説明

米粉パン及び米粉パンの製造方法

【課題】小麦アレルギーを引き起こす可能性のある小麦粉を使用せずに、加工しやすく、ボリューム感、ふっくら感及びしっとり感等の食感に富み食味的にも優れた米粉パンを提供すること。
【解決手段】この米粉パンは、210℃以上250℃以下で熱水処理されたとうもろこし粉を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉を主成分とする米粉パン及びその製造方法に係り、特に熱水処理されたとうもろこし粉を含有し食味、食感が改良された米粉パン等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトガルより日本に伝わったとされているパンの消費は、第二次世界大戦後急激に拡大し、今日では消費者の食生活に欠くことのできない食品となっている。これを受けて最近は業界内での競合が顕著になってきている。
【0003】
パンは、主原料として小麦粉を使用し、通常、酵母などにより発酵させ膨らませる。そして、そこから生じる食感が消費者に好まれている。小麦粉は水を加えて練り合わせてパン生地とされる。その際、小麦粉中のタンパク質であるグリアジンとグリテニンがグルテンになる。パン生地の発酵中に生じる炭酸ガスはグルテンによりパン生地中に閉じ込められ、パン生地の体積を増加させる。そして、このことがパンの食感や美味しさに繋がる。
【0004】
一方、アジア諸国では米が伝統的に主食として用いられているが、日本ではパンの消費拡大に伴い米の消費量が低下してきている。しかし、近年の健康志向の高まりや日本の食料自給率向上の模索の中で、栄養学的にも優れていて自給率も高い米は再び見直され始めている。それを受けて米の消費量を増加させる工夫としてパンの主原料である小麦粉の代替に米粉を利用する方法が考えられている。そして、これを新しいパン(以下、米粉パンという。)として商品化するためにパンの各製造メーカーは日夜、研究を行っている。
【0005】
しかしながら、従来から和菓子の原料として用いられている上新粉等の米粉を小麦粉の代替として用いても、小麦粉を用いた場合のようにグルテンが生成されず良好な発酵生地が得られない。結果として、ボリューム感、ふっくら感、しっとり感等の食感や食味的に劣るパンしか作ることができなかった。
【0006】
また通常、小麦粉を主成分とするパンには、食感を向上させるために各種の製パン改良剤を用いることが知られている。しかし、このような製パン改良剤の中に米粉パンに対しても食感の向上効果を示すものは今まで知られていなかった。
【0007】
そのため各メーカーは、小麦粉を米粉に混合したり、製パン改良剤である小麦グルテンを添加したりする方法で米粉パンを製造し、市販している。そして、このようなものの例として、例えば特許文献1〜2に開示のものがある。
【0008】
【特許文献1】特開平11−225661号公報
【特許文献2】特開2003−235439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの小麦粉を混合した米粉パン等では、米粉とグルテンの馴染みが悪く分離しやすいために、パン生地が均一になりにくく、加工しにくいという問題がある。また、小麦粉を混合した場合には、小麦に対するアレルギー症状である小麦アレルギーを完全に防止することができないという問題もある。更に消費者がパンに期待する、もっちりとした独特の食感もなく、風味の面でも劣ったものになってしまうという問題もある。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みて為されたもので、小麦アレルギーを引き起こす可能性のある小麦粉を使用せずに、加工しやすく、ボリューム感、ふっくら感及びしっとり感等の食感に富み食味的にも優れた米粉パン及び米粉パンの製造方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決することを目的とし鋭意研究を重ねた結果、副原料として、熱水処理したとうもろこし粉を含有させることにより、食感に富み、食味的にも優れた米粉パンが得られることを知見し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の例示的側面としての米粉パンは、210℃以上250℃以下で熱水処理されたとうもろこし粉を含有する。熱水処理によりとうもろこし粉のタンパク質が変成し、デンプンがアルファ化する。この熱水処理されたとうもろこし粉を含有する米粉パンはボリューム感、ふっくら感及びしっとり感に富み食味的にも優れたものとなる。また、米粉ととうもろこし粉は馴染みがよく、均一なパン生地とすることができる。
【0013】
本発明のとうもろこし粉は、種類は特に限定されないが、タンパク質含量が5〜10%、炭水化物が75〜85%程度のものが好ましい。
【0014】
とうもろこし粉は、210℃以上250℃以下で熱水処理されたものを用いる必要性がある。一般的には、皮を除去し全粒粉とした後に熱水処理と乾燥処理を行った、粉末状のものが好ましい。なお、210℃以上250℃以下で熱水処理をされたとうもろこし粉であれば、その作成方法は特に限定されない。また熱水処理と乾燥処理にあまり長時間かけるのは好ましくなく両処理を5分以内で行うことが望ましい。
【0015】
とうもろこし粉は210℃より低い温度で処理されると、粘性が出にくくなり水分の保持などに悪影響が生じてしまうため、米粉パンに含有させた際にボリューム感やしっとり感が出にくくなるという問題がある。また、とうもろこし粉は250℃より高い温度で処理されるととうもろこし粉自体が焼けてしまうという問題もある。しかし、210℃以上250℃以下で熱水処理を行えばこれらの問題も生じない。
【0016】
米粉パンの主材である米粉は、うるち米、もち米などの生米を粉砕、粉末化したものである。うるち米の種類としてはジャポニカ米、インディカ米等が挙げられる。もち米の種類も特に限定されない。また粉砕のメッシュに関しても特に限定はなく、例えば、うるち米であれば、新粉、並新粉、上新粉、上用粉に限定されない。またこれらを適宜混合したものでも構わない。
【0017】
更に米粉に風味改善材として他の穀物粉や具材を入れても構わない。例えば穀物粉として、ライ麦粉、そば粉末、野菜粉末、大麦粉末を入れてもよいし、具材として、レーズン、ひじき、ドライフルーツ、チョコチップ、豆等を入れてもよい。
【0018】
とうもろこし粉の粒度が75μm以上200μm以下であってもよい。粒度が200μmより大きいと粒度が大きすぎるため、とうもろこし粉を含有した米粉パンを食した際にとうもろこし粉が口に残ってしまう。そのため、パンの美味しさに欠けるという問題が生じる。また、粒度が75μmより小さいと、粒度が細かすぎるため米粉パンを製造する際のハンドリング時に粉立ちが起きてしまい作業性が悪くなるという問題も生じる。とうもろこし粉の粒度が75μm以上200μm以下であれば、このような問題も生じない。
【0019】
100重量部の米粉に対しとうもろこし粉が1重量部以上20重量部以下の割合で混合されていてもよい。この割合で混合することで、一層好ましい食味、食感を得ることができる。さらに、とうもろこし粉の割合を5〜10重量部とすれば、さらに一層好ましい食味、食感を得ることができる。
【0020】
熱水処理は、とうもろこし粉に水を添加する工程と、水が添加されたとうもろこし粉を水蒸気環境下において210℃以上250℃以下で加熱する工程を有していてもよい。熱水処理によりとうもろこし粉のタンパク質が変成し、デンプンがアルファ化する。この熱水処理されたとうもろこし粉を含有する米粉パンは食感に富み食味的にも優れたものとなる。
【0021】
本発明の他の例示的側面としての米粉パンの製造方法は、米粉と210℃以上250℃以下で熱水処理されたとうもろこし粉とを混合してパン生地を作成する工程と、パン生地を発酵させる工程と、発酵させたパン生地を焼成する工程とを有する。
【0022】
熱水処理されたとうもろこし粉を含有するのでこの製造方法により製造された米粉パンは食感に富み食味的にも優れたものとなる。また、米粉ととうもろこし粉は馴染みがよく、均一なパン生地を作成することができる。
【0023】
とうもろこし粉は210℃より低い温度で処理されると、粘性が出にくくなり水分の保持などに悪影響が生じてしまうため、米粉パンに含有させた際にボリューム感やしっとり感が出にくくなるという問題がある。また、とうもろこし粉は250℃より高い温度で処理されるととうもろこし粉自体が焼けてしまうという問題もある。しかし、210℃以上250℃以下で熱水処理を行えばこれらの問題も生じない。
【0024】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下に説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、小麦アレルギーを引き起こす可能性のある小麦粉を使用せずに、加工しやすく、ボリューム感、ふっくら感及びしっとり感等の食感に富み食味的にも優れた米粉パン等を提供することができるのでアレルギー体質の人でも安心して食べることができる。また栄養学的にも優れていて自給率も高い米の有効利用にもなるので、食料自給率の向上や、米加工業界の発展に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る米粉パンの製造方法について説明する。この米粉パンの製造は、通常のパンの作り方に準じて行えば良い。その手順を図1のフローチャートを用いて説明する。
【0027】
まず、米粉、とうもろこし粉、糖類、食塩、イーストに水を加え、低速混合を行いパン生地を作成する(S.1)。低速混合により作成されたパン生地に油脂を入れて中速混合し(S.2)、そのパン生地を分割してパンの形に成型する(S.3)。成型されたパン生地は、ねかせて発酵させ(S.4)、その発酵させたパン生地を焼成すれば米粉パンが出来上がる(S.5)。
【0028】
ここで使用されるとうもろこし粉は、熱水処理及び乾燥処理されたものを使用している。その熱水処理及び乾燥処理の手順を図2に示すフローチャートを用いて説明する。
【0029】
まずとうもろこしの皮を除去し(S.6)、とうもろこしの実を全粉粒としてとうもろこし粉を得る(S.7)。得られたとうもろこし粉に水を添加し(S.8)、水が添加されたとうもろこし粉を加熱容器内で210℃以上250℃以下で加熱する(S.9)。このとき、加熱容器内に水蒸気を充満させ加熱容器内を水蒸気環境下とすることで、添加した水が熱水処理の間に蒸発してしまうことを防止する。
【0030】
このように熱水処理されたとうもろこし粉は215℃以上230℃以下の乾燥温度で乾燥される(S.10)。熱水処理と乾燥処理とは、両処理で5分以内で行われることが望ましい。そのために、水の添加量は、とうもろこし粉の重量の2〜20%の重量となるように調整され、乾燥温度は215℃以上230℃以下に設定されている。
上記糖類としては、砂糖、ぶどう糖、乳糖の糖、又はソルビトール、マルチトール、水添水飴などの糖アルコールが挙げられる。
【0031】
上記食塩としては、塩化ナトリウム99%以上の精製塩、または天日塩などの祖製塩などが挙げられる。
【0032】
上記イーストとしては通常のパンの製造に用いられているSaccharomyces Cerevisiaeが用いられるが、それは生イーストであっても乾燥イーストであっても構わない。
【0033】
上記油脂としてはバター、マーガリン、ショートニング、ラード、オリーブオイル、サラダ油等が挙げられる。
【0034】
パン生地の作成に用いられる水は通常の水道水を用いてもよいし、その代替として牛乳や豆乳などの他の液体を用いてもよい。加水率は米粉100重量部に対して70〜90重量部、特に75〜85重量部とすることが望ましい。
【0035】
パン生地の混合には市販のミキサーを用いてもよい。ミキサーの性能や室温によりパン生地を混合する際の条件は適宜設定することができる。捏ね上げ温度は通常20〜30℃であればよいが、22〜25℃であればより好ましい。
【0036】
上記発酵工程には第一発酵工程と最終発酵工程とが設けられる場合もある。第一発酵工程はパン生地の成型前に行われ、その所要時間は0〜30分が好ましい。この工程は特に必要性はなく本実施の形態では省略しているが、イーストとして乾燥イーストを用いた場合には設けた方が好ましい。
【0037】
成型したパン生地は最終発酵工程を行うが、通常は温度30〜38℃、湿度75〜80%で、25〜35分行うのが好ましい。
【0038】
焼成温度は200〜230℃、好ましくは210〜220℃がよい。焼成時間は25〜35分、好ましくは27〜29分がよい。しかし、焼成する釜の特性により、好ましい設定温度や設定時間は微妙に異なるので注意が必要である。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0040】
本発明に係る米粉パン(以下、含有例という。)と、とうもろこし粉を含有しない米粉パン(以下、比較例という。)とを製造し、両者を比較した。
【0041】
表1に、含有例と比較例の各材料の配合を示す。なお、製造方法は両者とも実施の形態で説明した通常のパンの作り方に準じて行なった。
【0042】
【表1】

【0043】
まず、含有例、比較例の製造時の状態、出来上がり後の状態を検証した。その検証結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から明らかなように、含有例が比較例に対して、外観及び食感も非常に好ましい結果となった。
【0046】
具体的には、発酵時のパン生地の体積増加(焼成前)が含有例の方が良好で、これは発酵中に生じる炭酸ガスをパン生地がその中に閉じ込めていることを示す。したがって、パンの食感や美味しさも含有例の方が良好であるといえる。同様に、含有例はパン生地が焼成後に体積が増加したことを示す釜延びも生じており、ボリューム感やふっくら感も比較例より優れているといえる。
【0047】
また、実際に食した食感も、含有例の方がもちもち感があり美味しく、比較例はガチガチであることから、消費者がパンに期待するもっちりとした食感やしっとり感そして食味的にも含有例の方が優れているといえる。
【0048】
次に、焼成後24時間経過した後の両者の表面の圧縮応力をレオメーター(品番:CR−200D、製造者:株式会社サン科学)を用い、プランジャーφ20mm、圧縮応力10mm、圧縮速度60mm/min、サンプルサイズW30mm×D30mm×H20mmの測定条件で測定した。その圧縮応力測定結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3から明らかなように、含有例は比較例に対して、圧縮応力の数値が低くなっている。これは焼成後、時間が(本実施例では24時間)経過した場合でも含有例には柔らかさが保持されていることを意味している。したがって、焼成されてから消費者が食するまでにある程度時間が経過していても含有例は比較例よりも美味しく食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る米粉パンの製造手順について説明したフローチャートである。
【図2】図1で説明した米粉パンの製造で使用されるとうもろこし粉の熱水処理及び乾燥処理の手順について説明したフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
210℃以上250℃以下で熱水処理されたとうもろこし粉を含有する米粉パン。
【請求項2】
前記とうもろこし粉の粒度が75μm以上200μm以下である請求項1に記載の米粉パン。
【請求項3】
100重量部の米粉に対し前記とうもろこし粉が1重量部以上20重量部以下の割合で混合されている請求項1又は請求項2に記載の米粉パン。
【請求項4】
前記熱水処理が、
前記とうもろこし粉に水を添加する工程と、
該水が添加されたとうもろこし粉を水蒸気環境下において210℃以上250℃以下で加熱する工程と、を有する請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の米粉パン。
【請求項5】
米粉と210℃以上250℃以下で熱水処理されたとうもろこし粉とを混合してパン生地を作成する工程と、
該パン生地を発酵させる工程と、
該発酵させたパン生地を焼成する工程と、を有する米粉パンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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