説明

米飯の成型方法及び成型米飯

【課題】解凍後に良好な飯粒感が得られ、食味の良い成型米飯が得られる成型方法を提供する。
【解決手段】飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯の表面のみを融解させる1次表面融解工程23と、1次表面融解工程後の米飯を予備成型する予備成型工程24と、予備成型工程終了後の予備成型された米飯を凍結させる1次凍結工程25と、1次凍結工程終了後の予備成型された米飯の外側の米飯のみを融解させる2次表面融解工程26と、2次表面融解工程終了後の米飯を加圧して目的の形状に仕上げる仕上げ成型工程27と、仕上げ工程後の成型された米飯を再度凍結させる2次凍結工程28とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯の成型方法及び成型米飯に係り、詳しくは、握り寿司の寿司飯やお握り・弁当容器に詰められた飯等に用いられる成型米飯で、冷凍保存に適した米飯の成型方法及び成型米飯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍握り寿司の寿司飯のような成型米飯の成型方法として、解凍時に寿司飯がパサつかないようにするため、炊飯時に所要量の塩類と糖類及びタンパク質を米に添加し、炊飯後の米に調味酢を添加しながらシャリ切りを行い、次いで所定の形状に成型して冷凍するものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3784262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のものでは、炊飯した米を所定の形状に成型してから冷凍することから、飯粒が加圧されて変形した状態で冷凍され、解凍後に良好な飯粒感が得られなかった。また、急速冷凍する際に冷凍状態にムラが出ることがあり、解凍後の品質が低下し、解凍後長時間放置すると、成型した米飯の中心部が老化し、食味が著しく低下することがあった。
【0004】
そこで本発明は、解凍後に良好な飯粒感が得られ、食味の良い冷凍成型米飯が得られる成型方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の米飯の成形方法は、飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯の表面のみを融解させる表面融解工程と、該表面融解工程後の米飯を成型する成型工程と、該成型工程後の成型された米飯を冷凍する冷凍工程とを備えていることを特徴とするものであり、本発明の成形米飯は、この成型方法で作成された成型米飯である。
【0006】
また、本発明に属する米飯の成形方法は、飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯の表面のみを融解させる第1の表面融解工程と、該第1の表面融解工程後の米飯を予備成型する予備成型工程と、該予備成型工程終了後の予備成型された米飯を凍結させる1次凍結工程とを行った後、1次凍結工程終了後の予備成型された成型体の外側の米飯の表面のみを融解させる第2の表面融解工程と、該第2の表面融解工程終了後の成型体を目的の形状に仕上げる仕上げ成型工程と、該仕上げ工程後の成型された米飯を再度凍結させる2次凍結工程とを続けて行うことが好ましい。
【0007】
さらに、前記表面融解工程では、凍結した米飯の表面に、凍結点を下げる物質又は飯粒間の付着性を高めるための物質を含んだ液体又は粉末からなる結着剤を添加することが好ましく、前記凍結点を下げる物質又は飯粒間の付着性を高めるための物質としては、糖類,糖アルコール,タンパク質,アミノ酸,核酸,塩の少なくともいずれか1種を用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バラ状凍結した米飯を、表面のみを融解させて飯粒の内部が凍った状態のまま、所定形状に成型して再凍結することで、個々の米飯粒内に氷核が存在するので過冷却なく速やかに冷凍ムラが出ることなく成型米飯全体を冷凍できるので、解凍後の品質が良好になる。また、解凍後長時間放置することがあっても、成型米飯の中心部の老化発生を遅らせることができる。さらに、バラ状凍結した米飯の飯粒の内部が凍った状態のまま成型することで米粒の変形が少なくなり、飯粒間の適度な隙間を保持できるので、飯粒感を保持でき、手で握った状態に近い握り寿司の寿司飯やお握り、さらには手で盛りつけたようなふっくらした盛りつけの弁当容器入り飯等の成型米飯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の一例を示す冷凍握り寿司の寿司飯の製造方法を示すフローチャートである。以下このフローチャートに沿って説明する。まず、通常の方法で、洗米工程11で米を洗米し、浸漬工程12で所定時間米を水に浸漬した後、浸漬工程12終了後の米に加水して炊飯工程13で炊飯する。この炊飯工程13では、解凍後に好ましい状態の冷凍寿司飯を得るため、米に対して通常より多めの水を加水するとともに、飯粒感の向上と酢添加時の分散性向上のため、大豆多糖類や乳化油脂等の表面改質剤を添加することが好ましい。炊飯工程13を終了した米飯は蒸らし工程14を経て、反転工程15で上下を反転させて、周りの余分な水分を飛ばす。
【0010】
反転工程15を終了した米飯が温かいうちに、酢・調味料添加工程16で、米飯に所定量の酢や糖類・塩等の調味料を添加し、混合工程17で、飯粒を潰さないように米飯を混ぜ、酢や調味料を飯粒に満遍なく付着させながら、冷却工程18で、該米飯を所定の温度まで冷却させる。このように、所謂シャリ切りを行うことにより、米飯に酢や調味料の味を満遍なく浸透させるとともに、米飯の表面に艶を出すことができる。
【0011】
冷却工程18を終了した米飯を凍結工程21において所定温度、例えば−60℃でバラ状凍結させ、必要に応じて保存工程22で冷凍保存する。この際冷却工程18を終了した米飯は酢や調味料が添加されたことから、飯粒の付着性が増加した状態となるので、必要に応じて油添加工程19で乳化油脂を添加し、混合工程20で乳化油脂を飯粒に満遍なく付着させることにより、飯粒をよりバラ化し易くすることができる。
【0012】
次に、バラ状に凍結されて冷凍保存された米飯、所謂バラ状冷凍米飯を所定形状に成型するため、最初にバラ状冷凍米飯の表面のみを融解させる第1の表面融解工程(1次表面融解工程)23を行う。ここでの1次表面融解工程23は、結着剤添加工程23aと温度調整工程23bとで行われる。1次表面融解工程23は、基本的に、米飯粒の内部を冷凍状態に保ったままで、バラ状冷凍米飯の表面のみを融解させて周囲の米飯粒同士を付着可能な状態にする工程であって、バラ状冷凍米飯の温度を、表面のみが融解して、内部は凍った状態となるような温度に調整する必要がある。
【0013】
温度調整工程23bにおける米飯粒表面の温度は、米飯粒の凍結点、温度上昇させる際の雰囲気温度、温度上昇状態の継続時間等の条件によって異なるが、一般的には、温度上昇時の表面温度が−40℃〜−1℃の範囲、特に−10℃〜−5℃の範囲が好ましい。この表面温度が低すぎると米飯粒表面が十分に融解せずに所望の付着性が得られなくなり、表面温度が高すぎると放置時間の経過に伴い米飯粒の中心部まで融解して解凍後の品質を低下させるおそれがある。
【0014】
また、温度調整工程23bの前段階として、バラ状冷凍米飯に結着剤を添加して米飯粒の表面に結着剤を付着させる結着剤添加工程23aを行うことにより、1次表面融解工程23を行った後の成型性をさらに向上させることができる。結着剤添加工程23aで用いる結着剤とは、凍結した米飯の凍結点を下げる物質又は飯粒間の付着性を高めるための物質であり、このような性質を有していれば、食品への添加が禁止されている物質や製品の食味を著しく損なうおそれがある物質を除いて各種物質を用いることができ、具体的には、糖類,糖アルコール,タンパク質,アミノ酸,核酸,塩を挙げることができる。これらの物質は、1種類で使用しても、複数種類を混合して用いても良く、また、バラ状冷凍米飯への添加を効率よく行えるようにするため、水等の溶媒に溶解したり、分散させたりした状態とすることができる。
【0015】
具体的には、米の澱粉と水との混合液を加熱し、この混合液に糖(トレハロース等)を10%〜40%重量添加して作成した結着剤をバラ状冷凍米飯に添加して十分に混合した後、温度調整工程23bで米飯の表面温度を−5℃前後に調整するという手順で行うことができ、これにより、バラ状冷凍米飯の中心部は凍っている状態のまま、飯粒表面のみを融解させることができる。
【0016】
次に、1次表面融解工程23で、表面のみが融解したバラ状冷凍米飯を成型する。このバラ状冷凍米飯の成型は、一回で行うことも可能であるが、予備成型を行って予備成形品の全体を一旦凍結させた後、予備成形品の外周部の米飯粒表面を融解させて仕上げ成型を行うことにより、冷凍握り寿司の寿司飯として好ましい成型状態が得られる。
【0017】
予備成型及び仕上げ成型を行って冷凍握り寿司の寿司飯を製造する場合、予備成型工程24では、米飯粒の表面のみが融解したバラ状冷凍米飯を例えば、一旦一定の厚さのシート状に成型してから直方体状に分割して定量する分割定量工程24aと分割定量後握り寿司型に成型する予備成型工程24bを行い、寿司飯としての原型を作成する。続いて、仕上げ成型を行う前に、直方体状に予備成型した米飯に対して1次凍結工程25を行い、予備成型体の中心部まで凍結させて冷凍予備成型体とする。
【0018】
次に、1次凍結工程25で凍結させた冷凍予備成型体の外側の米飯の表面のみを融解させる第2の表面融解工程(2次表面融解工程)26を行い、中心部が凍結状態となっている冷凍予備成型体の外形を再度握り寿司型に成型する仕上げ成型工程27を行う。
【0019】
2次表面融解工程26では、冷凍予備成型体の最も外側にある米飯の表面温度を−1℃前後に加温して結着状態にある米飯粒同士を解放し、仕上げ成型工程27で直方体状の角部を丸めるなどの仕上げ成型が可能な程度に米飯粒を移動・変形可能な状態とする。仕上げ成型工程27で所望の握り寿司型に成型された米飯は、2次凍結工程28で冷凍処理することにより、握り寿司型の冷凍成型米飯が得られる。
【0020】
このように、握り寿司型の冷凍寿司飯を製造する際に、予備成型した予備成型体を凍結させてから仕上げ成型を行うことにより、最終的な冷凍成型米飯における中心部が仕上げ成型の際に潰れたりすることがなく、中心部は飯粒の間に空間が多く、外側部分では空間が少ない状態となり、寿司ネタを載せるときや食するときに寿司飯が崩れることがなく、握り寿司にして食した際には、口の中で寿司飯が良好にばらけ、食感や食味の良好な握り寿司が得られる。
【0021】
以下、実施例1乃至実施例5において、コントロール区,実験区A,実験区B,実験区Cの4種類の冷凍成型米飯をそれぞれ作成し、その成型性と解凍後の保形性とを比較した。各実施例における成型には、寿司成型器(鈴茂機工製 SSN−ELB)を使用し、1個あたり約20g〜30gの握り寿司型に成型した。予備成形後の再凍結は、−35℃の凍結庫内に20分放置することにより行い、解凍は、25℃の室内で1時間放置する自然解凍で行った。
【実施例1】
【0022】
白飯における実施例を以下に示す。精白米と水と乳化油脂とを用いて、表1に示すような炊飯配合で、図1に示すフローチャートの洗米工程11,浸漬工程12,炊飯工程13,蒸らし工程14,反転工程15を行って炊飯器で白米を炊飯し、コントロール区,実験区A,実験区B,実験区Cの米飯を得た。
【0023】
コントロール区,実験区A,実験区B,実験区Cの米飯を、酢・調味料添加工程16,混合工程17,冷却工程18,油添加工程19,混合工程20を行わずに、冷却した各区の米飯を細かく砕いたドライアイスと混合し、凍結工程21でバラ状に凍結させ、保存工程22で保存した。
【0024】
表1に示されるような米粉と水との配合で、該米粉と水とを混合しながら加熱し、90℃に達した後、約5分間保持し、直ちに60℃以下に冷却して各結着剤をそれぞれ作成し、保存工程22で保存しておいた各実験区のバラ状冷凍米飯を−10℃まで加温するとともに、前記結着剤をそれぞれ少しずつ加えてよく混合し、1次表面融解工程23を行った。混合後の冷凍米飯の表面温度は−8℃であった。
【0025】
次いで、表2に示すように、予備成型工程24で、各区の冷凍米飯の表面温度を−8℃から−1℃まで短時間に段階的に上げて行き、各温度で冷凍米飯を寿司成型機にそれぞれかけ、成型性を比較した。さらに、成型した各予備成型米飯を1次凍結工程25で冷凍し、室温で自然解凍させ、保形性を比較した。また、各区の冷凍米飯をすり潰して凍結温度を測定したところ、コントロール区は約−1.5℃〜−1.6℃で、その他の区でもほぼ同等であった。
【表1】

【表2】

【0026】
各実験区により、バラ状冷凍米飯に液体の結着剤を掛けることにより飯粒の表面だけが融解し、内部は凍ったままの状態とすることができた。さらに結着剤に米粉等の接着性の高いものを加えることで、飯粒の内部が凍結状態のままで成型することができた。
【0027】
さらに、各区の成型米飯を比較した結果、実験区Bの成型米飯は、成型時の表面温度を−2.5℃〜−1℃とすると、成型性及び保形性が良好で食味も最も良かった。実験区Cの成型米飯は、成型時の表面温度を−5℃〜−1℃とすると、成型性及び保形性が最も良好であった。飯粒内部の凍結温度が−1.6℃〜−1.5℃であることから、飯表面の温度もこれ以下に調整しないと、飯内部まで次第に解凍されてしまう可能性が高いと思われる。したがって、実験区Bでは−2.5℃〜−1.6℃、実験区Cでは−5℃〜−1.6℃の範囲が安定して成型できる表面温度ということになる。
【実施例2】
【0028】
実施例1の実験区Bにおいて、結着剤添加工程23aで前記結着剤をバラ状冷凍米飯に掛けた後、温度調整工程23bで凍結米飯の表面温度を約−2.5℃に調温し、プラスチックの弁当用容器の中の飯盛り区画(深さ30mm×75mm×40mm)内に約200gを充填した。次いで、予備成形工程24で、その区画の上面と略同一形状をしたやや湾曲した板を用いて区画内の冷凍米飯を上から水平に強く数秒間押し付けて板状に成型した。その後、速やかに1次凍結工程25を行い、容器ごと−35℃の凍結機に約20分投入して再凍結した。再凍結終了後、容器の他区画に予め冷凍してある具材を凍ったまま盛り付け蓋をして冷凍弁当を作成した。このように作成した冷凍弁当内の飯は、凍結保存中は一体化しており容器を回転させても飯が他の区画へ移動することは無かった。また、自然解凍した状態でも、適度な飯粒間の空間を有しており、箸で少量づつ取り分け易い状態であった。
【実施例3】
【0029】
実施例1の実験区Bにおいて、結着剤添加工程23aで前記結着剤をバラ状冷凍米飯に掛けた後、温度調整工程23bで凍結米飯の表面温度を約−3.5℃に調温し、予備成型工程24で寿司成型機を用いて冷凍米飯を寿司型に成型した。成型後の飯温度は約−2.5℃であった。これを、1次凍結工程25で−35℃の凍結機に約10分投入して再凍結した。加温工程26で、前記凍結された成型飯を室温に約10分放置し、成型した飯の表面温度を約−2℃まで上げた。次に、仕上げ成型工程27で、再度型枠に入れて周りから強く圧縮し再成型した。再成型後の飯の中心温度は約−20℃、表面温度は約−1℃であった。その後再成形した成形米飯を2次凍結工程28で−35℃の凍結機に約10分投入し速やかに再々凍結した。
【0030】
このように仕上げ成型工程27及び2次凍結工程28を経て作製した成型米飯と、仕上げ成型工程27及び2次凍結工程28を行わずに予備成型工程24及び1次凍結工程25を経て作製した成型米飯とを、同時に自然解凍して比較した。前者は、後者に比べ、角が丸みを帯びた形で表面に見える飯粒の隙間がより少ない状態であった。また、箸で持ち上げると、前者の方が崩れにくく、保形性が向上していた。半分に切断して断面を比較すると、両者の飯の中心部の飯間の隙間は同等であったが、最外郭の飯間の隙間は、明らかに前者の方が詰まっていた。両者を食した差異の食感は、後者は口に入れて直ぐに飯粒がバラケてしまったのに対し、前者は咀嚼に伴いやや遅くバラケてくる傾向があった。
【実施例4】
【0031】
握り寿司飯における実施例を以下に示す。精白米と水と乳化油脂とを用いて、表3に示すような炊飯配合で、図1に示すフローチャートの洗米工程11〜反転工程15を行って炊飯器で白米を炊飯し、コントロール区,実験区A,実験区B,実験区Cの米飯を得た。次いで、酢・調味料添加工程16で、表3に示すような酢配合で、各区の米飯に寿司酢を掛けて、混合工程17と冷却工程18とを行って寿司飯を作成した。冷却した各区の寿司飯を砕いたドライアイスと混合し、凍結工程21でバラ状に凍結させ、保存工程22で保存した。
【0032】
表3に示されるような米粉と水の配合で、該米粉と水とを混合しながら加熱し、90℃に達した後、約5分間保持した後、トレハロースを加えて混合し、溶解後直ちに60℃以下に冷却して各結着剤をそれぞれ作成し、保存工程22で保存しておいた各実験区のバラ状の冷凍米飯を−10℃まで加温するとともに、前記結着剤を少しずつ加えてよく混合し、1次表面融解工程23を行った。混合後の冷凍米飯の表面温度は−8℃であった。
【0033】
次いで、表4に示すように、予備成型工程24で、各区の冷凍米飯の表面温度を−8℃から−1℃まで短時間に段階的に上げて行き、各温度で各冷凍米飯を寿司成型機にかけて成型性を比較し、さらに、成型した各成型米飯を1次凍結工程25で冷凍し、室温で自然解凍させて保形性を比較した。
【表3】

【表4】

【0034】
各実験区により、炊飯した白飯をバラ状に凍結させる前に寿司酢を掛けておくことで、−2.5℃〜−1℃の氷点下温度帯で、凍結成型できることが分かった。但し、この温度帯では飯粒内部の凍結温度である−1.5℃〜−1.6℃に近いことから、飯粒表面だけを融解して成型することは技術的にやや困難である。一方、接着性のある米粉や、凍結点を下げるトレハロース等の糖を含んだ結着剤をバラ状に凍結した米飯に加えることにより、飯粒の内部が凍っている状態、すなわち、長時間放置しても飯粒内部の凍結温度が−1.5℃以上にならない状態で安定して成型できる温度幅が広くなっていることが分かる。
【0035】
さらに、各区を比較した結果、成型時の表面温度が−2.5℃の場合では、実験区Bの成型米飯も実験区Cの成型米飯も成型性及び保形性が良好であり、成型時の表面温度が−1℃の場合では、実験区A,B,C共に、成型性及び保形性が良好であった。寿司飯の場合は、白米に比べて飯粒の表面に酢や糖類が添加されているので、より低い温度での結着が可能となり、結着剤を使用した方が良好な成型米飯が得られるが、必須ではないことが分かる。米飯をバラ状に凍結させる以前の状態で、トレハロース等の糖類を多量に加えておけば、結着剤は必要ないものと推測される。
【実施例5】
【0036】
握り寿司飯における実施例を以下に示す。精白米と水と乳化油脂とを用いて、表5に示すような炊飯配合で、図1に示すフローチャートの洗米工程11〜反転工程15を行って炊飯器で白米を炊飯し、コントロール区,実験区A,実験区B,実験区Cの米飯を得た。炊飯後、実験区A,Cの米飯に、表5に示す配合で塩水を振りかけ、飯粒の表面に塩を付着させた。その後、酢・調味料添加工程16〜混合工程20を行わずに、冷却した各区の米飯を細かく砕いたドライアイスと混合し、凍結工程21でバラ状に凍結させ、保存工程22で保存した。
【0037】
保存工程22で保存しておいたバラ状冷凍米飯に、それぞれ1次表面融解工程23を行った。この1次表面融解工程23では、各区のバラ状の冷凍米飯を−10℃まで昇温させるとともに、実験区B,Cのバラ状の冷凍米飯に、結着剤として、表5に示される配合で市販の粉状の寿司飯の素(主成分は乾燥酢と塩)を少しずつ加えて混合した。混合後の冷凍米飯の表面温度は−8℃であった。
【0038】
次いで、表6に示すように、予備成型工程24で、各区の冷凍米飯の表面温度を−8℃から−1℃まで短時間に段階的に上げて行き、各温度で各冷凍米飯を寿司成型機にかけ、成型性を比較した。さらに、成型した各成型米飯を1次凍結工程25で冷凍し、室温で自然解凍させ、保形性を比較した。また、コントロール区,実験区A,実験区Cの冷凍成型米飯をすり潰して凍結温度を測定したところ、コントロール区は約−1.5℃、実験区Aは約−2.75℃、実験区Cは約−3.45℃であった。
【表5】

【表6】

【0039】
各実験区により、炊飯した白飯をバラ状に凍結させる前に塩水を掛けておくことで、−2.5℃〜−1℃の氷点下温度帯で、凍結成型できることが分かった。また、バラ状の冷凍米飯を−10℃まで昇温させるとともに、前記寿司飯の素を掛けることにより、飯粒の表面が少し融解した状態で、凍結点が下がることから、液状の結着剤を掛けた状態と同様の状態となり、結着剤は液状のものに限らず、粉状のものでも効果があることが分かった。
【0040】
さらに、各区を比較した結果、コントロール区(白飯)では、結着剤がないと氷点下での結着は困難であった。実験区Aのように、炊飯後の米飯に予め塩を付着させておくと、結着剤がなくても−2.5℃以上の氷点下温度で成型することができた。但し、実験区Aの冷凍成型米飯をすり潰して凍結温度を測定したところ、約−2.75℃であったことから、この温度帯では冷凍成型米飯の内部も概ね融解してしまう可能性が高い。実験区B,Cのように、凍結したバラ状の冷凍米飯に、結着剤として市販の粉状の寿司飯の素を加えたとき、表面温度が約−8℃になると表面が融解してヌメリが発生した。実験区Cの冷凍成型米飯をすり潰して凍結温度を測定したところ、約−3.45℃であったことから、冷凍成型米飯の表面だけが融解し、内部は凍った状態であることが分かった。
【0041】
尚、上述の各実施例では、結着剤に凍結点を下げたり飯粒間の付着性を高めるための物質として、米粉やトレハロースや塩を添加しているが、本発明はこれに限らず糖アルコール,タンパク質,アミノ酸,核酸を添加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一例を示す冷凍握り寿司の寿司飯の製造方法を示すフローチャートである
【符号の説明】
【0043】
11…洗米工程、12…浸漬工程、13…炊飯工程、14…蒸らし工程、15…反転工程、16…酢・調味料添加工程、17…混合工程、18…冷却工程、19…油添加工程、20…混合工程、21…凍結工程、22…保存工程、23…1次表面融解工程、23a…結着剤添加工程、23b…温度調整工程、24…予備成形工程、24a…分量定量工程、24b…予備成型工程、25…1次凍結工程、26…2次表面融解工程、27…仕上げ成形工程、28…2次凍結工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯の表面のみを融解させる表面融解工程と、該表面融解工程後の米飯を成型する成型工程と、該成型工程後の成型された米飯を冷凍する冷凍工程とを備えていることを特徴とする米飯の成型方法。
【請求項2】
飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯の表面のみを融解させる第1の表面融解工程と、該第1の表面融解工程後の米飯を予備成型する予備成型工程と、該予備成型工程終了後の予備成型された成型体を凍結させる1次凍結工程と、該1次凍結工程終了後の成型体の外側の米飯の表面のみを融解させる第2の表面融解工程と、該第2の表面融解工程終了後の成型体を目的の形状に仕上げる仕上げ成型工程と、該仕上げ工程後の成型された米飯を再度凍結させる2次凍結工程とを備えたことを特徴とする米飯の成型方法。
【請求項3】
前記表面融解工程で、凍結した米飯の表面に、凍結点を下げる物質又は飯粒間の付着性を高めるための物質を含んだ液体又は粉末を添加することを特徴とする請求項1又は2記載の米飯の成型方法。
【請求項4】
前記凍結点を下げる物質又は飯粒間の付着性を高めるための物質が糖類,糖アルコール,タンパク質,アミノ酸,核酸,塩の少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項3記載の米飯の成型方法。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の成型方法で作成したことを特徴とする成型米飯。

【図1】
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【公開番号】特開2008−182947(P2008−182947A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18664(P2007−18664)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】