説明

筋力トレーニング用装具及び筋力トレーニング方法

【課題】筋肉や関節の損傷、血管障害、循環器障害等の危険性がなく、目的の筋肉を効率的にトレーニングできる筋力トレーニング用装具及び筋力トレーニング方法の提供。
【解決手段】身体に装着されて使用される筋力トレーニング用装具であって、トレーニング対象とする筋肉に対応する皮膚表面に接触し、該皮膚表面を介して冷刺激を前記筋肉に導入する冷刺激付与部20と、装着時において冷刺激付与部20を前記皮膚表面に接触した状態に保持する本体部10と、を備える筋力トレーニング用装具1Aを提供する。この冷刺激付与部20には、液体と液体保持基材とを含んでなる冷却源21が配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着されて使用される筋力トレーニング用装具及びこれを用いた筋力トレーニング方法に関する。より詳しくは、トレーニング対象とする筋肉に皮膚表面を介して冷刺激を導入することによって、効果的に筋力を増大させることが可能な筋力トレーニング用装具等に関する。
【背景技術】
【0002】
筋力は、スポーツや行動体力、健康維持に大変重要な要素の一つとなっている。筋力は、筋肉の量と筋肉につながる筋神経の状態によって決定される。従って、筋力を増大させるためには、筋肉の量を増やすか、筋肉と筋神経の関係をよくすることが必要となる。
【0003】
筋肉を増量させるためには、ダンベル等の筋力トレーニングが一般的に行われている。筋力トレーニングでは、筋肉を構成する「遅筋繊維」と「速筋繊維」とをバランスよく増強することが重要である。「遅筋繊維」は、遅く、弱い収縮を起こし、疲労しにくく持久性に富む特性をもつ。一方、「速筋繊維」は、速く、力強い収縮を起こし、疲労しやすい特性をもつ。筋力トレーニングでは、所定の運動能力を発揮させることを目的として、遅筋繊維と速筋繊維のバランスを積極的にコントロールすることも行われている。
【0004】
筋力の調節は、1つの脊髄α運動ニューロンによって支配される筋繊維群を1つの機能単位(運動単位:Motor Unit)として制御されている。筋収縮張力調節に参加する運動単位の数(動員数)が多いほど、発揮される張力は大きくなる。
【0005】
各運動単位において支配される筋繊維数は約20〜1000本であり、運動単位のサイズ(筋繊維数)には大小が存在している。各運動単位には活動を開始する閾値張力があり、筋全体に加える張力を増大していくと、遅筋繊維等のサイズの小さい運動単位から動員が開始され、順に速筋繊維等のサイズの大きい運動単位が活動を開始していく(サイズ原理:size principle)ことが知られている。
【0006】
このサイズ原理によれば、サイズが大きく閾値張力が大きい速筋繊維を鍛えるためには、サイズが小さく閾値張力が小さい遅筋繊維に比べて高い負荷をかけてトレーニングを行う必要があると考えられる。
【0007】
しかし、速筋繊維の増大を目的とした高負荷トレーニングは、トレーニングをする者の心理的負担が大きいばかりか、生理的負担も大きく、筋肉や関節の損傷をおこす危険がある。そのため、トレーニングをする者が、モチベーションを維持することができず、筋力トレーニングが継続しない場合もある。さらに、高負荷トレーニングでは、他の筋肉が負荷をかばって分散させてしまうことで、目的とする筋肉以外の筋肉が増大され、非効率なトレーニングとなる場合もある。
【0008】
また、行動体力低下はQOL(生活の質)の低下につながるため、高齢者にとっても、筋力の維持・増大は重要である。しかし、高齢者は、筋肉以外の体力も低下しており、機械的な高負荷が生命の危険や整形外科的な疾患を招く可能性もある。さらに、腰痛や膝痛等の関節痛を持つ人や骨折や寝たきり等で長期間筋肉を使用しない人も筋力トレーニングを必要とするが、同様の理由で高負荷トレーニングを行うことは難しい。
【0009】
そのため、筋肉や関節の負担が少なく、目的の筋肉を効率的にトレーニングできる技術が望まれていた。このようなトレーニングを可能にする技術として、特許文献1には、緊締具を所定筋肉に締め付け、筋肉への血流量を減少させることで、より低い負荷でも筋疲労を発生させることができる筋力トレーニング方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2670421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に開示される筋力トレーニング方法は、目的の筋肉をより特定的に増大できるとともに、関節や筋肉の損傷が少なくて済み、さらにトレーニング期間も短縮できる方法とされている。
【0012】
しかし、この方法は、強制的に血管系に負荷をかけて疲労を与えるものであるため、血圧上昇、血管損傷、血流停滞による血栓の生成等、血管障害や循環器障害等を発生する危険性がある。特に、循環器系疾病リスクが高く、皮膚や血管が脆弱な高齢者や生活習慣病予備群などへこの方法を適用した場合には、身体への負担が大きすぎるものと考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、筋肉や関節の損傷、血管障害、循環器障害等の危険性がなく、目的の筋肉を効率的にトレーニングできる筋力トレーニング用装具及び筋力トレーニング方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決のため、本発明は、身体に装着されて使用される筋力トレーニング用装具であって、トレーニング対象とする筋肉に対応する皮膚表面に接触し、該皮膚表面を介して冷刺激を前記筋肉に導入する冷刺激付与部と、装着時において前記冷刺激付与部を前記皮膚表面に接触した状態に保持する本体部と、を備える筋力トレーニング用装具を提供する。この冷刺激付与部には、液体と液体保持基材とを含んでなる冷却源が配設される。
これにより、この筋力トレーニング用装具では、トレーニング対象とする筋肉に対応する皮膚表面に冷刺激を付与し、皮膚表面を介して筋肉に冷刺激を導入することができる。
この筋力トレーニング用装具において、前記冷刺激付与部の皮膚接触表面の着圧は、5〜70hPaであることが望ましい。また、前記冷却源は、前記冷刺激付与部に着脱可能に取り付け可能に構成されることが好ましく、ゲル状体として構成されることが望ましい。
この筋力トレーニング用装具において、前記冷刺激付与部の皮膚接触表面は、0.30〜7.00Wの熱流量をもつシート状体から形成されていることが好ましい。特に、3〜30℃に調整された冷却源を冷刺激付与部に配設する場合は、冷刺激付与部の皮膚接触表面を形成するシート状体の熱流量は、1.00〜7.00Wが好適となる。また、−20℃以上3℃未満に調整された冷却源を冷刺激付与部に配設する場合は、冷刺激付与部の皮膚接触表面を形成するシート状体の熱流量は、0.30W以上1.00W未満が好適となる。また、前記冷刺激付与部の皮膚接触表面は、0.020〜0.500W/(m・K)の熱伝導率をもつシート状体から形成されていることが好ましく、さらに、前記冷刺激付与部の皮膚接触表面には、微細凹凸が形成されていることが好ましい。
これにより、この筋力トレーニング用装具では、皮膚表面を筋力トレーニングに適した温度に迅速かつ持続的に冷却することができる。すなわち、より具体的には、前記冷刺激付与部は、接触する皮膚表面の温度を接触後1分以内に20〜30℃に冷却し得るものであり、また接触する皮膚表面の温度を接触後5分間以上20〜30℃に維持し得るものである。
この筋力トレーニング用装具は、複数の冷刺激付与部を備え、各冷刺激付与部がトレーニング対象となる一の筋肉に対応する皮膚表面にのみ接触するように区画されて設けられていることが望ましい。
これにより、この筋力トレーニング用装具では、複数の前記冷刺激付与部から、トレーニング対象とする作動筋に対する冷刺激付与部を選択し、選択した冷刺激付与部に冷却源を取り付けることにより、作動筋のみに冷刺激を導入することができる。
本発明に係る筋力トレーニング用装具は、上半身用被服形状、下半身用被服形状、スリーブ状又は帯状形状から選択される形状に成形され得るものであり、トレーニング対象とする筋肉に負荷をかけるための負荷手段と併せて筋力トレーニング用具としても提供され得る。
本発明は、また、以上に説明した筋力トレーニング用装具又は筋力トレーニング用具を用いた筋力トレーニング方法をも提供するものである。
【0015】
本発明において、「液体」という用語は広義に解釈されるべきであり、一定の形状をもたない流動性のあるもので、均質な液体、懸濁液、すなわち微小粒子を含む液体などが含まれる。「液体」は、水性液、油性液、有機液体又は二相系液体であってよく、疎水性液体又は親水性液体であってよい。
【0016】
また、「液体保持基材」には、上記の液体を吸収又は保持し得る材料であって、「吸収性高分子」、「吸収性繊維」、「連続気泡発泡体」、「液体不透過性の袋体」などが少なくとも含まれるものとする。
【0017】
「吸収性高分子」には、天然、半合成、又は合成の高分子化合物が含まれる。天然高分子化合物としては、アラビアガム、グアガム、カラヤガム、ペクチン、カンテン、デンプン等の植物系高分子、キサンタンガム、デキストリン、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子等が挙げられる。半合成高分子化合物としては、デンプン系高分子(例えば、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等)、セルロース系高分子(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム等)、アルギン酸系高分子(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。合成高分子化合物としては、ビニル系高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等)、アクリル系高分子(例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等)、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0018】
「吸収性繊維」は、化学的及び/又は物理的性質により液体を吸収又は保持し得るものであればよく、天然繊維、化学繊維(再生繊維、半合成繊維、合成繊維)及びこれらを改質し吸収性を向上させた繊維等が含まれ、上記吸収性高分子を繊維状の形態にしたものでもよい。「吸収性繊維」としては、例えば、アクリロニトリル系繊維を内層、ポリアクリル酸塩架橋体を外層とした芯-鞘2層構造の繊維(特開昭54-138693号公報参照)や、カルボキシル基を有するビニルモノマーとヒドロキシル基及び/またはアミノ基を有するビニルモノマーとの共重合体からなる繊維(特開平6-65810号公報参照)等であってよい。
【0019】
「連続気泡発泡体」は、天然又は合成高分子からなる連続してつながった気泡を有する発泡体であればよく、ポリウレタン発泡体、クロロプレン発泡体、ポリエチレン発泡体、天然又は合成ゴム発泡体、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム発泡体、アルギン酸発泡体等を含む。
【0020】
「液体不透過性の袋体」は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体(エチレン・ビニルアルコール共重合体)等の合成樹脂からなる液体不透過性のシートを単独又は適宜複数を組み合わせて縫製、接着、積層、又は溶着等することによって形成され得る。「液体不透過性の袋体」は、1つの内部空間に液体を封入する構造のものでも、内部空間を複数の部屋に区画しそれぞれの部屋に液体を封入する構造のものでもよい。
【0021】
本発明において、「ゲル状体」とは、コロイド溶液が流動性を失い、ゼリー状に固化したものをいい、例えば、上記のような「液体」と「吸収性高分子」等からなる分散系を広く包含するほか、ポリウレタン、シリコーン、アクリル、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体等の合成高分子からなる3次元網目に液体を保持させたものを含むものとする。
【0022】
また、「シート状体」とは、編布、織布、不織布、発泡シート又は合成樹脂シート(フィルム)等のシート状の素材を広く包含し得る。「シート状体」は、単独の素材であってよく、又は適宜複数の素材を組み合わせて縫製、積層、接着又は溶着等することによって形成したものであってもよい。例えば、編布や織布には、汎用の天然繊維(綿など)や化学繊維を編成、製織したものを使用できる。ここで、化学繊維には、合成繊維(ポリエステル系合成繊維・ポリアミド系合成繊維・ポリウレタン系合成繊維・ポリアクリルニトリル系合成繊維・ポリオレフィン系合成繊維)や半合成繊維(セルロース系半合成繊維・タンパク質系半合成繊維)、再生繊維(セルロース系再生繊維)、無機繊維(ガラス繊維・炭素繊維)等が広く包含される。また、発泡シートには、例えば、ポリウレタン発泡体、クロロプレン発泡体、ポリエチレン発泡体、天然又は合成ゴム発泡体等が含まれる。合成樹脂シートには、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリオレフィン系共重合体、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等からなるシート又はフィルムが含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、筋肉や関節の損傷、血管障害、循環器障害等の危険性がなく、目的の筋肉を効率的にトレーニングできる筋力トレーニング用装具及び筋力トレーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る筋力トレーニング用装具及びトレーニング方法において、筋力増大の対象となる筋肉の位置を示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Aを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図、(C)はトレーニング時の上腕部を身体の側面側からみた部分拡大図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Bを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【図4】本発明の第三実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Cを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【図5】本発明の第四実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Dを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【図6】本発明の第五実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Eを示す模式図である。
【図7】実施例において「皮膚冷却特性」を測定した結果を示す図である。
【図8】実施例において「皮膚モデル冷却特性」を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、運動単位のサイズが大きく閾値張力が大きい速筋繊維を高負荷をかけることなく活動に参加させて、遅筋繊維と速筋繊維をバランスよく鍛えることが可能な筋力トレーニング方法を完成させるために鋭意研究を進める中で、運動単位の閾値張力が所定の刺激によって変化し得るという知見に着目した。すなわち、本発明者らは、筋肉への冷刺激導入によって大きな運動単位の閾値張力が低下するという知見に着目した。そして、本発明者らは、この知見に基づき、皮膚表面から筋肉へ効果的に冷刺激を導入できる筋力トレーニング用装具、及び、この装具を利用して高負荷をかけることなくサイズが大きな運動単位を活動筋に参加させることが可能な筋力トレーニング方法を完成させるにいたった。
【0026】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0027】
1.筋力トレーニング対象となる筋肉
まず、図1を参照しながら、本発明に係る筋力トレーニング用装具及びトレーニング方法において、筋力増大の対象となる筋肉(以下、「目的筋肉」という)を説明する。図1は、各筋肉の位置を示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【0028】
図中、m1は腕橈骨筋、m2は橈側手根屈筋、m3は尺側手根屈筋、m4は上腕二頭筋、m5は三角筋、m6は上腕三頭筋、m7は総指伸筋、m8は大胸筋、m9は腹斜筋(外腹斜筋、内腹斜筋)、m10は腹直筋、m11は僧帽筋、m12は広背筋、m13は脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋)、m14は中殿筋、m15は大殿筋、m16は大腿四頭筋(大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広直筋)、m17は縫工筋、m18は前脛骨筋、m19は長趾伸筋、m20は大腿二頭筋、m21は内転筋、m22は腓腹筋、m23は長腓骨筋、m24はヒラメ筋を示す。
【0029】
これらの筋肉は、体表面から比較的浅い部分に存在する、いわゆる表層筋である。本発明に係る筋力トレーニング用装具は、皮膚表面を介して筋肉への冷刺激を導入するものであるため、特にこれらの表層筋を目的筋肉とすることで、効果的に冷刺激の導入を行うことができる。ただし、このことは、目的筋肉を表層筋に限定するものとはならない。
【0030】
2.上半身用筋力トレーニング用装具
次に、図2を参照しながら、本発明の第一実施形態に係る筋力トレーニング用装具を説明する。図2は、本発明の実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Aを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図、(C)はトレーニング時の上腕部を身体の側面側からみた部分拡大図である。
【0031】
筋力トレーニング用装具1Aは、上半身用被服として全体形状を成形されている。この全体形状は、目的筋肉に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する冷刺激付与部20と、この冷刺激付与部20を支持する本体部10とからなっている。筋力トレーニング用装具1Aの全体形状において、冷刺激付与部20は左右対称に配置されている。
【0032】
冷刺激付与部20は、本体10上の一領域として設けることができる。また、冷刺激付与部20は、本体10とは別体に形成され、本体10に結合されるものとしてもよい。
【0033】
(1)本体部
本体部10は、編布、織布、不織布、発泡シート又は合成樹脂シート(フィルム)等のシート状体を単独又は適宜組み合わせて縫製、積層、接着又は溶着等することによって形成される。これらのシート状体は、伸縮性又は非伸縮性のいずれでもよいが、刺激付与部20の皮膚表面への密着性を高めるため、また着用者の筋肉の動きを阻害しないため、伸縮性の素材単独で又は伸縮性素材と非伸縮性素材を組み合わせて形成されることが望ましい。
【0034】
筋力トレーニング用装具1Aは、この本体部10の素材が有する伸縮性によって、着用者の上半身の皮膚表面に密着された状態で着用される。これにより、冷刺激付与部20は、筋力トレーニング用装具1Aの着用時において、目的筋肉に対応する皮膚表面に接触する状態に保持される。
【0035】
この際、冷刺激付与部20の皮膚接触表面から皮膚表面にかかる圧迫圧(着圧)は、5〜70hPa、好ましくは10〜40hPaであることが好ましい。着圧をこのような範囲にすることで、トレーニングに有効な筋肉の動きを阻害しない程度に筋肉や関節の無駄なブレを抑え、冷刺激付与部20を皮膚表面に密着させて均一かつ持続的な冷刺激を皮膚表面に付与することができる。着圧は、本体部10を構成する素材の伸縮性を調整することによって上記範囲に設定することができる。なお、着圧の設定は、後述する冷刺激付与部20を構成する素材の伸縮性を調整したり、冷刺激付与部20に配設する冷却源21の厚さ、弾性、硬さを調整したりすることによっても行うことができる。
【0036】
また、冷刺激付与部20又はその他の部位の皮膚表面にかかる圧迫圧は、複数の異なる圧迫圧がかかるように分布させてもよく、例えば、段階的に圧迫圧を減少又は増加させるように分布させたり、トレーニングする筋肉部位によって圧迫圧の分布を変化させたりすることができる。特に、四肢など末梢部位に向かって段階的に圧迫圧を増加させた場合、筋ポンプ作用による静脈血の循環改善が生じ、循環器系や呼吸器系において有効な効果が確認されている。このことから、本発明の筋力トレーニング用装具に、このような段階的な圧迫圧分布を設けることで、皮膚冷刺激による速筋の動員効果と相まって、筋力トレーニングがより効果的に行えると考えられる。
【0037】
また、皮膚表面に適切な圧迫圧が付与できるように、筋力トレーニング用装具の装着時圧迫圧を確認・調整できる圧迫圧のインジケーター機能を本体部10又は冷刺激付与部20に設けても良い。具体的には、例えば、伸長度合いによって形状が変化する図形や目盛を印刷や刺繍などにより本体部10又は冷刺激付与部20を構成する素材に設けて圧迫圧インジケーターとしたり、筋力トレーニング用装具を所定部位に固定するベルトや面ファスナー等の本体固定手段(図6の本発明の第五実施形態参照)に着用の締めつけ度合いを示す数値や目盛を設けて圧迫圧インジケーターとしたりすることができる。また、従来公知の圧力センサー等を設置してもよい。
【0038】
着圧の測定は、筋力トレーニング用装具装着時の皮膚接触表面における圧迫圧を、例えば、エアー式圧力計測器(AMI社製)を用いて測定することにより行い得る。具体的には、装具を装着した状態で、冷刺激付与部の皮膚接触表面と皮膚表面との間に計測器の圧力センサーを設置し、そのときに測定される圧迫圧を着圧として算出する。
【0039】
本体部10を構成する編布等のシート状体の厚さは、0.01〜10mmが好ましく、0.05〜6mmがさらに好ましい。本体部10を構成するシート状体の厚さを上記範囲とすることで、良好な装着感を維持したまま冷刺激付与部20を皮膚表面にしっかりと保持して、筋肉や関節の動きを阻害せず、効果的な筋力トレーニングを行うことができる。
【0040】
(2)冷刺激付与部
筋力トレーニング用装具1Aにおいて、各冷刺激付与部20は、それぞれの目的筋肉に対し個別に設けられている。例えば、冷刺激付与部201は大胸筋(図1中符号m8参照)に、冷刺激付与部202は三角筋(符号m5参照)に、冷刺激付与部203は上腕二頭筋(符号m4参照)に、冷刺激付与部204は腹斜筋(符号m9参照)に、冷刺激付与部205は腹直筋(符号m10参照)に対し、設けられている。これらの冷刺激付与部20は、それぞれの目的筋肉に対応する皮膚表面のみに接触するように設けられ、目的筋肉毎に区画された状態で配設されている。
【0041】
冷刺激付与部20の素材は、目的筋肉に対応する皮膚表面に接触して冷刺激を付与することができれば特に限定されず、本体部10と同様にシート状体を単独又は適宜組み合わせて縫製、積層、接着又は溶着等することによって形成できる。冷刺激付与部20を構成する編布等のシート状体の厚さは、0.01〜10mmが好ましく、0.05〜6mmがさらに好ましい。
【0042】
冷刺激付与部20と上述の本体部10とは、例えば、上半身用被服形状に成形した本体部10上に冷刺激付与部20を設けることにより一体に成形することができる。また、別体に形成した冷刺激付与部20と本体部10とを結合して、上半身用被服の全体形状に成形してもよい。
【0043】
目的筋肉に対応する皮膚表面への冷刺激の付与は、冷刺激付与部20に後述する冷却源(図2中、符号21参照)を配設することによって行うことができる。すなわち、冷刺激付与部20の皮膚接触表面を介して、配設された冷却源からの冷刺激を目的筋肉に対応する皮膚表面に付与する。このとき、冷刺激付与部20の皮膚接触表面が、0.30〜7.00Wの熱流量をもつシート状体から形成されていることが好ましい。熱流量が0.30W未満であると、皮膚表面の熱が冷却源の方へ移動しにくく、皮膚表面への冷刺激の付与が速やかに行われない場合がある。また、熱流量が7.00Wより大きいと、装着時に皮膚接触表面が冷た過ぎたり硬くなったりして装着感が悪化する傾向がある。
【0044】
特に、3〜30℃に調整された冷却源を冷刺激付与部20に配設する場合は、冷刺激付与部20の皮膚接触表面を形成するシート状体の熱流量は、1.00〜7.00Wであることが好ましい。このような条件とすることで、筋力トレーニング用装具1Aの装着後、不快感を与えず速やかに後述する筋力トレーニング時の皮膚好適温度(20〜30℃)を実現することができる。より好ましくは、冷刺激付与部20の皮膚接触表面を1.00〜5.00Wの熱流量をもつシート状体から形成し、5〜27℃に調整された冷却源21を冷刺激付与部20に配設する。
【0045】
また、−20℃以上3℃未満に調整された冷却源を冷刺激付与部20に配設する場合は、冷刺激付与部20の皮膚接触表面を形成するシート状体の熱流量は、0.30W以上1.00W未満であることが好ましい。このような条件とすることで、筋力トレーニング用装具1Aの装着後、皮膚表面を過度に冷却せずに後述する筋力トレーニング時の皮膚好適温度(20〜30℃)を持続させることができる。より好ましくは、−10〜3℃未満に調整された冷却源を冷刺激付与部20に配設する。
【0046】
また、冷刺激付与部20の皮膚接触表面は、熱伝導率0.020〜0.500W/(m・K)のシート状体から形成されていることが好ましい。熱伝導率を0.020W/(m・K)以上とすることで、冷刺激付与部20に取り付けられた冷却源からの冷刺激を適度な速さ、温度領域で目的筋肉の皮膚表面に付与することができる。また、熱伝導率を0.500W/(m・K)以下とすることで、装着時に皮膚接触表面が冷たくなり過ぎたり硬くなったりして装着感が悪化することを防ぐことができる。冷刺激付与部20の皮膚接触表面を形成するシート状体の熱伝導率は、より好ましくは、0.020〜0.100W/(m・K)である。
【0047】
冷刺激付与部20の皮膚接触表面を形成するシート状体の熱流量及び熱伝導率は、編布、織布、不織布、発泡シート又は合成樹脂シート(フィルム)等のシート状体の素材やその厚さを適宜選択、組み合わせることによって上記数値範囲に設定することができる。皮膚接触表面の具体的構成としては、例えば、以下の「表1」に示すような構成が好適に採用され得る。
【0048】
【表1】

【0049】
冷刺激付与部20の皮膚接触表面には、微細凸凹を形成することが好ましい。これにより、皮膚表面との間に凹部に基づく空気層を形成し、冷却源21からの冷刺激によって皮膚表面が過度に冷却されることなく、冷刺激を適度な速さ、温度領域で皮膚表面に伝達できる。また、微細凸凹のパターンや深さにより、冷刺激付与部20の皮膚接触表面を構成する素材の熱流量及び熱伝導率を上述の数値範囲に制御することもできる。また、目的筋肉に対応する皮膚表面全体に均一に冷刺激を付与することができる。
【0050】
微細凸凹の形成方法は、特に限定されないが、冷刺激付与部20を構成するシート状体の種類によって適宜選択することができる。編布、織布、不織布の場合は糸の太さや組織によって、発泡シートの場合は気泡の数や大きさによって、合成樹脂シート(フィルム)の場合は型押しや樹脂の塗工パターンによって、凸凹加工を施すことができ、これらの方法を適宜組み合わせてもよい。柔軟で冷た過ぎず良好な装着感を与えるため、冷刺激付与部20の素材には編布、織布、不織布等の繊維状材料を採用することが特に好適となる。
【0051】
また、冷刺激付与部20は、筋力トレーニング用装具1Aの装着後1分以内に、目的筋肉に対応する皮膚表面の温度を20〜30℃、好ましくは24℃〜28℃とし得る特性を有するものが好ましい。さらに、冷刺激付与部20は、皮膚表面の温度を、装着後5分間以上、好ましくは15分以上、20〜30℃に維持できる特性を有するものが望ましい。このような温度条件は、上述した冷刺激付与部20を構成するシート状体の熱流量、熱伝導率、微細凸凹のパターンや、次に説明する冷却源の冷却特性を調整することにより得ることができる。
【0052】
また、冷刺激付与部20の皮膚接触表面から冷刺激以外の他の刺激を併用して付与できるようにしてもよい。冷刺激以外の他の刺激としては、電気刺激、温熱刺激、摩擦刺激等が挙げられる。
【0053】
電気刺激としては、筋萎縮の予防改善、随意運動能力の回復等を目的としたいわゆる治療的電気刺激(Therapeutic Electrical Stimulation;TES)、運動機能、感覚系機能等の生体機能の補助、代行等を目的としたいわゆる機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation;FES)、筋力増強、リハビリ、ウォーミングアップ等を目的としたいわゆる電気的筋肉刺激(Electrical Muscle Stimulation;EMS)等に用いられている電気刺激を用いることができ、これらの電気刺激による筋力や神経の改善効果と本発明の冷刺激による速筋の動員効果が相まって、筋力トレーニングをより効果的に行えると考えられる。電気刺激に用いる電流値としては、0.1μA〜50mAの範囲が挙げられ、電圧値としては0.1〜60V範囲が挙げられる。また、電気刺激の周波数としては、10Hz〜50,000Hzが利用でき、これらの周波数をもたせる電流は直流でも交流でもよい。
【0054】
温熱刺激としては、トレーニングする筋肉の温度を32〜41℃にする温熱刺激を加えることが好ましく、36〜41℃にする温熱刺激を加えることが更に好ましい。このような温熱刺激を加えることで、筋肉増量などにも寄与すると考えられるヒートショックタンパク質の発現を促し、本発明の冷刺激による速筋の動員効果と適宜組み合わせることで、筋力トレーニングをより効果的に行えると考えられる。
【0055】
摩擦刺激としては、例えば、前述の冷刺激付与部の皮膚接触表面に凸凹を形成する方法等を用いて、皮膚表面に摩擦刺激を付与することができる。
【0056】
さらに、冷刺激付与部や皮膚表面が所定の温度に冷却されているかを確認するために、温度インジケーターや温度センサー等の温度検知手段を冷刺激付与部またはその近傍に設置しても良い。これにより、筋力トレーニング時の皮膚温度や冷却源温度などの管理が可能となり、誰が使用しても安全かつ効果的なトレーニングが可能となる。
【0057】
(3)冷却源
(3-1)冷却源の構成
続いて、筋力トレーニング用装具1Aにおいて、冷刺激付与部20により目的筋肉に対応する皮膚表面に冷刺激を付与するため、冷刺激付与部20に取り付けられる冷却源について説明する。
【0058】
図2(C)中の冷刺激付与部203に示すように、筋力トレーニング用装具1Aでは、各冷刺激付与部20に、内部に冷却源21を保持し得るポケット形状の冷却源固定手段22を設けている。図2(C)は、冷刺激付与部203に設けられたポケット形状の冷却源固定手段22の内部に冷却源21を挿入し、冷刺激付与部203から持続的に皮膚表面に冷刺激が付与されるようにした状態を示したものである。
【0059】
冷却源21は、このように、各冷刺激付与部20に設けられたポケット形状の冷却源固定手段22内部に出し入れすることにより、着脱可能に冷刺激付与部20へ取り付けられることが好ましい。図2(C)は、上腕二頭筋に対応する刺激付与領域203に冷却源21を取り付け、上腕二頭筋へ冷刺激を導入しながら、ダンベル等の負荷手段30による負荷をかけてトレーニングを行っている様子を示している。
【0060】
冷却源21を着脱可能に取り付けるための冷却源固定手段22の構成としては、上記のポケット形状の他、例えば、面ファスナー、スライド式ファスナー、ボタン、ベルト、粘着剤等であって、冷却源21を冷刺激付与部20に保持可能なものを採用できる。冷却源固定手段22としてこれらの構成を採用することで、トレーニング終了後に冷却源21を取り外し、筋力トレーニング用装具1Aを通常の被服として着用することも可能となる。この冷却源固定手段22は、冷却源21の冷刺激付与部側に接する面と反対側の面を60%以上被覆できる形態とすることが好ましく、ポケット形状等のようにして全面を被覆できる形態とすることが更に好ましい。また、この冷却源固定手段22は、冷刺激付与部20を形成する材料と同等以下の熱流量をもつシート状体から形成することが好ましく、0.10〜3.00Wの熱流量をもつシート状体から形成することが更に好ましく、0.30〜2.00Wの熱流量をもつシート状体から形成することが特に好ましい。冷却源固定手段22をこのような熱流量をもつシート状体により上記のような形態で冷却源を被覆するように構成することで、冷却源への皮膚表面以外からの熱流入を防止し、皮膚表面を筋力トレーニングに適した温度で持続的に冷却することが可能となる。
【0061】
目的筋肉のみを効率的に増大させるため、冷刺激の導入は、目的筋肉である作動筋(主働筋)にのみ行われ、拮抗筋には行われないことが望ましい。筋力トレーニング用装具1Aでは、冷刺激付与部20を目的筋肉毎に区画された状態で配設し、それぞれの目的筋肉に対応する皮膚表面のみに接触するように設けている。これにより、筋力トレーニング用装具1Aでは、拮抗筋に対応する皮膚表面に冷刺激を付与することなく、作動筋のみに冷刺激を導入して、効率的に作動筋を増大させることができる。
【0062】
また、筋力トレーニング用装具1Aでは、冷却源固定手段22によって冷却源21を着脱可能に取り付けることができるため、複数の冷刺激付与部20から冷却源21を取り付ける冷刺激付与部20を任意に選択することが可能である。これにより、筋力トレーニング用装具1Aでは、冷刺激付与部201, 202, 203, 204, 205等が対応する大胸筋や三角筋等の筋肉から所望の筋肉を選択して冷刺激を導入することができる。つまり、筋力トレーニング用装具1Aでは、複数の冷刺激付与部20から冷却源21の取り付け部位を任意に選択することで、1つの装具で複数の筋肉のトレーニングを行うことが可能とされている。
【0063】
ここでは、冷刺激付与部20に冷却源21を取り付けて冷刺激を付与する場合を例に説明したが、冷刺激付与部20そのものを冷却源21によって構成することもできる。この場合、冷却源21の外表面が冷刺激を付与する皮膚接触表面とされる。冷却源21の外表面には必要に応じて冷刺激付与部20を構成するシート状体のような微細凹凸を設けてもよい。また、外表面の熱流量及び熱伝導率は、冷刺激を適度な速さ・温度領域で皮膚表面に伝達するため、上述した数値範囲に適宜調整され得る。
【0064】
また、冷却源21は、筋力トレーニング時に筋肉や関節の動きを阻害せず、良好な装着感と適度な着圧を得るために、扁平なパッド又はシート状の形態を有することが好ましく、その厚さは1.5〜40mmが好ましく、3〜25mmがさらに好ましい。
【0065】
(3-2)冷却源の冷却特性
冷却源21は、筋力トレーニング用装具1Aの装着後1分以内に、目的筋肉に対応する皮膚表面の温度を20〜30℃、好ましくは24℃〜28℃とし得る冷却特性を有するものが好ましい。さらに、皮膚表面の温度を、装着後5分間以上、好ましくは15分以上20〜30℃に維持できる冷却特性を有することが望ましい。
【0066】
上記冷却特性を有する冷却源21によれば、目的筋肉の速筋繊維の閾値張力を速やかに低下させることができ、トレーニングに要する時間にわったって速筋繊維を活動に参加させることができる。
【0067】
この冷却特性を実現する冷却源21は、液体とこれを保持する液体保持基材とからなるものが好ましく、例えば、水やオイル等の液体を吸収性繊維や吸収性連続気泡発泡体に吸収・保持させて得た冷却パッドや、液体を液体不透過性の袋体に保持させて得た冷却パッドが採用され得る。
【0068】
さらに、冷却源21の性状はゲル状体であることが特に好ましい。この場合、冷却源21としては、水やオイル等の液体を吸収性高分子等に吸収・保持させて得たゲル状体をシート状に形成したゲル状シートや、ゲル状体を液体不透過性の袋体に封入した冷却パッドが採用され得る。これらの冷却パッドやゲル状シートは、柔軟で皮膚への順応性及び密着性が高いため、筋肉の動きを阻害することなく、均一で安定した冷刺激を皮膚表面に付与することができる。また、冷却パッドの外表面に粘着剤を塗布したり、ゲル状シートに粘着剤を含有させたりすることで、冷却パッドやゲル状シートの皮膚への密着性を高めることも有効である。
【0069】
(3-3)冷却パッド
冷却源21を冷却パッドとして構成する場合、水やオイル等の液体と、これらを保持する吸収性高分子や吸収性繊維、連続気泡発泡体等と、必要に応じてこれらを内包する液体不透過性の袋体と、によって冷却源21を構成する。
【0070】
冷却源21としての冷却パッドを冷刺激付与部20に着脱可能に取り付ける場合には、液体を予め吸収性高分子等の液体保持基材に保持させた冷却パッドを冷却した後、冷却源固定手段22によって固定する。もしくは、冷却した液体(例えば、冷水)中に、吸収性繊維等の液体保持基材を浸漬して得た冷却パッドを、冷刺激付与部20に取り付ける。
【0071】
冷刺激付与部20そのものを冷却源21(冷却パッド)によって構成する場合には、冷却パッドが取り付けられた筋力トレーニング用装具1A全体を冷却する。この場合には、冷却パッドの外表面をなす液体不透過性の袋体等の表面が皮膚接触表面となる。冷却パッドの外表面を冷刺激付与部20として構成するには、冷却パッドの外表面の一部が皮膚接触表面側に露出するように、冷却パッドの外周縁等を縫製、接着等により本体部10と一体的に結合する方法等を用いることができる。
【0072】
冷却源21(冷却パッド)は、筋力トレーニング時に上記の適度な圧迫圧をかけるため、また流動による液体の偏在で冷刺激の導入が不均一とならないようにするため、形状保持性及び弾性を持つことが好ましい。このような冷却源21(冷却パッド)としては、冷却持続性及び密着性が良好なゲル状体の冷却パッドが好ましい。ゲル状体の冷却パッドは、水やオイル等の液体とこれらを保持する吸収性高分子や3次元網目状の架橋高分子等の液体保持基材とからなるゲル状体により構成することができる。このゲル状体の冷却パッドは、取り扱い性や冷却持続性を向上させるため、液体不透過性の袋体で被覆したものとしてもよい。
【0073】
ゲル状体の冷却パッドには、従来公知の保冷剤を採用でき、例えば、疎水性の潜熱蓄熱剤をO/Wエマルション化するとともに水溶液を架橋高分子等によってゲル化して、分散相の潜熱蓄熱剤の凝固・融解点以下でも連続相のゲル(水溶液)が凝固しないことで全体として柔軟性を損なわないように構成された保冷剤を採用できる。
【0074】
潜熱蓄熱剤には、パラフィン系炭化水素、天然ワックス、石油ワックス、ポリエチレングリコール、無機化合物の水和物等を使用する。また、架橋高分子にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩類を、架橋剤には難溶性の多価金属化合物を用いる。
【0075】
また、潜熱蓄熱剤の分散方法として、潜熱蓄熱剤を吸油性樹脂に包含させて親水性の連続相中に分散させる方法、潜熱蓄熱剤をマイクロカプセル化して連続相中に分散させる方法等を用いてもよい。これらの分散方法により、連続相と潜熱蓄熱剤を包含する分散相を強固に分断することで、分散相の凝固点に拘わらずゲル化した連続相が柔軟性を維持し、分散相の潜熱蓄熱剤の凝固・融解熱を安定的に繰り返し利用することができる。この場合、連続相には、分散相と相溶しないゲル構造体等を用いることが好ましい。
【0076】
このゲル状体の冷却パッドでは、必要な温度に対応する融点の潜熱蓄熱剤を適宜単独または組み合わせて使用することで、その冷却特性を所望のレベルに設定することが可能である。
【0077】
(3-4)ゲル状シート
冷却源21をゲル状シートとして構成する場合、上述のゲル状体に冷感化合物や揮発性物質を含有させ、シート状に形成する。
【0078】
ゲル状シートは、ゲル状体を単独でシート状の形態にしたものでも、織布、不織布、発泡シート又は合成樹脂シート(フィルム)等のシート状基材の少なくとも片面にゲル層を形成したものでもよい。冷却源21としてゲル状シートを用いる場合は、ゲル状シートを本体部10に設けた冷刺激付与部20に取り付けてもよいし、ゲル状シートのゲル層表面を冷刺激付与部20として直接皮膚に接触させてもよい。特に、後者のゲル層表面を直接皮膚に接触させる態様が好ましく、この場合、ゲル層が皮膚表面に密着、順応し、ゲル中から徐放された冷感化合物や揮発性物質の気化による冷刺激が皮膚の微細凹凸にも作用し、均一で持続的な冷刺激の導入が可能となる。
【0079】
冷感化合物としては、例えば、メントール、メンチルアセテート、メントン、イソメントン、カンファー、エリスリトール、サリチル酸メチル、サリチル酸モノグリコール、サビネンハイドレート、イソプレゴール、ピペリトール、p−メンタン−3−カルボン酸アミド、p−メンタンジオール、メンチルグルコシド、メンチル−2−ピロリドン−5−カルボキシレート、メンチルケトアルカノエート、メンチルN−アセチルグリシン、メンチルヒドロキシアルカノエート、2−メントキシテトラヒドロピラン、2−メントキシテトラヒドロフラン、メントキシプロパン−1,2−ジオール、メンチル3−ヒドロキシブチレート、1−アルコキシ−3−メントキシプロパン−2−オール、メントンケタール、3−ヒドロキシメチル−p−メンタンアルカノエート、2−ヒドロキシメチルメントールを挙げることができる。
【0080】
このゲル状シートでは、必要な温度に応じて、一以上の冷感化合物や揮発性物質の配合量を適宜調節することで、その冷却特性を所望のレベルに設定することが可能である。
【0081】
さらに、筋力トレーニング用装具1Aは、以上に説明した冷却源21の冷却特性と併せて、冷刺激付与部20の皮膚接触表面の熱流量、熱伝導率、厚さ、微細凹凸を適宜調整することで、目的筋肉に対応する皮膚表面の温度を適切に冷却できるよう構成される。
【0082】
3.上腕又は下腿用筋力トレーニング用装具
次に、図3を参照しながら、本発明の第二実施形態に係る筋力トレーニング用装具を説明する。図3は、本発明の実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Bを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【0083】
筋力トレーニング用装具1Bの本体部10、冷刺激付与部20、冷却源21、冷却源固定手段22の各構成において、筋力トレーニング用装具1Aと共通する点の説明は割愛する。
【0084】
筋力トレーニング用装具1Bは、上腕又は下腿用被服として全体形状をスリーブ状(筒状)に成形されている。この全体形状は、目的筋肉に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する冷刺激付与部20と、この冷刺激付与部20を支持する本体部10とからなっている。
【0085】
筋力トレーニング用装具1Bが上腕用に用いられる場合、冷刺激付与部20は上腕二頭筋(図1中符号m4参照)又は上腕三頭筋(符号m6参照)に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する。また、下腿に用いられる場合、冷刺激付与部20は前脛骨筋(符号m18参照)、長趾伸筋(符号m19参照)又は腓腹筋(符号m22参照)に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する。
【0086】
4.下半身用筋力トレーニング用装具
図4及び図5は、それぞれ本発明の第三及び第四実施形態に係る筋力トレーニング用装具1C、1Dを示す模式図である。(A)は身体の正面側からみた図、(B)は身体の背面側からみた図である。
【0087】
筋力トレーニング用装具1C、1Dは、下半身用被服として全体形状をタイツ状又はパンツ状に成形されている。この全体形状は、目的筋肉に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する冷刺激付与部20と、この冷刺激付与部20を支持する本体部10とからなっている。
【0088】
筋力トレーニング用装具1Cの冷刺激付与部20は、大腿四頭筋(図1中符号m16参照)、前脛骨筋(符号m18参照)、長趾伸筋(符号m19参照)、大殿筋(符号m15参照)、大腿二頭筋(符号m20参照)、内転筋(符号m21参照)、腓腹筋(符号m22参照)に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する。また、筋力トレーニング用装具1Dの冷刺激付与部20は、大腿四頭筋(図1中符号m16参照)、縫工筋(符号m17参照)、大殿筋(符号m15参照)、大腿二頭筋(符号m20参照)、内転筋(符号m21参照)に対応する皮膚表面に冷刺激を付与する。
【0089】
筋力トレーニング用装具1C、1Dの本体部10、冷刺激付与部20、冷却源21、冷却源固定手段22の各構成において、筋力トレーニング用装具1Aと共通する点の説明は割愛する。
【0090】
筋力トレーニング用装具1C、1Dにおいても、筋力トレーニング用装具1Aと同様に、冷却源固定手段22によって冷却源21を各冷刺激付与部20に着脱可能に取り付けられるよう構成することで、これらの筋肉から所望の筋肉を選択してトレーニングすることが可能とされている。
【0091】
5.任意部位用トレーニング用装具
図6は、本発明の第五実施形態に係る筋力トレーニング用装具1Eを示す模式図である。
【0092】
筋力トレーニング用装具1Eは、帯状に形成した本体部10の末端部分に面ファスナー等の着脱自在の本体固定手段11を設けることで、例えば、四肢、肩、体幹(胸部又は腹部など)等の所望の部位に巻き付けて装着できるようにされている。そして、この本体部10上の冷刺激付与部20には、筋力トレーニング用装具1Aと同様に、内部に冷却源21を保持し得るポケット形状の冷却源固定手段22が設けられている。
【0093】
これにより、筋力トレーニング用装具1Eでは、四肢、肩、体幹(胸部又は腹部など)等の所望の部位に装着して、冷却源固定手段22の内部に挿入された冷却源21によって当該部位の筋肉に冷刺激を導入することができる。筋力トレーニング用装具1Eでは、本体部10の巻き付け長を自由に調節できる態様とすることで、1つのトレーニング用装具によって複数の部位の筋肉をトレーニングすることが可能である。
【0094】
以上に説明した本発明に係る筋力トレーニング用装具において、本体部及び装具全体の形状は、使用者の皮膚表面に密着された状態で装着されて冷刺激付与部20を目的筋肉に対応する皮膚表面に接触する状態に保持できる限りにおいて、任意の形状とできる。
【0095】
例えば、四肢、体幹(胸部又は腹部など)等を被覆するスリーブ状や帯状の被服、シャツ状(袖ありシャツ、袖なしシャツ等)等の上半身用の被服、ソックス状、ハイソックス状、ストッキング状、タイツ状、パンツ状等の下半身用の被服を挙げることができる。これらは、筋肉(特に、図1に示した表層筋)のいずれか1つ以上を被覆できる形状であればよい。
【0096】
また、本発明に係る筋力トレーニング用装具の本体部には、皮膚表面への密着性を調節するために、面ファスナー、スライド式ファスナー、ボタン、ベルト等のサイズ調節手段を設けてもよい。
【0097】
6.負荷手段
本発明に係る筋力トレーニング用装具は、目的筋肉に負荷をかけるための負荷手段30をさらに備えていてもよい(図2(C)参照)。負荷手段30としては、例えば、ゴムやバネ等の弾性体の抵抗力を利用するもの、油圧、空気圧、ガス圧などの流体の抵抗力を利用するもの、ダンベルやバーベル等の器具そのものの重さを利用するもの等、公知の負荷手段を使用できる。なお、本発明に係る筋力トレーニング用装具においては、冷却源21にある程度の重さを持たせることで、冷却源21の自重自体を負荷手段とすることもできる。
【0098】
7.筋力トレーニング方法
以上に説明した本発明に係る筋力トレーニング用装具を用いてトレーニングを行うことで、低負荷でも安全で効果的な筋力トレーニングを行うことができる。具体的には、次のような手順でトレーニングを行う。まず、上記の筋力トレーニング用装具を、冷刺激付与部20が目的筋肉の皮膚表面に接触するように装着する。この際、作動筋(主働筋)のみに冷刺激を導入し、拮抗筋には冷刺激を与えないようにする。また、筋肉や関節の無駄なブレを抑え、冷刺激付与部を皮膚表面に密着させ均一かつ持続的な冷刺激を皮膚に導入するために、冷刺激付与部の皮膚接触表面にかかる圧迫圧が、5〜70hPa、好ましくは10〜40hPaとなるように筋力トレーニング用装具を装着する。
【0099】
次に、皮膚表面を介して目的筋肉に冷刺激を導入し、その筋肉の皮膚表面温度を20〜30℃、好ましくは24℃〜28℃に保ちながらその目的筋肉に負荷をかけてトレーニングを行う。この時、目的筋肉に加える負荷は、最大筋力の60%未満であることが好ましく、最大筋力の20〜50%の負荷でよい。従来からの速筋繊維の増大を目的としたトレーニングは、一般に最大筋力の60〜80%の付加が必要とされ、筋肉や関節の損傷、血管障害、循環器障害等の可能性があったが、本発明のトレーニング方法によれば、このような危険を回避し、目的の筋肉を安全かつ効率的にトレーニングすることができる。なお、トップアスリートのような体力や筋力が十分備わっている人が本方法によるトレーニングを行う場合は、最大筋力の60%以上の負荷を加えてトレーニングしてもよく、このような負荷をかけることにより、速筋繊維の活動参加の効果により、冷刺激を加えずにトレーニングした場合より効果的な筋力増大を図ることができる。また、負荷をかける時間やセット数は、使用者の筋力状態や負荷手段により適宜選択すればよいが、目的筋肉に対応する皮膚表面の温度を20〜30℃にした状態で5分間以上トレーニングを行うのが好ましい。
【0100】
このような筋力トレーニングにより、運動単位のサイズが大きく閾値張力が大きい速筋繊維を、高負荷をかけることなく活動に参加させて、目的筋肉の遅筋繊維と速筋繊維をバランスよく鍛えることが可能なとなる。
【実施例】
【0101】
実施例においては、本発明に係るトレーニング用装具の冷刺激付与部と冷却源の構成と冷却特性について検討を行った。以下、冷刺激付与部と冷却源の好ましい態様を実施例1〜5に、それ以外の態様を参考例1,2として示す。
【0102】
<実施例1>
(i)冷却源
「表1」に示した「No.15」の素材「ポリエチレンフィルムとポリ塩化ビニリデンルフィルムとポリエチレンフィルムとからなる3層積層フィルム」を用いて扁平な袋を形成した。この積層フィルムの厚さは0.08mm、熱流量は6.60(W)、熱伝導率は0.027(W/(m・k))であった。
【0103】
イオン交換水64.4重量%、プロピレングリコール23.35重量%、融点を25℃に調整したn−パラフィン9重量%、モノステアリン酸デカグリセリン1重量%、架橋型ポリアクリル酸(増粘剤)1重量%、ポリアクリル酸ナトリウム50%中和物1重量%、パラオキシ安息香酸メチル(防腐剤)0.1重量%、酒石酸(pH調整剤)0.1重量%、乾燥水酸化アルミニウムゲル(Alとして54%含有)0.05重量%、の均一混合物からなるゲルを調製した。
【0104】
このゲルを上記の袋に充填して厚さ15mmの扁平な冷却パッドを形成するとともに、恒温槽にて25℃に調整し、冷却源を得た。この冷却源は、外力を加えない静止状態においてその外形を維持している形状保持性と、外力を加えた後に元の形状に戻る弾性を有する。
【0105】
(ii)冷刺激付与部
本実施例では、トレーニング用装具の冷刺激付与部を、冷却源(冷却パッド)そのものによって構成した。すなわち、冷却パッドの外表面をなす上記3層フィルムを冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。
【0106】
<実施例2>
(i)冷却源
実施例1と同様の冷却源を用いた。
(ii)冷刺激付与部
本実施例では、「表1」に示した「No.3」の素材「綿糸からなる平織布2枚の積層生地」を冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。すなわち、この積層生地を直接皮膚表面に接触させ、この積層生地の上に冷却源を載置した。この積層生地の厚さは2.03mm、熱流量は0.92(W)、熱伝導率は0.077(W/(m・k))であった。
【0107】
<実施例3>
(i)冷却源
実施例1と同様の冷却源を用いた。
(ii)冷刺激付与部
本実施例では、「表1」に示した「No.8」の素材「ポリアミド糸とポリウレタン糸とからなる伸縮性編布(パワーネット)」を冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。すなわち、この編布を直接皮膚表面に接触させ、この積層生地の上に冷却源を載置した。この積層生地の厚さは0.66mm、熱流量は2.24(W)、熱伝導率は0.067(W/(m・k))であった。
【0108】
<実施例4>
(i)冷却源
以下の(A)と(B)の2つの冷却源を、(B)の冷却源が皮膚接触表面となるように積層した複合的な冷却源を用いた。
(A)「表1」に示した「No.11」の素材「レーヨン糸からなる平織布と天然ゴムシートとの積層生地」を用いて平織布側が外表面になるよう扁平な袋を形成した。この積層生地の厚さは0.49mm、熱流量は2.91(W)、熱伝導率は0.063(W/(m・k))であった。この積層生地からなる袋に氷水を充填して厚さ20mm、温度0℃の扁平な冷却パッドを形成した。この冷却源は、内包される氷水の流動性により形状保持性に乏しく、弾性はない。
(B)厚さを10mm、調整温度を20℃にする以外は実施例1と同様の構成の冷却パッドを形成した。この冷却パッドは、外力を加えない静止状態においてその外形を維持している形状保持性と、外力を加えた後に元の形状に戻る弾性を有する。
(ii)冷刺激付与部
本実施例では、トレーニング用装具の冷刺激付与部となる部分を、冷却源(冷却パッド)そのものによって構成した。すなわち、冷却パッドの外表面をなす(B)の冷却源の3層フィルムを冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。
【0109】
<実施例5>
(i)冷却源
「表1」に示した「No.11」の素材「レーヨン糸からなる平織布と天然ゴムシートとの積層生地」を用いて平織布側が外表面になるよう扁平な袋を形成した。この積層生地の厚さは0.49mm、熱流量は2.91(W)、熱伝導率は0.063(W/(m・k))であった。この積層生地からなる袋に氷水を充填して厚さ20mm、温度0℃の扁平な冷却パッドを形成した。この冷却源は、内包される氷水の流動性により形状保持性に乏しく、弾性はない。
(ii)冷刺激付与部
本実施例では、実施例2と同様に、「表1」に示した「No.3」の素材「綿糸からなる平織布2枚の積層生地」を冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。この積層生地の厚さは2.03mm、熱流量は0.92(W)、熱伝導率は0.077(W/(m・k))であった。
【0110】
<参考例1>
(i)冷却源
実施例5と同様の冷却源を用いた。
(ii)冷刺激付与部
本参考例では、実施例3と同様に、「表1」に示した「No.8」の素材「ポリアミド糸とポリウレタン糸とからなる伸縮性編布(パワーネット)」を冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。すなわち、この編布を直接皮膚表面に接触させ、この積層生地の上に冷却源を載置した。この積層生地の厚さは0.66mm、熱流量は2.24(W)、熱伝導率は0.067(W/(m・k))であった。
【0111】
<参考例2>
(i)冷却源
実施例5と同様の冷却源を用いた。
(ii)冷刺激付与部
本参考例では、トレーニング用具の冷刺激付与部を、冷却源(冷却パッド)そのものによって構成した。すなわち、冷却パッドの外表面をなす「No.11」の素材「レーヨン糸からなる平織布と天然ゴムシートとの積層生地」を冷刺激付与部の皮膚接触表面とした。この積層生地の厚さは0.49mm、熱流量は2.91(W)、熱伝導率は0.063(W/(m・k))であった。
【0112】
実施例1〜5及び参考例1,2の冷刺激付与部及び冷却源について、以下に示す方法により冷却特性の評価を行った。
【0113】
(1)冷刺激付与部の皮膚接触表面の熱流量・熱伝導率
カトーテック株式会社製の精密迅速熱物性測定装置(KES−F7−II)を用い、室温20℃、湿度65%の環境下で以下の手順により測定を行った。
(i)定温台の温度(BASE TEMP)を20℃、BT−Boxの温度(BT TEMP)を30℃に調整する。BT−Boxは、5×5cmの正方形のアルミニウム製からなる熱板(面積25cm)を備える重量150gものを使用した。
(ii)BT−Boxに設けられているガード板の温度(GUARD TEMP)を30.3℃に調整する。
(iii)冷刺激付与部の皮膚接触表面を構成する素材から採取した5cm×5cmの試料を定温台の上に載せ、さらにその上からBT−Boxの熱板を試料に重なるように載せる。
(iv)測定装置の「W」のスイッチを押し、数値が定常に達したのち、60秒間のBT−Boxの平均熱流量を測定し、その値を熱流量W(W)とする。なお、このときの測定時の試料にかかる圧力は6gf/cmとなる(150gf/25cm)。
(v)また、上記(iv)で熱流量W(W)を測定する際、BT−Boxの温度(BT TEMP)と定温台の温度(BASE TEMP)とを読み取り、下記式(1)により熱伝導率(W/(m・k))を求めた。
【0114】
【数1】

(式中、「W」はBT−Boxの熱流量W(W)、「D」は試料(冷刺激付与部)の厚さ(m)、「A」はBT−Boxの熱板面積(m)(本測定では2.5×10−3)、「ΔT」は試料の温度差(k)((BT−Boxの温度)−(定温台の温度))を示す)
【0115】
(2)皮膚冷却特性
上腕二頭筋の皮膚表面に熱電対(シース形センサー(熱電対タイプK、安立計器株式会社製、シース管長さ500mm、シース径1mm))のセンサー部を固定し、その上に冷刺激付与部の皮膚接触表面を構成するシート状体、冷却源を順次載せ、冷却開始からの皮膚表面温度の変化を計測した。なお、冷却源が冷刺激付与部を構成する場合は、熱電対のセンサー部上に直接冷却源を載置した。皮膚冷却特性の測定結果を図7に示す。
【0116】
(3)皮膚モデル冷却特性
水を封入した円筒(厚さ3mmのアクリル樹脂製円筒、内部容積947.67ml)を恒温槽にて32℃に調整する。その円筒表面にシース形センサーのセンサー部を固定し、その上に冷刺激付与部の皮膚接触表面を構成するシート状体、冷却源を順次載せ、冷却開始からの円筒表面温度の変化を計測した。なお、冷却源が冷刺激付与部を構成する場合は、熱電対のセンサー部上に直接冷却源を載置した。皮膚モデル冷却特性の測定結果を図8に示す。
【0117】
以下の「表2」に、実施例1〜5及び参考例1,2について、冷刺激付与部及び冷却源の構成と冷却特性をまとめた。表中、「皮膚冷却特性」及び「皮膚モデル冷却特性」の欄は、冷却開始1分以内に、皮膚表面又は円筒表面の温度を20〜30℃とし得る冷却特性を有するものを「○」で評価した。また、皮膚表面又は円筒表面の温度を冷却開始後5分間以上維持できる冷却特性を有するものを「○」で評価した。
【0118】
【表2】

【0119】
表に示すように、実施例1〜5では、装着後1分以内に速やかに皮膚表面の温度を好適温度範囲(20〜30℃)に下げることができた。また、皮膚表面の温度を同範囲に5分間以上維持することができた。特に、ゲル状体を使用した実施例1〜4では、皮膚表面の温度を20分以上好適温度範囲維持することができた。これらの冷刺激付与部及び冷却源の構成を採用することで、本発明に係る筋力トレーニング方法に好適な冷刺激を安定的かつ持続的に皮膚表面に付与することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る筋力トレーニング用装具及び筋力トレーニング方法によれば、筋肉や関節の損傷、血管障害、循環器障害等の危険性がなく、目的の筋肉を効率的に増量させることができる。従って、本発明に係る筋力トレーニング用装具及び筋力トレーニング方法は、スポーツや行動体力、健康維持のための筋力の維持・増大に役立てることができる。
【符号の説明】
【0121】
1A, 1B, 1C, 1D, 1E 筋力トレーニング用装具
10 本体部
11 本体固定手段
20 冷刺激付与部
21 冷却源
22 冷却源固定手段
30 負荷手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体に装着されて使用される筋力トレーニング用装具であって、
トレーニング対象とする筋肉に対応する皮膚表面に接触し、該皮膚表面を介して冷刺激を前記筋肉に導入する冷刺激付与部と、
装着時において前記冷刺激付与部を前記皮膚表面に接触した状態に保持する本体部と、
を備える筋力トレーニング用装具。
【請求項2】
前記冷刺激付与部に配設される冷却源を備え、
該冷却源が、液体と液体保持基材とを含んでなる請求項1記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項3】
前記冷却源が、前記冷刺激付与部に着脱可能に取り付けられる請求項2記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項4】
前記冷却源が、ゲル状体である請求項2又は3記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項5】
前記冷刺激付与部の皮膚接触表面が、0.30〜7.00Wの熱流量をもつシート状体から形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項6】
前記冷刺激付与部の皮膚接触表面が1.00〜7.00Wの熱流量をもつシート状体から形成され、かつ、3〜30℃に調整された冷却源が前記冷刺激付与部に配設される請求項5記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項7】
前記冷刺激付与部の皮膚接触表面が0.30W以上1.00W未満の熱流量をもつシート状体から形成され、かつ、−20℃以上3℃未満に調整された冷却源が前記冷刺激付与部に配設される請求項5記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項8】
前記冷刺激付与部の皮膚接触表面が、0.020〜0.500W/(m・K)の熱伝導率をもつシート状体から形成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項9】
前記冷刺激付与部の皮膚接触表面に微細凹凸が形成されている請求項1〜8のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項10】
前記冷刺激付与部は、接触する皮膚表面の温度を接触後1分以内に20〜30℃に冷却し得る請求項1〜9のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項11】
前記冷刺激付与部は、接触する皮膚表面の温度を接触後5分間以上20〜30℃に維持し得る請求項1〜10のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項12】
前記冷刺激付与部の皮膚接触表面の着圧が、5〜70hPaである請求項1〜11のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項13】
複数の冷刺激付与部を備え、
各冷刺激付与部が、トレーニング対象となる一の筋肉に対応する皮膚表面にのみ接触するように区画されて設けられた請求項1〜12のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項14】
複数の前記冷刺激付与部からトレーニング対象とする作動筋に対する冷刺激付与部を選択し、選択した冷刺激付与部に冷却源を取り付けることにより、作動筋のみに冷刺激を導入し得る請求項13記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項15】
上半身用被服形状、下半身用被服形状、スリーブ状又は帯状形状から選択される形状に成形された請求項1〜14のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具と、トレーニング対象とする筋肉に負荷をかけるための負荷手段と、を含む筋力トレーニング用具。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の筋力トレーニング用装具又は筋力トレーニング用具を用いた筋力トレーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−99463(P2010−99463A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220723(P2009−220723)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)