説明

米飯用保存性向上剤およびその使用方法

【構成】 ポリリジンと、該ポリリジンの2〜5倍量の乳酸および該ポリリジンの0.5〜10倍量のサイクロデキストリンを含有してなる米飯用保存性向上剤。
【効果】 米本来の風味を損なうことなく、安全に米飯の保存性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、米飯の食味を向上させるとともに保存性をも向上させるための米飯用保存性向上剤およびその使用方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、米飯の保存性向上法としては、食塩、酢などを添加する方法が知られているが、味の点で満足し得るものではない。また、各種加工食品の製造においては、合成保存料や天然物由来の保存料が数多く存在するが、米飯に関しては食味への影響と安全性を考えるならば、実際に有効な米飯用保存性向上剤はないのが実情である。
【0003】例えば、微生物培養などによって得られるポリリジンを有効成分とする保存性向上剤では、これを保存性向上に充分な量を米飯に添加すると、ポリリジンの苦味が感じられ、また米飯自体も黄色っぽくなってしまう。
【0004】さらに、ポリリジンと他の保存性向上剤である食用乳化剤、アミノ酸、アルコール類、有機酸或いはその塩とを併用した場合(特開平2−72852)でも、淡泊な風味をもつ米飯の場合には、添加剤の種類およびその添加量を考慮しなければ米飯本来の風味は損なわれてしまう。特に、アミノ酸類では保存性のためには相当量の添加が必要であり、そのために風味が損なわれ、コゲが生じるという問題が生じる。また、アルコール類では揮発性であるためにアルコール臭が、有機酸では酸特有の味と香りが問題となる。従って、米飯に限定した場合には、風味を損なわないで且つ保存剤としての効果が必要であり、組成物はもちろんのこと、その添加量も重要である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記問題点に鑑み、米飯本来の風味を損なうことなく、逆に風味を向上させ且つ、安全性の点で問題のない米飯用保存性向上剤及びその使用方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の第1は、ポリリジンと該ポリリジンの2〜5倍量の乳酸と該ポリリジンの0.5〜10倍量のサイクロデキストリンを含有してなる米飯用保存性向上剤を、本発明の第2は、上記米飯用保存性向上剤を米に対してポリリジンの量が0.02〜0.05重量%になるような割合で添加することを特徴とする米飯用保存性向上剤の使用方法を、それぞれ内容とする。
【0007】本発明に用いられるポリリジンは、必須アミノ酸の一つであるリジンが直鎖状につながったポリアミノ酸であり、保存性向上剤としての効果をもつものであるが、さらに適当量を米に添加して炊飯した場合には、ポリリジンのアミノ酸と米澱粉(糖)のアミノカルボニル反応により米飯として好ましい香りが得られる。しかし、ポリリジン単独では苦味が感じられ食味に問題がある。
【0008】本発明に用いられる乳酸は、有機酸のなかでは酢酸についで保存性効果があり、しかも不揮発性であるため、香りを損なうことが少なく、また味の点でも他の有機酸に比べて酸味が少いので、米飯の味を損なうことは稀である。さらに、酸としての効果として、米の浸漬水に添加した場合、この酸がタンパク質を変性させて米澱粉を膨化しやすくなるように働き、食感を向上させるとともに、米飯の光沢も向上させるという効果がある。しかし、乳酸単独では乳酸臭および渋味があり、また酵母に対する保存性が悪い。
【0009】本発明に用いられるサイクロデキストリンは、α−、β−、γ−、およびこれらにマルトースがα−1.6結合したマルトシルサイクロデキストリンのいずれでもよく、これらの2種以上の混合物でもよい。サイクロデキストリンに米飯の風味改質効果があること(特開昭56−127058号、特開昭63−267246号)が知られているが、サイクロデキストリン単独では食感および光沢の向上といった効果は期待できず、しかも保存性の効果は全くない。
【0010】本発明の米飯用保存性向上剤は、ポリリジンと、該ポリリジンの2〜5倍量の乳酸と、0.5〜10倍量のサイクロデキストリンを含有してなり、これにより上記した如き各々単独の場合の欠点が解消されるとともに3成分が相乗的に作用し、米飯の風味及び保存性を向上させるものである。乳酸が上記量より少ないと保存性、食感向上の効果および老化抑制効果はいずれも著しく低下し、また上記量より多いと乳酸臭および渋味が感じられ、米飯本来の風味が損なわれる。さらに、サイクロデキストリンが上記量より少ないと米飯の風味改質効果が弱く、ポリリジンの苦味や乳酸臭が感じられ、また上記量より多いと米飯らしい風味が損なわれるとともに、米飯の表面がベタツキ、光沢も失われる。本発明の米飯用保存性向上剤を用いて、米飯の風味を損なわないで保存性のよい米飯を製造するには、ポリリジンの添加量が米に対して0.02〜0.05重量%となるような割合で添加する。上記量より少ないと保存性への効果、特に酵母に対する保存性の効果が低下し、一方、上記量より多いとポリリジンの苦味が感じられ、黄色っぽいご飯となり、米飯本来の風味が損なわれる。ポリリジン、乳酸およびサイクロデキストリンは、炊飯の際、洗米した米に個々に添加、混合してもよいが、あらかじめ上記の比率で混合しておくと使用しやすい。なお、この保存性向上剤は普通に炊飯して出来上がったご飯に混ぜ合わせて使用しても効果になんら変わりはない。本発明による保存性向上剤は、白飯はもちろんのこと、これ以外にも肉類、魚介類、野菜類等を組み合わせて炊き込んだ五目ご飯、味付け飯、焼飯、寿司飯、赤飯等にも適用できる。
【0011】
【実施例】以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1表1の配合により炊飯し、得られた米飯の保存性、食味性および物性を比較した。保存性の試験は、炊き上がった各米飯に枯草菌(B. subtilis)または酵母(S.cerevisiae)を植菌した後30℃で保存し、経時的にサンプリングして菌数を測定することにより行った。また米飯の物性評価はレオナー(山電製、RE−3305)を用い、米飯3粒を任意に採取して試料台にのせ、プランジャー直径30mmを使用し、クリアランス1.5mm、試料台スピード1mm/sec の条件でおこない、硬さおよび付着性から各米飯の硬さと粘りを判定した。その結果を表2および表3に示した。
【0012】比較例1〜3表1の配合により、実施例1と同様に炊飯をおこなった。得られた米飯について実施例1と同じ評価をおこなった。その結果を表2および表3に示した。
【0013】
【表1】


【0014】
【表2】


【0015】
【表3】


【0016】(註) 食味評価:◎・・・米飯として大変好ましい。
〇・・・米飯として好ましい。
△・・・米飯としてあまり好ましくない。
×・・・米飯として不適当である。
【0017】表2より、保存性に関しては、枯草菌および酵母のいずれに対しても本発明の効果が明らかである。比較例3の乳酸のみでは、酵母に対する効果が弱かった。また、比較例2のポリリジンのみでは、保存性に関しては効果が認められるものの、表3に示した通り、食味評価は比較例1(無添加)よりも悪く、苦味が少し感じられ、食するには好ましくなかった。一方、実施例1では、食味評価では比較例1〜3よりも好ましく、保存による劣化も極めて少なく、物性評価による硬さ、付着性の変化も少なかった。比較例3では味覚的に乳酸臭と乳酸特有の渋味が感じられ、食するには問題のあるものであった。
【0018】実施例2〜4表4に示す配合により、実施例1と同様の方法で炊飯し、評価をおこなった。保存性に関しては、表5に示す通り、実施例2〜4のいずれも30℃で48時間後もその効果が認められた。食味評価でも、いずれも炊飯直後および保存後ともに米飯の風味を損なうことなく良好であり、食感的にもなんら問題はなかった。また、物性的にも保存による硬さ、付着性の変化は小さかった。
【0019】比較例4〜6表4に示す配合で、実施例2〜4と同様の方法で炊飯し、評価をおこなった。実施例3におけるマルトシルサイクロデキストリンを除いた比較例4では、保存性に関しては効果が認められたが、食味の点で米飯らしい風味が欠けており、食感的にも米飯らしい腰がなく、食するには問題のあるものであった。比較例5では、保存性の効果が弱く、枯草菌に関しては24時間で腐敗していた。また、食味的にはポリリジンの苦味がわずかではあるが感じられ、物性的にも保存24時間後には硬くパサパサした状態であった。比較例6では、保存性の効果は認められたが、食味の点で乳酸の香りと渋味があり、食するには問題のあるものであった。
【0020】
【表4】


【0021】
【表5】


【0022】比較例7〜9表6に示す配合により、実施例1と同様に炊飯をおこない、保存性、食味性および物性評価をおこなった。その結果を表7および表8に示した。
【0023】
【表6】


【0024】
【表7】


【0025】
【表8】


【0026】表7に示したように、実施例1における乳酸のかわりに酢酸を配合した比較例7では保存性に効果がみられた。比較例8および9は保存性の効果は弱かった。また、米飯の物性および食味評価は表8に示した通り、物性評価では、比較例7〜9のいずれも保存24時間で乾燥したような状態であり、食感的にも硬く食するには問題があるものであった。食味評価では、比較例7では酢酸の味と香りが強く感じられ米飯としては好ましくなかった。比較例8では釜底部分にコゲが認められ、香りもプロタミン特有のこげ臭があり米飯としては好ましくないものであった。
【0027】実施例5ポリリジン50gを水700gに溶解し、次いで乳酸150gおよびマルトシルサイクロデキストリン100gを添加混合して米飯用保存性向上剤を調製した。米600gを洗米後、上記の如く調製した保存性向上剤5.0gと、しょうゆ30g、みりん15gに水を850g添加して味付けご飯をつくり、保存性および食味試験をおこなった。保存性試験は味付けご飯に大腸菌(E. coli)、または乳酸菌(L. plautarum)または酵母(S. cervisiae)を植菌し、各々30℃で保存し、経時的にサンプリングして菌数を測定した。食味評価および物性評価は、15℃で保存したものを、実施例1に準じておこなった。結果を表9および表10に示す。
【0028】比較例10実施例5において、米飯用保存性向上剤を添加しない以外は、すべて実施例5と同様の方法で炊飯した味付けご飯について、実施例5と同じ試験をおこなった。その結果を表9および表10に示した。
【0029】
【表9】


【0030】
【表10】


【0031】保存性に関しては、実施例5では、大腸菌、乳酸菌、酵母のいずれの菌種に対しても効果が認められた。また、食味評価においても実施例5では米飯粒の粗れがなく、光沢も比較例10よりも良く、保存時間の経過とともにその差は明らかになった。また、物性評価においても、実施例5では炊飯直後からの変化が少なく、48時間後も食するのに何ら問題はなかった。
【0032】
【発明の効果】本発明の米飯用保存性向上剤によれば、米本来のもつ風味を損なうことなく、逆にその米のグレードを向上させ、しかも保存後の劣化を抑制し、安全に米飯の保存性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリリジンと、該ポリリジンの2〜5倍量の乳酸および該ポリリジンの0.5〜10倍量のサイクロデキストリンを含有してなる米飯用保存性向上剤。
【請求項2】 請求項1記載の米飯用保存性向上剤を米に対してポリリジンの量が0.02〜0.05重量%になるような割合で添加することを特徴とする米飯用保存性向上剤の使用方法。