説明

簡易型初乳低温加熱処理装置

【課題】小規模牧場等において初乳を入れた20Lのペール缶をそのまま用いて低温加熱処理を行うことができる簡易型初乳低温加熱装置の提供。
【解決手段】本発明の簡易型初乳低温加熱装置100は、容器に入った初乳を低温で加熱処理するための簡易型初乳低温加熱装置100であって、該簡易型初乳低温加熱装置100は、温湯加熱手段と、温湯循環手段と、加熱処理手段と制御装置とから成っており、該加熱処理手段は、初乳を収容した容器に被せるフタ体220に初乳加熱管路37と初乳撹拌手段たる撹拌翼45を吊り下げて設け、該初乳撹拌手段を回転駆動する攪拌モータ40をフタ体220の上に設けており、ヒータ20によって所定温度に加熱された温湯を温湯循環手段たるポンプ30によって初乳加熱管路37に循環するように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母牛が出産後約1週間程度の間に出す初乳の低温処理装置に関するものであり、特に、小規模牧場等において、初乳を入れた20Lのペール缶をそのまま用いて、所定温度(60℃)の低温で加熱処理を行うことができる簡易型の初乳低温加熱処理装置に関するものである。
【0002】
本発明において、「初乳の低温加熱処理」とは、所定の温度(60℃)において初乳を殺菌処理する目的で処理するものを含むもので、一般的に「低温殺菌」という用語を用いることも多い。しかし、60℃という温度では初乳内の菌が死滅しない場合もあり、従って、「初乳の低温殺菌」という用語は技術的には正確性を欠いている面があるので、本発明においては、より正確に「初乳の低温処理」又は「低温加熱処理」という用語を用いて説明する。従って、「低温殺菌」との用語に代えて「低温処理」又は「低温加熱処理」との用語を用いたからといって、本発明の技術的思想に変更を与えるものではない。
【0003】
また、「初乳」についてであるが、ふりー百科事典「ウィキペディア」によれば「初乳とは分娩後数日間に分泌される乳汁。ただし、初乳の期間は学術上明確になっておらず、分娩後最初の乳汁のみや、分娩後5日目まで、分娩後1週間以内、分娩後10日目までと様々な解釈があり明確な定義はない。」とされており、分娩後の乳汁という定義となっている。本発明は、初乳低温加熱処理装置に関するものであるが、所謂「初乳」のみに限らず、移行乳や成乳と呼ばれている乳汁にも適用して子牛に飲ませることができるのは言うまでもない。本発明においては、これらを「初乳」という用語により代表させて使用している。
【背景技術】
【0004】
従来、初乳は、栄養価が高く消化しやすいタンパク質やビタミンなどを多く含んでいることから、病気に対する免疫力を付けるために子牛に与えられてきた。一方、初乳は、母牛の状態によって、ヨーネ菌、大腸菌、牛白血病などの病原菌が含まれていることもあり、多くの初乳が廃棄されていた。その対策としては、初乳を60℃で30分間程度加熱処理することで、それらの菌を不活化し、子牛に安全な初乳を与えるようにすることが知られてきた。このように、初乳を低温殺菌或いは低温加熱処理して子牛に与えようとする技術は従来から知られていたものである。
【0005】
特許文献としては、高活性タンパク質含有量を保持しながら初乳の生物負荷量を減少させる方法を提供するものとして、特開2001−17078号公報(特許文献1)がある。その方法としては、(a)初乳を採集し、(b)前記初乳を脱脂し、(c)オープンチャンネルを備えたタンジェンシャルフローフィルタ(TFF)デバイス、および0.1−0.5μmの細孔径を有するフィルタを使用して前記脱脂された初乳のクロスフロー精密ろ過(CFMF)を行い、そして(d)ろ液を回収することからなる方法が開示されている。そして、この方法により処理された初乳は臨床用栄養製剤、機能性食品および食品用栄養補助物の製造に使用できるとしている。
【0006】
また、生乳及び加工乳の低温殺菌に関するものであるが、低温保持殺菌工程において、未変性ホエータンパク質の変性率を安定的に4%以下にすることができ、第三次機能して生理的に有用なホエータンパク質を安定的に高含有率で含有する牛乳及び加工乳とするものとして、生乳を常法にて低温保持殺菌する製造工程において流路式保持殺菌装置を用いる低温殺菌牛乳の製造法が特開平5−130831号公報(特許文献2)として開示されている。これには、生乳を常法にて処理し、加熱殺菌工程を経て冷却し、容器に詰め飲用としての牛乳を提供する牛乳の製造方法の前記加熱殺菌工程において、流路式保持殺菌装置により、生乳中の微生物を低温保持殺菌し、牛乳成分中のホエータンパク質の熱変性を少なく保ち、加熱処理することを特徴とする低温殺菌牛乳の製造法が開示されている。
【0007】
このような技術を利用して初乳の低温加熱処理装置を構成することは可能であるが、このように特許文献1や特許文献2に記載された方法を応用するものでは、極めて大規模なシステムとして実施されるものであり、小規模の牧場が簡易に実施するには適していない。
【0008】
一方、非特許文献1「63℃30分の熱処理が初回初乳の抗体濃度と子牛への移行割合に与える影響」には、以下のような「背景・ならい」を「病原細菌で汚染された初乳を介して、子牛の消化器疾患や牛群内の細菌性感染症が増長される危険があり、米国の大規模農場ではプール初乳を熱処理して利用する技術が取り入れられている。しかし、初回初乳は常乳に比較して粘度が高く、加熱処理に伴う移行性免疫の損失や加熱部への焦げ付き等の問題点が指摘されている。米国から導入・市販されている初回初乳の63℃30分の加熱処理が可能な循環型熱処理装置を用いて、初回初乳の殺菌効果と哺乳利用上の留意点を検討する。」と述べて、初乳用低温殺菌装置の利用法を検証している。
【0009】
さらには、中規模から比較的小規模の牧場においても利用可能な初乳の低温殺菌処理装置としては、非特許文献2に開示があり、販売もされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−17078号公報
【特許文献2】特開平5−130831号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】http://cryo.naro.affrc.go.jp/seika/h19/219.html
【非特許文献2】http://www.orionkikai.co.jp/rakuno/products/siyoukanri/E/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような状況において、比較的小規模の牧場においても利用可能な初乳の低温加熱処理装置として構成にしたものであり、特に、簡便な低温加熱処理装置を提供するために、装置本体を加熱処理すべき初乳を収容する容器(ペール缶)とは別体に構成したものである。
【0013】
これに対して、従来は、大型な装置構成を必要とし、それ故に、高価な装置となってしまい、小規模の牧場に安価で簡便に使用できる低温加熱処理装置の提供が課題であった。このように、従来の装置が大型化している理由は、初乳を収容する容器も含めて一体的に完成された装置としてとして構成させていたことが原因であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明は、牧場で初乳を入れる容器として広く用いられているペール缶等をそのまま利用することとし、本体の低温加熱処理装置と初乳を収容する容器とを完全に別体として構成することにより、簡易な低温加熱処理装置を提供しようとするものである。
【0015】
つまり、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、容器に入った初乳を所定温度で加熱処理するための簡易型初乳低温加熱処理装置であって、
該簡易型初乳低温加熱処理装置は、温湯槽と、該温湯槽内の温湯を所定温度に加熱する温湯加熱手段と、該温湯槽内の所定温度の温湯を循環する温湯循環手段と、前記容器内の初乳を加熱処理する加熱処理手段と、簡易型初乳低温加熱処理装置全体を制御する制御手段と、加熱処理すべき初乳を収容した容器に被せるフタ体とから成っており、
該加熱処理手段は、前記容器に被せるフタ体に、初乳加熱管路と初乳撹拌手段とを吊り下げて設けており、さらに該フタ体上には該初乳撹拌手段を回転駆動するモータを設けており、
前記加熱処理手段を取り付けた前記フタ体を前記容器に被せた状態で、前記温湯加熱手段により所定温度に加熱された温湯を、前記温湯循環手段により前記初乳加熱管路内に循環させることによって、前記容器内の初乳を加熱処理するように構成したことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、前記温湯循環手段から伸びる温湯循環管路と前記初乳加熱管路とは、前記フタ体に取り付けられた連結手段によって、取り外し自在に連結されていることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、前記初乳撹拌手段を回転駆動するモータが、電源供給プラグを介して前記制御手段の電源に接続されており、電源供給プラグを抜き、且つ、前記温湯循環管路を前記連結手段から外すことにより、前記加熱処理手段を簡易型初乳低温加熱処理装置本体から取り外せるように構成したことを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、前記初乳加熱管路が、前記温湯循環管路からの往き温湯循環管路に連結された直管部と、それに続く螺旋状管部とから構成されていることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、前記初乳加熱管路は、前記温湯循環管路からの往き温湯循環管路に連結された螺旋状管部と、それに続く直管部とから構成されていることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、前記初乳加熱管路は、前記温湯循環管路からの往き温湯循環管路に連結された螺旋状管部と、それに続く戻りの螺旋状管部とから構成されていることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、初乳の加熱処理の処理温度を設定できるように温湯或いは初乳の温度を測定する温度センサを備え、該温度センサの検知温度によって前記温湯加熱手段のオン・オフを制御するように構成したことを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置は、温湯槽内の温湯の温度を測定する温度センサを備え、該温度センサの検知温度によって前記温湯加熱手段のオン・オフを制御するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置によれば、初乳低温加熱処理装置本体と初乳を収容した容器(ペール缶)とを完全に別体のものとして構成することが可能なことにより、大型な装置を必要とせず、簡便な初乳低温加熱処理装置を提供することができるものである。
【0024】
そのために、加熱処理手段を構成する初乳加熱管路と初乳撹拌手段をフタ体に吊り下げた構成とし、このフタ体を初乳収容容器(ペール缶)に被せて使用することにより、簡便に初乳の加熱処理操作を実現可能としたものである。
【0025】
さらに本発明においては、初乳加熱管路と初乳撹拌手段を吊り下げたフタ体を、初乳低温加熱処理装置本体から取り外し自在に構成することにより、装置の保管や洗浄に便利となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の構成概念図である。
【図2】本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の正面図であり、簡易型初乳低温加熱処理装置の加熱処理手段(図2(B))を、温湯槽部分と制御手段部分(図2(A))から成る主要装置部分から取り外した状態を示している。
【図3】本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の側面図である。
【図4】本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の使用状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の初乳加熱部分の別実施例の分解拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。図1は、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の構成概念図である。
【0028】
図1に示すように、子牛を生んだ後の母牛から搾乳した初乳210は初乳容器200(本実施例においては容量20Lのペール缶)に入れられている。この初乳容器200たるペール缶は、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置の必須構成要件ではない。従って、各牧場において従来使用している容器をそのまま使うことも可能である。勿論、本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置専用の初乳容器として構成したとしても、装置本体と一体不可分として構成しない限りは、本発明の概念に包含され得るものである。
【0029】
本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置は、全体を100で示されており、温湯槽10内に、初乳の低温殺菌消毒を目的とした低温加熱処理をするための加熱温源としての温湯15が入れられている。この温湯15は、温湯槽10内に設けられた温湯加熱手段20としてのヒータにより所定温度(本実施例においては、初乳の処理温度よりも若干高い温度の61℃の温湯で説明しているが、一般的な初乳の低温処理温度として知られている60℃近傍の温度を適宜選択できる。)にまで加熱される。このヒータ20は、どのような構成の加熱手段を採用することも可能であるが、本実施例においては、電源25から通電される電熱ヒータ20の構成としている。この電熱ヒータ20の電源25のON/OFFは制御装置60によって制御される。
【0030】
本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置100では、容器200内の初乳210の加熱処理温度を60℃に維持した状態で30分行うが、その温度制御は、温度計測手段50に接続された容器200内の初乳温度を検知する温度検知部55及び温湯槽10内の温湯15の温度を検知する温度検知部56からの検知信号によって、制御装置60が制御している。これにより、所定温度(本実施例においては61℃)までに加熱された温湯15は、温湯循環手段30により温湯循環管路35,36を循環させられる。本実施例の温湯循環手段30はポンプ等の揚水手段を用いている。これにより、温湯槽10→温湯循環管路35→温湯循環手段30→初乳加熱管路37温湯循環管路36→温湯槽10の循環経路が構成される。
【0031】
この場合の温度制御は、温度検知部55から得られる容器200内の初乳温度をt1とし、温度検知部56から得られる温湯槽10内の温湯15の温度をt2とすると、t1とt2を検知することによってヒータ20の電源をON・OFFして制御する。具体的には、t1は処理目標温度60℃を下回るか否かで制御され、t2は(60+α)℃を下回るか否かで制御される。t2の(60+α)℃という温度は、最終的にはt1を所定時間の間、処理目標温度60℃に維持するために、その目標温度よりも高めに設定したものであり、この具体的温度は実際の装置によっても相違するものである。
(1)まず、ヒータ20の電源をONして加熱処理が始まり、処理されるべき初乳が処理目標温度の60℃を下回っている際には(通常は処理前の初乳の温度は処理目標温度60℃より低い)、ヒータ20の電源のONを継続する。つまり、t1<60℃の場合には、t2が(60+α)℃となるまで、ヒータ20電源のONを継続する。t2≧(60+α)℃となれば、ヒータ20電源をOFFする。t1<60℃の場合は、t2が(60+α)℃を越えるか否かで何度か電源のON・OFFが繰り返される。
(2)ヒータ20の電源のONを継続している間に、t1≧60℃となった場合には、ヒータ20の電源をOFFする。ヒータ20の電源のOFFを継続している間に、t1≧60℃となった場合には、ヒータ20の電源をOFFを継続する。つまり、t1が60℃を超えると、t2の温度に関係なくヒータ20の電源はOFFされる。
(3)ヒータ20の電源OFFにより、容器200内の初乳温度をt1が60℃より下がってくると、電源がONとなり、上記(1)の制御に戻る。
この場合の実際の制御の命令は以下のとおりである。
a)t1<60℃の場合
t2<60+α℃ ヒータON
t2≧60+α℃ ヒータOFF
b)t1≧60℃の場合
t2<60+α℃ ヒータOFF
t2≧60+α℃ ヒータOFF
また、この際のαの取り得る範囲としては以下のとおりである。
0℃<α≦5℃
【0032】
本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置100においては、空焚き防止用のフロートスイッチ57が設けられ、制御装置60により空焚きがないように制御している。温湯循環手段のポンプ30には、制御装置60から電源を供給する電線31,31が延びている。このフロートスイッチ57の構成の詳細は特に説明しないが、従来知られている構成であり、温湯15が温湯槽10内の下限水位以下にならないように、温湯槽10内の温湯15が下限水位を下回った場合には、ヒータ20に供給する電源をOFFする構成となっている。この際には、ポンプ30の運転も同時にOFFとし、後述するタイマの動作もリセットする構成を採用することができる。温湯槽10内の水はドレンコック66を介して排水チューブ67から排水される。
【0033】
温湯15の循環管路35,36には初乳加熱管路37が連結されており、この初乳加熱管路37は、初乳210の収容容器200としてのペール缶(本発明の必須の構成要件ではない)内に挿入可能に構成される。さらに、ペール缶200内には、収容した初乳210を撹拌するために撹拌翼45がモータ40により回転自在に吊下されて挿入可能に構成されている。このように、初乳210が収容されたペール缶200内に、加熱処理手段としての初乳加熱管路37及び初乳撹拌手段(撹拌翼)45を挿入可能に構成するためには、温湯循環管路35,36、及び撹拌翼45と該撹拌翼45を駆動するモータ40をペール缶200に被せるフタ体220に対して取り付けることにより可能としている。つまり、温湯循環管路35,36と初乳加熱管路37とを接続するための管路接続プラグ46,47は、適当な構成を備えた固定具48を介してフタ体220に対して取り付けられている。これにより、温湯循環管路35,36と初乳加熱管路37とは、管路接続プラグ46,47を介して取り外し自在に接続される。また、モータ40への電源供給線41,41は適当な位置に設けられた電源供給プラグ(図1では図示なし)により装置本体から取り外し自在に接続されている。
【0034】
さらに、別の実施例として、図5(A),(B)において示すように、フタ体220と初乳加熱管路37とを分離可能に構成することも可能である。その際は、初乳加熱管路37は、ボルト72(固定具73に固定)とナット71によって、固定具73を介して、フタ体220に対して取り付け自在に取り付けられている。フタ体220には所定の大きさの開口74,74が形成されており、その開口74,74に対して管路接続プラグ47,47が挿入されるように構成されている。
【0035】
本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置100の動作時には、温度計測手段50が初乳容器200内に設けた温度検知部55からの温度検知によって、制御装置60が電源25への通電によるヒータ20の加熱量を制御して、ペール缶200内に収容された初乳210が所定温度(本実施例では60℃)になるように制御する。このように温度を所定温度に制御する制御方法を実現する具体的構成は、当業者であれば容易に実現可能であるので詳細な図示はしないが、制御装置60内の制御手段によって達成される。ペール缶200内の初乳210の所定温度(本実施例では60℃)及び、簡易型初乳低温加熱処理装置100の加熱時間としての動作時間(本実施例では30分)は夫々設定可能となっている。このようにして、簡易型初乳低温加熱処理装置100は制御装置60により初乳210の所定温度が制御され、動作時間内でポンプ30及び撹拌モータ40が運転される。この制御の際に、設定した処理時間が経過してヒータ20をOFFしポンプ30を停止せしめた後にも、攪拌モータ40は動作を継続させておく構成とすることも可能である。この構成により、所定の温度に上昇された初乳が固まってしまうことが防止できる。
【0036】
さらに、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置100の詳細構成を図2(A)(B)乃至図4により説明する。図2(A)及び(B)は、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置100の正面図であり、簡易型初乳低温加熱装置100の加熱処理手段(図2(B))を、温湯槽10部分と制御手段60部分(図2(A))から成る主要装置部分から取り外した状態を示している。図3は、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置100の側面図であり、図4は、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置100の使用状態を示す斜視図である。
【0037】
本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置100は、下端がゴム足3等を有した2本の脚部2と、2個のキャスタ8を備えた設置台1上に設置されている。2個のキャスタ8を備えた理由は操作場所の移動を容易にするものであり、移動する必要性が少ない場合には4本共に脚部2の構成としても良い。いずれにしても、この設置台1や脚部2やキャスタ8は、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置100の必須の構成要件とされるものではない。
【0038】
図2に示した実施例の簡易型初乳低温加熱装置100の設置台1上には、温湯槽10と制御装置60が載置されている。温湯槽10は、プラスチック製の水槽であり市販されているもので良い。温湯槽10の上面は、開閉蓋5が設けられ、塵埃が入らないようにしてある。
【0039】
温湯槽10内には、詳細は図示しないが、側面から温湯槽10内に市販のシーズヒータ20が所定本数設けられており、温湯槽10内の温湯を所定温度に加熱する。温湯槽10内の湯温15を設定温度(本実施例では61℃)となるように制御するために、湯温15の温度を検知する温度計測手段50を設けているが、その制御の際に、どこの位置の湯温を検知するかは、選択が可能なものである。つまり、温度検知部56の設置位置は、選択が可能なものであり、図1の実施例では、温湯槽10内の底面近くに温度検知部56を設けた構成としている。また、温湯15は初乳を所定温度に加熱するものであるから、温湯循環管路35内の適当位置、例えば、戻り温湯循環管路36の温湯槽10吐出口近傍に適宜温度検知部56を設けた構成としても良い(図示なし)。
【0040】
加熱ヒータ20により設定温度(本実施例においては61℃)となるように制御された温湯15は、適当なポンプ30によって温湯循環管路35,36及び初乳加熱管路37内を循環させられる。温湯循環管路35,36には、往きと戻りの管路があり、図1では、往き温湯循環管路35及び戻り温湯循環管路36として示されている。往き温湯循環管路35と戻り温湯循環管路36に連結された初乳加熱管路37の詳細は図2(B)に示している。初乳加熱管路37は、往き温湯循環管路35に連結された直管部38と、それに続く螺旋状管部39とから構成されている。初乳加熱管路37の直管部38と螺旋状管部39の各端部には、夫々管路接続プラグ47,47が設けられており、各管路接続プラグ47,47は、ペール缶200のフタ体220に対して、適当な固定手段48によって取り付けられている(図2(B))。なお、図示しないが、初乳加熱管路37は、往き温湯循環管路35に連結された螺旋状管部と、それに続く直管部とから構成されている。また、初乳加熱管路37は、両方共に螺旋状管部で構成することも可能である。
【0041】
この管路接続プラグ47,47に対しては、往き温湯循環管路35と戻り温湯循環管路36の各端部に取り付けられた管路接続プラグ46,46が連結される構成となっている(図2(A))。このフタ体220側に取り付けた管路接続プラグ47,47と、温湯循環管路35,36側に取り付けた管路接続プラグ46,46とを夫々接続することにより、容器200内の初乳を加熱するための加熱温湯を循環させる循環管路系(温湯槽10→温湯循環管路35→温湯循環手段30→初乳加熱管路37温湯循環管路36→温湯槽10)を構成することができる。また、この管路接続プラグ46,46と管路接続プラグ47,47とを切り離すことにより、装置の保管や洗浄のために便利である。
【0042】
ペール缶200のフタ体220には、ペール缶200内の初乳210を撹拌するための撹拌翼45が吊り下げられており、その撹拌翼45は、フタ体220に取り付けられたモータ40によって回転駆動される。撹拌翼45は、図3に示すとおりに、螺旋状管部39の中心部付近に設けるのが良い。この撹拌翼45の形状は適宜選択が可能なものである。
【0043】
このように、ペール缶200のフタ体220には、初乳加熱管路37と、撹拌翼45と、モータ40、及び温度検知部55が取り付けられているが、初乳加熱管路37は、管路接続プラグ46,46と管路接続プラグ47,47によって、温湯循環管路35,36とは取り外し自在に構成されている。また、回転モータ40の電源は、適宜コンセントにより本体の制御装置60に繋げられているので、本体から容易に分離することも可能で、装置の保管や洗浄等に至便である。図示のペール缶200のフタ体220は、4辺を折り曲げた平板で構成したが(図4)、適当な寸法で作った単なる平板状の円盤でも良く、また、市販のペール缶のフタ体をそのまま用いても良い。
【0044】
本実施例において、制御装置60の詳細は図示しないが、漏電ブレーカ(図示なし)付きの電源を備え、その制御スイッチ等として、電源スイッチ61、スタンバイスイッチ62、赤ランプ63、緑ランプ64を備えている。本実施例においては、スタンバイスイッチ62内には、スイッチのON/OFFによって、点灯/消灯するランプが埋め込まれており、スタンバイスイッチ62のON/OFFを知ることができるように構成されている。なお、実際の装置としてスタンバイスイッチ62を備えずに、電源スイッチ61等の操作によりスタンバイ操作を実行することも可能である。
【0045】
本発明の簡易型初乳低温加熱処理装置の使用形態として、ペール缶200等の容器を温湯槽10内に収容した状態で加熱処理動作を行うことも可能である。それにより、寒冷地においては、初乳の冷却に対する対応が可能となる(図示せず)。
【0046】
本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置100の具体的仕様は以下のとおりである。
処理量 18L/回(具体的装置によって設定が可能)
設定温度範囲 40〜90℃(なお、設定温度とは具体的装置として処理温度をどの範囲で選択可能に構成するかということであり、装置としての物理的な能力を規定しているものではない。そこで、本装置の使用目的に応じて種々選択可能なものであり、例えば、0℃〜65℃を設定温度範囲とする装置を構成することも可能である。)
通常設定温度 初乳消毒処理温度60度、温湯加熱温度61℃(これは温度調節器の設定温度であり、市販容器などの多用されている容器の耐久性等を考えると、上限は65℃程度が望ましい。)
タイマ設定範囲 1〜60分
電源 AC200V(3相) 50/60Hz 16A 或いは7.6A(具体的装置によって設定が可能)
ヒータ容量 3.2kw 或いは2.5kw(具体的装置によって設定が可能)
【0047】
以下、本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱処理装置100の操作手順を操作の流れに沿って説明する。なお、下記手順で説明する際のランプの点灯、消灯、或いは点滅状態等は発明の本質ではなく、実施例のレベルで自由に選択可能なものである。
(1)以下の手順により、稼動準備をする。
・水を装置本体の温湯槽10の適正水位まで投入する。この適正水位は温湯槽10内に目視可能な状態で適正水位線等が引かれており、使用継続により水位が下がる場合の下限水位は温湯槽10内に設けられたフロートスイッチ57により設定することができる。
・センサプラグ32をセンサコンセント33に接続する。本実施例においては、接続ケーブル34は、電源配線、センサ用配線及びアース配線から構成されている。
・本体のホース35,36側の管路接続プラグ46,46を、初乳加熱管路37側の管路接続プラグ47,47に接続する。
(2)以下の手順により、初乳を60℃に温める。
・容器200に初乳を入れ、初乳加熱管路37、撹拌翼45及び温度検知部55を初乳に浸す。
・電源スイッチ61をONにする。
・次いで、スタンバイスイッチ62をONにする。その際には、スタンバイスイッチ内のランプが点灯していることを確認する。
(3)60℃到達後にタイマ作動
・容器200内に挿入した温度検知部55により、初乳の温度が60℃に到達した後、制御装置60内のタイマ(図示なし)が自動的に作動する。
・その際には、スタンバイスイッチ62内のランプが消灯し、赤ランプ63が点灯していることを確認する。
(4)消毒完了(タイマカウントアップ)
・タイマのカウントアップ後、赤ランプ63及び緑ランプ64の両方が点灯していることを確認する。
また、この場合には、緑ランプ64のみの点灯により確認する態様とすることも可能である。
(5)連続運転
・スタンバイスイッチ62をOFFにする。
・初乳210を未消毒のものと入れ替える。或いは、初乳を容器200ごと未消毒のものと交換する。
・前記(2)の操作から続ける。
ここで、スタンバイスイッチ62を設けない構成の場合には、電源スイッチ61をOFFし、再度ONすることによってリセット動作をさせることも可能である。
【0048】
以上の実施例においては、初乳容器200内に温度検知部55を設けた例を説明したが、本発明の簡易型初乳低温加熱装置100の実施例としては、温湯槽10内に温度検知部56を設け、温湯槽10内の温湯15の温度を温度検知部56によって検知して制御することも可能である。以下、そのような実施例を用いた加熱処理手順をステップ・バイ・ステップで説明する。
〔ステップ1〕
初乳の消毒温度60℃よりも少し高めの設定温度(本発明の実施例においては61℃)で、本体装置側の温湯槽10内の水を当該設定温度(61℃)まで加熱する。それにより、初乳容器200内を循環する初乳加熱管路37内の温湯を設定温度にまで加熱する。
〔ステップ2〕
初乳容器200(20L容ペール缶)に、1回で処理する量(本実施例においては18L)の初乳を入れ、その容器に撹拌翼45、初乳加熱管路37及び温度検知部55を、フタ体220に取り付けた状態で投入する。
〔ステップ3〕
熱交換器としての初乳加熱管路37により温湯の熱が容器内の初乳へ熱伝達されることにより、初乳は加熱され温湯槽10内の湯温の熱は奪われる。それを、制御装置60によりヒータ20の通電制御をする。
〔ステップ4〕
ヒータ20のON表示を確認後、タイマのスタンバイスイッチ62をONする。
〔ステップ5〕
温湯槽10内の温湯の湯温が61℃に達した時点でタイマ(図示なし)を自動的にONする。なお、湯温と初乳の温度には、必然的に0.5℃ほどの違いが発生するので、余裕をみて湯温の設定温度は61℃とする。この温湯の設定温度は、初乳加熱処理の温度、及び装置環境(湯温と初乳の温度差を実験的に求める)により適宜設定可能である。
〔ステップ6〕
そこから、消毒処理時間(30〜40分程度)の間、制御装置60は温湯層10内の温湯を設定温度に維持するように制御する。
〔ステップ7〕
タイマのカウントアップが終了すると、処理完了ランプが点灯するので、ヒータ20をOFFする。このヒータOFF操作は、自動でも手動でも実現可能である。
【0049】
本発明の実施例の簡易型初乳低温加熱装置は、以上の構成により、以下の特徴を備えている。
(1)初乳低温加熱装置本体側と初乳を収容する容器部分を別体に構成できる。
(2)初乳容器内に収容する熱交換器としての温湯循環パイプは、可撓性のフレキシブル管を使用して安価な構成とすることができる。
(3)撹拌部及び熱交換器部を初乳低温加熱装置本体から分離できるように構成したので、装置の保管・洗浄が簡単である。
(4)温度センサは初乳の温度を検知して制御する構成とすることも可能であるが、さらには、循環させる湯温の温度を検知して制御するように構成すれば、より構造が簡単になる。
(5)簡易型初乳低温加熱装置100の動作時間(加熱時間)及び消毒処理温度(60℃)は夫々設定可能となっている。
【符号の説明】
【0050】
10 温湯槽
20 ヒータ(温湯加熱手段)
30 ポンプ(温湯循環手段)
32 連結手段
35,36 温湯循環管路
37 初乳加熱管路
40 撹拌モータ
45 撹拌翼(初乳撹拌手段)
46,47 管路接続プラグ
50 温度計測手段
60 制御装置
100 簡易型初乳低温加熱装置本体
200 初乳容器
210 初乳
220 フタ体(ペール缶フタ体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に入った初乳を所定温度で加熱処理するための簡易型初乳低温加熱処理装置であって、
該簡易型初乳低温加熱処理装置は、温湯槽と、該温湯槽内の温湯を所定温度に加熱する温湯加熱手段と、該温湯槽内の所定温度の温湯を循環する温湯循環手段と、前記容器内の初乳を加熱処理する加熱処理手段と、簡易型初乳低温加熱処理装置全体を制御する制御手段と、加熱処理すべき初乳を収容した容器に被せるフタ体とから成っており、
該加熱処理手段は、前記容器に被せるフタ体に、初乳加熱管路と初乳撹拌手段とを吊り下げて設けており、さらに該フタ体上には該初乳撹拌手段を回転駆動するモータを設けており、
前記加熱処理手段を取り付けた前記フタ体を前記容器に被せた状態で、前記温湯加熱手段により所定温度に加熱された温湯を、前記温湯循環手段により前記初乳加熱管路内に循環させることによって、前記容器内の初乳を加熱処理するように構成したことを特徴とする簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項2】
前記温湯循環手段から伸びる温湯循環管路と前記初乳加熱管路とは、前記フタ体に取り付けられた連結手段によって、取り外し自在に連結されていることを特徴とする請求項1記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項3】
前記初乳撹拌手段を回転駆動するモータは、電源供給プラグを介して前記制御手段の電源に接続されており、電源供給プラグを抜き、且つ、前記温湯循環管路を前記連結手段から外すことにより、前記加熱処理手段を簡易型初乳低温加熱処理装置本体から取り外せるように構成したことを特徴とする請求項2記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項4】
前記初乳加熱管路は、前記温湯循環管路からの往き温湯循環管路に連結された直管部と、それに続く螺旋状管部とから構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の内の何れか一つの請求項記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項5】
前記初乳加熱管路は、前記温湯循環管路からの往き温湯循環管路に連結された螺旋状管部と、それに続く直管部とから構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の内の何れか一つの請求項記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項6】
前記初乳加熱管路は、前記温湯循環管路からの往き温湯循環管路に連結された螺旋状管部と、それに続く戻りの螺旋状管部とから構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の内の何れか一つの請求項記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項7】
前記簡易型初乳低温加熱処理装置は、初乳の加熱処理の処理温度を設定できるように温湯或いは初乳の温度を測定する温度センサを備え、該温度センサの検知温度によって前記温湯加熱手段のオン・オフを制御するように構成したことを特徴とする請求項1乃至6の内の何れか一つの請求項記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。
【請求項8】
前記簡易型初乳低温加熱処理装置は、温湯槽内の温湯の温度を測定する温度センサを備え、該温度センサの検知温度によって前記温湯加熱手段のオン・オフを制御するように構成したことを特徴とする請求項7記載の簡易型初乳低温加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−284149(P2010−284149A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172792(P2009−172792)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000132792)株式会社タイガーカワシマ (48)
【Fターム(参考)】