説明

箔シールランプ及び箔シールランプの製造方法

【課題】 金属箔とリード棒の酸化を十分に防止することにより、耐熱温度を向上させるとともに、高温での使用寿命が長いランプを提供することにある。
【解決手段】 モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなり、前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にはルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤が充填されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発光部と封止部を有し透光性材料からなるランプ容器において、封止部がモリブデンからなる金属箔によって気密にシールされた構造のランプに関する。特に、ランプ点灯時に封止部が高温になるランプに関する。
【背景技術】
【0002】
封止部にモリブデンからなる金属箔を埋設させることによる箔シール構造を有するランプとして、例えば、白熱電球と放電ランプが知られている。放電ランプのうち箔シール構造を採用したランプは、発光物質、発光管内圧力という観点から幾つかのランプに分類できる。発光物質という観点では、水銀を発光物質とする水銀ランプ、金属蒸気とハロゲン化物の解離生成物との混合物を発光物質とするメタルハライドランプなどがある。発光管内圧力という観点では、低圧放電ランプ、高圧放電ランプ、などが存在する。
【0003】
このうち、高圧水銀ランプは、発光部とその両端に連続して形成された封止部からなる石英ガラス製の放電容器と、封止部に埋設されたモリブデンからなる金属箔と、金属箔の一端に接続された発光部内へ伸びる一対の電極と、金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒とからなる構造である。さらに放電容器内には発光物質として水銀が、点灯時における蒸気圧が10Pa以上となるように封入されている。
特に、液晶プロジェクタ用の超高圧水銀ランプの場合は、点光源、小型などの利点を有する。近年、液晶プロジェクタの小型化、高照度化への要求が高まっており、これに伴って、超高圧水銀ランプ自体も小型化、高照度化しているため、各部における温度が上昇する傾向にある。そのため、各部の耐熱性の向上が求められており、中でも、耐熱温度が高く長寿命な封止部を有する超高圧水銀ランプが求められている。
【0004】
箔シール構造の封止部を有するランプは、その封止作業において、封止部を構成する石英ガラスとリード棒を構成するモリブデンあるいはタングステンの膨張係数が異なることに起因して、封止部とリード棒の外周との間に微細な空隙が形成される。このような空隙が存在するため、ランプ封止部の金属箔とリード棒の表面まで大気が侵入し、ランプ点灯時に金属箔およびリード棒が350℃以上の高温になった場合には、金属箔およびリード棒の酸化が大幅に促進される、という問題があった。その結果、金属箔およびリード棒が酸化することによって、封止部にクラックが発生したり、金属箔が溶断するなどして、ランプが早期に故障する原因となり得た。
【0005】
このような問題を解決する手段として、封止部とリード棒の外周との間に形成された空隙内にアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液を塗布した後に乾燥させることによって、金属箔およびリード棒をアルカリ金属ケイ酸塩で被膜させ、白熱電球あるいはメタルハライドランプにおいて金属箔およびリード棒の酸化を低減させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。その他にも、封止部とリード棒の外周との間に形成された空隙内に、酸化鉛と酸化ビスマスと酸化ホウ素からなる低融点ガラスの充填材を充填することによって、ハロゲンランプにおいて金属箔およびリード棒の酸化を低減させる技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液の乾燥には、比較的低い温度で相当に長い時間を必要とする、という問題がある。すなわち、乾燥中にアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、徐々に粘性が高くなり最終的にガラス質の被膜となるが、乾燥温度が高すぎたり、乾燥時間が短すぎる場合には、粘性の高くなったガラス状の被膜の中に、水分やガスが閉じ込められる場合がある。この場合、目的とする封止部の耐熱温度の向上や、長寿命化が図れない可能性がある。
また、特許文献2に記載の技術によると、低融点ガラスを封止部とリード棒の外周との間に形成された空隙に充填する工程においては、良好な流動性を得るために、封止部をかなり高温にしなければならないという問題が発生する。さらに、低融点ガラスの充填剤には酸化鉛が含有されているため、環境問題から望ましくないと考えられる。
【0007】
さらには、上記特許文献1に記載された技術に係るランプを、500℃ならびに550℃で連続運転の電気炉内に入れて封止部の耐熱テストを行ったところ、以下のような問題が生じた。
具体的に説明すると、500℃、550℃で耐熱テストを行ったところ、ランプの封止部の平均寿命時間(MTTF)は、それぞれ、550時間、370時間であった。したがって、上記特許文献1に記載された技術では、点灯時に封止部が500℃以上の高温になるランプにおいては、十分な耐熱温度と使用寿命を持った封止部を得ることができない、と考えられる。
【0008】
【特許文献1】特公平7−105212号
【特許文献2】特公平7−19582号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、金属箔とリード棒の酸化を充分に防止することにより、耐熱温度を向上させるとともに、高温での使用寿命が長いランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の箔シールランプは、モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなり、前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にはルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤が充填されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項2に記載の箔シールランプは、モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなり、前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にはルビジウム硝酸塩の水溶液あるいはセシウム硝酸塩の水溶液を封入して熱処理することによりルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤が充填されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の箔シールランプの製造方法は、モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなり、前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にルビジウム硝酸塩の水溶液あるいはセシウム硝酸塩の水溶液を注入する工程と、該水溶液を乾燥させてルビジウム硝酸塩あるいはセシウム硝酸塩を析出させる工程と、前記ルビジウム硝酸塩あるいはセシウム硝酸塩を熱分解させてルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有するランプにおいて、封止部とリード棒の間に形成された空隙にルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤が充填されている。これにより、酸化環境に暴露されたリード棒および金属箔を充分に外気から遮断しているので、耐熱温度が高く、使用寿命の長い封止部を有するランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明に係るランプの構成を説明する図である。
放電ランプ10は、発光部11とその両端に連続して形成された封止部12からなる石英ガラス製の放電容器13を有する。封止部12は、モリブデンからなる金属箔14が埋設されることにより気密にシールされている。この金属箔14の一端には、発光部11内へ伸びる一対の電極15が接続され、他端にはモリブデン、あるいは、タングステンからなるリード棒16が封止部12の端面から外方に伸びるように接続されている。さらに、放電容器13内には発光物質として水銀が150〜350mg/ccとなるように封入されている。
【0015】
図2は、本発明のランプ10の封止部12を拡大した図である。
封止部12とリード棒16の外周面の間に形成された空隙Gには、ルビジウム酸化物からなる封着剤100が充填されている。さらに、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分の外周面は、酸化ホウ素と酸化ビスマスを主成分とする低融点ガラスからなる閉塞部200により被覆されている。
【0016】
図3は、本発明に係る他のランプの構成を説明する図である。
白熱電球20は、発光部21と封止部22からなる石英ガラス製のランプ容器23を有する。ランプ容器の材質として、硬質ガラスを用いても構わない。封止部22は、モリブデンからなる金属箔24が埋設されることにより気密にシールされている。この金属箔24の一端にはタングステンからなるフィラメント25が接続され、他端にはモリブデン、あるいは、タングステンからなるリード棒26が接続されている。
尚、封止部22における構造は、図2に示す構造と同一であるため、説明は省略する。
【0017】
本発明のランプの製造方法について説明する。図4は、図1に示された放電ランプ10において、封着剤の充填から閉塞部の形成に至るまでの一連の流れを説明する図である。
<注入工程>
図4(a)は、注入工程を説明する図である。
濃度が調整されたルビジウム硝酸塩の水溶液100は、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分の外周に注入器により適量滴下されて、毛細管現象により空隙全体に満たされる。この作業は、両方の封止部12について行う。
<乾燥工程>
図4(b)は、乾燥工程を説明する図である。
前記水溶液100が空隙G内に充填されたランプにおいて、150℃に保持された炉内に入れ10分間乾燥させることにより、水分が蒸発してルビジウム硝酸塩100が生成する。蒸発した水分は、封止部12の外部に放出される。
<塗布工程>
図4(c)は、塗布工程を説明する図である。
ルビジウム硝酸塩100が空隙Gに充填されたランプにおいて、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分の外周に、適当な溶媒を加えてペースト状にした酸化ホウ素と酸化ビスマスを主成分とするガラス200Gを適量塗布する。
<封着工程>
図4(d)は、封着工程を説明する図である。
ルビジウム硝酸塩100が空隙Gに充填され、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分の外周に酸化ホウ素と酸化ビスマスを主成分とするガラス200Gが塗布されたランプにおいて、封止部12を水素バーナーで加熱することにより、NOガスを封止部12の外部へ放出してルビジウム酸化物からなる封着剤100が生成するとほぼ同時に、前記ガラス200Gが溶融する。加熱終了後、溶融したガラス200Gが自然冷却により固化することにより、閉塞部200が形成される。ルビジウム硝酸塩100が熱分解するには高温を要するが、ガラス200が溶融したことを目視で確認することにより、ルビジウム硝酸塩100が熱分解の温度に達したことを確認することができる。
【0018】
上記ルビジウム硝酸塩の水溶液について具体的に説明する。水溶液の濃度が2mol/リットルとなるように純水と硝酸ルビジウムを秤量し、純水に硝酸ルビジウムを溶解させる。ルビジウム硝酸塩の水溶液の濃度は、2.5mol/リットルを超えると硝酸ルビジウムが析出する可能性があり、0.5mol/リットル未満であると封止部とリード棒との間の空隙に充填される封着剤が少量すぎてリード棒および金属箔の酸化防止効果を十分に得ることができないので、0.5〜2.5mol/リットルの範囲であることが好ましい。
ここで、ルビジウム酸化物は高温でも安定な化合物であるため、ランプ点灯時に封止部が高温になっても金属箔およびリード棒を浸食しないので封着剤として好ましい。また、ルビジウム硝酸塩の水溶液を出発物質とした理由は、熱処理によって容易にルビジウム酸化物を生成することができるからである。
尚、上記の製造方法において、セシウム硝酸塩の水溶液を出発物質とすることによっても、容易にセシウム酸化物からなる封着剤を生成することができると考えられる。
【0019】
ここで、封着剤として、アルカリ金属のうちルビジウムとセシウムを用いた理由について説明する。アルカリ金属は、石英ガラスの中を移動することによって、石英ガラスを浸食させることが知られている。
この浸食度合いを決める要因は、アルカリ金属イオンが存在する領域における温度によって求められるアルカリ金属イオンの移動度であり、前記領域における温度が高いほど移動度が大きくなるので、浸食の度合いは大きくなる。また、この移動度は、アルカリ金属のイオン半径が関係しており、石英ガラスの網目構造の大きさと比較してイオン半径が小さいほど、移動度は大きくなる。
したがって、アルカリ金属の中で、リチウム、ナトリウム、カリウムイオンなどは、イオン半径が石英ガラスの網目構造の大きさに比べて小さく、網目構造中を動き易い。すなわち、これらの金属を封着剤として用いると、封止部12と発光部11とを構成する石英ガラスを浸食させる度合いが大きいと考えられる。これに対し、ルビジウムイオンは、石英ガラスの網目構造の大きさと比較してイオン半径が大きいので、移動度が小さく、石英ガラスを浸食させる度合いが小さいと考えられる。
無論、セシウムイオンのように、ルビジウムよりもイオン半径の大きいアルカリ金属を用いても、石英ガラスへの浸食の度合いは、小さくなると考えられる。
【0020】
ここで、図2を参照して閉塞部を構成する酸化ホウ素と酸化ビスマスを主成分とする低融点ガラスについて説明する。閉塞部200を構成するガラスは、封止部12の外端面121と、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分に、空隙Gを塞ぐように塗布される。ランプ点灯中とランプの消灯後に自然空冷された状態とを比較すると、封止部12の温度が異なるので、リード棒と石英ガラスとの熱膨張率の違いにより形成される空隙Gの開口部の幅は、ランプ点灯中とランプ消灯後で異なる。したがって、開口部を塞ぐガラスは、ランプ点灯中に適度の粘性を有するような低融点ガラスであることが望ましい。具体的には、DTA転移温度が370℃〜550℃の範囲にあることが望ましい。DTA転移温度は、低融点ガラスの主成分である酸化ホウ素と酸化ビスマスの組成比によって異なり、通常はDTA転移温度が高くなるに伴い融点も高くなる。
尚、閉塞部200を構成する低融点ガラスは、その主成分である酸化ホウ素と酸化ビスマスの合計重量が前記低融点ガラス全体の重量の70%以上であることが好ましい。
【0021】
図5は、閉塞部200を構成する低融点ガラスについて以下の測定条件にて測定したDTA転移温度について説明するための図であり、横軸は時間、縦軸は温度を示す。
<測定条件>
試料:酸化ホウ素と酸化ビスマスを重量比で1:6で混合した低融点ガラス
基準物質:アルミナ
測定温度:25〜1000℃
電気炉昇温速度:10℃/分
測定雰囲気:窒素ガス雰囲気中(流量50ml/分)
図5において、曲線Aは試料と基準物質の温度差を示し、直線Bは電気炉の温度を示す。曲線Aにおける第1ピーク1000、第3ピーク1200は吸熱反応を示し、第2ピーク1100は発熱反応を示し、これらのピークは、電気炉の温度が上昇する過程で試料に熱的変化が生じることによって、試料と基準物質との間に温度差が生じたことを示す。具体的に説明すると、ある温度において試料に吸熱反応が生じると、試料の温度だけが定速昇温から取り残されるので、試料と基準物質との間に温度差が生じ、谷状のピークが現れる。発熱反応が生じると、吸熱反応とは逆に山型のピークが現れる。基準物質としては、熱的変化のないものを選択しているので、試料が熱的変化しなかったとすると、試料と基準物質との温度差が生じないので、ピークが現れることはない。
そして、第1ピーク1000の基端部gにおける温度T(=384℃)がDTA転移温度である。尚、この値は、上記試料におけるDTA転移温度であり、低融点ガラスの主成分であるB、Biとの組成比を変えると、DTA転移温度は変化する。通常は、DTA転移温度が高くなるに伴い融点も高くなる。
【0022】
ここで、閉塞部200を構成するガラスにおけるDTA転移温度の適切な範囲について説明する。DTA転移温度が550℃を超えると、閉塞部200を形成する際に、より高温での熱処理が必要となり、封止部12にかかる熱的負荷が大きくなるので、封止部12が破損する可能性がある。さらに、ランプ点灯時は、粘性の低いガラス状態のままで流動性を持たないので、ランプ点灯とランプ消灯を繰り返すことによって、封止部12の外端面121から剥離する可能性が高い。具体的に説明すると、モリブデンからなるリード棒16と、石英ガラスからなる封止部12と、低融点ガラスからなる閉塞部200では熱膨張率が異なるので、ランプ点灯時にこれらが高温になると各々の膨張する体積が異なることに起因して、封止部12の外端面121から閉塞部200が剥離してしまう、と考えられる。
また、低融点ガラスの成分として、鉛を含有させると、DTA転移温度を低く抑えることが可能であるが、鉛を用いることは環境問題により望ましくない。
【0023】
本発明の箔シールランプによると、空隙Gには、注入されたルビジウム硝酸塩を熱分解させることにより、ルビジウム金属酸化物からなる封着剤100を容易に充填させることができる。ルビジウム金属酸化物は高温でも安定した化合物であり、金属箔14およびリード棒16と反応して両者を激しく浸食することなく空隙Gを塞ぐことができる。さらに、封止部12の外端面121には閉塞部200を設けて、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分の外周を被覆しているので、空隙Gの開口部分からの大気と水分の侵入を低減させることができる。この閉塞部200を構成するガラスは、融点が低いのでランプ点灯時に封止部12が高温になると、適度の粘性をもち、封止部12の外端面121と、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分に密着することにより金属箔とリード棒の酸化を効果的に防止する。
また、空隙の開口部がガラスで塞がれているので、空隙Gに充填されたルビジウム酸化物と大気中の水分が反応して生成されるルビジウム水酸化物の強塩基性の水溶液によって金属箔とリード棒が浸食されることを防止することができる。
さらに、リード棒16のうち封止部12の外端面121と交差する部分近傍における機械的強度が向上する。
【0024】
本発明の箔シールランプの製造方法によると、注入工程において、封止部12とリード棒16の外周面との間の空隙Gにルビジウム硝酸塩は、水溶液の状態で、注入するので、毛細管現象を利用することにより容易に充填できる。これにより、乾燥工程、塗布工程、封着工程を経た後に、空隙Gには隅々にまでルビジウム酸化物からなる封着剤100を充填することができる。仮に、粉末の封着剤を用いると、封止部12のリード棒16周辺の空隙Gにおける開口部の幅は約0.5μm程度であるため、粒径が大きすぎて充填するのは困難である、と考えられる。
さらに、乾燥工程において、150℃で10分程度の短時間で、ルビジウム硝酸塩の水溶液100から容易に水分を除去することができる。
さらに、封着工程において、硝酸塩の熱分解を利用し、700℃前後の温度で20秒程度の短時間で、容易に水分、ガスの除去が行うことができ、低融点ガラスの溶融も短時間に行うことができる。
【0025】
ここで、本発明の作用効果を確認する第1の実験を行うために作製したランプについて説明する。
<実施例>
図1の構成と以下に示す寸法に従い、前述の製造方法によって、石英ガラスからなる封止部と、モリブデンからなるリード棒の外周面の間の空隙内にルビジウム酸化物からなる封着剤が充填されると共に、封止部の外端面に閉塞部が設けられた実験用ランプを66本(500℃テスト用16本、550℃テスト用50本)作製した。
<比較例1>
図1の構成と以下に示す寸法に従い、空隙内に封着剤が充填されてなく、閉塞部が設けられていない実験用ランプを17本(500℃テスト用8本、550℃テスト用9本)作製した。
<比較例2>
図1の構成と以下に示す寸法に従い、空隙内に封着剤が充填されてなく、閉塞部が設けられた実験用ランプを15本(500℃テスト用5本、550℃テスト用10本)作製した。
<比較例3>
図1の構成と以下に示す寸法に従い、特許文献1に記載された技術に基づいて、空隙内にアルカリ金属ケイ酸塩からなる封着剤が充填され、閉塞部が設けられていない実験用ランプを9本(500℃テスト用4本、550℃テスト用5本)作製した。
<比較例4>
図1の構成と以下に示す寸法に従い、特許文献1に記載された技術に基づいて、空隙内にアルカリ金属ケイ酸塩からなる封着剤が充填され、さらに、閉塞部が設けられた実験用ランプを60本(500℃テスト用23本、550℃テスト用37本)作製した。
<比較例5>
図1の構成と以下に示す寸法に従い、前述の製造方法によって、空隙内にルビジウム酸化物からなる封着剤が充填され、閉塞部が設けられていない実験用ランプを9本(500℃テスト用4本、550℃テスト用5本)作製した。
<実験用ランプ>
発光管部の最大外径、内容積:11.3mm、140mm
封止部の長さ、最大外径、:18mm、6mm
リード棒の長さ、外径:40mm、0.8mm
金属箔の長さ、幅:14mm、1.5mm
【0026】
上記実施例、比較例1、2、3、4、5の実験用ランプを用いた第1の実験について説明する。実験は、各々の実験用ランプを一定の温度に保った電気炉内に配置し、封止部にクラックが生じるまでの時間を確認した。
具体的に説明すると、電気炉内に実施例、比較例1、2、3、4、5のランプを入れ、電気炉内の温度を550℃(テストA)、または、500℃(テストB)で一定にした状態で連続運転を行った。これらのランプを24時間毎に取り出して封止部に生じるクラックの有無を顕微鏡で観察し、それぞれの放電ランプについて封止部にクラックが生じるまでの時間を確認した。
【0027】
図6は、実施例と比較例1、2、3、4、5の実験用ランプついて、得られた寿命時間データをワイブル確率紙および累積ハザード紙を用いて解析して得た平均寿命時間(MTTF)を示す。平均寿命時間とは、実施例、比較例1、2、3、4、5に係る実験用ランプのそれぞれにおいて、封止部にクラックが発生した時間を平均したものを示す。
テストAの結果によると、比較例1、2、3、4、5および実施例に係るランプの平均寿命時間は、それぞれ、110時間、210時間、370時間、550時間、700時間、2570時間であった。テストBの結果によると、比較例1、2、3、4、5および実施例に係るランプの平均寿命時間は、それぞれ、420時間、620時間、550時間、970時間、1500時間、3500時間であった。
この結果から、実施例に係るランプは、比較例に係る全てのランプよりも平均寿命時間が大幅に増加したことが分かる。また、実施例に係るランプは比較例4に係るランプと比較して平均寿命が長くなっていることから、封着剤としてルビジウム酸化物の方がアルカリ金属ケイ酸塩よりも長寿命化が図れることが分かる。
無論、セシウム酸化物からなる封着剤を用いても同様の効果を得ることができると考えられる。
したがって、封止部に対して高い耐熱温度と長寿命が求められる液晶プロジェクタ用の超高圧水銀ランプに本発明の技術を適用すると、大幅にランプの使用寿命を延ばすことができると考えられる。無論、超高圧水銀ランプ以外の箔シール構造の封止部を有する放電ランプや、ハロゲンランプなどの白熱電球に、本発明の技術を適用しても、耐熱温度が高く長寿命な封止部を有するランプを作製することができる。
【0028】
図7は、図1に示す放電ランプ10が組み込まれたランプユニット30の断面図を示す。
ランプユニット30において、放電ランプ10の一方の封止部12aが反射鏡31の開口部32側(出射方向33側)に配置される。もう一方の封止部12bは、反射鏡31の頂部36(中心孔)から突出して、接着剤を介して反射鏡31に支持されている。また、封止部12bの端部には口金37が取り付けられている。
反射鏡31は、出射方向33側に開口部32を有する。開口部32には、前面ガラス34が取り付けられることによって、反射鏡31と前面ガラス34との間には、密閉空間38が形成される。封止部12aから延びているリード棒16と、給電線17は、かしめ部材18に溶接されることによって電気的に接続されている。この給電線17は、反射鏡31の給電線用開口部35を通って、反射鏡31の外部に延ばされ、不図示の外部回路に電気的に接続される。
【0029】
ここで、リード棒16と給電線17の接続は前述のように行われているので、ランプユニット30を輸送中、あるいは、点灯中に給電線17に加わった振動がリード棒16にも伝達され、封止部12aが破損したり、リード棒16と金属箔14との接続が外れ導通不良を引き起こす可能性がある。本発明を適用した放電ランプ10は、封止部12aの外端面に低融点ガラスからなる閉塞部が設けられ、リード棒のうち封止部12aの外端面と交差する部分が補強されているので、ランプユニット30を輸送中、あるいは、点灯中に給電線17に振動が加わっても、封止部12aの破損、導通不良が発生する可能性は低いと考えられる。
【0030】
図7において、反射鏡31と前面ガラス34との間に形成された密閉空間38に放電ランプ10が配置されているので、ランプ点灯時において封止部12aは高温となる。特に、放電ランプ10が、液晶プロジェクタ用の超高圧水銀ランプであると、封止部12aは一層高温になる、と考えられる。したがって、本発明を反射鏡に組み込まれた超高圧水銀ランプに適用するとより効果的である。
【0031】
ここで、本発明の作用効果を確認する第2の実験を行うために作製したランプについて説明する。
<実施例>
図1の構成にしたがい、前述の製造方法によって、石英ガラスからなる封止部とモリブデンからなるリード棒の外周面との間の空隙内にルビジウム酸化物からなる封着剤が充填されると共に、封止部の外端面に閉塞部が設けられた放電ランプを3本作製した。尚、図4に示した製造方法は、両側の封止部12a、12bに適用した。
<放電ランプ>
発光管部の最大外径、内容積:10.0mm、85mm
封止部の長さ、最大外径、:18mm、6mm
リード棒の長さ、外径:40mm、0.7mm
金属箔の長さ、幅:10mm、1.5mm
定格電圧:75V
定格電力:150W
封入水銀量:約20mg
【0032】
上記実施例の放電ランプを用いた第2の実験について説明する。実験は、実施例のランプを図7に示すように反射鏡に組み込んでランプユニットとし、この状態で165分間点灯させた後、15分間消灯させる、という試行を繰り返し行い、不点灯に至るまでの時間を確認した。同時に封止部のクラック等の不具合の有無を目視にて観察した。この場合に、前面ガラス34側の封止部12aの温度は、570℃であった。
その結果、実施例の放電ランプ3本は、それぞれ、930時間、1040時間、1040時間経過後も点灯は良好で、封止部の外観も問題のないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るランプの構成を示す図である。
【図2】本発明に係るランプの封止部を拡大した図である。
【図3】本発明に係る他のランプの構成を示す図である。
【図4】本発明に係るランプの製造方法を説明する図である。
【図5】DTA転移温度について説明する図である。
【図6】実験結果を説明する図である。
【図7】本発明に係るランプを組み込んだランプユニットの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 放電ランプ
11 発光部
12 封止部
13 放電容器
14 金属箔
15 電極
16 リード棒
17 給電線
18 かしめ部材
20 白熱電球
21 発光部
22 封止部
23 ランプ容器
24 金属箔
25 フィラメント
26 リード棒
30 ランプユニット
31 反射鏡
32 開口部
33 出射方向
34 前面ガラス
35 給電線用開口部
36 頂部
37 口金
38 密閉空間
100 封着剤
121 外端面
200 閉塞部
1000 第1ピーク
1100 第2ピーク
1200 第3ピーク
G 空隙
A 曲線
B 直線
g 基端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなる箔シールランプにおいて、
前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にはルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤が充填されていることを特徴とする箔シールランプ。
【請求項2】
モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなる箔シールランプにおいて、
前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にはルビジウム硝酸塩の水溶液あるいはセシウム硝酸塩の水溶液を封入して熱処理することによりルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤が充填されていることを特徴とする箔シールランプ。
【請求項3】
モリブデンからなる金属箔が埋設された封止部を有し透光性材料からなるランプ容器と、この金属箔の一端に接続された発光機構部と、この金属箔の他端に接続された外方に伸びるリード棒からなる箔シールランプの製造方法において、
前記封止部内の前記リード棒の外周に形成された空隙にルビジウム硝酸塩の水溶液あるいはセシウム硝酸塩の水溶液を注入する工程と、該水溶液を乾燥させてルビジウム硝酸塩あるいはセシウム硝酸塩を析出させる工程と、前記ルビジウム硝酸塩あるいはセシウム硝酸塩を熱分解させてルビジウム酸化物あるいはセシウム酸化物からなる封着剤を生成する工程と、を有することを特徴とする箔シールランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−66308(P2008−66308A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273362(P2007−273362)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【分割の表示】特願2003−109326(P2003−109326)の分割
【原出願日】平成15年4月14日(2003.4.14)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】