説明

筋硬度計

【課題】 筋硬度の計測精度を向上した筋硬度計を提供する。
【解決手段】 本発明の筋硬度計1は、人体を押圧する接触子2と、接触子2を人体に押込み押圧動作を行わせる押込駆動部3と、少なくとも一つ以上の上記押込み方向と直交する方向に接触子2を移動させる第2の駆動部と、上記接触子2に作用する力を検出する力検出部5と、力検出部5の検出結果から筋硬度の指標を算出する算出部と、を備えている。そして、上記力検出部5は各駆動部の駆動時に接触子2の動作方向に作用する力を夫々検出するものである。更に、上記算出部が少なくとも押込み方向と、押込み方向に直交する方向の二方向から夫々検出された力を用いて筋硬度の指標を算出するものである。これにより、筋硬度が少なくとも二方向からの検出結果から計測されるため、算出される筋硬度の指標から個体差による影響を除くことができ、筋硬度の計測精度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の硬さを計測する筋硬度計、殊に、人体の皮下組織の筋硬度を計測する筋硬度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マッサージ機で人体へ効果的にマッサージを行うために、特許文献1や特許文献2のように、椅子型マッサージ機の背もたれ部に内蔵したマッサージ手段に人体の皮下組織の筋硬度を計測する筋硬度計を設けたものがあった。
【0003】
これらの筋硬度計は接触子等を人体に向けて押込み、押込んだ際に接触子へ作用する押圧力と、接触子を押込んだ押込距離と、を検出して、各検出値の変化量から弾性率を算出して、算出した弾性率を筋硬度の指標としたものであった。
【0004】
そして、計測した筋硬度を所定の基準と比較し評価することで、筋肉の緊張した状態である凝り状態や骨の位置をマッサージ機に判断させ、骨へのマッサージを避けると共に、凝り状態の位置に対して優先してマッサージを行わせるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−081522号公報
【特許文献2】特開2005−270489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、皮下組織の外面である皮膚から内部の筋肉に至るまでの距離は皮下脂肪の厚さの違い等の個体差があり、計測点毎の押込み方向に対する弾性率を筋硬度の指標としたものでは個体差の影響により誤差等のばらつきが大きいものであった。
【0007】
つまり、上述の弾性率による筋硬度計測では、個体差の影響により計測結果を比較する評価基準が曖昧であり、精度が高くなく、簡易な凝り状態の判定に留まるものであり、評価精度の高い凝り状態の判定を行えないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みて発明したものであり、押込み方向に作用する力と、押込み方向と直交する方向に作用する力と、で筋硬度を計測することで、個体差の影響を低減し、計測精度を向上した筋硬度計を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の筋硬度計1は、人体を押圧する接触子2と、接触子2を人体に押込み押圧動作を行わせる押込駆動部3と、上記押込み方向に直交する方向へ接触子2を移動させる少なくとも一つ以上の第2の駆動部と、上記接触子2に作用する力を検出する力検出部5と、力検出部5の検出結果から筋硬度の指標を算出する算出部と、を有することを特徴としている。そして、上記算出部が少なくとも押込み方向と押込み方向に直交する方向の二方向から夫々検出された力を用いて筋硬度の指標を算出するものであることを特徴としている。
【0010】
このような構成としたことで、第2の駆動部が接触子2を押込み方向と異なる方向に移動させるため、力検出部5が押込み方向で接触子2に作用する力と、押込み方向と異なる方向で接触子2に作用する力と、を検出するものとなる。そして、接触子2に作用する方向の異なる力を二つ以上検出したことで、計測部位の個体差を特定するあるいは特定の範囲に絞り込むことができ、個体差による影響を除算した筋硬度の指標を得ることができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、上記第2の駆動部は接触子2を所定の変位で複数回の往復動作を行わせるものであり、上記複数回の往復動作により検出された検出結果を用いて算出部が筋硬度の指標を算出するものであることを特徴としている。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、算出部が押込み方向に直交する方向で検出された力から上記往復動作により生じる変動幅73を算出すると共に、上記押込み方向で検出された力と、上記変動幅73と、で筋硬度の指標を算出するものであることを特徴としている。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、算出部は、上記変動幅73と、上記押込み方向で検出された力と、の比を筋硬度の指標とするものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、本発明の筋硬度計は、異なる方向に作用する力を二つ以上検出したことで、計測部位の個体差を特定するあるいは特定の範囲に絞り込むことができ、個体差の影響を補正して筋硬度の指標を算出することができる。そして、筋硬度の指標の算出時に個体差を補正したことで、個体差による影響を略無視して筋硬度を比較できるため、評価精度の向上したものとなっている。
【0015】
また、第2の駆動部が施療子を押込み方向に直交する方向に往復動作を行わせることで、第2の駆動部の駆動により接触子へ作用する力を筋硬度の指標の算出に使用し易くなり好ましい。
【0016】
また、上記往復動作により生じる変動幅を筋硬度の指標算出に用いたことで、筋硬度の計測精度をより向上することができ好ましい。
【0017】
また、筋硬度の指標を、上記変動幅と、押込み方向で検出された力と、の比としたことで、押込み方向で検出された力による変動幅への影響を除算できるため、筋硬度の指標の算出精度をより向上することができ好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の筋硬度計の一部を省略した断面図である。
【図2】同上の接触子周辺を拡大した筋硬度計の計測動作の断面図であり、(a)が両駆動部の駆動前であり、(b)が押込駆動部による接触子の押込み動作中であり、(c)が押込み動作後の第2の駆動部による接触子の移動動作中である。
【図3】同上の力検出部で検出される力の説明図であり、(a)が弛緩状態の皮下組織を計測したものであり、(b)が凝り状態の皮下組織を計測したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明の筋硬度計1は、図1及び図2に示すように、ケーシング11の一端に筋硬度を計測したい計測部位の外面である皮膚61に接触する平面を有する円盤形状の接触部12を備えたものである。
【0021】
そして、上記接触部12はケーシング11で形成される内部空間に向けて開口した孔を上記平面の円周中心に有しており、上記孔から外部に向けて接触子2が突没自在となっている。
【0022】
上記接触子2は接触部12の上記平面に平行な押圧面21を先端部に備えた円柱形状のものであり、接触子2は突没動作の駆動源となる押込駆動部3により接触部12の平面に直交する方向に動作されるものとなっている。
【0023】
そして、接触部12が皮膚61に当接された状態で、接触子2が上記平面に直交する方向である押込み方向に沿って外部に突出すると、押圧面21で人体の皮下組織6を押圧するものとなっている。
【0024】
また、上記押込駆動部3はケーシング11の接触部12の反対側に固定されており、ケーシング11に内蔵された駆動伝達部13を介して接触子2に駆動を伝達するものである。
【0025】
更に、上記筋硬度計1の押込駆動部3の位置する側には第2の駆動部であるスライド駆動部4が設けてあり、スライド駆動部4は上記押込み方向に直交する方向へ接触子2及び筋硬度計1を所定の変位で往復動作させるものとなっている。
【0026】
また、上記ケーシング11内には、上述の駆動伝達部13と、上述の二つの駆動部の駆動により接触子2へ作用する力を検出する力検出部5と、力検出部5の検出結果を用いて筋硬度の指標を算出する算出部(特に図示しない)と、が配置されている。
【0027】
そして、上記力検出部5は、押込駆動部3及びスライド駆動部4の夫々の駆動により接触子2が動作する方向と同じ方向で押圧面21に作用する力を検出するものである。
【0028】
詳しくは、押込駆動部3による接触子2の押込み時には、押込み方向で押圧面21に作用する力である押圧力71を検出するものである。
【0029】
そして、突出させた接触子2をスライド駆動部4で押込み方向に直交する方向に往復動作させた際には、往復させた上記方向で押圧面21に作用する力である張力72を検出するものである。
【0030】
なお、特に限定するものではないが、本例ではワンチップマイクロコンピュータ等の制御・演算機能を備えた制御回路(特に図示しない)が上記算出部としての機能を兼ねたものとなっている。
【0031】
つまり、算出部が、上記筋硬度の指標の算出に加え、押込駆動部3やスライド駆動部4の駆動を制御すると共に、算出した筋硬度の指標から計測部位の凝り状態を判定する凝り判定を行い、計測部位の筋硬度を評価するものとなっている。
【0032】
以下、図2に基づいて、筋硬度計1による筋硬度の計測方法を説明する。
【0033】
筋硬度計1の接触部12の平面を筋硬度の計測を行いたい人体の計測部位の皮膚61に当接する。そして、押込駆動部3を駆動して接触子2を筋肉63側である人体の内側に向けて、所定の押圧力71が検出されるまで押込む。
【0034】
このとき、算出部が押込駆動部3の押込距離75を演算すると共に、押込距離75の変化に伴う押圧力71の増加量を算出することで、接触子2が骨に近接して一定距離毎の増加量が特定値を越えた際に押込動作を中止するものにでき好ましい。
【0035】
そして、所定の押圧力71が検出されるまで接触子2を押込むと、算出部は所定の押圧力71を保持するよう押込駆動部3の駆動制御を行い、接触子2を押込んだ押込距離75が変化しないように押圧状態を維持する。
【0036】
そして、上記押圧状態を維持したまま、接触子2をスライド駆動部4によって押込み方向と直交する方向に所定の変位で往復動作させる。
【0037】
このとき、力検出部5は押込駆動部3の駆動制御用の押込み方向の押圧力71に加え、上記スライド駆動部4の駆動による接触子2の往復動作で押圧面21に押込み方向と直交する方向で作用する張力72を検出するものとなっている。
【0038】
上記力検出部5で検出される張力72は、上記接触子2が所定の変位で往復動作するものであるため、図3に示すように、弛緩状態の平均張力74のような直線とならずに、上下に変動幅73を有する波形状のものとなっている。
【0039】
そして、算出部は上記張力72の上限値と下限値から上記変動幅73を算出し、算出した変動幅73が所定の基準値を越えるか否かの判定を行い、上記変動幅73が基準値を越えていると、その計測部位を凝り状態と判定するものとなっている。
【0040】
つまり、図3(b)に示すように、凝り状態等で筋肉63の硬さが増していると、検出される変動幅73も弛緩状態の変動幅73より大きくなるものであり、上記変動幅73は筋硬度の指標として用いることができるものである。
【0041】
なお、上記変動幅73はスライド駆動部4の駆動時に接触子2へ作用する押圧力71の影響も受けており、例えば、上記押圧力71を大きくすれば接触子2が筋肉63を強く押すため、筋肉63による抵抗が増し変動幅73も大きくなるものである。
【0042】
そのため、本例では各計測部位でスライド駆動部4の駆動時に押圧力71を所定の値に保持したことで、計測部位毎に押圧力71が変わることを防止し、押圧力71による変動幅73への影響が計測部位毎に変化しないものとしている。
【0043】
このように、スライド駆動部4の駆動時に押圧力71を所定の値に保持したことで、算出される筋硬度の指標における皮下脂肪62の厚さの違い等の個体差による影響を計測部位毎に変化しない一定のものにできる。
【0044】
そして、計測される筋硬度の指標における個体差による影響を全ての計測部位で一定にしたことで、凝り判定で用いる基準値が測定部位毎に個体差の影響の補正を行う必要の無いものにでき、容易に凝り状態を判定することが可能となる。
【0045】
つまり、一方の駆動部による接触子2の移動を各計測部位で毎回同じ条件とすることで、個体差を一定のものにし、他方の駆動部による接触子2の移動で検出される検出結果に対して個体差による影響に差が生じないものにしている。
【0046】
これにより、算出部が計測部位毎に算出する筋硬度の指標における個体差の影響が全て同じ条件となり、凝り判定に用いる基準値が計測部位毎の個体差の影響を違いを考慮する必要の無いものとなり、凝り状態の判定精度が向上している。
【0047】
更に、個体差の影響を補正することなく、計測した筋硬度同士を容易に比較することができるため、計測した筋硬度の評価精度も向上したものとなっている。
【0048】
また、所定の押圧力71に保持した状態で押込み方向に直交する方向に移動させた際に作用する上記張力72の変動幅73を筋硬度の指標としたことで、押圧力71による押圧と、張力72による引張りと、で筋硬度を計測するものとなっている。
【0049】
特に、スライド駆動部4が接触子2を移動させる方向を計測部位の筋繊維64の繊維方向に直交する方向に合わせれば、筋繊維64の繊維方向に直交する引張り力を検出でき、計測部位の筋繊維64における筋硬度を計測するものとなっている。
【0050】
そして、上述の押圧と引張りとの二つの力による筋硬度の評価は、人が触診で行う筋硬度の評価と略同様の計測方法であるため、触診による筋硬度の評価を数値化することも可能となる。
【0051】
なお、第2の駆動部は押圧力71を維持して押込み方向に直交する方向に接触子2を移動させるものであればよく、ケーシング11に内蔵されたものや、移動方向を押込み方向に直交する所望の向きに変更可能のものであってもよい。
【0052】
特に、前述のように第2の駆動部で接触子2を筋繊維64の繊維方向に直交して動かすものが筋硬度の測定精度がよいため、部位毎に異なる筋繊維64の繊維方向に合わせて接触子2を動作させる向きを変更できるものが好ましい。もちろん、第2の駆動部を複数備えて繊維方向に合わせてもよい。
【0053】
また、算出部で算出される筋硬度の指標は、スライド駆動部4の駆動時に押込駆動部3が維持する押圧力71で張力72の変動幅73を割った比としてもよい。なお、上記算出される筋硬度の指標は、図3中の記載に基づくと、Fx/Fzで表記できるものである。
【0054】
これは、接触子2を押込み方向に直交する方向に往復動作させて張力72を検出する際に押圧状態を維持する押圧力71で、張力72の変動幅73を割ったものであり、変動幅73から押圧力71の影響を除算したものとなっている。
【0055】
つまり、算出された筋硬度の指標から押圧力71による影響を除けるため、スライド駆動部4の駆動時に押圧力71を任意の値に保持すると共に、保持した任意の押圧力71を検出していれば、筋硬度の指標を算出可能なものとなっている。
【0056】
従って、上記保持する押圧力71を所定の範囲を持ったものにでき、張力72の検出時に押圧力71の調節を容易に行え、計測部位毎の計測時間を短縮することができる。
【0057】
そして、凝り状態の判定基準が張力72検出時の押圧力71に因らないものであるため、上記押圧力71の異なる筋硬度の指標を比較することができ、且つ凝り状態を判定することもでき、筋硬度の評価精度をより向上したものとなっている。
【0058】
更に、保持する押圧力71を任意の値に変更できるため、計測対象となる人体の年齢や体格・体格あるいは所望等に応じた押圧力71で張力72の検出を行え、使い勝手のよい筋硬度計1となっている。
【符号の説明】
【0059】
1 筋硬度計
2 接触子
3 押込駆動部
4 スライド駆動部
5 力検出部
6 皮下組織
71 押圧力
72 張力
73 変動幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体を押圧する接触子と、接触子を人体に押込み押圧動作を行わせる押込駆動部と、上記押込み方向に直交する方向へ接触子を移動させる少なくとも一つ以上の第2の駆動部と、上記接触子に作用する力を検出する力検出部と、力検出部の検出結果から筋硬度の指標を算出する算出部と、を有しており、上記算出部が少なくとも押込み方向と押込み方向に直交する方向の二方向から夫々検出された力を用いて筋硬度の指標を算出するものであることを特徴とする筋硬度計。
【請求項2】
前記第2の駆動部は前記接触子を所定の変位で複数回の往復動作を行わせるものであり、上記複数回の往復動作により検出された検出結果を用いて前記算出部が筋硬度の指標を算出するものであることを特徴とする請求項1に記載の筋硬度計。
【請求項3】
前記算出部が前記押込み方向に直交する方向で検出された力から上記往復動作により生じる変動幅を算出すると共に、前記押込み方向で検出された力と、上記変動幅と、で筋硬度の指標を算出するものであることを特徴とする請求項2に記載の筋硬度計。
【請求項4】
前記算出部は、前記変動幅と、前記押込み方向で検出された力と、の比を筋硬度の指標とするものであることを特徴とする請求項3に記載の筋硬度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−227262(P2010−227262A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77660(P2009−77660)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】