説明

粉体噴射ノズル

【課題】断面スリット状の噴射口を備えるものにあって、噴射口から噴射される粉体のスリットの長手方向に関する速度を均一にし、簡単な構成で済ませる。
【解決手段】粉体噴射ノズル1を構成するボディ3の先端部に断面スリット状の噴射口7を設け、ボディ3の基端側に流体が供給される流体供給口12を設け、流体供給口12から噴射口7に向けて流体流路13を形成する。流体流路13の途中部の流体供給口12と、粉体を流体と混合する混合部15との間に、緩衝部14を設ける。緩衝部14を、流体供給口12から上方に向けて広がる拡張部14aと、拡張部14aの前端部から前方に向けて次第に断面積が減少し、前端が混合部15とつながる縮小部14bとから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディの先端部に設けられた断面スリット状の噴射口から、粉体を噴射する粉体噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば金属やガラス等の被加工物に粉体を高速で吹付けて、被加工物の表面に膜を形成させるパウダージェットデポジションと称される方法が提案されている。この方法を行うための装置(粉体噴射ノズル)は、供給エア(圧縮空気)により粉体を空気と混合して導管内を搬送し、更に、より高圧な加速エアにより加速してノズルの先端(噴射口)から噴射させるように構成されている。この場合、ノズル(噴射口)は、例えば内径がφ1mm程度の円形をなしている。
【0003】
しかし、このような円形の噴射口を有するノズル(丸吹ノズル)では、比較的大きな面積の被加工物に対して被膜を形成する場合に、作業効率が悪く、又、形成された被膜の厚みの均一性に劣る不具合がある。そこで、上記噴射口をスリット状とすることが考えられている。
【0004】
特許文献1には、用途は異なる(マイクロアブレイシブジェット加工)ものの、ノズルの噴射口を横長なスリット状とした粉体噴射装置が開示されている。図10に、この粉体噴射装置101の構成を示す。この粉体噴射装置101は、粉体噴射ノズル102と、粉体噴射ノズル102に粉体を供給する粉体タンク103と、エア供給機構とを備えて構成されている。
【0005】
粉体噴射ノズル102には、断面が横長なスリット状をなす流体流路104が、図で左右に延びて形成され、その先端が噴射口105とされている。前記流体流路104の基端部には、供給エアを導入するための断面円形の導入口106が設けられている。この導入口106には、エアホースが接続され、エア供給源107からの供給エアが圧力調整装置108及び供給エア制御装置109を介して供給されるようになっている。
【0006】
前記流体流路104の途中部には、断面が横長なスリット状をなす粉体吸入口110が設けられ、前記粉体タンク103の出口部が接続されている。この粉体タンク103内には、エア供給源107からのタンク加圧エアが圧力調整装置111及びタンク加圧エア制御装置112を介して供給され、内部の粉体が加圧される構成となっている。
【0007】
前記流体流路104の前記粉体吸入口110の下流側には、加速エアを導入するための断面円形の加速エア導入口113が形成されている。この加速エア導入口113には、エアホースが接続され、エア供給源107からの加速エアが圧力調整装置114及び加速エア制御装置115を介して加速エア導入口113に供給されるようになっている。
【0008】
そして、前記流体流路104の粉体吸入口110のすぐ上流部分には、流体流路104のスリット幅(流路断面積)を減少させるための調整部材116が設けられている。
これにより、流体流路104に、供給エアが供給されると、粉体吸入口110部分が負圧となり、粉体タンク103内の粉体が、粉体吸入口110から流体流路104内に吸込まれる。そして、粉体とエアとの混合物が、加速エア導入口113から供給される加速エアによって加速されて断面スリット状の噴射口105から高速で噴射されるようになっている。
【特許文献1】特開2001−30173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の粉体噴射装置101では、断面円形の導入口106から断面スリット状の流体流路104に供給エアを供給し、又、同様に断面円形の加速エア導入口113から流体流路104に加速エアを供給しているため、流体流路104内のスリットの長手方向(横長方向)に関して、エアの流速にムラ(不均一)が生じてしまう。このため、噴射口105から噴射される粉体の分布に長手方向にばらつきが生じ、被加工物に形成される膜の厚さが不均一になってしまう不具合がある。
【0010】
又、上記構成では、供給エア、タンク加圧エア及び加速エアの3系統のエアを用いているため、エア供給機構の構造が複雑化し、コストアップや大型化を招いてしまう。
尚、粉体タンク103内の粉体をタンク加圧エアにより加圧する構成のため、粉体にいわゆる圧縮塊が生じてしまう不具合もあった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、断面スリット状の噴射口を備えるものにあって、噴射口から噴射される粉体のスリットの長手方向に関する速度を均一にでき、又、簡単な構成で済ませることができる粉体噴射ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の粉体噴射ノズルは、ボディの先端部に設けられた断面スリット状の噴射口から、粉体を噴射する粉体噴射ノズルであって、前記ボディの基端側に設けられ搬送用の流体が供給される流体供給口と、前記ボディ内に前記流体供給口から前記噴射口に向けて延びるように形成された流体流路と、この流体流路の途中部に設けられ前記粉体を前記流体と混合するための混合部と、前記ボディ内に前記流体流路の上側に位置して形成され、断面スリット状をなし、先端が前記混合部において開口する粉体導入路と、前記流体流路の前記流体供給口と前記混合部との間に位置して設けられ、該流体供給口側から混合部側に向けて段階的又は連続的に断面積が減少される緩衝部とを備えると共に、前記流体流路の前記混合部から前記噴射口までの領域は、該噴射口と同等の断面スリット状をなし前記粉体が加速される加速領域とされ、該加速領域の入口部の流路断面積が、前記流体流路の前記混合部の入口部の流体流路の断面積よりも小さく構成されていることを特徴としている。
【0013】
請求項2記載の粉体噴射ノズルは、前記緩衝部の入口部の断面積が、前記流体供給口の断面積よりも大きいことを特徴としている。
請求項3記載の粉体噴射ノズルは、前記噴射口及び加速領域の内壁は、前記ボディとは別部材から構成され、該ボディに対して交換可能に取付けられていることを特徴としている。
請求項4記載の粉体噴射ノズルは、前記粉体導入路のスリット幅が、調整可能に構成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項5記載の粉体噴射ノズルは、前記ボディの基端側に複数個の流体供給口が形成され、それら複数個の流体供給口が、前記ボディ内に形成された共通の一つの緩衝部に連通されていることを特徴としている。
請求項6記載の粉体噴射ノズルは、前記粉体導入路の先端部分は、前記流体流路の流体の流れ方向に対して鋭角的に傾斜して延びながら、前記混合部に連通するように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の粉体噴射ノズルによれば、流体供給口から供給される流体が、緩衝部で一時的に貯留された後に混合部に流れる構成であるので、流体供給口の断面が円形であっても、緩衝部を通されて流体流路の断面スリット状の部分に供給される流体を、スリットの長手方向に関して均一な流速とすることができる。ひいては、噴射口から噴射される粉体の速度をスリットの長手方向に関して均一にすることができる。
【0016】
又、加速領域の入口部の流路断面積を、流体流路の混合部の入口部の流体流路の断面積よりも小さく構成したので、加速領域において流体の流速を高めることができる。この場合、本発明者の試作、研究によれば、加速エアを用いなくとも、粉体の噴射速度を十分に高速にできることが明らかとなった。この結果、流体を供給するための機構を、簡単な構成で済ませることができる。
【0017】
請求項2記載の粉体噴射ノズルによれば、緩衝部の入口部の断面積を、流体供給口の断面積よりも大きくしたので、流体供給口から供給された流体を、緩衝部で一旦拡げるようにすることができ、流体を、スリットの長手方向に関してより均一な流速とすることができる。
【0018】
ところで、この種の粉体噴射ノズルにあっては、流体流路の先端側(噴射口及び加速領域)において、粉体が高速で通過するため、その内壁の摩耗が激しくなる事情がある。請求項3記載の粉体噴射ノズルによれば、噴射口及び加速領域の内壁の摩耗があったときに、この噴射口及び加速領域の内壁の部分を構成する部材のみを交換することにより対応することができ、安価に済ませることができる。
【0019】
請求項4記載の粉体噴射ノズルによれば、粉体導入路のスリット幅を、調整することにより、粉体の噴出量を容易に調整することができる。
請求項5記載の粉体噴射ノズルによれば、複数個の流体供給口が、ボディ内に形成された共通の一つの緩衝部に連通される構成なので、流体の供給量を多くして、流路断面積を大きくすることが可能となり、ひいては、噴射口のスリットの長手方向の寸法を大きくして、多量の粉体を長手方向に均一に噴射することができる。
【0020】
請求項6記載の粉体噴射ノズルによれば、粉体導入路の先端部分が流体流路の流体の流れ方向に対して鋭角的に傾斜して延びながら、混合部に連通するように構成されているので、粉体をスムーズに流体流路内に供給することができる。ちなみに、本発明者の試作、研究によれば、この際の傾斜角度は、15度〜60度が望ましく、より望ましくは、20度〜40度である。そして、これにより、粉体を加圧しなくとも、粉体を詰まりなく混合部に供給することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明をパウダージェットデポジション装置(粉体噴射装置)の粉体噴射ノズルに適用した第1の実施形態について、図1乃至図5を参照しながら説明する。このパウダージェットデポジション装置は、被加工物(例えばアルミ箔)に、粉体(例えばカーボン粉体)を高速で吹付けて、被加工物の表面に膜(カーボン膜)を形成するといった用途に使用される。尚、方向を示す必要がある場合には、以下、粉体が噴射される側を前方として説明することとする。
【0022】
詳しくは図示はしないが、パウダージェットデポジション装置は、本実施形態に係る粉体噴射ノズル1、この粉体噴射ノズル1に接続される粉体供給用のホッパー2(図2等参照)、搬送用の流体、この場合圧縮空気(圧縮エア)を供給するための図示しないエア供給機構、被加工物に対し前記粉体噴射ノズル1を相対的に移動させるための移動機構等から構成される。
【0023】
前記粉体噴射ノズル1の外形を構成するボディ3は、例えばSUSからなり、ブロック状に構成され、より詳しくは、図1,図2に示すように、上部ボディパーツ4と下部ボディパーツ5とを上下に組合せて構成されている。これら上部ボディパーツ4及び下部ボディパーツ5は、複数本のボルト6(図3,図4で2本のみを図示し、その他のボルトは省略する)で互い同士固定されている。
【0024】
ボディ3の前面部、具体的には、上部ボディパーツ4及び下部ボディパーツ5の接する部分のうちの前端部分は、前方へ突出した形態とされ、その先端部に、図1乃至図4に示すように、粉体を噴射する噴射口7が設けられている。噴射口7の断面は、横長のスリット状をなしている。このとき、後述するように、噴射口7部分は、ボディ3とは別部材のノズル部材8から構成されている。尚、本実施形態では、前記噴射口7の横幅寸法は、例えば10mmとされている。
【0025】
前記上部ボディパーツ4は、図2に示すように、上面に緩やかな傾斜面を有する断面略台形状をなし、その上面に開口するように、前記ホッパー2が連結される連結穴9が形成されている。この連結穴9の内周面には、雌ねじが形成されている。そして、この連結穴9の底部から、上部ボディパーツ4の下面に向けて、粉体導入路10が形成されている。粉体導入路10は、断面スリット状をなし、図1に示すように、角度θで傾斜するように形成されている。
【0026】
前記下部ボディパーツ5は、断面略四角形のブロック状をなし、その後端部には、図5にも示すように、1個の円形のホース接続口11が形成されている。このホース接続口11の内周面には、雌ねじが形成されており、このホース接続口11に前記エア供給機構のエアホース(図示せず)が接続されるようになっている。前記エア供給機構は、図示はしないが、コンプレッサー等のエア供給源及び圧力調整装置等を備えて構成されている。このホース接続口11の底部には、小径な円形の1個の流体供給口12が設けられ、エア供給機構からの圧縮空気が、エアホースを介して流体供給口12に供給されるようになっている。
【0027】
そして、前記ボディ3内、即ち上部ボディパーツ4と下部ボディパーツ5と間には、図1に示すように、前記流体供給口12から噴射口7に向けて延びるように流体流路13が形成されている。この流体流路13は、緩衝部14と、断面が横長なスリット状の混合部15と、加速領域16とを有して構成されている。この流体流路13(緩衝部14、混合部15及び加速領域16)は、全体として横幅寸法が同等となるように形成されている。
【0028】
前記緩衝部14は、図1,図2に示すように、流体供給口12と混合部15との間に設けられた空間である。この緩衝部14は、流体供給口12から上方に向けて広がる拡張部14aと、この拡張部14aの前端部上部から前方に向けて次第に(連続的に)断面積が減少し、前端が混合部15につながる縮小部14bとから構成されている。このとき、図1に示すように、緩衝部14の入口部の断面積、本実施形態では、拡張部14aの断面積Sが、流体供給口12の断面積Sよりも大きくなるように形成されている。尚、縮小部14bは、断面積が段階的に減少する構成でも良い。
【0029】
前記混合部15は、緩衝部14を通って供給される圧縮空気と前記粉体とを混合する部位であり、この混合部15の上側において前記粉体導入路10が開口している。この粉体導入路10のスリットの横長方向の寸法は、流体流路13のスリットの横長方向の寸法と一致している。
【0030】
ここで、粉体導入路10の先端部分は、流体流路13の圧縮空気の流れ方向に対して鋭角的な角度θで混合部15に連通するように構成されている。本実施形態では、粉体導入路10の角度θは、例えば30度とされている。このときの角度θは、15度〜60度とすることが望ましく、より望ましくは20度〜40度である。
【0031】
このとき、図2等で示すように、上部ボディパーツ4の上部には、粉体を貯留するホッパー2が設けられるようになっており、このホッパー2の下端の出口部は、管状の継手部材17を介して、前記連結穴9に連結されている。又、ホッパー2の上端は、大気に連通されている。これにて、ホッパー2内の粉体が継手部材17を介して粉体導入路10に供給されるようになっている。
【0032】
前記加速領域16は、図1に示すように、前記混合部15から前記噴射口7までの範囲においてスリット幅(高さ寸法)をより小さくした断面スリット状に構成されている。加速領域16の入口部16aの流路断面積Sは、混合部15の入口部15aの断面積Sよりも小さく構成されている。
【0033】
このとき、前記噴射口7及び前記加速領域16の内壁は、前記ノズル部材8から構成され、ボディ3に対して交換可能に取付けられている。このノズル部材8は、例えばSUSからなり、図4に示すように、スリットの上壁面を構成するノズル上部8aと、スリットの下壁面を構成するノズル下部8bと、スリットの左壁面を構成するノズル左部8cと、スリットの右壁面を構成するノズル右部8dとを一体的に有して構成されている。
尚、図1,図2及び図5に示すように、上部ボディパーツ4と下部ボディパーツ5との間の隙間部分には、気密性を確保するためのパッキン18が挟まれている(一部のみ図示)。
【0034】
次に、上記構成の作用について図1,図2を参照して説明する。
粉体噴射ノズル1のボディ3にホッパー2が取付けられた状態では、ホッパー2内の粉体が、自重により連結穴9部分まで移動される。
【0035】
そして、圧縮空気が流体供給口12から供給されると、その圧縮空気は、緩衝部14の拡張部14aに供給され、拡張部14aで一旦拡げられた状態で一時的に貯留されるようになる。その後、圧縮空気は、圧縮空気の流れの妨げとならないように連続的に流れ方向に対し垂直方向の高さを小さくした縮小部14bに流れる。そして、縮小部14bを移動する際に、次第に絞られるようにして、流速を上げながら混合部15に流れる。これにより、流体供給口12が小径な円形であっても、緩衝部14を通過される際に、圧縮空気はスリットの横長方向に関して均一な流速となって混合部15に流れるようになっている。
【0036】
次に、圧縮空気が混合部15を通過するとき、負圧が生じて、粉体導入路10を介し、連結穴9の終端部まで到達している粉体が吸込まれ、粉体は、混合部15に流れる圧縮空気と混合される。このとき、粉体導入路10の断面を、長辺が圧縮空気の流路断面の長辺と等しくした長方形(スリット状)にすることにより、混合部15の各点での粉体の吸込み量は等しく、横幅方向に対し均一な状態で流れる圧縮空気に、均一な量の粉体が混合される。又、粉体導入路10の先端部分が流体流路13の流体の流れ方向に対して、鋭角的に、即ち30度の角度θに傾斜して延びながら、混合部15に連通するように構成されているので、粉体がスムーズに流体流路13内の混合部15に供給される。尚、この角度θについては、本発明者の試作、研究により、明らかにしたものである。
【0037】
圧縮空気が混合部15を通過して加速領域16に到達すると、加速領域16の入口部16aの流路断面積Sが、混合部15の入口部15aの断面積Sよりも小さく構成されているので、加速領域16において、粉体を搬送する圧縮空気の流速が十分に高まる。又、混合部15から加速領域16(噴射口7)まで、スリットの横長方向の寸法は一定なので、スリット状の横長方向に関して流速が均一となる。そのため、粉体が、噴射口7から高速で且つ横長方向に均一な速度で噴射される。このことについて、本発明者は、試作、研究を行い、上記構成の粉体噴射ノズル1の構成では加速エアを用いなくとも、粉体の噴射速度を十分に高速にできることを明らかにした。
【0038】
粉体噴射ノズル1から噴射された粉体は、被加工物の表面に衝突して付着し、被加工物の表面に粉体の材料(例えばカーボン)の被膜が形成されるのである。このとき、被加工物に対し、粉体噴射ノズル1を例えば上下方向及び左右方向に相対的に移動させながら横長スリット状の噴射口7から粉体の噴射が行われ、これにより、被加工物の広い面積の領域に、短時間で効率良く被膜を形成することができ、しかも、膜厚を均一とすることができるものである。
【0039】
次に本実施形態の効果について説明する。
本実施形態によれば、緩衝部14を設けたことにより、円形の流体供給口12から、流体流路13の断面スリット状の部分に供給される圧縮空気を、スリットの横長方向に関して均一な流速とすることができ、ひいては、噴射口7から噴射される粉体の速度をスリットの横長方向に関して均一にすることができる。
加速エアを用いることなく、加速領域16を通過する圧縮空気の流速を高めることができ、噴射口7から粉体を十分に高速で噴射することができる。この結果、加速エアが不要となって、エア供給機構の構成を、簡単に済ませることができる。
【0040】
ところで、この種の粉体噴射ノズル1にあっては、流体流路13の先端側(噴射口7及び加速領域16)において、粉体が高速で通過するため、その内壁の摩耗が激しくなる事情があるが、本実施形態の粉体噴射ノズル1では、噴射口7及び加速領域16の内壁の摩耗があったときに、上部ボディパーツ4及び下部ボディパーツ5をすべて交換することなく、噴射口7及び加速領域16の内壁の部分を構成するノズル部材8のみを交換することにより対応することができるので、上部ボディパーツ4及び下部ボディパーツ5を交換する場合に比べて安価に済ませることができる。
【0041】
粉体導入路10の先端部分が、流体流路13の流体の流れ方向に対して、鋭角的に、即ち30度の角度θに傾斜して延びながら、混合部15に連通するように構成したので、粉体をスムーズに混合部15に供給することができる。この場合、粉体(ホッパー2内)を加圧しなくとも、粉体を詰まりなく混合部15に供給することができ、圧縮塊が生ずることを防止できると共に、エア供給機構の構成を簡単に済ませることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図6乃至図9を参照しながら説明する。尚、上述した第1の実施形態と共通する部分については詳しい説明を省略し、異なる部分について説明する。本実施形態に係るパウダージェットデポジション装置の粉体噴射ノズル21は、第1の実施形態の粉体噴射ノズル1よりも特に横幅方向に大型のものとされ、多量の粉体を均一に噴射するように構成されている。
【0043】
この粉体噴射ノズル21の外形を構成するボディ22は、図6,図7に示すように、該ボディ22の上部を構成する前部ボディパーツ23と後部ボディパーツ24とを前後に配置すると共に、それらの下部に下部ボディパーツ25を配置して構成されている。詳しく図示はしないが、これら前部ボディパーツ23、後部ボディパーツ24及び下部ボディパーツ25は、例えばSUSからなり、複数本のボルト6(図8等で一部のみ図示)で互い同士固定されている。
【0044】
ボディ22の前面部、具体的には前部ボディパーツ23及び下部ボディパーツ25の接する部分のうちの前端部分は、前方へ突出した形態とされ、その先端部に、図6乃至図8に示すように、粉体を噴射する噴射口26が設けられている。噴射口26の断面は、第1の実施形態の噴射口7よりも横長のスリット状をなしている。このとき、後述するように、噴射口26部分は、ボディ22とは別部材のノズル部材27から構成されている。尚、本実施形態では、前記噴射口26の横幅寸法は、例えば90mmとされている。
【0045】
図7に示すように、前記ボディ22の上部には、前記前部ボディパーツ23と後部ボディパーツ24とを組合せることによって、粉体が収容される貯留部28が形成されると共に、その下部に連通するように、角度θ(図6参照)で傾斜する粉体導入路29が形成されるようになっている。
【0046】
図6,図7に示すように、前記前部ボディパーツ23は、ボディ22の上部前面を構成する前壁部と、その前壁部の左右両側縁部から後方に延びる左右の側壁部とを有した上面コ字状をなすように構成されている。このとき、前壁部の後面の下端部は、前記粉体導入路29を形成する傾斜面23aとされている。
【0047】
前記後部ボディパーツ24は、直角三角形による三角柱のブロック状をなし、その傾斜面24aを前向きにして、前記前部ボディパーツ23の左右の両側壁部間に配置されている。本実施形態では、後部ボディパーツ24は、前部ボディパーツ23(及び下部ボディパーツ25)に対し前後方向(矢印A及びB方向)に位置調整可能に取付けられるようになっている。これにより、粉体導入路29のスリット幅が調整可能に構成されている。
【0048】
これにて、前部ボディパーツ23の前壁部の後面と後部ボディパーツ24の傾斜面24aとの間に、貯留部28が形成されると共に、前部ボディパーツ23の傾斜面23aと後部ボディパーツ24の傾斜面24aとの間に、粉体導入路29が形成される。この粉体導入路29は、断面横長(横幅寸法が90mm)のスリット状をなし、角度θで傾斜するように形成されている。尚、角度θは、15度〜60度の範囲、例えば60度とされている。又、ボディ22の上部には、図示しないホッパーが接続され、前記貯留部28に粉体が供給されるようになっている。
【0049】
前記下部ボディパーツ25は、後部ボディパーツ24よりも後方まで延びる断面略四角形のブロック状をなしている。下部ボディパーツ25の後端部には、図9に示すように、複数個例えば3個の円形のホース接続口11が横方向に並んで形成されている。各ホース接続口11には、エア供給機構のエアホース(図示せず)が夫々接続されるようになっており、図6,図7に示すように、これら各ホース接続口11の底部(前端部)が、流体供給口12とされている。そして、ボディ22内には、前記流体供給口12から前記噴射口26に向けて延びる流体流路30が次のように形成されている。
【0050】
即ち、本実施形態では、流体流路30は、第1の緩衝部31、連通路32、第2の緩衝部33、混合部34及び加速領域35を有して構成されている。この流体流路30は、全体として横幅寸法が同等(この場合90mm)となるように形成されている。そのうち第1の緩衝部31は、下部ボディパーツ25内に、横幅が広い空間として形成され、3個の流体供給口12から流入される圧縮空気が合流されるようになっている。つまり、3個の流体供給口12から流入される圧縮空気が共通の一つの第1の緩衝部31に供給される構成である。又、この第1の緩衝部31内には、例えばパンチングメタルと称される多数の孔が形成された金属板からなる緩衝部材36が、第1の緩衝部31の内部を前後に仕切るように配置されている。
【0051】
前記第2の緩衝部33は、前記第1の緩衝部31の前端に連通路32を介して連通され、該連通路32から上方に向けて広がる拡張部33aと、この拡張部33aの前端部上部から前方に向けて次第に断面積が減少し、前端が混合部34につながる縮小部33bとから構成されている。
【0052】
前記混合部34の上側には、前述したように前記粉体導入路29が開口して位置しており、この粉体導入路29のスリットの横長方向の寸法は、流体流路30のスリットの横長方向の寸法と一致している。
前記加速領域35は、前記混合部34から前記噴射口26までの範囲においてスリット幅(高さ寸法)をより小さくした断面スリット状に構成されている。加速領域35の入口部35aの流路断面積Sは、混合部34の入口部34aの断面積Sよりも小さく構成されている。
【0053】
このとき、前記噴射口26及び前記加速領域35の内壁は、ボディ22とは別部材のノズル部材27から構成され、ボディ22に対して交換可能に取付けられている。このノズル部材27は、図8に示すように、スリットの上壁面を構成するノズル上部27aと、スリットの下壁面を構成するノズル下部27bと、スリットの左壁面を構成するノズル左部27cと、スリットの右壁面を構成するノズル右部27dとを一体的に有して構成されている。
【0054】
次に、上記構成の作用、効果について参照して説明する。
粉体噴射ノズル21のボディ22にホッパーが取付けられた状態では、ホッパー内の粉体が、自重により貯留部28及び粉体導入路29の入口部分まで移動される。
【0055】
そして、圧縮空気が3本のエアホースを通って各流体供給口12から共通の一つの第1の緩衝部31内に供給されると、3系統の圧縮空気が合流されて一旦拡げられると共に、緩衝部材36に当たって緩衝され、連通路32を通って第2の緩衝部33に流入される。このとき3個の流体供給口12から圧縮空気を供給するので、圧縮空気の供給量を多くすることができる。そして、その圧縮空気は、第2の緩衝部33の拡張部33aで更に拡げられた状態で一時的に貯留されるようになり、縮小部33bを移動する際に、次第に絞られるようにして、流速を上げながら混合部34に流れる。これにより、流体供給口12が3個形成され、且つ、夫々の流体供給口12が円形であっても、第1の緩衝部31及び第2の緩衝部33を通過される際に、圧縮空気はスリットの横長方向に関して均一な流速となって混合部34に流れるようになっている。
【0056】
次に、圧縮空気が混合部34を通過するとき、負圧が生じて、粉体導入路29から粉体が吸込まれ、粉体が均一となった圧縮空気と混合される。このときに、粉体導入路29の先端部分が流体流路30の流体の流れ方向に対して、角度θ(60度)に傾斜して延びながら、混合部34に連通するように構成されているので、粉体がスムーズに流体流路30内の混合部34に供給される。
【0057】
圧縮空気が混合部34を通過して加速領域35に到達すると、加速領域35の入口部35aの流路断面積Sが、混合部34の入口部34aの断面積Sよりも小さく構成されているので、加速領域35において、粉体を搬送する圧縮空気の流速が十分に高まる。又、混合部34から加速領域35(噴射口26)まで、スリットの横長方向の寸法は一定なので、スリット状の横長方向に関して流速が均一となる。そのため、粉体が、噴射口26から高速で且つ横長方向に均一な速度で噴射される。
【0058】
このような本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、断面スリット状の噴射口26を備えるものにあって、噴射口26から噴射される粉体のスリットの横長方向に関する速度を均一にでき、簡単な構成で済ませることができるという優れた効果を奏する。
【0059】
そして、本実施形態では、3個の流体供給口12が、ボディ22内に形成された共通の一つの第1の緩衝部31及び共通の一つの第2の緩衝部33に連通される構成なので、圧縮空気の供給量を多くして、流路断面積、ひいては噴射口26のスリットの横長手方向の寸法を十分大きくして、多量の粉体を噴射することができ、作業効率をより一層向上させることができる。
【0060】
このとき緩衝部材36が配置された第1の緩衝部31を流体流路30に設けたので、流体供給口12から第1の緩衝部31及び第2の緩衝部33に流れる圧縮空気を、流体流路30の断面に関して均一な流速とすることができ、ひいては、噴射口26から噴射される粉体の速度をスリットの横長方向に均一にすることができる。
前部ボディパーツ23と後部ボディパーツ24との離間距離を調整して、粉体導入路29のスリット幅を調整することができるので、粉体の噴出量を容易に調整することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
本発明は、上記した各実施形態に限定されるものではなく、例えば、次のように変形または拡張することができる。
上記各実施形態では、使用流体として圧縮空気を用いて説明したが、例えば窒素ガス等の圧縮空気以外の気体或いは場合によっては液体を流体として用いても良い。
第2の実施形態の緩衝部材36に代えて、流体の流れを邪魔するための別部材、例えば金網等を設けても良い。
その他、上記した構成部品の数、寸法及び形状等について適宜変更することができる。又、粉体や被加工物の材質としても、一例を挙げたに過ぎず、様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、粉体噴射ノズルの要部の拡大縦断右側面図
【図2】粉体噴射ノズル及びホッパーの構成を示す縦断右側面図
【図3】粉体噴射ノズル及びホッパーの正面図
【図4】粉体噴射ノズルの噴射口部分の拡大正面図
【図5】粉体噴射ノズル及びホッパーの背面図
【図6】本発明の第2の実施形態を示すもので、粉体噴射ノズルの要部の拡大縦断右側面図
【図7】粉体噴射ノズルの構成を示す縦断右側面図
【図8】粉体噴射ノズルの正面図
【図9】粉体噴射ノズルの背面図
【図10】従来の粉体噴射装置の構成を示す図
【符号の説明】
【0063】
図面中、1,21は粉体噴射ノズル、3,22はボディ、7,26は噴射口、8,27はノズル部材(別部材)、10,29は粉体導入路、12は流体供給口、13,30は流体流路、14,31,33は緩衝部、14a,33aは拡張部(入口部)、15,34は混合部、15a,34aは入口部、16,35は加速領域、16a,35aは入口部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディの先端部に設けられた断面スリット状の噴射口から、粉体を噴射する粉体噴射ノズルであって、
前記ボディの基端側に設けられ搬送用の流体が供給される流体供給口と、
前記ボディ内に前記流体供給口から前記噴射口に向けて延びるように形成された流体流路と、
この流体流路の途中部に設けられ前記粉体を前記流体と混合するための混合部と、
前記ボディ内に前記流体流路の上側に位置して形成され、断面スリット状をなし、先端が前記混合部において開口する粉体導入路と、
前記流体流路の前記流体供給口と前記混合部との間に位置して設けられ、該流体供給口側から混合部側に向けて段階的又は連続的に断面積が減少される緩衝部とを備えると共に、
前記流体流路の前記混合部から前記噴射口までの領域は、該噴射口と同等の断面スリット状をなし前記粉体が加速される加速領域とされ、
該加速領域の入口部の流路断面積が、前記流体流路の前記混合部の入口部の流体流路の断面積よりも小さく構成されていることを特徴とする粉体噴射ノズル。
【請求項2】
前記緩衝部の入口部の断面積は、前記流体供給口の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の粉体噴射ノズル。
【請求項3】
前記噴射口及び前記加速領域の内壁は、前記ボディとは別部材から構成され、該ボディに対して交換可能に取付けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の粉体噴射ノズル。
【請求項4】
前記粉体導入路のスリット幅が、調整可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の粉体噴射ノズル。
【請求項5】
前記ボディの基端側に複数個の流体供給口が形成され、
それら複数個の流体供給口が、前記ボディ内に形成された共通の一つの緩衝部に連通されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の粉体噴射ノズル。
【請求項6】
前記粉体導入路の先端部分は、前記流体流路の流体の流れ方向に対して鋭角的に傾斜して延びながら、前記混合部に連通するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の粉体噴射ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−226522(P2009−226522A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73666(P2008−73666)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)