説明

管継手抜け止め押輪

【課題】管継手抜け止め押輪の提供。
【解決手段】押輪の内周の周方向に等間隔で凹部を設け、前記各凹部内には、前記管挿口の外周に食い込み可能な爪部と、前記凹部内に螺挿される加圧ボルトの先端部に形成された疑円錐体のテーパ面で加圧される頭部とを備えた係止体が配設され、前記係止体は、前記加圧ボルトの螺挿による加圧に応じて、係止体が管軸に対して傾斜状態のままでその爪部が管挿口の外周に食い込み、前記一方の管と他方の管との若干の引抜移動に応じて、係止体が前記傾斜状態から管軸に対して鉛直状態に傾動しつつ、爪部の管挿口の外周への食い込みが深まるよう前記凹部に傾動可能に格納された構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体を輪送する球状黒鉛鋳鉄管用、例えば上水道用の埋設管等の管継手抜け止め押輪に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば上水道用の埋設管等の管継手の管抜け止め押輪に関しては、「抜止め管継手」実用新案公報平4−17891号に記載され、既に数多く使用されて来た。
しかし、それらの管抜け止め押輪においては、管継手接合後管抜け止め機能を付加する加圧ボルト締付ける作業中に、加圧ボルトの力のベクトルを変える加圧ボルト先端部の擬円錐体と直接当する係止体の頭部との動的接触箇所において、片方又は双方に変形又は欠損等がしばしば発生し、充分な管抜け止め機能発揮が出来なかった。
【0003】
又、上記加圧ボルト締付作業終了後、パイプライン(埋設管路)として流体輪送中等に、そのパイプライン周辺に土石流や地震等が発生したり、そのパイプラインに変位や内外圧等の異常が発生した場合に、上記の抜け止め管継手から接合管の抜け出しが始まると、各係止体はその頭部とその頭部を支えている擬円錐体接触箇所を中心に回動的動きが始まり、充分に管抜け止め機能が生じない間に、しばしば上記加圧ボルトの擬円錐体と、そこに直接動的に接当する係止体の頭部とに変形や欠損等が発生して管抜け止め機能を失い、時としてパイプラインの機能に支障を生じて来た。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダクタイル鋳鉄管使用ライフラインのメカニカル管継手部に、前記管抜け止め同軸押輪を設置し、その管継手部に管抜け止め機能を付加する加圧ボルト締付け作業中や前記抜け止め機能を付加後に、ダクタイル鋳鉄管によるパイプラインとして流体輪送時に、その周辺の地盤沈下・土石流・地震等不測事故発生等で、そのパイプラインに大きな変位・衝撃的内外圧等が発生時においても、加圧ボルトの擬円錐体部と、そこに対接し互いに強圧状態の係止体の頭部等に変形や欠損等がしばしば発生し、上記のパイプラインの機能に支障を生じる、という上記の間題を解決する安定した機能を発揮する管継手抜け止め押輪の開発が強く求められて来た。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ダクタイル鋳鉄管のパイプラインに管継手抜け止め押輪の設置並びに使用中に、その機能低下や消失等の内容の解明と、従来使用中の力学的変化等を解析し、かつ経済的・機能的素材をもって、加圧ボルトの尖端の円錐体部とそこに係合する係止体頭部等の動的関係や形状等を工夫した管継手抜け止め押輪の提供を目的として、次のように構成されたものである。
【0006】
即ち、本発明の管継手抜け止め押輪は、一方の管の管受口に他方の管の管挿口が接続される際に、当該他方の管の管挿口に外装された押輪で、前記一方の管の管受口の内周に予め内装されて前記他方の管の管挿口を受け入れるゴム輪を押圧させて、前記管受口の内周と前記管挿口の外周との間隙を水密に封止する管継手抜け止め押輪において、
前記押輪の内周の周方向に等間隔で凹部を設け、前記各凹部内には、
前記管挿口の外周に食い込み可能な爪部と、前記凹部内に螺挿される加圧ボルトの先端部に形成された疑円錐体のテーパ面で加圧される頭部とを備えた係止体が配設され、
前記係止体は、前記加圧ボルトの螺挿による加圧に応じて、係止体が管軸に対して傾斜状態のままでその爪部が管挿口の外周に食い込み、前記一方の管と他方の管との若干の引抜移動に応じて、係止体が前記傾斜状態から管軸に対して鉛直状態に傾動しつつ、爪部の管挿口の外周への食い込みが深まるよう前記凹部に傾動可能に格納されたことを特徴とする。
【0007】
又、本発明の管継手抜け止め押輪は、係止体の傾動は爪部が食い込んだ傾斜状態から鉛直状態を越えないまでの範囲であることを特徴とする。
【0008】
又、本発明の管継手抜け止め押輪は、係止体の頭部には加圧ボルトの疑円錐体のテーパ面の一部曲面が嵌まり込む受圧凹部を設けたことを特徴とする。
【0009】
又、本発明の管継手抜け止め押輪は、ボルト・ナットで受口に押輪締付け時に、管挿口を内装した押輪の還状凸部が互いに対設する上記管挿口を予め内装嵌着したゴム輪の還状溝に同軸嵌合する管継手抜け止め押輪において、
管挿口を内装する上記押輪の内周から周方向に凹部を設け、その凹部内に、爪部は押輪に内装した管挿口の外周に対設され、頭部は前記凹部内において押輪の還状凸部を設けた側面とは反対の側面から同凹部へ軸に沿って連通するように螺挿された加圧ボルトの先端部に形成された疑円錐体に対して疑十字状態で接する板状の係止体を設け、
前記疑円錐体に対して疑十字状で接当する前記係止体の頭部に曲面を形成した構成としたことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態として、上水道管用の管継手抜け止め押輪の実施例1を図1乃至図4に基づいて、又実施例2を図5乃至図7に基づいて説明する。
図1は実施例1の係止体の背面図、図2は図1に示された係止体のイ−ロから見た側面の縦断面図、図3は管継手抜け止め押輪の抜け止め機能を付与した状態を中心にした縦断面図の一部、図4は図3の状態の管継手から接合管が抜け出し始め、係止体により管抜け出しが途中で阻止された状態の縦断面図の一部、図5は実施例2の係止体と加圧ボルトの側面図、図6は図5の係止体の正面図、図7は図6の係止体の斜視図である。
【実施例1】
【0011】
図1乃至図4において示す管継手抜け止め押輪1においては、
一方の管201の管受口20に他方の管17の管挿口171が図示のように差し込まれて接続するに当り、他方の管17の管挿口171に外装された押輪2で、一方の管201の管受口20の内周に予め内装されて嵌着されたゴム輪18であって、他方の管17の管挿口171を貫通状態にて受け入れるゴム輪18を押圧させて、前記管受口20の内周と管挿口171の外周との間隙を水密に封止させている。
【0012】
管17の管挿口171に嵌着された前記ゴム輪18の側面には環状溝19が形成されており、この還状溝19に同軸接合する環状凸部5が押輪2に設けられている。尚、実施例の押輪2は球状黒鉛鋳鉄で鋳造形成されている。
【0013】
押輪2の内周の周方向には等間隔に複数の凹部6が設けられており、
これらの各凹部6内には、管挿口171の外周に食い込み可能に形成された爪部16と、当該凹部6内に押輪2の後方(図3において左)から管軸3方向に沿って前方(図3において右)に向けて当該押輪2内に螺挿されて進入する加圧ボルト8の先端部に形成された疑円錐体9の外周面たるテーパ面の一部にて加圧される頭部12とを備えた係止体10が、爪部16側が頭部12側を軸として管軸3方向に若干傾動可能に遊嵌状態にて配設されている。
【0014】
図3において、この係止体10は、加圧ボルト8の螺挿による加圧に応じて、当該係止体10が管軸3に対して、図に示す接続直後の初期設定状態である傾斜状態のままで、その爪部16が管挿口171の外周に食い込む。この傾斜状態の食い込みは、管17と管201との引抜方向に逆らう楔状態の傾斜角にての食い込みである。
管17の管挿口171の外周を巡るよう等間隔に配設された各凹部6内の係止体10を、このような初期設定状態とすることによって、係止体10と一体的に形成された押輪2は管17に対し、従来に較べてより確実に係止させることができ、しかも、管201との引抜方向への離脱、即ち引き抜けをより確実に阻止させることができる。
【0015】
図4において、係止体10が傾動可能に格納される前記の各凹部6は、何れも、管17が他方の管201に対しする引き抜け方向への若干の移動、即ち若干の引抜移動に応じて、係止体10が前記の傾斜状態から、頭部12を略回動軸として爪部16側が傾動することによって、係止体10が管軸3に対して鉛直状態に傾動しつつ、且つ、この傾動に応じて次第に係止体10の爪部16が管挿口171の外周により深く食い込んでいき、食い込みが深まる作動を起こすよう、係止体10を遊嵌保持する凹部6の内部形状が構成されている。
【0016】
係止体10の傾動は爪部16が食い込んだ図3に示す傾斜状態から図4に示す鉛直状態を越えないまでの範囲が、食い込みによる係止作用が最も効果的に作用する範囲となり、好ましい。
【0017】
又、押輪2の内周の周方向に等間隔に複数の凹部6を設けて、係止体10を管挿口171の外周を巡る1本の同一外径線上に等間隔に配設することによって、管17は同一外周ライン上において複数の係止体10に係止されて把持されることとなり、当該管継手部位において、他方の管201に対する一方の管17の当該外径線の中心点(管軸3上の一点)を中心とするすりこ木運動が可能となる。
【0018】
このような、すりこ木運動が可能な管継手とすることにより、埋設管路が管軸周りの360度のどの方向からの圧力変動(地盤の沈下等による)を受けても、各継手部位における一方の管(管軸)の傾動で対応することができ、管継手部位における破壊や破損を免れることができる。
又、埋設管路の全体(全長)を観ても、従来に較べて屈曲自在な管路となるので、埋設管路の耐圧耐久を高めることができる。
【0019】
図1乃至図4に基づいて、以下更に詳しく説明する。
押輪2の凹部6内に、擬円錐体14は先端の角度θ°が62°に形成されており、加圧ボルト8が螺挿されるに応じて、擬円錐体14のテーパ面の一部がその先端側から後端側に掛けて次第に進行していくことによって、凹部6内に遊嵌された係止体10の頭部12側を加圧して行くように、当該凹部6内に臨んでいる。
【0020】
即ち、加圧ボルト8は、上記環状凸部5の反対側の押輪2の背面4側から、図示の軸3に対して同一の円周上において且つその軸3方向に沿って、それぞれ当該加圧ボルト8を、その擬円錐体9部が凹部6内に突設状態に螺設されているのである。この例の加圧ボルト8は、硬度ロックウエルC・60°に熱処理を施したものである。
【0021】
又、この例の係止体10は、球状黒鉛鋳鉄で鋳造形成され、硬度がロックウエルC55に熱処理されたt8mm厚の板状で、先端部には管17の外周部に接当する擬円弧形の爪部16が形成されている。
爪部16の頭部12は、上記状態の加圧ボルト8の擬円錐体9の側方向に、係止体10の本体11に対する傾斜角θ°が59°の角度で形成されている。
【0022】
係止体10の上辺13と係止体10の本体11の両面で形成される上記59°に形成された稜線箇所には、半径rが2.4mmの曲面14が形成されており、前記曲面14の反対側の稜線箇所には、半径rが1.5mmの曲面15が形成されている。
この係止体10の頭部12は、前記押輪2の凹部6内に、凸設した擬円錐体9にそれぞれ擬交差状態で接当させる。
【0023】
この係止体10の爪部16は、管17の外周に接当するように、凹部6の環状凸部5側の軸3に対して擬円錐体9の方向に85°に形成した傾斜側面7に宛がわれた状態にて遊嵌(装着)されている。
【0024】
上記実施例1によれば、加圧ボルト8の擬円錐体9と、その円錐体9に直接接当使用される係止体10の頭部12との押輪2内における動的ベクトルの変化状態を解明し、その内容に基づき、加圧ボルト8の擬円錐体9の円錐角と、そこに対設する係止体10の頭部12の傾斜角との双方の基本的形状を設定し、その双方の動的接当箇所を中心とした、それぞれの材質並びに相互間それぞれの硬度より合理的に設定することにより、従来この種の管継手抜け止め押輪の使用上の前記諸問題を確実に解消できる。
【実施例2】
【0025】
実施例2は、上記実施例1において、係止体10の頭部12に加圧ボルト8の疑円錐体9のテーパ面の一部曲面が嵌まり込む受圧凹部を設けた例である。これを図5乃至図7に基づいて説明する。
【0026】
図5乃至図7に示すように、この係止体10では、加圧ボルト8の疑円錐体9のテーパ面の一部曲面が螺挿により次第に乗り上げて来るように接触して加圧して来る頭部10の受圧部分に、加圧ボルト8の疑円錐体9のテーパ面の一部曲面を螺挿による進行に応じて受け入れるように嵌まり込む受圧凹部101を設けている。図示の受圧凹部101は、実施例1の係止体10の頭部12の直線的な稜線の中央に、U字谷状の凹部を形成したものである。
【0027】
上記実施例2によれば、このようなU字谷状の受圧曲部を受圧凹部11として形成することによって、加圧ボルト8の螺挿に応じた進行(図3〜図4)の際、頭部12が直線的な稜線である実施例1の係止体10に対して点接触状態で受圧していくのに較べ、U字谷状の曲部による線接触にて受圧していくほうが、安定して受圧することができる。
【0028】
又、係止体10を例えば実施例のように板状形成した場合には特に、管軸周り方向のがたつき度合いを抑制することができ、管挿口171に速やか且つ円滑に食い込ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の係止体の背面図である(実施例1)。
【図2】図1に示された係止体のイ−ロから見た側面の縦断面図である(実施例1)。
【図3】管継手抜け止め押輪の抜け止め機能を付与した状態を中心にした縦断面図の一部である(実施例1)。
【図4】図3状態の管継手から接合管が抜け出し始め、係止体により管抜け出しが途中で阻止された状態の縦断面図の一部である(実施例1)。
【図5】実施例2の係止体と加圧ボルトの側面図である(実施例2)。
【図6】係止体の正面図である(実施例2)。
【図7】係止体の斜視図である(実施例2)。
【符号の説明】
【0030】
1 管継手抜け止め押輪
2 押輪
3 軸
4 背面
5 環状凸部
6 凹部
7 傾斜側面
8 加圧ボルト
9 擬円錐体
10 係止体
11 本体
12 頭部
13 上辺
14 曲面
15 曲面
16 爪部
17 管
18 ゴム輪
19 環状溝
20 受口
21 側面
101 受圧凹部
171 管挿口
201 管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の管の管受口に他方の管の管挿口が接続される際に、当該他方の管の管挿口に外装された押輪で、前記一方の管の管受口の内周に予め内装されて前記他方の管の管挿口を受け入れるゴム輪を押圧させて、前記管受口の内周と前記管挿口の外周との間隙を水密に封止する管継手抜け止め押輪において、
前記押輪の内周の周方向に等間隔で凹部を設け、
前記各凹部内には、
前記管挿口の外周に食い込み可能な爪部と、
前記凹部内に螺挿される加圧ボルトの先端部に形成された疑円錐体のテーパ面で加圧される頭部とを備えた係止体が配設され、
前記係止体は、前記加圧ボルトの螺挿による加圧に応じて、係止体が管軸に対して傾斜状態のままでその爪部が管挿口の外周に食い込み、前記一方の管と他方の管との若干の引抜移動に応じて、係止体が前記傾斜状態から管軸に対して鉛直状態に傾動しつつ、爪部の管挿口の外周への食い込みが深まるよう前記凹部に傾動可能に格納された管継手抜け止め押輪。
【請求項2】
係止体の傾動は爪部が食い込んだ傾斜状態から鉛直状態を越えないまでの範囲である請求項1に記載の管継手抜け止め押輪。
【請求項3】
係止体の頭部には加圧ボルトの疑円錐体のテーパ面の一部曲面が嵌まり込む受圧凹部を設けた請求項1又は請求項2に記載の管継手抜け止め押輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−313020(P2006−313020A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226052(P2006−226052)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【分割の表示】特願2001−105229(P2001−105229)の分割
【原出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(301008442)川▼崎▲機工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】