説明

米飯用添加剤及び米飯食品

【課題】植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びデキストリンを添加することにより、植物ステロール類が米飯全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯を得ることができる米飯用添加剤及び米飯食品を提供する。
【解決手段】植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びデキストリンが添加されていることを特徴とする米飯用添加剤及び米飯食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類が米飯食品全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品を得ることができる、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンを有効成分として含有している米飯用添加剤、当該米飯用添加剤を添加した米飯食品、並びに前記複合体及びデキストリンを添加した米飯食品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物ステロール及びその飽和型である植物スタノール等の植物ステロール類は、血中の総コレステロール濃度及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させることが知られており、また食品としての安全性も有している。植物ステロールは、植物油脂、大豆、小麦等に含まれているのでヒトは日常的に摂取していることになるが、その摂取量は僅かであることから、植物ステロール類を食品原料として利用することへの期待が高まっている。
【0003】
植物ステロール類によるコレステロールの低下効果を期待するには、ある程度の量の植物ステロール類を長期にわたり継続して摂取する必要がある。このことから、長期にわたり継続して摂取しやすい食品の原料として植物ステロール類を用いることが望まれており、そのような食品の1つとして、日本人の主食である米が挙げられる。
【0004】
このような状況下、特開2003−310183号(特許文献1)には、植物ステロールを有効成分とする米飯用添加剤が、また特開2004−33189号(特許文献2)には、植物ステロールを含有する炊飯用組成物が、それぞれ開示されている。
【0005】
しかし、これらの米飯用添加剤を米と一緒に炊飯釜に投入し炊飯したところ、炊飯中に植物ステロールが炊飯釜の上部に浮き上がるためか、炊飯後、得られた米飯は、米飯全体に植物ステロールが付着するのではなく、炊飯釜の上部に位置する米に付着していたり、炊飯釜の側面に付着していることがあった。また、上記米飯用添加剤と無洗米とをパウチに充填し、レトルト粥を製した場合も、得られたレトルト粥は、植物ステロールがパウチ内部に付着しており、さらに、食した際にざらつきが感じられることがあった。
【特許文献1】特開2003−310183号公報
【特許文献2】特開2004−033189号公報
【特許文献3】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、植物ステロール類が米飯食品全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品を得ることができる米飯用添加剤、並びに米飯食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく使用原料等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンを添加することにより、意外にも植物ステロール類が米飯食品全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品が得られる米飯用添加剤及び米飯食品が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンを有効成分として含有していることを特徴とする米飯用添加剤、
(2)前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)の米飯用添加剤、
(3)前記複合体とデキストリンの割合が1:0.1〜100(質量比)である(1)又は(2)の米飯用添加剤、
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の米飯用添加剤を添加することを特徴とする米飯食品、
(5)前記米飯用添加剤の添加量が米飯食品に対して植物ステロール類換算で0.01〜5%である(4)の米飯食品、
(6)(1)乃至(3)のいずれかに記載の米飯用添加剤を添加することを特徴とするレトルト粥、
(7)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンが添加されていることを特徴とする米飯食品、
(8)植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンが添加されていることを特徴とするレトルト粥、
である。
【0009】
なお、本出願人は、既に植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を出願している(WO2005/041692:特許文献3)。しかしながら、当該出願には、前記複合体を米飯用添加剤及び米飯食品に添加することはいっさい検討されていない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物ステロール類を添加し、植物ステロール類が米飯食品全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品が得られる、米飯用添加剤及び米飯食品を提供でき、植物ステロール類の食品への更なる用途拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0012】
本発明において米飯食品とは、米を主原料とした食品であって、具体的には、例えば、洗米した米や無洗米を水や出汁、具材と共に炊飯又は加熱調理する米飯、お粥、リゾット等、また、炊き上がった米飯を用いて調理するチャーハン、雑炊等が挙げられ、本発明の米飯食品としては、これらのレトルト品でもよい。
【0013】
また、本発明の米飯用添加剤とは、前記米飯食品の製造工程中に添加混合する、あるいは出来上がった米飯食品に添加混合する添加剤であって、本発明は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンを有効成分として含有していることを特徴とし、これにより、植物ステロール類が米飯食品全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品を得ることができる。また、本発明の米飯用添加剤の形態としてはいずれのものでもよく、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤、カプセル状等のものが挙げられる。
【0014】
本発明の米飯用添加剤及び米飯食品に添加する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体のうち、卵黄リポ蛋白質とは、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0015】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。
【0016】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス(株)製)等を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、当該複合体を後述のデキストリンと共に用いることで、米と一緒に炊飯した際、レトルト米飯食品を製した際、又は米飯食品に添加混合した際等、いずれにおいても、植物ステロール類が米飯食品全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品及び当該食品の添加剤とすることができる。
【0017】
本発明の米飯用添加剤及び米飯食品に添加する植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄を水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合し易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に液状調味料(例えば、醤油、ブイヨン)等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと植物ステロール類と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス(株)製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に後述のデキストリン以外の他の原料を配合してもよい。
【0018】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましく、当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述に示すとおり複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成していることから、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存し、得られる米飯用添加剤や米飯食品の風味が卵黄風味により損なわれる場合があり、一方、前記範囲より多いと植物ステロール類が水分散性を有した複合体を形成し難くなり、複合体の親水性が低下するためか、得られる米飯食品の舌触りがざらつく場合があり好ましくない。
【0019】
また、本発明で用いるデキストリンとは、澱粉を加水分解することにより製せられたものであり、分岐状のものでも直鎖状のものでも、また、還元型のものでも非還元型のものでも分子構造に特に限定はない。本発明においては、前記デキストリンの中でも、舌触りの良い米飯食品が得られる点から、DE値が好ましくは50以下のものを用いることが好ましい。ここでDE値とは、「デキストロースエキュイバレント(dextrose equivalent)」の略称で、澱粉の加水分解の程度を示す指標であり、DE値が低いほうが加水分解の程度が低く分子量が大きいことを意味する。また、還元型のデキストリンにおけるDE値は、当該デキストリンの原料糖である非還元型デキストリンのDE値をいう。なお、デキストリンは、固体状や液体状のいずれも用いることができるが、液体状のものを用いる場合の配合量は固形分換算で表した値である。
【0020】
上記複合体とデキストリンの割合は、好ましくは1:0.1〜100(質量比)、より好ましくは1:0.5〜70(質量比)である。前記範囲にすることにより、得られる米飯食品は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体が米飯全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯食品が得られ易く好ましい。これに対して前記範囲よりも複合体に対するデキストリンの割合が少ないと、例えば炊飯後、複合体が炊飯釜の上部に位置する米飯や炊飯釜の側面に付着する場合や、レトルトパウチ等の容器の内部に付着する場合があり、また、前記範囲よりもデキストリンの割合が多くても得られる米飯食品の風味が損なわれ易く好ましくない。
【0021】
米飯食品に対する米飯用添加剤の添加量は、米飯食品に対し植物ステロール類換算で好ましくは0.01〜5%、より好ましくは0.05〜3%である。前記範囲より少ないと、植物ステロール類が米飯全体にいきわたり難く、一方前記範囲より多いと、得られた米飯食品の風味が損なわれる場合があり好ましくないためである。
【0022】
本発明の米飯用添加剤及び米飯食品を製する方法は、本発明の必須原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンが添加されていれば特に限定するものではない。米飯用添加剤を製する方法としては、例えば、乾燥複合体とデキストリンとを粉体混合し粉末状とする方法、打錠機を用いて錠剤にする方法、乾燥複合体又は複合体の調製過程で発生する水系媒体に分散した複合体とデキストリンを混合し、流動層造粒法、押出し造粒法、圧縮造粒法、噴霧乾燥造粒法等で顆粒状にする方法等が挙げられる。また、米飯食品を製する方法としては、前記米飯添加剤を米と共に炊飯釜やパウチに投入し炊飯する方法、米飯食品の製造工程中に添加混合する方法、又は出来上がった米飯食品に添加混合する方法等が挙げられるが、複合体とデキストリンを単に添加してもよい。なお、本発明の米飯用添加剤及び米飯食品には、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、菜種油、オリーブ油、紅花油、大豆油コーン油等の油脂類、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸処理澱粉等の乳化材、無機鉄、ヘム鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、アスコルビン酸又はその塩、ビタミンE等の酸化防止剤、甘味料あるいは糖類、賦形剤、結合剤、香料等を適宜選択して用いることができる。
【0023】
次に、本発明の米飯用添加剤及び米飯食品の代表的な製造方法を説明する。米飯用添加剤としては、例えば、複合体とデキストリンを好ましくは1:0.1〜100質量比、より好ましくは1:0.5〜70質量比の割合で混合した後、流動層造粒機にセットし、約80℃で20分〜40分間造粒した後、約95℃で20分〜30分乾燥させる方法等が挙げられる。また、米飯食品としては、洗米した米、清水、及び前記米飯用添加剤を米飯食品に対し植物ステロール類換算で好ましくは0,01〜5%、より好ましくは0.01〜3%となるよう炊飯釜に投入し、炊飯器にて炊飯する方法が挙げられる。
【0024】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体及びこれを用いた米飯用添加剤及び米飯食品について実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0025】
[調製例1]複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0026】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0027】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0028】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0029】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0033】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0034】
[調製例2]複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0035】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0036】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0037】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0038】
【表3】

【0039】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0040】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0041】
[調製例3]
清水7.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体(殺菌卵黄使用)の分散液を得た。なお、得られた分散液中の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1である。
【0042】
[調製例4]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、均質機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、複合体を得た。なお、得られた乾燥状の複合体の構成比は、調製例3のものと同じである。
【0043】
[実施例1]
複合体及びデキストリンを含有した米飯用添加剤を製した。つまり、調製例3の複合体700gとデキストリン(松谷化学工業(株)製、「パインデックス#100」、DE値3)150gを混合した後、流動層造粒機(流動造粒コーティンング装置)にセットし、80℃で30分造粒させた後、95℃で25分乾燥させ米飯用添加剤を製した。
【0044】
[実施例2]
乾燥複合体とデキストリンを含有した米飯用添加剤を製した。つまり、調製例4の乾燥複合体150g、デキストリン(実施例1と同じもの)120g、結晶セルロース30g、及びショ糖脂肪酸エステル3gを混合した後、打錠機にて打錠し米飯用添加剤を製した。
【0045】
[実施例3]
実施例1の複合体及びデキストリンが含有された米飯用添加剤を用いた米飯を製した。つまり、洗米した精白米160g(1合相当量)、実施例1の米飯用添加剤3.2g、水240mlを炊飯釜に投入後常法により炊飯し、米飯を製した。
【0046】
[実施例4]
実施例2の複合体及びデキストリンが含有された米飯用添加剤を用いた米飯を製した。つまり、洗米した精白米160g(1合相当量)、実施例2の米飯用添加剤2g、水240mlを炊飯釜に投入後常法により炊飯し、米飯を製した。
【0047】
[実施例5]
複合体、及びデキストリンが添加された米飯を製した。つまり、洗米した精白米160g、調製例4の乾燥複合体1.6g、デキストリン(実施例1と同じもの)1.6g、及び清水240mlを炊飯釜に投入後常法により炊飯し米飯を製した。
【0048】
[比較例1]
実施例1の米飯用添加剤において、複合体に換えて複合体の原料である植物ステロール(調製例1と同じもの)120gと水550gを含有した以外は同様な方法で顆粒状の米飯用添加剤を製した。
【0049】
[比較例2]
実施例2の米飯用添加剤において、複合体に換えて複合体の原料である植物ステロール(調製例1と同じもの)を含有した以外は同様の方法で錠剤の米飯用添加剤を製した。なお、植物ステロールの配合量を実施例1と合わせるため、植物ステロールを120g配合した。
【0050】
[比較例3]
実施例3の米飯において、実施例1の米飯用添加剤に換えて比較例1の米飯用添加剤を用いた以外は、同様な方法で植物ステロールとデキストリンを含有した米飯用添加剤を用いた米飯を製した。
【0051】
[比較例4]
実施例4の米飯において、実施例2の米飯用添加剤に換えて比較例2の米飯用添加剤を用いた以外は、同様な方法で植物ステロールとデキストリンを含有した米飯用添加剤を用いた米飯を製した。
【0052】
[比較例5]
実施例5の米飯において、複合体に換えて、複合体の原料である植物ステロール(調製例1と同じもの)を添加した以外は同様の方法で植物ステロール及びデキストリンが添加されている米飯を製した。なお、植物ステロールの配合量を実施例1と合わせるため、植物ステロールを1.3g添加した。
【0053】
[比較例6]
実施例5の米飯において、デキストリンを添加しなかった以外は、同様な方法で、米飯を製した。
【0054】
[試験例1]
実施例3及び4、並びに比較例3乃至5で得られたそれぞれの米飯について、炊飯後の植物ステロールの米飯への付着具合と、食した際の米飯の舌触りについて評価を行った。
【0055】
【表4】

【0056】
表4より、複合体に換えて複合体の原料である植物ステロールを添加した比較例3乃至5、複合体のみを添加した比較例6の米飯は、いずれも炊飯後、明らかに炊飯釜の上部に位置する米飯や、炊飯釜の側面に付着しており、さらに比較例3乃至5の米飯は、食した際の米飯の舌触りがざらつくものであった。これに対し、複合体及びデキストリンを添加させた実施例3乃至5の米飯は、炊飯釜の側面に付着することなく、米飯全体に付着しており、また、食した際の米飯の舌触りも大変よいものであった。これより、複合体及びデキストリンを添加させることではじめて炊飯後も植物ステロール類が米飯全体に付着し、しかも舌触りのよい米飯が得られることが理解される。なお、ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。
【0057】
[実施例6]
実施例1の複合体及びデキストリンが含有された米飯用添加剤を用いたレトルト粥を製した。つまり、無洗米25g(水分含量約15%)、実施例1の米飯用添加剤1.6g、及び90℃に加熱した熱水225gを共にスタンディングアルミパウチに充填密封した後、当該密封物を水温が約25℃の水浴に投入して30分間冷却し、密封物の中心部の品温を60℃以下とした。次いで、この冷却物を炊飯と殺菌を兼ねて加圧加熱(レトルト)殺菌機を用いて121℃で15分間の条件でレトルト処理を施しレトルト粥を製した。得られたレトルト粥は、植物ステロールが粥全体に付着しており、また、食した際の舌触りも大変よいものであった。
【0058】
[実施例7]
複合体、及びデキストリンが添加されたレトルト粥を製した。つまり、無洗米25g(水分含量約15%)、調製例4の乾燥複合体0.8g、デキストリン(実施例1と同じもの)0.8g、及び90℃に加熱した熱水225gを共にスタンディングアルミパウチに充填密封した以外は、実施例4と同様な方法でレトルト粥を製した。得られたレトルト粥は、植物ステロールが粥全体に付着しており、また、食した際の舌触りも大変よいものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンを有効成分として含有していることを特徴とする米飯用添加剤。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載の米飯用添加剤。
【請求項3】
前記複合体とデキストリンの割合が1:0.1〜100(質量比)である請求項1又は2記載の米飯用添加剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の米飯用添加剤を添加することを特徴とする米飯食品。
【請求項5】
前記米飯用添加剤の添加量が米飯食品に対して植物ステロール類換算で0.01〜5%である請求項4記載の米飯食品。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の米飯用添加剤を添加することを特徴とするレトルト粥。
【請求項7】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンが添加されていることを特徴とする米飯食品。
【請求項8】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、及びデキストリンが添加されていることを特徴とするレトルト粥。


【公開番号】特開2008−5718(P2008−5718A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176963(P2006−176963)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】