説明

粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法及び包装方法

【課題】 エチレンオキシド系共重合体に粉体を混合して分散させた粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法であって、機械的シェアー等による樹脂分子量の低下がない粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法、及びそれにより得られた樹脂の包装方法を提供する。
【解決手段】 エチレンオキシド80〜95重量%とこのエチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物5〜20重量%とからなるエチレンオキシド系共重合体樹脂と溶媒からなるエチレンオキシド系共重合体樹脂溶液に、電気化学的活性物質を含有してなる粉体を混合して分散させて、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液を調製する工程と、この粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から溶媒を除去して流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を得る工程と、この流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂をペレット化又は粒状化する工程と、このペレット化又は粒状化された粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を乾燥する工程とからなる製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法及び包装方法に関し、さらに詳しくは、押し出し成形加工の原料として使用するのに適した、粉体をエチレンオキシド系共重合体樹脂に分散させた粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法及び包装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体、フィルム等の製造に使用される熱可塑性樹脂の加工においては、押出機を用いた押出し成形がしばしば行われている。この押出し成形では、あらかじめペレット化した樹脂を用い、これを溶融し、可塑剤等の添加剤等を混合して押出機に供給するのが一般的である。
【0003】
しかしながら、エチレンオキシド系共重合体樹脂は、熱あるいは機械的なシェアーによって部分的に分解して分子量低下を生じる。そのため、特に樹脂に酸化バナジウム系化合物のような酸化性を有する粉体を混練機にて溶融混合して分散させた後、押出し成形すると、樹脂の分子量低下をもたらすという問題があった。
【0004】
樹脂に粉体を分散させる方法としては、例えば特開2002−284887号公報に、含水率が0.5重量%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)を押出機に導入し、この押出機内で含水かつ溶融状態のEVOHに対し、無機微粒子の水分散溶液を配合して溶融混練する方法が開示されている。
【0005】
しかし、この方法では押出機内で樹脂に無機微粒子を均一に分散させるため、押出機に導入する樹脂の含水率や混練する無機微粒子の添加量を制御しなければならず、設備や運転方法が複雑となる。また、押出機から出てくる樹脂の含水率が5〜40重量%と高いため、本発明で用いるエチレンオキシド系共重合体樹脂にこの方法を適用した場合、樹脂に粘着性が残り、押出しの後工程であるペレット化(粒状化)が困難となる。また、エチレンオキシド系共重合体樹脂の融点が比較的低いために乾燥工程であまり熱をかけることができず、乾燥工程に長時間を要することになり、経済的ではない。
【特許文献1】特開2002−284887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、押出し成形等に使用し得る粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法であって、機械的シェアーによる樹脂分子量の低下がほとんどない製造方法を提供することを目的とする。また、得られた粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の性能を長期間維持する包装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製造方法は、エチレンオキシド系共重合体樹脂に粉体を混合して分散させた、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法であって、エチレンオキシド80〜95重量%と、このエチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物5〜20重量%とからなるエチレンオキシド系共重合体樹脂と溶媒からなるエチレンオキシド系共重合体樹脂溶液に、電気化学的活性物質を含有してなる粉体を混合して分散させて、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液を調製する工程と、前記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から溶媒を除去して流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を得る工程と、前記流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂をペレット化又は粒状化する工程と、前記ペレット化又は粒状化された粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を乾燥する工程とを含むものとする(請求項1)。
【0008】
上記において、前記粉体としては有機物粉体又は無機物粉体を用いることができる(請求項2,3)。
【0009】
電気化学的活性物質としては、遷移金属酸化物系化合物、リン酸塩系化合物、カーボン、グラファイト及びカーボン−グラファイトからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる(請求項4)。
【0010】
エチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物としては、ブチレンオキシドを用いることができる(請求項5)。
【0011】
上記エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液中に粉体を混合して分散させる工程で、低粘度で混合することにより樹脂の機械的劣化による分子量低下を防止することが好ましい(請求項6)。
【0012】
上記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から溶媒を除去して流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を得る工程は、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液を予備濃縮する第一段階と、取り出し機能を備えた撹拌機を用いて低温で撹拌することによりさらに溶媒除去を行う第二段階からなることが好ましい(請求項7)。
【0013】
上記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂をペレット化又は粒状化する工程は、ペレット化又は粒状化される樹脂を予備冷却し、次いで冷媒によって冷却しながらペレット化又は粒状化する段階を含むことが好ましい(請求項8)。
【0014】
上記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を乾燥する工程は、減圧下で不活性ガスを導入しながら乾燥を行う段階を含むことが好ましい(請求項9)。
【0015】
本発明の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の包装方法は、上記いずれかの製造方法により得られた粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を、吸湿及び酸素による性能劣化を防止するために不活性ガス雰囲気下で包装容器に充填するものとする(請求項10)。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、熱的劣化や機械的劣化による分子量低下がなく、安定した物性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂が得られる。
【0017】
また、本発明の包装方法によれば、上記得られた樹脂が保管中に水分や酸素に曝されることがないので、分子量低下が抑えられ、初期の性能が長期間維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法について詳述するが、以下の例示は本発明の範囲を拘束するものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施しうるものである。
【0019】
1.粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の混合・分散工程
本発明の製造方法では、まずエチレンオキシド系共重合体樹脂と溶媒からなるエチレンオキシド系共重合体樹脂溶液に粉体を添加し、低粘度で混合して分散させる。これにより、分子量の低下がなく、粉体が均一に分散した樹脂を得ることが可能となる。粘度は、具体的には、温度60℃で1,000Pa・s以下であることが好ましい。
【0020】
本発明で用いるエチレンオキシド系共重合体樹脂は、エチレンオキシド80〜95重量%とこのエチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物5〜20重量%(両者の合計で100重量%)とが共重合してなるものである。分子量は樹脂の用途等によって異なり、特に限定されるものではないが、通常は重量平均分子量で5万〜20万程度である。
【0021】
エチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物としては、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルを挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中で特に好ましいのはブチレンオキシドである。
【0022】
次に、粉体は、有機物、無機物又は両者の混合物のいずれでもよく、電気化学的活性物質を含むことが好ましい。電気化学的活性物質の例としては、遷移金属酸化物系化合物、リン酸塩系化合物、カーボン、グラファイト及びカーボン−グラファイト混合物が挙げられ、これらの2種以上の混合物であってもよい。遷移金属酸化物系化合物の例としては、酸化バナジウム系化合物、酸化マンガン系化合物、酸化チタン系化合物が挙げられる。リン酸塩系化合物の例としてはリン酸鉄が挙げられる。
【0023】
粉体の好ましい例としては、酸化バナジウム系化合物と必要に応じて用いられるカーボン粉末とからなり、両者の配合比率が、酸化バナジウム系化合物:カーボン粉末=100〜90:0〜10(重量%、両者の合計で100重量%)であるものが挙げられる。酸化バナジウム系化合物の例としては、V、V等や、Li(x:1.0〜1.4)のようなそれらのリチウム化物等が挙げられる。
【0024】
粉体の平均粒径は、特に限定されないが、通常は1〜10μmの範囲である。
【0025】
粉体の添加量は、樹脂の重量に対して好ましくは1〜10倍の範囲であり、より好ましくは1〜4倍の範囲である。
【0026】
なお、粉体含有樹脂の用途に応じて、酸化防止剤、防腐剤、耐光性向上剤等の添加物をさらに添加してもよい。
【0027】
樹脂の希釈溶解に用いる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類の溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール類の溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン等の共極性溶媒;あるいは水等が挙げられる。中でも、トルエン、キシレンがコストの面から好ましい。
【0028】
溶媒の量は、溶液中の樹脂固形分が5〜70重量%となる量が好ましく、10〜40重量%となる量がより好ましい。
【0029】
混合・分散の際に用いる装置は特に限定されないが、撹拌翼(ヘリカルリボン翼、スーパーブレンド翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼等)を備える反応器や、プロシェアーミキサー、コンビミックス等が好ましい例として挙げられる。用いる装置によって使用条件が異なるので、装置に応じた条件を設定する。
【0030】
混合時の溶液の温度は40〜100℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。
【0031】
2.粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液の溶媒除去工程
本製造方法における溶媒除去工程は、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から溶媒として用いた溶剤を揮発除去して、流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を得る工程であり、溶媒除去の程度は樹脂が完全に溶媒を含まないものとなっている必要はなく、溶媒が所定の濃度以下になっていればよい。
【0032】
溶媒除去工程は、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から、溶媒として用いた溶剤を低温で一部揮発させる第一段階(予備濃縮)と、第1段階を経た粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液を取り出し機能を備えた撹拌装置に移し、所定の濃度まで低温で溶剤を除去する第二段階との二段階からなるものとすることが好ましい。これにより粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の熱劣化や機械的劣化による分子量低下を防止できるだけでなく、所望の形態で粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を取り出すことが可能となる。従って、後のペレット化(粒状化)工程を考慮すれば非常に生産性が良好であり、かつ経済的に優れた方法となる。これら二段階の溶媒除去工程について以下により具体的に述べる。
【0033】
(1)第一段階
第一段階の溶媒除去工程は、溶液中の溶媒量(溶媒濃度)が好ましくは25〜60重量%、より好ましくは30〜50重量%となるまで濃縮する工程である。溶媒濃度が25重量%未満となると、樹脂溶液の粘度が急激に上昇し、高動力の撹拌機が必要となると共に蒸発槽からの取り出しが困難となる。
【0034】
溶媒除去に用いる装置は特に限定されないが、減圧可能な撹拌型蒸発槽が好ましい。撹拌翼としては、例えばヘリカルリボン翼、スーパーブレンド翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼が使用できる。また、プロシェアーミキサー、コンビミックス等を使用することもできる。使用条件は、装置に応じた条件を設定する。
【0035】
溶媒除去温度は40〜110℃が好ましく、特に60〜90℃が好ましい。40℃未満であると濃縮終了時の粘度が上昇し、110℃を超えると分子量の低下が認められる。
【0036】
(2)第二段階
第二段階の溶媒除去工程では、溶媒濃度が好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%となるまで濃縮する。溶媒濃度が5重量%未満となると、高動力の撹拌機でも撹拌できず、取り出しが不可能となるおそれがあるだけでなく、機械的シェアーによって分子量の低下が生じることとなる。さらに樹脂の流動性がなくなるため、取り出しの際に形状を任意に変化させることが困難となる。
【0037】
第二段階で使用する装置は、取り出し機能を備えた溶媒除去装置であり、取り出し機能とは装置内容物を送り出すスクリュー等の機構や上部又は側部が大きく開放する機構である。具体例としては、(a)装置に送り出し機構を備えているものとして、二軸型押出機(KRC)ニーダー、セルフクリーニング式リアクター(SCR)、一軸押出機、(b)それ自体が送り出し機能を備えているものとして、真空ドラムドライヤー、真空ベルト乾燥機、(c)上部及び/又は側面に開放部を備えており、開放部から取り出しできるものとして、プロシェアーミキサー等が挙げられ、用いる装置によって、塊状(ブロック状)、棒状又はひも状(ストランド状)、板状(シート状)等の様々な形状にすることができる。使用条件は、装置に応じた条件を設定する。
【0038】
この段階での溶媒除去温度は、40〜110℃が好ましく、50〜90℃がより好ましい。
【0039】
3.粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂のペレット化(粒状化)工程
上記工程を経て、装置に応じた形状で取り出された粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を最終製品としてペレット状(粒状)にする。その方法としては、塊状物を押出機等で一旦シート状やひも状等に成形しておき、この成型物を冷却して固化させてからペレット状(粒状)に加工する方法が好ましいが、塊状物から直接ペレット状(粒状)に成形することもできる。
【0040】
シート状やひも状等に成形してからペレット化(粒状化)するには、前述した溶媒除去装置の取り出し口(樹脂排出口)にポリマーポンプやギヤポンプ等を取り付けて、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を溶媒除去装置から抜き取りつつ、更に連結した押出機で押し出す方法や、押出機の代わりにTダイやロール等を用いる方法が好ましく用いられる。
【0041】
押出機としては、一軸型押出機、二軸型押出機、セルフクリーニング式リアクター(SCR)等が挙げられるが、一定の厚さのシート状又は板状に押し出すためには、押出機にTダイ又はノズルを装着して押し出すことが好ましい。
【0042】
押し出された成形物をペレット化するには、機械的劣化防止のため、低速回転で高動力を備えた装置を使用するのが好ましく、例としては成形ランナー用粉砕機、ペレタイザー(ストランドカット式、ホットカット式、シートカット式等)等が挙げられる。
【0043】
また、ペレット状や微細粒子状に押し出すにはドロップフォーマーを使用するのが好ましい。
【0044】
押出機を使用する際の温度は好ましくは40〜110℃、より好ましくは50〜80℃、真空度は好ましくは1〜25kPa、より好ましくは5〜15kPaである。
【0045】
なお、ペレット化(粒状化)の際には、装置への樹脂の融着防止のため、事前に樹脂を冷媒で冷却固化し、粉砕機等に冷媒と共に投入し、切断又は粉砕することが好ましい。この時、冷媒は出口の樹脂温度が好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように調整して導入する。冷媒の例としては、液体窒素、二酸化炭素、窒素ガス等が挙げられる。また、酸化防止のため、不活性ガスの雰囲気下でペレット化することが好ましい。
【0046】
4.粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の溶媒除去・乾燥工程
上記ペレット化(粒状化)工程の後、ペレット状(粒状)の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂に残存する溶媒や水分を減圧下に置くことにより除去する。用いる装置としては、減圧可能で密閉できる容器を備えた装置であればよく、形状、材質等は特に限定されないが、容器の上部より減圧可能で、下部より不活性ガスを導入できるようになされたものが好適に使用できる。温度調節機能は特に必要ではないが、装備されていてもよい。装置の例としては、プロシェアーミキサーやナウターミキサー、真空乾燥機、真空棚段乾燥機等が挙げられる。
【0047】
例えば、プロシェアーミキサーを使用して溶媒除去・乾燥を行う場合、温度は樹脂の溶融、劣化がないように温度を0〜30℃の範囲に保ちながら、圧力を好ましくは1〜10kPa、より好ましくは3〜6kPaの範囲に減圧し、残留溶媒・水分を除去する。このとき、必要に応じて容器の下部から不活性ガスを導入する。
【0048】
不活性ガスの例としては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられ、導入ガスは必要に応じて好適温度に加温する。
【0049】
5.粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の包装方法
上記によりペレット化(粒状化)された粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂は、乾燥後、水分や酸素に曝されることにより吸湿や性能劣化を起こすので、これを防止するために、容器への充填前に、減圧可能な混合槽を使用して不活性ガスを導入し、水分ないしは湿った空気を置換することが好ましい。不活性ガスとしては上記と同様、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が用いられる。必要であれば混合槽内を減圧にして置換速度を上げることができる。また、上記混合槽から包装容器までの充填ラインに乾燥空気又は窒素等の不活性ガスを流すことが好ましい。
【0050】
製品の包装容器としては、空気の混入を防ぐためにガス透過性及び透湿性の低い材質からなる袋が好ましく、例えば、内面が樹脂コーティングされたアルミラミネート袋が好適に用いられる。袋は、充填直前に窒素等の不活性ガスを流し、予め入っている空気を追い出すことが好ましい。必要に応じて、製品充填後にもノズル等を用いて不活性ガスを袋の内部に導入してから袋の開口部を密閉する。
【0051】
以上の各工程を経ることにより、熱的及び機械的劣化による分子量低下のない、安定した物性の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂が得られる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
なお、以下の合成例及び実施例中の共重合体の分子量(重量平均分子量)の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により行った。測定条件は以下の通りである。
【0054】
カラム:Guard column PWXL + G5000PWXL
+ G4000PWXL + G3000PWXL
+ G2500PWXL(以上、東ソー(株)製)
カラムサイズ:7.8mmφ×30cm
カラム温度:40℃
溶離液:アセトニトリル/0.08M−酢酸ナトリウム溶液=50/50(溶量比)
流速:1.0ml/min
検出器:示差屈折検出器
標準物質:東ソー(株)製ポリエチレンオキシド、分子量2,000〜900,000
【0055】
[合成例1]
撹拌翼を備えた100リットルの加圧反応容器に脱水トルエン35kg、触媒としてのナトリウムメチラート5gを仕込み、90℃まで加温後、圧力200kPa以下、温度120℃以下になるよう調整した。樹脂原料としてのエチレンオキシド及び1,2−ブチレンオキシドを90:10の割合(重量比)で合計量15kg仕込み、反応させて共重合体溶液1を得た。共重合体の分子量を調べたところ、113000であった。
【0056】
[実施例1]
合成例1により得られた共重合体溶液1の50kgを撹拌翼と分散翼を備えた200リットルのコンビミックスに仕込み、トルエン100kgを添加して、液体温度60℃に調整した。続けて、リチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製、リチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末=95:5(重量比、以下同様))35kgを添加し、30分間撹拌し、均一な分散溶液を調整した後、減圧によりトルエン含有量が40重量%になるまでトルエンを留去し、濃縮溶液を得た。得られた濃縮溶液をプロシェアーミキサーへ移し、トルエン含有量が15重量%になるまでトルエンをさらに減圧留去した。得られた濃縮物は装置上部から直接塊状にて取り出した。取り出した塊状物を炭酸ガスにて10℃以下まで冷却し、成形ランナー用粉砕機にて粒状に粉砕した後、ナウターミキサーに移し、温度25℃、圧力4kPaにて減圧乾燥した。乾燥後の粒状物は、窒素雰囲気下でアルミラミネート袋(内面ポリエチレン樹脂コーティング、以下同様)に移し、ヒートシールにより密閉した。
【0057】
濃縮物の濃縮直後(ペレット化又は粒状化前、以下同様)の分子量、粒状物のヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0058】
[実施例2]
合成例1により得られた共重合体溶液1の50kgをマックスブレンド翼を備えた200リットルの反応器に仕込み、トルエン100kgを添加して、液体温度80℃に調整した。続けて、リチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製)45kgを添加し、60分間撹拌し、均一な分散溶液を調整した後、減圧によりトルエン含有量が50重量%になるまでトルエンを留去し、濃縮溶液を得た。この濃縮溶液をセルフクリーニング式リアクター(SCR)の反応器へ移送し、トルエン含有量が20重量%になった溶融物を取り出し、さらに真空ドラムドライヤーへ導入して残留トルエンを留去したフレーク状成形物を得た。得られたフレーク状成形物を窒素ガスにて冷却しながら、ペレタイザーでペレット状に裁断した。得られたペレットを真空棚段乾燥機へ移し、温度30℃、圧力6kPaにて減圧乾燥した。乾燥後のペレットは、窒素雰囲気下でアルミラミネート袋に移し、ヒートシールにより密閉した。
【0059】
濃縮物の濃縮直後の分子量、ペレットのヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
合成例1により得られた共重合体溶液1の50kgをヘリカルブレンド翼を備えた350リットルの反応器に仕込み、トルエン150kgを添加して、液体温度55℃に調整した。続けて、リチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製)22.5kgを添加し、15分間撹拌し、均一な分散溶液を調整した後、減圧によりトルエン含有量が65重量%になるまでトルエンを留去し、濃縮溶液を得た。この濃縮溶液を、コーティング用ノズルから真空ベルトクーラーのベルト上へ移送し、減圧にて乾燥しながら、トルエン含有量が5重量%のシート状成形物を得た。得られたシート状成形物を、窒素ガスにて冷却しながらペレタイザーでペレット状に裁断した。得られたペレットを真空棚段乾燥機へ移し、温度30℃、圧力6kPaにて減圧乾燥した。乾燥後のペレットは、窒素雰囲気下でアルミラミネート袋に移し、ヒートシールにより密閉した。
【0061】
濃縮物の濃縮直後の分子量、ペレットのヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0062】
[実施例4]
合成例1により得られた共重合体溶液1の50kgをヘリカルブレンド翼を備えた350リットルの反応器に仕込み、トルエン150kgを添加して、液体温度55℃に調整した。続けて、リチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製)22.5kgを添加し、15分間撹拌し、均一な分散溶液を調整した後、減圧によりトルエン含有量が60重量%になるまでトルエンを留去し、濃縮溶液を得た。この濃縮溶液を続けて減圧ラインを装備した一軸押出機に導入し、減圧下でトルエンを留去しながらノズルより押出すことでトルエン含有量10%のストランド状成形物を得た。得られたストランド状成形物を炭酸ガスにて5℃に冷却しながら、ペレタイザー(ストランドカット式)にてカットし、ペレットを得た。得られたペレットは実施例1と同様にして乾燥後、アルゴンガスを密閉したグローブボックス中でアルミラミネート袋に移し、ヒートシールして密閉した。
【0063】
濃縮物の濃縮直後の分子量、ペレットのヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0064】
[実施例5]
合成例1により得られた共重合体溶液1の1kgをヘリカルブレンド翼を備えた10リットルの反応器に仕込み、キシレン1kgを添加して、液体温度60℃に調整した。続けて、リチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製)3.5kgを添加し、窒素雰囲気下で60分間撹拌し、均一な分散溶液を調整した後、減圧によりトルエン含有量が15重量%になるまでトルエンを留去し、さらに撹拌を停止してトルエン含有量が2%になるまで濃縮した。濃縮物は反応器上部から直接塊状で取り出した。取り出した塊状物は炭酸ガスにて10℃以下まで冷却し、成形ランナー用粉砕機にて粒状に粉砕した後、ペレタイザー(ホットカット式)に導入し、ペレットを得た。得られたペレットをナウターミキサーに移し、窒素ガスを導入しながら温度25℃、圧力8kPaにて減圧乾燥した。乾燥後の粒状物を窒化雰囲気下でアルミラミネート袋に移し、ヒートシールにより密閉した。
【0065】
濃縮物の濃縮直後の分子量、ペレットのヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
合成例1により得られた共重合体溶液1の10kgを撹拌翼と分散翼を備えた200リットルのコンビミックスに仕込み、トルエン100kgを添加して、液温を60℃に調整した。続けてリチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製)40kgを添加し、60分間撹拌した後、減圧によりトルエン含有量が15%になるまで濃縮したが、高粘度のため途中で撹拌不能となり、コンビミックス底部からの取り出しが困難となった。
【0067】
[比較例2]
合成例1により得られた共重合体溶液1の50kgを撹拌翼と分散翼を備えた200リットルのコンビミックスに仕込み、トルエン100kgを添加して、液温を60℃に調整した。続けてリチウム化酸化バナジウム/カーボン粉末混合物(US Avestor LLC製)35kgを添加し、30分間撹拌し、均一な分散溶液を調製した後、減圧によりトルエン含有量が40重量%になるまでトルエンを留去し、濃縮溶液を得た。さらに、濃縮溶液をプロシェアーミキサーに移し、トルエン含有量が3重量%になるまで撹拌しながらトルエンをさらに減圧留去した。得られた濃縮物を温度60℃の状態で装置上部から塊状で直接取り出した。以下の操作は実施例1と同様に行った。
【0068】
濃縮物の濃縮直後の分子量、ペレットのヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
実施例1において、成形ランナー用粉砕機で、気温27℃、相対湿度82%の環境下で粉砕を行った。粉砕開始から20分経過後に、粉砕機内部で塊状物が溶融・融着し、粉砕継続が不可能となった。
【0070】
[比較例4]
実施例2において、裁断して得られたトルエン含有量5重量%のペレットを真空棚段乾燥機に移し、温度35℃、圧力30kPaにて減圧乾燥した。5時間乾燥後のトルエン含有量は2重量%であり、未乾燥状態であった。続けて、このペレットを、気温27℃、相対湿度82%の空気環境下でポリエチレン製袋に移し、ヒートシールにより密閉した。
【0071】
濃縮物の濃縮直後の分子量、ペレットのヒートシール直後、1ヶ月保管後の、それぞれの分子量を表1に示す。
【0072】
[比較例5]
実施例2において、セルフクリーニング式リアクターの反応器の減圧度を50kPa、温度を80℃に変更した以外は同様にして、樹脂溶液を濃縮した。真空ドラムドライヤーから取り出した組成物は、溶媒濃度35重量%であり、流動性を有し、固体化できないため、シートを成形できなかった。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法により得られた粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂は、例えばリチウム二次電池の正極材料等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキシド系共重合体樹脂に粉体を混合して分散させた、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法であって、
エチレンオキシド80〜95重量%と、このエチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物5〜20重量%とからなるエチレンオキシド系共重合体樹脂と溶媒からなるエチレンオキシド系共重合体樹脂溶液に、電気化学的活性物質を含有してなる粉体を混合して分散させて、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液を調製する工程と、
前記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から溶媒を除去して流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を得る工程と、
前記流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂をペレット化又は粒状化する工程と、
前記ペレット化又は粒状化された粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を乾燥する工程と
を含むことを特徴とする粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記粉体として有機物粉体が用いられることを特徴とする、請求項1に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記粉体として無機物粉体が用いられることを特徴とする、請求項1に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記電気化学的活性物質が、遷移金属酸化物系化合物、リン酸塩系化合物、カーボン、グラファイト及びカーボン−グラファイトからなる群から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記エチレンオキシドと共重合可能なオキシラン化合物がブチレンオキシドであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液中に粉体を混合して分散させる工程で、低粘度で混合することにより前記樹脂の機械的劣化による分子量低下を防止することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液から溶媒を除去して流動性を有する粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を得る工程が、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂溶液を予備濃縮する第一段階と、取り出し機能を備えた撹拌機を用いて低温で撹拌することによりさらに溶媒除去を行う第二段階からなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂をペレット化又は粒状化する工程が、ペレット化又は粒状化される樹脂を予備冷却し、次いで冷媒によって冷却しながらペレット化又は粒状化する段階を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を乾燥する工程が、減圧下で不活性ガスを導入しながら乾燥を行う段階を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により得られた粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂を、吸湿及び酸素による性能劣化を防止するために不活性ガス雰囲気下で包装容器に充填することを特徴とする、粉体含有エチレンオキシド系共重合体樹脂の包装方法。

【公開番号】特開2007−186533(P2007−186533A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257709(P2004−257709)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(503431644)アヴェスター リミティッド パートナーシップ (12)
【Fターム(参考)】