管内面に対するウォータージェットピーニングによる残留応力改善方法及びその装置
【課題】管内面にウォータージェットピーニングを適用するに際して、成長したキャビテーション気泡の崩壊を管内面において発生させることにより管内面の残留応力を改善する。
【解決手段】両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、管の一端を閉止し、管の他端から噴射ノズルを挿入し、噴射ノズルに供給された液体を管の軸芯に対して9°以内の傾斜で噴射ノズルから管内部へ噴射することにより、噴射ノズルから噴射された液体を管内部において逆流させ、液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する。ノズル噴射穴から管内面までの衝突距離を、キャビテーションが成長する距離とすることができ、成長したキャビテーションを管内面に衝突させることができる。その結果、キャビテーションが崩壊する際の衝撃圧を管内面に与えることができ、管内面の残留応力を改善することができる。
【解決手段】両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、管の一端を閉止し、管の他端から噴射ノズルを挿入し、噴射ノズルに供給された液体を管の軸芯に対して9°以内の傾斜で噴射ノズルから管内部へ噴射することにより、噴射ノズルから噴射された液体を管内部において逆流させ、液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する。ノズル噴射穴から管内面までの衝突距離を、キャビテーションが成長する距離とすることができ、成長したキャビテーションを管内面に衝突させることができる。その結果、キャビテーションが崩壊する際の衝撃圧を管内面に与えることができ、管内面の残留応力を改善することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料表面にキャビテーション気泡を含む高圧水を噴射することにより金属材料表面の残留応力を改善する方法及びその装置に係り、特に、管内面の残留応力を改善する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料表面の残留応力を改善する方法として、キャビテーション気泡を含む高圧水を利用するウォータージェットピーニング(以下「WJP」という。)法がある(特許文献1参照。)。WJP法は、金属材料表面にキャビテーション気泡を含む高圧水を噴射し、キャビテーション気泡が崩壊する際の衝撃圧を金属材料表面に与えることにより、金属材料表面の残留応力を改善する方法である。
【0003】
しかし、本発明に係るWJPの適用対象は管(中空円筒形状)内面という特殊形状の部位であり、また当該部位は大変狭隘であるため、当該部位に特許文献1記載のWJPを適用し残留応力を改善することは大変困難である。さらに、特許文献1記載の従来技術は、自由水中環境下におけるWJPの適用を前提にしており、管内面のような中空円筒形状内部という特殊形状で且つ狭隘な環境におけるWJPの適用については何ら考慮されていない。
【0004】
一方、管内面の残留応力を改善する方法として、管内面と高圧水の衝突角度を10°〜20°の範囲とし、且つノズル噴射穴と衝突内面との距離Lを噴射穴径dの1/2〜5倍までの範囲とするノズルを使用する方法が提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、特許文献2記載の従来技術では、ノズル噴射穴から管内面までの衝突距離Lが噴射穴径dの1/2〜5倍までの距離であるため、例えば噴射穴径dを0.8mmとした場合、噴射穴と施工対象となる管内面の衝突距離Lは0.4〜4mmと非常に短くなる。このような短い衝突距離では、高圧水自体の衝撃圧は期待できるものの、近距離で高圧水(高圧ポンプ圧力が70MPaの場合の流速は、約265m/s)が管内面に直接衝突するため、残留応力改善の効果を超えた壊食が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第316204号公報
【特許文献2】特開2000−52247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、管内面にWJPを適用するに際して、成長したキャビテーション気泡の崩壊を管内面において発生させることにより管内面の残留応力を改善する方法及びこれに用いる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、管の一端を閉止し、管の他端から噴射ノズルを挿入し、噴射ノズルに供給された液体を管の軸芯に対して9°以内の傾斜で噴射ノズルから管内部へ噴射することにより、噴射ノズルから噴射された液体を管内部において逆流させ、液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、噴射ノズルから管内面までの衝突距離をキャビテーション気泡が成長する距離とすることができ、成長したキャビテーション気泡を管内面に衝突させることができる。その結果、キャビテーションが崩壊する際の衝撃圧を管内面に与えることができ、管内面の残留応力を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施例で用いるWJP装置の構成図。
【図2】ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と金属材料の壊食量との関係を示す図。
【図3】壊食試験後のアルミニウム平板表面の状態を示す図。
【図4】ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と油性インクの剥離面積との関係を示す図。
【図5】第1の実施例で用いる噴射ノズル1の構造を示す図であり、図5(1)は噴射ノズル1の外観、図5(2)は図5(1)のA−A断面を示している。
【図6】管の一端の開口部を閉止して、管内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図。
【図7】噴射ノズルから噴射する高圧水が管の軸芯に対して角度を有している場合の噴流の模式図。
【図8】一端の開口部を閉止した管と両端を開放した管に対してWJPを施行した場合のWJPの効果の比較を行った試験結果を示す図。
【図9】高圧水の噴射角度を管の軸芯に対して20°傾斜させた噴射ノズルを使用してWJPを施工した場合のWJPの効果を確認した試験結果を示す図。
【図10】本発明によるWJPを適用した金属材料表面の残留応力改善の効果を確認した試験結果を示す図。
【図11】第2の実施例で用いるWJP装置の構成図。
【図12】管の一端の開口部から液体を注入しながら、管内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図。
【図13】キャビテーション気泡の最大広がり径85の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者は、スタンドオフと残留応力を改善するための衝撃圧との関係(壊食試験(図2))及びスタンドオフと残留応力を改善できる範囲との関係(剥離試験(図4))についての実験結果から、キャビテーション気泡の衝撃圧により残留応力を改善するためには、適切なスタンドオフを保つことが必要であることを確認した。その実験方法と結果について以下に説明する。
【0012】
図2は、ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と金属材料の壊食量との関係を示す図である。横軸はノズル噴射穴から金属材料表面までの距離(スタンドオフ)であり、縦軸はWJPによる金属材料の壊食量である。壊食は噴射ノズルから噴射された高圧水及び高圧水に含まれるキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により生じるため、壊食量が大きいほど衝撃圧が大きいということができる。金属材料として、板厚が10mmのアルミニウム平板を用いた。試験は、自由水中環境下において、高圧水をアルミニウム平板に対して垂直に噴射させてWJPを行うことにより実施した。試験の条件は、高圧水を噴射ノズルへ供給する高圧ポンプの圧力を70MPa、高圧水の流量を毎分8リットル、WJPの施工時間を2分間とした。本試験で用いた噴射ノズルは、内径(ノズル噴射穴の径)がΦ0.8であり、先端の角度が90°である。
【0013】
壊食量は、スタンドオフが10mmの条件で0.27g、30mmの条件で0.11g、50mmの条件で0.04g、70mmの条件で0.01g、90mm,130mm,170mm,190mmの条件では0gであった。実験結果より、スタンドオフが30mm以上となると、スタンドオフの距離に対する壊食量の減少が緩やかになることがわかった。これは、スタンドオフが長くなるにつれて高圧水自身が衝突することによる壊食は減少するが、キャビテーション気泡が成長することにより、キャビテーション気泡が崩壊する際の衝撃圧がより強くなったためだと考えられる。一方、スタンドオフが10mmの条件では高圧水の衝撃圧(ノズル吐出部での流速は約265m/sとなる。)により板厚10mmのアルミニウム平板を貫通する壊食が確認された。図3は、壊食試験(図2)後のアルミニウム平板表面の状態を示している。スタンドオフが10mmの場合には、WJPの高圧水による壊食により、板厚10mmのアルミニウム平板が貫通していることがわかる。従って、スタンドオフが短すぎる場合は、高圧水自体による壊食が大きすぎ、被加工物に悪影響を与え実際の施行には適さないと考えられる。また、スタンドオフが70mmではキャビテーション気泡は成長するが高圧水自体の衝撃圧が弱まるため、壊食量が減少していると考えられる。さらに、スタンドオフが90mm以上の条件では壊食が確認されなかったが、これは、スタンドオフが90mm以上では成長したキャビテーション気泡のうち消滅してしまうものもあり、アルミニウム平板に対して壊食が発生するほどの衝撃圧が与えられなかったためだと予想される。
【0014】
壊食試験(図2及び図3)の結果より、スタンドオフを30mm以上とすることにより、金属材料表面に衝突するまでにキャビテーション気泡を十分に成長させることができ、且つ、高圧水自体による壊食を避けることができる。また、より好ましくは、スタンドオフを30mm以上90mm以下とすることにより、キャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧をより効率よく金属材料表面に与えることができる。
【0015】
図4は、ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と金属材料表面に塗布した油性インクがWJPにより剥離した面積との関係を示す図である。横軸はノズル噴射穴から金属材料表面までの距離(スタンドオフ)であり、縦軸はWJPにより金属材料表面の油性インクが剥離した面積である。油性インクの剥離は高圧水及び高圧水に含まれるキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により生じるため、油性インクの剥離面積が残留応力を改善できる範囲といえる。金属材料として、板厚が10mmのアルミニウム平板を用いた。試験は、自由水中環境下において、予め油性インクを塗布したアルミニウム平板に対して高圧水を垂直に噴射させてWJPを行うことにより実施した。用いた金属材料及び試験の条件等は壊食試験(図2)と同様であるので、説明は省略する。
【0016】
油性インクの剥離面積は、スタンドオフが10mmの条件で約80mm2、スタンドオフが30mmの条件で約300mm2、スタンドオフが50mmの条件で約1200mm2、スタンドオフが70mmの条件で約2000mm2、スタンドオフが90mmの条件で約1800mm2、スタンドオフが130mmの条件で約1800mm2、スタンドオフが170mmの条件で約700mm2、スタンドオフが190mmの条件で約0mm2となり、スタンドオフが70mmまでは、スタンドオフが長くなるとともに油性インクの剥離面積も大きくなる傾向を示した。また、スタンドオフが30mm以上で油性インクの剥離面積が急激に上昇していることから、スタンドオフが30mm以上でより効率的に衝撃圧を与えることができると考えられる。これは、スタンドオフが30mm以上の場合には、成長したキャビテーション気泡がアルミニウム平板に衝突するためだと考えられる。
【0017】
剥離試験(図4)の結果より、スタンドオフが190mm未満であれば金属表面に衝撃圧を与えることができ、より好ましくはスタンドオフを30mm以上とすることにより、より効率的にキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を与えることができる。
【0018】
また、剥離試験(図4)の結果に加え壊食試験(図2及び図3)の結果を考慮すると、より効率よく成長したキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を付与するためには、スタンドオフは30mm以上で90mm以下が適切であり、より好ましくは50mm程度であるということができる。スタンドオフを50mm程度とすれば、キャビテーション気泡の崩壊に
よる衝撃圧と残留応力を改善できる範囲の最適化を図ることができる。
【0019】
以上、壊食試験(図2)及び剥離試験(図4)の結果から、キャビテーション気泡が成長するためには、ノズル噴射穴からWJPを適用する金属材料表面までの距離を十分(30mm〜90mm程度)に保つ必要があると考えられる。つまり、管内面をWJPの適用対象とする場合、管の軸芯に対して傾斜させて高圧水を管内面に直接噴射したのでは、キャビテーション気泡を成長させることができず残留応力の十分な改善を得られない可能性があり、また、激しい壊食を起こす恐れがある。発明者は、中空円筒形状という特殊形状で且つ狭隘な部位である管内面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することにより管内面の残留応力を改善する方法及びこれに用いる装置について新たな知見を得た。当該方法及び装置を用いることにより、キャビテーション気泡を包含した液体の流れを管内面に沿って形成でき、キャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を管内面に沿って与えることができる。以下図1及び図5から図12を用いて、当該方法及び装置について説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明による管内面の残留応力改善方法及びその装置に関する第1の実施例を、図1及び図5から図10を用いて説明する。本実施例は、管の一端を閉止することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の流れを逆流させ、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保するとともに、成長したキャビテーション気泡を有する高圧水の流れを管内面に沿って形成させ、管内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させるものである。
【0021】
図1は、第1の実施例で用いるWJP装置の構成図を示している。本実施例においては、タンク2内の水中環境下においてWJPを行う。本実施例で用いるWJP装置は、管内面に衝撃圧を与えるための高圧水を噴射する噴射ノズル1,当該高圧水を噴射ノズル1に供給する高圧水供給装置7,噴射ノズル1と高圧水供給装置7とをつなぐ高圧ホース8,WJPを適用する被加工物10(管40)を保持する保持装置9,液体を保持するタンク2,管40の一端を閉止する閉止装置12,噴射ノズル1を移動させる噴射ノズル駆動装置11,管40を移動させる被加工物駆動装置14、並びに噴射ノズル駆動装置11,被加工物駆動装置14及び高圧水供給装置7を制御する制御装置15から構成される。
【0022】
ここで、高圧水供給装置7は高圧ポンプ3,流量計4,圧力計5及び開閉バルブ6から構成される。開閉バルブ6を開とし、高圧ポンプ3を起動することにより、高圧ホース8を介して、高圧水供給装置7から噴射ノズル1に高圧水が供給される。
【0023】
閉止装置12は液体シリンダ30及び閉止板31を備える。液体シリンダ30を駆動し、閉止板31を管40の一端(噴射ノズル1を挿入する開口部と反対側の開口部)に押し付けることにより、管40の一端の開口部を閉止する。尚、液体シリンダ30は気体シリンダ等でも良い。閉止装置12はシリンダ等に限られず、管40の一端を閉止することができる機能を有していればよい。
【0024】
噴射ノズル駆動装置11はネジ駆動及びスライドガイドを備え、モータ駆動により移動できるX軸移動装置16,Y軸移動装置17,Z軸移動装置18から構成される。噴射ノズル駆動装置11により、噴射ノズル1をX,Y,Z軸方向に移動させることができる。
【0025】
被加工物駆動装置14は、ギア及びモータ駆動を備え、モータ駆動により駆動されるθ方向(周方向)回転装置を有する。被加工物駆動装置14により、管40をθ方向に回転させることができる。
【0026】
以下、本実施例による管内面の残留応力改善の作業工程を説明する。本実施例では、被加工物10として、両端が開口している中空円筒形状の管40を用いる。
【0027】
まず、タンク2内に水を満たす(S1)。次に、管40を保持装置9に保持させることにより、管40を所定の位置に据え付ける(S2)。その後、閉止装置12の液体シリンダ30を駆動することにより、閉止板31を管40の一端に押し付け、管40の一端を閉止する(S3)。また、噴射ノズル駆動装置11のX軸移動装置16及びY軸移動装置17により、噴射ノズル1を管40の上方に移動させ、噴射ノズル1の軸芯80と管40の軸芯50とを一致させる(S4)。その後、噴射ノズル駆動装置11のZ軸移動装置16により、噴射ノズル1を管40内に挿入する(S5)。
【0028】
図5に、本実施例で用いる噴射ノズル1の構造を示す。図5(1)は噴射ノズル1の外観を示しており、図5(2)は図5(1)のA−A断面図である。噴射ノズル1は、噴射ノズル1の周方向に3つの突起部19を有する。噴射ノズル1の軸芯80から突起部19先端までの長さ(ノズル外径A)は管40の軸芯から内面までの長さと一致させるか、又は短くさせる。噴射ノズル1が突起部19を有することにより、突起部19が管40内面に接した状態(又はこれに近い状態)で、噴射ノズル1を管40内の上下方向に移動させることができる。このため、噴射ノズル1と管40との軸芯を略一致させたまま噴射ノズル1を上下方向に移動させることができ、管40内面の周方向に残留応力分布の偏りが生じることを回避することができる。噴射ノズル1は、例えば、ノズル外径AがΦ6、内径BがΦ4、出口部の径がΦ0.8、先端の角度が90°とすることができる。尚、噴射ノズル1は周方向に3つの突起部19を有するが、3つ以上であれば、噴射ノズル1と管40との軸芯を略一致させたまま、噴射ノズル1を上下方向に移動させることができる。
【0029】
次に、管40内面にWJPを施行する(S6)。具体的には、以下の手順で行う。まず、開閉バルブ6を開とし高圧ポンプ3を起動させる。これにより、高圧ホース8を介して、高圧水供給装置7から噴射ノズル1に高圧水を供給する(S6−1)。噴射ノズル1に供給された高圧水は、ノズル噴射穴から管40の軸芯50(又は噴射ノズル1の軸芯80)方向に噴射される(S6−2)。噴射した高圧水内では、圧力の低下によりキャビテーション気泡が成長する。この高圧水及びキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を管40内面に与えることにより、管40内面の引張応力を圧縮応力に変え、残留応力を改善することができる。
【0030】
図6は、管40の一端の開口部を閉止して管40内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図を示している。噴射ノズル1から噴射された高圧水はキャビテーション気泡を同伴し、管40の軸芯50(又は噴射ノズル1の軸芯80)上を進行するが、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部(噴射ノズル1を挿入する開口部と反対側の開口部)90は閉止されているため、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)は、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流することになる。ここで、噴射ノズル1から噴射した高圧水は管40の軸芯50上を進行するため、逆流した噴流は管40の軸芯50上の周囲である管40の内面に沿って進行(逆流)する。噴流を逆流させることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面に沿ってキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。
【0031】
図6では、閉止装置12により管40の一端を完全に閉止した状態を示したが、管40の一端は完全に閉止される必要はない。つまり、S3(管40の一端の閉止)においても管の一端は完全に閉止される必要はなく、噴射ノズル1から噴射された高圧水が閉止板31に衝突し、結果として、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)が噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流が生じる環境を形成できれば、管40の一端を完全に閉止した場合と同様に、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。
【0032】
次に、S6−2に記載のWJPを施工しながら、噴射ノズル駆動装置11のZ軸移動装置16により、噴射ノズル1を上下方向に移動させる(S6−3)。噴射ノズル1を上下方向に移動させることにより、管40内面の軸方向の残留応力分布を均一にすることができる。また、上下方向の移動とともに、被加工物駆動装置14により、管40をθ方向に回転させる(S6−4)。管40をθ方向に回転させることにより、管40内面の周方向の残留応力分布を均一にすることができる。管40内面全体の残留応力を改善させた後、高圧ポンプ3の起動を停止し、開閉バルブ6を閉とすることにより、噴射ノズル1への高圧水の供給を停止する(S6−5)。
【0033】
ここで、キャビテーション気泡が成長するための距離を確保し、管40内面に沿った流れを形成するためには、噴射ノズル1から噴射する高圧水は管40の軸芯50上を進行させることが望ましいが、管40内面に衝突するまでにキャビテーション気泡が成長するための距離を確保することができれば、管40の軸芯50に対して角度を有していても良い。図7は、噴射ノズル1から噴射する高圧水が管40の軸芯50に対して角度を有している場合の噴流の模式図を示している。図7では、管40の内径をΦ9.5とした。この場合、キャビテーション気泡を成長させるためのスタンドオフを30mm確保するためには、最大噴射角度θmaxはsinθmax=(9.5/2)/30よりθmax=約9°となる。従って、本条件でWJPを施工する場合は、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して角度を有していても、その角度が9°以下であれば、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができる。また、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜であれば、被加工物に悪影響を与えないような壊食を避けることができる。さらに、より好ましくスタンドオフを50mmとするためには、最大噴射角度θmaxはsinθmax=(9.5/2)/50よりθmax=約5°となる。従って、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して5°以下とすれば、キャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧と残留応力を改善できる範囲の最適化を図ることができる。
【0034】
その後、噴射ノズル1を管40内部から抜き出すとともに、管40を保持装置から取り出して、本発明の第1の実施例におけるWJPの作業工程を終了する(S7)。
【0035】
尚、本実施例で用いたWJP装置のうち、噴射ノズル1,高圧水供給装置7,保持装置9,閉止装置12,噴射ノズル駆動装置11及び制御装置15を有していれば、噴射ノズル1から噴射した高圧水を管40内部で逆流させ、本実施例によるWJPを実施することが可能である。従って、被加工物駆動装置14等は必須の構成ではない。
【0036】
上記第1の実施例によれば、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部90を閉止することにより、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)を噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流させることができる。その結果、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができ、管内面にキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を与えることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水を管40の軸芯50上に進行させることにより管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面に沿ってキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜で噴射されることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、被加工物に悪影響を与えないような壊食を避けることができる。
【0037】
図8に、一端の開口部を閉止した管と両端を開放した管に対してWJPを施行した場合のWJPの効果の比較を行った試験結果を示す。
【0038】
図8(1)は、試験で用いた試験体30の形状を示しており、内部にΦ9.5の円柱状の空間をもたせることにより、内径Φ9.5の管を模擬している。図8(2)は、図8(1)のA−A断面図であり、試験体30の断面図を示している。試験体30は、管内径中心線で分割された模擬試験片31及び模擬試験片32が組合わされている。
【0039】
試験は、試験体30の管内面に相当する部分25に予め油性インク21を塗布し、WJP施工後の油性インク21の剥離状態を観察することにより、WJPの効果を確認した。試験の条件は、高圧ポンプの圧力を70MPa、高圧水の流量を8l/minとし、噴射ノズルとして先に述べた図5に示す構造の噴射ノズル1を使用した。また、WJPの施工は、噴射ノズル1の軸芯80と試験体30の軸芯51とを一致させ、噴射ノズル1を、試験体30の軸芯51上を平行移動させることにより行った。
【0040】
図8(3)は、一端の開口部を閉止した管(試験体30)に対してWJPを施工した場合の、WJPの効果を示した図であり、WJP施工後の模擬試験片31の分割面(図8(2)のB−B断面)を示している。管(試験体30)の一端の開口部を閉止した状態でWJPを施工した場合には、管内面に相当する部分25の油性インク21が完全に剥離していることがわかる。
【0041】
図8(4)は、両端を開放した管(試験体30)に対してWJPを施工した場合の、WJPの効果を示した図であり、WJP施工後の模擬試験片31の分割面(図8(2)のB−B断面)を示している。管(試験体30)の両端を開放した状態でWJPを施工した場合には、噴射ノズル1挿入部付近では油性インク21が剥離しているが、他の部位については殆ど剥離していないことが確認された。
【0042】
上記試験の結果から、噴射ノズル1から噴射される高圧水の進行方向70の開口部90を閉止することにより、管40内面に対して、キャビテーション気泡の崩壊時の衝撃圧を利用したウォータージェットピーニングの施工が可能であることが確認された。噴射ノズル1から噴射される高圧水の進行方向70の開口部を閉止することにより、管40内の噴流の全体的な流れは、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流することになる。噴射ノズル1から噴射した高圧水は管40の軸芯50上を進行するため、逆流した噴流は管40の軸芯50上の周囲、つまり管40の内面に沿って進行(逆流)することになる。噴流を逆流させることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面でキャビテーション気泡の崩壊が発生することになる。一方、噴射ノズル1から噴射される高圧水の進行方向70の開口部が開放されている場合は逆流が生じず、キャビテーション気泡は噴射ノズル1から噴射された高圧水と共に下流側に流れてしまう。
【0043】
図9に、高圧水の噴射角度を管40の軸芯50(試験体30の軸芯51)に対して20°傾斜させた噴射ノズルを使用してWJPを施工した場合のWJPの効果を確認した試験結果を示す。試験は図8で行った試験と同様の条件及び試験体30で行った。試験体30の両端の開口部は開放した状態であり、閉止していない。
【0044】
図9(1)は模擬試験片31の分割面(図8(2)のB−B断面)を示しており、図9(2)は模擬試験片32の分割面(図8(2)のC−C断面)を示している。試験は、高圧水の噴射角度を試験体30の軸芯51に対して模擬試験片31側に20°傾斜させた噴射ノズルを使用して行った。
【0045】
図9(1)から、高圧水の噴射角度を20°傾斜させた模擬試験片31側の管内面に相当する部分25に塗布された油性インク21は、そのほとんどが剥離していることがわかる。しかし、内径Φ9.5の管内面に対して、噴射角度を20°傾斜させてWJPを施工した場合、噴射ノズルの噴射穴から管40内面までの距離は約14mmと短く、キャビテーション気泡は十分に成長しないものと考えられる。従って、この油性インク21の剥離は、キャビテーション気泡の崩壊によるものではなく、高圧水の衝撃圧によるものと考えられる。一方、模擬試験片32側の管内面に相当する部分25に塗布された油性インク21は、高圧水の衝撃圧が与えられず、殆ど剥離していないことが確認された。
【0046】
図10は、本発明によるWJPを適用した金属材料表面の残留応力改善の効果を確認した試験結果を示しており、本発明によるWJPの施工前及び施工後の残留応力の測定値を示している。図10の横軸は試験体右端からの距離であり、縦軸は残留応力を示している。縦軸の値が小さいほど、圧縮残留応力が改善されていることを示している。試験では、長さが270mm、内径がΦ9.5のステンレス製の試験体を用いた。
【0047】
試験結果から、本発明のWJPによる残留応力改善方法により、WJP施工前に約−100MPaであった残留応力が施工後には−350MPa〜−450MPaに改善されていることが確認できた。
【0048】
尚、キャビテーション気泡の広がりが最大である部分を広がり部といい、この広がり部の径を広がり径85という。図13に、キャビテーション気泡の最大広がり径85の概念図を示す。管40内径がキャビテーション気泡の広がり径より十分大きい場合は、逆流が発生しても管40内面にキャビテーション気泡が衝突しない可能性がある。さらに確実にキャビテーション気泡を管40内面に衝突させるためには、管40内径よりキャビテーション気泡の広がり径を長くする必要がある。従って噴射ノズル1の選択に際しては、管40の内径を考慮し、管40内面にキャビテーション気泡が衝突する広がり径となるような噴射ノズル1を選択する。
【実施例2】
【0049】
本発明による管内面の残留応力改善方法及びその装置に関する第2の実施例を、図11及び図12を用いて説明する。本実施例は、管の一端から液体を注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の流れを逆流させ、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保するとともに、成長したキャビテーション気泡を有する高圧水の流れを管内面に沿って形成させ、管内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させるものである。
【0050】
図11は、第2の実施例で用いるWJP装置の構成図を示している。本実施例においては、タンク2内の水中環境下においてWJPを行う。本実施例で用いるWJP装置は、第1の実施例で用いるWJP装置において、被加工物10(管40)の一端を閉止する閉止装置12のかわりに、管40の一端から液体を注入するための液体注入装置60を備えていることに特徴がある。つまり、本実施例で用いるWJP装置は、管40内面に衝撃圧を与えるための高圧水を噴射する噴射ノズル1,当該高圧水を噴射ノズル1に供給する高圧水供給装置7,噴射ノズル1と高圧水供給装置7とをつなぐ高圧ホース8,WJPを適用する管40を保持する保持装置9,液体を保持するタンク2,管40の一端から液体を注入する液体注入装置60,管40の一端から注入する液体を液体注入装置60に供給する液体供給装置61,噴射ノズル1を移動させる噴射ノズル駆動装置11,管40を移動させる被加工物駆動装置14、並びに噴射ノズル駆動装置11,被加工物駆動装置14,高圧水供給装置7及び液体供給装置13を制御する制御装置15から構成される。
【0051】
ここで、液体供給装置61は、ポンプ63,流量計64,圧力計65,開閉バルブ66から構成される。開閉バルブ66を開とし、ポンプ63を起動することにより、液体供給装置61から液体注入装置60に液体が供給される。他の構成は、第1の実施例に記載のWJP装置と同様なので、説明を省略する。
【0052】
以下、本実施例による管内面の残留応力改善の作業工程を説明する。本実施例では、被加工物10として、両端が開口している中空円筒形状の管40を用いる。本実施例による作業工程は、第1の実施例による作業工程において、閉止装置12を用いて管40の一端を閉止することにより噴流を逆流させるかわりに、液体注入装置60及び液体供給装置61を用いて管40の一端から液体を注入することにより噴流を逆流させる。
【0053】
まず、タンク2内に水を満たす(S101)。次に、管40を保持装置9に保持させることにより、管40を所定の位置に据え付ける(S102)。管40を据え付けるに際しては、液体注入装置60の図示しないノズル部により管40の一端から液体が注入できるように、管40を保持させる(S103)。その後、噴射ノズル1を管40上方に移動させて噴射ノズル1の軸芯80と管40の軸芯50とを一致させた後(S104)、噴射ノズル1を管40内に挿入する(S105)。詳細な作業手順は第1実施例と同様であるので、詳細な説明は省略する。また、本実施例で用いる噴射ノズル1も、第1の実施例で用いる噴射ノズル1と同様の構造を有するので、説明は省略する。
【0054】
次に、被加工物10である管40の内面にWJPを施行する(S106)。具体的には、以下の手順で行う。まず、開閉バルブ6を開とし高圧ポンプ3を起動させることにより、高圧ホース8を介して、高圧水供給装置7から噴射ノズル1に高圧水を供給する(S106−1)。噴射ノズル1に供給された高圧水は、噴射ノズル1の噴射穴から管40の軸芯50方向(又は噴射ノズル1の軸芯80方向)に噴射される(S106−2)。噴射ノズル1から高圧水を噴射しWJPを施工するに際して、液体注入装置60の図示しないノズルからも管40内に液体を注入する(S106−3)。管40内への液体の注入は、開閉バルブ66を開としポンプ63を起動させることにより、ホースを介して液体供給装置61から液体注入装置60に液体を供給し、液体注入装置60に供給された液体を図示しないノズルから管40内に注入することにより行う。液体注入装置60から液体を管40内に注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水を逆流させる。ここで、噴射ノズル1から噴射した高圧水内では、圧力の低下によりキャビテーション気泡が成長する。この高圧水及びキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を管内面に与えることにより、管内面の引張応力を圧縮応力に変え、残留応力を改善することができる。
【0055】
図12は、被加工物10である管40の一端の開口部から液体を注入しながら、管40内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図を示している。噴射ノズル1から噴射された高圧水はキャビテーション気泡を同伴し、管40の軸芯50上(又は噴射ノズル1の軸芯80上)を進行するが、高圧水の進行方向70の開口部90から液体を注入することにより、管内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)は、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流することになる。ここで、噴射ノズル1から噴射した高圧水は管40の軸芯50上を進行するため、逆流した噴流は管の軸芯50上の周囲である管の内面に沿って進行(逆流)する。噴流を逆流させることにより、キャビテーションが成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管内面に沿った流れを形成でき、管内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。さらに、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部(噴射ノズルを挿入する開口部と反対側の開口部)90から液体を注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流を強制的に生じさせることができ、積極的に高圧水の逆流を制御することができる。
【0056】
次に、S106に記載のWJPを施工しながら、噴射ノズル駆動装置11のZ軸移動装置16により、噴射ノズル1を上下方向に移動させる(S106−4)が、詳細な作業手順は第1実施例と同様であるので省略する。WJP内面全体の残留応力を改善させた後、噴射ノズル1への高圧水の供給及び液体注入装置60への液体の供給を停止する(S6−5)。
【0057】
その後、噴射ノズル1を管40から抜き出すとともに、管40を保持装置から取り出して、WJPの作業工程を終了する(S7)。
【0058】
ここで、第1の実施例と同様に、噴射ノズル1から噴射する高圧水は管40の軸芯50に対して角度を有していても良い。つまり、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して角度を有していても、その角度が9°以下であれば、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができる。また、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜であれば、残留応力改善に適さないような壊食を避けることができる。
【0059】
尚、本実施例で用いたWJPのうち、噴射ノズル1,高圧水供給装置7,保持装置9,液体注入装置60,液体供給装置61,噴射ノズル駆動装置11及び制御装置15を有していれば、噴射ノズル1から噴射した噴流を逆流させ、本実施例によるWJPを実施することが可能である。従って、被加工物駆動装置14等は必須の構成ではない。
【0060】
上記第2の実施例によれば、第1の実施例と同様に、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)を噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流させることができる。その結果、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができ、管内面にキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を与えることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水を管40の軸芯50上に進行させることにより管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面に沿ってキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜で噴射されることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、残留応力改善に適さないような壊食を避けることができる。さらに、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部90(噴射ノズルを挿入する開口部と反対側の開口部)から液体を注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流を強制的に生じさせることができ、積極的に高圧水の逆流を制御することができる。
【0061】
尚、上記各実施例では、被加工物10として両端が開口している管40を用いたが、さらに他の開口部や分岐を有する管であっても、噴射ノズル1から噴射された高圧水の最終的な流れが逆流させることができれば、同様の効果を有することができる。
【0062】
また、WJPの施工は必ずしも水中で行う必要はなく、気中で行うことも可能である。気中で行うことにより、作業性が向上する。
【符号の説明】
【0063】
1…噴射ノズル、2…タンク、7…高圧水供給装置、9…保持装置、10…被加工物、11…噴射ノズル駆動装置、12…閉止装置、14…被加工物駆動装置、15…制御装置、40…管、60…液体注入装置、61…液体供給装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料表面にキャビテーション気泡を含む高圧水を噴射することにより金属材料表面の残留応力を改善する方法及びその装置に係り、特に、管内面の残留応力を改善する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料表面の残留応力を改善する方法として、キャビテーション気泡を含む高圧水を利用するウォータージェットピーニング(以下「WJP」という。)法がある(特許文献1参照。)。WJP法は、金属材料表面にキャビテーション気泡を含む高圧水を噴射し、キャビテーション気泡が崩壊する際の衝撃圧を金属材料表面に与えることにより、金属材料表面の残留応力を改善する方法である。
【0003】
しかし、本発明に係るWJPの適用対象は管(中空円筒形状)内面という特殊形状の部位であり、また当該部位は大変狭隘であるため、当該部位に特許文献1記載のWJPを適用し残留応力を改善することは大変困難である。さらに、特許文献1記載の従来技術は、自由水中環境下におけるWJPの適用を前提にしており、管内面のような中空円筒形状内部という特殊形状で且つ狭隘な環境におけるWJPの適用については何ら考慮されていない。
【0004】
一方、管内面の残留応力を改善する方法として、管内面と高圧水の衝突角度を10°〜20°の範囲とし、且つノズル噴射穴と衝突内面との距離Lを噴射穴径dの1/2〜5倍までの範囲とするノズルを使用する方法が提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、特許文献2記載の従来技術では、ノズル噴射穴から管内面までの衝突距離Lが噴射穴径dの1/2〜5倍までの距離であるため、例えば噴射穴径dを0.8mmとした場合、噴射穴と施工対象となる管内面の衝突距離Lは0.4〜4mmと非常に短くなる。このような短い衝突距離では、高圧水自体の衝撃圧は期待できるものの、近距離で高圧水(高圧ポンプ圧力が70MPaの場合の流速は、約265m/s)が管内面に直接衝突するため、残留応力改善の効果を超えた壊食が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第316204号公報
【特許文献2】特開2000−52247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、管内面にWJPを適用するに際して、成長したキャビテーション気泡の崩壊を管内面において発生させることにより管内面の残留応力を改善する方法及びこれに用いる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、管の一端を閉止し、管の他端から噴射ノズルを挿入し、噴射ノズルに供給された液体を管の軸芯に対して9°以内の傾斜で噴射ノズルから管内部へ噴射することにより、噴射ノズルから噴射された液体を管内部において逆流させ、液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、噴射ノズルから管内面までの衝突距離をキャビテーション気泡が成長する距離とすることができ、成長したキャビテーション気泡を管内面に衝突させることができる。その結果、キャビテーションが崩壊する際の衝撃圧を管内面に与えることができ、管内面の残留応力を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施例で用いるWJP装置の構成図。
【図2】ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と金属材料の壊食量との関係を示す図。
【図3】壊食試験後のアルミニウム平板表面の状態を示す図。
【図4】ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と油性インクの剥離面積との関係を示す図。
【図5】第1の実施例で用いる噴射ノズル1の構造を示す図であり、図5(1)は噴射ノズル1の外観、図5(2)は図5(1)のA−A断面を示している。
【図6】管の一端の開口部を閉止して、管内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図。
【図7】噴射ノズルから噴射する高圧水が管の軸芯に対して角度を有している場合の噴流の模式図。
【図8】一端の開口部を閉止した管と両端を開放した管に対してWJPを施行した場合のWJPの効果の比較を行った試験結果を示す図。
【図9】高圧水の噴射角度を管の軸芯に対して20°傾斜させた噴射ノズルを使用してWJPを施工した場合のWJPの効果を確認した試験結果を示す図。
【図10】本発明によるWJPを適用した金属材料表面の残留応力改善の効果を確認した試験結果を示す図。
【図11】第2の実施例で用いるWJP装置の構成図。
【図12】管の一端の開口部から液体を注入しながら、管内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図。
【図13】キャビテーション気泡の最大広がり径85の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者は、スタンドオフと残留応力を改善するための衝撃圧との関係(壊食試験(図2))及びスタンドオフと残留応力を改善できる範囲との関係(剥離試験(図4))についての実験結果から、キャビテーション気泡の衝撃圧により残留応力を改善するためには、適切なスタンドオフを保つことが必要であることを確認した。その実験方法と結果について以下に説明する。
【0012】
図2は、ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と金属材料の壊食量との関係を示す図である。横軸はノズル噴射穴から金属材料表面までの距離(スタンドオフ)であり、縦軸はWJPによる金属材料の壊食量である。壊食は噴射ノズルから噴射された高圧水及び高圧水に含まれるキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により生じるため、壊食量が大きいほど衝撃圧が大きいということができる。金属材料として、板厚が10mmのアルミニウム平板を用いた。試験は、自由水中環境下において、高圧水をアルミニウム平板に対して垂直に噴射させてWJPを行うことにより実施した。試験の条件は、高圧水を噴射ノズルへ供給する高圧ポンプの圧力を70MPa、高圧水の流量を毎分8リットル、WJPの施工時間を2分間とした。本試験で用いた噴射ノズルは、内径(ノズル噴射穴の径)がΦ0.8であり、先端の角度が90°である。
【0013】
壊食量は、スタンドオフが10mmの条件で0.27g、30mmの条件で0.11g、50mmの条件で0.04g、70mmの条件で0.01g、90mm,130mm,170mm,190mmの条件では0gであった。実験結果より、スタンドオフが30mm以上となると、スタンドオフの距離に対する壊食量の減少が緩やかになることがわかった。これは、スタンドオフが長くなるにつれて高圧水自身が衝突することによる壊食は減少するが、キャビテーション気泡が成長することにより、キャビテーション気泡が崩壊する際の衝撃圧がより強くなったためだと考えられる。一方、スタンドオフが10mmの条件では高圧水の衝撃圧(ノズル吐出部での流速は約265m/sとなる。)により板厚10mmのアルミニウム平板を貫通する壊食が確認された。図3は、壊食試験(図2)後のアルミニウム平板表面の状態を示している。スタンドオフが10mmの場合には、WJPの高圧水による壊食により、板厚10mmのアルミニウム平板が貫通していることがわかる。従って、スタンドオフが短すぎる場合は、高圧水自体による壊食が大きすぎ、被加工物に悪影響を与え実際の施行には適さないと考えられる。また、スタンドオフが70mmではキャビテーション気泡は成長するが高圧水自体の衝撃圧が弱まるため、壊食量が減少していると考えられる。さらに、スタンドオフが90mm以上の条件では壊食が確認されなかったが、これは、スタンドオフが90mm以上では成長したキャビテーション気泡のうち消滅してしまうものもあり、アルミニウム平板に対して壊食が発生するほどの衝撃圧が与えられなかったためだと予想される。
【0014】
壊食試験(図2及び図3)の結果より、スタンドオフを30mm以上とすることにより、金属材料表面に衝突するまでにキャビテーション気泡を十分に成長させることができ、且つ、高圧水自体による壊食を避けることができる。また、より好ましくは、スタンドオフを30mm以上90mm以下とすることにより、キャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧をより効率よく金属材料表面に与えることができる。
【0015】
図4は、ノズル噴射穴から金属材料表面までの距離と金属材料表面に塗布した油性インクがWJPにより剥離した面積との関係を示す図である。横軸はノズル噴射穴から金属材料表面までの距離(スタンドオフ)であり、縦軸はWJPにより金属材料表面の油性インクが剥離した面積である。油性インクの剥離は高圧水及び高圧水に含まれるキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により生じるため、油性インクの剥離面積が残留応力を改善できる範囲といえる。金属材料として、板厚が10mmのアルミニウム平板を用いた。試験は、自由水中環境下において、予め油性インクを塗布したアルミニウム平板に対して高圧水を垂直に噴射させてWJPを行うことにより実施した。用いた金属材料及び試験の条件等は壊食試験(図2)と同様であるので、説明は省略する。
【0016】
油性インクの剥離面積は、スタンドオフが10mmの条件で約80mm2、スタンドオフが30mmの条件で約300mm2、スタンドオフが50mmの条件で約1200mm2、スタンドオフが70mmの条件で約2000mm2、スタンドオフが90mmの条件で約1800mm2、スタンドオフが130mmの条件で約1800mm2、スタンドオフが170mmの条件で約700mm2、スタンドオフが190mmの条件で約0mm2となり、スタンドオフが70mmまでは、スタンドオフが長くなるとともに油性インクの剥離面積も大きくなる傾向を示した。また、スタンドオフが30mm以上で油性インクの剥離面積が急激に上昇していることから、スタンドオフが30mm以上でより効率的に衝撃圧を与えることができると考えられる。これは、スタンドオフが30mm以上の場合には、成長したキャビテーション気泡がアルミニウム平板に衝突するためだと考えられる。
【0017】
剥離試験(図4)の結果より、スタンドオフが190mm未満であれば金属表面に衝撃圧を与えることができ、より好ましくはスタンドオフを30mm以上とすることにより、より効率的にキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を与えることができる。
【0018】
また、剥離試験(図4)の結果に加え壊食試験(図2及び図3)の結果を考慮すると、より効率よく成長したキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を付与するためには、スタンドオフは30mm以上で90mm以下が適切であり、より好ましくは50mm程度であるということができる。スタンドオフを50mm程度とすれば、キャビテーション気泡の崩壊に
よる衝撃圧と残留応力を改善できる範囲の最適化を図ることができる。
【0019】
以上、壊食試験(図2)及び剥離試験(図4)の結果から、キャビテーション気泡が成長するためには、ノズル噴射穴からWJPを適用する金属材料表面までの距離を十分(30mm〜90mm程度)に保つ必要があると考えられる。つまり、管内面をWJPの適用対象とする場合、管の軸芯に対して傾斜させて高圧水を管内面に直接噴射したのでは、キャビテーション気泡を成長させることができず残留応力の十分な改善を得られない可能性があり、また、激しい壊食を起こす恐れがある。発明者は、中空円筒形状という特殊形状で且つ狭隘な部位である管内面にWJPを適用するに際して、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することにより管内面の残留応力を改善する方法及びこれに用いる装置について新たな知見を得た。当該方法及び装置を用いることにより、キャビテーション気泡を包含した液体の流れを管内面に沿って形成でき、キャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を管内面に沿って与えることができる。以下図1及び図5から図12を用いて、当該方法及び装置について説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明による管内面の残留応力改善方法及びその装置に関する第1の実施例を、図1及び図5から図10を用いて説明する。本実施例は、管の一端を閉止することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の流れを逆流させ、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保するとともに、成長したキャビテーション気泡を有する高圧水の流れを管内面に沿って形成させ、管内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させるものである。
【0021】
図1は、第1の実施例で用いるWJP装置の構成図を示している。本実施例においては、タンク2内の水中環境下においてWJPを行う。本実施例で用いるWJP装置は、管内面に衝撃圧を与えるための高圧水を噴射する噴射ノズル1,当該高圧水を噴射ノズル1に供給する高圧水供給装置7,噴射ノズル1と高圧水供給装置7とをつなぐ高圧ホース8,WJPを適用する被加工物10(管40)を保持する保持装置9,液体を保持するタンク2,管40の一端を閉止する閉止装置12,噴射ノズル1を移動させる噴射ノズル駆動装置11,管40を移動させる被加工物駆動装置14、並びに噴射ノズル駆動装置11,被加工物駆動装置14及び高圧水供給装置7を制御する制御装置15から構成される。
【0022】
ここで、高圧水供給装置7は高圧ポンプ3,流量計4,圧力計5及び開閉バルブ6から構成される。開閉バルブ6を開とし、高圧ポンプ3を起動することにより、高圧ホース8を介して、高圧水供給装置7から噴射ノズル1に高圧水が供給される。
【0023】
閉止装置12は液体シリンダ30及び閉止板31を備える。液体シリンダ30を駆動し、閉止板31を管40の一端(噴射ノズル1を挿入する開口部と反対側の開口部)に押し付けることにより、管40の一端の開口部を閉止する。尚、液体シリンダ30は気体シリンダ等でも良い。閉止装置12はシリンダ等に限られず、管40の一端を閉止することができる機能を有していればよい。
【0024】
噴射ノズル駆動装置11はネジ駆動及びスライドガイドを備え、モータ駆動により移動できるX軸移動装置16,Y軸移動装置17,Z軸移動装置18から構成される。噴射ノズル駆動装置11により、噴射ノズル1をX,Y,Z軸方向に移動させることができる。
【0025】
被加工物駆動装置14は、ギア及びモータ駆動を備え、モータ駆動により駆動されるθ方向(周方向)回転装置を有する。被加工物駆動装置14により、管40をθ方向に回転させることができる。
【0026】
以下、本実施例による管内面の残留応力改善の作業工程を説明する。本実施例では、被加工物10として、両端が開口している中空円筒形状の管40を用いる。
【0027】
まず、タンク2内に水を満たす(S1)。次に、管40を保持装置9に保持させることにより、管40を所定の位置に据え付ける(S2)。その後、閉止装置12の液体シリンダ30を駆動することにより、閉止板31を管40の一端に押し付け、管40の一端を閉止する(S3)。また、噴射ノズル駆動装置11のX軸移動装置16及びY軸移動装置17により、噴射ノズル1を管40の上方に移動させ、噴射ノズル1の軸芯80と管40の軸芯50とを一致させる(S4)。その後、噴射ノズル駆動装置11のZ軸移動装置16により、噴射ノズル1を管40内に挿入する(S5)。
【0028】
図5に、本実施例で用いる噴射ノズル1の構造を示す。図5(1)は噴射ノズル1の外観を示しており、図5(2)は図5(1)のA−A断面図である。噴射ノズル1は、噴射ノズル1の周方向に3つの突起部19を有する。噴射ノズル1の軸芯80から突起部19先端までの長さ(ノズル外径A)は管40の軸芯から内面までの長さと一致させるか、又は短くさせる。噴射ノズル1が突起部19を有することにより、突起部19が管40内面に接した状態(又はこれに近い状態)で、噴射ノズル1を管40内の上下方向に移動させることができる。このため、噴射ノズル1と管40との軸芯を略一致させたまま噴射ノズル1を上下方向に移動させることができ、管40内面の周方向に残留応力分布の偏りが生じることを回避することができる。噴射ノズル1は、例えば、ノズル外径AがΦ6、内径BがΦ4、出口部の径がΦ0.8、先端の角度が90°とすることができる。尚、噴射ノズル1は周方向に3つの突起部19を有するが、3つ以上であれば、噴射ノズル1と管40との軸芯を略一致させたまま、噴射ノズル1を上下方向に移動させることができる。
【0029】
次に、管40内面にWJPを施行する(S6)。具体的には、以下の手順で行う。まず、開閉バルブ6を開とし高圧ポンプ3を起動させる。これにより、高圧ホース8を介して、高圧水供給装置7から噴射ノズル1に高圧水を供給する(S6−1)。噴射ノズル1に供給された高圧水は、ノズル噴射穴から管40の軸芯50(又は噴射ノズル1の軸芯80)方向に噴射される(S6−2)。噴射した高圧水内では、圧力の低下によりキャビテーション気泡が成長する。この高圧水及びキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を管40内面に与えることにより、管40内面の引張応力を圧縮応力に変え、残留応力を改善することができる。
【0030】
図6は、管40の一端の開口部を閉止して管40内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図を示している。噴射ノズル1から噴射された高圧水はキャビテーション気泡を同伴し、管40の軸芯50(又は噴射ノズル1の軸芯80)上を進行するが、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部(噴射ノズル1を挿入する開口部と反対側の開口部)90は閉止されているため、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)は、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流することになる。ここで、噴射ノズル1から噴射した高圧水は管40の軸芯50上を進行するため、逆流した噴流は管40の軸芯50上の周囲である管40の内面に沿って進行(逆流)する。噴流を逆流させることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面に沿ってキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。
【0031】
図6では、閉止装置12により管40の一端を完全に閉止した状態を示したが、管40の一端は完全に閉止される必要はない。つまり、S3(管40の一端の閉止)においても管の一端は完全に閉止される必要はなく、噴射ノズル1から噴射された高圧水が閉止板31に衝突し、結果として、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)が噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流が生じる環境を形成できれば、管40の一端を完全に閉止した場合と同様に、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。
【0032】
次に、S6−2に記載のWJPを施工しながら、噴射ノズル駆動装置11のZ軸移動装置16により、噴射ノズル1を上下方向に移動させる(S6−3)。噴射ノズル1を上下方向に移動させることにより、管40内面の軸方向の残留応力分布を均一にすることができる。また、上下方向の移動とともに、被加工物駆動装置14により、管40をθ方向に回転させる(S6−4)。管40をθ方向に回転させることにより、管40内面の周方向の残留応力分布を均一にすることができる。管40内面全体の残留応力を改善させた後、高圧ポンプ3の起動を停止し、開閉バルブ6を閉とすることにより、噴射ノズル1への高圧水の供給を停止する(S6−5)。
【0033】
ここで、キャビテーション気泡が成長するための距離を確保し、管40内面に沿った流れを形成するためには、噴射ノズル1から噴射する高圧水は管40の軸芯50上を進行させることが望ましいが、管40内面に衝突するまでにキャビテーション気泡が成長するための距離を確保することができれば、管40の軸芯50に対して角度を有していても良い。図7は、噴射ノズル1から噴射する高圧水が管40の軸芯50に対して角度を有している場合の噴流の模式図を示している。図7では、管40の内径をΦ9.5とした。この場合、キャビテーション気泡を成長させるためのスタンドオフを30mm確保するためには、最大噴射角度θmaxはsinθmax=(9.5/2)/30よりθmax=約9°となる。従って、本条件でWJPを施工する場合は、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して角度を有していても、その角度が9°以下であれば、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができる。また、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜であれば、被加工物に悪影響を与えないような壊食を避けることができる。さらに、より好ましくスタンドオフを50mmとするためには、最大噴射角度θmaxはsinθmax=(9.5/2)/50よりθmax=約5°となる。従って、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して5°以下とすれば、キャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧と残留応力を改善できる範囲の最適化を図ることができる。
【0034】
その後、噴射ノズル1を管40内部から抜き出すとともに、管40を保持装置から取り出して、本発明の第1の実施例におけるWJPの作業工程を終了する(S7)。
【0035】
尚、本実施例で用いたWJP装置のうち、噴射ノズル1,高圧水供給装置7,保持装置9,閉止装置12,噴射ノズル駆動装置11及び制御装置15を有していれば、噴射ノズル1から噴射した高圧水を管40内部で逆流させ、本実施例によるWJPを実施することが可能である。従って、被加工物駆動装置14等は必須の構成ではない。
【0036】
上記第1の実施例によれば、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部90を閉止することにより、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)を噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流させることができる。その結果、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができ、管内面にキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を与えることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水を管40の軸芯50上に進行させることにより管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面に沿ってキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜で噴射されることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、被加工物に悪影響を与えないような壊食を避けることができる。
【0037】
図8に、一端の開口部を閉止した管と両端を開放した管に対してWJPを施行した場合のWJPの効果の比較を行った試験結果を示す。
【0038】
図8(1)は、試験で用いた試験体30の形状を示しており、内部にΦ9.5の円柱状の空間をもたせることにより、内径Φ9.5の管を模擬している。図8(2)は、図8(1)のA−A断面図であり、試験体30の断面図を示している。試験体30は、管内径中心線で分割された模擬試験片31及び模擬試験片32が組合わされている。
【0039】
試験は、試験体30の管内面に相当する部分25に予め油性インク21を塗布し、WJP施工後の油性インク21の剥離状態を観察することにより、WJPの効果を確認した。試験の条件は、高圧ポンプの圧力を70MPa、高圧水の流量を8l/minとし、噴射ノズルとして先に述べた図5に示す構造の噴射ノズル1を使用した。また、WJPの施工は、噴射ノズル1の軸芯80と試験体30の軸芯51とを一致させ、噴射ノズル1を、試験体30の軸芯51上を平行移動させることにより行った。
【0040】
図8(3)は、一端の開口部を閉止した管(試験体30)に対してWJPを施工した場合の、WJPの効果を示した図であり、WJP施工後の模擬試験片31の分割面(図8(2)のB−B断面)を示している。管(試験体30)の一端の開口部を閉止した状態でWJPを施工した場合には、管内面に相当する部分25の油性インク21が完全に剥離していることがわかる。
【0041】
図8(4)は、両端を開放した管(試験体30)に対してWJPを施工した場合の、WJPの効果を示した図であり、WJP施工後の模擬試験片31の分割面(図8(2)のB−B断面)を示している。管(試験体30)の両端を開放した状態でWJPを施工した場合には、噴射ノズル1挿入部付近では油性インク21が剥離しているが、他の部位については殆ど剥離していないことが確認された。
【0042】
上記試験の結果から、噴射ノズル1から噴射される高圧水の進行方向70の開口部90を閉止することにより、管40内面に対して、キャビテーション気泡の崩壊時の衝撃圧を利用したウォータージェットピーニングの施工が可能であることが確認された。噴射ノズル1から噴射される高圧水の進行方向70の開口部を閉止することにより、管40内の噴流の全体的な流れは、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流することになる。噴射ノズル1から噴射した高圧水は管40の軸芯50上を進行するため、逆流した噴流は管40の軸芯50上の周囲、つまり管40の内面に沿って進行(逆流)することになる。噴流を逆流させることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面でキャビテーション気泡の崩壊が発生することになる。一方、噴射ノズル1から噴射される高圧水の進行方向70の開口部が開放されている場合は逆流が生じず、キャビテーション気泡は噴射ノズル1から噴射された高圧水と共に下流側に流れてしまう。
【0043】
図9に、高圧水の噴射角度を管40の軸芯50(試験体30の軸芯51)に対して20°傾斜させた噴射ノズルを使用してWJPを施工した場合のWJPの効果を確認した試験結果を示す。試験は図8で行った試験と同様の条件及び試験体30で行った。試験体30の両端の開口部は開放した状態であり、閉止していない。
【0044】
図9(1)は模擬試験片31の分割面(図8(2)のB−B断面)を示しており、図9(2)は模擬試験片32の分割面(図8(2)のC−C断面)を示している。試験は、高圧水の噴射角度を試験体30の軸芯51に対して模擬試験片31側に20°傾斜させた噴射ノズルを使用して行った。
【0045】
図9(1)から、高圧水の噴射角度を20°傾斜させた模擬試験片31側の管内面に相当する部分25に塗布された油性インク21は、そのほとんどが剥離していることがわかる。しかし、内径Φ9.5の管内面に対して、噴射角度を20°傾斜させてWJPを施工した場合、噴射ノズルの噴射穴から管40内面までの距離は約14mmと短く、キャビテーション気泡は十分に成長しないものと考えられる。従って、この油性インク21の剥離は、キャビテーション気泡の崩壊によるものではなく、高圧水の衝撃圧によるものと考えられる。一方、模擬試験片32側の管内面に相当する部分25に塗布された油性インク21は、高圧水の衝撃圧が与えられず、殆ど剥離していないことが確認された。
【0046】
図10は、本発明によるWJPを適用した金属材料表面の残留応力改善の効果を確認した試験結果を示しており、本発明によるWJPの施工前及び施工後の残留応力の測定値を示している。図10の横軸は試験体右端からの距離であり、縦軸は残留応力を示している。縦軸の値が小さいほど、圧縮残留応力が改善されていることを示している。試験では、長さが270mm、内径がΦ9.5のステンレス製の試験体を用いた。
【0047】
試験結果から、本発明のWJPによる残留応力改善方法により、WJP施工前に約−100MPaであった残留応力が施工後には−350MPa〜−450MPaに改善されていることが確認できた。
【0048】
尚、キャビテーション気泡の広がりが最大である部分を広がり部といい、この広がり部の径を広がり径85という。図13に、キャビテーション気泡の最大広がり径85の概念図を示す。管40内径がキャビテーション気泡の広がり径より十分大きい場合は、逆流が発生しても管40内面にキャビテーション気泡が衝突しない可能性がある。さらに確実にキャビテーション気泡を管40内面に衝突させるためには、管40内径よりキャビテーション気泡の広がり径を長くする必要がある。従って噴射ノズル1の選択に際しては、管40の内径を考慮し、管40内面にキャビテーション気泡が衝突する広がり径となるような噴射ノズル1を選択する。
【実施例2】
【0049】
本発明による管内面の残留応力改善方法及びその装置に関する第2の実施例を、図11及び図12を用いて説明する。本実施例は、管の一端から液体を注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の流れを逆流させ、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保するとともに、成長したキャビテーション気泡を有する高圧水の流れを管内面に沿って形成させ、管内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させるものである。
【0050】
図11は、第2の実施例で用いるWJP装置の構成図を示している。本実施例においては、タンク2内の水中環境下においてWJPを行う。本実施例で用いるWJP装置は、第1の実施例で用いるWJP装置において、被加工物10(管40)の一端を閉止する閉止装置12のかわりに、管40の一端から液体を注入するための液体注入装置60を備えていることに特徴がある。つまり、本実施例で用いるWJP装置は、管40内面に衝撃圧を与えるための高圧水を噴射する噴射ノズル1,当該高圧水を噴射ノズル1に供給する高圧水供給装置7,噴射ノズル1と高圧水供給装置7とをつなぐ高圧ホース8,WJPを適用する管40を保持する保持装置9,液体を保持するタンク2,管40の一端から液体を注入する液体注入装置60,管40の一端から注入する液体を液体注入装置60に供給する液体供給装置61,噴射ノズル1を移動させる噴射ノズル駆動装置11,管40を移動させる被加工物駆動装置14、並びに噴射ノズル駆動装置11,被加工物駆動装置14,高圧水供給装置7及び液体供給装置13を制御する制御装置15から構成される。
【0051】
ここで、液体供給装置61は、ポンプ63,流量計64,圧力計65,開閉バルブ66から構成される。開閉バルブ66を開とし、ポンプ63を起動することにより、液体供給装置61から液体注入装置60に液体が供給される。他の構成は、第1の実施例に記載のWJP装置と同様なので、説明を省略する。
【0052】
以下、本実施例による管内面の残留応力改善の作業工程を説明する。本実施例では、被加工物10として、両端が開口している中空円筒形状の管40を用いる。本実施例による作業工程は、第1の実施例による作業工程において、閉止装置12を用いて管40の一端を閉止することにより噴流を逆流させるかわりに、液体注入装置60及び液体供給装置61を用いて管40の一端から液体を注入することにより噴流を逆流させる。
【0053】
まず、タンク2内に水を満たす(S101)。次に、管40を保持装置9に保持させることにより、管40を所定の位置に据え付ける(S102)。管40を据え付けるに際しては、液体注入装置60の図示しないノズル部により管40の一端から液体が注入できるように、管40を保持させる(S103)。その後、噴射ノズル1を管40上方に移動させて噴射ノズル1の軸芯80と管40の軸芯50とを一致させた後(S104)、噴射ノズル1を管40内に挿入する(S105)。詳細な作業手順は第1実施例と同様であるので、詳細な説明は省略する。また、本実施例で用いる噴射ノズル1も、第1の実施例で用いる噴射ノズル1と同様の構造を有するので、説明は省略する。
【0054】
次に、被加工物10である管40の内面にWJPを施行する(S106)。具体的には、以下の手順で行う。まず、開閉バルブ6を開とし高圧ポンプ3を起動させることにより、高圧ホース8を介して、高圧水供給装置7から噴射ノズル1に高圧水を供給する(S106−1)。噴射ノズル1に供給された高圧水は、噴射ノズル1の噴射穴から管40の軸芯50方向(又は噴射ノズル1の軸芯80方向)に噴射される(S106−2)。噴射ノズル1から高圧水を噴射しWJPを施工するに際して、液体注入装置60の図示しないノズルからも管40内に液体を注入する(S106−3)。管40内への液体の注入は、開閉バルブ66を開としポンプ63を起動させることにより、ホースを介して液体供給装置61から液体注入装置60に液体を供給し、液体注入装置60に供給された液体を図示しないノズルから管40内に注入することにより行う。液体注入装置60から液体を管40内に注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水を逆流させる。ここで、噴射ノズル1から噴射した高圧水内では、圧力の低下によりキャビテーション気泡が成長する。この高圧水及びキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を管内面に与えることにより、管内面の引張応力を圧縮応力に変え、残留応力を改善することができる。
【0055】
図12は、被加工物10である管40の一端の開口部から液体を注入しながら、管40内面にWJPを適用した場合のキャビテーション噴流の模式図を示している。噴射ノズル1から噴射された高圧水はキャビテーション気泡を同伴し、管40の軸芯50上(又は噴射ノズル1の軸芯80上)を進行するが、高圧水の進行方向70の開口部90から液体を注入することにより、管内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)は、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流することになる。ここで、噴射ノズル1から噴射した高圧水は管40の軸芯50上を進行するため、逆流した噴流は管の軸芯50上の周囲である管の内面に沿って進行(逆流)する。噴流を逆流させることにより、キャビテーションが成長するための適切な距離を確保することができるとともに、管内面に沿った流れを形成でき、管内面でキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。さらに、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部(噴射ノズルを挿入する開口部と反対側の開口部)90から液体を注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流を強制的に生じさせることができ、積極的に高圧水の逆流を制御することができる。
【0056】
次に、S106に記載のWJPを施工しながら、噴射ノズル駆動装置11のZ軸移動装置16により、噴射ノズル1を上下方向に移動させる(S106−4)が、詳細な作業手順は第1実施例と同様であるので省略する。WJP内面全体の残留応力を改善させた後、噴射ノズル1への高圧水の供給及び液体注入装置60への液体の供給を停止する(S6−5)。
【0057】
その後、噴射ノズル1を管40から抜き出すとともに、管40を保持装置から取り出して、WJPの作業工程を終了する(S7)。
【0058】
ここで、第1の実施例と同様に、噴射ノズル1から噴射する高圧水は管40の軸芯50に対して角度を有していても良い。つまり、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して角度を有していても、その角度が9°以下であれば、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができる。また、噴射ノズル1から噴射される高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜であれば、残留応力改善に適さないような壊食を避けることができる。
【0059】
尚、本実施例で用いたWJPのうち、噴射ノズル1,高圧水供給装置7,保持装置9,液体注入装置60,液体供給装置61,噴射ノズル駆動装置11及び制御装置15を有していれば、噴射ノズル1から噴射した噴流を逆流させ、本実施例によるWJPを実施することが可能である。従って、被加工物駆動装置14等は必須の構成ではない。
【0060】
上記第2の実施例によれば、第1の実施例と同様に、管40内の噴流全体の流れ(最終的な噴流の流れ)を噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流させることができる。その結果、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができ、管内面にキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧を与えることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水を管40の軸芯50上に進行させることにより管40内面に沿った流れを形成でき、管40内面に沿ってキャビテーション気泡の崩壊を発生させることができる。また、噴射ノズル1から噴射した高圧水が管40の軸芯50に対して9℃以内の傾斜で噴射されることにより、キャビテーション気泡が成長するための適切な距離を確保することができるとともに、残留応力改善に適さないような壊食を避けることができる。さらに、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70の開口部90(噴射ノズルを挿入する開口部と反対側の開口部)から液体を注入することにより、噴射ノズル1から噴射された高圧水の進行方向70に対して逆流を強制的に生じさせることができ、積極的に高圧水の逆流を制御することができる。
【0061】
尚、上記各実施例では、被加工物10として両端が開口している管40を用いたが、さらに他の開口部や分岐を有する管であっても、噴射ノズル1から噴射された高圧水の最終的な流れが逆流させることができれば、同様の効果を有することができる。
【0062】
また、WJPの施工は必ずしも水中で行う必要はなく、気中で行うことも可能である。気中で行うことにより、作業性が向上する。
【符号の説明】
【0063】
1…噴射ノズル、2…タンク、7…高圧水供給装置、9…保持装置、10…被加工物、11…噴射ノズル駆動装置、12…閉止装置、14…被加工物駆動装置、15…制御装置、40…管、60…液体注入装置、61…液体供給装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ノズルから液体を管内部に噴射し、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する方法において、
前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記液体を前記管内部に噴射し、前記液体を前記管内部において逆流させることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項2】
噴射ノズルから液体を管内部に噴射し、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する方法において、
前記噴射ノズルから噴射される前記液体の進行方向上にある前記管の開口部を閉止し、
前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記液体を前記管内部に噴射することにより、前記液体を前記管内部において逆流させることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項3】
噴射ノズルから第1の液体を管内部に噴射し、前記第1の液体に同伴されたキャビテー
ション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する方法において、
前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記第1の液体を前記管内部に噴射するとともに、前記噴射ノズルから噴射される前記第1の液体の進行方向上にある前記管の開口部から第2の液体を注入することにより、前記第1の液体を前記管内部において逆流させることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項4】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、
前記管の開口部から噴射ノズルを挿入し、
前記噴射ノズルに供給された液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記管内部へ噴射し、前記噴射ノズルから噴射された前記液体を前記管内部において逆流させ、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項5】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、
前記管の一端を閉止し、
前記管の他端から噴射ノズルを挿入し、
前記噴射ノズルに供給された液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記管内部へ噴射することにより、前記噴射ノズルから噴射された前記液体を前記管内部において逆流させ、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項6】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、
前記管の一端から前記噴射ノズルを挿入し、
前記噴射ノズルに供給された第1の液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記管内部へ噴射するとともに、前記管の他端から第2の液体を注入することにより、前記噴射ノズルから噴射された前記第1の液体を前記管内部において逆流させ、前記第1の液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の管内面の残留応力改善方法において、
前記噴射ノズルから噴射される前記液体又は前記第1の液体は、前記噴射ノズルから前記管の軸芯上に向かって噴射されることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項8】
両端に開口部を有する管を保持する保持装置と、
前記管の一端から挿入され、前記管内部に液体を噴射する噴射ノズルと、
前記液体を前記噴射ノズルに供給する液体供給装置と、
前記管の他端を閉止する閉止装置と、
前記噴射ノズルを移動させる噴射ノズル駆動装置と、
前記液体供給装置及び前記噴射ノズル駆動装置を制御する制御装置とを具備し、
前記噴射ノズルは前記液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記管内部に噴射する噴射ノズルであることを特徴とする、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善する管内面の残留応力改善装置。
【請求項9】
両端に開口部を有する管を保持する保持装置と、
前記管の一端から挿入され、第1の液体を前記管内部に噴射する噴射ノズルと、
前記第1の液体を前記噴射ノズルに供給する第1の液体供給装置と、
前記管の他端から前記管内部に第2の液体を注入する液体注入装置と、
前記第2の液体を前記液体注入装置に供給する第2の液体供給装置と、
前記噴射ノズルを移動させる噴射ノズル駆動装置と、
前記第1の液体供給装置,前記噴射ノズル駆動装置及び前記第2の液体供給装置を制御する制御装置とを具備し、
前記噴射ノズルは前記第1の液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記管内部に噴射する噴射ノズルであることを特徴とする、前記第1の液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善する管内面の残留応力改善装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の管内面の残留応力改善装置において、
前記噴射ノズルは、前記液体又は前記第1の液体を前記管の軸芯上に向かって噴射する噴射ノズルであることを特徴とする管内面の残留応力改善装置。
【請求項1】
噴射ノズルから液体を管内部に噴射し、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する方法において、
前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記液体を前記管内部に噴射し、前記液体を前記管内部において逆流させることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項2】
噴射ノズルから液体を管内部に噴射し、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する方法において、
前記噴射ノズルから噴射される前記液体の進行方向上にある前記管の開口部を閉止し、
前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記液体を前記管内部に噴射することにより、前記液体を前記管内部において逆流させることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項3】
噴射ノズルから第1の液体を管内部に噴射し、前記第1の液体に同伴されたキャビテー
ション気泡の崩壊による衝撃圧により管内面の残留応力を改善する方法において、
前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記第1の液体を前記管内部に噴射するとともに、前記噴射ノズルから噴射される前記第1の液体の進行方向上にある前記管の開口部から第2の液体を注入することにより、前記第1の液体を前記管内部において逆流させることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項4】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、
前記管の開口部から噴射ノズルを挿入し、
前記噴射ノズルに供給された液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記管内部へ噴射し、前記噴射ノズルから噴射された前記液体を前記管内部において逆流させ、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項5】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、
前記管の一端を閉止し、
前記管の他端から噴射ノズルを挿入し、
前記噴射ノズルに供給された液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記管内部へ噴射することにより、前記噴射ノズルから噴射された前記液体を前記管内部において逆流させ、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項6】
両端に開口部を有する管を保持装置により保持し、
前記管の一端から前記噴射ノズルを挿入し、
前記噴射ノズルに供給された第1の液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記噴射ノズルから前記管内部へ噴射するとともに、前記管の他端から第2の液体を注入することにより、前記噴射ノズルから噴射された前記第1の液体を前記管内部において逆流させ、前記第1の液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善することを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の管内面の残留応力改善方法において、
前記噴射ノズルから噴射される前記液体又は前記第1の液体は、前記噴射ノズルから前記管の軸芯上に向かって噴射されることを特徴とする管内面の残留応力改善方法。
【請求項8】
両端に開口部を有する管を保持する保持装置と、
前記管の一端から挿入され、前記管内部に液体を噴射する噴射ノズルと、
前記液体を前記噴射ノズルに供給する液体供給装置と、
前記管の他端を閉止する閉止装置と、
前記噴射ノズルを移動させる噴射ノズル駆動装置と、
前記液体供給装置及び前記噴射ノズル駆動装置を制御する制御装置とを具備し、
前記噴射ノズルは前記液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記管内部に噴射する噴射ノズルであることを特徴とする、前記液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善する管内面の残留応力改善装置。
【請求項9】
両端に開口部を有する管を保持する保持装置と、
前記管の一端から挿入され、第1の液体を前記管内部に噴射する噴射ノズルと、
前記第1の液体を前記噴射ノズルに供給する第1の液体供給装置と、
前記管の他端から前記管内部に第2の液体を注入する液体注入装置と、
前記第2の液体を前記液体注入装置に供給する第2の液体供給装置と、
前記噴射ノズルを移動させる噴射ノズル駆動装置と、
前記第1の液体供給装置,前記噴射ノズル駆動装置及び前記第2の液体供給装置を制御する制御装置とを具備し、
前記噴射ノズルは前記第1の液体を前記管の軸芯に対して9°以内の傾斜で前記管内部に噴射する噴射ノズルであることを特徴とする、前記第1の液体に同伴されたキャビテーション気泡の崩壊による衝撃圧により前記管内面の残留応力を改善する管内面の残留応力改善装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の管内面の残留応力改善装置において、
前記噴射ノズルは、前記液体又は前記第1の液体を前記管の軸芯上に向かって噴射する噴射ノズルであることを特徴とする管内面の残留応力改善装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−83892(P2011−83892A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12468(P2011−12468)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【分割の表示】特願2004−282941(P2004−282941)の分割
【原出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【分割の表示】特願2004−282941(P2004−282941)の分割
【原出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(391018639)バブ日立工業株式会社 (38)
[ Back to top ]