説明

管路切換装置及び内視鏡

【課題】半押し及び全押しの二段階操作を一つのコイルバネで実現し、軽快な操作感を得る。
【解決手段】
シリンダ50にピストン51を移動自在に挿入する。シリンダキャップ52により、ピストン51をシリンダ50に保持する。ピストン51を本体部51Aとキャップ取付端部51Bとから構成する。キャップ取付端部51Bに操作キャップ43を取り付ける。操作キャップ43とシリンダキャップ52との間にコイルバネ49を配置する。ピストン51のOリング収納溝61〜64にOリング65A〜65Dを収納する。Oリング収納溝61〜63に、Oリング65A〜65Cを転動させる転動域を設ける。転動域をOFF位置POから半押し位置PHへの押圧ストロークST1とする。Oリング65A〜65Cの転動時と、転動を停止した後の摺動時との押下抵抗の違いによって、半押し位置PHへの切換を知ることができる。コイルバネ49が一つでよく、構成が簡単になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の管路の接続状態を切り換える管路切換装置及び内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、被検体内へ挿入される挿入部の先端部に、被検体の像光を取り込むための観察窓と、観察窓に向けて流体(水または空気)を噴射する送気・送水ノズルを備える。観察窓と送気・送水ノズルは、挿入部先端面に配置される。観察窓は挿入部先端面に形成されており、観察窓の表面には、被検体内の液や汚物が付着しやすい。このため、送気・送水ノズルの噴射口から水を噴射して観察窓の汚れを洗い流し、噴射口から空気を噴射して観察窓の表面に残った水滴を吹き飛ばしている。
【0003】
送気送水ノズルには管路切換装置としての送気送水ボタンが接続される。この送気送水ボタンは、ボタン操作することがないOFF状態から、ボタンの半押し状態、全押し状態の二段押し構造を採用する(特許文献1及び2参照)。二段押し構造では、二つのコイルバネを用い、一つのコイルバネの付勢に抗して押圧することにより半押し状態を実現し、二つのコイルバネの付勢に抗して押圧することにより全押し状態を実現する。このように、押圧するコイルバネの個数が変わることにより、異なる抵抗感を術者に与えることができ、半押し状態を明確に知ることができる。
【0004】
例えば、特許文献1及び2に記載の送気送水ボタンでは、何ら操作していない状態で送気ポンプの送気動作が行われたときに、送気送水ボタンの操作キャップに開口した排気口からリークを行う。この状態で排気口を塞ぐと、送気状態で排気口が塞がれるため送気送水ボタン内の逆止弁が開き、送気送水ノズルから送気が行われる。操作キャップを半押しすると、送気状態から送水状態に切り換わり、送気送水ノズルから送水が行われる。さらに、操作キャップを全押しすると、送水管路が切り換わり、バルーン内部に通じるバルーン管路を介してバルーン送水が行われてバルーンが膨張する。
【0005】
また、特許文献1及び2に記載の吸引ボタンでは、何ら操作していない状態で吸引ポンプにより吸引動作が行われると、吸引ポンプは所定の通気路を介して外部の空気を吸引する。吸引ボタンの操作キャップを半押しすると、吸引ポンプが処置具チャンネルに連通し、処置具チャンネルからの吸引を行う。操作キャップを全押しすると、吸引ポンプがバルーン管路に連通し、バルーン管路を介してバルーン内に満たされた水が吸引されて排水が行われ、バルーンが収縮する。
【0006】
ところで、内視鏡では送気ポンプによる加圧空気の他に、炭酸ガスを用いることも行われる。炭酸ガスは体内で吸収されやすく、加圧空気に比べて被検者に負担にならない利点がある。加圧空気を使用する場合には、ボタン操作を行っていない状態では、例えば操作キャップの排出口から空気をリークさせ、加圧ポンプに負荷をかけない。一方、炭酸ガスを使用する場合には、炭酸ガスボンベが供給源となるため、不必要なリークは避ける必要がある。このため、送ガス送水ボタンでも二つのコイルバネによる二段押し構造を採用し、ボタン操作を行わないOFF状態、半押し操作による例えば送ガス状態、全押し操作による送水状態を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3017957号公報
【特許文献2】特開2007−111266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、管路切換装置の二段押し構造では、図13に示すように、二つのコイルバネ101,102を用い、一つのコイルバネ101の付勢に抗して押圧することにより半押し状態を実現し、さらに二つのコイルバネ101,102の付勢に抗して押圧することにより全押し状態を実現する。このように、押圧するコイルバネ101,102の個数が切り換わることにより、異なる抵抗感を術者に与えることができ、半押し状態位置を明確に知ることができる。
【0009】
しかしながら、二つのコイルバネを用いて二段押し動作を実現する場合には、付勢力の異なる二つのコイルバネ100,101を例えば同心で二重に配置し、これらコイルバネ101,102の連係を取るために、間に中間ガイド筒103を設ける必要がある。なお、符号104は操作キャップ、105はピストン、106はシリンダ、107はシリンダキャップを示している。
【0010】
図14は、二つのコイルバネ101,102を用いたときの操作キャップ104のストロークと、その時の押下力との関係を示している。OFF位置POで押下を開始すると、第1コイルバネ101による反発力によって、フックの法則に従ってストロークの増加に伴い押下力も緩やかに増加する。やがて、半押し位置PHに到達すると、第2コイルバネ102による反発力も加わり押下力F1が増大する。そして、そのまま押下を続けると、第1コイルバネ101及び第2コイルバネ102による複合の反発力によって、フックの法則に従ってストロークの増加に伴い押下力F2が増加し、やがて全押し位置PFに達して押下を終了する。
【0011】
したがって、二つのコイルバネ101,102を用いて、半押し位置PHを明確にさせる方法では、構成が複雑になって部品点数や組み立て工数の増加につながる他に、組み立ての難度が増し、製造コストが上がってしまうという問題がある。特に、内視鏡の管路切換装置に用いる場合には、操作ボタンのコンパクト化の要請により、微小部品の組み付けとなるため、製造の難度がより上がってしまう。また、二つのコイルバネ101,102を用いるため、押圧力が大きくなり、軽快な操作感が得られない。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、構成を簡単にして部品点数及び組み立て工数を減少させ、製造が容易な管路切換装置及び内視鏡の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するため、ピストンの一端に設けられる操作キャップの押圧操作により、シリンダ内におけるピストンのストロークの始端である第1位置と、終端である第2位置と、その途中位置である第3位置とに前記ピストンを位置決めし、前記シリンダに形成されている管路接続口と前記ピストンに形成されている連通路との連通する組み合わせを変えて複数の管路の連通及び遮断を切り換える管路切換装置であって、前記操作キャップの押圧操作に抗して前記ピストンを前記シリンダに対し前記操作キャップ側に付勢する一つの付勢部材と、前記ピストンと前記シリンダとの間を気密に保持するためのOリングと、前記ピストン又は前記シリンダの摺動面の一方に形成され、前記第1位置から第3位置への移動ストローク長さで前記ピストンの移動に伴い前記Oリングを転動させる転動域を有するOリング収納溝とを備える。
【0014】
また、本発明は、操作キャップと、前記操作キャップが取り付けられるキャップ取付端部及び本体部からなり、前記本体部の周面に第1及び第2の連通路を有するピストンと、前記ピストンを移動始端である第1位置、移動終端である第2位置、前記第1及び第2位置の途中の第3位置の間で移動自在に保持し、前記各連通路に対面する流体入口及び流体出口を有するシリンダと、前記キャップ取付端部が貫通する貫通孔を有し、前記シリンダの開口に取り付けられ、前記シリンダからの前記ピストン本体の脱落を阻止するシリンダキャップと、前記操作キャップと前記シリンダキャップとの間に配置され、前記操作キャップの押圧操作に抗して前記ピストンを第1位置に向けて付勢する一つの付勢部材と、前記ピストンと前記シリンダとの間で前記各連通路を気密に保持するための複数のOリングと、前記ピストン又は前記シリンダの摺動面の一方に形成され、前記第1位置から第3位置への移動ストローク長さで前記ピストンの移動に伴い前記Oリングを転動させる転動域を有するOリング収納溝とを備える。
【0015】
ピストンの終端側端部に取り付けられ、前記付勢手段により前記シリンダの内周面に段差を介し押し当てられ、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間を気密に保持する突き当てパッキンと、前記突き当てパッキンに隣接して前記ピストンの本体部に形成される第1連通路と、前記第1位置状態で前記第1連通路に対面して前記シリンダに開口する第1流体入口と、前記第1位置状態で前記突き当てパッキンよりも前記シリンダの終端側に開口する第1流体出口とを有し、前記第1位置では前記突き当てパッキンによりシリンダとピストンとの間を気密に保持し、前記ピストンの第1位置から第3位置への移動に伴い前記突き当てパッキンによるシリンダとピストンの気密を解除し前記第1流体入口と前記第1流体出口とを連通することが好ましい。この場合には、僅かなストロークで流体の切り換えが可能になるため、Oリングを転動させて第1位置から第3位置に押下する僅かなストロークでも、流体の切り換えを確実に行うことができる。
【0016】
また、ピストンに形成される第2連通路と、前記第2位置状態で、前記第2連通路に対面して前記シリンダに開口する第2流体入口及び第2流体出口とを有し、前記ピストンの第3位置から第2位置への移動により、前記第1流体入口と前記第1流体出口との連通から、前記第2流体入口と前記第2流体出口との連通に切り換えることが好ましい。この場合には、半押しからさらに全押しすることにより他の流体への切り換えが可能になる。
【0017】
前記第1流体を気体とし、第2流体を液体とすることが好ましい。この場合には、液体に切り換えるときに、半押し位置を通過するときに瞬時ではあるが気体噴出モードに切り換わるが、ガスが少量送られるだけであり、不都合が発生することがない。また、前記付勢部材はコイルバネであることが好ましい。
【0018】
管路切換装置を内視鏡に設けることが好ましく、さらには、管路切換装置が取り付けられる手元操作部を有する内視鏡とすることが好ましい。この場合には、操作感が軽快で且つ部品点数が少なく、組み立てが容易な内視鏡が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シリンダとピストンとの間を気密に保持するOリングを、収納溝内で転動させることにより、ピストンの移動により、Oリングの転動による押圧操作と、Oリングの転動が停止してOリングと例えばシリンダとが摺動する押圧操作とが得られる。Oリングの転動時は、Oリングの摺動時とは異なり、その操作感は軽快なものとなる。転動を終了し摺動し始めると、押圧操作の操作感が軽いものから重いものに切り換わる。このOリングの転動が終了した時点を半押し状態の第3位置に設定することにより、半押し位置を明確に知ることができる。したがって、二つのコイルバネを用いた二段押し構造を採用する必要がなくなり、コイルバネを一つ減らすことができる。また、二つのコイルバネとの連係を取るためのガイド筒なども不要になる。これにより、部品点数を減らすことができる。また、部品点数の減少に伴い、組み付け工数も減少することができ、小さな部品を複雑に組み付ける必要もなくなり、製造を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】内視鏡の概略図である。
【図2】操作キャップが押圧操作されていないときの送ガス送水ボタンの断面図である。
【図3】操作キャップが半押しされたときの送ガス送水ボタンの断面図である。
【図4】操作キャップが全押しされたときの送ガス送水ボタンの断面図である。
【図5】一般的なOリング収納溝とOリングとを示す断面図である。
【図6】押圧操作前のOリングを示す断面図である。
【図7】押圧操作開始直後のOリングを示す断面図である。
【図8】Oリングが転動域の終端に位置して転動を終了した状態を示す断面図であるく。
【図9】Oリングが摺動している状態を示す断面図である。
【図10】1個のコイルバネを用いたときの操作キャップのストロークとそのときの押下力との関係を示すグラフである。
【図11】コイルバネが無い状態での送ガス送水ボタンのストロークと押下力との関係を示すグラフである。
【図12】一つのコイルバネを用いた実施形態の送ガス送水ボタンのストロークと押下力との関係を示すグラフである。
【図13】従来の二つのコイルバネによる二段押し構造を示す断面図である。
【図14】従来の二つのコイルバネによる二段押し構造によるストロークと押下力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、内視鏡10は、被検体内に挿入される挿入部11と、この挿入部11の基端部に連結された操作部12と、この操作部12に一端が接続されたユニバーサルコード13とを有する。ユニバーサルコード13の他端部にはコネクタ14が取り付けられている。このコネクタ14を介して光源装置15が接続される。また、コネクタ14からは接続コード16が分岐し、この接続コード16を介してプロセッサ装置17が接続される。
【0022】
挿入部11は、断面円形の管状に形成され、可撓性を有している。この挿入部11の先端部11Aには、観察窓20、照明窓(図示せず)、送ガス送水ノズル21、鉗子・吸引口(吸引口)22などが設けられる。観察窓20に対面する位置で先端内部には、撮像ユニット23が配置される。撮像ユニット23は図示しない信号ケーブルにより挿入部11、操作部12、ユニバーサルコード13、接続コード16を介してプロセッサ装置17に接続される。送ガス送水ノズル21は、観察窓20やこれと一緒に照明窓などを送水や送気により洗浄する。吸引口22は、鉗子やスネア等の処置具の出口になるとともに、血液や体内汚物等の吸引物を吸引するための吸引口として利用される。
【0023】
挿入部11及び操作部12内には、一端が吸引口22に通じる処置具チャネル24と、一端が送ガス送水ノズル21に通じる送ガス送水管路25とが設けられる。なお、各管路の区別を容易に行うために、管路以外の部分(中空部を含む)を斜線で表示している。
【0024】
処置具チャネル24の他端は、挿入部11に設けられた処置具入口27に接続している。この処置具入口27は、処置具を挿入するとき以外は栓(図示せず)により塞がれている。また、処置具チャネル24からは吸引管路28が分岐しており、この吸引管路28は操作部12に設けられた吸引ボタン29に接続している。
【0025】
送ガス送水管路25の他端は、送ガス管路31と送水管路32とに分岐している。送ガス管路31及び送水管路32は、操作部12に設けられた送ガス送水ボタン33に接続している。
【0026】
送ガス送水ボタン33には、送ガス管路31、送水管路32の他に、送ガスユニット34に通じる送ガス源管路35の一端と、送水タンク36に通じる送水源管路37の一端とが接続されている。送ガスユニット34は炭酸ガスボンベからの炭酸ガスを一定圧力に減圧して、送ガス源管路35に供給する。
【0027】
送ガス源管路35の他端は、コネクタ14内で分岐管路38によって分岐されている。分岐管路38は送水タンク36の入口に接続している。また、送水源管路37の他端は、分岐管路38内を通って送水タンク36内に挿入されている。そして、分岐管路38を介した送ガスユニット34からの炭酸ガスにより、送水タンク36の内部圧力が上昇すると、送水タンク36内の水が送水源管路37へ送水される。
【0028】
送ガス送水ボタン33は、操作キャップ43が操作されていないOFF状態では、送ガス源管路35及び送水源管路37を遮断する。また、操作キャップ43が半押し状態では、送ガス送水ボタン33は、送水源管路37を遮断するとともに、送ガス源管路35を送ガス管路31のみに連通させる。これにより、送ガス源管路35から炭酸ガスが送ガス管路31を介して送ガス送水ノズル21から噴出される。そして、操作キャップ43が全押し状態では、送ガス送水ボタン33は、送ガス源管路35を遮断し、送水源管路37を送水管路32に連通させる。これにより、送水源管路37から送られる水が送ガス送水ノズルから噴出される。
【0029】
吸引ボタン29には、吸引管路28の他に、一端が吸引ポンプ45に通じる吸引源管路46の他端が接続されている。吸引ポンプ45も内視鏡の操作中は常時作動する。吸引ボタン29は、その操作キャップ47が操作されていないときは、吸引源管路46を外部(大気)に連通させる。これは吸引ポンプ45が常時作動しているので、吸引源管路46が大気と連通しないと、吸引ポンプ45に掛かる負荷が増加するためである。このため、吸引源管路46を大気と連通させることで吸引ポンプ45の負荷の増加が抑えられる。
【0030】
また、吸引ボタン29は、操作キャップ47が押されたときは、吸引源管路46を吸引管路28のみに連通させる。これにより、吸引管路28及び処置具チャネル24の負圧吸引力が上昇して、吸引口22から各種吸引物が吸引される。
【0031】
図2に示すように、送ガス送水ボタン33は、操作キャップ43、コイルバネ49、シリンダ50、ピストン51、シリンダキャップ52を備える。ピストン51はシリンダ50内にスライド自在に収容される。シリンダキャップ52は二段押し構造となっており、操作キャップ43が何も操作されないOFF位置(第1位置)POから、図3に示すように、ピストン51が半押しされた半押し位置(第3位置)PHと、図4に示すように、全押しされた全押し位置(第2位置)PFとに位置決めする。
【0032】
シリンダ50は、内筒からなるシリンダ本体53と、外筒からなるシリンダケース54とから構成される。シリンダケース54には、送ガス管路接続口55A、送水管路接続口55B、送ガス源管路接続口55C及び送水源管路接続口55Dが形成され、これら接続口55A〜55Dには対応する管路31,32,35,37がそれぞれ接続される。シリンダ本体53には、前記各接続口55A〜55Dに対応する位置で連通溝56A,56B,56Cと連通孔57A,57B,57Cが形成される。
【0033】
ピストン51はピストン本体51Aと、キャップ取付端部51Bとから構成される。ピストン本体51Aはシリンダ本体53内に移動自在に挿入される。キャップ取付端部51Bは、ピストン本体51Aに段部51Cを介して連続し、ピストン本体51Aよりも小径に形成される。
【0034】
ピストン本体51Aの外周面には、第1連通路58及び第2連通路59が、軸方向に離間して形成される。これら連通路58,59は周溝から構成される。
【0035】
第2連通路59に対し、ピストン軸方向の両側には、第1及び第2のOリング収納溝61,62が形成される。また、第1連通路58に対し、ピストン軸方向の両側には第3及び第4のOリング収納溝63,64が形成される。これら第1〜第4のOリング収納溝61〜64内には、Oリング65A〜65Dが収納される。
【0036】
図5に示すように、一般的なOリング収納溝66の溝幅W1は、Oリング65が収納溝66内で変形してシール対象の摺動面(シリンダ本体53の内周面53A)に接触するように形成される。このため、溝幅W1は線経D1と略同じに形成されており、収納溝66内でOリング65が転動することがない。
【0037】
これに対して、図6〜図9に示すように、第1のOリング収納溝61は、線経D1に対してリング収納溝は、溝幅W1が一般的なものよりも長くされ、Oリング65Aが収納溝61内で転動長さWR1分だけ転動可能になっている。図6に示すように、転動長さWR1は、溝幅W1から線経D1を引いた差(W1−D1)である。この転動長さWR1は、操作キャップ43による半押し時の押圧ストロークST1と同じに設定されている(図3参照)。なお、第2及び第3Oリングの収納溝62,63も第1Oリング収納溝61と同じに形成されている。
【0038】
第4Oリング収納溝64は、Oリング65を転動させる必要が無いので、図5に示す一般的なOリング収納溝66と同様に形成される。この第4Oリング収納溝64内に収納される第4Oリング65Dは、突き当てパッキンとして作用する。第4Oリング収納溝64は、ピストン本体51Aに対し、キャップ取付端部51Bとは反対側の端部に形成される。そして、シリンダ本体53の他端の傾斜面53Bに、コイルバネ49の付勢によって第4Oリング65Dが突き当てられる。この突き当てによって、シリンダ内周面とピストン外周面との間が気密に保持される。なお、Oリング65Dが突き当てられる傾斜面53Bの代わりに段差面を用いてもよい。
【0039】
第4Oリング65Dに隣接し、第1連通路58が形成されている。この第1連通路58の下端は第4Oリング収納溝64と連通している。したがって、操作キャップ43がコイルバネ49の付勢に抗して押されると、図3に示すように、傾斜面53BとOリング65Dとの間に隙間48が発生する。この隙間48によって、第1連通路58を介して、送ガス源管路35と送ガス管路31とが連通し、炭酸ガスが送ガス送水ノズル21(図1参照)に送られる。操作キャップ43による半押し時の押圧ストロークST1は、0.1mm以上0.5mm以下が好ましく、このような僅かなストロークであっても、第4Oリング65Dの突き当てによる遮断としているので、送気が確実に行われる。
【0040】
図2に示すように、シリンダキャップ52は、二段筒状に形成されており、筒内部に仕切り部70を有する。そして、下側筒部71がシリンダ本体53に固定される。また、上側筒部72にはゴム製の取付ブラケット73が嵌められる。取付ブラケット73には取付孔73Aが形成されており、取付孔73Aにビスが取り付けられることにより、操作部12(図1参照)の取付面に固定される。このシリンダキャップ52は、ピストン本体51Aがシリンダ50から脱落することがないように、ピストン本体51Aを保持する。仕切り部70には、キャップ取付端部51Bが挿通する挿通孔75と、挿通孔75の外側面にコイルバネ収納段部76を有する。
【0041】
キャップ取付端部51Bには操作キャップ43が取り付けられる。操作キャップ43はキャップ本体78とキャップカバー79とから構成される。キャップ本体78は、金属製で円盤状に形成され、外周面には取付周溝78Aが形成される。キャップカバー79はゴム製のキャップ状に形成され、内周面に周方向で突条79Aを有する。この突条79Aは、キャップ本体78の取付周溝78Aに嵌着することで、キャップカバー79のキャップ本体78からの脱落を防止する。
【0042】
操作キャップ43とシリンダキャップ52の間でキャップ取付端部51Bには、1個のコイルバネ49が縮装される。コイルバネ49は、自然長よりもピストン51の軸方向に圧縮された状態で操作キャップ43とシリンダキャップ52との間に配置されており、その中心にキャップ取付端部51Bが挿通されている。
【0043】
コイルバネ49の縮装により、操作キャップ43がシリンダキャップ52から常時持ち上げられた状態となる。この状態が、送ガス送水ボタン33が何も操作されないOFF位置POとなる。OFF位置POでは、ピストン51の第2連通路59にシリンダ50の送水源管路接続口55Dに連通する連通路56Aが位置するものの、送水管路接続口55Bは第2のOリング65Bと第3のOリング65Cとに挟まれた遮蔽部60(図3参照)で遮蔽され、送水は行われない。同様に、このOFF状態では、ピストン51の第1連通路58にシリンダ50の送ガス源管路接続口55Cに連通する連通溝56Cが位置するものの、第4Oリング65Dにより送ガス管路接続口55Aとピストン51の第1連通路58とは遮断されているため、送気は行われない。
【0044】
操作キャップ43の押圧操作により、ピストン51が押し下げられると、図3に示すように、傾斜面53BとOリング65Dとの間に隙間48が発生する。この隙間48によって、第1連通路58を介して、送ガス源管路35と送ガス管路31とが連通し、炭酸ガスが送ガス送水ノズル21(図1参照)に送られる。
【0045】
図4に示すように、操作キャップ43の押圧操作により、ピストン51がさらに押し下げられると、ピストン本体51Aの第2Oリング65Bと第3Oリング65Cとの間の遮蔽部60により送ガス源管路接続口55Cが塞がれるため、炭酸ガスが遮断される。また、シリンダケース54の底にピストン本体51Aの先端が当たり、移動終端に達する。この移動終端位置では、第2連通路59によって送水源管路接続口55Dと送水管路接続口55Bとが連通し、送水源管路接続口55Dから送ガス送水ノズル21に送水される。
【0046】
Oリング65Aの転動による押圧抵抗と、転動長さの終端まで達してOリング65Aの転動が規制された後のOリング65Aとシリンダ本体53との摺動による押圧抵抗とは異なる。しかも、摺動による押圧抵抗の方が転動による押圧抵抗に比べて大きいので、この押圧抵抗の違いによって、転動域の終端にOリング65が達したときに押圧抵抗が増加する。この押圧抵抗の増加によって、半押し位置PHを知ることができる。
【0047】
図6〜図9はこの状態を説明するものであり、図6は操作キャップ43の押圧操作が行われないOFF位置POの状態を示している。この状態では、コイルバネ49の付勢力でピストン51が上方に持ち上げられた状態となり、Oリング収納溝61内にOリング65Aは上端に接触している。
【0048】
図7に示すように、操作キャップ43による押圧操作が開始されると、ピストン51の移動に伴いOリング収納溝61内でOリング65Aが転動する。このOリング65Aの転動は押下抵抗としては小さく、軽い操作感が得られる。やがて、図8に示すように、収納溝61の下端にOリング65Aが接触すると、その転動が規制される。この後は、図9に示すように、Oリング65Aは転動することができないため、Oリング65Aとシリンダ本体の内周面とによる接触部は摺動摩擦発生領域A1となり、押圧抵抗が増加する。
【0049】
図10は、1個のコイルバネを用いたときの操作キャップのストロークとそのときの押下力との関係を示している。図11はコイルバネを用いない状態でのピストン移動によるOリングの押下抵抗(押下力)の関係を示している。図12は、図10のコイルバネによる反発抵抗と、図11のOリングによる押下抵抗とを加えたものである。図12に示すように、1個のコイルバネを用いOリングの転動を利用したときのストロークと押下力との関係は、図13に示す従来の2個のコイルバネを用いたものとほぼ同じパターンとなり、コイルバネ1個でも、コイルバネ2個と同じような操作感が得られることが判る。
【0050】
図12において、ストローク位置SP1は、送ガス送水ボタン33がOFF位置POの状態(図2参照)であり、Oリング収納溝61内のOリング65Aは図6の転動開始状態となっている。ストローク位置SP2は、図7に示すように、Oリング65A〜65Cが転動中の状態、ストローク位置SP3は図8に示すように、Oリング65A〜65Cが転動を終了した直後の状態を示している。この位置SP3で、図3に示すように送ガス送水ボタン33は半押し位置PHとなり、送気が行われる。
【0051】
ストローク位置SP4は図8に示すようにOリング65A〜65Cが摺動中の状態を示し、やがてストローク位置SP5に達する。ストローク位置SP5は図4に示すように送ガス送水ボタン33が全押し位置PFの状態であり、送気から送水に切り換わる。一定時間の送水の後に操作キャップ43を離すことにより、コイルバネ49の付勢によってピストン51が全押し位置PFからOFF位置POに復帰する。このとき、Oリング収納溝61内のOリング65Aや他の第2及び第3Oリング65B,65Cが、押圧操作時と逆方向に転動して、図9に示す状態から図8、図7、図6のように変化し、図5のOFF位置POに復帰する。なお、図6〜図9では第1Oリング65Aの転動の状態を示しているが、他の第2及び第3のOリング65B,65Cも第1Oリング65Aと同様に動作する。
【0052】
以上のように、Oリングの転動を利用することにより一つのコイルバネ49で、二段押し動作を得ることができ、構成が簡単になる。また、図13に示すように、従来の2個のコイルバネ101,102を用いる構造では、コイルバネ101,102を2個用いる他に、2個のコイルバネ101,102を連係動作させるための中間ガイド筒103などが必要であったが、これらの部品が不必要になる。しかも、径の異なる2個のコイルバネ101,102をピストン105の一端部に配置して組み付ける必要があり、組み付けに手間を要するものであったが、本実施形態では、1個のコイルバネ49を組み付けるだけでよく、製造が容易になる。また、管路切換装置を内視鏡の手元操作部に設けることにより、操作感が軽快で且つ部品点数が少なく、組み立てが容易な内視鏡が得られる。
【0053】
なお、上記実施形態では、第1及び第2連通路58,59を周溝から形成しているが、これに代えて、ピストン内部に連通する連通孔により形成してもよい。また、転動域を有するOリング収納溝61〜63をピストン51に形成しているが、これはシリンダ50に形成しても良い。また、Oリング65A〜65Cの転動を利用して、二段押下について説明したが、この他に、Oリングの転動域の長さを変えて、三段押下やそれ以上の押下に実施してもよい。また、従来の2個のコイルバネ101,102を使った二段押下構造に、本願発明のOリング65A〜65Cによる転動を最初に加えることで、三段切換構造としてもよい。付勢部材として、コイルバネ49を用いたが、他のゴムなどの弾性体を用いて付勢してもよい。
【0054】
上記実施形態では、OFF位置POから半押し位置PHの押下により送ガスを行い、半押し位置PHから全押しPF位置の押下により送水を行っているが、送ガスと送水との接続口は入れ替えてもよい。この場合には、半押し位置PHで送水に切り換わり、全押し位置PFで送気に切り換わる。
【0055】
また、上記実施形態では、送ガス送水ボタン33に本発明を実施した例について説明したが、その他の内視鏡用管路切換装置、例えば超音波内視鏡におけるバルーン操作のための送気送水ボタンや、吸引ボタンに本発明を実施してもよい。例えば、バルーン操作用の吸引ボタンでは、吸引管路、バルーン排水管路、吸引源管路の計3つの管路が接続する。さらには、これらの管路の他に、他の管路も接続して例えば4種類以上の各種管路を接続してもよい。
【0056】
また、内視鏡に限らず、他のOリングを用いた管路切換装置に対しても、本発明を適用することにより、簡単な構成で二段押下を実現することができる。また、管路の切り換えも、送ガスや送水以外の管路切り換えに実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 内視鏡
11 挿入部
12 操作部
28 吸引管路
29 吸引ボタン
31 送ガス管路
32 送水管路
33 送ガス送水ボタン
35 送ガス源管路
37 送水源管路
43 操作キャップ
49 コイルバネ
50 シリンダ
51 ピストン
52 シリンダキャップ
55A 送ガス管路接続口
55B 送水管路接続口
55C 送ガス源管路接続口
55D 送水源管路接続口
58 第1連通路
59 第2連通路
61〜64 Oリング収納溝
65A〜65D Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの一端に設けられる操作キャップの押圧操作により、シリンダ内におけるピストンのストロークの始端である第1位置と、終端である第2位置と、その途中位置である第3位置とに前記ピストンを位置決めし、前記シリンダに形成されている管路接続口と前記ピストンに形成されている連通路との連通する組み合わせを変えて複数の管路の連通及び遮断を切り換える管路切換装置であって、
前記操作キャップの押圧操作に抗して前記ピストンを前記シリンダに対し前記操作キャップ側に付勢する一つの付勢部材と、
前記ピストンと前記シリンダとの間を気密に保持するためのOリングと、
前記ピストン又は前記シリンダの摺動面の一方に形成され、前記第1位置から第3位置への移動ストローク長さで前記ピストンの移動に伴い前記Oリングを転動させる転動域を有するOリング収納溝と
を備えることを特徴とする管路切換装置。
【請求項2】
操作キャップと、
前記操作キャップが取り付けられるキャップ取付端部及び本体部からなり、前記本体部の周面に第1及び第2の連通路を有するピストンと、
前記ピストンを移動始端である第1位置、移動終端である第2位置、前記第1及び第2位置の途中の第3位置の間で移動自在に保持し、前記各連通路に対面する流体入口及び流体出口を有するシリンダと、
前記キャップ取付端部が貫通する貫通孔を有し、前記シリンダの開口に取り付けられ、前記シリンダからの前記ピストン本体の脱落を阻止するシリンダキャップと、
前記操作キャップと前記シリンダキャップとの間に配置され、前記操作キャップの押圧操作に抗して前記ピストンを第1位置に向けて付勢する一つの付勢部材と、
前記ピストンと前記シリンダとの間で前記各連通路を気密に保持するための複数のOリングと、
前記ピストン又は前記シリンダの摺動面の一方に形成され、前記第1位置から第3位置への移動ストローク長さで前記ピストンの移動に伴い前記Oリングを転動させる転動域を有するOリング収納溝と
を備えることを特徴とする管路切換装置。
【請求項3】
前記ピストンの終端側端部に取り付けられ、前記付勢手段により前記シリンダの内周面に段差を介し押し当てられ、前記シリンダ内周面と前記ピストン外周面との間を気密に保持する突き当てパッキンと、
前記突き当てパッキンに隣接して前記ピストンの本体部に形成される第1連通路と、
前記第1位置状態で前記第1連通路に対面して前記シリンダに開口する第1流体入口と、
前記第1位置状態で前記突き当てパッキンよりも前記シリンダの終端側に開口する第1流体出口とを有し、
前記第1位置では前記突き当てパッキンによりシリンダとピストンとの間を気密に保持し、
前記ピストンの第1位置から第3位置への移動に伴い前記突き当てパッキンによるシリンダとピストンの気密を解除し前記第1流体入口と前記第1流体出口とを連通することを特徴とする請求項1または2記載の管路切換装置。
【請求項4】
前記ピストンに形成される第2連通路と、前記第2位置状態で、前記第2連通路に対面して前記シリンダに開口する第2流体入口及び第2流体出口とを有し、前記ピストンの第3位置から第2位置への移動により、前記第1流体入口と前記第1流体出口との連通から、前記第2流体入口と前記第2流体出口との連通に切り換えることを特徴とする請求項3記載の管路切換装置。
【請求項5】
前記第1流体は気体であり、前記第2流体は液体であることを特徴とする請求項4記載の管路切換装置。
【請求項6】
前記付勢部材はコイルバネであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の管路切換装置。
【請求項7】
前記管路切換装置は内視鏡に設けられることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の管路切換装置。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載の管路切換装置が取り付けられる手元操作部を有することを特徴とする内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−249654(P2012−249654A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122226(P2011−122226)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】