説明

粉体の移送方法と移送装置

【課題】管路内の粉体に外気を流入させてその粉体の流動性を高め、これにより、流動性の良くない粉体も円滑に移送可能となすとともに、用途も広げた粉体の移送方法と移送装置を提供する。
【解決手段】垂直又は傾斜配置の管路2に粉体Pを導入し、この状態で管路2と、管路内の粉体に接触させた振動部材4の少なくとも一方を加振器5,6によって振動させ、この振動を、振動部材4と粉体Pの相対変位によるポンプ作用が生じるように制御して管路2の下端の粉体出口8から管路2に外気を吸入しながら管路内の粉体Pを流動させて粉体出口8から流出させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉体の搬送、定量供給、攪拌・混合などに有効に利用できる粉体の移送方法と移送装置、詳しくは、粉体を流す管路に気体を流入させることで流動抵抗低減の効果を生じさせて粉体の流動性を高めた移送方法と移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径の極めて小さな粉体、例えば、マイクロメートル或はサブマイクロメートル単位の粒径を有する微粒子の粉体(固体微粒子、以下では微粉体という)の多くは流動性に問題があり、その種の粉体の搬送や定量供給などでは、流動性改善のために種々の工夫が要求される。
【0003】
流動性に問題のある粉体を円滑に移送するための有効な手法として、振動や空気流などで助勢する方法が用いられており、その方法を利用した粉体の定量供給装置はこれまでにいくつか開発されて提案されている。
【0004】
その定量供給装置の従来例として、例えば、下記特許文献1,2に開示されたものがある。
【0005】
特許文献1の定量供給装置は、本出願人等が開発したものであって、垂直又は傾斜配置の管路と、その管路の下部に配置する底板と、これ等を個々に振動させる加振器を備えている。この装置は、前記管路に導入した粉体を管路の下端と前記底板との間に設けた出口から流出させ、そのときの流出量を、前記加振器による管路及び底板の振動状況を制御することで調整する。それにより、微量供給を行えるものになっている。
【0006】
また、前記特許文献2の粉体供給装置は、粉体貯留器と、上端を粉体貯留器の底から同貯留器の内部に挿入する粉体搬送管と、この粉体搬送管の上端の周囲に配置される上部閉鎖の粉体案内筒と、前記粉体搬送管と粉体案内筒との間の空間の粉体に振動を付与する振動付与手段(加振器)を備えている。この装置は、前記振動付与手段によって前記空間に送り込まれた粉体を振動させ、その振動で空間内の粉体をオーバフローさせて前記粉体搬送管に流入させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−221116号公報
【特許文献2】特開2005−154138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の定量供給装置は、粉体の流動状態が管路内の粉体量や粉体の性質などに左右される傾向がみられる。粉体の種類によっては、振動の付与のみでは円滑な流動が起らないことがある。また、供給開始から定常状態での安定供給がなされるまでの時間も長い。これは、管路に対する投入初期の粉体は、投入むらなどより密度に粗密を生じやすく、その密度分布のばらつきが振動の付与によって安定するまでに時間がかかるのが原因のひとつと考えられる。
【0009】
また、供給の初期には管路内の粉体量が多いため、管路の出口付近にある粉体に上層の粉体の重量がより大きく加わる。それが流動性に悪影響を及ぼし、そのことも出口からの粉体流出量が安定するまでの時間を長くする原因ではないかと考えられる。
【0010】
一方、特許文献2の粉体供給装置は、粉体に対する振動の付与を、オーバフローを生じさせる空間の粉体に脈動空気を吹き込む方法で行っている。そのために、装置を複雑、高価にする送気装置が必要になる。また、粉体搬送管内での搬送が空気圧送の状態になるので、供給した粉体を回収するのが容易でなく、用途も制限される。
【0011】
特許文献1,2の装置は、粉体の移送、搬送は行えるがそれ以外の機能がなく、粉体の
攪拌・混合などを行うことも望めない。
【0012】
発明者は、管路に導入した粉体に送気装置を使用せずに外気(管路の周囲に存在する空気など)を流入させる方法を見出した。その方法は、低流動性粉体の流動性を顕著に向上させる。
【0013】
この発明は、その方法で流動抵抗低減の効果を生じさせて粉体の流動性を高め、これにより、流動性の良くない粉体も円滑に移送可能となすとともに、用途も広げた粉体の移送方法と移送装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記の粉体移送方法を提供する。その方法は、
垂直又は傾斜配置の管路に粉体を導入し、
前記管路と、その管路に挿入して当該管路内の粉体に接触させた振動部材の少なくとも一方を加振器によって振動させ、
この振動を、前記振動部材と前記粉体の相対変位によるポンプ作用が生じるように制御して前記管路の下端に形成された粉体出口から前記管路に外気を吸入しながら管路内の粉体を流動させて前記粉体出口から流出させる。
【0015】
この方法は、移送対象の粉体の種類にもよるが、重質炭酸カルシウムなどの微粉体については、前記管路や振動部材を周波数280Hz〜380Hzの周期で水平方向に振動させたときに安定した効果が得られる。また、その周波数の振動を付与することで粉体を攪拌する作用も得られる。そのことを実験で確認した。
【0016】
この発明の方法は、粉体の供給量が微量で、しかも定量供給が要求されるといったときにその有効性が顕著に発揮される。
また、微量の定量供給が行えるので、粉体移送装置を被散布面から所定の距離を保った上方において水平面内で直角2軸方向に移動させる移動装置と組み合わせることで微粉体の均一散布なども行える。さらに、管路に数種類の粉体を導入し、その粉体を、攪拌作用を利用して管路内で攪拌・混合し、攪拌・混合後の粉体を前記粉体出口から流出させることもできる。
【0017】
上記の方法を実施するために、この発明は、垂直又は傾斜配置の管路と、その管路の下部に配置する粉体受けと、その粉体受けから伸びだして前記管路に入り込む振動部材と、この振動部材と前記管路の少なくとも一方を振動させる加振器と、その加振器による振動を制御する振動制御装置とを有し、
前記管路の下端と前記粉体受けとの間に粉体出口が形成され、
前記振動制御装置による振動の制御が、前記振動部材と前記粉体の振動に伴う相対変位でポンプ作用が生じるように行われ、そのポンプ作用によって前記粉体出口から前記管路に外気が吸入されるように構成された粉体移送装置も併せて提供する。
【0018】
前記振動部材は、加振器による加振を管路のみについて行ったときにも、伝播される振動によって振動する。
【0019】
この粉体移送装置に採用する加振器は、圧電素子(ピエゾアクチュエータ)が好ましいが、スピーカなどの他の振動体でもよい。その加振器で前記振動部材と前記管路のいずれか一方又は双方を好ましくは水平方向に振動させる。振動の方向が水平であると、振動部材や管路に振動エネルギーをロスなく伝えることができる。
【0020】
その水平方向の振動の付与は、加振対象の管路や粉体受けに保持軸を水平向きにして連結し、その保持軸に前記加振器を取り付けると言った方法で行える。
【0021】
この場合、加振器は、前記保持軸にその保持軸の軸線方向に間隔をあけて複数取り付けることができる。複数の加振器を備えると、加振器の駆動数を切り替えて振動強度を変化させることができる。加振器が圧電素子であれば、その素子に対する印加電圧を制御することによって振動強度を変化させることもでき、より緻密な移送制御が行なえる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の粉体移送方法は、管路と振動部材の少なくとも一方を振動させる。その振動を単純に粉体に加えるのではなく、振動部材と粉体の相対変位によるポンプ作用を生じさせてそのポンプ作用で管路に粉体出口から外気を吸入させる。
【0023】
吸入された外気は管路内に入り込んで粉体を浮き上がらせ、渦流を生じて粉体を流動させる。そのために、投入むらなどによる密度分布のばらつきが早期に改善される。
また、流動により管路内粉体の粉体間隙間も含めた見かけ上の体積が増加(かさ密度が低下)する。そのために、上層の粉体の重量が下層の粉体に加わり難くなり、粉体の相互干渉によって粉体間に生じる摩擦力も小さくなって粉体の流動抵抗が低減される。
【0024】
そのために、粉体の移動が円滑になり、管路内粉体の量による影響なども緩和されて供給開始から定常状態での安定供給がなされるまでの時間が、粉体の流動性改善を振動だけに依存して行う装置に比べて大幅に短縮される。
【0025】
また、この発明の移送方法では、気流を発生させる送気装置が不要である。粉体を気流で押し流す方法ではないので、粉体出口から流出した粉体を回収するのも難しくならない。従って、用途制限も大幅に緩和される。
【0026】
なお、管路に吸入された外気が渦流を生じるのは、気象現象として上空の気圧が地上の気圧よりも下がったときに上昇気流を伴う高速の渦巻きができる(所謂竜巻)のと同じような現象によるのではないかと考えられる。
【0027】
この渦流によって粉体の攪拌がなされる。従って、数種類の粉体を移送中に管路内で攪拌、混合することもできる。付与する振動の振幅や方向などによっては粉体に進行波が作用し、その進行波によって粉体の流出方向を制御できる場合もある。
【0028】
また、微粉体の移送では、粉体出口から出た粉体が、煙のように拡散して周囲に平均的に舞い落ちる。そのために、移動装置を使用して粉体移送装置を被散布面から所定の距離を保った上方において水平面内で直角2軸方向に移動させることで微粉体の微量均一散布も行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の粉体移送装置の一例を示す正面図
【図2】図1の粉体移送装置の側面図
【図3】図1の粉体移送装置の要部の拡大断面図
【図4】図1の粉体移送装置の粉体出口部の拡大断面図
【図5】粉体受けの変形例を示す断面図
【図6】粉体の均一散布装置に設ける移送装置用移動装置の一例を示す平面図
【図7】(a)管路と振動部材に同位相の振動を付与したときの管路内粉体の見かけ上の体積増加率の測定結果を示す図表、(b)管路と振動部材に逆位相の振動を付与したときの管路内粉体の見かけ上の体積増加率の測定結果を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面に基づいて、この発明の粉体移送方法と粉体移送装置の実施の形態を説明する。図1に、この発明の粉体移送装置の一例を示す。例示の粉体移送装置1は、粉体の微量の定量供給を行なう定量供給装置20の構成要素として利用したものである。
【0031】
この粉体移送装置1は、透明パイプで構成された管路2と、その管路2の下部に配置する粉体受け3と、その粉体受け3から上に伸び出させて管路2に下端開口から入り込ませた振動部材4と、この振動部材4と管路2をそれぞれに振動させる加振器5,6と、その加振器5,6による振動を制御する振動制御装置7とで構成されている。
【0032】
管路2は、垂直配置にしたが、傾斜していてもよい。要は、内部に導入した粉体Pが自重で下に流れ得る管路であればよい。この管路2と粉体受け3との間には、粉体出口8(図3、図4参照)が形成されている。
【0033】
その粉体出口8は、管路の全周を取り巻くように構成されたもの(環状出口)が好ましい。粉体出口8が環状であると、後述するポンプ作用によって管路2の外周の全域から平均的に管路2の内部に外気(例えば、空気)が吸入され、管路2内に内部の粉体をむらなく攪拌する渦流が安定して発生する。
【0034】
粉体受け3は、図3のように、粉体載置面3aが水平であると供給停止時の応答が安定する。ただし、図5に示すように、粉体載置面3aが上すぼみのテーパ面で構成されるものも、移送目的や粉体出口8の通路面積次第では使用が許容される。
【0035】
粉体出口8の通路面積が、装置の静止状態で粉体の自然な流出が阻止されるほど小さいときには粉体載置面3aが傾斜していても定量供給を行なうことができる。また、定量供給を目的としない粉体の混合装置や均一散布装置などでは、供給停止後の流出が許容されるので、図5のように粉体載置面3aが傾斜していてもよい。
【0036】
粉体出口8は、管路2と粉体受け3が近接して静止状態では両者間に隙間がほとんど無いときにも、管路2や振動部材4の振動によって作り出されることがある。
【0037】
振動部材4は、振動させる方向に対して厚み方向の端面が交差する方向(好ましくは直交する方向)を向く姿勢にして管路2に挿入する。この振動部材4は、平板状にして粉体を押す面の面積をある程度広く確保したものがポンプ作用を起こしやすくて好ましい。ただし、柱状でも構わない。
【0038】
管路2、振動部材4を支持した粉体受け3及び加振器5,6は、スタンド9によって支持されている。スタンド9は、台座9a上に支柱9bを立設し、その支柱9bに取り付けた複数の支持アーム9cで管路2と振動部材4を個別に支持している。管路2は、その管路の外周に取り付けた保持部材10に支持アーム9cを連結して支持し、粉体受け3はその粉体受け3の側部に支持アーム9cを直接連結して支持している。
【0039】
また、加振器5,6は、管路2と粉体受け3に水平な保持軸11、12を連結し、その保持軸11、12に取り付けている。図示の加振器5,6は、圧電素子(ピエゾアクチュエータ)で構成されており、振動部材4を含む粉体受け3や管路2を水平方向に振動させる。ここでの振動の方向は、前記支持アーム9cの長手方向と管路2の軸心のそれぞれに対して直交する方向となる。
【0040】
このときの振動周波数は、実験では280Hz〜380Hzが安定したポンプ作用とそれによる流動抵抗低減の効果が発揮されて好ましかった。ただし、振動の適正周波数、適正振幅、適正強度は、粉体の種類、管路2の有効径、管路2に対する粉体の投入量、粉体出口8の通路面積、振動部材4や管路2に対する振動の付与状態(振動をどちらに加えるか、両者に加える場合に同位相の振動とするか逆位相の振動とするかなど)などによって変化する。
【0041】
その適正周波数などは予め移送テストを行うことによって見出すことができ、そのようにして見出した条件に基づいて移送制御を行なう。
【0042】
圧電素子で構成された加振器5,6は、各1本の保持軸11、12に対してそれ等の保持軸の軸線方向に間隔をあけて複数取り付けており(1つでもよい)、この構造は、圧電素子に供給する駆動電圧を制御することに加えて、加振器の駆動数を切り替えることでも粉体の移送制御を行うことができる。
【0043】
なお、支持アーム9cと粉体受け3との連結、及び支持アーム9cと管路2の連結は、連結される2者が連結部において振動を加える方向に相対的に変位できるように行ってもよい。連結される2者を、振動を加える方向へのスライドが許容されるように連結したり、2者間に振動による相対変位を吸収するゴムなどの弾性体を介在したりすると、支持アーム9cが剛体のアームである場合にも振動の伝達が妨げられない。
【0044】
振動制御装置7は、加振器5,6による振動の周波数や振幅を制御する。この振動制御装置7は、前掲の特許文献1に開示されているようなものでよい。粉体受け3や管路2の振動を測定器(図示せず)で測定し、粉体受け3の振動を振動部材4の振動とみなしてフィードバック制御を行なうと、粉末の種類に応じた適正な振動の付与が行える。
【0045】
粉体受け3や管路2に加えた振動の周波数、振幅、強度は、加振器5,6の駆動状況から推測してもよい。
【0046】
なお、管路2を透明にすると内部の粉体の流動状況を目視確認することができて好ましいが、このことは、この発明の必須の要件にならない。
【0047】
図1及び図2の13は、管路2の上端の入口に設けた粉体導入用の漏斗、14は、移送対象の粉体Pを漏斗13を通して管路2に投入する補助ホッパである。漏斗13は、支柱9bと支持アーム9cで支持している。これ等も好ましい要素に過ぎず、省いても差し支えない。
【0048】
図示の粉体移送装置1を使用した粉体の定量供給装置20には、台座9aの脚の内側に電子天秤15を設けており、粉体出口8から流出した粉体Pがその電子天秤15の秤量皿15aに受け入れられる。そして、電子天秤15による秤量値が設定量になったところで電子天秤15からの信号に基づいて粉体移送装置1からの供給が停止される。図1の16は、光学式のレベルセンサであり、管路2に投入する粉末の量の制御に利用される。
【0049】
上述した粉体移送装置1及びそれを使用した定量供給装置20の動作及び作用、効果を
以下に述べる。
【0050】
図1、図2に示した管路2に移送対象の粉体Pを好ましくは定量導入する。次に、加振器5、6を駆動して粉体受け3上に設けた振動部材4と管路2を水平方向に振動させる。
【0051】
その振動の付与により、振動部材4と管路2に接触している粉体Pが水平方向に押し動かされる。次いで、粉体Pを押し動かした振動部材4と管路2が今後は逆方向に動いて粉体から離れ、その動作が急速に繰り返されてポンプ作用が生じ、そのポンプ作用で粉体出口8から管路2内に外気が吸入される。
【0052】
このときの状況は、管路の下端の粉体出口よりも上側で管路内が負圧になり、粉体出口部(大気圧)との間に圧力差が生じる。これにより、自然界で竜巻が発生するときと似た環境ができる。そのために、粉体出口8から管路2に外気が吸入され、管路2内にねじれながら上昇する渦流が発生する。その結果、粉体Pがその渦流に巻き込まれて流動する。
【0053】
これにより、管路内粉体Pの見かけ上の体積が増加し、そのために、上層の粉体の重量が下層の粉体に加わり難くなり、粉体間に生じる摩擦力も小さくなって粉体の流動抵抗が低減される。
【0054】
管路2内で上昇流に乗って巻き上げられた粉体は、管路の中央部に流れてそこから慣性で下に移動する。そして、管路2の下部に戻った粉体が粉体出口8から吸入される外気の流れに乗って再び巻き上げられる。この動作が高速で繰り返されて管路2内で粉体の対流が起る。その対流は、振動の振幅、強度を粉体の種類に応じて制御することで確実に発生させることができる。その対流が起こることで粉体の下方への慣性による移動がスムーズに進行する。
【0055】
管路2の下部に移動した粉体は大部分が渦流に巻き込まれて管路2内に残り、一部の粉体が粉体出口8から管路外に放出される。このときの流出は、慣性力の働いている粉体が管路2に吸入される外気によってほぐされて広範に分散する。そのために、微粉体は煙が舞うように拡散して放出され、振動の付与のみでは粉体出口から流出できないような粉体も滞留せずに円滑に供給される。
【0056】
また、管路2内で上記の対流が起こることによって粉体の投入むら等による密度分布のばらつきも早期に改善され、供給開始から定常状態での安定供給がなされるまでの時間も著しく短くなる。
【0057】
なお、振動部材4と管路2に付与する振動は、逆位相の振動、同位相の振動のどちらであってもよい。同位相の振動でも、振動部材4と管路2の個々の固有振動数の違いや構造的な強度の違いによって両者の振幅にずれが生じるため、外気吸入と対流を起こすためのポンプ作用を生じさせることができる。
【0058】
また、外気吸入と対流を起こすためのポンプ作用は、振動部材4と管路2の両者を同時に振動させると大きな振動エネルギーを付与することができる。ただし、加振器による加振を振動部材4と管路2のどちらか一方のみについて行う方法でもそのポンプ作用を生じさせることができる。このときには、振動の強さにもよるが、加振していない部材も粉体を介して伝わる振動によって振動する。
【0059】
加振器5,6は、スピーカでも外気吸入と対流を起こすためのポンプ作用を生じさせることができた。従って、その加振器は、振動体であればよく、圧電素子に限定されない。
【0060】
この発明の粉体移送装置を使用すると、上記の作用によって粉体の流動性が振動のみを加える方法に比べて大きく高められ、流動性の悪い粉体も安定した移送ができるようになる。
【0061】
また、移送開始から短時間のうちに定常状態での安定供給がなされるようになる。しかも、これ等の作用、効果を、送気装置の無い簡素な移送装置を使用して得ることができ、移送した粉体の回収なども難しくならない。
【0062】
この発明の粉体移送装置は、粉体の定量供給以外の目的にも利用することができる。例示の粉体移送装置1を用いて粉体の攪拌、混合装置を構成するときには、混合済みの粉体を受け入れる容器を粉体移送装置1の下方にセットする。電子天秤15は必要でない。
【0063】
また、例示の粉体移送装置1を用いて粉体の均一散布装置を構成するときには、図6に示すような移動装置17を設ける。図6の移動装置17は、水平配置のレール17bを自走する可動部材17aを有している。レール17bは、駆動源を備えた走行機構(図示せず)を有しており、そのレールと直交する方向に延びたレール17cに沿って走行することができる。
【0064】
この移動装置17の可動部材17a上に支柱を立設し、その支柱に取り付ける支持アームでこの発明の移送装置を構成する管路、粉体受け、振動部材、加振器をそれぞれ支持すれば、被散布面Aの上方において粉体移送装置1を水平面内で移動させながら粉体出口8から粉末を流出させて粉体の均一散布を行うことが可能になる。
【実施例1】
【0065】
図3に示した内径D1=φ18mm、外径D2=φ22mm、高さH=205mmの透明プラスチックパイプから成る管路と、幅14mm、厚みt=8mm、高さh=24mmの振動部材と、外径d=30mmの上面が水平な粉体受けと、圧電素子によって構成される加振器を組み合わせた図1、図2の構造の粉体移送装置(発明品)を試作した。
【0066】
この粉体移送装置の管路は、その管路の外周に取り付けた保持部材に支持アームを連結して支持した。また、粉体受けはその粉体受けの側部に支持アームを連結して支持した。さらに、支持アームはスタンドの支柱で支持した。試作装置は、粉体の流動状態を検証する装置であるので、図1の電子天秤は設けていない。粉体出口は、管路を構成するパイプの下端と粉体受けの上面との間に、0.01mmの隙間をあけてその隙間で形成した。
【0067】
この試作装置の管路に、JIS試験用粉体1の重質炭酸カルシウム17種を静止状態でのレベル面の高さがそれぞれ80mm(系列1)、60mm(系列2)、50mm(系列3)となるように投入し、管路と粉体受け上に設けた振動部材の2者を圧電素子で振動させて移送試験を行った。
【0068】
加振器による振動の付与は、振動周波数330Hz、振動強度は、加振器に対する印加電圧9.4V〜20.3Vの条件で行った。
【0069】
その結果、振動を付与している間、粉体出口から50〜60ml/min程度の空気が管路に吸入されて管路の内壁に沿った部分では流れが渦を巻いて上昇し、管路の中央部は流れが下向きになる激しい対流が管路内に生じた。そのために、粉体の見かけ上の体積が増加し、粉体出口からは、粉体が煙のように拡散して流出した。
【0070】
比較のために、振動部材が無く、他の構成は発明品と同じ装置を使用し、その装置の管路と粉体受けを発明品と同一条件で振動させるテストも行った。しかし、この場合には、管路内での粉末の対流は起らず、粉体出口からの粉体の流出も単に少しずつ振り落とされるような状況で起こって発明品ほど流出が円滑でなかった。
【0071】
なお、粉体出口から管路に吸入される空気の量は、管路を構成するパイプの上端にビニール袋を被せ、その袋に流入して袋を膨らませた空気の量から求めた。
【0072】
この試験では、管路と振動部材に加える振動を同位相にした場合と逆位相にした場合の管路内粉体の見かけ上の体積の増加率の違いも調べた。印加電圧9.4V、13.3V、17.4V、19V、19.8V、20.3Vのときの測定データを図7に示す。このデータは、静止時の見かけ上の体積を1としてそれとの比率で表したものであって、同図の(a)は同位相制御、(b)は逆位相制御でのデータである。
【0073】
この試験結果から、管路と振動部材の振動の位相を同位相、逆位相のどちらにしても粉体の見かけ上の体積が増加し、それによる流出抵抗の低減効果が得られることがわかる。
【0074】
系列3と系列2のテストでは、同位相よりも逆位相での制御の方が見かけ上の体積増加が大きくなる結果が得られているが、系列1のテストでは、同位相での制御の方が逆位相での制御時よりも見かけ上の体積増加が大きくなっている。この結果は、粉体の種類や管路に対する投入レベルなどに応じて振動の位相制御を行なうことが有効なことを示唆している。
【実施例2】
【0075】
実施例1で使用した発明品の粉体移送装置と比較用の粉体移送装置を使用してJIS試験用粉体5の白色溶融アルミナを静止状態でのレベル面の高さが205mmとなるように管路に投入した。そして、管路と振動部材を振動させて移送試験を行った。この試験での振動は、周波数330Hz、加振器に対する印加電圧約13Vとし、移送開始から粉体出口からの粉体流出量が安定するまでの経過時間を調べた。
【0076】
その結果、比較用の装置を使用したときには、定常状態での安定供給がなされる(一定時間当たりの供給量がほぼ一定する)までに30分の時間を費やした。これに対し、発明品の装置は、1分強で定常状態での安定供給がなされた。
【実施例3】
【0077】
実施例1で使用した試作装置の管路に、実施例1と同じJIS試験用粉体1の重質炭酸カルシウム17種を静止状態でのレベル面の高さが205mmとなるように投入し、管路のみを圧電素子で振動させて移送試験を行った。また、粉体受けを含めて振動部材を振動させる移送試験と管路及び振動部材の2者を同時に振動させる移送試験も行った。
【0078】
試験の条件は、振動周波数330Hz、振動強度16.5V(−18dB)及び17.7V(−12dB)の条件で行った。
そして、管路及び振動部材の2者を同時に振動させる試験では、管路と振動部材に同位相の振動と逆位相の振動を加え、振動の位相の違いが粉体の流出状態にどのような影響を及ぼすかを調べた。この試験で得られたデータを表1にまとめる。
【0079】
【表1】

【0080】
表1のデータは、移送装置を250秒間駆動したときの総移送量である。管路加振、駆動電圧17.7Vの条件では粉体の、単位時間当たりの流出量に少し変動があったが、その他のケースでは単位時間当たりの流出量はほぼ平均して安定した移送がなされた。
【0081】
この試験の結果から、管路と振動部材のどちらか一方のみを振動させたときにも発明の目的が達成されることがわかる。
【0082】
なお、この試験の結果では、2者の同位相加振のときに振動強度が高まるほど総移送量が少なくなっている。ただし、他のケースと比べるとこの場合の総移送量は5〜10倍となっている。
【産業上の利用可能性】
【0083】
この発明の移送方法と移送装置は、粉体の搬送や定量供給、攪拌・混合などに有効に利用することができる。また、粉体の均一散布や、粉体出口から管路に吸入する外気として活性ガスを使用することで粉体を活性ガスなどと攪拌・混合して反応を起こさせるといった用途にも利用可能と考えられる。
【符号の説明】
【0084】
1 粉体移送装置
2 管路
3 粉体受け
3a 粉体載置面
4 振動部材
5,6 加振器
7 振動制御装置
8 粉体出口
9 スタンド
9a 台座
9b 支柱
9c 支持アーム
10 保持部材
11,12 保持軸
13 漏斗
14 補助ホッパ
15 電子天秤
15a 秤量皿
16 レベルセンサ
17 移動装置
17a 可動部材
17b,17c レール
20 定量供給装置
P 粉体
A 被散布面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直又は傾斜配置の管路(2)に粉体(P)を導入し、
その管路(2)と、当該管路に挿入して管路内の粉体に接触させた振動部材(4)の少なくとも一方を加振器(5,6)によって振動させ、
この振動を、前記振動部材(4)と前記粉体(P)の相対変位によるポンプ作用が生じるように制御して前記管路(2)の下端に形成された粉体出口(8)から前記管路(2)に外気を吸入しながら管路(2)内の粉体(P)を流動させて前記粉体出口(8)から流出させる粉体移送方法。
【請求項2】
前記管路(2)と前記振動部材(4)を周波数280Hz〜380Hzの周期で水平方向に同時に振動させる請求項1に記載の粉体移送方法。
【請求項3】
前記管路(2)に数種類の粉体(P)を導入し、その粉体を前記管路(2)内で攪拌・混合し、攪拌・混合後の粉体を前記粉体出口(8)から流出させる請求項1又は2に記載の粉体移送方法。
【請求項4】
垂直又は傾斜配置の管路(2)と、その管路(2)の下部に配置する粉体受け(3)と、その粉体受け(3)から伸びだして前記管路(2)に入り込む振動部材(4)と、この振動部材(4)と前記管路(2)の少なくとも一方を振動させる加振器(5,6)と、その加振器(5,6)による振動を制御する振動制御装置(7)とを有し、
前記管路(2)の下端と前記粉体受け(3)との間に粉体出口(8)が形成され、
前記振動制御装置(7)による振動の制御が、前記振動部材(4)と前記粉体(P)の振動に伴う相対変位でポンプ作用が生じるように行われ、そのポンプ作用によって前記粉体出口(8)から前記管路(2)に外気が吸入されるように構成された粉体移送装置。
【請求項5】
前記加振器(5,6)が圧電素子で構成され、前記振動部材(4)と管路(2)のいずれか一方又は双方を水平方向に振動させる請求項4に記載の粉体移送装置。
【請求項6】
加振対象の前記管路(2)又は前記粉体受け(3)に保持軸(11,12)を水平向きにして連結し、その保持軸(11,12)に前記加振器(5,6)を取り付けた請求項4又は5に記載の粉体移送装置。
【請求項7】
前記加振器(5,6)を、前記保持軸(11,12)にその保持軸の軸線方向に間隔をあけて複数取り付け、その複数の加振器(5,6)の駆動数を切り替え可能となした請求項6に記載の粉体移送装置。
【請求項8】
前記管路(2)を断面円形にし、前記粉体出口(8)を円環状に形成した請求項4〜7のいずれかに記載の粉体移送装置。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれかに記載の粉体移送装置(1)で構成された粉体の定量供給装置。
【請求項10】
請求項4〜8のいずれかに記載の粉体移送装置(1)で構成された粉体の攪拌・混合装置。
【請求項11】
請求項4〜8のいずれかに記載の粉体移送装置(1)と、その粉体移送装置を被散布面から所定の距離を保った上方において水平面内で直角2軸方向に移動させる移動装置とで構成された粉体散布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate