説明

米飯類の製造方法

【課題】ご飯の風味を向上させる米飯類の圧力炊飯方法を提供する。
【解決手段】米飯類を圧力炊飯する際に、焙煎油を微量添加することで、異風味を感じることなく、ご飯の風味の向上した米飯類の製造ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯類の炊飯時に微量の焙煎油を添加することによって、異風味を感じさせることなく、ご飯の風味を向上させる米飯類の圧力炊飯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯の風味を改良する方法としては、従来から、米飯酢を添加した米飯に香り米またはその抽出液を添加することにより、米飯酢に起因する酢酸臭を軽減する方法(特許文献1)、輸入米や米に米胚芽油または米胚芽油にイノシトール及び/又はγ−オリザノールを含む改良剤を使用することにより、食味や風味を改良する方法(特許文献2)等が提案されている。また、大豆油等の加熱臭を抑制する方法として焙煎油を添加する方法(特許文献3)が提案されている。しかし、大豆油の臭いの軽減の発明であり、米飯の風味向上についての記載はない。
炊飯用の油脂組成物についても、これまで種々提案されている。例えば、ポリグリセリン縮合リシノレインエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンを必須成分とする炊飯用油脂組成物(特許文献4)、液状油に極度硬化油、レシチン、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンペンタ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを所定量配合する米飯改良用油脂組成物(特許文献5)等がある。しかし、これらはいずれもご飯の釜はがれ、ほぐれ性等の物理的な面を改良するための油脂組成物であり、ご飯の風味向上を目的としたものではない。
一方で、ご飯の風味向上を目的とし、通常の炊飯時に焙煎油を10〜1200ppm添加する方法が提案されている(特許文献6)。しかし、近年、炊飯時間短縮等の生産性向上を目的として、圧力炊飯方式が多く普及し、この場合、焙煎油を10〜1200ppm添加し圧力炊飯すると、ご飯に異風味が生じると共に、風味が悪くなる問題があった。そこで、異風味が無く、風味が向上する圧力炊飯方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−333915
【特許文献2】特開平7−255393
【特許文献3】特開2007−236206
【特許文献4】特開2001−161266
【特許文献5】特開2004−283031
【特許文献6】特開2011−55750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、圧力炊飯時において、異風味を感じさせることなく、ご飯の風味を向上させる圧力炊飯方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、炊飯時に微量に焙煎油を添加することで異風味を感じることなく、ご飯の風味を向上させ得る圧力炊飯方法を見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、炊飯する際に焙煎油を生米重量に対し0.1〜20ppm添加し、圧力炊飯することを特徴とする米飯類の圧力炊飯方法である。
【0007】
さらに、前記焙煎油は、焙煎ごま油、焙煎菜種油、焙煎えごま油、焙煎コーン油及び焙煎落花生油から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0008】
本発明は、また、上記圧力炊飯方法で得られた米飯類を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧力炊飯方法では、異風味を感じることなく、ご飯の風味の向上した米飯類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の米飯類の圧力炊飯方法では、焙煎油を生米重量に対し0.05〜20ppm炊飯時に添加する。焙煎油の添加量は、好ましくは生米重量に対し0.1〜20ppm、より好ましくは0.1〜10ppm、更に好ましくは0.1〜9ppmである。少なすぎると風味の向上の効果が得られず、多すぎると異風味を感じて米飯類の風味を損ねてしまう場合がある。
【0011】
本発明における米飯類とは、米又は米類、或いはこれらを主として含んだものであればよく、例えば白米、玄米、もち米、麦入り米類等である。また、米を煮る、蒸すまたは炒めることにより調理したもの、もち状に加工したものや他の食材や調味料を添加し、加工したものも含まれる。
【0012】
本発明における焙煎油とは、油糧原料を焙煎した後に、圧搾又は、圧搾・抽出することで焙煎風味を残した油である。焙煎油には、焙煎ごま油、焙煎菜種油、焙煎えごま油、焙煎コーン油及び焙煎落花生油などがあり、好ましくは焙煎ごま油である。また、これらの焙煎油を単独あるいは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記焙煎油を他の食用油脂に添加して用いることもできる。他の食用油脂には、本発明の効果を妨げない限り、特に制限はない。例えば大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ひまわり油、パーム油、ごま油、オリーブ油、えごま油、落花生油、牛脂、豚脂等及びそれらの水素添加、酵素改質等の加工を行った動植物油脂全般から選択することができる。これらの油脂類は、一種類又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
さらに、本発明における焙煎油を離形性やほぐれ性等の機能を有した炊飯用油脂に添加することで相乗効果を得ることができ、焙煎油に乳化剤を添加することにより、同様の効果を得ることもできる。
【0015】
本発明における炊飯時の圧力は、1気圧(101.3kPa)より高く、3気圧(303.9kPa)以下、好ましくは1気圧(101.3kPa)より高く、2.5気圧(253.3kPa)以下、より好ましくは1気圧(101.3kPa)より高く、2気圧(202.6kPa)以下、さらにより好ましくは1.05気圧(106.4kPa)以上、1.3気圧(131.7kPa)以下でおこなうことができる。
【0016】
また、本発明の米飯類の製造方法は、ご飯の風味を常温で炊飯後から48時間以上維持することができる。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0018】
実施例および比較例で使用した米飯は、以下の四種類の方法で製造した。
【0019】
〔A:酢を添加しない条件での炊飯〕
白米((株)ハナノキ製、品名:新潟県産コシヒカリ 無洗米)400gを水に90分間浸漬した。その後、水を切り、炊飯釜に移し、焙煎油等の油脂を入れた。生米と馴染ませた後、水を476g加えてからガス炊飯器(RR−0556S−C都市ガス用ガス炊飯器 5合炊き)で炊飯した。
【0020】
〔B:酢を添加しない条件で圧力1.25気圧(126.6kPa)での炊飯〕
白米((株)ハナノキ製、品名:新潟県産コシヒカリ 無洗米)400gを水に90分間浸漬した。その後、水を切り、炊飯釜に移し、焙煎油等の油脂を入れた。生米と馴染ませた後、水を476g加えてから圧力炊飯器(象印マホービン(株)製 真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊きNP−NT10 0.5〜5.5合炊き)で炊飯した。圧力炊飯器の炊飯条件は、もちもちモードである1.25気圧(126.6kPa)で実施した。
【0021】
〔C:酢を添加しない条件で圧力1.05気圧(106.4kPa)での炊飯〕
白米((株)ハナノキ製、品名:新潟県産コシヒカリ 無洗米)400gを水に90分間浸漬した。その後、水を切り、炊飯釜に移し、焙煎油等の油脂を入れた。生米と馴染ませた後、水を476g加えてから圧力炊飯器(象印マホービン(株)製 真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊きNP−NT10 0.5〜5.5合炊き)で炊飯した。圧力炊飯器の炊飯条件は、しゃっきりモードである1.05気圧(106.4kPa)で実施した。
【0022】
〔D:酢を添加した条件での圧力炊飯〕(日持ち向上剤として酢を使用する方法〕
白米((株)ハナノキ製、品名:新潟県産コシヒカリ 無洗米)400gを水に90分間浸漬した。その後、水を切り、炊飯釜に移し、焙煎油等の油脂を入れた。生米と馴染ませた後、水を472.8g、穀物酢((株)ミツカン社製)3.2g加えてから圧力炊飯器(象印マホービン(株)製 真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊きNP−NT10 0.5〜5.5合炊き)で炊飯した。圧力炊飯器の炊飯条件は、もちもちモードである1.25気圧(126.6kPa)で実施した。
【0023】
上記で炊飯した米飯は以下3種類の条件にて保存、評価した。
【0024】
〔I:0時間保存後〕
上記で炊飯後、米飯をしゃもじで均一に混ぜ合わせた後、真空冷却機(三浦工業(株)製)で23℃まで真空冷却(除圧モード)し、60gずつ小分けした直後に、電子レンジで温めたもの(600Wで1分間)について以下の評価をおこなった。
【0025】
〔II:24時間保存後〕
上記で炊飯後、米飯をしゃもじで均一に混ぜ合わせた後、真空冷却機(三浦工業(株)製)で23℃まで真空冷却(除圧モード)し、60gずつ小分けにして20℃で24時間保存した。保存した米飯を電子レンジで温めたもの(600Wで1分間)について以下の評価をおこなった。
【0026】
〔III:48時間保存後〕
保存時間を48時間、保存温度を20℃と5℃で行った以外、IIと同様におこなった。
【0027】
〔ご飯の風味の評価〕
ご飯の風味に関する官能評価は5段階評価でおこなった。
☆:ご飯の風味が非常に向上している
◎:ご飯の風味が向上している
○:ご飯の風味がやや向上している
△:ご飯の風味にわずかに向上傾向がみられる
×:ご飯の風味の向上はみられない
【0028】
〔異風味の強さの評価〕
異風味の強さの官能評価は5段階評価でおこなった。
☆:全く異風味を感じない
◎:ほとんど異風味は感じない
○:わずかに異風味を感じる
△:異風味を感じる
×:異風味を強く感じる
【0029】
〔酸味・酸臭マスキングの評価〕(酢を添加したもののみ)
酢由来の酸味・酸臭マスキングに関する官能評価は5段階評価でおこなった。
☆:酸味・酸臭を感じない
◎:ほとんど酸味・酸臭を感じない
○:酸味・酸臭が弱くなっている
△:酸味・酸臭の強さは変わらない
×:酸味・酸臭が強く感じる
【0030】
〔使用した油脂〕
焙煎ごま油:九鬼産業(株)製、一番しぼりごま油
焙煎コーン油:太田油脂(株)社内調製品、焙煎条件150℃達温後圧搾
焙煎えごま油:(株)浅沼醤油店製、焙煎えごま油
焙煎菜種油:太田油脂(株)製、焙煎なたね油赤水
焙煎落花生油:太田油脂(株)製、芳香落花生油
ごま油:竹本油脂(株)製、太白ごま油
コーン油:(株)J-オイルミルズ製、コーンサラダ油
菜種油:(株)J-オイルミルズ製、キャノーラ油
米油:(株)J-オイルミルズ製、米白絞油
落花生油:ユウキ食品(株)製、ピーナツオイル
オリーブオイル:(株)J-オイルミルズ製、AJINOMOTOオリーブオイルEV
【0031】
〔実施例1〜17、比較例1〜7〕(添加する油種と効果の関係)
表1に記載の油脂を添加し米飯をBの方法で製造し、IIの方法で保存した。得られた米飯を上記の方法で評価した。結果を表1に記載した。実施例1〜17で示したように焙煎油を一種または二種類以上添加することにより、異風味を感じることなく、ご飯の風味を向上する効果が認められた。一方、比較例1〜7で示したように、油脂を加えない場合や焙煎していない油脂を加えた場合にはご飯の風味の向上は得られず、また、オリーブ油では、異風味が感じられた。
【0032】
【表1】

【0033】
〔実施例18〜24、比較例8〜13〕(圧力炊飯1.25気圧における添加量と効果の関係と、通常炊飯であるガス炊き炊飯との比較)
表2に記載の油脂を添加し米飯をBの方法で製造し、IIの方法で保存した(実施例18〜24)。得られた米飯を上記の方法で評価した。一方、比較として、表2に記載の油脂を添加し米飯をAの方法で製造し比較例とした(比較例8〜13)。結果を表2に記載した。実施例18〜24で示したように、0.1〜20ppmの焙煎油を添加することで、ご飯の風味を向上する効果が認められた。特に、0.1〜10ppmの焙煎油を添加したときがもっとも良い評価であった。一方で、比較例8〜13に示すように、通常炊飯であるガス炊き炊飯を行った米飯は、ご飯の風味を向上させる効果は認められなかった。
【0034】
【表2】

【0035】
〔実施例25〜31、比較例8〜13〕(圧力炊飯1.05気圧における添加量と効果の関係と、通常炊飯であるガス炊き炊飯との比較)
表3に記載の油脂を添加し米飯をCの方法で製造し、IIの方法で保存した(実施例25〜31)。得られた米飯を上記の方法で評価した。一方、比較として、表3に記載の油脂を添加し米飯をAの方法で製造し比較例とした(比較例8〜13)。結果を表3に記載した。実施例25〜31で示したように、0.1〜20ppmの焙煎油を添加することで、ご飯の風味を向上する効果が認められた。特に、0.1〜10ppmの焙煎油を添加したときがもっとも良い評価であった。一方で、比較例8〜13に示すように、通常炊飯であるガス炊き炊飯を行った米飯は、ご飯の風味を向上させる効果は認められなかった。
【0036】
【表3】

【0037】
〔実施例32〜36、比較例14〜16〕(米飯酢を使用した米飯での効果の確認)
表4に記載の油脂を添加し、酢を添加したDの方法で米飯を製造し、IIの方法で保存した。得られた米飯を上記の方法で評価した。結果を表4に記載した。実施例32〜36で示したように、酢を添加した米飯においてもご飯の風味向上効果は認められた。また、酢由来の酸味や酸臭をマスキングする効果についても認められた。
【0038】
【表4】

【0039】
〔実施例37〜38、比較例17〜18〕(保存時間と効果の関係)
表5に記載の油脂を添加し、米飯をBの方法で製造し、I〜IIIの方法で保存した米飯を上記の方法で評価した。結果を表5に記載した。実施例37〜38では焙煎油を添加することで、48時間保存後でもご飯の風味を向上する効果を維持できることが確認できた。一方、比較例17〜18ではご飯の風味を向上する効果は確認できなかった。
【0040】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯する際に、焙煎油を生米重量に対して、0.05〜20ppm添加することを特徴とする米飯類の圧力炊飯方法。
【請求項2】
焙煎油が焙煎ごま油、焙煎菜種油、焙煎えごま油、焙煎コーン油及び焙煎落花生油から選ばれる一種又は二種以上である請求項1に記載の米飯類の圧力炊飯方法。
【請求項3】
炊飯時の圧力が、1気圧より高く、3気圧以下である請求項1または請求項2に記載の米飯類の圧力炊飯方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で炊飯された米飯類。

【公開番号】特開2013−66392(P2013−66392A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205412(P2011−205412)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】