部材303に嵌着されている。
【0009】
具体的には、ブーツバンド308を軸部材303に挿通させた後、ブーツ306を軸部材303の所定位置まで挿通し、次いで、ブーツバンド308をブーツ溝309上に配置した後、ブーツバンド308を専用工具で縮径し、ブーツ小径部307を軸部材303に取り付けている。このように、軸方向におけるブーツバンド308の位置決め作業や、専用工具によるブーツバンド308の縮径作業を実行するので、これらの作業を自動化し省略化することが困難となっている。
【0010】
そこで、本発明は、容易に組み付け可能である等速ジョイントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、一方側の第1軸と他方側の第2軸とを連結する等速ジョイントであって、前記第1軸と一体に回転すると共に、他方側が開口し、内周面に摺動溝が周方向で複数形成された円筒状の外輪部材と、前記摺動溝を摺動する摺動子を有する内輪部材と、前記第2軸と一体に回転すると共に、前記内輪部材に連結された棒状の軸部材と、外部に対して前記軸部材を回転自在に保持する軸受と、ブーツ大径部及びブーツ小径部を有し、前記ブーツ大径部が前記外輪部材に固定される共に、前記ブーツ小径部が前記軸部材に嵌着された環状のブーツと、前記軸受の一方側を外部から遮蔽することで、外部から前記軸受へのダストの浸入を防止する環状のダストカバーと、を備え、前記ダストカバーは、一方側に形成されると共に前記ブーツ小径部を外側から把持することで前記ブーツ小径部を前記軸部材に密着させる把持部と、他方側に形成されると共に前記軸受の一方側を遮蔽する遮蔽部と、前記遮蔽部と前記把持部との間に形成されると共に前記軸部材に溶接で固定された被溶接部と、を備えることを特徴とする等速ジョイントである。
【0012】
このような構成によれば、ダストカバーの他方側に形成された遮蔽部が、軸受の一方側を遮蔽するので、外部から軸受の一方側にダスト(塵)や水が浸入し難くなる。
【0013】
また、ブーツのブーツ小径部が軸部材に嵌着し、ダストカバーの一方側に形成された把持部がブーツ小径部を把持し軸部材に密着させているので、ブーツ小径部は、軸方向、周方向及び径方向において、軸部材に固定され易くなる。すなわち、軸受へのダストの浸入を防止するダストカバーの一部である把持部によって、ブーツ小径部を軸部材に良好に密着させることができ、ブーツバンドが不要になると共に、容易に組み付け可能となる。
【0014】
また、ダストカバーの被溶接部が軸部材に溶接で固定されているので、ダストカバーは軸方向及び周方向において軸部材に固定されている。これにより、ダストカバーの把持部で把持されるブーツ小径部も、軸方向及び周方向において移動し難くなる。
【0015】
さらにまた、このような構成によれば、(1)ダストカバーの把持部でブーツ小径部を把持し、ダストカバー及びブーツが一体化したものを、(2)軸部材に挿通し取り付けることにより、軸部材へのダストカバー及びブーツの挿通作業が1回となり、等速ジョイントを容易に組み付け可能となり、生産機械によって組み付け作業を自動化すること容易となる。
【0016】
また、前記等速ジョイントにおいて、前記ブーツ小径部の内周面及び/又は前記ブーツ小径部が密着する前記軸部材の外周面には、軸方向に延びると共に前記ブーツの内外を連通させるブーツ連通溝が形成されており、前記ダストカバーの内面には、前記ダストカバーの内外を連通させるダストカバー連通溝が形成されており、前記ブーツの内部は、前記ブーツ連通溝、前記ダストカバー連通溝、を介して、外部と連通していることが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、ブーツの内部が、ブーツ連通溝、ダストカバー連通溝、を介して、外部と連通しているので、例えば、摺動子の摺動熱によって、等速ジョイント内部の温度が上昇し、外輪部材内の空気が膨張したとしても、この空気が、ブーツの内部、ブーツ連通溝、ダストカバー連通溝を介して、外部に排出される。これにより、等速ジョイント内の圧力が大幅に上昇せず、圧力上昇によりブーツが変形・破損等することはない。
【0018】
また、前記等速ジョイントにおいて、前記軸受の一方側の前記軸部材に固定され、前記軸受の一方側への抜け出しを防止すると共に円筒状を呈する金属製の抜け出し防止部材を備え、前記ダストカバーは、前記抜け出し防止部材の一方側部分に嵌着する円筒状の嵌着部を備え、前記嵌着部と前記抜け出し防止部材との間に、前記嵌着部と前記抜け出し防止部材を電気的に絶縁する絶縁層を備え、前記被溶接部と前記軸部材とは抵抗溶接されていることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、ダストカバーの被溶接部と軸部材との抵抗溶接により、ダストカバーが軸部材に確実に固定される。そして、軸部材に固定されたダストカバーの円筒状の嵌着部が、抜け出し防止部材の一方側部分に嵌着していることによって、抜け出し防止部材が軸部材に確実に固定される。したがって、この抜け出し防止部材によって、軸受の一方側への抜け出しを防止できる。
【0020】
さらに、嵌着部と抜け出し防止部材との間の絶縁層によって、嵌着部と抜け出し防止部材とが電気的に絶縁されているので、被溶接部と軸部材との抵抗溶接時、嵌着部と抜け出し防止部材とを経由する短絡回路は形成されず、被溶接部と軸部材とを良好に溶接できる。
なお、絶縁層がダストカバーの内面に絶縁層が設けられる場合、ダストカバーの内面のうち、被溶接部(後記する実施形態では被接合突起65)を除いて、全面又嵌着部の内面に設けられることが好ましい。
【0021】
また、前記等速ジョイントにおいて、前記ダストカバーは、前記軸受が嵌合する前記軸部材の被嵌合部の一方側端部に、嵌着する円筒状の嵌着部又は当接する当接部を備え、前記嵌着部又は前記当接部と前記軸部材の前記一方側端部との間に、前記嵌着部又は前記当接部と前記軸部材の前記一方側端部とを電気的に絶縁する絶縁層を備え、前記被溶接部と前記軸部材とは抵抗溶接されていることが好ましい。
【0022】
このような構成によれば、ダストカバーの被溶接部と軸部材との抵抗溶接により、ダストカバーが軸部材に確実に固定される。
そして、軸受が嵌合する軸部材の被嵌合部の一方側端部に、ダストカバーの円筒状の嵌着部が嵌着している、又は、ダストカバーの当接部が当接しており、嵌着部又は当接部と軸部材の一方側端部との間に、嵌着部又は当接部と軸部材の一方側端部とを電気的に絶縁する絶縁層を備えるので、被溶接部と軸部材との抵抗溶接時、嵌着部と抜け出し防止部材とを経由する短絡回路は形成されず、被溶接部と軸部材とを良好に溶接できる。
【0023】
また、前記等速ジョイントにおいて、前記ブーツ小径部に埋設され、前記ブーツ小径部を拡径させるばね力を有するリングを備えることが好ましい。
【0024】
このような構成によれば、ブーツ小径部に埋設されたリングによって、ブーツ小径部を拡径させて、ブーツ小径部をダストカバーの把持部に密着できる。よって、リングは、ブーツ小径部の径方向(厚さ方向)において、径方向やや外側に配置されることが好ましい。
そして、このようにブーツ小径部とダストカバーの把持部とが密着するので、ブーツとダストカバーとが組み付いたものに軸部材を挿通する際、例えば、ブーツが軸部材に引っ掛かったとしても、ブーツがダストカバーから外れること、つまり、ブーツとダストカバーと分離することはない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、容易に組み付け可能である等速ジョイントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る推進軸の平面図である。
【図2】第1実施形態に係る等速ジョイントの平面図である。
【図3】図2の第1実施形態に係る等速ジョイントの平面図を拡大したものである。
【図4】図2のX1−X1線断面図である。
【図5】図2、図3、図7のX2−X2線断面図である。
【図6】第1実施形態に係る等速ジョイントの組み付け状況を示す平断面図である。
【図7】第2実施形態に係る等速ジョイントの平面図である。
【図8】第2実施形態に係るブーツの斜視図である。
【図9】図7のX3−X3線断面図である。
【図10】第3実施形態に係る等速ジョイントの平面図である。
【図11】従来の推進軸の平面図である。
【図12】従来の等速ジョイントの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
≪第1実施形態≫
本発明の第1実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
【0028】
≪推進軸の構成≫
第1実施形態に係る推進軸100(プロペラシャフト)は、後輪駆動の四輪車(車両)に搭載されており、車両前側に配置された変速装置(図示しない)の出力する動力を、車両後側であって車幅方向中央に配置された終減速装置(図示しない)に伝達させる軸であり、前後方向に延びている。
【0029】
推進軸100は、2ピース構造(2分割構造)を有しており、前側(一方側)の第1軸111と、後側(他方側)の第2軸112と、第1軸111と第2軸112とを連結する等速ジョイント1と、を備えている。
ただし、ピース数(分割数)は、これに限定されず、3ピース構造(3分割構造)等に適宜変更してよい。
【0030】
第1軸111は、円筒状の部品である。第1軸111の前端部は、第1自在継手121(十字継手等)を介して、変速装置の出力軸(図示しない)に連結されている。
第2軸112は、円筒状の部品である。第2軸112の後端部は、第2自在継手122(十字継手等)を介して、終減速装置のドライブピニオン(図示しない)に連結されている。
【0031】
≪等速ジョイントの構成≫
等速ジョイント1は、第1軸111の後端部と、第2軸112の前端部とを連結するジョイントであって、第1実施形態では、トリポート型で構成されている。
【0032】
図2に示すように、トリポート型の等速ジョイント1は、後端側が開口した有底円筒状の外輪部材10と、外輪部材10内を軸方向に摺動する内輪部材20と、棒状の軸部材30と、車体(外部)に対して軸部材30を回転自在に保持する軸受ユニット40と、ブーツ50と、ダストカバー60と、を備えている。
【0033】
<外輪部材>
外輪部材10は、後端側が開口し前端側に底壁部を有する有底円筒状の部品である。外輪部材10の前端部は第1軸111の後端部と溶接(摩擦溶接等)によって接合されている。これにより、外輪部材10は、第1軸111と一体に回転するようになっている。
【0034】
外輪部材10の内周面には、軸方向に延び後端側が開口した3本の摺動溝11が形成されている。3本の摺動溝11は、周方向において等間隔で配置されている(図4参照)。そして、各摺動溝11を、内輪部材20の後記するローラ23が、摺動又は転動するようになっている。
【0035】
<内輪部材>
内輪部材20は、図4に示すように、軸部材30の前端部に外嵌すると共にスプライン結合された環状の外嵌部21と、外嵌部21と一体成形され、径方向に延びると共に周方向に等間隔で配置された軸部22と、軸部22を回転中心とするローラ23(摺動子)と、軸部22とローラ23との間に設けられた軸受24と、を備えている。軸受24は、例えば、ニードルローラベアリングで構成される。
【0036】
そして、ローラ23が、摺動溝11の内壁面と極小隙間を形成しながら、摺動溝11を軸方向に摺動又は転動するので、摺動等に伴うローラ23及び摺動溝11の磨耗・焼き付きを防止するために、摺動溝11にはグリース(潤滑油)が封入されている。
【0037】
<軸部材>
軸部材30は、図2、図3に示すように、外形が円柱状であって中実である金属製の部品である(図5参照)。ただし、円筒状等に適宜変更してよい。
軸部材30の前側の約1/3部分は、外輪部材10内に遊挿されており、後側の約2/3部分は、外輪部材10の後側の開口から突出し、後方に延びている。
【0038】
軸部材30の後端部は、第2軸112と溶接(摩擦溶接等)によって接合されている。よって、軸部材30は、第2軸112と一体に回転するようになっている。一方、軸部材30の前端部は、前記したように、内輪部材20の外嵌部21とスプライン結合されることで、内輪部材20と連結されている。これにより、第1軸111の動力(回転力)が、外輪部材10、内輪部材20、軸部材30を介して、第2軸112に伝達するようになっている。
【0039】
軸部材30は、軸方向の略中間部において、周方向に浅底の溝状で形成されたブーツ溝31を有している。ブーツ溝31は、ブーツ50の後記するブーツ小径部52が嵌着する溝である。そして、ブーツ小径部52が、ブーツ溝31に嵌着することで、軸方向において規制(位置決め)されるようになっている。
【0040】
軸部材30は、ブーツ溝31のやや後側に、その前後よりも若干隆起すると共に、全周方向に延びる隆起部32を有している。隆起部32は、ダストカバー60の後記する3つの被溶接突起65と、プロジェクション溶接(重ね抵抗溶接)されている。これにより、軸部材30とダストカバー60との軸方向及び周方向における相対位置は固定されている。
【0041】
なお、このように隆起部32が全周に亘って延びているので、溶接前において、ダストカバー60と軸部材30との相対位置が設計時に対して若干ずれていたとしても、被溶接突起65が隆起部32に当接し、プロジェクション溶接可能となっている。
【0042】
軸部材30は、その後端部に、軸受ユニット40の後記する軸受41に内嵌し、軸受41に回転自在に支持されている被支持部33を有している。
【0043】
そして、軸部材30は、被支持部33の後側に、被支持部33よりも大径の大径部34を有しており、大径部34は軸受41の後側端面に当接している。一方、軸受41の前側端面には、軸受ユニット40の後記するカラー42が当接している。このように、軸受41は、軸方向において、大径部34とカラー42とで挟まれているので、軸部材30に対して位置決めされ、抜け出さないようになっている。
なお、カラー42は、例えば、軸部材30に圧入されることで、軸部材30に固定されている。
【0044】
<軸受ユニット>
軸受ユニット40は、車体に対して軸部材30を回転自在に保持するユニットである。軸受ユニット40は、軸受41と、カラー42(抜け出し防止部材)と、内環43と、外環44と、ゴム製で環状のマウント45と、を備えている。
【0045】
軸受41は、例えば、ラジアルボールベアリングで構成され、前記した被支持部33に外嵌している。
【0046】
カラー42は、金属製の円筒体であって、軸部材30に圧入固定されると共に、軸受41の前側端面に当接し、軸受41の軸部材30から抜け出しを防止している。
また、カラー42の前側部分は、内環43の前側端から突出しており、この突出した部分に、ダストカバー60が嵌着している。
【0047】
内環43は、環状を呈する金属製の部品であり、軸受41に外嵌している。
【0048】
また、軸受41の前側において、内環43とカラー42との間には、オイルシール46A(ダストシール、シール部材)が設けられており、水や塵等が軸受41の前側に浸入しないようになっている。一方、軸受41の後側において、内環43と軸部材30の大径部34との間には、オイルシール46B(ダストシール)が設けられており、水や塵等が軸受41の後側に浸入しないようになっている。そして、オイルシール46A、46Bで封止された空間には、軸受41を潤滑するためのグリース(潤滑油)が封入されている。
【0049】
外環44は、内環43よりも大径の環状を呈する金属製の部品であり、内環43の径方向外側に所定間隔をあけつつ同中心的に配置されている。なお、外環44は、ブラケット47を介して、車体(図示しない)の下部に固定されている。
【0050】
マウント45は、環状を呈するゴム製の部品であり、内環43と外環44との間に設けられると共に、径方向において内環43と外環44とを連結している。これにより、内環43(軸部材30)の振動が、マウント45で吸収され、外環44(車体)に伝達し難くなっている。
【0051】
<ブーツ>
ブーツ50は、環状を呈する部品であって、外輪部材10の後側開口と軸部材30との隙間を封止することで、(1)外輪部材10内のグリースの外部への流出を防止すると共に、(2)外部から外輪部材10内への水や塵等の浸入を防止する部品である。
【0052】
ブーツ50は、ブーツ大径部51と、ブーツ小径部52と、屈曲部53と、リング54と、を備えている。なお、ブーツ大径部51、ブーツ小径部52及び屈曲部53は、ゴム製であり一体で成形されている。一方、リング54は金属製である。
【0053】
<ブーツ−ブーツ大径部>
ブーツ大径部51は、外輪部材10と略同等の外径であり、円筒状のアダプタ55を介して、外輪部材10に固定されている。詳細には、ブーツ大径部51の後端部は、アダプタ55の後端側の押し返し部に差し込まれており、アダプタ55の前端部は、外輪部材10に嵌着している。なお、アダプタ55と外輪部材10との間には、Oリング56が介設されており、シール性が高められている。
【0054】
<ブーツ−ブーツ小径部>
ブーツ小径部52は、ブーツ大径部51よりも小径であって、その一部がブーツ溝31に差し込まれつつ、軸部材30に嵌着している。また、ブーツ小径部52は、その径方向外側から、ダストカバー60の把持部61によって、径方向内向きの力で把持されており、ブーツ小径部52と軸部材30とは良好に密着している。
【0055】
<ブーツ−屈曲部>
屈曲部53は、ブーツ大径部51の前端とブーツ小径部52の前端との間に形成され、断面視で横U字形を呈し、屈曲自在な部分である。これにより、ブーツ大径部51及びブーツ小径部52は、軸方向及び径方向において、相対位置を変更自在となっている。
【0056】
<ブーツ−リング>
リング54は、ブーツ小径部52に埋設されると共に、ブーツ小径部52を拡径させるばね力を有する金属製の部品である。これにより、ブーツ小径部52はダストカバー60の把持部61で確実に把持され、ブーツ50とダストカバー60が組み付き一体となったもの(図6参照)を、軸部材30に挿通する際、ブーツ小径部52が把持部61から外れ難くなっている。
【0057】
<ダストカバー>
ダストカバー60は、円筒状を呈する金属製の部品であり、前側から後側に向かって、把持部61と、被溶接部62と、嵌着部63と、遮蔽部64と、を備えている。すなわち、把持部62は前側(一方側)に、遮蔽部64は後側(他方側)に、被溶接部62は把持部62と遮蔽部64との間に形成されている。
【0058】
<ダストカバー−把持部>
把持部61は、ブーツ小径部52を外側から径方向内向きの力で把持することで、ゴム製のブーツ小径部52を弾性変形させ、ブーツ小径部52と軸部材30とをさらに密着させる部分である。したがって、把持部61の内径は、ブーツ小径部52の外径よりも小さく、ブーツ小径部52を径方向内向きで圧縮するように設計されている。
【0059】
また、把持部61は側断面視で略U字形を呈しており、ブーツ小径部52の径方向外側部分は把持部61に差し込まれている。これにより、把持部61(ダストカバー60)とブーツ小径部52(ブーツ50)との軸方向における相対位置は、固定されている。
【0060】
<ダストカバー−被溶接部>
被溶接部62は、把持部61の後端から後側に延びる円筒状の部分である。被溶接部62は、軸方向中間位置において、内周面から径方向内向きに膨出(突出)する3つ(複数)の被溶接突起65(被溶接部)を有している。3つの被溶接突起65は、周方向において等間隔(120°間隔)で配置され、各被溶接突起65は前記した軸部材30の隆起部32とプロジェクション溶接(抵抗溶接)されている。これにより、被溶接部62(ダストカバー60)は、軸方向及び周方向において、軸部材30に固定されている。
【0061】
なお、被溶接突起65は、被溶接部62の周壁部を径方向内向きにプレス加工等で変形させることで形成される。ただし、被溶接突起65に限定されず、例えば、径方向内側に突出すると共に周方向に連続した被溶接条としてもよい。
【0062】
<ダストカバー−嵌着部>
嵌着部63は、被溶接部62の後端から径方向外側に延びた後、後側に延びる略L字形の部分、つまり、有底円筒状の部分であり、カラー42の前端部に嵌着している。これにより、嵌着部63(ダストカバー60)は、軸方向及び周方向において、カラー42に固定されている。よって、嵌着部63の内径は、カラー42の外径よりも、やや小さく設計されている。
【0063】
<ダストカバー−嵌着部−絶縁層>
ここで、嵌着部63とカラー42との間には、嵌着部63とカラー42とを電気的に絶縁する絶縁層(図示しない)が形成されている。これにより、被溶接突起65と隆起部32とをプロジェクション溶接する場合、嵌着部63とカラー42を経由する短絡回路が形成されず、被溶接突起65と隆起部32とが良好に溶接されるようになっている。
【0064】
このような絶縁層は、例えば、嵌着部63の内面及び/又はカラー42の外面に、絶縁塗料(樹脂)を塗布することで形成される。また、嵌着部63の内面及び/又はカラー42の外面に、樹脂製の絶縁部品を装着することで形成される。その他に、カラー42の一部を樹脂製の絶縁部品とする構成でもよい。
【0065】
<ダストカバー−遮蔽部>
遮蔽部64は、嵌着部63の後端から径方向外側に延びるリング状の部分である。遮蔽部64は、内環43の前端から所定間隔を隔てつつ、内環43とカラー42との間に形成された隙間の前側開口を塞ぐように配置されている。これにより、軸受41の前側は外部から遮蔽され、水や塵等が軸受41に浸入し難くなっている。
【0066】
≪等速ジョイントの作用・効果≫
このような等速ジョイント1によれば、次の作用・効果を得る。
ブーツ小径部52が軸部材30に嵌着し、そして、ダストカバー60の把持部61が径方向内向きの力でブーツ小径部52を把持しているので、ブーツ小径部52は軸部材30に良好に密着すると共に、軸方向及び周方向において固定される。また、被溶接突起65が隆起部32にプロジェクション溶接され、さらに、嵌着部63がカラー42に嵌着しているので、ダストカバー60と軸部材30との相対位置がずれることはなく、カラー42の抜け出し荷重をダストカバー60で負担できる。よって、カラー42の内径と被支持部33の外径との加工公差を緩和でき、コストダウンが可能となる。
【0067】
また、ダストカバー60の遮蔽部64が、カラー42と内環43との隙間の前側開口を塞いでいるので、外部から軸受41に水、塵等が浸入し難くなる。
【0068】
<等速ジョイントの組み付け>
次に、等速ジョイント1の組み付け手順を説明する。
図6に示すように、ダストカバー60の把持部61で、ブーツ50のブーツ小径部52を把持し、ブーツ50とダストカバー60とを一体化する。
そして、この一体化したものに、軸受ユニット40が固定された軸部材30を挿通し、ダストカバー60の嵌着部63でカラー42の前端部を嵌着する。
【0069】
次いで、プロジェクション溶接装置の電極を被溶接突起65の外周面に当接して通電させ、被溶接突起65と隆起部32とをプロジェクション溶接する。
そして、内輪部材20を軸部材30の前端部にスプライン結合した後、アダプタ55を介して、ブーツ50を外輪部材10に固定する。
【0070】
このような等速ジョイント1の組み付け手順によれば、軸部材30へのダストカバー60及びブーツ50の挿通作業を1回としつつ、既存のプロジェクション溶接装置を利用して、ブーツ50を容易に組み付けでき、生産機械によって組み付け作業を自動化することが容易となる。
【0071】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更してもよい。
【0072】
前記した実施形態では、等速ジョイント1がトリポート型である構成を例示したが、ジョイントの型式は適宜変更してよい。例えば、ダブルオフセット型、レブロ型、バーフィールド型に変更できる。このうち、等速ジョイント1をレブロ型とした場合、外輪部材の摺動溝は軸線(軸方向)に対して円周方向に傾斜した構成となり、内輪部材のボール(摺動子)が摺動溝に沿って、つまり、軸線に対して斜め方向で摺動する構成となる。
【0073】
前記した実施形態では、動力が外輪部材10側に入力される構成を例示したが、軸部材30側に入力される構成でもよい。
【0074】
前記した実施形態では、前側から後側に向かって、外輪部材10、軸部材30(軸受41)の順で配置された構成を例示したが、これとは逆に、軸部材30(軸受41)、外輪部材10の順で配置された構成でもよい。
【0075】
前記した実施形態では、軸部材30の隆起部32と、ダストカバー60の被溶接突起65とがプロジェクション溶接された構成を例示したが、溶接方法は適宜変更できる。例えば、重ね抵抗溶接であるスポット溶接、シーム溶接や、融接であるアーク溶接、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接等に変更できる。
【0076】
≪第2実施形態≫
本発明の第2実施形態について、図7〜図9を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0077】
ブーツ50を構成するブーツ小径部52の内周面には、軸方向に延びる2本のブーツ連通溝57が形成されている。これにより、ブーツ小径部52が軸部材30に嵌着した状態において、ブーツ連通溝57を介してブーツ50内外が連通するようになっている。
【0078】
なお、2本のブーツ連通溝57は、一径方向上に配置され、ブーツ小径部52の中心軸線を中心として対称となっている。ただし、ブーツ連通溝57の数・位置・形状は、適宜変更してよい。例えば、ブーツ連通溝57が軸方向に対してやや斜めである構成でもよく、このような構成も技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0079】
ダストカバー60を構成しL字形を呈する嵌着部63の内面には、ダストカバー60内外を連通させるL字形を呈する1本のダストカバー連通溝66が形成されている。ただし、ダストカバー連通溝66の数・位置・形状は、適宜変更してよい。
【0080】
詳細には、ダストカバー連通溝66は、嵌着部63の内面において、径方向外側に延びた後、後側に延び、カラー42と内環43との隙間に向けて開口し、この隙間を介して外部と連通している。このようにダストカバー連通溝66がカラー42と内環43との隙間に向けて開口しているので、水や塵等が外部からダストカバー連通溝66に浸入し難くなっている。ただし、ダストカバー連通溝66の数・位置・形状は、適宜変更してよい。
【0081】
そして、外輪部材10(図2参照)内は、ブーツ50内、2本のブーツ連通溝57、軸部材30とダストカバー60との隙間(図5参照)、ダストカバー連通溝66を介して外部と連通している。
【0082】
これにより、外輪部材10内の圧力は、外部の圧力(大気圧)と略等しくなる。すなわち、ローラ23の摺動熱等によって、外輪部材10内の空気の温度が上昇し、空気が膨張しても、この空気が、ブーツ連通溝57、ダストカバー連通溝66等を通って、外部に排出されるので、外輪部材10内の圧力が大幅に上昇せず、圧力上昇によりブーツ50が変形・破損等することはない。
【0083】
また、ダストカバー60の嵌着部63がカラー42に嵌着し、カラー42は外部に臨んでいないので、カラー42の表面に意匠性を高めるべく塗装する必要はない。これにより、カラー42とダストカバー60との間に形成される空気の通路が、塗料によって目詰まりすることはない。
【0084】
≪変形例≫
前記した実施形態では、ブーツ50内外を連通させるブーツ連通溝57がブーツ小径部52の内周面に形成された構成を例示したが、これに代えて又は加えて、軸部材30の外周面に形成された構成でもよい。
【0085】
前記した実施形態では、ダストカバー60内外を連通させるダストカバー連通溝66が嵌着部63(ダストカバー60)に形成された構成を例示したが、これに代えて又は加えて、嵌着部63の相手側であるカラー42の外面に形成された構成でもよい。
【0086】
≪第3実施形態≫
本発明の第3実施形態について、図10を参照して説明する。なお、第1実施形態と異なる部分を説明する。
【0087】
第3実施形態では、カラー42(図3参照)に代えて、C字形のサークリップ48(止め輪、抜け出し防止部材)を備えている。そして、サークリップ48は、軸部材30に差し込まれると共に、軸受41の前面に当接しており、軸受41が軸部材30から抜けないようになっている。
【0088】
第3実施形態では、ダストカバー60は、嵌着部63(図3参照)を備えていない。ただし、図3と同様に嵌着部63を備え、この嵌着部63が軸部材30の肩部35(被嵌合部の一方側端部)に嵌着する構成としてもよい。
詳細には、遮蔽部64は、被溶接部62の後端から径方向外側に延びると共に、軸部材30と内環43との隙間の前側開口を塞ぐように配置されており、軸受41の前側を外部から遮蔽している。
【0089】
また、遮蔽部64(当接部)は、軸部材30の肩部35に当接している。肩部35は、軸受33が嵌合する被支持部33(被嵌合部)の前側(一方側)の端部である。これにより、ダストカバー60と軸部材30との軸方向における相対位置が規制されている。
なお、遮蔽部64と肩部35との間には、絶縁層(図示しない)が設けられており、遮蔽部64と肩部35とは電気的に絶縁している。
【符号の説明】
【0090】
1 等速ジョイント
10 外輪部材
11 摺動溝
20 内輪部材
23 ローラ(摺動子)
30 軸部材
33 被支持部(被嵌合部)
35 肩部(被嵌合部の一方側端部)
40 軸受ユニット
41 軸受
42 カラー(抜け出し防止部材)
48 サークリップ(抜け出し防止部材)
50 ブーツ
51 ブーツ大径部
52 ブーツ小径部
54 リング
57 ブーツ連通溝
60 ダストカバー
61 把持部
62 被溶接部
64 遮蔽部
65 被溶接突起(被溶接部)
66 ダストカバー連通溝
100 推進軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側の第1軸と他方側の第2軸とを連結する等速ジョイントであって、
前記第1軸と一体に回転すると共に、他方側が開口し、内周面に摺動溝が周方向で複数形成された円筒状の外輪部材と、
前記摺動溝を摺動する摺動子を有する内輪部材と、
前記第2軸と一体に回転すると共に、前記内輪部材に連結された棒状の軸部材と、
外部に対して前記軸部材を回転自在に保持する軸受と、
ブーツ大径部及びブーツ小径部を有し、前記ブーツ大径部が前記外輪部材に固定されると共に、前記ブーツ小径部が前記軸部材に嵌着された環状のブーツと、
前記軸受の一方側を外部から遮蔽することで、外部から前記軸受へのダストの浸入を防止する環状のダストカバーと、
を備え、
前記ダストカバーは、一方側に形成されると共に前記ブーツ小径部を外側から把持することで前記ブーツ小径部を前記軸部材に密着させる把持部と、他方側に形成されると共に前記軸受の一方側を遮蔽する遮蔽部と、前記遮蔽部と前記把持部との間に形成されると共に前記軸部材に溶接で固定された被溶接部と、を備える
ことを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記ブーツ小径部の内周面及び/又は前記ブーツ小径部が密着する前記軸部材の外周面には、軸方向に延びると共に前記ブーツの内外を連通させるブーツ連通溝が形成されており、
前記ダストカバーの内面には、前記ダストカバーの内外を連通させるダストカバー連通溝が形成されており、
前記ブーツの内部は、前記ブーツ連通溝、前記ダストカバー連通溝、を介して、外部と連通している
ことを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記軸受の一方側の前記軸部材に固定され、前記軸受の一方側への抜け出しを防止すると共に円筒状を呈する金属製の抜け出し防止部材を備え、
前記ダストカバーの他方側部分は、前記抜け出し防止部材の一方側部分に嵌着又は当接しており、
前記ダストカバーの他方側部分と前記抜け出し防止部材の一方側部分との間に、前記ダストカバーと前記抜け出し防止部材を電気的に絶縁する絶縁層を備え、
前記被溶接部と前記軸部材とは抵抗溶接されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
前記ダストカバーは、前記軸受が嵌合する前記軸部材の被嵌合部の一方側端部に、嵌着する円筒状の嵌着部又は当接する当接部を備え、
前記嵌着部又は前記当接部と前記軸部材の前記一方側端部との間に、前記嵌着部又は前記当接部と前記軸部材の前記一方側端部とを電気的に絶縁する絶縁層を備え、
前記被溶接部と前記軸部材とは抵抗溶接されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速ジョイント。
【請求項5】
前記ブーツ小径部に埋設され、前記ブーツ小径部を拡径させるばね力を有するリングを備える
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の等速ジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112110(P2013−112110A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258847(P2011−258847)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】