説明

筒状多孔質シリカ及びその製造方法

【課題】 無機ガスや低沸点有機化合物の分離性能に優れた均一なシリカゲル層を有するキャピラリー体を提供する。
【解決手段】 中空貫通孔を有する直径10〜1000μmの筒状多孔質シリカであって、筒状体を構成する多孔質シリカの細孔直径が2〜15nmであり、且つ、該中空貫通孔の直径が0.1〜100μmであることを特徴とする筒状多孔質シリカである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な筒状多孔質シリカ及びその製造方法に関する。詳しくは、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、電気クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー用カラム担体に好適に供することのできる筒状多孔質シリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クロマトグラフの用途においては、微量分析の観点から高分離性能を有するための充分な長さを有し、カラム径が小さいキャピラリーカラムが用いられている。
【0003】
上記キャピラリーカラムとして、シリカゲル等の粒子よりなる無機系充填剤を、キャピラリー中に物理的手法によって充填して得られた粒子充填系キャピラリーカラムが提案されている。しかしながらこのキャピラリーカラムでは充填手法が複雑で充填に長時間を有し、更には分離性能に優れた充填状態を再現することが困難であるといった課題がある。特に、カラム長が増加するにつれて微粒子の不均一な充填が発生し、フリットと充填層の不均一な空隙が形成されることにより分離性能が低下してしまうといった問題も有している。
【0004】
これに対し、Golayは、キャリアガス等の流体の抵抗が小さい中空キャピラリーを利用して、カラム長を大きくし、理論段数を増大させるという発想に基づき1957年に“coated capillary”を発表した。ここでGolayは、当時主流であった充填カラムに比べ、キャピラリー内壁に液相膜を形成した液相中空キャピラリーカラムの方が飛躍的に高い分解能を有することを提案している。なお、この液相中空キャピラリーカラムの理論段数は近似的にカラム内径に反比例し、ピークの分離度は液相膜厚を変えることによりある程度改善が可能である。また、膜厚が薄いほど理論段数が大きくなる。
【0005】
ところが、液相中空キャピラリーカラムは固定相液体の選択が重要であって、一般には約10種類のシリコン系とポリエチレングリコール系に限られており、しかも、無機ガスや低沸点有機化合物の分離には難があった。
【0006】
一方、液相中空キャピラリーカラムにおける液相をアルミナやシリカの微粉末、多孔性ポリマーに代えて付着させた固相中空キャピラリーカラムも提案されているが、キャピラリー内に形成される中空貫通孔の径を小さくすることが困難であり、高い分解能を得ることができないという課題がある。
【0007】
これらの問題に対して、キャピラリー内の全空間に、細孔直径0.1〜100μm程度のマクロ細孔よりなる貫通孔と細孔径が数nmから数十nmのナノ細孔を有する二元細孔シリカを形成したロッド状二元細孔溶融石英キャピラリーカラムが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
このロッド状二元細孔溶融石英キャピラリーカラムは一体型キャピラリーカラムであって、マクロ細孔よりなる貫通構造とナノ細孔との二種類の細孔を有する二元細孔構造を有するため、分離性能を損なうことなく分析の迅速化の両立を達成することができる。
【特許文献1】特開平11−287791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のロッド状二元細孔溶融石英キャピラリーカラムは、マクロ細孔よりなる貫通孔が三次元的に連続した孔であって、圧損が高く、また、それぞれキャピラリーにおいて貫通孔の長さが一定せず、分離対象物の滞在時間にバラツキが生じてしまう虞がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、キャピラリーカラムとして使用した場合、分離対象物の分離性能に優れ、圧損が低く、また、それぞれキャピラリーにおいて、分離対象物の滞在時間のバラツキが低減された筒状多孔質シリカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねてきた結果、珪素源、水溶性高分子及び酸触媒よりなるゾル液を、内径10〜1000μmの微細径のキャピラリー中に充填した後、該ゾル液を特定の状態に相分離せしめ、その後、ゲル化を進行させることによって、キャピラリー中にナノ細孔を有するシリカが、キャピラリーの中心部分に適度に細い直径の中空貫通孔を有する状態で、均一に形成された新規な筒状多孔質シリカを得ることに成功し、更に、筒状多孔質シリカは、かかる新規な構造を有することで、上記目的を達成し、従来のキャピラリー型多孔質シリカに無い、優れた特性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、第一の手段として、直径が10〜1000μmの範囲内にある筒状多孔質シリカであって、筒状体を構成する多孔質シリカのナノ細孔直径が2〜15nmの範囲内にあり、かつ、中空貫通孔の直径が0.1〜100μmの範囲内にあることとする。
【0013】
またこの手段において、 筒状多孔質シリカはキャピラリー内に形成されてなること、更には
キャピラリーカラムであることが望ましい。
【0014】
また第二の手段として、内径10〜1000μmのキャピラリー内に、珪素源、水溶性高分子及び酸触媒を含むゾル液を充填する工程、及び充填されたゾル液を、キャピラリー中心部に珪素源の濃度が低減した相が形成されるように相分離せしめるとともに、ゲル化を進行させる工程とを有する筒状多孔質シリカの製造方法とする。
【発明の効果】
【0015】
以上により、クロマトグラフィー用カラム担体の用途において、これらの特徴的中空貫通孔及び細孔を利用した高速分析、微量分析が可能となり、また、触媒の用途においても、かかる中空貫通孔と細孔とを利用した、高性能な触媒を構成することが可能となる。
【0016】
また、同条件で製造される複数の筒状多孔質シリカよりなるキャピラリーの分離対象物の滞在時間について、バラツキを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0018】
(筒状多孔質シリカ)
本実施形態に係る筒状多孔質シリカ1は、例えば図1に示すように、直管状に中空貫通孔2が形成された筒状のシリカであって、更にこの筒状多孔質シリカにはナノ細孔が形成されており、いわゆる二元細孔シリカとなっている。本筒状多孔質シリカ1は直管状に形成された中空貫通孔2を有しているため従来のロッド状二元細孔溶融石英キャピラリーカラムに比べてそれぞれの筒状多孔質シリカ間の滞在時間のばらつきを軽減することができる。
【0019】
本筒状多孔質シリカ1は、キャピラリーカラムとして有効に使用することができる。かかるキャピラリーカラムは、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーのいずれにも使用することができるが、特に、ガスクロマトグラフィーの用途に対して好適である。また、キャピラリーカラムとしての用途以外の用途、例えば、固体触媒、触媒担体、吸着材、分離材等の分野にも応用が可能である。この場合、キャピラリーを除去した状態で使用することもできるし、キャピラリーを残した状態でも使用可能である。
【0020】
なお筒状多孔質シリカをキャピラリーカラムとして使用した場合等におけるキャピラリーは、内壁が親水性を有し、後述する所望の内径を有する管状のものであれば公知の材質が特に制限なく使用できる。例えば、溶融石英ガラス管、ソーダガラス管等が一般的であるが、その他、内面を親水性とした樹脂管、金属管を使用することができる。
【0021】
筒状多孔質シリカ1の断面形状及び中空貫通孔2の断面形状は特段に制限されるものではないが、中空貫通孔2の断面形状は円形が望ましく、筒状多孔質シリカ1の断面形状もこれに対応させて円形とすることが望ましい。このように対応させることで、断面上の周方向に沿って筒状多孔質シリカ1に一定の厚みを持たせることができ、分離性能の向上を図ることができる。なお上述のとおり中空貫通孔2の形状及び筒状多孔質シリカの断面は、用途に応じて様々選択が可能であって、例えば三角、四角若しくはそれ以上の多角形、又は楕円等も選択可能である。また、筒状多孔質シリカ1の長さとしては、特に限定されないが1mm〜100mの範囲内になることが望ましく、特にカラムとして使用する場合は5mm〜60mの範囲内にあることが望ましい。
【0022】
筒状多孔質シリカ1の外径は10〜1000μmの範囲内にあることが極めて望ましい。10μmより細い場合は製造が困難となり、1000μmを超える場合は相分離を十分行わせしめることが困難となり、後述する所望の径の中空貫通孔を筒状多孔質シリカ内に形成することが困難となるためである。なおナノ細孔を有する多孔質シリカの肉厚は特に制限されないが、カラムとしての用途において良好な分離率を発現するためには、一般に0.5〜50μmの範囲内にあることが望ましく、特に望ましくは1〜30μmの範囲内である。
【0023】
中空貫通孔2は、流体の流路としての機能だけでなく、流体を通過させ分離対象物を分離する機能も有するものであって、カラム分離性能の向上に寄与するものである。そのためこの中空貫通孔2は従来の液相中空キャピラリーカラムや固相中空キャピラリーカラム等の中空キャピラリーカラムに比べて極めて小さい径で形成されることが望ましく、中空貫通孔2の直径としては0.1〜100μmの範囲内にあることが望ましく、更に望ましくは1〜50μmであり、更に望ましくは1〜10μmである。これは中空貫通孔の直径が0.1μmよりも小さい場合は、流体の圧力損失が大きく、カラム等に用いると供給系への負荷が大きく装置が高額となる一方、直径が100μmより大きいと圧力損失は小さくなるもののカラム分離性能が低下してしまう虞がある。なお、中空貫通孔の直径は、筒状多孔質シリカの断面の電子顕微鏡観察像或いは後述する圧力損失評価法により求めることができる。
【0024】
また筒状多孔質シリカ1には中空貫通孔2の他、微細なナノ細孔が形成されており、この二元細孔シリカを触媒担体、キャピラリーカラムなどの用途に用いた場合、触媒等の機能物質を充填させて反応或いは吸着点として作用させることができる。
【0025】
ナノ細孔の細孔径は、いわゆる窒素吸着法により測定することができ、その細孔径の平均は上記方法による測定の値で表現すると2〜15nmが望ましく、より望ましくは2〜10nmである。ナノ細孔の平均直径が2nm以下の場合、或いは、15nmを超える場合は、クロマトグラフィーのカラムとして使用する場合に、多孔質シリカ層における分離物質の吸着能が低下し、分離性能が低下してしまう虞がある。
【0026】
(筒状多孔質シリカの製造方法)
以下、上記筒状多孔質シリカの製造方法について説明する。製造方法は上記筒状多孔質シリカを製造することができる限りにおいて特に限定されないが、代表的には次の方法で製造することができる。
【0027】
本実施形態に係る製造方法は、内径が10〜1000μmの範囲内にあるキャピラリーの中に、珪素源、水溶性高分子及び酸触媒を含むゾル液を充填した後、ゾル液をキャピラリー中心部に珪素源の濃度が低減した相が形成されるように相分離せしめると共に、ゲル化を進行させることにより好適に製造される。なおここで「キャピラリー中心部」とは、断面における中心部分をいい、例えば円形の断面である場合は円の中心点近傍が中心部となる。
【0028】
キャピラリーは、上述した所望の内径を有した管状で、内壁に親水性を有していることが望ましく、この条件を満たすことができれば公知の材質を特に制限なく使用できる。例えば、溶融石英ガラス管、ソーダガラス管、内面を親水性とした樹脂管、金属管等を使用することができる。なお樹脂管を使用することにより、筒状多孔質シリカを製造した後、この樹脂管を熱分解により除去することでキャピラリーの無い筒状多孔質シリカを得ることが可能である。
【0029】
キャピラリーの内壁を親水性とするのは、ゾル液を、キャピラリー中心部に珪素源の濃度が低減した相が形成されるように相分離させる必要があるからである。即ち、ゾル液の組成のうち、親水性に富む珪素源を含む水相部分を管壁側に、珪素源の濃度が低い有機相を管の中心部に相分離させ、中空貫通孔を形成することができるためである。なお、キャピラリーの内壁に親水性を付与する方法としては公知の方法を採用することができる。例えば、溶融石英、ソーダガラスを材質として使用する場合、その内壁をアルカリ水溶液に晒して表面を親水性とすることが好適である。
【0030】
なおキャピラリーにゾル液を充填する方法も、特に制限を受けるものでなく、例えばキャピラリー内を減圧しゾル液を吸入させることにより内径の小さなキャピラリーへも充填させることができ好適である。
【0031】
ゾル液における珪素源としては、メトキシシラン、エトキシシラン等のケイ素アルコキシドや、水ガラスが好適に用いられる。水ガラスは、ケイ酸アルカリ塩の濃厚水溶液であり、その種類や濃度は特に限定されないが、JIS規格の水ガラスである珪酸ナトリウムJIS3号またはそれと同等のものが珪素源として取扱いやすい。
【0032】
ゾル液における水溶性高分子とは、理論的には適当な濃度の溶液を形成することができる有機高分子であって、珪素源を含有する溶液中において均一に溶解することができるものが好適である。具体的には、高分子金属塩であるポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、高分子酸であって解離してポリアニオンとなるポリアクリル酸、高分子塩基であってポリカチオンを生ずるポリアクリルアミンまたはポリエチレンイミン、中性高分子であって主鎖にエーテル結合を持つポリエチレンオキシド、側鎖にヒドロキシル基を有するポリビニルアルコール、もしくはカルボニル基を有するポリビニルピロリドン等である。また特に、取扱いの観点からポリエチレングリコールがより望ましく、その分子量は1000〜100000の範囲内が望ましく、より望ましくは10000〜50000の範囲内である。
【0033】
ゾル液における酸触媒は、加水分解反応の触媒として働きゲル化を促進するために添加されるものであって、通常硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸または有機酸が使用される。最終的な酸の濃度は、最終溶液1リットルあたり0.001〜5モルの範囲内であることが望ましく、より望ましくは0.01〜4モルの範囲内である。
【0034】
上述のとおりキャピラリー内での相分離は、親水性に富む珪素源を含む水相部分が管壁側に、珪素源の濃度が低い有機相が管の中心部に相分離することによって行われるが、その後ゲル化を進行させ、湿潤ゲルを得る工程を経る。なお相分離した有機相は焼成により除去することが可能であり、この有機相が除去された部分が中空貫通孔となる。
【0035】
上記ゲル化を進行させる代表的方法としては、相分離後のゾル液を0〜80℃の範囲内、より望ましくは20〜70℃の範囲内で10分〜1週間放置することが望ましく、より望ましくは上記いずれかの温度範囲内で1時間〜24時間の範囲内で放置することである。なおゲル化は相分離の際に同時に進行させることも可能である。
【0036】
上記のようにして得られたゲルは、30〜80℃の範囲内で数時間〜数十時間の範囲内で放置して乾燥させる。乾燥後、有機物を除去するために焼成するが、焼成温度の範囲としては100〜1100℃が望ましく、より望ましくは200〜700℃の範囲内である。なお、珪素源として水ガラスを用いた場合は、製造された湿潤ゲルを乾燥させる前に洗浄することが極めて望ましい。これは、水ガラスからの湿潤ゲルをそのまま乾燥させると乾燥が進むにつれてゲルの崩壊が進むためである。従って、この場合乾燥の前に湿潤ゲル内のナトリウム等のアルカリ金属を除去するために洗浄を行い、アルカリ金属塩として取り除いておくことが極めて望ましい。
【0037】
本発明において、筒状多孔質シリカのナノ細孔の細孔径は、上記方法により得た筒状多孔質シリカを塩基性水溶液中で熟成させることによって制御することが極めて望ましい。熟成は0.01〜10規定のアルカリ溶液中で0〜80℃の温度で行うことが望ましいが、これら熟成条件は所望の細孔直径となるよう適宜選択することが可能である。
【0038】
また、筒状多孔質シリカのナノ細孔の細孔径を制御する別の手法として、前記キャピラリーカラムの製造方法において、尿素、ヘキサメチレテトラミン、ホルムアミド等の有機アミドなどの熱分解性化合物を出発原料である珪素源、水溶性高分子、及び酸からなるゾル液に共存させる方法を用いることができる。かかる操作により、該熱分解性化合物は乾燥あるいは焼成時にアンモニア等の塩基性化合物を生成し、該塩基性化合物がシリカを侵食することによってナノ細孔が拡大するものであって、該熱分解性化合物の種類、共存量、熱分解温度等を適宜調整することによって所望のナノ細孔の細孔径を制御することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0040】
(圧力損失評価)
筒状多孔質シリカの圧力損失評価は、図1に示すように、中空貫通孔2が形成された筒状多孔質シリカ1よりなるキャピラリーを50mmの長さに切り取ったものを測定試料とした。圧縮空気3を流すことによる生じるキャピラリー前後の圧力差を差圧計4により、また、圧縮空気流量を流量計5により測定した。測定した流量と単位長さ当たりの圧力損失をプロットし、Hargen−Poiseuilleの計算式により筒状多孔質シリカの内径を求めた。
Hargen−Poiseuille式:△P/L=32μu/D
(μ:空気の粘度=1.81×10−5),u:流速,D:内径
u=Q/{π(D/2)}であるから△P/L={128μ/πD}・Qとあらわせ、流量と単位長さあたりの圧力損失のプロットから得られる傾きがこの式の中カッコであり、D={128μ/π(傾き)}1/4から内径Dが求まる。
【0041】
(細孔径分布の測定)
細孔径分布は、ASAP200により得られた液体窒素温度(−195.78℃)での窒素の脱離等温線からDollimore−Heal法を用いて計算した。使用した試料の量は約0.02gであり、測定前に300℃で1時間真空乾燥処理をしてから用いた。また、比表面積は吸着等温線よりBET法を用いて計算し、細孔容積は0.95< P/P<1.0での窒素の吸着量より求めた。
【0042】
(ガスクロマトグラフィー)
本実施形態に係る筒状多孔質シリカの分離能を調べるために島津製作所GC−14Bを用い低級炭化水素の分離を行った。
FIDガスクロマトグラフィー(島津製作所GC−14B)
キャリアガス N(20〜40kPa)
カラム温度 室温〜100℃
【0043】
ガスクロマトグラフィーの分析結果はパソコンによりモニターし、専用ソフト(Graph Analyzer)を用いて、ピーク面積、半値幅を求めた。また、FIDガスクロマトグラフィーにおいてピーク面積は専用のインテグレーター島津C−R6A Chromatopacにより測定した。理論段数N、理論段高さ(HETP)Hは以下の計算式によって求めた。
計算方法
N=5.545(t/tW1/2
:保持時間 tW1/2:半値幅
H=L/N
L:カラム長
【0044】
(実施例1)
市販の溶融石英キャピラリー(0.025mmI.D.×0.150mmO.D.、長さ2m、ジーエルサイエンス製)を用い、キャピラリー内表面のSiOをSi−OHにするため、アスピレーターを用いて1NのNaOHaqを溶融石英キャピラリーの内部に入れ、50℃で1day熟成させた。
【0045】
その後内部を水で洗浄した。水16g、濃硝酸1.62gを入れその後、平均分子量20,000のポリエチレングリコール(以下PEGと呼ぶ)、0.6gを攪拌しながら加え溶かした。その後16gのテトラエトキシシラン(以下TEOSと呼ぶ)を加え、フタをして均一になるまで約10分間室温で攪拌した。
【0046】
得られた透明ゾルをアスピレーターで15分間吸引し気泡を取り除いた。気泡を取り除いたゾルをアスピレーターで溶融石英キャピラリーキャピラリー内に導入した。溶融石英キャピラリーの両末端をシリコン栓で密閉し、24時間50℃で静置してゲル化させた。
【0047】
得られた湿潤ゲルを50℃で1週間乾燥させた。ガスクロマトグラフィーカラムに用いるキャピラリーは乾燥後300℃で8h焼成した。溶融石英キャピラリーキャピラリー内壁にシリカゲル層が約3.5μmの厚みで均一に存在し、また直径18μmの中空貫通孔が存在することを電子顕微鏡で確認した。圧力損失評価により求めた内径は、21μmであり電子顕微鏡で観察した孔径とほぼ一致した。また、多孔質シリカのナノ細孔は、窒素吸着法により測定したところ、比表面積907m/gであり、これより、平均細孔直径が3nmであることを確認した(図3参照。なお図3中に該ゲルを50℃、110℃、300℃熱処理後の細孔径分布をそれぞれ示した。)。
【0048】
(実施例2)
市販の溶融石英キャピラリー(0.050mmI.D.×0.150mmO.D.、長さ2m、ジーエルサイエンス製)を用い、キャピラリー内表面のSiOをSi−OHにするため、アスピレーターを用いて1NのNaOHaqを溶融石英キャピラリーの内部に入れ、50℃で1day熟成させた。
【0049】
その後、内部を水で洗浄した。水16g、濃硝酸1.62gを入れその後、平均分子量20000のPEG 1.2gを攪拌しながら加え溶かした。その後14gのTEOSを加え、フタをして均一になるまで約10分間室温で攪拌した。得られた透明ゾルをアスピレーターで15分間吸引し気泡を取り除いた。
【0050】
気泡を取り除いたゾルをアスピレーターで溶融石英キャピラリーキャピラリー内に導入した。溶融石英キャピラリーの両末端をシリコン栓で密閉し、24時間50℃で静置してゲル化させた。
【0051】
得られた湿潤ゲルを50℃で1週間程度乾燥させた。ガスクロマトグラフィーカラムに用いるキャピラリーは乾燥後300℃で8h焼成した。溶融石英キャピラリーキャピラリー内壁にシリカゲル層が約5μmの厚みで均一に存在し、また、直径40μmの中空貫通孔が存在することを電子顕微鏡で確認した。
【0052】
圧力損失評価により求めた内径は、28μmで電子顕微鏡で観察した孔径とほぼ一致した。多孔質シリカのナノ細孔は、窒素吸着法により測定したところ、比表面積890m/gであり、これより、平均細孔径が3.1nmであることを確認した。
【0053】
溶融石英キャピラリーの内壁に作製した筒状多孔質シリカの低級炭化水素に対するガス分離性能をガスクロマトグラフィーにより評価した。表1に、各低級炭化水素に対するそれぞれの理論段高さ、理論段数を示す。
【0054】
これらの結果より、本発明の筒状多孔質シリカは、従来のシリカ充填剤カラムよりも高い分離能を有することが示された。なお本実施例において作成された筒状多孔質シリカの電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(実施例3)
平均分子量20,000のPEG 1.2g、TEOS 12gとし、市販の溶融石英キャピラリー(0.100mmI.D.×0.200mmO.D.、長さ30m、ジーエルサイエンス製)を用いる以外は実施例1と全く同様に行い、溶融石英キャピラリー内壁にシリカゲル層が約25μmの厚みで均一に存在し、また直径49μmの中空貫通孔が存在することを電子顕微鏡で確認した。圧力損失評価により求めた内径は、54μmであり電子顕微鏡で観察した孔径とほぼ一致した。
【0057】
多孔質シリカのナノ細孔は、窒素吸着法により測定したところ、比表面積900m/gであり、これより、平均細孔径が3nmであることを確認した。
【0058】
(実施例4)
市販の溶融石英キャピラリー(0.100mmI.D.×0.200mmO.D.、長さ2m、ジーエルサイエンス製)を用い、キャピラリー内表面のSiOをSi−OHにするため、アスピレーターを用いて1NのNaOHaqを溶融石英キャピラリーの内部に入れ、50℃で1day熟成させた。その後内部を水で洗浄した。
【0059】
水16g、濃硝酸1.62g、平均分子量20,000のPEG、1.2g、尿素 2g、TEOS 14gを攪拌混合して得られた透明ゾルをアスピレーターで10分間吸引し気泡を取り除いた。気泡を取り除いたゾルをアスピレーターで溶融石英キャピラリーキャピラリー内に導入した。溶融石英キャピラリーの両末端をシリコン栓で密閉し、24時間50℃で静置してゲル化させた後、さらに3日間、80℃で熟成を行った。
【0060】
得られた湿潤ゲルを50℃で1週間乾燥させた。ガスクロマトグラフィーカラムに用いるキャピラリーは乾燥後300℃で8h焼成した。
【0061】
溶融石英キャピラリーキャピラリー内壁にシリカゲル層が約35μmの厚みで均一に存在し、また直径30μmの中空貫通孔が存在することを電子顕微鏡で確認した。圧力損失評価により求めた内径は、25μmであり、電子顕微鏡で観察した孔径とほぼ一致した。また、多孔質シリカのナノ細孔は、窒素吸着法により測定したところ、比表面積600m/gであり、これより、平均細孔直径が4nmであることを確認した。
【0062】
溶融石英キャピラリーの内壁に作製した筒状多孔質シリカの低級炭化水素に対するガス分離性能をガスクロマトグラフィーにより評価した。図4にクロマトグラムを示す。また、表2に各低級炭化水素に対するそれぞれの理論段高さ、理論段数を示す。
【0063】
これらの結果より、本発明の筒状多孔質シリカは、従来のシリカ充填剤カラムよりも高い分離能を有することが示された。
【0064】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】筒状多孔質シリカの圧力損失評価装置の概略図
【図2】筒状多孔質シリカの電子顕微鏡写真
【図3】窒素吸着法による筒状多孔質シリカの細孔分布を示す図
【図4】筒状多孔質シリカの低級炭化水素分離に対するクロマトグラム
【符号の説明】
【0066】
1…筒状多孔質シリカ、2…中空貫通孔、3…圧縮空気、4…差圧計、5…流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空貫通孔を有し直径が10〜1000μmの範囲内にある筒状多孔質シリカであって、
筒状体を構成する多孔質シリカのナノ細孔直径が2〜15nmの範囲内にあり、かつ、前記中空貫通孔の直径が0.1〜100μmの範囲内にあることを特徴とする筒状多孔質シリカ。
【請求項2】
前記筒状多孔質シリカはキャピラリー内に形成されてなることを特徴とする請求項1記載の筒状多孔質シリカ。
【請求項3】
キャピラリーカラムであることを特徴とする請求項2記載の筒状多孔質シリカ。
【請求項4】
内径10〜1000μmのキャピラリー内に、珪素源、水溶性高分子及び酸触媒を含むゾル液を充填する工程、及び前記充填されたゾル液を、キャピラリー中心部に珪素源の濃度が低減した相が形成されるように相分離せしめるとともに、ゲル化を進行させる工程とを有する筒状多孔質シリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−240982(P2006−240982A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13783(P2006−13783)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】